説明

レーザー彫刻可能な印刷原版

【課題】 印刷不良を生じずかつ解像度に優れたレーザー彫刻用印刷原版を提供すること。
【解決手段】 (A)水分散ラッテクスから得られる疎水性重合体(B)光重合性化合物(C)光重合開始剤を含有した感光性樹脂組成物であって、該感光性樹脂組成物を光架橋させた後、前記(A)成分である疎水性重合体が、平均粒径0.03μm〜2μmの微粒子状で存在しているレーザー彫刻可能な印刷原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用印刷原版に関するものである。詳しくは、(A)水分散ラッテクスから得られる疎水性重合体(B)光重合性化合物(C)光重合開始剤を含有した感光性樹脂組成物であって、該感光性樹脂組成物を光架橋させた後、前記(A)成分である疎水性重合体が、平均粒径0.03μm〜2μmの微粒子状で存在していることを特徴とする、レーザー彫刻可能な印刷原版に関する。本発明の印刷原版を用いると、レーザー彫刻の際に発生する彫刻カスが少なく、高解像度で理想的な形状のドットを形成でき、ロングランでの印刷が可能である。
【背景技術】
【0002】
包装材や建装材などの印刷に使用されるフレキソ印刷用の印刷版は、従来、感光性樹脂からなる印刷原版を像に従って露光して露光部の樹脂を架橋させ、次いで非露光部の未架橋樹脂を洗浄除去することにより製造されていたが、近年、印刷版製造の効率改善のため、レーザーを使って直接印刷原版上にレリーフ画像を形成するレーザー彫刻による印刷版が普及しつつある。レーザー彫刻による印刷版の製造工程では、レーザー光線を像に従って印刷原版に照射して照射部分の像形成材料を分解することにより版表面に凹凸が形成される。この際、レーザー照射部の像形成材料の分解により粘稠性の樹脂カスが生じ、その一部はレーザー非照射部にも飛び散る。これらの樹脂カスは、印刷版に残しておくと問題を生じるため、レーザー照射中にレーザー装置近傍に設けた集塵機で吸引することにより及び/又はレーザー照射後に印刷版を洗浄することにより印刷版から除去される。
【0003】
レーザー彫刻用の印刷原版としては、従来、合成ゴムや天然ゴムに光重合性化合物及び光重合開始剤を配合した樹脂組成物からなるものが知られている(特許文献1、2参照)。しかしながら、この印刷原版はゴムを主成分とするため原版自身の粘着性が高く、レーザー照射により生じた樹脂カスがレーザー照射中の吸引やレーザー照射後の洗浄でも除去されずに版に付着したまま残りやすい。樹脂カスが印刷版のレーザー非照射部分(凸部分)に付着したまま残ると、この部分は印刷時にインクが付与される部分であるので、印刷不良を招くおそれがある。また、樹脂カスが印刷版のレーザー照射部分(凹部分)の底面に付着したまま残ると、網点の深度が低下し、凹部分の側面に付着したまま残ると網点の再現性が低下し、いずれも解像度の低下を招くおそれがある。
【0004】
この問題に対処するため、樹脂組成物にカーボンブラックなどのレーザー吸収性の着色充填剤を配合したり、またはシリカ微粉末などの無色透明の充填剤を配合することにより印刷原版の機械的特性を向上させ、結果として粘着性を低下させる技術が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、カーボンブラックなどのレーザー吸収性の充填剤を配合する方法は、着色した充填剤を使用するため、樹脂組成物が不透明となり、光照射による光硬化を十分に行うことができなくなるという問題があった。また、シリカ微粉末などの充填剤を配合する方法は、無色透明であるためカーボンブラックの配合の場合のような問題は生じないものの、印刷原版の粘着性を十分に低下させるためには多量の充填剤が必要となり、印刷原版の成型性や版物性を著しく損うという問題があった。このように、充填剤を添加すると、印刷原版の成型性や版物性に悪影響を与えるので、充填剤を添加せずに印刷原版の粘着性を低下させることができる方法の開発が求められていた。
【特許文献1】特許第2846954号
【特許文献2】特開平11−338139号
【特許文献3】特表2004−533343号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、レーザー彫刻の際に発生する彫刻カスが少なく、高解像度で理想的な形状のドットを形成でき、ロングランでの印刷が可能である印刷原版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、光架橋させた後の疎水性重合体成分が平均粒径0.03μm〜2μmで微粒子状に存在している印刷原版を使用することで、これらの問題を克服することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、下記のことを特徴とする、レーザー彫刻可能な印刷原版が提供される:
(A)水分散ラッテクスから得られる疎水性重合体(B)光重合性化合物(C)光重合開始剤を含有した感光性樹脂組成物であって、該感光性樹脂組成物を光架橋させた後、前記(A)成分である疎水性重合体が、平均粒径0.03μm〜2μmの微粒子状で存在していることを特徴とする、レーザー彫刻可能な印刷原版。
