説明

レーザー彫刻可能な印刷基材用感光性樹脂組成物

【課題】表面処理工程において発生する粘着性カスの除去が容易なレーザー彫刻可能な感光性樹脂組成物の提供。
【解決手段】数平均分子量が1000以上20万以下の重合性不飽和基を有する樹脂(a)、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有する有機化合物(b)、及び分子内に少なくとも1つのSi−O結合を有し、かつ、分子内に重合性不飽和基を有しない有機ケイ素化合物(c)を含有する、レーザー彫刻可能な印刷基材用感光性樹脂組成物であって、該有機ケイ素化合物(c)の含有率が、該感光性樹脂組成物全体に対し0.1重量%以上10重量%以下である上記感光性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻によるフレキソ印刷版用、レタープレス印刷版用又はスクリーン印刷用レリーフ画像の作成、エンボス加工等の表面加工用パターンの形成、タイル等の印刷用レリーフ画像の形成、電子部品の導体、半導体、絶縁体、パターン形成、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線カットフィルター等の機能性材料のパターンの形成、更には液晶ディスプレイ又は有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止材層の塗膜・パターン形成、あるいは、パターンを形成しないインキ転写用ブランケット又はアニロックスロールに接して使用されるインキ量調整用ロールに適した、印刷基材用感光性樹脂組成物及びレーザー彫刻可能な印刷基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルムなどの包装材、壁紙、化粧板などの建装材、ラベル印刷などに用いられるフレキソ印刷は各種の印刷方式の中でその比重を高めている。これに用いる印刷版の製作には、通常、感光性樹脂が用いられることが多い。例えば液状の感光性樹脂、又はシート状に成形された固体の感光性樹脂板を用い、フォトマスクを該感光性樹脂上に置き、マスクを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、非架橋部分を現像液で洗い落とすという方法が用いられてきた。近年、感光性樹脂表面にブラックレーヤーという薄い光吸収層を設け、これにレーザー光を照射し感光性樹脂板上に直接マスク画像を形成後、そのマスクを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、光の非照射部分の非架橋部分を現像液で洗い落とす、いわゆるフレキソCTP(Computer to Plate)技術が開発され、印刷版製作の効率改善の効果から、その採用が進みつつある。しかしながら、この技術の効率改善効果も限られたものであり、現像工程が不可欠であるなどの課題が残っており、レーザーを使って直接印刷原版上にレリーフ画像を形成し、しかも現像が不要であるような技術の開発が求められている。
【0003】
そのための方法として直接レーザーで印刷原版を彫刻する方法が挙げられる。この方法で凸版印刷版やスタンプを作成することは既に行われており、それに用いられる材料としてEPDM等の合成ゴムやシリコーンを加熱・加硫したものが既に使用されている。しかし、これらの材料は必要な機械物性を発現させるための加熱・加硫に時間がかかり、さらに物性が安定するまでの養生が必要など、製造に時間がかかるのみならず、前者の合成ゴム等を原料とするものはレーザー彫刻を行った際に彫刻カスが版面に固着しこれを除去するのが非常に難しいという欠点があり、また、後者のシリコーンを原料とする材料はレーザー彫刻の速度が遅く版の作成に時間がかかることや溶剤系インキに対する耐性が低いなどの欠点がある。
【0004】
上記材料の欠点を克服する方法として感光性樹脂組成物を光硬化させて得られた感光性樹脂硬化物にレーザー光を照射して表面に凹凸パターンを形成するレーザー彫刻フレキソ印刷版の製造方法が提案されている。
例えば、特許文献1(日本国特許第2846954号公報(米国特許第5798202号))、及び特許文献2(日本国特許第2846955号公報(米国特許第5804353号))には、SBS、SIS、SEBS等の熱可塑性エラストマーを機械的、光化学的、熱化学的に強化した材料を用いることが開示されている。
また、特許文献3(特開昭56−64823号公報)には液状の感光性樹脂を光硬化させたロール状材料を用いることが開示されている。さらに本発明者らは特許文献4(WO03−022594号パンフレット)に、20℃においてプラストマーである高分子成分を含有する液状感光性樹脂組成物を用いたレーザー彫刻印刷原版を提案しており、無機多孔質体を共存させてレーザーの発生する液状のデブリの発生を抑制し、版面のタックを低減したり、光学系の汚染を防止する改良を可能にする方法を提案している。
【0005】
更に、近年、連続調の図柄の印刷に対する要求も拡大しつつあり、この用途においては、継ぎ目の無いシームレススリーブ等の円筒状印刷基材において、レーザー彫刻し易く、高品位の印刷が可能な印刷基材の開発が強く求められるようになってきた。
先に述べたように感光性樹脂硬化物を用いるレーザー彫刻原版は加硫された合成ゴムやシリコーンゴムに比べてレーザー彫刻性が良好なため、画像のエッジがシャープになり微細なパターンの形成が可能になり、高品位の印刷に対応できるという期待はあるが、それだけでは不充分であった。その前提として印刷版の版厚精度を確保することがきわめて重要であり、印刷品質は、レーザー彫刻工程以前の版の膜厚精度に大きく依存することになる。レーザー彫刻可能な印刷基材の場合、光硬化工程を経て得られる感光性樹脂硬化物表面を切削、研削、研磨等の表面加工を行うことにより高い膜厚精度を確保することが可能である。特に、シームレススリーブ等の円筒状印刷基材の場合には、レーザー彫刻法によりパターンを形成後に直ちに印刷機に設置して印刷することが可能であるため、この版厚精度の確保は、レーザー彫刻可能な印刷基材を作製するプロセス上、極めて重要な工程である。もちろん、版厚精度は板状の印刷版を印刷機のシリンダーに巻きつけて印刷を行う場合でも重要であり、シート状のレーザー彫刻用原版においても同様である。
【0006】
特許文献1(日本国特許第2846954号公報(米国特許第5798202号))、及び特許文献2(日本国特許第2846955号公報(米国特許第5804353号))では、シート状に成形した感光性樹脂組成物を円筒状に巻き付け、接合部を溶融させて融着させることによりシームレス化する方法の記載がある。また、融着させた部位を研磨することも可能であるという記載もある。また、本発明者らは特許文献5(PCT/JP2004/005839号)において液状の感光性樹脂を用いてシームレスな円筒状印刷基材を製造する方法を提案しており、光により硬化した後に切削、研削、研磨等の表面加工を行うことを提案している。
本発明者らは前出の従来の感光性樹脂組成物を用いて、切削、研削、研磨等の表面加工プロセスを更に詳細に検討したが、これらのプロセスで発生する粘着性カスが、表面に付着し、付着した粘着性カスが除去し難いために、表面に切削、研磨痕が残ることがあり、得られる表面の加工精度が不十分となって、特に高精細な印刷を行う際に印刷品質に問題が生じることが判った。また、前記粘着性カスは切削バイト又は研削ホイール表面に付着し、場合によっては絡まりついたりする。これらの問題を回避するためには、切削バイト又は研削ホイールに粘着性カスが絡まりついた際に、作業を止めて付着したカスを清掃、除去する等、慎重に加工を行うことが必要となるために加工に要する時間が多大なものになることが判明した。
【0007】
他方、上記特許文献3及び5で本発明者らが提案した20℃において液状感光性樹脂組成物を用いる方法は、液状という特徴から、成型しやすくブレードを用いた塗布などの簡便な方法でシート状にもまたスリーブ状にも適応できる点で非常に優れた方法であるが、硬化前の樹脂を液状化するための樹脂設計の制約上、硬化後にレーザーで彫刻した印刷版は、形成されたレリーフパターン間部分にインキが残存し、印刷品質を低下させる「インキ絡み」が起きやすいという問題があることが新たに判明した。
【0008】
一方、レーザー彫刻可能な印刷基材に係る技術ではないが、印刷用の感光性樹脂版の表面性を改良する従来技術としては幾つか提案がある。例えば、特許文献6(特開平6−186740号公報)には、写真製版技術を用いて表面に凹凸パターンを形成する水性現像可能な印刷基材に関する記載があり、感光性樹脂中にその樹脂と共重合する重合性不飽和基を有するシリコーン化合物を添加する記載がある。前記シリコーン化合物を添加する効果として、形成されたレリーフパターン間部分への乾燥インキや紙粉の付着を抑制することが挙げられている。しかしながら、この特許文献6は、写真製版技術を用いた印刷版の製造に関するものであって、レーザー彫刻可能な印刷基材に関するものではない。この特許文献で用いられている印刷版の表面の濡れ性制御を目的として添加するシリコーン化合物が、重合性不飽和基を多数有する場合、架橋点密度が上昇し感光性樹脂硬化物の硬度が増大したり、光硬化収縮率が高くなるという懸念がある。また、本発明者らも、この特許文献6に記載のあるシリコーン化合物を用いて「インキ絡み」の検討を行ったが、該シリコーン化合物は、感光性樹脂硬化物表面に移行し易く、光硬化時に表面に固定化されるので表面が過度に疎水性化されるため、溶剤インキ等で広く使用されるアルコール等の溶剤をはじいてしまい、このことを、高い印刷品質を確保する上での問題点として認識した。
【0009】
また、感光性樹脂を用いたフレキソ印刷版の表面を処理する方法も提案されている。印刷時に版表面に付着するインキが残存し、網点、細字、細線等の微細なパターン間に入り込み除去できず、この残存したインキが印刷物に転写されることにより非画像部にインキ汚れを発生させる現象を抑制することを目的として検討がなされている。この現象は特に長期に渡る印刷、インキを版面に転写させる際に、アニロックスロールと版との間にかかる圧力が高い場合などにおいて発生しやすく、非画像部へのインキ汚れは印刷品質上大きな問題となる。また、このようなインキ汚れが発生した場合、印刷機を止めて版表面を洗浄する必要があり、印刷現場での生産性を大きく低下させてしまう。特許文献7(特開2002−292985号公報)には、シリコーン系化合物やフッ素系化合物の水系エマルジョンと水性樹脂の混合物を塗布する方法が提案されているが、浸透力の低い水系の溶液を塗布するため、版表面のインキ残りの効果は必ずしも十分ではない。効果の持続性に関しても問題を残している。
【0010】
特許文献8(特開昭60−191238号公報)には、感光性樹脂層、耐スクラッチ層及び保護層を有する画像複製材料の記載があり、感光性樹脂層にシリコーンオイルを含有させ該感光性樹脂層の表面にシリコーンオイルを移行させることにより、スクラッチ層を形成することが記載されている。また、特許文献8には用途の1つとして露光、現像工程を経て凹凸パターンを形成する感光性樹脂凸版の記載はあるが、これはレーザー彫刻法を用いてパターンを形成するレーザー彫刻版ではない。添加されているシリコーンオイルは樹脂中から表面へ移行し易い化合物を選択しているため、該シリコーンオイルは樹脂中に固定化されていないことが推定される。したがって、前記画像形成材料を印刷版として使用した場合、使用するインキ中の溶剤により該シリコーンオイルが抽出され、耐スクラッチ効果を長時間維持することは困難であるという問題があった。
このように、感光性樹脂硬化物からなるレーザー彫刻可能な印刷基材の製造工程における切削、研削、研磨等の表面処理工程において発生する粘着性カスの除去に関する問題と、レーザー彫刻可能な印刷基材のレリーフパターン間の「インキ絡み」の問題が大きな2つの課題として本発明者らによって認識された。これら2つの大きな課題を同時に解決できる方法を記載した従来技術は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本国特許第2846954号公報
【特許文献2】日本国特許第2846955号公報
【特許文献3】特開昭56−64823号公報
【特許文献4】WO03−022594号パンフレット
【特許文献5】PCT/JP2004/005839号
【特許文献6】特開平6−186740号公報
【特許文献7】特開2002−292985号公報
【特許文献8】特開昭60−191238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、感光性樹脂硬化物からなるレーザー彫刻可能な印刷基材において、切削、研削、研磨等の表面処理工程において発生する粘着性カスの除去が容易であり、かつ、印刷基材のインキ汚れ抑制、耐磨耗性向上、表面タック抑制にも効果があるレーザー彫刻可能な印刷基材作製に適した感光性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、分子内に少なくとも1つのSi−O結合を有し、重合性不飽和基を有しない有機ケイ素化合物(c)を、感光性樹脂組成物に、該感光性樹脂組成物全体に対し0.1重量%以上10重量%以下の量で添加すると、該感光性樹脂組成物を光架橋硬化させて得られた硬化物は、表面のタック及び表面摩擦抵抗が低下し、耐磨耗性が飛躍的に向上し、更に印刷時の版表面へのインキ残りが抑制される、という驚くべき効果を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は下記の通りである。
【0014】
1. 数平均分子量が1000以上20万以下の重合性不飽和基を有する樹脂(a)、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有する有機化合物(b)、及び分子内に少なくとも1つのSi−O結合を有し、かつ、分子内に重合性不飽和基を有しない有機ケイ素化合物(c)を含有する、レーザー彫刻可能な印刷基材用感光性樹脂組成物であって、該有機ケイ素化合物(c)の含有率が、該感光性樹脂組成物全体に対し0.1重量%以上10重量%以下である上記感光性樹脂組成物。
2. 前記有機ケイ素化合物(c)が、100以上10万以下の数平均分子量を有し、かつ20℃において液状である上記1.に記載の感光性樹脂組成物。
3. 前記有機ケイ素化合物(c)が、下記平均組成式(1)で表されるシリコーン化合物を含む上記1.に記載の感光性樹脂組成物。
prsSiO(4-p-r-s)/2 (1)
(式中、Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、若しくはアリール基で置換された炭素数1〜30(置換前の炭素数)のアルキル基、ハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜30のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基又はその塩を含む1価の基、スルホ基又はその塩を含む1価の基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭化水素基を表し、
Q及びXは、各々、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、若しくはアリール基で置換された炭素数1〜30のアルキル基、ハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜30のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基又はその塩を含む1価の基、スルホ基又はその塩を含む1価の基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭化水素基を表し、
p,r及びsは、
0<p<4、
0≦r<4、
0≦s<4、
及び(p+r+s)<4を満たす数である。)
