説明

レーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材およびその製造方法

【課題】レーザーで切断した場合にレーザー切断性が高く、かつ防錆性にも優れた、プライマーが塗布された塗装鋼材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材の表面にプライマーが塗布されてなる塗装鋼材において、前記プライマーの塗膜に含有されるチタニア粉末量を9〜26g/m2、亜鉛粉末量を9〜28g/m2およびアルミニウム粉末量を0.2〜10g/m2とし、前記プライマーの膜厚を5〜30μmとしたことを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたレーザー切断性および一次防錆性を兼備した塗装鋼材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、橋梁、建築、産業機械などのファブリケーターでは、寸法精度が高く(±0.5mm)、部材への熱影響が少なく、さらには無人化レベルの自動化が比較的容易である等の利点から厚鋼板の切断方法としてレーザー切断の採用が増加している。
【0003】
しかし、レーザー切断には、プラズマ切断と比較すると切断速度が遅い、ガス切断に比べて切断可能板厚が限定されるといった問題点がある。さらには、ファブリケーターで行われる一次防錆処理としてのプライマー処理において、レーザー切断速度と切断できる板厚の上限が低下するという問題がある。
【0004】
このメカニズムについては明確になっておらず、各々のファブリケーターで経験的に得られた手法をもとに対処しているのが現状である。その一つに、ファブリケーターで先行焼と称する前処理があり、切断部の塗膜への低出力レーザーの事前照射を実施している。この前処理によりレーザー切断性が向上するが、実切断線に沿って2度のレーザー照射を必要とするため、工程的にも、投入エネルギー的にもロスが大きく、経済的な損失も大きい。
【0005】
これまでに、レーザー切断性に優れた鋼材の前処理方法として、特許文献1が知られている。この文献では、防錆剤として添加されている塗膜中のZn量を制限することで、レーザー切断性の向上を図っているが、Zn量を制限することによる防錆性の低下を補う方法については記載されておらず、Zn量を制限することで防錆性が著しく低下するおそれがある。
【0006】
特許文献2には、耐熱・防食塗料としてZn65〜85wt%、Al3〜15wt%の混合粉末による高耐食性塗料について述べられているが、実施例では、塗装する際の膜厚を、高耐食性を確保するために75μmに設定しており、塗膜に含まれる(Zn+Al)量が多くなるためレーザー切断性は低いと考えられる。
【0007】
特許文献3には、Zn−Al−Mgの合金粉末による高耐食性塗料について述べられているが、ZnとAlとMgとを合金粉末化するため、単体のZn粉末、Al粉末を使用する場合と比較して塗料製造コストが上昇する。また、実施例では、塗装する際の膜厚を、高耐食性を確保するために60μmに設定しており、塗膜に含まれる(Zn+Al)量が多くなるため、レーザー切断性は低いと考えられる。
【特許文献1】特開平10−226846号公報
【特許文献2】特開昭59−221361号公報
【特許文献3】特開2001−164194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、レーザーで切断した場合にレーザー切断性が高く、かつ防錆性にも優れた、プライマーが塗布された塗装鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、下記の通りである。
【0010】
第一の発明は、鋼材の表面にプライマーが塗布されてなる塗装鋼材において、前記プライマーの塗膜に含有されるチタニア粉末量を9〜26g/m2、亜鉛粉末量を9〜28g/m2およびアルミニウム粉末量を0.2〜10g/m2とし、前記プライマーの膜厚を5〜30μmとしたことを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材である。
【0011】
第二の発明は、第一の発明に記載のプライマー塗膜のアルミニウム粉末に代えて、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいはその化合物として0.3〜20g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材である。
【0012】
第三の発明は、第一の発明に記載のプライマー塗膜のアルミニウム粉末の塗布量を0.2〜5g/m2とし、さらにMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいはその化合物として0.1〜5g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材である。
【0013】
