説明

レーザー加工用熱硬化性組成物、硬化物およびプリント配線板

【課題】紫外線レーザーを用いた場合でも、ビアホール形成に必要なレーザーの照射回数が低減され、短時間でのレーザー加工が可能でかつ、良好な密着性、耐熱性を有する硬化物を得ることのできる、紫外線レーザーを用いた熱硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)水酸基を有さない化合物である紫外線吸収剤と、(B)エポキシ樹脂と、(C)熱硬化触媒と、(D)無機充填剤と、を含有することを特徴とするレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工性に優れた熱硬化性樹脂組成物と、該樹脂組成物の硬化物と、これを用いたプリント配線板とに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリント配線板においては、電子部品実装時のはんだ付けの際、回路配線保護や不要部分へのはんだ付着防止を目的として、ソルダーレジストが使用される。このソルダーレジストの形成方法としては、樹脂組成物をプリント配線板用の銅張積層板等に印刷し、加熱硬化させ樹脂絶縁層を形成する。
【0003】
狭ピッチ回路配線の導通部に到達するビアホールを形成する場合、銅張積層板等に熱硬化性樹脂組成物を全面に印刷し、加熱硬化させ樹脂絶縁層を形成した後、レーザー加工により樹脂絶縁層を貫通させて、ビアホールを形成する方法がある。例えば特許文献1には、レーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
レーザー加工により微細なビアホールを形成しようとする場合、YAGまたはYVO結晶が媒体の第3高調波レーザーやエキシマレーザーのような紫外線レーザーなどが好適に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−180355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、紫外線レーザーは、樹脂絶縁層を削り取って貫通させる性能に乏しく、従って、ビアホール形成のために多くのレーザーの照射回数を必要とし、レーザー加工に長時間を要するという問題があった。
【0007】
特に、紫外光吸収性を有さないエポキシ樹脂からなる樹脂絶縁層の紫外線レーザー加工性を向上させようとした場合、エポキシ樹脂に紫外線吸収剤を添加し紫外光吸収性を高めようとしても、樹脂絶縁層作製の際の硬化時の熱によって、紫外線吸収剤が揮散したり、紫外線吸収剤成分とエポキシ樹脂成分が反応したりすることにより、紫外光吸収性が著しく低下し、樹脂絶縁層のレーザー加工に長時間を要するという問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、紫外線レーザーを用いた場合でも、ビアホール形成に必要な照射回数が低減され、短時間でのレーザー加工が可能でかつ、良好な密着性、耐熱性を有する硬化物を得ることのできる、紫外線レーザーを用いた熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、およびそれを用いたプリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、水酸基を有さない化合物である紫外線吸収剤と、エポキシ樹脂と、を含有する熱硬化性樹脂組成物とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物は、(A)水酸基を有さない化合物である紫外線吸収剤と、(B)エポキシ樹脂と、(C)熱硬化触媒と、(D)無機充填剤と、を含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物は、前記(A)紫外線吸収剤が、カルバゾールオキシムエステル化合物または、アルキルアミノ基含有ベンゾフェノン化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明の硬化物は、上記いずれかのレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物を硬化してなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明のプリント配線板は、上記の硬化物を備えることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のプリント配線板は、紫外線レーザーにより、前記硬化物からなる樹脂絶縁層を貫通するビアホールが形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂絶縁層作製の際の硬化時の影響を受けずに、紫外線吸収剤の添加効果を維持することが可能なため、ビアホール形成に必要なレーザーの照射回数を低減し、短時間でのレーザー加工が可能な硬化物を得ることができる熱硬化性樹脂組成物、およびこれを用いたプリント配線板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる樹脂絶縁層を備えたプリント配線板のレーザー加工によるビアホール形成過程を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物は、(A)水酸基を有さない化合物である紫外線吸収剤と、(B)エポキシ樹脂と、(C)熱硬化触媒と、(D)無機充填剤と、を含有することを特徴とするものである。本発明のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物は、例えば、プリント配線板のソルダーレジストとして好適に用いることができる。
