説明

レーザー加工用成形品の製造方法、レーザー加工用成形品、及びフレキソ印刷版

【課題】柔軟であるとともに、良好な加工性と透明性を有し、且つレーザーによる彫刻性に優れたレーザー加工用成形品を簡便に製造可能なレーザー加工用成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性重合体100質量部、(B)シリカ粒子0〜50質量部、(C)粘度比重恒数(V.G.C.値)が0.790〜0.999である伸展油0〜200質量部、(D)光重合開始剤0〜10質量部、及び(E)多官能アクリレート0〜20質量部と、(F)有機過酸化物0.01〜0.1質量部、又は(G)硫黄若しくは硫黄化合物0.1〜1.0質量部と、を含む架橋性組成物を、動的に熱架橋した後、更に放射線架橋することを含むレーザー加工用成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーによる彫刻性に優れたレーザー加工用成形品の製造方法、その製造方法により製造されるレーザー加工用成形品、及びフレキソ印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料の表面に凹凸を形成して印刷版を製造する方法としては、加硫ゴムシートに印刀で彫刻する方法が一般的である。しかし、この印刀で彫刻する方法には、高度な手彫り技術が必要とされる。従って、熟練を要することに加え、微細で複雑な文字や図形を彫刻するには限界がある。更に、フレキソ印刷版を作製するに際して、手彫りで作製した各パーツをPET等の樹脂シート上に正確に位置決めし、接着剤で貼り付ける作業が必要である。このため、手間と時間がかかるという問題がある。
【0003】
一方、レーザー加工機を使用し、樹脂材料からなる印材に対してレーザーを照射して所望とする形状等を彫刻する方法が近年開発されている。関連する従来技術として、エチレン系の重合体、又は共重合体を架橋したレーザー加工用重合体材料や、それを用いたレーザー加工用積層体が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。また、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン等の熱可塑性エラストマーとシリカ粒子を所定の割合で含有するレーザー加工用組成物を用いて作製されたレーザー加工用シートが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
また、SIS(スチレン−イソプレン−スチレン)ブロックコポリマー等のエラストマー材料を架橋剤で強化した、少なくとも一層のレーザー彫刻可能なエラストマー層を有するフレキソグラフ印刷エレメントが開示されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−3665号公報
【特許文献2】特開2002−103539号公報
【特許文献3】特開2006−206872号公報
【特許文献4】特許第2846954号公報
【特許文献5】特許第2846955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献において開示されたレーザー加工用シート等であっても、その加工性や透明性については未だ十分なレベルにあるとはいえず、更なる改良の余地があった。また、レーザー加工時の熱によりエッジ部分が溶融し易く、彫刻性(パターン形成性)が不十分となる等の場合もあるため、更なる改良を図る必要性がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、柔軟であるとともに、良好な加工性と透明性を有し、且つレーザーによる彫刻性に優れたレーザー加工用成形品を簡便に製造可能なレーザー加工用成形品の製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の課題とするところは、良好な柔軟性と透明性を有するとともに、レーザーによる彫刻性に優れたレーザー加工用成形品を提供することにある。更に、本発明の課題とするところは、レーザーで容易且つ高精度に彫刻された印刷パターンを有するフレキソ印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、熱可塑性重合体及び特定の架橋剤等を含有する架橋性の組成物を調製し、この組成物の一部を動的に熱架橋した後、更に放射線架橋することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下に示すレーザー加工用成形品の製造方法、レーザー加工用成形品、及びフレキソ印刷版が提供される。
【0011】
[1](A)熱可塑性重合体100質量部、(B)シリカ粒子0〜50質量部、(C)粘度比重恒数(V.G.C.値)が0.790〜0.999である伸展油0〜200質量部、(D)光重合開始剤0〜10質量部、及び(E)多官能アクリレート0〜20質量部と、(F)有機過酸化物0.01〜0.1質量部、又は(G)硫黄若しくは硫黄化合物00.1〜1.0質量部と、を含む架橋性組成物を、動的に熱架橋した後、更に放射線架橋することを含むレーザー加工用成形品の製造方法。
【0012】
[2]前記(A)熱可塑性重合体が、1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、スチレン・イソプレン共重合体、及びスチレン・ブタジエン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【0013】
[3]前記(B)シリカ粒子が、その平均一次粒子径が0.005μm以上、0.1μm未満の無水粒子である前記[1]又は[2]に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【0014】
[4]前記(C)伸展油が、パラフィン系伸展油とナフテン系伸展油の少なくともいずれかである前記[1]〜[3]のいずれかに記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【0015】
[5]前記(D)光重合開始剤が、アシルホスフィンオキサイド系化合物である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【0016】
[6]前記(E)多官能アクリレートが、トリメチロールプロパントリメタクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレートの少なくともいずれかである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【0017】
[7]前記(F)有機過酸化物が、その半減期が1分となる温度が、90℃以上、180℃未満のものである前記[1]〜[6]のいずれかに記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【0018】
[8]前記放射線架橋に使用する放射線が、紫外線又は電子線である前記[1]〜[7]のいずれかに記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【0019】
