説明

レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版の製版方法及びレリーフ印刷版

【課題】リンス性及び彫刻感度に優れたレリーフ印刷版原版及びその製造方法を提供すること。更に、溶剤インキ適性及び耐刷性に優れたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供すること。
【解決手段】(成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物、及び、(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むことを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版の製版方法及びレリーフ印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。この方式では、フレキソ原版に直接レーザーを照射し、光熱変換により熱分解及び揮発を生じさせ、凹部を形成する。直彫りCTP方式は、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができる。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、又は、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をすることなども可能である。この方式に用いられるレーザーは高出力の炭酸ガスレーザーが用いられることが一般的である。炭酸ガスレーザーの場合、全ての有機化合物が照射エネルギーを吸収して熱に変換できる。一方、安価で小型の半導体レーザーが開発されてきているが、これらは可視及び近赤外光であるため、該レーザー光を吸収して熱に変換することが必要となる。
従来のレーザー彫刻用樹脂組成物としては、例えば、特許文献1及び2に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−190331号公報
【特許文献2】特開2010−106070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、リンス性及び彫刻感度に優れたレリーフ印刷版原版及びその製造方法を提供することである。更に、溶剤インキ適性及び耐刷性に優れたレリーフ印刷版及びその製版方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、以下の解決手段<1>、<7>、<8>及び<9>により解決された。好ましい実施形態である<2>〜<6>、<10>及び<11>と共に列記する。
<1> (成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物、及び、(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むことを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<2> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分C)分子中にシロキサン結合を含まず、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を更に含有する、<1>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<3> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分D)ラジカル重合性化合物、及び、(成分E)ラジカル重合開始剤を更に含有する、<1>又は<2>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<4> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を更に含有する、<1>〜<3>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<5> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分G)可塑剤を更に含有する、<1>〜<4>のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<6> 前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分H)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物を更に含有する、<1>〜<5>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法、
<7> <1>〜<6>いずれか1つに記載の製造方法により得られたレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<8> (成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物、及び、(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とするレリーフ印刷版の製版方法、
<9> <8>に記載の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版、
<10> 前記レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である、<9>に記載のレリーフ印刷版、
<11> 前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である、<9>又は<10>に記載のレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0006】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法により、リンス性及び彫刻感度に優れたレリーフ印刷版原版が提供された。更に、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により、溶剤インキ適性及び耐刷性に優れたレリーフ印刷版が提供された。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版(以下、単にレリーフ印刷版原版ともいう。)の製造方法は、(成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物、及び、(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むことを特徴とする。
【0008】
なお、本発明において、数値範囲を表す「下限〜上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限〜下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、上限及び下限を含む数値範囲を表す。また、本発明において、「(成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物」等を単に「成分A」等ともいう。
また、成分A及び成分Bを含むレーザー彫刻用樹脂組成物を、「本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物」又は「本発明の樹脂組成物」ともいう。
【0009】
特許文献1及び2に記載されているようなレーザー彫刻用樹脂を使用した場合、リンス性及びインキ転移性(溶剤インキ適性)が十分でないという問題があった。
今回、本発明者が鋭意検討した結果、成分A及び成分Bを予めポリマー化せずにレーザー彫刻用樹脂組成物に含有させ、架橋工程において、成分Aと成分Bとの反応を進めながら、同時に架橋することによって、従来の予めポリマー化した樹脂を使用する場合に比較して、溶剤インキ適性が向上し、更に、得られるレリーフ印刷版の耐水性と良好なリンス性が両立し、更に、彫刻感度に優れたレーザー彫刻用印刷版原版が得られることを見出した。
【0010】
なお、本発明において、成分A及び成分Bを含むレーザー彫刻用樹脂組成物において、層形成工程前に重合反応が生じることを排除するものではなく、少なくとも成分A及び成分Bの一部は重合せずにそのままの状態で存在していればよい。
成分Aのレーザー彫刻用樹脂組成物への添加量の総量を100重量%として、層形成工程の直前の時点において、50重量%以上がそのままの状態(成分Aの状態)で存在していることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましい。
また、成分Bのレーザー彫刻用樹脂組成物への添加量の総量を100重量%として、層形成工程の直前の時点において、50重量%以上がそのままの状態(成分Bの状態)で存在していることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましい。
なお、層形成工程における乾燥工程等、及び、架橋工程において、重合反応が進行することが好ましく、成分Aのレーザー彫刻用樹脂組成物への添加量の総量を100重量%として、架橋工程後において、そのままの状態(成分Aの状態)で存在している成分Aは50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下がより好ましく、10重量%以下が更に好ましく、成分Aが残存していないことが最も好ましい。また、成分Bのレーザー彫刻用樹脂組成物への添加量の総量を100重量%として、架橋工程後において、そのままの状態(成分Bの状態)で存在している成分Bは50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下がより好ましく、10重量%以下が更に好ましく、成分Bが残存していないことが最も好ましい。
成分A及び成分Bが上記の量で存在すると、得られるレリーフ印刷版原版のリンス性に優れ、かつ、溶剤インキ適性及び耐刷性に優れたレリーフ印刷版を得ることができるので好ましい。
【0011】
なお、本明細書では、レリーフ印刷版原版の説明に関し、前記成分A及び成分Bを含有し、レーザー彫刻に供する画像形成層としての、表面が平坦な層であり、かつ未架橋の架橋性層をレリーフ形成層といい、前記レリーフ形成層を架橋した層を架橋レリーフ形成層といい、これをレーザー彫刻して表面に凹凸を形成した層をレリーフ層という。
以下、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0012】
(成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分A)イソシアナト基平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物を含有する。
前記成分Aのイソシアナト基平均数fnは2より大きければ特に制限されないが、好ましくは2より大きく4以下であり、より好ましくは2.2以上3.8以下、更に好ましくは2.4以上3.6以下である。平均イソシアナト基平均数fnが2以下であると架橋密度が不十分となる。イソシアナト基平均数fnが上記範囲内であれば、単一のイソシアネート化合物であってもよく、また、イソシアネート化合物の製造時に副生する未反応のイソシアネート化合物などを含んでいてもよい。イソシアナト基平均数fnは以下の式により求められる。
【0013】
【数1】