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、光架橋させた後の感光性樹脂組成物において、0.3μm〜3μmの微粒子の占める面積比率は20%〜80%であり、疎水性重合体の少なくとも1種は40%以上の架橋度を有する疎水性重合体である。また、本発明印刷版はート状又は円筒状である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザー彫刻可能な印刷原版は、疎水性重合体が微粒子状で存在している。このため、レーザー彫刻において発生する彫刻カスの除去が極めて容易にできる。また、レーザー彫刻により高解像度で理想的なドットの形状を形成できる。従来使用されてきたレーザー彫刻可能な印刷原版は、疎水性重合体が微粒子状で存在していないため、レーザー彫刻で発生する彫刻カスの除去が困難であり、これに起因して印刷不良がしばしば発生していた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の印刷原版は、レーザー彫刻用印刷原版の原料として極めて好適なものであり、(A)水分散ラッテクスから得られる疎水性重合体(B)光重合性化合物(C)光重合開始剤を含有した感光性樹脂組成物であり、該感光性樹脂組成物を光架橋させた後、前記(A)成分である疎水性重合体が、平均粒径0.03μm〜2μmの微粒子状で存在しているものである。
【0011】
(A)水分散ラッテクスから得られる疎水性重合体は、平均粒径0.03μm〜2μmの微粒子状で存在しているものである。「微粒子状に存在している」とは、例えば、走査型プローブ顕微鏡SPMを用いて形態観察と位相分布評価を行って、独立した微粒子としての存在が確認できるということである。微粒子は、(B)成分である光重合性化合物に分散した形態を有していることが好ましい。微粒子の平均粒径は0.03μm〜2μmであることが必須である。好ましくは、0.06μm〜1μmである。さらに好ましくは、0.1μm〜0.4μmである。微粒子の平均粒径が2μmを超える場合、レーザー彫刻で発生する彫刻カスの除去が困難になり、高い解像度を発現することができなくなる。
【0012】
光架橋後の感光性樹脂組成物において、微粒子の占める面積比率は20%〜80%であることが好ましく、さらに好ましくは40%〜60%である。面積比率が20%未満では、彫刻カスの除去が困難になると同時にゴム弾性が失われるため印刷性に劣る。反対に80%を超える場合では、(B)成分によりおこる架橋の密度が不十分になる。このため、樹脂版は印刷に耐えうる十分な強度を発現できない。
【0013】
微粒子で存在している疎水性重合体のうち、少なくとも一種は、40%以上の架橋度のものであることが好ましく、さらに好ましくは70%以上である。40%以上の架橋度の疎水性重合体を使用することで、より彫刻カスの除去を容易にすることができる。また、微粒子状態を形成しやすくなる。
【0014】
本発明で使用する(A)ラテックスとしては、従来公知のラテックスを使用できる。ラテックスとは、天然ゴム、合成ゴムあるいはプラスチックなどの高分子が乳化剤の作用によってコロイド状に水中に分散した乳濁液をいい、生産過程によって、(i)植物の代謝作用による天然の生産物である天然ゴムラテックス、(ii)乳化重合法により合成された合成ゴムラテックス、及び(iii)固形ゴムを水中に乳化分散した人工ラテックスに分類されるが、本発明で使用する(A)ラテックスは上記の(ii)合成ゴムラテックス及び(iii)人工ラテックスのみをいい、(i)天然ゴムラテックスは含まない。
【0015】
具体的には、ポリブタジエンラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックスなどを一例として挙げることができる。また、これらのラテックスは所望により(メタ)アクリルやカルボキシなどで変性されていてもよい。なお、架橋されたラテックスは多数の様々な合成又は天然ラテックスが市販されているので、そこから適当なものを選択すればよい。また、ラッテクスは2種以上を併用することも可能である。
【0016】
本発明の樹脂組成物を構成する(B)光重合性化合物は、光照射により重合・架橋し、印刷原版に形状維持のための緻密なネットワークを形成する役割を有する。本発明で使用する(B)光重合性化合物としては、光重合性オリゴマーが好ましい。ここで、光重合性オリゴマーとは、共役ジエン系重合体の末端および/または側鎖にエチレン性不飽和基が結合した共役ジエン系エチレン性重合体であって、数平均分子量が1000以上、10000以下のものを指す。
【0017】