4. 前記シリコーン化合物が、アリール基、少なくとも1つのアリール基で置換された直鎖状又は分岐状アルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機基を有し、かつ該有機基が直接結合している炭素原子に結合した水素原子(α位水素)を有する化合物を含有する上記3.に記載の感光性樹脂組成物。
5. 前記シリコーン化合物が、メチルスチリル基、スチリル基、及びカルビノール基からなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機基を有する上記4.に記載の感光性樹脂組成物。
6. 前記有機ケイ素化合物(c)が、アリール基、少なくとも1つのアリール基で置換された直鎖状又は分岐状アルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機基を有し、かつ該有機基が直接結合している炭素原子に結合した水素原子(α位水素)を有する化合物を含有する上記1.に記載の感光性樹脂組成物。
7. 更に光重合開始剤を含有し、該光重合開始剤が少なくとも1種類の水素引き抜き型光重合開始剤(d)を含む上記1.に記載の感光性樹脂組成物。
8. 前記光重合開始剤が、少なくとも1種類の水素引き抜き型光重合開始剤(d)及び少なくとも1種類の崩壊型光重合開始剤(e)を含む上記7.に記載の感光性樹脂組成物。
9. 前記水素引き抜き型光重合開始剤(d)が、ベンゾフェノン類、キサンテン類、及びアントラキノン類からなる群から選ばれる少なくとも一種類の化合物を含んでなり、かつ前記崩壊型光重合開始剤(e)が、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アゾ化合物類、有機イオウ化合物類、及びジケトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含んでなる上記8.に記載の感光性樹脂組成物。
10. 前記光重合開始剤が、同一分子内に水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位の両方を有する化合物を含有する上記7.又は8.に記載の感光性組成物。
11. 前記樹脂(a)が20℃において液状であり、前記樹脂(a)及び/又は前記有機化合物(b)が分子鎖中に、カーボネート結合、エステル結合、及びエーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1種類の結合を有するか、及び/又は脂肪族飽和炭化水素鎖、及び脂肪族不飽和炭化水素鎖から選ばれる少なくとも1種類の分子鎖を有し、かつウレタン結合を有する化合物である上記1.に記載の感光性樹脂組成物。
12. 感光性樹脂組成物を厚み1mmで塗布してなる層が0%以上70%以下のヘイズ値を有する上記1.に記載の感光性樹脂組成物。
13. 20℃において液状である上記1.に記載の感光性樹脂組成物。
14. 感光性樹脂組成物を光硬化させて得られるレーザー彫刻可能な印刷基材であって、該印刷基材がその内部及び/又は表面に有機ケイ素化合物を含有し、該有機ケイ素化合物の検出及び定量が、固体29SiNMR(観測核が原子量29のSiである固体用核磁気共鳴スペクトル)測定法とプラズマ発光分析法を組み合わせて実施された場合に、有機ケイ素化合物由来のSi原子が0.01重量%以上10重量%以下の存在比率で含有されている上記印刷基材。
15. 1.に記載の感光性樹脂組成物を、シート状又は円筒状に成形した後、光を照射することにより架橋硬化せしめて得られ得るレーザー彫刻可能な印刷基材。
16. 光照射により架橋硬化した後に、更に、表面を切削加工、研削加工、研磨加工、及びブラスト加工からなる群から選択される少なくとも1種類の加工を施されている上記14.又は15.に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。
17. エラストマー層が、常温で液状の感光性樹脂組成物を硬化して形成されている上記16.に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。
18. 積層体の最表面層が、近赤外線レーザーを用いて彫刻できる層である上記16.に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。
19. レーザー彫刻可能な印刷基材の表面が、該表面に、表面エネルギー30mN/mの指示液(和光純薬工業社製、「ぬれ張力試験用混合液No.30.0」(商標))の、定量固定タイプのマイクロピペットを用いて採取した20μリットルを滴下し、30秒後に前記液滴が広がった部分の最大径を測定した場合に、該液滴の径が4mm以上20mm以下である濡れ特性を有する、感光性樹脂硬化物を含んでなるレーザー彫刻可能な印刷基材。
20. 印刷基材が、レーザー彫刻法を用いてパターンが形成されるフレキソ印刷用原版若しくはレタープレス印刷原版若しくはスクリーン印刷用原版、又は、パターンを形成しないインキ転写用ブランケット若しくはアニロックスロールに接して使用されるインキ量調整用ロールである上記14.から20.のいずれか一項に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、感光性樹脂硬化物からなるレーザー彫刻可能な印刷基材において、切削、研削、研磨等の表面処理工程において発生する粘着性カスの除去が容易であり、かつ、印刷基材のインキ汚れ抑制、耐磨耗性向上、表面タック抑制にも効果があるレーザー彫刻可能な印刷基材作製に適した感光性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1における印刷評価後の版表面の写真。
【図2】本発明の比較例1における印刷評価後の版表面の写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、さらに詳細に本発明の好ましい実施態様を説明する。
本発明で用いる有機ケイ素化合物(c)とは、ケイ素原子に少なくとも1つの有機系の官能基を有する化合物であると定義する。用いる有機ケイ素化合物(c)は、分子内に少なくとも1つのSi−O結合を有することが好ましい。Si−O−Si結合を有するシロキサン構造やポリシロキサン構造を有するシリコーン化合物が耐侯性、構造安定性、保存安定性の観点から特に好ましい。
また、本発明の有機ケイ素化合物(c)は、分子内に重合性不飽和基を有しない化合物であることが好ましい。本発明において「重合性不飽和基」とは、ラジカル又は付加重合反応に関与する重合性不飽和基であると定義する。ラジカル重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、ビニル基、アセチレン基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。付加重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、シンナモイル基、チオール基、アジド基、開環付加反応するエポキシ基、オキセタン基、環状エステル基、ジオキシラン基、スピロオルトカーボネート基、スピロオルトエステル基、ビシクロオルトエステル基、環状イミノエーテル基等が挙げられる。
【0018】
本発明において好ましいシリコーン化合物としては、例えば下記一般式(2)、(3)、(4)又は(5)で表されるシリコーン結合の少なくとも1種の構造を含む1種類以上のシリコーン化合物を挙げることができる。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0019】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、若しくはアリール基で置換された炭素数1〜30(置換前の炭素数)のアルキル基、ハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜30のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基又はその塩を含む1価の基、スルホ基又はその塩を含む1価の基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭化水素基である。)
【0020】
前記シリコーン化合物は、下記平均組成式(1)で表される。
prsSiO(4-p-r-s)/2 (1)
(式中、Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、若しくはアリール基で置換された炭素数1〜30(好ましくは2〜30)(置換前の炭素数)のアルキル基、ハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜30のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基又はその塩を含む1価の基、スルホ基又はその塩を含む1価の基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭化水素基を表す。
【0021】
Q及びXは、各々、水素、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、若しくはアリール基で置換された炭素数1〜30(置換前の炭素数)のアルキル基、ハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜30のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基又はその塩を含む1価の基、スルホ基又はその塩を含む1価の基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭化水素基を表し、
p、r及びsは、
0<p<4、
0≦r<4、
0≦s<4、
及び(p+r+s)<4を満たす数である。)
【0022】
特に前記シリコーン化合物の分子構造を限定するものではないが、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン等のポリアルキルシロキサンを主鎖に有する化合物を好ましい化合物として挙げることができる。また、ポリシロキサン構造を分子の一部に有する化合物であっても構わない。更に、ポリシロキサン構造に特定の有機基を導入した化合物を用いることができる。具体的には、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入した化合物、ポリシロキサンの両末端に有機基を導入した化合物、ポリシロキサンの片末端に有機基を導入した化合物、ポリシロキサンの側鎖と末端の両方に有機基を導入した化合物などを用いることができる。ポリシロキサン構造に導入する有機基の具体例としては、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、アリール基、アルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、少なくとも1つのアリール基で置換された直鎖状又は分岐状アルキル基、ポリオキシアルキレン基などを挙げることがでる。ここで、アリール基の好ましい例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基、フェナントリル基等を挙げることができる。また、アリール基で置換された直鎖状又は分岐状アルキル基、例えばメチルスチリル基、スチリル基などが好ましい。更に、アリール基の芳香族炭素に結合した水素原子を別の官能基で置換した有機基を用いることもできる。また、これらの有機基に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換したものを用いることもできる。
【0023】
本発明で用いる有機ケイ素化合物(c)として、フェニル基、メチルスチリル基、スチリル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、ポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機基を有し、当該有機基が直接結合する炭素原子に結合する水素原子を有する化合物、すなわち、直鎖化合物のα位炭素に結合している水素原子(以後、α位水素と略す)を有する化合物が特に好ましい。これらの化合物は感光性樹脂組成物中に添加剤として加えられるものである。これらの化合物を用いて光架橋硬化させると、得られる硬化物から、印刷工程で用いるインキ中に抽出される成分の量が極めて少なく、また、版表面のインキ残りに対する抑制効果、更に版表面の摩擦抵抗を低下させる硬化の持続性が極めて高い。理由は明確になっていないが、これらの化合物を添加した感光性樹脂組成物を、光重合反応させて得られる硬化物を溶剤に浸漬した場合に、浸漬前後の重量変化が少ないという現象が見られる。これは、印刷時に用いるインキ中に溶出する成分が少ないことを意味し、印刷工程を繰り返し実施した場合に、版の機械的物性変化及び印刷特性変化を少なくすることができ、実用特性上極めて重要である。この現象は、α位水素を有する化合物が光重合反応過程で何らかの反応に寄与し、硬化物中に化学結合により取り込まれているためではないかと本発明者らは推定している。
【0024】
本発明の有機ケイ素化合物(c)として、感光性樹脂組成物に混合する際に、白濁しないもの又は白濁の程度が低いものが好ましい。白濁の度合いを判定する指標として、ヘイズメーターを用いて測定したヘイズ値がある。ヘイズ値の範囲は、好ましくは0%以上70%以下、より好ましくは0%以上50%以下、更に好ましくは0%以上40%以下である。
本発明の有機ケイ素化合物(c)として、通常入手可能な市販品、例えば信越化学工業社製、旭化成ワッカーシリコーン社製、GE東芝シリコーン社製、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製の各種有機基置換シリコーンオイルを用いることもできる。例えば、信越化学工業社製、商標名「KF−410」(メチルスチリル変性シリコーンオイル)、商標名「X−22−160AS」(カルビノール変性シリコーンオイル)、商標名「X−22−715」(エステル変性シリコーンオイル)、商標名「KF−412」(アルキル変性シリコーンオイル)等を有用な化合物の例として挙げることができる。
【0025】
本発明の有機ケイ素化合物(c)の添加量の範囲は、感光性樹脂組成物全体に対し好ましくは0.1重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.3重量%以上5重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。0.1重量%以上の添加量であれば、感光性樹脂組成物の光硬化物表面のタック、表面摩擦抵抗値を低く抑えることができ、更に印刷時のインキ絡み性を抑制する効果がある。また、添加量が10重量%以下であれば、印刷時のインキをはじく現象も見られず、良好な印刷物を得ることができる。また、円筒状に感光性樹脂組成物を塗布し、その後光硬化させ、表面の微妙な凹凸を除去し、平滑な表面を得るために切削整形する場合、用いるバイト刃の消耗が極めて少なく刃の寿命を延命させることができるなど、切削性を大幅に改善することができる。更に、添加量が10重量%以下であれば、該感光性樹脂組成物の光硬化物であるレーザー彫刻可能な印刷基材をレーザー彫刻する際に、彫刻速度を低下させることなく版表面にパターンを形成することができる。
【0026】
本発明の有機ケイ素化合物(c)の数平均分子量は、好ましくは100以上10万以下、より好ましくは300以上1万以下、更に好ましくは500以上5000以下である。数平均分子量が100以上であれば、感光性樹脂組成物の光硬化物の内部からインキへの抽出量又は版洗浄に用いる溶剤への抽出量を低く抑えることができる。また、数平均分子量が10万以下であれば、感光性樹脂組成物を構成するその他の成分との混合性が良好である。特に20℃において液状である化合物が好ましい。