第四の発明は、黒皮を除去した鋼材表面に、乾燥塗膜に含有されるチタニア粉末量を9〜26g/m2、亜鉛粉末量を9〜28g/m2およびアルミニウム粉末量を0.2〜10g/m2としたプライマーを、乾燥塗膜の膜厚が5〜30μmとなるように塗装することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材の製造方法である。
【0014】
第五の発明は、第四の発明に記載のプライマーのアルミニウム粉末に代えて、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいはその化合物として0.3〜20g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材の製造方法である。
【0015】
第六の発明は、第四の発明に記載のプライマーのアルミニウム粉末の塗布量を0.2〜5g/m2とし、さらにMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として,あるいはその化合物として0.1〜5g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材の製造方法である。
【0016】
第七の発明は、第一から第三の発明のいずれかに記載の塗装鋼材をレーザー切断して、所定のサイズの塗装鋼材とした後、溶接して組み立てることを特徴とする鋼構造物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、乾燥塗膜がレーザー吸収性の高いチタニア粉末および亜鉛粉末およびアルミニウム粉末および/または、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として含有する塗料をプライマーとして鋼材に適正な膜厚で塗布したので、優れた切断性と防錆性とを兼備した塗装鋼材を得ることができる。また、優れたレーザー切断性が得られるレーザー切断条件許容範囲が従来より広くなり生産性の高い切断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0019】
一般に、ショットブラストした鋼材の表面にジンク(Zn)リッチプライマーが塗布された鋼材をレーザー切断した場合には、切断速度の低下と切断可能板厚の低下が生じることが知られている。この際のレーザー切断速度と切断可能板厚の低下のメカニズムは必ずしも明確になっているわけではないが、本発明者らは、一次防錆処理として行われるプライマー塗装により、(a)一次防錆処理剤によるレーザー吸収率の低下、(b)切断時の加熱による一次防錆処理剤中のバインダー樹脂や亜鉛粉末の分解や蒸発によるレーザー光の散乱・吸収、(c)発生したガスによるアシストガス(酸素)の分圧の低下等がレーザー切断速度と切断可能板厚の低下の要因であると推定した。
【0020】
本発明者らは、このような推定結果を基に検討した結果、要因(a)についてはプライマー中にレーザー吸収性の高いチタニア粉末を添加してレーザーの吸収率を高めることによりレーザー切断性が良好になるということに想到した。
【0021】
即ち、レーザー切断のプロセス初期においては、レーザー光を切断部に集光することにより、その光エネルギーが吸収されて、切断部の温度が局所的に上昇し溶融するが、このとき、レーザー吸収性が高いチタニア粉末が含まれる塗膜で切断部を覆うと、光エネルギーが効率的に塗膜に吸収されるので、レーザー切断効率を上昇させることができる。
【0022】
また、チタニア粉末の添加により、切断時に発生する溶融スラグの粘性が低下し、切断溝内から溶融スラグが効率的に排出されることにより、切断面の美麗さの向上や切断部裏面に付着するドロスの発生を抑止できることも知見した。
【0023】
一方、上述した要因(b)、(c)を解決するために亜鉛(Zn)粉末の添加量を少なくすると、一次防錆性が低下するが、アルミニウム(Al)粉末および/または、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として添加することにより、要因(b)、(c)の問題を引き起こさずに一次防錆性を確保できることに想到した。
【0024】
この場合に、塗膜にレーザー吸収性が高いチタニア粉末を含有させているので、亜鉛粉末に加えてアルミニウム粉末および/またはMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物としてさらに添加しても、レーザー切断の初期においてチタニア粉末によってレーザー光の光エネルギーを効率的に吸収することができ、レーザー切断性に優れる特性は維持される。
【0025】
1.プライマー組成の限定理由
このような検討結果に基づいて、本発明では、鋼材本体の表面に、チタニア粉末および亜鉛粉末およびアルミニウム粉末および/またはMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として含有するプライマーを塗布するものである。以下に本発明のプライマー組成の限定理由について述べる。
【0026】
チタニア粉末について