共役ジエン系エチレン性重合体を構成する共役ジエン系重合体は、共役ジエン不飽和化合物の単独重合体または共役ジエン不飽和化合物とモノエチレン性不飽和化合物との共重合体によって構成される。かかる共役ジエン不飽和化合物の単独重合体または共役ジエン不飽和化合物とモノエチレン性不飽和化合物との共重合体としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン−クロロプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル−イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル−クロロプレン共重合体、アクリル酸メチル−ブタジエン共重合体、アクリル酸メチル−イソプレン共重合体、アクリル酸メチル−クロロプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−クロロプレン−スチレン共重合体等が挙げられる。これらのうち、ゴム弾性と光硬化性の点で、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましく、ブタジエン重合体、イソプレン重合体が特に好ましい。
【0018】
共役ジエン系重合体の末端および/または側鎖にエチレン性不飽和基を導入する方法は特に限定されないが、例えば、(1)過酸化水素を重合開始剤として得られた水酸基末端共役ジエン系重合体の末端の水酸基に(メタ)アクリル酸等のモノエチレン性不飽和カルボン酸を脱水反応によりエステル結合させるか、若しくは、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチル等のモノエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルをエステル交換反応によりエステル結合させる方法、(2)共役ジエン化合物と少なくとも一部に不飽和カルボン酸(エステル)を含むエチレン性不飽和化合物を共重合して得られた共
役ジエン系重合体にアリルアルコール、ビニルアルコール等のエチレン性不飽和アルコールを反応させる方法が挙げられる。
【0019】
共役ジエン系エチレン性重合体におけるエチレン性不飽和基の量は、重合体中に0.005〜2.0m当量/gであることが好ましく、特に好ましくは0.01〜2.0m当量/gである。2.0m当量/gより多いと硬度が高くなりすぎて充分な弾性が得難くなり、印刷時でのベタ部のインキ乗り性が低下する。0.005m当量/gより少ないと、硬度が低くなり過ぎて充分な硬度が得難くなり、印刷でのドットゲインが大きくなり印刷精度が低下する。
【0020】
本発明の(B)光重合性化合物は、上記の例示したもの以外に、一般的に用いられるアクリレートやメタクリレートなどの光重合性化合物を使用することができる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、クロロプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、特に好ましくはn−ラウリルメタクリレート、アルキル(C12〜13)メタクリレート、トリデシルメタクリレート、アルキル(C12〜15)メタクリレート等が挙げられる。
【0021】
本発明の樹脂組成物を構成する(C)光重合開始剤は、(B)光重合性化合物の光重合・架橋反応の開始剤としての役割を有する。本発明で使用する(C)光重合開始剤としては、光照射によって重合性の炭素−炭素不飽和基を重合させることができるものであればあらゆるものが使用できるが、特に、光吸収によって、自己分解や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましく使用される。具体的には、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などが使用できる。
【0022】
本発明の樹脂組成物では、(A)ラテックス、(B)光重合性化合物及び(C)光重合開始剤の配合割合は、(A)ラテックスが好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは40〜80質量%であり、(B)光重合性化合物が好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは20〜60質量%であり、(C)光重合開始剤が好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜7質量%である。
【0023】
本発明の樹脂組成物には、上述の三つの成分(A)〜(C)以外に親水性重合体、可塑剤、及び/又は重合禁止剤などの任意成分を所望により配合することもできる。
【0024】
親水性重合体は、製造された印刷版を使用してフレキソ印刷を行う際に印刷版と水性インキとの親和性を改善し、印刷性を向上させる効果を有する。本発明の樹脂組成物で使用することができる親水性重合体は、−COOH、−COOM(Mは1価、2価、或いは3価の金属イオンまたは置換または無置換のアンモニウムイオン)、−OH、−NH2、−SO3H、リン酸エステル基などの親水基を有するものが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸またはその塩類の重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類と酢酸ビニルとの共重合体、(メタ)アクリル酸またはその塩類とアクリロニトリルとの共重合体、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、−COOM基を有するポリウレタン、−COOM基を有するポリウレアウレタン、−COOM基を有するポリアミド酸およびこれらの塩類または誘導体が挙げられる。これらはそれぞれを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。本発明の樹脂組成物中の親水性重合体の配合割合は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。親水性重合体の配合割合が上記上限を超えると、製造される印刷版の耐水性が低下し、水性インキ耐性が低下するおそれがある。