【0018】
上記(A)水酸基を有さない化合物である紫外線吸収剤は、化学構造中にフェノール性水酸基またはアルコール性水酸基を含まず、かつ、紫外線領域(波長200nmから400nmまでを指す)に吸収を持つ化合物のことである。
本発明者らの検討の結果、水酸基を有する化合物である紫外線吸収剤を用いた場合、熱硬化性樹脂組成物を構成しているエポキシ樹脂の加熱硬化時に、エポキシ基と紫外線吸収剤中の水酸基との反応により分子間架橋が起こるため紫外線吸収剤の化学構造が変わり、紫外光吸収性が著しく低下することが明らかとなった。これは紫外線吸収剤の分子内の水酸基が相互作用で引き合い、分子構造を変えて、吸収波長を調整しているためであり、この水酸基がエポキシと反応することにより相互作用がなくなるためである。しかし、水酸基を有さない紫外線吸収剤ではエポキシ基と水酸基との反応による分子間架橋が起こらないため、紫外光吸収性が加熱硬化後も維持されることが明らかとなった。
カルボキシル基、第1級アミン、第2級アミン等を有する紫外線吸収剤は、エポキシ樹脂と反応するが、これらは反応しても紫外光吸収性が加熱硬化後も維持される。
【0019】
(A)成分としては、紫外線吸収剤として公知の化合物のうち、水酸基を有さない化合物であればいずれも使用することができる。そのような化合物としては、例えば、α−アミノアルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、オキシムエステル化合物、ベンゾフェノン化合物等のうち、水酸基を有さない化合物を挙げることができる。そのような化合物の市販品としては、イルガキュア−369、−379、−907(いずれもBASFジャパン社製)等の他、後述するものが挙げられる。
【0020】
特に良好な紫外線レーザー加工性を得るために、(A)成分としては、オキシムエステル化合物またはベンゾフェノン化合物が好ましく、カルバゾールオキシムエステル化合物または、アルキルアミノ基含有ベンゾフェノン化合物がより好ましい。
【0021】
好ましいカルバゾールオキシムエステル化合物は、例えば下記一般式で表すことができる。

(式中、Rは、炭素原子数1〜4のアルキル基、または、ニトロ基、ハロゲン原子もしくは炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を表す。
は、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、または、炭素原子数1〜4のアルキル基もしくはアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基を表す。Rは、酸素原子または硫黄原子で連結されていてもよく、フェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよいベンジル基を表す。Rは、ニトロ基、または、X−C(=O)−で表されるアシル基を表す。Xは、炭素原子数1〜4のアルキル基で置換されていてもよいアリール基、チエニル基、モルホリノ基、チオフェニル基、または、下記式で示される構造を表す。)

その他、特開2004−359639号公報、特開2005−097141号公報、特開2005−220097号公報、特開2006−160634号公報、特開2008−094770号公報、特表2008−509967号公報、特表2009−040762号公報、特開2011−80036号公報記載のカルバゾールオキシムエステル化合物等を挙げることができる。
【0022】
また、アルキルアミノ基含有ベンゾフェノンとは、アルキルアミノ基(−NRR’)を1または2個有するベンゾフェノン化合物である。RおよびR’は、好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基である。上記アルキル基は、酸素原子または硫黄原子により連結されていてもよい。また、水酸基を有していなければ、アルキルアミノ基以外の置換基を有していてもよい。
【0023】
具体例として、カルバゾールオキシムエステル化合物であれば、2−(アセチルオ
キシイミノメチル)チオキサンテン−9−オン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、1−(9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル)、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)、等があり、市販品としては、イルガキュアーOXE01、CGI−242、イルガキュアーOXE02(いずれもBASFジャパン社製)、N−1919(ADEKA社製)等が挙げられる。