有機ケイ素化合物(c)の数平均分子量(Mn)の測定方法について説明する。有機ケイ素化合物(c)を溶剤に溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)で分析し、分子量既知の標準ポリスチレンに対して換算して数平均分子量(Mn)を算出する。分子量分布の広い化合物については、この方法で数平均分子量を求める。分子量分布に関する尺度として、数平均分子量(Mn)と、Mnと同時に算出される重量平均分子量(Mw)の比、すなわち多分散度(Mw/Mn)を用いる。多分散度が1.1以上である場合、分子量分布が広いと判定して、GPC法で求められる数平均分子量を採用する。また、多分散度が1.1未満のものは分子量分布が極めて狭いため、分子構造解析が可能であり、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)又は質量分析法を用いて算出した分子量を数平均分子量とする。
【0027】
また、本発明で用いる有機ケイ素化合物(c)の屈折率は、25℃においてアッベ屈折計を用いて測定した値において、好ましくは1.400以上1.590以下、より好ましくは1.430以上1.490以下である。この範囲であれば、感光性樹脂組成物を構成する他の成分と極端に白濁をひきおこすことなく混合して、光硬化性を確保することができ、更には光硬化物の機械的物性を確保することができる。フォトリソグラフィーを用いて露光、現像し微細なパターンを形成する感光性樹脂版と異なり、レーザー彫刻可能な印刷基材を作製する過程では、微細なパターンを形成する必要がない。微細パターンを形成するのはレーザー彫刻工程においてである。一般的に感光性樹脂では、濁り等による光散乱の少ない均一な組成が、微細パターンの形成に好ましいと言われるのに対し、レーザー彫刻可能な印刷基材は、一定版厚での硬化特性のみが重要であり、多少濁りが存在し光散乱する組成であっても硬化により作製することができる。そのため、感光性樹脂組成物を原料としてレーザー彫刻可能な印刷基材を形成する場合、用いることのできる化合物の選択自由度が極めて高いという大きな特徴がある。本発明で用いる有機ケイ素化合物(c)の屈折率が、感光性樹脂組成物における該有機ケイ素化合物(c)以外の成分の屈折率と大きく異なる場合には、著しく白濁することがある。したがって、感光性樹脂組成物中の有機ケイ素化合物(c)の屈折率と、その他成分の屈折率との差の目安としては、好ましくは±0.1以下、より好ましくは±0.05以下である。
【0028】
本発明の有機ケイ素化合物(c)は、分子内に重合性不飽和基を有しないものが好ましい。しかし、溶剤系インキが表面に付着しない用途、例えばレーザー彫刻可能なエンボス加工用シート又はロール等の用途においては、分子内中の重合性不飽和基が少ないもの、具体的には2以下のものであって、数平均分子量が比較的大きな、具体的には1000以上のものは、アルコール等をはじくこと、光硬化収縮が大きな問題とならないことから、前記のような重合性不飽和基を有する化合物を用いることも可能である。
本発明の樹脂(a)は、数平均分子量が1000以上20万以下の重合性不飽和基を有することが好ましい。樹脂(a)の数平均分子量の、より好ましい範囲は2000以上10万以下、更に好ましい範囲は5000以上5万以下である。樹脂(a)の数平均分子量が1000以上であれば、後に架橋して作製する印刷原版が強度を保ち、この原版から作製したレリーフ画像は強く、印刷版などとして用いる場合、繰り返しの使用にも耐えられる。また、樹脂(a)の数平均分子量が20万以下であれば、感光性樹脂組成物の成形加工時の粘度が過度に上昇することもなく、シート状又は円筒状のレーザー彫刻印刷原版を作製することができる。ここで言う数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0029】
本発明の「重合性不飽和基」の定義は、有機ケイ素化合物(c)の箇所で記載した通り、ラジカル又は付加重合反応に関与する重合性不飽和基である。特に好ましい樹脂(a)として1分子あたり平均で0.7以上の重合性不飽和基を有するポリマーを挙げることができる。1分子あたり平均で0.7以上であれば、本発明の樹脂組成物から得られる印刷原版は機械強度に優れ、レーザー彫刻時にレリーフ形状が崩れ難くなる。さらにその耐久性も良好で、繰り返しの使用にも耐えらるのものとなり好ましい。印刷原版の機械強度を考慮すると、樹脂(a)の重合性不飽和基は1分子あたり0.7以上が好ましく、1を超える量が更に好ましい。本発明の樹脂(a)において、重合性不飽和基の位置は、高分子主鎖の末端若しくは高分子側鎖の末端、又は高分子主鎖中若しくは側鎖中に直接結合していることが好ましい。樹脂(a)1分子に含まれる重合性不飽和基の数の平均は、核磁気共鳴スペクトル(NMR法)による分子構造解析で求めることができる。
【0030】
樹脂(a)を製造する方法としては、例えば、重合性の不飽和基をその分子末端に直接導入してもよい。別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、アルコキシカルボニル基などの反応性基を複数有する数千程度の分子量の化合物と、該成分の反応性基と結合しうる基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)とを反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後、この末端結合性基と反応する基と重合性不飽和基を有する有機化合物と反応させて末端に重合性不飽和基を導入する方法などが好適に挙げられる。
【0031】
用いる樹脂(a)としては、液状化し易い樹脂や分解し易い樹脂が好ましい。分解し易い樹脂としては、分子鎖中に分解し易いモノマー単位として、スチレン、α−メチルスチレン、α−メトキシスチレン、アクリルエステル類、メタクリルエステル類、エステル化合物類、エーテル化合物類、ニトロ化合物類、カーボネート化合物類、カルバモイル化合物類、ヘミアセタールエステル化合物類、オキシエチレン化合物類、脂肪族環状化合物類等が含まれていることが好ましい。特にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラエチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート類、脂肪族カルバメート類、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ニトロセルロース、ポリオキシエチレン、ポリノルボルネン、ポリシクロヘキサジエン水添物、又は分岐構造の多いデンドリマー等の分子構造を有するポリマーは、分解し易いものの代表例である。また、分子鎖中に酸素原子を多数含有するポリマーが分解性の観点から好ましい。これらの中でも、カーボネート基、カルバメート基、メタクリル基をポリマー主鎖中に有する化合物は、熱分解性が高く好ましい。例えば、(ポリ)カーボネートジオールや(ポリ)カーボネートジカルボン酸を原料として合成したポリエステルやポリウレタン、(ポリ)カーボネートジアミンを原料として合成したポリアミドなどを熱分解性の良好なポリマーの例として挙げることができる。これらのポリマーは主鎖又は側鎖に重合性不飽和基を含有しているものであっても構わない。特に、末端に水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の反応性官能基を有する場合には、主鎖末端に重合性不飽和基を導入することも容易である。
【0032】
樹脂(a)の例として、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン類等の分子主鎖又は側鎖に重合性不飽和基を有する化合物を挙げることができる。また、重合性不飽和を有しない高分子化合物を出発原料として、置換反応、脱離反応、縮合反応、付加反応等の化学反応により重合性不飽和基を分子内に導入した高分子化合物を挙げることもできる。重合性不飽和基を有しない高分子化合物の例としてポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロオレフィン類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルエーテル等のC−C連鎖高分子の他、ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル類、ポリフェニレンチオエーテル等のポリチオエーテル類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、ポリイミド、ポリジアルキルシロキサン等の高分子化合物、又はこれらの高分子化合物の主鎖にヘテロ原子を有する高分子化合物、複数種のモノマー成分から合成されたランダム共重合体、ブロック共重合体を挙げることができる。更に、分子内に重合性不飽和基を導入した高分子化合物を複数種混合して用いることもできる。
【0033】
特にフレキソ印刷版用途のように柔軟なレリーフ画像が必要な場合には、樹脂(a)として、一部に、好ましくはガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂、更に好ましくはガラス転移温度0℃以下の液状樹脂を用いることが特に好ましい。このような液状樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポリイソプレン等の炭化水素類、アジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン類、(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体の重合体及びこれらの混合物やコポリマー類を用いて合成され、分子内に重合性不飽和基を有する化合物を用いることができる。その含有量は、樹脂(a)全体に対して30重量%以上であることが好ましい。特に耐候性の観点からポリカーボネート構造を有する不飽和ポリウレタン類が好ましい。
ここで言う液状樹脂とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対応する言葉である。
【0034】
樹脂(a)が20℃において液状樹脂である場合は、感光性樹脂組成物も20℃において液状である。この組成物から得られるレリーフ画像作成用原版をシート状又は円筒状に成形すると、良好な厚み精度や寸法精度を得ることができる。本発明の感光性樹脂組成物は、好ましくは、20℃における粘度が10Pa・s以上10kPa・s以下、更に好ましくは、50Pa・s以上5kPa・s以下である。粘度が10Pa・s以上であれば、作製される印刷基材の機械的強度が十分であり、円筒状印刷基材に成形する際であっても形状を保持し易く、加工し易い。粘度が10kPa・s以下であれば、常温でも変形し易く、加工が容易であり、シート状又は円筒状の印刷基材に成形し易く、プロセスも簡便である。特に版厚精度の高い円筒状印刷基材を得るためには、円筒状支持体上に液状感光性樹脂層を形成する際に、該感光性樹脂組成物の粘度は、重力により液ダレ等の現象を起こさないように、好ましくは100Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上、更に好ましくは500Pa・s以上である。また、本発明で用いる感光性樹脂組成物が特に20℃において液状である場合、チキソトロピー性を有することが好ましい。特に円筒状支持体状に感光性樹脂組成物層を形成する際に、重力により液ダレを起こすことなく、所定の厚さを保持できるからである。
【0035】
本発明の有機化合物(b)は、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有した化合物である。樹脂(a)との希釈のし易さから数平均分子量は1000未満が好ましい。重合性不飽和基の定義は、有機ケイ素化合物(c)及び樹脂(a)の箇所でも記載したように、ラジカル又は付加重合反応に関与する重合性不飽和基である。
有機化合物(b)の具体例としては、ラジカル反応性化合物として、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリールアルコール、アリールイソシアネート等のアリール化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。その種類の豊富さ、価格、レーザー光照射時の分解性等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。該誘導体として、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、シクロアルケン基、ビシクロアルケン基などを有する脂環族化合物、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、フルオレン基などを有する芳香族化合物、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、グリシジル基等を有する化合物、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールとのエステル化合物などが挙げられる。
【0036】
また、有機化合物(b)としての、付加重合反応するエポキシ基を有する化合物としては、種々のジオールやトリオールなどのポリオールにエピクロルヒドリンを反応させて得られる化合物、分子中のエチレン結合に過酸を反応させて得られるエポキシ化合物などを挙げることができる。具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物のジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコールアジペート)ジオールジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコールアジペート)ジオールジグリシジルエーテル、ポリ(カプロラクトン)ジオールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物を挙げることができる。
【0037】
本発明において、これら重合性不飽和基を有する有機化合物(b)はその目的に応じて1種又は2種以上のものを選択できる。例えば印刷版として用いる場合、印刷インキの溶剤であるアルコールやエステル等の有機溶剤による膨潤を抑えるために用いる有機化合物として、長鎖脂肪族、脂環族又は芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。
本発明の樹脂組成物から得られる印刷原版の機械強度を高めるためには、有機化合物(b)としては脂環族又は芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。この場合、該誘導体の量は、有機化合物(b)の全体量の、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上である。また、前記芳香族の誘導体として、窒素、硫黄等の元素を有する芳香族化合物であっても構わない。
印刷版の反撥弾性を高めるため例えば特開平7−239548号に記載されているようなメタクリルモノマーを使用するとか、公知の印刷用感光性樹脂の技術知見等を利用して選択することができる。
【0038】
本発明の樹脂(a)及び/又は有機化合物(b)が、分子鎖中にカーボネート結合、エステル結合、エーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1種類の結合を有するか、及び/又は脂肪族飽和炭化水素鎖、及び脂肪族不飽和炭化水素鎖からなる群から選ばれる少なくとも1種類の分子鎖を有し、かつウレタン結合を有する化合物であることが、耐溶剤性を必要とする用途では好ましい。その中でも、カーボネート結合を有する化合物又は脂肪族炭化水素鎖を有する化合物は、溶剤インキで多用されるエステル系溶剤について特に高い耐溶剤性を示す。