【0025】
可塑剤は、樹脂組成物の流動性を改善する効果、及び製造される印刷原版の硬度を調節する効果を有する。本発明の樹脂組成物で使用することができる可塑剤は、(A)ラテックスと相溶性が良好なものが好ましく、室温で液状のポリエン化合物やエステル結合を有する化合物であることがより好ましい。室温で液状のポリエン化合物としては、液状のポリブタジエン、ポリイソプレン、さらにそれらの末端基あるいは側鎖を変性したマレイン化物、エポキシ化物などがある。エステル結合を有する化合物としては、フタル酸エステル、リン酸エステル、セバシン酸エステル、アジピン酸エステル、分子量1000〜3000のポリエステルが挙げられる。本発明の樹脂組成物中の可塑剤の配合割合は30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。可塑剤の配合割合が上記上限を超えると、印刷版の機械的特性や溶剤耐性が著しく低下してしまい、耐刷性が低下するおそれがある。
【0026】
重合禁止剤は、樹脂組成物の熱安定性を増大させる効果を有する。本発明の樹脂組成物で使用することができる重合禁止剤は従来公知のものであることができ、例えばフェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類などを挙げることができる。本発明の樹脂組成物中の重合禁止剤の配合割合は0.001〜3質量%であることが好ましく、0.001〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
また、これら以外の任意成分として、着色剤、酸化防止剤などを本発明の効果を損わない範囲で添加することもできる。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、上述の三つの必須成分(A)〜(C)及び所望により任意成分を混合することによって調製される。その際、混合を容易にするために所望によりトルエンなどの有機溶媒を添加してもよい。また、混合を完全にするためには、ニーダーを使用して加熱条件下で十分に混練することが望ましい。加熱条件は50〜110℃程度であることが好ましい。また、混合の際に添加された有機溶媒及び成分中に含まれていた水分は、混練後に減圧除去することが好ましい。
【0029】
次に、本発明のレーザー彫刻可能な印刷原版について説明する。本発明の印刷原版は、上述のようにして調製された本発明の樹脂組成物をシート状又は円筒状に成形し、次いでこの成型物に光を照射して架橋硬化させることによって得られるものである。
【0030】
本発明の樹脂組成物をシート状又は円筒状に成形する方法としては、従来公知の樹脂成形方法を使用することができ、例えば本発明の樹脂組成物を適当な支持体上に又は印刷機のシリンダー上に塗布してヒートプレス機などで加圧する方法を挙げることができる。支持体としては、可撓性を有しかつ寸法安定性に優れた材料が好ましく用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、或いはポリカーボネートを挙げることができる。支持体の厚みは印刷原版の機械的特性、形状安定性等の点から50〜250μm、好ましくは100〜200μmであることが好ましい。また、必要により、支持体と樹脂層との接着を向上させるために、この種の目的で従来から使用されている公知の接着剤を表面に設けてもよい。加圧条件は20〜200kg/cm2程度であることが好ましく、加圧の際の温度条件は室温〜150℃程度であることが好ましい。形成される成形物の厚さは、製造する印刷原版のサイズ、性質などにより適宜決定すれば良く、特に限定されないが、通常は0.1〜10mm程度である。
【0031】
次いで、成形した樹脂組成物に光を照射して樹脂組成物中の(B)光重合性化合物を重合架橋させ、これにより成形物を硬化させて印刷原版とする。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等が挙げられ、その他公知の方法で硬化を行うことができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0032】
かくして得られた印刷原版は、レーザー彫刻装置の版装着ドラムの表面に取付けられ、像に従ったレーザー照射により照射部分の原版が分解されて凹部分を形成し、印刷版が製造される。本発明の印刷原版は、疎水性重合体が微粒子状で存在しているので、レーザー照射により生ずる樹脂カスが版面に付着しにくく、樹脂カスの付着による印刷不良や解像度の低下が効果的に防止される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