チタニア(TiO)粉末をプライマーに添加することにより、レーザー切断性を格段に向上させる効果を有効に発揮させるためには、チタニア粉末の塗布量は9〜26g/mの範囲とする。チタニア粉末の塗布量が9g/m未満ではレーザー切断性の向上効果が小さく、逆に26g/mを超えると均一な塗膜の形成が阻害され、防錆性向上を妨げるおそれがある。チタニア粉末の塗布量のさらに好ましい範囲は、9〜15g/mである。
【0027】
亜鉛粉末について
また、レーザー切断性を確保する観点からは、亜鉛粉末の塗布量を9〜28g/mとする。亜鉛粉末の塗布量が9g/m未満ではアルミニウム粉末および/またはMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として添加した場合でも防錆性向上効果が小さく、逆に28g/mを超えるとチタニア粉末を添加してもレーザー切断性の向上効果が小さい。亜鉛粉末の塗布量の好ましい範囲は、16〜23g/mである。
【0028】
アルミニウム粉末について
上述のようにレーザー吸収性の高いチタニア粉末を添加して、一次防錆剤である亜鉛粉末を極力少なくしたほうが、レーザー切断性は向上するが、防錆性は劣ったものとなる。このため、アルミニウム粉末および/またはMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として添加し、前記要因(b)や(c)の問題を低減しつつ防錆性を向上させる。アルミニウム粉末が0.2g/m未満ではその効果が小さく、逆に10g/mを超えると均一な塗膜の形成が阻害され、かえって防錆性を低下させるおそれがある。このため、アルミニウム粉末を単独で添加する場合のアルミニウム粉末の塗布量を0.2〜10g/mの範囲とする。さらに好ましい範囲は、0.5〜2.3g/mである。
【0029】
Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Co元素について
アルミニウム粉末に替えて、材料コスト等の観点から、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として添加する場合において、その合計塗布量が元素換算で0.3g/m未満では、防錆性向上効果が小さく、20g/mを超えると均一な塗膜の形成が阻害され、防錆性を低下させるおそれがある。このため、アルミニウム粉末に替えて、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として添加する場合において、それらの合計塗布量の範囲は、元素換算で0.3〜20g/mとする。より好ましい範囲は、元素換算で0.6〜10g/mである。
【0030】
アルミニウム粉末とMo等元素を含む場合について
アルミニウム粉末を含有させ、さらにMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として含有させる場合は、アルミニウム粉末の塗布量は0.2〜5g/mでよく、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物としての合計塗布量は、元素換算で0.1〜5g/m、でよい。より好ましい範囲は、アルミニウム塗布量が0.5〜1.5g/mでありMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物としての合計塗布量は元素換算で0.6〜3g/m
である。
【0031】
2.プライマー塗装膜の膜厚について
上述したプライマー塗装の塗布量を満足する塗膜の乾燥後の膜厚は、5〜30μmとする。5μm未満では一次防錆性が低く、30μm以上の場合、樹脂量の増加によりレーザー切断性が低下する。より好ましい範囲は、7〜25μmである。ここで、膜厚は、ダミーの磨き板に塗装し,膜厚計で測定して求めればよい。膜厚計としては,電磁膜厚計,等がある。
【0032】
3.添加する粉末の粒径等について
チタニア粉末、亜鉛粉末、アルミニウム粉末としては、アトマイズ法や機械的粉砕法などによって加工されたものを用いることができ、平均粒径が15μm以下に制御されたものが望ましい。これら粉末は、必要に応じて、塗料中の分散性を高めるためのAl、Zr、ポリオールなどによる表面処理をしてもよい。これら粉末とバインダー樹脂以外の塗料添加剤としては、着色顔料、分散剤、湿潤剤、消泡剤、沈殿防止剤、増粘剤などを必要に応じて適宜添加してもよい。
【0033】
以上1から3に記載したように、レーザー吸収性が高いチタニア粉末を含む本発明の塗膜(プライマー)は、亜鉛粉末の塗膜や亜鉛粉末にアルミニウム粉末が添加された従来の塗膜とは、レーザー切断のプロセスにおいてレーザー光の光エネルギーを効率的に吸収し、溶融スラグの排出を容易にするという機能が付加されている点において、本質的に異なる塗膜であるといえる。
【0034】
4.塗装鋼材の製造方法について
次に、塗装鋼材の製造方法について説明する。
塗料は、例えばJIS K 5552に定める塗料液中に、チタニア粉末および亜鉛粉末およびアルミニウム粉末および/またはMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質としてあるいは化合物として投入し、シェーカーマシンなどにより十分に混合・攪拌して調合する。