本発明の感光性樹脂組成物を光又は電子線の照射により架橋して印刷版などとしての物性を発現させるが、その際に重合開始剤を添加することができる。重合開始剤は一般に使用されているものから選択でき、例えば高分子学会編「高分子データ・ハンドブック−基礎編」1986年培風館発行、に例示されているラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合の開始剤等が使用できる。また、光重合開始剤を用いて光重合により架橋を行うことは、本発明の樹脂組成物の貯蔵安定性を保ちながら、生産性良く印刷原版を生産できる方法として有用であり、その際に用いる開始剤も公知のものが使用できる。ラジカル重合反応を誘起させる光重合開始剤としては、水素引き抜き型光重合開始剤(d)と崩壊型光重合開始剤(e)が、特に効果的な光重合開始剤として用いられる。
【0039】
水素引き抜き型光重合開始剤(d)として、特に限定するものではないが、芳香族ケトンを用いることが好ましい。芳香族ケトンは光励起により効率良く励起三重項状態になり、この励起三重項状態は周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化学反応機構が提案されている。生成したラジカルが光架橋反応に関与するものと考えられる。本発明で用いる水素引き抜き型光重合開始剤(d)として励起三重項状態を経て周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化合物であれば何でも構わない。芳香族ケトンとして、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、キサンテン類、チオキサントン類、アントラキノン類を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾフェノン類とは、ベンゾフェノン及びその誘導体を指し、具体的には3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’−テトラメトキシベンゾフェノン等である。ミヒラーケトン類とはミヒラーケトン及びその誘導体を言う。キサンテン類とはキサンテン及びアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をいう。チオキサントン類とは、チオキサントン及びアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体を指し、エチルチオキサントン、メチルチオキサントン、クロロチオキサントン等を挙げることができる。アントラキノン類とはアントラキノン及びアルキル基、フェニル基、ハロゲン基等で置換された誘導体を言う。水素引き抜き型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の、好ましくは0.1重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.5重量%以上5重量%以下である。添加量がこの範囲であれば、液状感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物表面の硬化性は充分に確保でき、また、耐候性を確保することができる。
【0040】
崩壊型光重合開始剤(e)とは、光吸収後に分子内で開裂反応が発生し活性なラジカルが生成する化合物を指し、特に限定するものではない。具体的には、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類、アセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アゾ化合物類、有機イオウ化合物類、ジケトン類等を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、「感光性高分子」(講談社、1977年出版、頁228)に記載の化合物を挙げることができる。2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン等を挙げることができる。アセトフェノン類としては、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン等を挙げることができる。アシルオキシムエステル類としては、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム等を挙げることができる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等を挙げることができる。有機イオウ化合物としては、芳香族チオール、モノ及びジスルフィド、チウラムスルフィド、ジチオカルバメート、S−アシルジチオカルバメート、チオスルホネート、スルホキシド、スルフェネート、ジチオカルボネート等を挙げることができる。ジケトン類としては、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート等を挙げることができる。崩壊型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の、好ましくは0.1重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.3重量%以上3重量%以下である。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物内部の硬化性は充分に確保できる。
【0041】
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物を、光重合開始剤として用いることもできる。その例として、α−アミノアセトフェノン類を挙げることができる。例えば、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、下記一般式(6)で示される化合物を挙げることができる。
【化5】

(式中、Rは各々独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。また、Xは炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物の添加量は、好ましくは感光性樹脂組成物全体量の0.1重量%以上10重量%以下、より好ましくは0.3重量%以上3重量%以下である。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合であっても、硬化物の機械的物性は充分に確保できる。
また、光を吸収して酸を発生することにより、付加重合反応を誘起させる光重合開始剤を用いることもできる。例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等の光カチオン重合開始剤、又は光を吸収して塩基を発生する重合開始剤などが挙げられる。これらの光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物全体量の0.1重量%以上10重量%以下の範囲が好ましい。
【0042】
本発明の感光性樹脂組成物には無機多孔質体(f)を添加することが好ましい。無機多孔質体(f)とは、粒子中に微小細孔を有するか、又は微小な空隙を有する無機粒子であり、レーザー彫刻において多量に発生する粘稠性の液状カスを吸収除去するための添加剤であり、版面のタック防止効果も有する。本発明の無機多孔質体は粘稠な液状カスの除去を最大の目的として添加するものであり、数平均粒子径、比表面積、平均細孔径、細孔容積、灼熱減量がその性能に大きく影響する。
本発明の無機多孔質体(f)は数平均粒径が0.1〜100μmであることが好ましい。この数平均粒径の範囲より小さいものを用いた場合、本発明の樹脂組成物から得られる原版をレーザーで彫刻する際に粉塵が舞い、彫刻装置を汚染するほか、樹脂(a)及び有機化合物(b)との混合を行う際に粘度の上昇、気泡の巻き込み、粉塵の大量発生等の不都合を生ずる場合がある。他方、上記数平均粒径の範囲より大きなものを用いた場合、レーザー彫刻した際、レリーフ画像に欠損が生じやすく、印刷物の精細さを損ないやすい。より好ましい平均粒子径の範囲は、0.5〜20μmであり、更に好ましい範囲は3〜10μmである。本発明の多孔質無機吸収剤の平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した値である。
【0043】
本発明の無機多孔質体(f)の比表面積の範囲は、好ましくは、10m2/g以上1500m2/g以下、より好ましくは、100m2/g以上800m2/g以下である。比表面積が10m2/g以上である場合、レーザー彫刻時の液状カスの除去が充分となり、また、1500m2/g以下であれば、感光性樹脂組成物の粘度上昇を抑え、また、チキソトロピー性を抑えることができる。本発明の比表面積は、−196℃における窒素の吸着等温線からBET式に基づいて求められる。
本発明の無機多孔質体(f)の平均細孔径は、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収量に極めて大きく影響を及ぼす。平均細孔径は、好ましくは1nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上200nm以下、更に好ましくは2nm以上50nm以下である。平均細孔径が1nm以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収性が確保でき、1000nm以下である場合、粒子の比表面積が大きく液状カスの吸収量を十分に確保できる。平均細孔径が1nm未満の場合、液状カスの吸収量が少ない理由については明確になっていないが、液状カスが粘稠性であるため、ミクロ孔に入り難く吸収量が少ないためではないかと推定している。
本発明において平均細孔径は、窒素吸着法を用いて測定した値である。平均細孔径が2〜50nmのものは特にメソ孔と呼ばれ、メソ孔を有する多孔質粒子が液状カスを吸収する能力が極めて高い。本発明の細孔径分布は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
【0044】
本発明の無機多孔質体(f)の細孔容積は、好ましくは0.1ml/g以上10ml/g以下、より好ましくは0.2ml/g以上5ml/g以下である。細孔容積が0.1ml/g以上の場合、粘稠性液状カスの吸収量は十分であり、また10ml/g以下の場合、粒子の機械的強度を確保することができる。本発明において細孔容積の測定には、窒素吸着法を用いる。本発明の細孔容積は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
本発明において液状カス吸着量を評価する指標として、吸油量がある。これは、無機多孔質体100gが吸収する油の量で定義する。本発明で用いる無機多孔質体の吸油量の好ましい範囲は、10ml/100g以上2000ml/100g以下、より好ましい範囲は50ml/100g以上1000ml/100g以下である。吸油量が10ml/100g以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの除去が十分であり、また2000ml/100g以下であれば、無機多孔質体の機械的強度を十分に確保できる。吸油量の測定は、JIS−K5101に従って行った。
本発明の無機多孔質体(f)は、特に赤外線波長領域のレーザー光照射により変形又は溶融せずに多孔質性を保持することが好ましい。950℃において2時間処理した場合の灼熱減量は、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0045】
本発明の無機多孔質体の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、又は表面に突起のある粒子などを使用することができる。特に耐磨耗性の観点からは、球状粒子が好ましい。また、粒子の内部が空洞になっている粒子、シリカスポンジ等の均一な細孔径を有する球状顆粒体などを使用することも可能である。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。また、層状粘土化合物などのように、層間に数nm〜100nmの空隙が存在するものについては、細孔径を定義できないため、本発明においては層間に存在する空隙の間隔を細孔径と定義する。
更にこれらの細孔あるいは空隙にレーザー光の波長の光を吸収する顔料、染料等の有機色素を取り込ませることもできる。
【0046】
球状粒子を規定する指標として、真球度を定義する。本発明で用いる真球度とは、粒子を投影した場合に投影図形内に完全に入る円の最大径D1の、投影図形が完全に入る円の最小径D2の比(D1/D2)で定義する。真球の場合、真球度は1.0となる。本発明で用いる球状粒子の真球度は、好ましくは0.5以上1.0以下、より好ましくは0.7以上1.0以下である。真球度が0.5以上であれば、印刷版としての耐磨耗性が良好である。真球度1.0は、真球度の上限値である。球状粒子として、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の粒子が、真球度0.5以上であることが望ましい。真球度を測定する方法としては、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真を基に測定する方法を用いることができる。その際、少なくとも100個以上の粒子がモニター画面に入る倍率において写真撮影を行う。また、写真を基に前記D1及びD2を測定するが、写真をスキャナー等のデジタル化する装置を用いて処理し、その後画像解析ソフトウエアーを用いてデータ処理することが好ましい。
また、無機多孔質体の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機化合物で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化あるいは疎水性化した粒子を用いることもできる。
【0047】
本発明において、これらの無機多孔質体(f)は1種類もしくは2種類以上のものを選択でき、無機多孔質体(f)を添加することによりレーザー彫刻時の液状カスの発生抑制、及びレリーフ印刷版のタック防止等の改良が有効に行われる。
本発明の感光性樹脂組成物において、樹脂(a)100重量部に対して、有機化合物(b)は5〜200重量部が好ましく、20〜100重量部の範囲がより好ましい。また、無機多孔質体(c)は1〜100重量部が好ましく、2〜50重量部の範囲がより好ましく、2〜20重量部が更に好ましい。
有機化合物(b)の割合が、上記の範囲より小さい場合、得られる印刷版などの硬度と引張強伸度のバランスがとりにくいなどの不都合を生じやすく、上記の範囲より大きい場合には架橋硬化の際の収縮が大きくなり、厚み精度が悪化する傾向がある。
また、無機多孔質体(f)の量が上記の範囲より小さい場合、樹脂(a)及び有機化合物(b)の種類によっては、レーザー彫刻した際に、彫刻液状カスの発生を抑制するなどの効果が十分発揮されない場合があり、上記の範囲より大きい場合には、印刷版が脆くなりやすい。また、透明性が損なわれる場合があり、また、特にフレキソ版として利用する際には、硬度が高くなりすぎてしまう場合がある。光、特に紫外線を用いて感光性樹脂組成物を硬化させレーザー彫刻可能な印刷基材を作製する場合、光線透過性が硬化反応に影響する。したがって、用いる無機多孔質体の屈折率が感光性樹脂組成物の屈折率に近いものを用いることが好ましい。
感光性樹脂組成物中に無機多孔質体を混合する方法として、熱可塑性樹脂を加熱して流動化させた状態で直接無機多孔質体(f)を添加する方法、又は熱可塑性樹脂と光重合性有機化合物(b)を最初に混錬した中に無機多孔質体(f)を添加する方法のいずれでも構わない。
その他、本発明の樹脂組成物には用途や目的に応じて重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
【0048】