【0024】
また、アルキルアミノ基含有ベンゾフェノン化合物の具体例として、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、等があり、市販品としては、EAB(保土谷化学社製)等が挙げられる。
【0025】
なお上記市販品は、一般的にはフォトレジスト用の光重合開始剤として使用されているが、本発明においては、紫外光吸収性を有する性質を利用し、紫外線吸収剤として使用している。
【0026】
上記の(A)水酸基を有さない化合物である紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。(A)成分の含有率は、本発明のレーザー加工用樹脂組成物の全固形分(組成物全体から、溶剤を除いた分)を基準として好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは3〜7質量%である。紫外線吸収剤が1質量%未満では、本発明の効果が発揮されないことがあり、10質量%を超えると、樹脂絶縁層としての物性が低下してくることがある。
【0027】
上記(B)エポキシ樹脂としては、1分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する公知慣用の多官能エポキシ樹脂が使用される。
【0028】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂、Xylok型エポキシ樹脂、アミノエポキシ樹脂、CTBN変性エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ樹脂、プロピレングリコール又はポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル−1,3−ジグリシジルエーテル、ビフェニル−4,4’−ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコール又はプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0029】
(B)エポキシ樹脂の組成物中の含有率は、組成物の全固形分を基準として、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは20〜60質量%である。
【0030】
上記(C)熱硬化触媒は、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化特性をさらに向上させるために使用され、例えば、ジシアンジアミド、芳香族アミンなどのアミン化合物、イミダゾール類、リン化合物、酸無水物、二環式アミジン化合物などを使用できる。具体的には、イミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミン、U−CAT 3513N、U−CAT 3512T(いずれもサンアプロ社製)等のアミン化合物、トリフェニルホスフィン等のリン化合物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸等の酸無水物等を用いることができる。より具体的には、イミダゾール類として、1B2PZ、2E4MZ、2MZ−A、2MZ−OK、2PHZ、2P4MHZ等の(いずれも四国化成工業社製);二環式アミジン化合物およびその塩として、DBU、DBN、U−CAT SA102、U−CAT5002(いずれもサンアプロ社製)、等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
上記の(C)熱硬化触媒の配合量は、通常の配合割合で充分であり、例えば、熱硬化成分である(B)エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1質量部から10質量部が好ましい。0.1質量部未満であると反応が促進されないことがあり、10質量部を超えると組成物の保存安定性が著しく低下することがある。
【0032】
上記(D)無機充填剤は、樹脂絶縁層の硬化収縮を抑制し、密着性、硬度などの特性を向上させるために使用される。無機充填剤としては、例えば、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、無定形シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、球状シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、等が挙げられる。
【0033】
上記(D)無機充填剤の平均粒子径は5μm以下であることが好ましい。配合割合は、組成物の全固形分を基準として75質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1〜60質量%である。無機充填剤の配合割合が75質量%を超えると、組成物の粘度が高くなり、塗布性が低下したり、樹脂絶縁層が脆くなることがある。
【0034】