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載のレーザー加工用成形品の製造方法により製造される、少なくとも一方の面にレーザー彫刻可能な加工面を有するシート状の成形品であるレーザー加工用成形品。
【0020】
[10]一方の面上にシート状の基材層が積層された前記[9]に記載のレーザー加工用成形品。
【0021】
[11]前記[9]又は[10]に記載のレーザー加工用成形品の前記加工面がレーザーで彫刻加工され、所定の印刷パターンが形成されたフレキソ印刷版。
【発明の効果】
【0022】
本発明のレーザー加工用成形品の製造方法によれば、柔軟であるとともに、良好な加工性と透明性を有し、且つレーザーによる彫刻性に優れたレーザー加工用成形品を簡便に製造することができる。
【0023】
本発明のレーザー加工用成形品は、良好な柔軟性と透明性を有するとともに、レーザーによる彫刻性に優れているといった効果を奏するものである。また、本発明のフレキソ印刷版は、レーザーで容易且つ高精度に彫刻された印刷パターンを有するといった効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0025】
1.レーザー加工用成形品及びその製造方法:
本発明のレーザー加工用成形品の製造方法は、(A)熱可塑性重合体100質量部、(B)シリカ粒子0〜50質量部、(C)粘度比重恒数(V.G.C.値)が0.790〜0.999である伸展油0〜200質量部、(D)光重合開始剤0〜10質量部、及び(E)多官能アクリレート0〜20質量部と、(F)有機過酸化物0.01〜0.1質量部、又は(G)硫黄若しくは硫黄化合物0.01〜1.0質量部と、を含む架橋性組成物を、動的に熱架橋した後、更に放射線架橋することを含む製造方法である。以下、その詳細について説明する。
【0026】
(A)熱可塑性重合体
架橋性組成物には、(A)熱可塑性重合体(以下、「(A)成分」ともいう)が含まれる。この(A)成分としては、(A−1)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、(A−2)スチレン・イソプレン共重合体、及び(A−3)スチレン・ブタジエン共重合体を好適例として挙げることができる。なお、これらの熱可塑性重合体は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(A−1)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの1,2−ビニル結合含量は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが特に好ましい。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの1,2−ビニル結合含量を70%以上とすることにより、柔軟性をはじめとする熱可塑性エラストマーとしての特性が良好に発揮される。なお、本明細書にいう「1,2−ビニル結合含量」は、赤外吸収スペクトル法(モレロ法)によって求めた値である。
【0028】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの結晶化度は、5〜50%であることが好ましく、10〜40%であることが更に好ましい。また、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの融点(Tm)は、50〜150℃であることが好ましく、60〜140℃であることが更に好ましい。結晶化度及び融点がこれらの範囲内であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを用いることにより、引張強度や引裂強度等の力学強度と柔軟性とのバランスに優れたレーザー加工用成形品を製造することができる。なお、本明細書にいう「結晶化度」は、結晶化度0%の1,2−ポリブタジエンの密度を0.889g/cm、結晶化度100%の1,2−ポリブタジエンの密度を0.963g/cmとして、水中置換法により測定した密度から換算した値である。
【0029】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの重量平均分子量(Mw)は、1万〜500万であることが好ましく、1万〜150万であることが更に好ましく、5万〜100万であることが特に好ましい。Mwが1万未満であると、流動性が高くなり過ぎるために加工が困難になるとともに、得られるレーザー加工用成形品がべたつく傾向にある。一方、Mwが500万超であると、流動性が低くなり過ぎるために加工が困難になる傾向にある。
【0030】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、ブタジエン以外の共役ジエンが少量共重合したものであってもよい。ブタジエン以外の共役ジエンとしては、1,3−ペンタジエン、高級アルキル基で置換された1,3−ブタジエン誘導体、2−アルキル置換−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。高級アルキル基で置換された1,3−ブタジエン誘導体の具体例としては、1−ペンチル−1,3−ブタジエン、1−ヘキシル−1,3−ブタジエン、1−ヘプチル−1,3−ブタジエン、1−オクチル−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。
【0031】
2−アルキル置換−1,3−ブタジエンの具体例としては、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−プロピル−1,3−ブタジエン、2−イソプロピル−1,3−ブタジエン、2−ブチル−1,3−ブタジエン、2−イソブチル−1,3−ブタジエン、2−アミル−1,3−ブタジエン、2−イソアミル−1,3−ブタジエン、2−ヘキシル−1,3−ブタジエン、2−シクロヘキシル−1,3−ブタジエン、2−イソヘキシル−1,3−ブタジエン、2−ヘプチル−1,3−ブタジエン、2−イソヘプチル−1,3−ブタジエン、2−オクチル−1,3−ブタジエン、2−イソオクチル−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。
【0032】
これらのブタジエン以外の共役ジエンのなかでも、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましい。なお、重合に供される単量体成分中のブタジエンの含有量は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることが更に好ましい。