本発明のレーザー彫刻可能な印刷基材は、有機ケイ素化合物(c)を含有する感光性樹脂組成物を光架橋硬化させて形成したものである。したがって、有機化合物(b)の重合性不飽和基同士、又は樹脂(a)の重合性不飽和基と有機化合物(b)の重合性不飽和基が反応することにより3次元架橋構造が形成され、通常用いるエステル系、ケトン系、芳香族系、エーテル系、アルコール系、ハロゲン系溶剤に不溶化する。この反応は、有機化合物(b)同士、樹脂(a)同士、又は樹脂(a)と有機化合物(b)との間で起こり、重合性不飽和基が消費される。また、光重合開始剤を用いて架橋硬化させる場合、光重合開始剤が光により分解されるため、前記架橋硬化物を溶剤で抽出し、GC−MS法(ガスクロマトグラフィーで分離したものを質量分析する方法)、LC−MS法(液体クロマトグラフィーで分離したものを質量分析する方法)、GPC−MS法(ゲル浸透クロマトグラフィーで分離し質量分析する方法)、LC−NMR法(液体クロマトグラフィーで分離したものを核磁気共鳴スペクトルで分析する方法)を用いて解析することにより、未反応の光重合開始剤及び分解生成物を同定することができる。更に、GPC−MS法、LC−MS法、GPC−NMR法を用いることにより、溶剤抽出物中の未反応のポリマー、未反応の有機化合物(b)、及び重合性不飽和基が反応して得られる比較的低分子量の生成物についても溶剤抽出物の分析から同定することができる。3次元架橋構造を形成した溶剤に不溶の高分子量成分については、熱分解GC−MS法を用いることにより、高分子量体を構成する成分として、重合性不飽和基が反応して生成した部位が存在するか、を検証することが可能である。例えば、メタクリレート基、アクリレート基、ビニル基等の重合性不飽和基が反応した部位が存在することを質量分析スペクトルパターンから推定することができる。熱分解GC−MS法とは、試料を加熱分解させ、生成するガス成分をガスクロマトグラフィーで分離した後、質量分析を行う方法である。架橋硬化物中に、未反応の重合性不飽和基又は重合性不飽和基が反応して得られた部位と共に、光重合開始剤に由来する分解生成物や未反応の光重合開始剤が検出されると、感光性樹脂組成物を光架橋硬化させて得られたものであると結論付けることができる。
【0049】
感光性樹脂組成物中又は光架橋硬化物中に存在する有機ケイ素化合物(c)の同定は、上記各種分析方法を駆使することにより可能である。
また、架橋硬化物中に存在する無機多孔質体微粒子の量については、架橋硬化物を空気中で加熱することにより、有機物成分を焼き飛ばし、残渣の重量を測定することにより得ることができる。また、前記残渣中に無機多孔質体微粒子が存在することは、電界放射型高分解能走査型電子顕微鏡での形態観察、レーザー散乱式粒子径分布測定装置での粒子径分布、及び窒素吸着法による細孔容積、細孔径分布、比表面積の測定から同定することができる。
本発明のレーザー彫刻可能な印刷基材は、該印刷基材内部及び/又は表面に有機ケイ素化合物を含有する。有機ケイ素化合物を含有していることは、観測核が原子量29のSiである固体用核磁気共鳴スペクトル(固体29SiNMR)法により同定できる。この方法では、観測されるSi由来のピークの化学シフトから有機ケイ素化合物と無機ケイ素化合物を分離することが可能である。更に、化学シフトの値からSi原子にどのような官能基が付いているかも判別可能である。本発明の有機ケイ素化合物は、固体29SiNMRチャートにおいて−90ppm以上(低磁場側)にピークを有する化合物である。また、本発明における無機ケイ素化合物は、固体29SiNMRチャートにおいて−90ppmよりも高磁場側にピークを有するものである。また、有機ケイ素化合物と無機ケイ素化合物が混在する系の場合、観測されるピークの積分値から、有機ケイ素化合物由来のケイ素と無機ケイ素化合物由来のケイ素の存在比を求めることができる。
【0050】
本発明のレーザー彫刻可能な印刷基材に含有される有機ケイ素化合物由来のケイ素原子の存在比率は、0.01重量%以上10重量%以下であることが好ましい。この範囲であれば、切削、研削、研磨等の表面加工で発生する粘着性カスの除去が容易であり、かつ、印刷基材のインキ汚れ抑制、耐磨耗性向上、表面タック抑制にも効果がある。有機ケイ素化合物由来のケイ素原子の存在比率は、ケイ素原子に着目したプラズマ発光分析法及び前記固体29SiNMR法を用いて定量することができる。有機ケイ素化合物と無機ケイ素化合物が混在する系の場合、プラズマ発光分析法により系内に存在するケイ素の比率を求めることができる。ただし、この方法では、有機ケイ素化合物由来のケイ素と無機ケイ素化合物由来のケイ素を分離することができないので、前述の固体29SiNMR法を組み合わせることにより、有機ケイ素化合物由来のケイ素を分離して定量することが可能となる。したがって、本発明の有機ケイ素化合物由来のケイ素原子存在比率は、プラズマ発光分析法を用いて定量化したサンプル全体重量に対するケイ素原子の重量比をWSi、固体29SiNMR法において得られた有機ケイ素化合物由来のピークの積分値をIorg、無機ケイ素化合物由来のピークの積分値をIinoとした場合に、WSi×(Iorg/(Iorg+Iino))と定義する。ここで、WSiの単位は、重量%である。本発明で用いるプラズマ発光分析法は、極めて濃度の低い元素の定量が可能な有用な方法である。評価用サンプルは、感光性樹脂硬化物層を深さ方向へ切断した断面を有する切片、又は表層近傍を切り出したサンプルのいずれでも構わない。
また、レーザー彫刻可能な印刷基材中の有機ケイ素化合物を検出できる別の方法として、熱分解GC/MS法を挙げることができる。特に含有される有機ケイ素化合物がシリコーン化合物である場合、レーザー彫刻可能な印刷基材を構成する感光性樹脂硬化物を熱分解させると、環状シリコーン化合物が発生するため、GC/MS法を用いることにより該環状シリコーン化合物を分離し同定することが可能である。
【0051】
本発明の樹脂組成物をシート状又は円筒状に成形する方法としては、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等が例示できる。その際、樹脂の性能を落とさない範囲で加熱しながら成形を行うことも可能である。また、必要に応じて圧延処理、研削処理などを施してもよい。通常はPETやニッケルなどの素材からなるバックフィルムと言われる下敷きの上に成形される場合が多いが、直接印刷機のシリンダー上に成形する場合などもありうる。また、繊維強化プラスチック(FRP)製、プラスチック製又は金属製の円筒状支持体を用いることもできる。円筒状支持体は軽量化のために一定厚みで中空のものを使用することができる。バックフィルム又は円筒状支持体の役割は、印刷基材の寸法安定性を確保することである。したがって、それらの材料として寸法安定性の高いものを選択する必要がある。線熱膨張係数を用いて評価すると、材料の上限値は好ましくは100ppm/℃以下、更に好ましくは70ppm/℃以下である。材料の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を積層して用いることもできる。例えば、厚み4.5μmの全芳香族ポリアミドフィルムの両面に厚み50μmのポリエチレンテレフタレートの層を積層したシート等でもよい。また、多孔質性のシート、例えば繊維を編んで形成したクロスや、不織布、フィルムに細孔を形成したもの等をバックフィルムとして用いることができる。バックフィルムとして多孔質性シートを用いる場合、感光性樹脂組成物を孔に含浸させた後に光硬化させることにより、感光性樹脂硬化物層とバックフィルムとが一体化するために高い接着性を得ることができる。クロス又は不織布を形成する繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アルミナ・シリカ繊維、ホウ素繊維、高ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、サファイア繊維などの無機系繊維、木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド等の合成繊維を挙げることができる。また、バクテリアの生成するセルロースは、高結晶性ナノファイバーであり、薄くて寸法安定性の高い不織布を作製することのできる材料である。
【0052】
また、バックフィルムの線熱膨張係数を小さくする方法として、充填剤を添加する方法、全芳香族ポリアミド等のメッシュ状クロス、ガラスクロスなどに樹脂を含浸又は被覆する方法などを挙げることができる。充填剤としては、通常用いられる有機系微粒子、金属酸化物又は金属等の無機系微粒子、有機・無機複合微粒子など用いることができる。また、多孔質微粒子、内部に空洞を有する微粒子、マイクロカプセル粒子、低分子化合物が内部にインターカレーションする層状化合物粒子を用いることもできる。特に、アルミナ、シリカ、酸化チタン、ゼオライト等の金属酸化物微粒子、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合体からなるラテックス微粒子、高結晶性セルロース等の天然物系の有機系微粒子等が有用である。
本発明で用いるバックフィルム又は円筒状支持体の表面に物理的、化学的処理を行うことにより、感光性樹脂組成物層又は接着剤層との接着性を向上させることができる。物理的処理方法としては、サンドブラスト法、微粒子を含有した液体を噴射するウエットブラスト法、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、紫外線又は真空紫外線照射法などを挙げることができる。また、化学的処理方法としては、強酸・強アルカリ処理法、酸化剤処理法、カップリング剤処理法などである。
【0053】
成形された感光性樹脂組成物層は光照射により架橋せしめ、印刷基材を形成する。また、成型しながら光照射により架橋させることもできる。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、殺菌灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。感光性樹脂組成物層に照射される光は、200nmから300nmの波長を有することが好ましい。特に水素引き抜き型光重合開始剤は、この波長領域に強い光吸収を有するものが多いため、200nmから300nmの波長の光を用いると、感光性樹脂硬化物層表面の硬化性を充分に確保することができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0054】
レーザー彫刻に用いる印刷基材の厚みは、その使用目的に応じて任意に設定して構わないが、印刷版として用いる場合には、0.1〜7mmが好ましい。場合によっては、組成の異なる材料を複数積層していても構わない。例えば、最表面にYAGレーザー、ファイバーレーザー又は半導体レーザー等の近赤外線領域に発振波長を有するレーザーを用いて彫刻することができる層を形成し、その層の下に炭酸ガスレーザー等の赤外線レーザー又は可視・紫外線レーザーを用いてレーザー彫刻できる層を形成することも可能である。このような積層構造を形成することにより、極めて出力の高い炭酸ガスレーザーを用いて比較的粗いパターンを深く彫刻し、表面近傍の極めて精細なパターンをYAGレーザー、ファイバーレーザー等の近赤外線レーザーを用いて彫刻することが可能となる。極めて精細なパターンは比較的浅く彫刻できればよいので、該近赤外線レーザーに感度のある層の厚さは、0.01mm以上0.5mm以下の範囲が好ましい。このように近赤外線レーザーに感度のある層と赤外線レーザーに感度のある層を積層することにより、近赤外線レーザーを用いて彫刻されたパターンの深さを正確に制御できる。これは、赤外線レーザーに感度のある層を、近赤外線レーザーでは彫刻することが困難である現象を利用しているからである。彫刻可能なパターンの精細さの違いは、レーザー装置固有の発振波長の違い、すなわち絞れるレーザービーム径の違いに起因する。このような方法でレーザー彫刻する場合、赤外線レーザーと近赤外線レーザーを搭載した別々のレーザー彫刻装置を用いて彫刻することもでき、また、赤外線レーザーと近赤外線レーザーの両方を搭載したレーザー彫刻装置を用いて行うことも可能である。
【0055】
本発明のレーザー彫刻印刷可能な印刷基材表面の濡れ性は、インキの受理、転移において極めて重要な要素となる。25℃の温度条件で実施する表面濡れ性評価において、表面エネルギー30mN/mの指示液の、定量固定タイプのマイクロピペットを用いて採取した20μリットルを、該レーザー彫刻可能な印刷基材表面に滴下し、30秒後に前記液滴が広がった部分の最大径を測定した場合において、該液滴の径が4mm以上20mm以下であることが好ましく、5mm以上15mm以下であることがより好ましい。指示液の広がり方は、同心円状になる場合が多いが、印刷基材表面の状態によっては必ずしも同心円状の広がり方をしない場合もある。その場合には、広がった部分が完全に入る円の直径の最小値を指示液滴の広がった部分の最大径と定義する。液滴が広がった部分の最大径が4mm以上20mm以下の範囲であれば、インキをはじいて印刷物が不均一になることなく、また版面へのインキ残りに抑制効果が見られる。
【0056】
本発明では、レーザー彫刻可能な層の下部にエラストマーからなるクッション層を形成することもできる。一般的にレーザー彫刻される層の厚さは、0.1〜数mmであるため、それ以外の下部層は組成の異なる材料であっても構わない。クッション層としては、ショアA硬度が20から70度、又はASKER−C硬度が10度以上60度以下のエラストマー層であることが好ましい。ショアA硬度が20度以上又はASKER−C硬度が10度以上である場合、適度に変形するため、印刷品質を確保することができる。また、ショアA硬度が70度以下又はASKER−C硬度が60度以下であれば、クッション層としての役割を果たすことができる。より好ましいショアA硬度の範囲は30〜60度、また、より好ましいASKER−C硬度は20〜50度である。本発明のショアA硬度又はASKER−C硬度は、使用するクッション層の厚みで測定した値を採用するものとする。
前記クッション層は、特に限定せず、熱可塑性エラストマー、光硬化型エラストマー、熱硬化型エラストマー等ゴム弾性を有するものであれば何でも構わない。ナノメーターレベルの微細孔を有する多孔質エラストマー層であってもよい。特にシート状又は円筒状印刷版への加工性の観点から、光で硬化する液状感光性樹脂組成物を用い、硬化後にエラストマー化する材料を用いることが簡便であり好ましい。
【0057】
クッション層に用いる熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
光硬化型エラストマーとしては、前記熱可塑性エラストマーに光重合性モノマー、可塑剤及び光重合開始剤等を混合したもの、プラストマー樹脂に光重合性モノマー、光重合開始剤等を混合した液状組成物などを挙げることができる。本発明では、微細パターンの形成機能が重要な要素である感光性樹脂組成物の設計思想とは異なり、光を用いて微細なパターンの形成を行う必要がなく、全面露光により硬化させることにより、ある程度の機械的強度を確保できればよいため、材料の選定において自由度が極めて高い。
また、硫黄架橋型ゴム、有機過酸化物、フェノール樹脂初期縮合物、キノンジオキシム、金属酸化物、チオ尿素等の非硫黄架橋型ゴムを用いることもできる。
更に、テレケリック液状ゴムを反応する硬化剤を用いて3次元架橋させてエラストマー化したものを使用することもできる。
本発明において多層化する場合、前記バックフィルムの位置は、クッション層の下、すなわち印刷原版の最下部、又は、レーザー彫刻可能な感光性樹脂層とクッション層との間の位置、すなわち印刷原版の中央部の、いずれの位置でも構わない。
【0058】
また、本発明のレーザー彫刻可能な印刷基材の表面に改質層を形成させることにより、印刷版表面のタックの低減、インク濡れ性の向上を図ることもできる。改質層としては、シランカップリング剤又はチタンカップリング剤等の表面水酸基と反応する化合物で処理した被膜、シリコーン化合物を含有する処理液で処理した被膜、又は多孔質無機粒子を含有するポリマーフィルムを挙げることができる。