本発明に用いる熱硬化性樹脂組成物は、さらに、フェノキシ樹脂、溶剤、着色剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、等の公知慣用の添加剤類を含有することができる。
【0035】
上記フェノキシ樹脂は造膜性を改善するために使用され、例えば、1256、4250、4275、YX8100BH30、YX6954BH30(三菱化学社製)、YP50、YP50S、YP55U、YP70、ZX−1356−2、FX−316、YPB−43C、ERF−001M30、YPS−007A30、FX−293AM40(東都化成社製)、等が挙げられ、単独であるいは2種類以上を組合せて用いることができる。
【0036】
なお、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を用いた場合、樹脂絶縁層のレーザー加工は可能だが、熱硬化性樹脂組成物に汎用のエポキシ樹脂に比べ、無機充填剤添加の際の樹脂との馴染みが悪く、塗膜強度等の物性制御が困難になることがある。
【0037】
上記着色剤は、回路配線の模倣や盗用の予防として、樹脂絶縁層の隠蔽性を高めるために使用される。顔料および染料のいずれでもよく、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジスアゾイエロー、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤を用いることができる。
【0038】
なお、紫外光吸収性の高い顔料を用いたとしても、樹脂中に溶解せず粒子として分散し反射や散乱を起こすため、樹脂絶縁層の紫外光吸収性はさほど高くはならず、紫外線レーザー加工に長時間を要することになるため、紫外線吸収剤は必要である。顔料を多量に添加することで樹脂絶縁層の紫外光吸収性をある程度高くすることは可能だが、その場合、樹脂との馴染みの悪さのため、塗膜強度等の物性制御が困難になることがある。
【0039】
また、紫外光吸収性の高い染料を用いたとしても、加熱硬化時の熱により退色し、紫外光吸収性が低くなってしまう。そのため、やはり紫外線吸収剤は必要になる。
【0040】
上記溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の粘度調整に用いられる。樹脂組成物の溶剤として公知のものをいずれも使用することができる。そのような溶剤として、例えば、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類、アルコール類、脂肪族炭化水素、石油系溶剤、等を挙げることができる。より具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ、等の石油系溶剤が挙げられる。これら溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて使用してもよい。
【0041】
次に、本発明のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物を用い、樹脂絶縁層を作製し、紫外線レーザー加工により樹脂絶縁層を貫通させて、ビアホールを形成する方法について説明する。
【0042】
基板はバフロール研磨、化学研磨等の前処理を施した後、塗布方法に適した粘度に有機溶剤で調整した熱硬化性樹脂組成物を、乾燥膜厚で10μmから30μmまでとなるように塗布する。次いで、40℃から100℃までの温度で組成物中に含まれる有機溶剤を揮発、乾燥させる。さらに、150℃から200℃までの温度で30分から120分間加熱硬化させて、樹脂絶縁層を形成することができる(図1(a)参照)。
【0043】
上記基板としては、主として、予め回路形成されたプリント配線板やフレキシブルプリント配線板の他、紙−フェノール樹脂、紙−エポキシ樹脂、ガラス布−エポキシ樹脂、ガラス−ポリイミド、ガラス布/不繊布−エポキシ樹脂、ガラス布/紙−エポキシ樹脂、合成繊維−エポキシ樹脂、フッ素樹脂・ポリエチレン・ポリフェニレンエーテル,ポリフェニレンオキシド・シアネートエステル等の複合材を用いた全てのグレード(FR−4等)の銅張積層板を用いることができる。
【0044】
上記塗布方法としては、ディップコート法、フローコート法、ロールコート法、バーコーター法、スクリーン印刷法、カーテンコート法等などがある。また、キャリアフィルム上に塗布、乾燥させてフィルムとして巻き取ってドライフィルムとし、基板上にラミネートすることにより、塗膜形成することも可能である。また、塗布時に、配線ないしは実装部分を設けるために、マスク等を使用することで部分印刷を行っても良い。
【0045】
上記乾燥および加熱方法としては、熱風循環式乾燥炉、IR炉、ホットプレート、コンベクションオーブン等、蒸気による加熱方式の熱源を備えたものを用い、乾燥機内の熱風を向流接触させる方法、およびノズルより支持体に吹き付ける方法が適用できる。
【0046】
次いで、樹脂絶縁層に紫外線レーザー加工を行い、ビアホールを形成し、回路配線を露出させる(図1(b)参照)。
【0047】