【0035】
次に、調合した塗料を、黒皮を除去した鋼材表面に、乾燥後の塗膜の重量および膜厚が上述した所望の重量および膜厚となるように塗装する。黒皮の除去方法として,ショットブラスト,サンドブラスト,パワーツール等がある.塗装装置として、例えばエアスプレー式塗装装置を使用し、スプレーの吐出量とスプレー速度を調整して所望の塗膜を得ることができる。
【0036】
尚、本発明の塗装鋼材の下地の鋼材は、特に限定されるものではないが、板厚25mm程度までの鋼板が一般的に用いられる。
【実施例1】
【0037】
JIS K 5552(2002)ジンクリッチプライマーに相当する市販のジンクリッチプライマー(塗料液とZn粉末)を使用し,チタニア粉末が9〜26g/m2、亜鉛粉末が9〜28g/m2、一次防錆性向上のためにアルミニウム粉末を単独で添加する場合、アルミニウム粉末の塗布量が0.2〜10g/m2、アルミニウム粉末に代えて、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として添加する場合、その合計塗布量が、元素換算で0.3〜20g/m2、アルミニウム粉末を含有させ、さらにMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として含有させる場合は、アルミニウム粉末の塗布量は0.2〜5g/m2、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物としての合計塗布量が、元素換算で0.1〜5g/m2となるように、これらをアルキルシリケート系のバインダー樹脂とシンナーからなる塗料液と混合し、鋼材表面にスプレー塗装した。比較鋼についても、同様の方法で鋼材表面にスプレー塗装した。
【0038】
表1に各塗装鋼材(発明例1〜23および比較例1〜11)に塗布する塗料に含有される物質の調合量および塗装鋼材の塗装重量を示す。また、表2に各成分の塗布量および膜厚を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
この際の塗料の調合および塗装は,上述した方法に基づいて行った。例えば、表1に示す発明例2の場合には、まず、上述のようにJISに定める市販のジンクリッチプライマー
塗料の塗料液(アルキルシリケート系のバインダー樹脂とシンナーを含む塗料液)900g中に、チタニア粉末を620g、亜鉛粉末を1050g、アルミニウム粉末を32g投入し、シェーカーマシンにより十分に混合・攪拌し、塗料を調合した。
【0042】
次に、調合した塗料を、エアスプレー式塗装装置により、200mm×100mmの面積の鋼板に対して乾燥後の塗装重量が0.86gとなるようにスプレーの吐出量とスプレー速度を調整して、スプレーすることにより、表2に示す塗布量の塗膜を有する発明例2を得た。 下地の鋼材としては、溶接構造用圧延鋼材のSM490A級であり、200mm×100mm×厚さ12mmの寸法を有するものと、200mm×100mm×厚さ19mmの寸法を有するものを使用し、表面にショットブラスト処理を施したものを用いた。
【0043】
また,以上のような塗装鋼材についてレーザー切断により切断性試験を行った。板厚12mmのレーザー切断は、三菱電機株式会社製炭酸ガスレーザー装置を用いて、出力2.1kWでアシストガスとして酸素を0.1MPaにて噴射した。また、切断速度は、1000mm/min(従来のジンクリッチプライマー塗布材では切断できなかった切断速度)で評価した。板厚19mm(従来のジンクリッチプライマー塗布材では切断できなかった鋼材板厚)のレーザー切断は、タナカファナック製炭酸ガスレーザー装置を用いて、出力4.5kWでアシストガスとして酸素を0.06MPaにて噴射した。また、切断速度は、800mm/minで評価した。防錆性はJIS K 5552(2002)ジンクリッチプライマーに準拠して塩水噴霧試験で評価した。
【0044】
表2に、発明例と比較例について板厚12mm、レーザー切断速度1000mm/minで切断したときと、板厚19mm、レーザー切断速度800mm/minで切断したときのレーザー切断面性状と耐塩水噴霧の評価結果を示す。
【0045】
表2において、切断面性状の評価は、◎は最も良好な切断面であり、ドロスの発生が皆無または極微量で切断面が整っている状態を示し、〇はほぼ良好な切断面であり、一部でドロスが発生したが切断面が整っている状態を示し、△は切断線の総延長の50%以上にドロスが発生したが完全に切断できていた状態を示し、×は切断線のほぼ全面にドロスが発生し、一部が切断不能であった状態を示している。
【0046】
なお、ドロスとは、切断時にレーザー照射面と反対側の表面の切断線に沿って発生するガスを内包した溶融金属が冷えて固化した付着物のことである。また、塩水噴霧試験による防錆性の評価は、JIS K 5552(2002)に定める塩水噴霧試験による赤さびが発生するまでの日数で評価した。これらの評価結果を表2に併記する。
【0047】