広く用いられているシランカップリング剤は、基材の表面水酸基との反応性の高い官能基を分子内に有する化合物である。そのような官能基としては、例えばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジモノクロロシリル基、モノエトキシシリル基、モノメトキシシリル基、モノクロロシリル基を挙げることができる。また、これらの官能基は分子内に少なくとも1つ以上存在し、基材の表面水酸基と反応することにより基材表面に固定化される。更に本発明のシランカップリング剤を構成する化合物は、分子内に反応性官能基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、パーフルオロアルキル基、及びメルカプト基からなる群から選ばれた少なくとも1個の官能基を有するもの、又は長鎖アルキル基を有するものを用いることができる。
【0059】
また、チタンカップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジ−トリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(オクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルスルフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等の化合物を挙げることができる。
【0060】
表面に固定化したカップリング剤分子あるいはシリコーン化合物が特に重合性反応基を有する場合、表面への固定化後、光、熱、又は電子線を照射し架橋させることにより、より強固な被膜とすることもできる。
本発明では、上記のカップリング剤を、必要に応じ、水−アルコール又は酢酸水−アルコール混合液で希釈して、その濃度を調整する。処理液中のカップリング剤の濃度は、0.05〜10.0重量%が好ましい。
本発明におけるカップリング剤処理法について説明する。前記のカップリング剤を含む処理液を、印刷基材、又はレーザー彫刻後の印刷版表面に塗布する。カップリング剤処理液を塗布する方法に特に限定はなく、例えば浸漬法、スプレー法、ロールコート法、又は刷毛塗り法等を適用することができる。また、被覆処理温度、被覆処理時間についても特に限定はないが、5〜60℃であることが好ましく、処理時間は0.1〜60秒であることが好ましい。更に樹脂版表面上の処理液層の乾燥を加熱下で行うことが好ましく、加熱温度としては50〜150℃が好ましい。
【0061】
カップリング剤で印刷版表面を処理する前に、キセノンエキシマランプ等の、波長が200nm以下の真空紫外線領域の光を照射する方法、又はプラズマ等の高エネルギー雰囲気に曝す方法により、印刷版表面に水酸基を発生させ高密度にカップリング剤を固定化することもできる。
また、無機多孔質体粒子を含有する層が印刷版表面に露出している場合、この層をプラズマ等の高エネルギー雰囲気下で処理し、表面の有機物層を若干エッチング除去することにより印刷版表面に微小な凹凸を形成させることができる。この処理により印刷版表面のタックを低減させること、及び表面に露出した無機多孔質体粒子がインクを吸収しやすくすること、によりインク濡れ性が向上する効果も期待できる。
【0062】
レーザー彫刻においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、原版上にレリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、原版が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよいが、彫刻を高速度で行うためには出力の高いものが望ましく、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線又は赤外線放出固体レーザーが好ましいものの一つである。また、可視光線領域に発振波長を有するYAGレーザーの第2高調波、銅蒸気レーザー、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3又は第4高調波に波長変換したYAGレーザーは、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でもよい。一般には樹脂は炭酸ガスレーザーの発振波長である10μmの近傍に光吸収を持つため、特にレーザー光の吸収を助けるような成分の添加は必須ではないが、YAGレーザーは1.06μm近傍の波長を有し、この波長の吸収を有する樹脂はあまりない。その場合、これの吸収を助ける成分である、染料、顔料の添加が好ましい。このような染料の例としては、ポリ(置換)フタロシアニン化合物及び金属含有フタロシアニン化合物;シアニン化合物;スクアリリウム染料;カルコゲノピリロアリリデン染料;クロロニウム染料;金属チオレート染料;ビス(カルコゲノピリロ)ポリメチン染料;オキシインドリジン染料;ビス(アミノアリール)ポリメチン染料;メロシアニン染料;及びキノイド染料などが挙げられる。顔料の例としてはカーボンブラック、グラファイト、亜クロム酸銅、酸化クロム、コバルトクロームアルミネート、酸化銅、酸化鉄等の暗色の無機顔料や鉄、アルミニウム、銅、亜鉛のような金属粉及びこれら金属にSi、Mg、P、Co、Ni、Y等をドープしたもの等が挙げられる。これら染料、顔料は単独で使用してもよいし、複数を組み合わせて使用してもよいし、複層構造にするなどのあらゆる形態で組み合わせてもよい。ただし、光を用いて感光性樹脂組成物を硬化させる系の場合、硬化に使用する光の波長における光吸収が大きな染料、顔料としての有機/無機化合物の添加量は、光硬化性に支障のない範囲にすることが好ましく、感光性樹脂組成物全体量に対する添加比率は、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。
【0063】
レーザーによる彫刻は酸素含有ガス下、一般には空気存在下又は気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。彫刻終了後、レリーフ印刷版面にわずかに発生する粉末状又は液状の物質は適当な方法、例えば溶剤や界面活性剤の入った水等で洗い取る方法、高圧スプレー等により水系洗浄剤を照射する方法、高圧スチームを照射する方法などを用いて除去してもよい。
本発明において、レーザー彫刻印刷基材にレーザー光を照射し凹パターンを形成する際に、該レーザー彫刻印刷基材表面を加熱しレーザー彫刻を補助することもできる。レーザー彫刻印刷基材の加熱方法としては、レーザー彫刻機のシート状又は円筒状定盤を、ヒーターを用いて加熱する方法、赤外線ヒーターを用いて該レーザー彫刻印刷基材表面を直接加熱する方法を挙げることができる。この加熱工程により、レーザー彫刻性を向上させることができる。加熱の程度は、好ましくは50℃以上200℃以下の範囲、より好ましくは80℃以上200℃以下の範囲、更に好ましくは100℃以上200℃以下の範囲である。
【0064】
本発明において、レーザー光を照射し凹パターンを形成する彫刻後に、版表面に残存する粉末状又は粘性のある液状カスを除去する工程に引き続き、パターンを形成した印刷版表面に波長200nm〜450nmの光を照射する後露光を実施することもできる。表面のタック除去に効果がある方法である。後露光は大気中、不活性ガス雰囲気中、水中のいずれの環境で行っても構わない。用いる感光性樹脂組成物中に水素引き抜き型光重合開始剤が含まれている場合、後露光は特に効果的である。更に、後露光工程前に印刷版表面を、水素引き抜き型光重合開始剤を含む処理液で処理し露光しても構わない。また、水素引き抜き型光重合開始剤を含む処理液中に印刷版を浸漬した状態で露光しても構わない。
本発明の印刷基材は印刷版用レリーフ画像の他、スタンプ・印章、エンボス加工用のデザインロール、電子部品作成に用いられる絶縁体、抵抗体、導電体ペーストのパターニング用レリーフ画像、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線吸収フィルター等の機能性材料のパターン形成、液晶ディスプレイ又は有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止剤層の塗膜・パターン形成、窯業製品の型材用レリーフ画像、広告・表示板などのディスプレイ用レリーフ画像、各種成型品の原型・母型、スクリーン印刷版、ロータリースクリーン印刷版、印刷用ブランケット、アニロックスロールに接して用いるインキ量調整ロールなど各種の用途に応用し利用できる。
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
(1)レーザー彫刻
レーザー彫刻は炭酸ガスレーザー彫刻機(商標:ZED−mini−1000、英国、ZED社製、米国、コヒーレント社製、出力250W炭酸ガスレーザーを搭載)を用いて行った。彫刻は、網点(80 lines per inch で面積率10%)、500μm幅の凸線による線画、及び、500μm幅の白抜き線を含むパターンを作成して実施した。彫刻深さを大きく設定すると、微細な網点部のパターンのトップ部の面積が確保できず、形状も崩れて不鮮明となるため、彫刻深さは0.55mmとした。
(2)カスの拭き取り回数とカス残存率
レーザー彫刻後のレリーフ印刷版上のカスは、エタノール又はアセトンを含浸させた不織布(商標:BEMCOT M−3、日本国、旭化成株式会社製、)を用いて拭き取った。彫刻後に発生する粘稠性の液状カスを除去するのに必要な拭き取り処理の回数をカス拭き取り回数とした。この回数が多いと、液状カスの量が多いことを意味する。優れた印刷版のカス拭き取り回数は、5回以下、好ましくは3回以下である。
更に、レーザー彫刻前の印刷基材、レーザー彫刻直後の印刷版、及び拭き取り後のレリーフ印刷版各々重量を測定し、下記の式により、彫刻時のカス残存率を求めた。
(彫刻直後の版の重量−拭き取り後の版の重量)÷(彫刻前の原版重量−拭き取り後の版の重量)×100
優れた印刷版のカス残存率は、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
レリーフ上に残存したカスを除去した後、印刷版表面に紫外線を照射する後露光を実施した。後露光に用いた光は、紫外線蛍光灯(ケミカルランプ、中心波長:370nm)と殺菌灯(ジャーミサイダルランプ、中心波長:253nm)の光であった。
【0066】
(3)網点部の形状
彫刻した部位のうち、80lpi(lines per inch)で面積率約10%の網点部の形状を電子顕微鏡で、200倍〜500倍の倍率で観察した。網点が円錐形又は擬似円錐形(円錐の頂点付近を円錐の底面に平行な面で切った、末広がりの形状)の場合には、印刷版として良好である。
(4)多孔質体及び無孔質体の細孔容積、平均細孔径及び比表面積
多孔質体又は無孔質体2gを試料管に取り、前処理装置で150℃、1.3Pa以下の条件で12時間減圧乾燥した。乾燥した多孔質体又は無孔質体の細孔容積、平均細孔径及び比表面積は、米国、カンタクローム社製、オートソープ3MP(商標)を用い、液体窒素温度雰囲気下、窒素ガスを吸着させて測定した。具体的には、比表面積はBET式に基づいて算出した。細孔容積及び平均細孔径は、窒素の脱着時の吸着等温線から円筒モデルを仮定し、BJH(Brrett-Joyner-Halenda)法という細孔分布解析法に基づいて算出した。
(5)多孔質体及び無孔質体の灼熱減量
測定用の多孔質体又は無孔質体の重量を記録する。次に測定用試料を高温電気炉(商標、FG31型;日本国、ヤマト科学社製)に入れ、空気雰囲気、950℃の条件下で2時間処理した。処理後の重量変化を灼熱減量とした。
【0067】
(6)多孔質体及び無孔質体の粒子径分布における標準偏差
多孔質体及び無孔質体の粒子径分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(商標、SALD−2000J型;日本国、島津製作所製)を用いて行った。装置の仕様では、0.03μmから500μmまでの粒子径範囲の測定が可能であることが、カタログに記載されている。分散媒体としてメチルアルコールを用い、超音波を約2分間照射し粒子を分散させ測定液を調製した。
(7)粘度
感光性樹脂組成物の粘度は、B型粘度計(商標、B8H型;日本国、東京計器社製)を用い、20℃で測定した。
(8)テーパー磨耗試験
テーパー磨耗試験は、厚み2.8mmの印刷基材を別途作製し、JIS−K6264に従って実施した。試験片に加える荷重は4.9N、回転円盤の回転速度は毎分60±2回、試験回数は連続1000回とし、試験後の磨耗量を測定した。試験部の面積は、31.45cm2であった。優れた印刷版では、磨耗量は好ましくは80mg以下であり、磨耗量が少ないと長期間、印刷版を使用することが可能となり、高品質の印刷物を提供することができる。
【0068】
(9)表面摩擦抵抗測定
厚み2.8mmの印刷基材を別途作製し、摩擦測定機(商標、TR型:日本国、東洋精機製作所社製)を用いて、表面摩擦抵抗値μを測定した。試料表面に載せる錘は63.5mm角、重量W:200gであり、錘を引っ張る速度は150mm/分とした。また、錘の表面にライナー紙(再生紙を含まず、純パルプから製造された、段ボールに使用されている厚さ220μmの紙、商標名「白ライナー」、日本国、王子製紙社製)を、その平滑な面が表面に露出するように貼り付けたものを使用し、印刷基材と錘の間にライナー紙が存在し、印刷基材表面とライナー紙の平滑面が接するようにして、錘を水平に動かし表面摩擦抵抗値μを測定した。表面摩擦抵抗値μは、錘の重量に対する測定荷重Fdの比、即ちμ=Fd/Wで表される動摩擦係数であり、無次元数である。錘を動かし始めて測定値が安定化する領域、即ち、5mmから30mmまでの測定荷重の平均値をFdとした。表面摩擦抵抗値μが小さいものが印刷版としては好ましい。優れた印刷版では、表面摩擦抵抗値μは2.5以下であり、表面摩擦抵抗値μの値が小さいと印刷時に印刷版表面への紙紛の付着が少なく、品質の高い印刷物を得ることができる。表面摩擦抵抗値μが4を越えて大きい場合、段ボール等の紙に印刷する際に紙紛が印刷版表面に付着してしまう現象が見られ、その場合、紙紛が付着した部分の被印刷物上にインクが転写されず欠陥となることが多発する。
【0069】
(10)数平均分子量の測定
樹脂(a)、及び有機ケイ素化合物(c)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いて、分子量既知のポリスチレンで換算して求めた。高速GPC装置(日本国、東ソー社製、商標、HLC−8020)とポリスチレン充填カラム(商標:TSKgel GMHXL;日本国、東ソー社製)を用い、テトラヒドロフラン(THF)で展開して測定した。カラムの温度は40℃に設定した。GPC装置に注入する試料としては、樹脂濃度が1重量%のTHF溶液を調製し、注入量10μlとした。また、検出器としては、樹脂(a)に関しては紫外吸収検出器を使用し、モニター光として254nmの光を用いた。また、有機ケイ素化合物(c)に関しては視差屈折計を用いて検出した。本発明の実施例又は比較例で用いる樹脂(a)、及び有機ケイ素化合物(c)は、GPC法を用いて求めた多分散度(Mw/Mn)が1.1より大きいものであったため、GPC法で求めた数平均分子量Mnを採用した。有機化合物(b)は、GPC法を用いて求めた多分散度(Mw/Mn)が1.1より小さいものであったため、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)を用いて同定した分子構造から分子量を計算した。
【0070】
(11)重合性不飽和基の数の測定
合成した樹脂(a)の分子内に存在する重合性不飽和基の平均数は、未反応の低分子成分を液体クロマトグラフ法を用いて除去した後、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)を用いて分子構造解析し求めた。
(12)印刷評価
レーザー彫刻により作製された印刷版を用いて、印刷評価を実施した。印刷には卓上型校正機(英国、KR社製、商標「Flexiploofer100」)を用い、版胴上に前記印刷版を、両面テープを用いて貼り付け、シアン色の水性インキを使用して、コート紙上に枚葉式で印刷を行った。アニロックスロールと版胴との間に過剰な圧力を掛けた状態(版に一様にインキが転写する状態から、0.08mm余計に圧を掛けた状態)で、また、版胴と圧胴との間の圧力を0.15mmに設定し、10枚印刷を行った時点で、版表面に残存するインキの残り具合を目視で観察した。