【0033】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、例えば、コバルト化合物及びアルミノオキサンを含有する触媒の存在下、ブタジエンを重合して得ることができる。コバルト化合物としては、好ましくは炭素数4以上の有機酸とコバルトとの有機酸塩を挙げることができる。有機酸塩の具体例としては、酪酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプチル酸塩、2−エチルヘキシル酸等のオクチル酸塩、デカン酸塩や、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸等の高級脂肪酸塩、安息香酸塩、トリル酸塩、キシリル酸塩、エチル安息香酸等のアルキル、アラルキル、アリル置換安息香酸塩やナフトエ酸塩、アルキル、アラルキル又はアリル置換ナフトエ酸塩を挙げることができる。これらのうち、2−エチルヘキシル酸等のいわゆるオクチル酸塩や、ステアリン酸塩、安息香酸塩が、炭化水素溶媒に対する優れた溶解性を有するものであるために好ましい。
【0034】
アルミノオキサンとしては、例えば、下記一般式(1)又は(2)で表されるものを挙げることができる。
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】

【0037】
前記一般式(1)及び(2)中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭化水素基であり、好ましくはメチル基、エチル基であり、特に好ましくはメチル基である。また、mは、2以上、好ましくは5以上、更に好ましくは10〜100の整数である。アルミノオキサンの具体例としては、メチルアルミノオキサン、エチルアルミノオキサン、プロピルアルミノオキサン、ブチルアルミノオキサン等を挙げることができる。なかでも、メチルアルミノオキサンが好ましい。
【0038】
重合触媒には、前記コバルト化合物と前記アルミノオキサン以外に、ホスフィン化合物を含有させることが極めて好ましい。ホスフィン化合物は、重合触媒の活性化、ビニル結合構造及び結晶性の制御に有効な成分である。好適なホスフィン化合物としては、下記一般式(3)で表される有機リン化合物を挙げることができる。
P(Ar)(R’)3−n (3)
【0039】
前記一般式(3)中、R’はシクロアルキル基又はアルキル置換シクロアルキル基であり、nは0〜3の整数であり、Arは下記一般式(4)で表される基である。
【0040】
【化3】

【0041】
前記一般式(4)中、R、R、及びRは、各々同一又は異なってもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアリール基である。R、R、及びRで表されるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。また、R、R、及びRで表されるアルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。更に、R、R、及びRで表されるアリール基としては、炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0042】
前記一般式(3)で表されるホスフィン化合物の具体例としては、トリス(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−エチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,4−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−イソプロピルフェニル)ホスフィン、トリス(3−t−ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジエチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−メチル−5−エチルフェニル)ホスフィン)、トリス(3−フェニルフェニル)ホスフィン、トリス(3,4,5−トリメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−エトキシ−3,5−ジエチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−ブトキシ−3,5−ジブチルフェニル)ホスフィン、トリ(p−メトキシフェニルホスフィン)、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリ(4−メチルフェニルホスフィン)、トリ(4−エチルフェニルホスフィン)等を挙げることができる。これらのうち、特に好ましいものとしては、トリフェニルホスフィン、トリス(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン等が挙げられる。
【0043】
前記コバルト化合物としては、下記一般式(5)で表される化合物を用いることができる。
【0044】
【化4】

【0045】
前記一般式(5)で表される化合物は、塩化コバルトに対して、前記一般式(3)においてnが3であるホスフィン化合物を配位子に持つ錯体である。このコバルト化合物の使用に際しては、予め合成したものを使用してもよいし、又は重合系中に塩化コバルトとホスフィン化合物を接触させる方法で使用してもよい。錯体中のホスフィン化合物を種々選択することにより、得られるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの1,2−結合含量、結晶化度の制御を行うことができる。
【0046】
前記一般式(5)で表されるコバルト化合物の具体例としては、コバルトビス(トリフェニルホスフィン)ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−エチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,4−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−イソプロピルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−t−ブチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジエチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メチル−5−エチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−フェニルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,4,5−トリメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−エトキシ−3,5−ジエチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−ブトキシ−3,5−ジブチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メトキシフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−ドデシルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−エチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド等を挙げることができる。