特性は以下の方法により測定した
・ 微粒子の平均粒径、面積比率
印刷原版(厚さ1.7mm)を紫外線露光機(A&V製、ランプはフィリップス10Rを設置、照度9mW/cm)で裏表10分ずつ露光し、感光性樹脂組成物を光架橋させた。その後、カバーフィルムと粘着防止層を剥離し、硬化した感光層をウルトラミクロト-ムを用いて凍結状態で薄切片化し、乾燥後、走査型プローブ顕微鏡SPMを用いて、切片表面、すなわち内部構造を評価した。SPMはSPA300(Seiko Instruments社製,SPI3800Nシステム)を使用した。測定モードはDFMモードとし、カンチレバーはDF3を使用した。DFMモードによる形態観察と同時に位相像観察を行なった。これをイメージアナライザーV20(東洋紡績(株)製画像処理装置)を用い、位相差像をTOKS法自動二値化により、粒子部分を白色、その他を黒色とし、白色部分の円相当直径を求めて、平均粒径及び面積比率を求めた。
(2)架橋度
厚さ100μmのPETフィルム上にラッテクス溶液を3g正確に計算し、100℃で1時間乾燥させた後、25℃のトルエン溶液に48時間浸漬し、110℃で2時間乾燥させ、不可溶分の質量%を計算することによって測定した。
【0035】
実施例1
(A)ラテックスとしてスチレンーブタジエンラテックス(日本エイアンドエル製ナルスターSR−101:架橋度95%、平均粒子径0.13μm、不揮発分46%)90質量部、(B)光重合性化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(分子量約2700)16質量部、単官能メタクリレート10質量部、3官能メタクリレート2質量部、(C)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、可塑剤として液状ブタジエンゴム(分子量約2,000)10質量部、親水性重合体として共栄社化学(株)製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の化合物、不揮発分25%)10質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンと水を減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。
【0036】
次に、得られた樹脂組成物を厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリエステル系接着層をコーティングしたフィルムと、同じポリエチレンテレフタレートフィルム上に粘着防止層(ポリビニルアルコール)をコーティングしたフィルムで(接着層、粘着防止層が樹脂組成物と接触するように)挟み、ヒートプレス機で105℃、100kg/cm2の圧力で1分間加圧することにより、厚さ1.7mmのシート状成形物を得た。次に、このシート状成形物を紫外線露光機(光源:フィリップス社製10R)により表裏10分露光し、架橋硬化させて印刷原版を作製した。
【0037】
実施例2
(A)ラテックスとしてスチレンーブタジエンラテックス(日本エイアンドエル製ナルスターSR−101:架橋度95%、平均粒子径0.13μm、不揮発分46%)27質量部、(B)光重合性化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(分子量約2700)23質量部、単官能メタクリレート10質量部、3官能メタクリレート2質量部、(C)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、可塑剤として液状ブタジエンゴム(分子量約2,000)10質量部、親水性重合体として共栄社化学(株)製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の化合物、不揮発分25%)10質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンと水を減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0038】
実施例3
(A)ラテックスとしてニトリルーブタジエンラテックス(日本エイアンドエル製サイアテックスNA−105S:架橋度35%、平均粒子径0.16μm、不揮発分50%)100質量部、(B)光重合性化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(分子量約2700)15質量部、単官能メタクリレート10質量部、3官能メタクリレート5質量部、(C)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、可塑剤として液状ブタジエンゴム(分子量約2,000)6質量部、親水性重合体として共栄社化学(株)製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の化合物、不揮発分25%)10質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンと水を減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0039】