上記紫外線レーザーは、紫外線領域(波長200nmから400nmまでを指す)を発振波長とするレーザーであり、本発明においては、HClガスとXeガスの組合せによるエキシマレーザー(308nm)、YLF結晶が媒体であるNd:YAG第3高調波レーザー(351nm)、YAG結晶が媒体であるNd:YAG第3高調波レーザー(355nm)、YVO結晶が媒体であるNd:YVO第3高調波レーザー(355nm)であることが好ましい。
【0048】
上記紫外線レーザーの照射方法としては、パルス(pulse)照射と連続照射があるが、パルス照射の方が、ビアホール周縁の樹脂絶縁層の熱膨張およびクラック等の損傷が少ないため、好ましい。
【0049】
上記紫外線レーザーの照射エネルギーは、1パルス当たりの照射エネルギー[μJ/pulse]として示され、本発明においては、0.5μJ/pulseから50μJ/pulseまでが好ましく、より好ましくは、1μJ/pulseから10μJ/pulseである。なお、その際のパルス幅は1マイクロ秒以下とする。0.5μJ/pulse未満であると、樹脂絶縁層がほとんど削れないため、ビアホールを形成するのが困難となり、好ましくない。一方、50μJ/pulseを超えると、ビアホール周囲の樹脂絶縁層がクラック等の損傷を受けることがある。
【0050】
上記紫外線レーザーの照射は、ビアホールが形成できるまで行う必要がある。また、同一の照射エネルギー時においては樹脂絶縁層の膜厚に比例する。レーザーの照射回数は、1回から100回が好ましく、より好ましくは、10回から50回である。照射回数が多すぎると、レーザー加工に長時間を要するため、生産性の低下につながりうる。
【0051】
上記紫外線レーザーにより形成されるビアホール形状は、樹脂絶縁層表面のビアホール直径Dと回路配線表面(ビアホール底面)のビアホール直径dとの比率、つまり、式(d/D)×100[%]で示され、本発明においては、50%以上が好ましく、より好ましくは70%以上である。50%未満であると、回路配線表面(ビアホール底面)が細すぎ、はんだが回路配線部に接着せず、導通が取れない問題が起こりうる。
【0052】
また、上記紫外線レーザーにより形成されるビアホール径は、樹脂絶縁層表面のビアホール直径Dにおいて、10μmから70μmが好ましく、より好ましくは、20μmから45μmである。紫外線レーザーおよび本発明の組成物を使用することで、例えば汎用に使用される炭酸ガスレーザーおよびそれに用いる組成物では対応できない、狭ピッチ回路配線に対応したプリント配線板が提供できる。
【0053】
上記紫外線レーザーにより形成されたビアホールは、ソルダーレジストのパターンとして利用でき、過マンガン酸塩溶液等のデスミア処理の薬液を用いて紫外線レーザー加工後の残留成分を分解除去するデスミア処理を行い、プリント配線板を製造する。
【0054】
なお、両面基板、多層基板においても、同様にして熱硬化性樹脂組成物を用いて樹脂絶縁層を形成し、レーザーによりビアホールを形成後、デスミア処理される。
【0055】
このようにして製造したプリント配線板に対し、回路配線に金めっきを施し、あるいはプリフラックス処理した後、実装される半導体チップなどの電子部品が、金バンプやはんだバンプにより接合されて搭載される。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例および比較例を示して本発明について具体的に説明する。なお、特に断りのない限り、全て質量基準である。
【0057】
(レーザー加工用熱硬化性樹脂組成物の調製)
表1に記載される処方で各成分を配合し、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールミルを用いて混練し、実施例1〜4、比較例1〜5のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物を調製した。なお、表1記載の数値の単位は、質量部である。
【0058】
(評価用サンプルの作製)
このようにして調製した実施例1〜4、比較例1〜5のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物を、バフロール研磨した銅張り積層板上に塗布し、熱風循環式乾燥炉中、80℃で30分乾燥後、170℃で1時間、加熱硬化することにより、実施例1〜4、比較例1〜5の樹脂絶縁層を含む試験片を作製した。硬化塗膜、すなわち樹脂絶縁層の厚さは20μmであった。各試験片を以下の密着性試験、耐熱性試験およびレーザー加工性試験に供した。
【0059】
(性能評価)
(密着性試験)
JIS K5600−5−6:1999に準拠して、試験片の樹脂絶縁層にクロスカットを入れ、硬化物にセロハンテープを貼り付け、これを引き剥がすというピーリングテストを行った後、樹脂絶縁層の剥がれの状態を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:剥がれ無し
△:樹脂絶縁層の一部に剥がれあり
×:樹脂絶縁層の大部分に剥がれあり
結果を下記表2に示す。
【0060】
(耐熱性試験)
試験片を260℃のはんだ槽(液の組成:Sn−3.0Ag−0.5Cuはんだ(スズ96.5%、銀3.0%、銅0.5%))に10秒間浸漬し、これを3回繰り返した後、密着性試験と同様のピーリングテストを行った後、樹脂絶縁層の剥がれの状態を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:剥がれ無し