【0047】
これらのうち、特に好ましいものとしては、コバルトビス(トリフェニルホスフィン)ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド等を挙げることができる。
【0048】
ブタジエン単独重合の場合は、ブタジエン1モル当たり、共重合する場合はブタジエンとブタジエン以外の共役ジエンとの合計量1モル当たり、コバルト化合物を、コバルト原子換算で0.001〜1ミリモル触媒として使用することが好ましく、0.01〜0.5ミリモル使用することが更に好ましい。また、ホスフィン化合物の使用量は、コバルト原子に対するリン原子の比(P/Co)として、通常0.1〜50であり、0.5〜20であることが好ましく、1〜20であることが更に好ましい。更に、アルミノオキサンの使用量は、コバルト化合物のコバルト原子に対するアルミニウム原子の比(Al/Co)として、通常4〜10であり、10〜10であることが好ましい。なお、前記一般式(5)で表される錯体を用いる場合は、ホスフィン化合物の使用量がコバルト原子に対するリン原子の比(P/Co)が2であるとし、アルミノオキサンの使用量は、上記の記載に従う。
【0049】
重合溶媒として用いられる不活性有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族炭化水素溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ブタン等の脂肪族炭化水素溶媒、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0050】
重合温度は、通常、−50〜120℃、好ましくは−20〜100℃である。重合反応は、回分式でも、連続式でもよい。なお、溶媒中の単量体濃度は、通常、5〜50質量%、好ましくは10〜35質量%である。また、重合体を製造するために、触媒及び重合体を失活させないために、重合系内に酸素、水、又は炭酸ガス等の失活作用のある化合物の混入を極力なくすような配慮が必要である。重合反応が所望の段階まで進行したら反応混合物をアルコール、その他の重合停止剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加し、次いで、通常の方法に従って生成重合体を分離、洗浄、乾燥すれば、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを得ることができる。
【0051】
(A−2)スチレン・イソプレン共重合体
スチレン・イソプレン共重合体(SIS)の分子量に特に限定はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。SISの市販品としては、JSR社製SIS5200P、SIS5229P(いずれも商品名)、日本ゼオン社製クインタック3433(商品名)等を挙げることができる。
【0052】
(A−3)スチレン・ブタジエン共重合体
スチレン・ブタジエン共重合体(SBS)の分子量に特に限定はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。SBSの市販品としては、JSR社製TR1600、TR2000、TR2827(いずれも商品名)、旭化成ケミカルズ社製タフプレン125、タフプレン126(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0053】
(A−1)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンと、(A−2)スチレン・イソプレン共重合体及び(A−3)スチレン・ブタジエン共重合体の少なくともいずれかと、を組み合わせて使用した場合には、得られるレーザー加工用成形体の柔軟性向上するために好ましい。(A−1)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンと、(A−2)スチレン・イソプレン共重合体及び(A−3)スチレン・ブタジエン共重合体の少なくともいずれかと、を組み合わせて使用する場合には、(A−1):{(A−2)+(A−3)}は、質量比で、80:20〜20:80であることが好ましく、70:30〜30:70であることが更に好ましい。(A−1):{(A−2)+(A−3)}をこの範囲に規定することにより、より柔軟性と加工性に優れたレーザー加工用成形体を製造することができる。
【0054】
(B)シリカ粒子
架橋性組成物には、(B)シリカ粒子(以下、「(B)成分」ともいう)を含有させることが好ましい。(B)成分を含有させることで、レーザー加工後の残渣がべたつくことのない、加工性に優れたレーザー加工用成形品を製造することができる。(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0〜50質量部であることが好ましく、0.1〜50質量部であることが更に好ましく、1〜45質量部であることが特に好ましく、5〜40質量部であることが最も好ましい。(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して50質量部超であると、製造されるレーザー加工用成形品の柔軟性及び加工性が損なわれる傾向にある。
【0055】
シリカ粒子としては、様々な種類のものを挙げることができるが、レーザー加工時に生ずる発炎を更に抑制し、加工表面のべたつきを更に抑えてレーザー彫刻精度を向上させるといった観点からは、無水シリカ粒子が好ましい。また、シリカ粒子の平均一次粒子径は、0.005μm以上、0.1μm未満であることが好ましく、0.01以上、0.1μm未満であることが更に好ましく、0.01〜0.05μmであることが特に好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径が0.1μm以上であると、レーザー彫刻精度が劣る傾向にある。一方、0.005μm未満であると、実質的に入手が困難となる傾向にある。なお、本実施形態のレーザー加工用組成物に含まれる好適なシリカ粒子のより具体的な一例としては、アエロジル(商品名(デグサ社製))等を挙げることができる。なお、シリカ粒子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
(C)伸展油
架橋性組成物には、その粘度比重恒数(又は「粘度比重定数」ともいう。以下、「V.G.C.」という)が0.790〜0.999、好ましくは0.790〜0.949、更に好ましくは0.790〜0.912である(C)伸展油(以下、「(C)成分」ともいう)を含有させることが好ましい。(C)成分を含有させることで、柔軟性と加工性を向上させることができる。(C)成分の具体例としては、アロマティック系伸展油、ナフテン系伸展油、パラフィン系伸展油等を挙げることができる。なかでも、ナフテン系伸展油、パラフィン系伸展油が好ましく、ナフテン系伸展油とパラフィン系伸展油を併用することも好ましい。
【0057】