実施例4
(A)ラテックスとしてメチルメタクリレートーブタジエンラテックス(日本エイアンドエル製ナルスターMR−170:架橋度100%、平均粒子径0.15μm、不揮発分45%)180質量部、(B)光重合性化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(分子量約2700)30質量部、単官能メタクリレート5質量部、3官能メタクリレート3質量部、(C)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、親水性重合体として共栄社化学(株)製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の化合物、不揮発分25%)10質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンと水を減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0040】
実施例5
(A)ラテックスとしてスチレンーブタジエンラテックス(JSR製S2990S:架橋度80%、平均粒子径0.70μm、不揮発分69%)73質量部、(B)光重合性化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(分子量約2700)15質量部、単官能メタクリレート10質量部、3官能メタクリレート5質量部、(C)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、可塑剤として液状ブタジエンゴム(分子量約2,000)6質量部、親水性重合体として共栄社化学(株)製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の化合物、不揮発分25%)10質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンと水を減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0041】
比較例1
(A)ラテックスの代わりにブタジエンゴム(日本合成ゴム製BR02:架橋度0%、ムーニー粘度100℃:43)30質量部、ニトリルーブタジエンゴム(日本合成ゴム製N220SH:架橋度0%、ムーニー粘度100℃:80)32質量部、(B)光重合性化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(分子量約2700)25質量部、単官能メタクリレート4質量部、3官能メタクリレート4質量部、(C)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、親水性重合体として共栄社化学(株)製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の化合物、不揮発分25%)17質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン60質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンを減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0042】
比較例2
(A)ラテックスの代わりにブタジエンゴム(日本合成ゴム製BR02:架橋度0%、ムーニー粘度100℃:43)25質量部、ニトリルーブタジエンゴム(日本合成ゴム製N220SH:架橋度0%、ムーニー粘度100℃:80)32質量部、(B)光重合性化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(分子量約2700)35質量部、単官能メタクリレート4質量部、3官能メタクリレート2質量部、(C)光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、無機微粒子としてシリカ(平均一次粒子径0.017μm)20質量部、親水性重合体として共栄社化学(株)製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の化合物、不揮発分25%)17質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン60質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンを減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0043】
比較例3
(A)ラテックスの代わりにスチレン−ブタジエンゴム(日本合成ゴム製SL552:架橋度0%、ムーニー粘度100℃:55)100質量部、1,6ヘキサンジオールジアクリレート20質量部、ベンジルジメチルケタール1質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部をトルエン60質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンを減圧除去することにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして印刷原版を作製した。