(13)印刷基材のぬれ性試験
レーザー彫刻印刷基材表面のぬれ性試験は、表面エネルギー30mN/mの指示薬(和光純薬工業社製、商標「ぬれ張力試験用混合液No.30.0」)の、定量固定タイプのマイクロピペットを用いて採取した20μリットルを、該レーザー彫刻印刷基材表面に滴下し、30秒後に前記液滴が広がった部分の最大径を測定し、この値をぬれ性試験の指標として使用する。この値が大きい程、この指示薬にぬれ易いことを意味する。好適なレーザー彫刻原版は、この値が4mm以上20mm以下である。
【0071】
(14)固体29SiNMR測定
固体29SiNMR測定は、Bruker社製、商標「DSX400」を用いて実施した。観測核:29Si、観測周波数:79.4887MHz、積算回数:540回、パルス幅:6μ秒、待ち時間:480秒、MAS(マジック角度回転速度):3500Hz、マジックアングルスピニング:5000Hz、パルスプログラム:hpdec(ハイパワーデカップリング)、サンプル管径:7mmφの条件で測定を行った。化学シフトの外部基準を、ジメチルシリコーンゴムを別途測定し、得られた1本のピークを−22ppmとした。
(15)プラズマ発光分析
精密に秤量したレーザー彫刻印刷基材原版片を、ヒーターで炭化させ、500℃の電気炉で灰化させる乾式灰化処理を行った後、炭酸NaK、四ホウ酸Naの2種類のアルカリ溶融剤(粉末)を混合し、1200℃で溶融させるアルカリ溶融法で処理されたサンプルを冷却後、塩酸に溶解させ、プラズマ発光分析装置(サーモエレメンタル社製、商標「IRIS/AP」)を用いて測定を行った。測定波長は、251.612nmであった。サンプルの発光強度を、前もって用意してあった検量線と比較することにより、系内に存在するケイ素の濃度を見積もり、秤量しておいたレーザー彫刻印刷原版の重量とから、レーザー彫刻印刷原版内のケイ素の存在比率を見積もった。
【0072】
(16)熱分解GC/MS測定
GC/MS測定は、アジレントテクノロジー社製、商標「HP5973」を用いて実施した。また、熱分解装置(フロンティアラボ社製、商標「Py−2020D」)を用いて、加熱炉温度を550℃に設定して、熱分解させた試料をGC/MSへ導入し分離同定を行った。質量分析は、電子衝撃イオン化法を用いてイオン化させて実施した。熱分解炉へ仕込んだサンプルは、約0.3mgを精密に秤量した。
(17)ショアA硬度の測定
ショアA硬度の測定は、Zwick社製(ドイツ国)、自動硬度計を用いて実施した。ショアA硬度の値として、測定後15秒後の値を採用した。
(18)ASKER−C硬度の測定
気泡を有するクッション層の場合、ASKER−C硬度を測定することが好ましい。ASKER−C硬度の測定は、ゴム・プラスチック硬度計(高分子計器社製、商標「ASKER−C型」)を用いて実施した。ASKER−C硬度の値として、測定後15秒後の値を採用した。
(19)ヘイズ値の測定
感光性樹脂組成物のヘイズ値は、ヘイズメーター(日本電色工業社製、商標「NDH−1001DP」)を用いて測定した。感光性樹脂組成物を厚み1mmに成形した。20℃において液状の感光性樹脂組成物の場合、PETフィルム上に厚み1mmのゴム製の土手を設けて、土手の内部に液状感光性樹脂を充填しもう片側からPETフィルムで挟んだサンプルを作製し、測定に用いた。
【0073】
(製造例1)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、旭化成株式会社製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL L4672」(数平均分子量1990、OH価56.4)447.24gとトリレンジイソシアナート30.83gを加え、80℃に加温下に約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート14.83gを添加し、更に約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約2個)である数平均分子量約10000の樹脂(a1)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
(製造例2)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、旭化成株式会社製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL L4672」(数平均分子量1990、OH価56.4)447.24gとトリレンジイソシアナート30.83gを加え、80℃に加温下に約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート7.42gを添加し、更に約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約1個)である数平均分子量約10000の樹脂(a2)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0074】
(製造例3)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、旭化成株式会社製ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1830、OH価61.3)500gとトリレンジイソシアネート52.40gを加え、60℃に加温下に約3時間反応させた後、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート6.2gとポリプロピレングリコールモノメタクリレート(Mn400)7.9gを添加し、更に2時間反応させた後、エタノールを20g加えて更に2時間反応させた。末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均で0.5個)である数平均分子量約20000の樹脂(a3)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
(製造例4)
温度計、攪拌機、及び還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに、クラレ株式会社製ポリエステルジオールである、商標「クラレポリオールP3010」(数平均分子量3160、OH価35.5)400gとトリレンジイソシアネート19.13gを加え、80℃に加温下に約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート6.74gを添加し、更に3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均で2個)である数平均分子量約25000の樹脂(a4)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0075】
(実施例1〜7、及び比較例1〜3)
20℃においてプラストマーの樹脂(a)として、製造例1から3で作製した樹脂(a1)から(a3)を用い、表1に示すように重合性モノマー、有機ケイ素化合物(c)、無機多孔質体(f)、光重合開始剤、その他の添加剤を加えて樹脂組成物を作成した。
用いた有機ケイ素化合物(c)としては、信越化学工業社製、メチルスチリル変性シリコーンオイル(商標「KF−410」、屈折率:1.480、数平均分子量:7890と700に2つのピークを有し、ピーク面積比は、4.2:1であったので、荷重平均により6510とした。20℃にて液状)、カルビノール変性シリコーンオイル(商標「KF−160AS」、屈折率:1.420、数平均分子量:750、20℃にて液状)、東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、メチルフェニルシリコーンオイル(商標「SH510」、屈折率:1.500、数平均分子量:2890、20℃にて液状)を用いた。これらの化合物は、分子中に重合性不飽和基を有していないシリコーン化合物である。
得られた感光性樹脂組成物のヘイズ値は、ヘイズメーターを用いて測定した結果、メチルスチリル変性シリコーンオイルを用いた実施例1、2、3、6、及び7では、25%から30%の範囲であった。また、カルビノール変性シリコーンオイルを用いた実施例4では、50%であり、更に、メチルフェニルシリコーンオイルを用いた実施例5では、90%であった。
【0076】
また、無機多孔質体(f)として、富士シリシア化学株式会社製、多孔質性微粉末シリカである、商標「サイロスフェアC−1504」(以下略してC−1504、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m2/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5重量%、吸油量290ml/100g)、商標「サイリシア450」(以下略してCH−450、数平均粒子径8.0μm、比表面積300m2/g、平均細孔径17nm、細孔容積1.25ml/g、灼熱減量5.0重量%、吸油量200ml/100g)、商標「サイリシア470」(以下略してC−470、数平均粒子径14.1μm、比表面積300m2/g、平均細孔径17nm、細孔容積1.25ml/g、灼熱減量5.0重量%、吸油量180ml/100g)を用いた。用いた多孔質性微粉末シリカの多孔度は、密度を2g/cm3として算出すると、サイロスフェアC−1504が780、サイリシア450が800であった。添加した多孔質球状シリカであるサイロスフェアC−1504の真球度は、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、ほぼ全ての粒子が0.9以上であった。サイリシア450、サイリシア470は、多孔質シリカではあるが球状シリカではなかった。
【0077】
作製した感光性樹脂組成物をPETフィルム上に厚さ2.8mmのシート状に成形し、高圧水銀灯の紫外線を、大気中で感光性樹脂層が露出している面から照射した。照射したエネルギー量は、4000mJ/cm2(UV−35−APRフィルター(商標、オーク製作所社製)で測定した照度を時間積分した値)であった。照射面でのランプ照度は、UVメーター(オーク製作所社製、商標「UV−M02」)を用いて測定した。UV−35−APRフィルターを使用して測定したランプ照度は、19mW/cm2、UV−25フィルターを使用して測定したランプ照度は、2.9mW/cm2であった。実施例6については、感光性樹脂組成物をPETフィルム上に厚さ2.8mmのシート状に成型した後、表面を厚さ15μmのPETカバーフィルムで被覆し、酸素を遮断した状態で前記高圧水銀灯の光を照射し硬化させてシート状印刷基材を作製した。
用いた光重合開始剤は、ベンゾフェノン(BP)が水素引き抜き型光重合開始剤(d)であり、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(DMPAP)が崩壊型光重合開始剤であった。
【0078】
実施例1〜7及び比較例1〜3の感光性樹脂組成物は、いずれも20℃において液状であった。また、B型粘度計を用いて測定した粘度は、20℃において、いずれの系も5kPa・s以下であった。
これらをZED社製のレーザー彫刻機を用いて、パターンの彫刻を行った。その評価結果を表2に示す。
また、表面摩擦抵抗値測定及びテーパー磨耗試験の結果を表2に示す。有機ケイ素化合物(c)を含まない比較例1〜3は、実施例1〜7に比較して表面摩擦抵抗値、磨耗量ともに高い値を示した。また、表2にぬれ性試験の結果を示したが、実施例では指示薬の広がりが4mm以上20mm以下の範囲に入っているのに対し、比較例では全て20mmを超えた値となっている。
表2の彫刻後のカス拭き取り回数とは、彫刻後発生する粘稠性の液状カスを除去するのに必要な拭き取り処理の回数であり、この回数が多いと液状カスの量が多いことを意味する。
印刷評価により版表面のインキの残り具合は、実施例1〜7に関しては良好であったが、比較例1〜3については、明らかに青くインキが残存しており、エタノールを染み込ませた布で拭いても取り除くことができなかった。実施例1と比較例1の印刷評価後の版の様子を示す写真をそれぞれ、図1及び図2に示す。図中黒い部分がインキの残存を示す。図2では、インキの残存が明確であった。
【0079】
エアーシリンダーに装着された内径213mm、厚さ2mmの繊維強化プラスチック製スリーブ上に両面接着テープを貼り、その上に、別途用意した上記のシート状印刷基材を巻き付け固定した。継ぎ目の部分には、接着剤を充填し硬化させた。旋盤でエアーシリンダーを回転させ、超硬切削バイトを用いて厚み2.5mmまで切削処理を行った。実施例1から7については切削処理で発生するカスは、切削バイトに絡まることなく処理を完了した。しかしながら比較例1から3では、切削バイトにカスが絡まりつき、その都度、その除去のために作業を停止した。また、比較例1から3については、表面に深い切削痕が複数本残った。その後、実施例1から7及び比較例1から3のサンプルについて、フィルム研磨布を用いて、表面を研磨処理を行った。実施例1から7については、切削痕が残らず、均一な滑らかな表面を得ることができた。しかしながら、比較例1から3については、研磨処理を行った後も、部分的に切削痕が残存した。
【0080】
実施例1で得られたレーザー彫刻可能な感光性樹脂硬化物をサンプルとして、固体29SiNMRスペクトルを測定した。−22ppm付近の化学シフトに有機ケイ素化合物であるシリコーン化合物由来の2つに分離した鋭いピークと、−110ppm付近を中心とする無機ケイ素化合物である多孔質シリカ由来のブロードなピークを観測した。シリコーン化合物由来のピークと多孔質シリカ由来のピークの積分値比(Iorg:Iino)は、1.0:7.37であった。シリコーン化合物由来の2つに分離した鋭いピークは、ジメチルシロキサン部と、メチル基とメチルスリチル基を有するシロキサン部に対応していると推定され、積分値の比は、2:1であった。この積分値の比は、用いたシリコーン化合物(信越化学工業社製、商標「KF−410」)を別途、H−NMR測定した結果と一致した。
また、実施例1で得られたレーザー彫刻可能な感光性樹脂硬化物をサンプルとして、プラズマ発光分析を実施した。発光強度を検量線に比較することにより、サンプル中に含まれていたSiの存在比率(WSi)は、2.22重量%であった。したがって、プラズマ発光分析の結果と固体29SiNMRの結果から、有機ケイ素化合物由来のSiの存在比率は、式2.22×(1.0/(1.0+7.37)から、0.27重量%と求まった。
更に、実施例1で得られたレーザー彫刻可能な感光性樹脂硬化物を熱分解GC/MS法を用いて分析した結果、質量分析計においてジメチルシロキサン部と、メチル基とメチルスチリル基を有するシロキサン部を基本単位とする環状シロキサン化合物と推定される化合物が検出された。
【0081】
(実施例8)
内径213mm、厚さ2mmの繊維強化プラスチック製スリーブ上に両面接着テープを貼り、その上に、接着剤を塗布したPETフィルムを接着剤が表面に出るように貼り付け、円筒状支持体を形成した。この円筒状支持体上に、実施例1と同じ感光性樹脂組成物を50℃に加熱し、ドクターブレードを用いて、厚さ約2mmに塗布した。その後、大気中において、実施例1で用いたのと同じ高圧水銀灯の光を4000mJ/cm2(UV−35−APRフィルターで測定した照度を時間積分した値)照射し、感光性樹脂組成物層を硬化させた。その後、スリーブをエアーシリンダーに装着し、旋盤に設置した後、該エアーシリンダーを回転させながら、超鋼バイトを用いて、PETフィルムを含む厚さが1.7mmとなるまで切削した。切削工程において、切削カスはバイトに絡むことなく切削工程を終了した。更に、研磨フィルムを用いて、少量の水を振りかけながら研磨を行い、表面に切削痕の観察されない滑らかな表面の円筒状印刷基材を得た。
【0082】