上記のV.G.C.の数値範囲を満たすアロマティック系伸展油の具体例としては、商品名「ダイアナプロセスオイルAC−12」、「同AC460」、「同AH−16」、「同AH−58」(以上、出光興産社製);商品名「モービルゾールK」、「同22」、「同130」(以上、エクソンモービル社製);商品名「共石プロセスX50」、「同X100」、「同X140」(以上、日鉱共石社製);商品名「レゾックスNo.3」、「デュートレックス729UK」(以上、シェル化学社製);商品名「コウモレックス200」、「同300」、「同500」、「同700」(以上、日本石油社製);商品名「エッソプロセスオイル110」、「同120」(以上、エクソンモービル社製);商品名「三菱34ヘビープロセス油」、「三菱44ヘビープロセス油」、「三菱38ヘビープロセス油」、「三菱39ヘビープロセス油」(以上、三菱石油社製);等を挙げることができる。
【0058】
また、上記のV.G.C.の数値範囲を満たすナフテン系伸展油の具体例としては、商品名「ダイアナプロセスオイルNS−24」、「同NS−100」、「同NM−26」、「同NM−280」、「同NP−2」(以上、出光興産社製);商品名「ナプレックス38」(以上、エクソンモービル社製);商品名「フッコールFLEX#1060N」、「同#1150N」、「同#1400N」、「同#2040N」、「同#2050N」(以上、富士興産社製);商品名「共石プロセスR25」、「同R50」、「同R200」、「同R1000」(以上、日鉱共石社製);商品名「シェルフレックス371JY」、「同371N」、「同451」、「同N−40」、「同22」、「同22R」、「同32R」、「同100R」、「同100S」、「同100SA」、「同220RS」、「同220S」、「同260」、「同320R」、「同680」(以上、シェル化学社製);商品名「コウモレックス2号プロセスオイル」(以上、日本石油社製);商品名「エッソプロセスオイルL−2」、「同765」(以上、エクソンモービル社製);商品名「三菱20ライトプロセス油」(以上、三菱石油社製);等を挙げることができる。
【0059】
更に、上記のV.G.C.の数値範囲を満たすパラフィン系伸展油の具体例としては、商品名「ダイアナプロセスオイルPW−90」、「同PW−380」、「同PS−32」、「同PS−90」、「同PS−430」(以上、出光興産社製);商品名「フッコールプロセスP−100」、「同P−200」、「同P−300」、「同P400」、「同P−500」(以上、富士興産社製);商品名「共石プロセスP−200」、「同P−300」、「同P−500」、「共石EPT750」、「同1000」、「共石プロセスS90」(以上、日鉱共石社製);商品名「ルブレックス26」、「同100」、「同460」(以上、シェル化学社製);商品名「エッソプロセスオイル815」、「同845」、「同B−1」、「ナプレックス32」(以上、エクソンモービル社製);商品名「三菱10ライトプロセス油」(以上、三菱石油社製);等を挙げることができる。
【0060】
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることが更に好ましく、100質量部以下であることが特に好ましい。(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して200質量部超であると、製造されるレーザー加工用成形品の加工性が損なわれる傾向にある。なお、加工表面にべたつきが生じ難く、十分な彫刻精度を有するフレキソ印刷版を提供可能になるといった観点からは、(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましい。
【0061】
(D)光重合開始剤
架橋性組成物には、(D)光重合開始剤(以下、「(D)成分」ともいう)を含有させることが好ましい。(D)成分を含有させることで、低エネルギー線量の紫外線で架橋することができる。(D)成分の種類に特に制限はないが、具体例としては、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケトン類、オキシムエステル類、アシルホスフィンオキサイド系化合物を挙げることができる。なかでも、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケトン類、アシルホスフィンオキサイド系化合物が好ましく、アシルホスフィンオキサイド系化合物が特に好ましい。これらの光重合開始剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
α−ヒドロキシケトン類としては、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等を挙げることができる。α−アミノケトン類としては、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等を挙げることができる。オキシムエステル類としては、1,2−オクタンジオン、1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]等を挙げることができる。
【0063】
また、アシルホスフィンオキサイド系化合物としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0064】
(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、0.1〜10質量部であることが更に好ましく、0.1〜7質量部であることが特に好ましい。(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して10質量部超であると、製造されるレーザー加工用成形品の表面にブリードする傾向にある。なお、(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.1質量部未満であると、低エネルギー線量の紫外線で架橋促進効果が十分に得られないために、放射線架橋が紫外線架橋の場合に彫刻精度が劣る場合がある。
【0065】
(E)多官能アクリレート
架橋性組成物には、(E)多官能アクリレート(以下、「(E)成分」ともいう)を含有させることが好ましい。(E)成分を含有させることで、放射線架橋による架橋効率が向上して、製造されるレーザー加工用成形品の彫刻精度を向上させることができる。
【0066】
(E)成分の種類に特に制限はないが、具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリシクロデカンジイルジメタノールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート等を挙げることができる。なかでも、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレートが好ましく、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが特に好ましい。これらの多官能アクリレートは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、0.1〜7質量部であることが更に好ましく、0.1〜4質量部であることが特に好ましい。(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して10質量部超であると、製造されるレーザー加工用成形品の表面にブリードする傾向にある。なお、(D)成分の含有量が、(A)成分合計100質量部に対して0.1質量部未満であると、架橋促進効果が十分に得られないために、放射線架橋が紫外線架橋の場合に彫刻精度が劣る場合がある。
