説明

レーザー切断性および防錆性に優れた鋼材

【課題】レーザー切断性が高く且つ防錆性にも優れた一次防錆塗装鋼材を提供する。
【解決手段】亜鉛粉末とアルミニウム粉末を含むプライマーを塗布した鋼材であって、亜鉛粉末を10〜30g/m2及び、アルミニウム粉末を前記亜鉛粉末の0.1質量%以上、60質量%未満の比率とした塗膜を有することを特徴とするレーザー切断性と防錆性に優れた鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー切断性と防錆性に優れた一次防錆塗装鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
造船、建機などのファブリケーターでは、寸法精度が高く(±0.5mm)、部材への熱影響が少なく、切断歪みも小さい、更には無人化レベルの自動化が比較的容易である等の利点から厚鋼板の切断方法としてレーザー切断の採用が増加している。しかし、レーザー切断には、プラズマ切断と比較すると切断速度が遅いとか、ガス切断に比べて切断可能板厚が限定されるといった問題点があった。
【0003】
更には、ファブリケーターで行われる一次防錆処理としてのプライマーにより、レーザー切断の切断速度と切断できる板厚の上限が低下するという問題がある。このメカニズムについては明確になっておらず、各々のファブリケーターで経験的に得られた手法をもとに対処しているのが現状である。そのひとつに、ファブリケーターで先行焼きと称する前処理があり、切断部の塗膜への低出力レーザーの事前照射を実施している。この前処理によりレーザー切断性が向上するが、実切断線に沿って2度のレーザー照射を必要とするため工程的にも、投入エネルギー的にもロスが大きい。
【0004】
これまでに、レーザー切断性に優れた鋼材の前処理方法として、特許文献1が知られている。本文献では防錆剤として添加されている塗膜中のZn量を制限することで、レーザー切断性の向上を図っているが、Zn量を制限することによる防錆性の低下を補う方法については述べられていない。
【0005】
特許文献2には、耐熱・防食塗料としてZn65〜85w%、Al3〜15w%の混合粉末による高耐食性塗料について述べられているが、実施例からは塗装する際の膜厚を高耐食性を確保するために75ミクロンに設定しており、塗膜に含まれるZn量が多くなるためレーザー切断性は低いと考えられる。
【0006】
特許文献3には、Zn-Al-Mgの合金粉末による高耐食性塗料について述べられているが、ZnとAlとMgを合金粉末化することにより、単体のZn粉末、Al粉末を使用する場合と比較して塗料製造コストが上昇する。また、実施例からは塗装する際の膜厚を高耐食性を確保するために60ミクロンに設定しており塗膜に含まれるZn量が多くなるためレーザー切断性は低いと考えられる。
【特許文献1】特開平10−226846号公報
【特許文献2】特開昭59−221361号公報
【特許文献3】特開2001−164194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された発明は、塗膜中のZn量の低下に伴う防錆性の低下については、考慮されておらず、Zn量を制限することで防錆性が著しく低下する恐れがある。また特許文献2及び特許文献3に開示された発明ではレーザー切断性については考慮されておらず、かつ塗膜の厚さから推定できる塗膜に含まれるZn量は多量でレーザー切断性が劣ると考えられる。
本発明は、かかる問題に対応するものであって、プライマーが塗布された鋼材をレーザー切断した場合であっても、レーザー切断性が高く、防錆性にも優れた鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、亜鉛粉末とアルミニウム粉末を含むプライマーを塗布した鋼材であって、亜鉛粉末を10〜30g/m2及び、アルミニウム粉末を前記亜鉛粉末の0.1質量%以上、60質量%未満の比率とした塗膜を有することを特徴とするレーザー切断性と防錆性に優れた鋼材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、亜鉛粉末にアルミニウム粉末を加えて塗膜を構成するので、塗膜に含まれるZn量を制限しても防錆性を維持し、高いレーザー切断性と防錆性を有する鋼材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
一般に、ジンクリッチプライマーが塗布された鋼材をレーザー切断した場合には切断速度の低下が起こることが知られている。レーザー切断速度低下のメカニズムは明確にはなっていないが、一次防錆処理として行われるプライマー塗装により、
・ 一次防錆処理剤によるレーザー吸収率の低下
・ 切断時の加熱による一次防錆処理剤中のバインダー樹脂やZn粉末の分解や蒸発によるレーザー光の散乱・吸収
・ 発生したガスによるアシストガス(酸素)の分圧の低下
等が原因で切断速度の低下が起こると推定される。
【0011】