(実施例9)
樹脂(a)として数平均分子量が約13万のSBS系熱可塑性エラストマー(SBS:ポリスチレン・ポリブタジエン・ポリスチレンのブロック共重合体)100重量部、有機化合物(b)として1,9−ノナンジオールジアクリレート5重量部、可塑剤として数平均分子量が約2000の液状ポリブタジエン30重量部、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.6重量部、及びベンゾフェノン1重量部、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.3重量部、信越化学工業社製、メチルスチリル変性シリコーンオイル(商標「KF−410」)1重量部を130度でニーダーを用いて混練し、20℃で固体状の感光性樹脂組成物を得た。
得られた感光性樹脂組成物を押し出し装置を用いて、厚さ125μmのPETフィルム上に、厚さ2mmで押し出し装置を用いて加熱して押し出し、シート状感光性樹脂組成物を形成した。
内径213mm、厚さ2mmの繊維強化プラスチック製スリーブ上に両面接着テープを貼り、その上に前記シート状感光性樹脂組成物を、PETフィルムが内側になるように巻き付け、固定した。継ぎ目の部分の隙間に前記感光性樹脂組成物を充填し、加熱して融着させることにより継ぎ目のない円筒状感光性樹脂組成物とした。その後、実施例1と同じ高圧水銀灯の光を4000mJ/cm2(UV−35−APRフィルターで測定した照度を時間積分した値)照射し、感光性樹脂硬化物を得た。
その後、スリーブをエアーシリンダーに装着し、旋盤に設置した後、該エアーシリンダーを回転させながら、超硬バイトを用いて、PETフィルムを含む厚さが1.7mmとなるまで切削した。切削工程において、切削カスはバイトに絡むことなく切削工程を終了した。更に、フィルム状研磨布を用いて、少量の水を振りかけながら研磨を行い、表面に切削痕の観察されない滑らかな表面の円筒状印刷基材を得た。
【0083】
(実施例10)
旭化成社製、商標「APR、F320」液状感光性樹脂組成物を、厚さ2mmのシート状に成形する以外は、実施例1と同じ方法により光硬化させ、印刷基材のクッション層を形成した。このクッション層の上に、実施例1で用いた液状感光性樹脂組成物を厚さ0.8mmに塗布し、その後の露光工程を経て、印刷基材を作製した。クッション層のショアA硬度は、55度であった。
炭酸ガスレーザーで彫刻後のカス残率は5.7重量%、彫刻後のカス拭き取り回数は3回以下、網点部の形状は円錐状で良好であった。
表面摩擦抵抗値及びテーパー磨耗試験における磨耗量は、実施例1と同等であった。
(実施例11)
有機多孔質球状微粒子を使用する以外は、実施例1と同じ方法で、印刷基材を作製した。有機多孔質微粒子は、架橋ポリスチレンからなり、数平均粒子径8μm、比表面積200m2/g、平均細孔径50nmの微粒子であった。印刷基材表面は硬化していた。
炭酸ガスレーザーで彫刻後、粘調性液状カスが多量に発生し、カス拭き取り回数は30回を超えて必要であった。これは、有機多孔質微粒子がレーザー光照射により溶融・分解し、多孔質性を保持できなかったものと推定される。
表面摩擦抵抗値及び磨耗量は、実施例1と同等であった。
【0084】
(実施例12)
内径213mm、厚さ2mmの繊維強化プラスチック製スリーブ上に両面接着テープを貼り、その上に、接着剤を塗布したPETフィルムを接着剤が表面に出るように貼り付け、円筒状支持体を形成した。この円筒状支持体上に、実施例1の感光性樹脂組成物から光重合開始剤であるベンゾフェノンを除いて調整した感光性樹脂組成物を50℃に加熱し、ドクターブレードを用いて、厚さ約2mmに塗布した。その後、大気中において、前記高圧水銀灯の光を4000mJ/cm2(UV−35−APRフィルターで測定した照度を時間積分した値)照射し、感光性樹脂組成物層を硬化させた。
実施例1の感光性樹脂組成物100重量部に対し、近赤外線波長領域に光吸収を有する酸化銅超微粒子(シーアイ化成社製、商標「Nano Tek CuO」)1重量部を添加し、遊星式真空撹拌脱泡機(倉敷紡績社製、商標「マゼルスターDD−300」)を用いて撹拌脱泡し、黒色の感光性樹脂組成物を調製した。50℃に加熱した該黒色感光性樹脂組成物を、前記円筒状感光性樹脂硬化物層上に、ドクターブレードを用いて厚さ0.1mmに塗布し、大気中において前記高圧水銀灯の光を4000mJ/cm2(UV−35−APRフィルターで測定した照度を時間積分した値)照射し、黒色感光性樹脂組成物層を硬化させた。次いで、厚さ0.08mmになるように前記窒化ケイ素製の超硬バイトを用いて切削し、更に、その表面を、フィルム状研磨布を用いて研磨処理を行った。切削工程において発生する切削カスが、超硬バイトに絡まりつくことはなく、表面研磨後には切削痕が残ることもなかった。
このように形成した円筒状のレーザー彫刻印刷基材に、炭酸ガスレーザー彫刻機(英国、ZED社製、商標「ZED−mini−1000」)を用いて、深さ0.5mmで、大きさ2cm四方の凸パターンを形成し、更にこのパターン上に近赤外線レーザーを搭載したYAGレーザー彫刻機(独国、ESKO-Graphics社製、商標「CDI Classic」、レーザー波長:1.06μm)を用いて、深さ0.01mmの網点パターンを形成した。形成された網点パターンを、電子顕微鏡を用いて観察したところ、形状は円錐状で良好なものであった。
上記のようにして別途作製した円筒状印刷基材を、カッターで切断し、両面テープからPETフィルムを外すことにより、シート状印刷基材を得た。これをサンプルとして表面摩擦抵抗値及びテーパー磨耗試験における磨耗量を測定し、実施例1と同等の結果を得た。
【0085】
(実施例13)
樹脂(a)として製造例4で合成した樹脂(a4)を用いること、無機多孔質体であるC−1504を15重量部添加すること以外は、実施例1と同様にして液状感光性樹脂組成物を調製した。実施例8と同様にして調製した液状感光性樹脂組成物を円筒状支持体上に塗布し、光硬化させて円筒状の感光性樹脂硬化物を形成した。
実施例8と同様の方法で、円筒状感光性樹脂硬化物を回転させながら、超硬バイトを用いて切削処理及び研磨処理を実施した。実施例8に比較して、切削処理時に発生したカスは粘着性があったが、バイトに絡みつくことはなかった。また、研磨処理後の切削痕も観察されず、表面の滑らかな円筒状印刷基材を得ることができた。
得られた円筒状印刷基材表面にレーザー彫刻機で凹凸パターンを形成したが、彫刻カスの拭き取りは5回で完了した。網点パターンの形状についても円錐型で良好なものが得られた。
【0086】
(比較例4)
内径213mm、厚さ2mmの繊維強化プラスチック製スリーブ上に両面接着テープを貼り、その上に、接着剤を塗布したPETフィルムを接着剤が表面に出るように貼り付け、円筒状支持体を形成した。この円筒状支持体上に、比較例1と同じ感光性樹脂組成物を50℃に加熱し、ドクターブレードを用いて、厚さ約2mmに塗布した。その後、大気中において、実施例1で用いたのと同じ高圧水銀灯の光を4000mJ/cm2(UV−35−APRフィルターで測定した照度を時間積分した値)照射し、感光性樹脂組成物層を硬化させた。その後、スリーブをエアーシリンダーに装着し、旋盤に設置した後、該エアーシリンダーを回転させながら、超硬バイトを用いて、PETフィルムを含む厚さが1.7mmとなるまで切削した。切削工程において、切削カスはバイトに絡む現象が見られ、切削工程において数回、回転を止めその都度、バイトの刃から切削カスを除去する操作を行った。更に、フィルム状研磨布を用いて、少量の水を振りかけながら研磨を行った。表面に切削痕が若干観察された。この切削痕は、研磨工程では除去しきれなかった。
【0087】
(比較例5)
信越化学工業社製、メチルスチリル変性シリコーンオイル(商標「KF−410」)の代わりに、信越化学工業社製、メタクリル変性シリコーンオイル(商標「X−22−164C」)を用いたほかは、実施例1と同じ組成の感光性樹脂組成物を調製した。調製した感光性樹脂組成物は、20℃において液状であり、白濁していた。ヘイズメーターを用いてヘイズ値を測定した結果、92%であった。
実施例1と同様にして、PETシートを支持体としたシート状印刷基材を形成した。レーザー彫刻時のカス残率、カス拭き取り回数、網点部の形状に関しては、実施例1と同等であった。また、表面摩擦抵抗値は0.65、テーパー磨耗試験での磨耗量は0.5mg未満、濡れ性試験での液滴の広がりは8mmであった。また、液滴試験においてエタノールを1滴垂らした際に、液滴をはじく現象が見られた。この現象は、実施例1では見られなかった。
【0088】
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明はレーザー彫刻によるフレキソ印刷版用、レタープレス印刷版用又はスクリーン印刷用レリーフ画像作成、エンボス加工等の表面加工用パターンの形成、タイル等の印刷用レリーフ画像形成、電子部品の導体、半導体、絶縁体、パターン形成、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線カットフィルター等の機能性材料のパターン形成、更には液晶ディスプレイ又は有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止材層の塗膜・パターン形成、又は、パターンを形成しないインキ転写用ブランケット又はアニロックスロールに接して使用されるインキ量調整用ロール形成用として最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が1000以上20万以下の重合性不飽和基を有する樹脂(a)、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有する有機化合物(b)、及び分子内に少なくとも1つのSi−O−Si結合を有し、かつ、分子内に重合性不飽和基を有しないシリコーン化合物(c)を含有し、該シリコーン化合物(c)がフェニル基、メチルスチリル基、スチリル基、及びカルビノール基からなる群より選択される少なくとも1種類の有機基を有する、レーザー彫刻可能な印刷基材用感光性樹脂組成物であって、該シリコーン化合物(c)の含有率が、該感光性樹脂組成物全体に対し0.1重量%以上10重量%以下である上記感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリコーン化合物(c)が、100以上10万以下の数平均分子量を有し、かつ20℃において液状である請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
更に光重合開始剤を含有し、該光重合開始剤が少なくとも1種類の水素引き抜き型光重合開始剤(d)を含む請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記光重合開始剤が、少なくとも1種類の水素引き抜き型光重合開始剤(d)及び少なくとも1種類の崩壊型光重合開始剤(e)を含む請求項3に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記水素引き抜き型光重合開始剤(d)が、ベンゾフェノン類、キサンテン類、及びアントラキノン類からなる群から選ばれる少なくとも一種類の化合物を含んでなり、かつ前記崩壊型光重合開始剤(e)が、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシー2−フェニルアセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アゾ化合物類、有機イオウ化合物類、及びジケトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含んで請求項4に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記光重合開始剤が、同一分子内に水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位の両方を有する化合物を含有する請求項3又は4記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂(a)が20℃において液状であり、前記樹脂(a)及び/又は前記有機化合物(b)が分子鎖中に、カーボネ−ト結合、エステル結合、及びエーテル結合からなる群から選ばれる少なくとも1種類の結合を有するか、及び/又は脂肪族飽和炭化水素鎖、及び脂肪族不飽和炭化水素鎖からなる群から選ばれる少なくとも1種類の分子鎖を有し、かつウレタン結合を有する化合物である請求項1〜6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
感光性樹脂組成物を厚み1mmで塗布してなる層が0%以上70%以下のヘイズ値を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
20℃において液状である請求項1〜8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を光硬化させて得られるレーザー彫刻可能な印刷基材であって、該印刷基材がその内部及び/又は表面にシリコーン化合物を含有し、該シリコーン化合物の検出及び定量が、固体29siNMR(観測核が原子量29のSiである固体用核磁気共鳴スペクトル)測定法とプラズマ発光分析法を組み合わせて実施された場合に、シリコーン化合物由来のSi原子が0.01重量%以上10重量%以下の存在比率で含有されている上記印刷基材。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を、シート状又は円筒状に成形した後、光を照射することにより架橋硬化せしめて得られ得るレーザー彫刻可能な印刷基材。
【請求項12】
光照射により架橋硬化した後に、更に、表面を切削加工、研削加工、研磨加工、及びブラスト加工からなる群から選択される少なくとも1種類の加工を施されている請求項10又は11に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。
【請求項13】
エラストマー層が、常温で液状の感光性樹脂組成物を硬化して形成されている請求項12に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。
【請求項14】
積層体の最表面層が、近赤外線レーザーを用いて彫刻できる層である請求項12に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を光硬化させて得られるレーザー彫刻可能な印刷基材であって、レーザー彫刻可能な印刷基材の表面が、該表面に、表面エネルギー30mN/mの指示液(和光純薬工業社製、「ぬれ張力試験用混合液No.30.0(商標)」)の、定量固定タイプのマイクロピペットを用いて採取した20μリットルを滴下し、30秒後に前記液滴が広がった部分の最大径を測定した場合に、該液滴の径が4mm以上20mm以下である濡れ特性を有する、感光性樹脂硬化物を含んでなるレーザー彫刻可能な印刷基材。
【請求項16】
印刷基材が、レーザー彫刻法を用いてパターンが形成されるフレキソ印刷用原版若しくはレタープレス印刷原版若しくはスクリーン印刷用原版、又は、パターンを形成しないインキ転写用ブランケット若しくはアニロックスロールに接して使用されるインキ量調整用ロールである請求項9から15のいずれか一項に記載のレーザー彫刻可能な印刷基材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−208326(P2010−208326A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49469(P2010−49469)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【分割の表示】特願2005−517306(P2005−517306)の分割
【原出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】