【0068】
(F)有機過酸化物
架橋性組成物には、(F)有機過酸化物(以下、「(F)成分」ともいう)を含有させることが好ましい。この(F)成分は架橋剤として作用する成分であり、具体例としては、エラストマーの架橋剤として一般的に用いられるものを挙げることができる。なお、有機過酸化物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
(F)成分を架橋性組成物に含有させる場合における(F)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜0.1質量部であることが好ましく、0.01〜0.05質量部であることが更に好ましく、0.01〜0.03質量部であることが特に好ましい。(F)の含有量が0.01質量部未満であると、架橋反応性が低く、得られるレーザー加工用成形品の架橋密度が低くなり、好適な彫刻精度を示さなくなる傾向にある。一方、(F)の含有量が0.1質量部超であると、安定した状態で架橋を制御し難く加工性が悪くなる傾向にある。
【0070】
(F)成分は、その半減期が1分となる温度が、90℃以上、180℃未満のものであることが好ましい。このような(F)成分を用いると、動的な熱架橋が可能となり、組み合わせる放射線架橋が低エネルギー線量であっても高い架橋密度が得られ、加工性を向上させるとともに、製造されるレーザー加工用成形品の彫刻精度を向上することができる。このような(F)成分の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパ−オキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t−ヘキシルヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド等を挙げることができる。
【0071】
(G)硫黄・硫黄化合物
架橋性組成物には、(G)硫黄又は硫黄化合物(以下、「(G)成分」ともいう)を含有させることが好ましい。この(G)成分は、架橋剤として作用する成分である。(G)成分を架橋性組成物に含有させる場合における(G)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜1質量部であることが好ましく、0.01〜0.5質量部であることが更に好ましく、0.01〜0.3質量部であることが特に好ましい。(G)の含有量が0.01質量部未満であると、架橋反応性が低く、得られるレーザー加工用成形品の架橋密度が低くなり、好適な彫刻精度を示さなくなる傾向にある。一方、(G)の含有量が1質量部超であると、安定した状態で架橋を制御し難く加工性が悪くなる傾向にある。
【0072】
硫黄の具体例としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を挙げることができる。なお、二種以上の硫黄を組み合わせて用いることもできる。また、硫黄化合物の具体例としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系化合物;チアゾール系化合物等を挙げることができる。なお、二種以上の硫黄化合物を組み合わせて用いることもできる。
【0073】
(その他の成分)
架橋性組成物には、必要に応じて、架橋助剤、活性剤、難燃剤、老化防止剤、顔料、液状ゴム、その他の重合体等を配合することもできる。
【0074】
(動的熱架橋)
本発明のレーザー加工用成形品の製造方法では、架橋性組成物を、先ず動的に熱処理して架橋(動的熱架橋)する。ここで、「動的に熱処理する」とは、剪断力を加えること、及び加熱することの両方を行うことをいう。架橋性組成物には、(A)成分とともに、(F)成分又は(G)成分が含有されているため、動的に熱処理することで(A)成分をはじめとする重合体成分が架橋される。但し、(A)成分の配合量に対する、(F)成分又は(G)成分の配合量が少なく設定されているために、この動的な熱処理によって、(A)成分の一部のみが架橋されることとなり、ある程度の流動性を保持した状態の一部架橋物を得ることができる。
【0075】
なお、動的な熱処理による(A)成分の架橋の有無については、熱処理後に高分子の架橋体が生成しているか否かをGPC分析することによって確認することができる。このGPC分析の方法については後述する。
【0076】
動的熱架橋を実施するための装置としては、溶融混練装置等を好適例として挙げることができる。この溶融混練装置による処理は、連続式及びバッチ式のいずれの方式でもよい。溶融混練装置の具体例としては、開放型のミキシングロール、非開放型のバンバリーミキサ、一軸押出機、二軸押出機、連続式混練機、加圧ニーダー等を挙げることができる。また、型式が同一の又は異なる連続式の溶融混練装置を二台以上組み合わせて用いてもよい。
【0077】
動的熱架橋を実施するに際しての処理温度は、90〜180℃とすることが好ましく、120〜150℃とすることが更に好ましい。処理時間は、10秒間〜30分間とすることが好ましく、20秒間〜20分間とすることが更に好ましい。また、負荷する剪断力は、ずり速度で10〜20000/秒とすることが好ましく、100〜10000/秒とすることが更に好ましい。
【0078】
(放射線架橋)
本発明のレーザー加工用成形品の製造方法では、動的熱架橋に次いで、放射線架橋を実施する。即ち、前述の動的熱架橋によって得られた一部架橋物について、放射線架橋を行う。この放射線架橋により、レーザー加工するに際して、加工面における彫刻されない周囲の部分(残す部分)が溶け難くなり、高い彫刻精度で印刷パターンを形成することが可能なレーザー加工用成形品を得ることができる。なお、放射線架橋の前に成形を行うことにより、所望とする形状のレーザー加工用成形品を製造することができる。
【0079】
製造するレーザー加工用成形品が、少なくとも一方の面にレーザー彫刻可能な加工面を有するシート状の成形品(レーザー加工用シート)である場合には、動的熱架橋によって得た一部架橋物を押出成形、カレンダー成形、プレス成形等することによって、所望とするシート状に成形することができる。なお、押出成形によってレーザー加工用シートを製造する場合には、押出成形後に連続にて放射線架橋することも可能であり、製造効率の観点から好ましい。
【0080】
EB架橋を行う場合には、電子線の照射(吸収)線量は、20〜500kGyであることが好ましく、50〜200kGyであることが更に好ましい。電子線の照射(吸収)線量が20kGy未満であると、架橋が不十分となる場合がある。一方、電子線の照射(吸収)線量が500kGy超であると、得られるレーザー加工用成形品が硬く、フレキシビリティが不足する傾向にある。また、電子線の加速電圧は800kV以下であることが好ましい。電子線の加速電圧が800kV超であると、電子線照射装置が非常に高価となり、実用性に欠ける傾向にある。