△:樹脂絶縁層の一部に剥がれあり
×:樹脂絶縁層の大部分に剥がれあり
結果を下記表2に示す。
【0061】
(レーザー加工性試験)
紫外線レーザー(Nd:YVO第3高調波レーザー、波長:355nm)を用いて、ビアホールを形成し、回路配線を露出させた。ビアホールの形状は、レーザー顕微鏡を用いて測長した。樹脂絶縁層表面のビアホール径Dと回路配線表面(ビアホール底面)のビアホール径dとの比率[式(d/D)×100[%]]が、70%を越えるために要する照射回数を、以下の基準で評価した。なお、レーザー照射条件は、樹脂絶縁層のみを加工し回路(導通部)を損傷しないよう設定した。
○:40回以下
△:40回を超え100回以下
×:100回を超える
結果を下記表2に示す。
【0062】
【表1】

※1:828(三菱化学社製)
※2:YX-8800(三菱化学社製)を不揮発分30%になるようにジメチルアセトアミドで溶かしたワニス
※3:EPPN-501H(日本化薬社製)を不揮発分80%になるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで溶かしたワニス
※4:YX-8100H30(三菱化学社製)
※5:1B2PZ(四国化成工業社製)
※6:HF-1M(明和化成社製)を不揮発分65%になるようにジエチレングリコールモノエチルエーテルで溶かしたワニス
※7:PGMAc(大伸化学社製)
※8:IRGACURE OXE01(BASFジャパン社製)
※9:IRGACURE OXE02(BASFジャパン社製)
※10:EAB(保土谷化学工業社製)
※11:CHIMASSORB81FL(BASFジャパン社製)
※12:TINUVIN 234(BASFジャパン社製)
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示す結果から明らかなように、紫外線吸収剤を含有しない比較例1、水酸基を有するベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含有する比較例2、水酸基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有する比較例3は、いずれもレーザー加工性が悪かった。また、水酸基を有するベンゾフェノン系紫外線吸収剤の量を増やした比較例4および5は、レーザー加工性が若干改善したものの、密着性、耐熱性が著しく悪化した。
それに対して、水酸基を有さない紫外線吸収剤を含有する実施例1〜5は、樹脂絶縁層のレーザー加工性が良好で、かつ、密着性、耐熱性も優れたものであった。
【0065】
このように、本発明の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂絶縁層は、レーザー加工性に優れ、かつ、基材との密着性および耐熱性にも優れている。
したがって、特にプリント配線板のレーザー加工用熱硬化性ソルダーレジスト等として、優れた特性を有することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、実装用の狭ピッチ回路配線に対応したプリント配線板のレーザー加工用熱硬化性ソルダーレジスト等として利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 樹脂絶縁層
2 基板(銅張積層板)
2a 導体層(回路配線)
2b 絶縁層
3 ビアホール
4 レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水酸基を有さない化合物である紫外線吸収剤と、(B)エポキシ樹脂と、(C)熱硬化触媒と、(D)無機充填剤と、を含有することを特徴とするレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)紫外線吸収剤が、カルバゾールオキシムエステル化合物または、アルキルアミノ基含有ベンゾフェノン化合物である請求項1記載のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のレーザー加工用熱硬化性樹脂組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。
【請求項4】
請求項3記載の硬化物を備えることを特徴とするプリント配線板。
【請求項5】
紫外線レーザーにより、前記硬化物からなる樹脂絶縁層を貫通するビアホールが形成された請求項4記載のプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2013−75952(P2013−75952A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215420(P2011−215420)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(591021305)太陽ホールディングス株式会社 (327)
【Fターム(参考)】