発明例1〜23は,本発明に従って鋼板表面に塗装したプライマー中にチタニア粉末、亜鉛粉末を含み、さらにアルミニウム粉末および/またはMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいは化合物として添加したものであるが、板厚12mm材,板厚19mm材ともに、レーザー切断面性状は◎か〇であり、塩水噴霧赤錆発生日数は14日以上であった。
【0048】
これに対し、比較例1〜11は本発明の範囲から外れるものである。その中で、比較例5は、塗膜中に亜鉛粉末のみが含まれ、その量が46g/m2と多いため、レーザー切断性が12mm材、19mm材ともに劣っていた。また、比較例6は、同じく塗膜中に亜鉛粉末のみが含まれる場合であるが、その量が23g/m2と少ないため、防錆性に劣っていた。さらに比較例7は、塗膜中に亜鉛粉末が11.5g/m2およびアルミニウム粉末が0.7g/m2含まれ、チタニアが含まれていない場合であるが、チタニアが含まれていないため、12mm材,19mm材ともにレーザー切断性向上効果が得られなかった。
【0049】
比較例1〜4は、チタニアが含まれている場合であるが、比較例1〜2は、チタニア量が少ないため、比較例3では、チタニア量が適正範囲であるが、亜鉛量が多いため、比較例4では、チタニア量が少なく、さらに亜鉛量が多いため、19mm材のレーザー切断面性状は△であり、所望のレーザー切断性能は得られなかった。
【0050】
比較例8〜11は、チタニア、亜鉛、アルミニウム、およびMo、V量が本発明の範囲内であるが、比較例8と比較例10は膜厚が薄いため、防錆性が劣っていた。比較例9と比較例11は、膜厚が厚いため、レーザー切断性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
造船、橋梁、建築、産業機械等の鋼構造物を建造する際に、本発明のレーザー切断性と一次防錆性に優れた塗装鋼材あるいはその塗料を使用することによって、鋼材の切断処理コストの低減や、切断処理量の増加が可能となる。このことは、鋼構造物の建造コスト低減に寄与できるため、産業上大きな効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面にプライマーが塗布されてなる塗装鋼材において、前記プライマーの塗膜に含有されるチタニア粉末量を9〜26g/m2、亜鉛粉末量を9〜28g/m2およびアルミニウム粉末量を0.2〜10g/m2とし、前記プライマーの膜厚を5〜30μmとしたことを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材。
【請求項2】
請求項1記載のプライマー塗膜のアルミニウム粉末に代えて、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいはその化合物として0.3〜20g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材。
【請求項3】
請求項1記載のプライマー塗膜のアルミニウム粉末の塗布量を0.2〜5g/m2とし、さらにMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいはその化合物として0.1〜5g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材。
【請求項4】
黒皮を除去した鋼材表面に、乾燥塗膜に含有されるチタニア粉末量を9〜26g/m2、亜鉛粉末量を9〜28g/m2およびアルミニウム粉末量を0.2〜10g/m2としたプライマーを、乾燥塗膜の膜厚が5〜30μmとなるように塗装することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載のプライマーのアルミニウム粉末に代えて、Mo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として、あるいはその化合物として0.3〜20g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載のプライマーのアルミニウム粉末の塗布量を0.2〜5g/m2とし、さらにMo、W、Ni、Cu、Cr、P、Mg、V、Coの中から選ばれる1種または2種以上の元素を単独物質として,あるいはその化合物として0.1〜5g/m2含有することを特徴とするレーザー切断性および一次防錆性に優れた塗装鋼材の製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載の塗装鋼材をレーザー切断して、所定のサイズの塗装鋼材とした後、溶接して組み立てることを特徴とする鋼構造物の製造方法。

【公開番号】特開2008−100427(P2008−100427A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284874(P2006−284874)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】