【0081】
一方、UV架橋を行う場合には、照射する紫外線の波長は、100〜500nmの範囲であることが好ましい。また、紫外線の照射(露光)量は、200〜5000mJ/cmであることが好ましく、500〜2000mJ/cmであることが更に好ましい。紫外線の照射(露光)量が100mJ/cm未満であると、架橋が不十分となる場合がある。一方、紫外線の照射(露光)量が5000mJ/cm超であると、得られるレーザー加工用成形品が硬く、フレキシビリティが不足する傾向にある。
【0082】
本発明のレーザー加工用成形品が、シート状の成形品(レーザー加工用シート)である場合には、その一方の面上にシート状の基材層が積層されていることが好ましい。このような積層体とすることにより、レーザー加工用成形品の変形を防ぐとともに、印刷の際に要する印圧を低くすることができる。また、レーザー加工用シート全体を軽量化することもでき、比較的大型のシートとする場合に好適である。なお、基材層を構成する材料としては、PET樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂材料;スチール、アルミニウム等の金属材料等を挙げることができる。なかでも、レーザー加工用シートに透明性を付与したい場合、PET樹脂、アクリル樹脂等の透明性に優れる合成樹脂材料が好ましい。
【0083】
基材層の厚みは、0.02mm〜1mmであることが好ましく、0.03mm〜0.5mmであることが更に好ましく、0.04mm〜0.2mmであることが特に好ましい。基材層の厚みが0.02mm未満であると、基材として十分な強度及び特性が発揮され難くなる傾向にある。一方、1mm超であると、版が硬くなり過ぎて作業性が低下する傾向にある。
【0084】
レーザー加工用シートの厚みは、0.3mm〜7mmであることが好ましく、0.5mm〜3mmであることが更に好ましい。0.5mm未満であると、照射されるレーザーの強度等にもよるが、レーザーが突き抜けてしまい易くなる傾向にある。一方、7mm超であると厚過ぎるために、取り扱い性が低下するのみならず、UVやEBを使用した架橋性が低下する傾向にある。
【0085】
2.フレキソ印刷版:
本発明のフレキソ印刷版は、前述のレーザー加工用成形品の加工面がレーザーで彫刻され、所定の印刷パターンが形成されたものである。即ち、本発明のフレキソ印刷版は、前述のレーザー加工用成形品の加工面をレーザーで彫刻加工することにより、この加工面に所定の印刷パターンを形成して製造することができる。従って、本発明のフレキソ印刷版は、優れた彫刻精度で容易に製造され得るものであり、十分な彫刻深度を備えたものである。
【0086】
レーザー加工用成形品(シート)の加工面を彫刻加工するに際して用いるレーザー照射装置としては、主として炭酸ガスレーザーを挙げることができる。レーザーの強度は、使用するレーザー加工用シートの厚みや、所望とする彫刻深度にもよるが、1光源当たりで10〜500Wであることが好ましく、10〜300Wであることが更に好ましい。10W未満であると、十分な彫刻深度で印刷パターンを形成することが困難となる傾向にある。一方、500W超であると、強度が強過ぎるため、彫刻精度が低下する傾向にある。一般的に、レーザー加工速度を上げるためには1光源当たりの強度を増すよりも、光源数を増やして多点を同時並行して加工することが好ましい。
【0087】
レーザーによる彫刻加工は、レーザー加工用シートを平らに配置した状態で行うことができるが、例えば金属等からなるロール上にレーザー加工用シートを配設した状態で行うこともできる。レーザーによる彫刻加工を行った後は、生じた灰(残査)を除去すべく、加工面を洗浄することが好ましい。加工面の洗浄は、水や有機溶媒や界面活性剤溶液を用いた洗浄の他、空気流の吹き付けまたは吸引による洗浄によって行うことができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0089】
[高分子架橋体生成の有無]:GPC測定装置(Viscotek社製、商品名「GPC TDA−302」)を使用し、示差屈折計及び光散乱検出器を検知器として用いて以下の条件で測定し、混練前の溶出曲線及び混練後の溶出曲線をLALLS法により作成した。
カラム:東ソー社製、商品名「GMHHR−H」
カラム温度:40℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0ml/min
サンプル濃度:50mg/20ml
【0090】
混練前の溶出曲線と混練後の溶出曲線を対比し、混練後の溶出曲線における、保持容量の小さい領域(高分子領域)のピーク成長の有無に基づき、以下に示す基準に従って高分子架橋体生成の有無を確認した。
有:ピーク成長を確認可能
無:ピーク成長を確認不可能
【0091】
[メルトフローレート(MFR(g/10min))]:JIS K7210に準拠し、230℃、21.2N荷重の条件下で測定した。
【0092】
[100%モジュラス(M100(MPa))]:JIS K6251に準拠して測定した。
【0093】
[引張破断伸び(%)]:JIS K6251に準拠して測定した。
【0094】
[硬度(デュロA)]:JIS K6253に準拠し、高分子計器社製、「アスカー CL150/DD2 DUROMETER」(商品名)を使用して測定した。
【0095】
[レーザー加工性(彫刻性)評価]:密閉型炭酸ガスレーザー発振器(米国シンラッド社製、出力=25W)が搭載されたレーザー加工機(Great Computer Corporation製、商品名「Laser Pro」)を、その設定を、SPEED30(%)、POWER95(%)、及び解像度1000(dpi)として使用して、レーザー加工用シートの加工面に対してレーザー加工を行った。レーザー加工後の加工面を、表面観察装置(キーエンス社製)を使用して観察し、以下に示す基準に従ってレーザー加工性(彫刻性)を評価した。
◎:彫刻面に粘着はなく、小さい凸部のエッジも鮮明である。
○:彫刻面に粘着はないが、小さい凸部のエッジが部分的に鮮明でない。
△:彫刻面に粘着はないが、大きい凸部のエッジが鮮明でない。
×:彫刻面に粘着があり、彫刻不可。
【0096】
(実施例1)
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(商品名「RB820」、JSR社製、1,2−ビニル結合含量:92%、結晶化度:25%)100部、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド(商品名「イルガキュア819」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5部、及びトリメチロールプロパントリメタリレート(新中村化学工業社製)0.5部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(商品名「サンセラーTRA」、三新化学工業社製)0.3部、活性亜鉛華(堺化学工業社製)0.2部、及びステアリン酸(花王社製)0.2部を、120℃に調温されたニーダーに投入して3分間混練した後、150℃に昇温させて15分間混練しながら動的架橋を行って架橋物を得た。得られた架橋物のMFRは8g/10min、M100は5.3MPa、引張破断伸びは650%、及び硬度(デュロA)は91であった。また、GPC−LALLS法による高分子架橋体生成の確認結果は「有」であった。架橋物のGPCチャートを図1に示す。