発明者等は、レーザー切断性を向上させるためにZnを制限した塗装においても防錆性を確保することに着目して研究を重ねた結果、アルキルシリケート系の樹脂をバインダーとして、亜鉛粉末の塗布量が10〜30g/m2となる一次防錆塗装が施され、更にその塗膜が、アルミニウム粉末を前記亜鉛粉末の0.1質量%以上、60質量%未満の比率で含んでいる鋼材においては、レーザー切断性の低下を抑えることが可能で、尚かつ防錆性も良好に保たれることを見いだした。これら亜鉛粉末やアルミニウム粉末はアトマイズ法や機械的粉砕法などによって加工されたものであり、平均粒径が15μm以下に制御されたものが望ましい。また、前記以外の塗料添加成分としては、分散剤、湿潤剤、消泡剤、沈殿防止剤、増粘剤などを必要に応じて適宜加えることが考えられる。
【0012】
亜鉛粉末の塗布量が30g/m2を超えるとレーザー切断性の向上効果が小さく、亜鉛粉末の塗布量が10g/m2に満たない場合はアルミニウム粉末を添加した場合でも防錆性の向上効果は小さかった。また、アルミニウム粉末が亜鉛粉末の0.1質量%以下の場合には防錆性の向上についての再現性のある結果が得られず、60質量%以上では、均一な塗膜の形成が阻害され防錆性が低下した。
尚、アルミニウム粉末を亜鉛粉末の1〜10質量%とした場合にレーザー切断性が特に優れ、且つ防錆性の向上効果の高い一次防錆塗装鋼材が得られた。
【実施例1】
【0013】
JISK5552ジンクリッチプライマーに相当する市販のジンクリッチプライマーを使用し、亜鉛粉末の重量に対してアルミニウム粉末を1,3,5,10,20,40,60質量%となるよう配合し、アルキルシリケート系のバインダー樹脂と混合し、亜鉛粉末含有量が23g/m2となるように鋼材表面にスプレー塗装した。なお、このときの塗装の膜厚は10〜20μであった。また、亜鉛粉末の重量に対してアルミニウム粉末を5,10質量%となるよう配合し、アルキルシリケート系のバインダー樹脂と混合し、亜鉛粉末含有量が11.5g/m2となるように鋼材表面にスプレー塗装した。なお、このときの塗装の膜厚は5〜10μであった。当該発明品に対する比較として亜鉛粉末の量とアルミニウム粉末添加量の影響について比較するため、バインダー樹脂と亜鉛粉末を混合したアルミニウム粉末を含まないジンクリッチプライマーを亜鉛粉末量が23および46g/m2となるように塗布したものを比較例とした。
【0014】
尚、切断性試験に用いた鋼材は、SM490A級、200mmX100mmX厚さ11mmで、表面にショットブラスト処理を施して表面粗度をRz60に仕上げた。また、レーザー切断は、三菱電機(株)製炭酸ガスレーザー装置を用いて、出力2.1KWでアシストガスとして酸素を0.1MPaにて噴射した。また、切断速度は、800〜1200m/分である。防錆性はJISK5552ジンクリッチプライマーに準拠して塩水噴霧試験で評価した。
【0015】
表1は、発明例と比較例についてレーザー切断速度1200mm/minで切断したときのレーザー切断面性状と耐塩水噴霧の評価結果を示す。表1において、切断面性状の評価で◎は最も美麗な(ドロスの発生が皆無または極微量で切断面が整っている)、○はやや美麗な評点2(ドロスが発生したが切断面は整っている)、Xはドロスが大きく切断面が荒れていることを示している。尚、ドロスとは、切断時にレーザー照射面と反対側の表面の切断線に沿って発生し、切断時に発生するガスを内包した溶融金属が、冷えて固化した付着物のことである。防錆性の評価は規格に定める塩水噴霧試験により赤錆が発生するまでの日数で評価した。
【0016】
比較例1では、亜鉛粉末量を23g/m2とすることで、切断面の性状が改善している。しかしながら、塩水噴霧試験赤錆発生までの日数は大きく低下している。一方、アルミニウム粉末を1,3,5,10質量%添加した発明例1〜4では、切断面の性状が良好であり、なお且つ、塩水噴霧試験赤錆発生までの日数が大きく改善されている。即ち、Zn添加量を制限し、一定量のアルミニウム粉末を添加することで、切断速度を高めた条件下においても、切断面が良好に保たれ、防錆性が確保されることが確認された。発明例5,6では切断面の性状が少し低下し、赤錆発生までの日数が少し短くなっているが、比較例1よりも塩水噴霧赤錆発生までの日数が非常に長く、比較例3と比べるとレーザー切断性が良好である。また、比較例2は、アルミニウム粉末を60質量%添加しているので均一な塗膜の形成が阻害され塩水噴霧赤錆発生までの日数が大きく低下している。
発明例7と8によると、亜鉛粉末の添加量が下限量であっても、アルミニウム粉末を一定量添加するとレーザー切断性、防錆性が共に良好に保たれることがわかる。
【0017】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のレーザー切断性と耐食性に優れたプライマーを塗布した鋼材は、造船、建築等に使用される鋼板の用途に広く適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛粉末とアルミニウム粉末を含むプライマーを塗布した鋼材であって、亜鉛粉末を10〜30g/m2及び、アルミニウム粉末を前記亜鉛粉末の0.1質量%以上、60質量%未満の比率とした塗膜を有することを特徴とするレーザー切断性と防錆性に優れた鋼材。

【公開番号】特開2006−205512(P2006−205512A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19824(P2005−19824)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】