【0044】
次に、実施例1〜5及び比較例1〜3で作製した印刷原版をレーザー彫刻装置の版装着ドラムに両面テープで巻き付け、下記の条件でレーザー彫刻を行った。レーザー彫刻開始と同時に、レーザーガン近傍に設置されている集塵機を作動させ、連続的に彫刻した樹脂カスを装置外に排出させた。レーザー彫刻後、装着ドラムから取り外した版を水現像版専用洗出し機(東洋紡績製CRS600で現像液は1%洗濯石鹸水溶液、水温は40℃)で3分間水洗いして、版表面に付着した少量の樹脂カスを除去し、乾燥して印刷版を得た。
【0045】
レーザー彫刻装置はLuescher Flexo社製の300W炭酸ガスレーザーを搭載したFlexPose ! directを用いた。本装置の仕様はレーザー波長10.6μm、ビーム直径30μm、版装着ドラム直径は300mm、加工速度は1.5時間/0.5m2であった。レーザー彫刻の条件は、以下のとおりである。なお、(1)〜(3)は装置固有の条件である。(4)〜(7)は任意に条件設定が可能であり、それぞれの条件は本装置の標準条件を採用した。
(1)解像度:2540dpi
(2)レーザーピッチ:10μm
(3)ドラム回転数:982cm/秒
(4)トップパワー:9%
(5)ボトムパワー:100%
(6)ショルダー幅:0.30mm
(7)レリーフ深度:0.60mm
(8)評価画像:150lpi、0〜100%まで1%刻みの網点
【0046】
得られた印刷版について以下の評価項目を調査した。
(1)印刷版表面への樹脂カスの付着具合
10倍の拡大ルーペを使用して、印刷版表面への樹脂カスの付着具合を目視により検査し、◎:ほとんど付着なし、○:少し付着あり、△:かなり付着あり、×:付着激しいの4段階で示した。
(2)150lpi最小網点再現性
10倍の拡大ルーペを使用して、150lpi最小網点再現性を測定した。
(3)150lpi、10%網点深度
超深度カラー3D形状測定顕微鏡(キーエンス社製VK−9510)を使用して、150lpi、10%網点深度を測定した。
(4)印刷可能枚数
フレキソ印刷機を用いて印刷を実施した。評価は、ハイライト部からシャドー部のいずれも両立できる印刷枚数で評価した。
○:10000枚以上 、△:5000〜10000枚、×:5000枚以下
評価結果を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の評価結果から疎水性重合体が微粒子状で存在している実施例1〜5では、印刷版表面への樹脂カスの付着が少なく、微小網点の再現性に優れ、網点深度が深い印刷版が得られていることがわかる。これに対し、疎水性重合体が微粒子状で存在していない比較例1〜3では、印刷版の表面に多量の樹脂カスが付着されたまま残っており、微小網点の再現性及び網点深度も実施例1〜5と比べて著しく劣る。また、エラストマーとしてゴムを用いかつ無機微粒子を配合した比較例2では、樹脂カスの付着量が比較例1,3より若干低下し、微小網点の再現性及び網点深度も若干改善されているものの、実施例1〜5には依然として及ばない。以上の結果から、本発明の印刷原版を使用すればレーザー照射により生ずる樹脂カスの付着を効果的に抑制することができ、解像度に優れた印刷版を製造することができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の印刷原版は、レーザー照射により生ずる樹脂カスが版表面に付着したまま残ることがほとんどないので、特にフレキソ印刷の分野においてのレーザー彫刻用の印刷原版として好適に使用されることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水分散ラッテクスから得られる疎水性重合体(B)光重合性化合物(C)光重合開始剤を含有した感光性樹脂組成物であって、該感光性樹脂組成物を光架橋させた後、前記(A)成分である疎水性重合体が、平均粒径0.03μm〜2μmの微粒子状で存在していることを特徴とする、レーザー彫刻可能な印刷原版。
【請求項2】
光架橋させた後の感光性樹脂組成物において、粒径が0.03μm〜3μmの微粒子の占める面積比率が20%〜80%であることを特徴とする請求項1記載の印刷原版。
【請求項3】
(A)成分である水分散ラッテクスから得られる疎水性重合体のうち、少なくとも1種は40%以上の架橋度を有する疎水性重合体であることを特徴とする請求項1〜2に記載の印刷原版。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の印刷原版がシート状又は円筒状であることを特徴とするレーザー彫刻可能な印刷原版。


【公開番号】特開2008−246913(P2008−246913A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92321(P2007−92321)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】