【0097】
得られた架橋物を温度150℃に設定した押出成形機にてペレット形状として、このペレットを温度150℃に設定した押出成形機にて厚さ1.0mmのシート形状として、更に紫外線照射装置(商品名「アイグランデージECS301G1」(アイグラフィクス社製)にて紫外線照射を行い、レーザー加工用シートを作製した。なお、紫外線照射面をレーザー加工面とした。作製したシートのM100は5.9MPa、引張破断伸びは560%、及び硬度(デュロA)は90であった。また、レーザー加工性(彫刻性)評価結果は「○」であった。
【0098】
(実施例2〜8、比較例1〜10)
表1及び2に示す配合処方及び動的熱架橋の有無としたこと以外は、前述の実施例1の場合と同様にしてレーザー加工用シートを作製した。各種物性値の測定結果及び特性の評価結果を表1及び2に示す。また、表1及び2に示す各成分の詳細を以下に示す。また、比較例3で得た架橋性組成物のGPCチャートを図1に示す。
【0099】
(1)RB820:シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの商品名(JSR社製)
(2)SIS5200P:スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の商品名(JSR社製)
(3)アエロジルR972:無水シリカ粒子の商品名(日本アエロジル社製、平均一次粒子径=0.017μm)
(4)ダイアナプロセスオイルPW90:パラフィン系伸展油の商品名(出光興産社製、V.G.C.値=0.802)
(5)イルガキュア819:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドの商品名(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
(6)パーヘキサ3M−40V:1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンの商品名(日油社製、半減期が1分となる温度=145℃)
(7)サンセラーTRA:ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドの商品名(三新化学工業社製)
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
表1及び2に示すように、実施例1〜8で作製したレーザー加工用シートは、比較例1〜6で作製したレーザー加工用シートに比して、良好な伸びと柔軟性を有するとともに、レーザーによる彫刻性に優れたものであることが明らかである。なお、比較例7〜10では、動的熱架橋により、架橋度が高く、流動性の低い架橋物が得られたため、シート状に成形することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のレーザー加工用成形品の製造方法によって製造されるレーザー加工用成形品は、主として凸版印刷用のフレキソ印刷版を作製するために用いられるレーザー加工用シートとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】高分子架橋体生成の有無を確認するために測定したGPCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性重合体100質量部、(B)シリカ粒子0〜50質量部、(C)粘度比重恒数(V.G.C.値)が0.790〜0.999である伸展油0〜200質量部、(D)光重合開始剤0〜10質量部、及び(E)多官能アクリレート0〜20質量部と、
(F)有機過酸化物0.01〜0.1質量部、又は(G)硫黄若しくは硫黄化合物0.01〜1.0質量部と、を含む架橋性組成物を、
動的に熱架橋した後、更に放射線架橋することを含むレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項2】
前記(A)熱可塑性重合体が、1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン、スチレン・イソプレン共重合体、及びスチレン・ブタジエン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項3】
前記(B)シリカ粒子が、その平均一次粒子径が0.005μm以上、0.1μm未満の無水粒子である請求項1又は2に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項4】
前記(C)伸展油が、パラフィン系伸展油とナフテン系伸展油の少なくともいずれかである請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項5】
前記(D)光重合開始剤が、アシルホスフィンオキサイド系化合物である請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項6】
前記(E)多官能アクリレートが、トリメチロールプロパントリメタクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレートの少なくともいずれかである請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項7】
前記(F)有機過酸化物が、その半減期が1分となる温度が、90℃以上、180℃未満のものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項8】
前記放射線架橋に使用する放射線が、紫外線又は電子線である請求項1〜7のいずれか一項に記載のレーザー加工用成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のレーザー加工用成形品の製造方法により製造される、少なくとも一方の面にレーザー彫刻可能な加工面を有するシート状の成形品であるレーザー加工用成形品。
【請求項10】
一方の面上にシート状の基材層が積層された請求項9に記載のレーザー加工用成形品。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のレーザー加工用成形品の前記加工面がレーザーで彫刻され、所定の印刷パターンが形成されたフレキソ印刷版。

【図1】
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【公開番号】特開2009−227900(P2009−227900A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77640(P2008−77640)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】