【0014】
本発明で用いる、成分Aは、イソシアヌレート、ウレトジオン、アロハネート、ビウレットからなる群より選択される少なくとも1種の化学構造を含むことが好ましい。
イソシアヌレート構造を有する成分Aとしては例えばイソシアヌレート3量体、イソシアヌレート5量体が挙げられ、また、イソシアヌレート7量体、9量体以上の多量体も存在する。
イソシアヌレート3量体とは、ジイソシアネートモノマー3分子からなる、イソシアヌレート基を有するポリイソシアネートであり、下記式(2)で示される。
【0015】
【化1】

【0016】
式(2)中、Rはジイソシアネートモノマー残基を表す。
【0017】
また、イソシアヌレート5量体とは、ジイソシアネートモノマー6分子からなる、イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートであり、下記式(3)で示される。
【0018】
【化2】

【0019】
式(3)中、Rはジイソシアネートモノマー残基を表す。
【0020】
アロファネート構造を有する化合物とはモノアルコールの水酸基とイソシアナト基から形成され、下記式(4)で示される。
【0021】
【化3】

【0022】
ウレトジオン構造を有する化合物としてはたとえばウレトジオン2量体があげられる。ウレトジオン2量体とは、ジイソシアネートモノマー2分子からなる、ウレトジオン基を有する化合物であり、下記式(5)で示される。
【0023】
【化4】

【0024】
式(5)中、Rはジイソシアネートモノマー残基を表す。
【0025】
ビウレット構造を有する化合物とはウレアとイソシアナト基から形成され、下記式(6)で示される。
【0026】
【化5】

【0027】
式(6)中、Rはジイソシアネートモノマー残基を表す。
【0028】
成分Aとして従来公知のイソシアナト基平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物を用いることができる。また、種々のイソシアネート化合物を原料として成分Aを生成することもできる。原料となるイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート化合物や、これ以外のポリイソシアネート化合物を用いることができる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物、芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、芳香族ジイソシアネート化合物等を用いることができる。
【0029】
成分Aの原料となる脂肪族ジイソシアネート化合物としては特に制限されないが、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネ−ト、1,3−ペンタメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、リジンジイソシアネ−ト等を挙げることができる。
【0030】
成分Aの原料となる脂環式ジイソシアネート化合物としては特に制限されないが、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等を挙げることができる。
成分Aの原料となる芳香脂肪族ジイソシアネート化合物としては、1,3−キシリレンジイソシアネ−ト、1,4−キシリレンジイソシアネ−ト、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等を挙げることができる。
【0031】
成分Aの原料となる芳香族ジイソシアネート化合物としては特に制限されないが、m−フェニレンジイソシアネ−ト、p−フェニレンジイソシアネ−ト、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、ナフチレン−1,4−ジイソシアネ−ト、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルエ−テルジイソシアネ−ト、2−ニトロジフェニル−4,4’−ジイソシアネ−ト、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネ−ト、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシネ−ト、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネ−ト、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジイソシアネ−トなどを挙げることができる。
成分Aの原料イソシアネートとして、上記に例示したイソシアネート化合物を単独又は組み合わせて使用することができる。
【0032】
成分Aの原料イソシアネート化合物として好ましいものとしては、トリレンジイソシアネート(以下TDIと略す)、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略す)、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDIと略す)、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIと略す)、ジフェニルメタンジイソシアネートダイマー化合物を含有するジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレトジオン環及びイソシアヌレート環含有変性体が挙げられ、これらを単独、又は組み合わせて使用することができる。耐候性の点では、HDI又はIPDIがより好ましく、機械特性の点からはMDI又はTDIがより好ましい。また、イソシアネートの種類の豊富さからHDIがより更に好ましい。
上記原料となるイソシアネート化合物より製造される成分Aとしては例えばヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート環含有変性体、ウレトジオン環含有変性体、アロハネート含有変性体、ビウレット含有変性体が挙げられ、これらを単独、又は、組み合わせて使用することができる。耐溶剤性の観点からイソシアヌレート環含有変性体が好ましい。
【0033】
成分Aとして上市されている製品を採用することもでき、デュラネートTPA−100、デュラネートTKA−100、デュラネートTLA−100、デュラネートTSA−100、デュラネートTSE−100、デュラネートTSS−100、デュラネートTSR−100、デュラネート24A−100(以上、旭化成(株)製)、が例示できる。
【0034】
樹脂組成物中の成分Aの含有量は、揮発性成分を除いた固形分の総量に対して5〜80重量%であることが好ましく、15〜60重量%であることがより好ましく、20〜50重量%であることが更に好ましい。
成分Aの含有量が上記範囲内であると、インキ転移性が良好であるので好ましい。
【0035】
(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物
本発明の樹脂組成物は、(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を含有する。
なお、前記活性水素とは、−OH、−SH、−NH−、−NH2、−COOH等における水素原子を意味し、成分Aのイソシアナト基との反応性を有する水素原子を意味する。これらの中でも、活性水素としては、−OH、−NH−又は−NH2における水素原子であることが好ましい。
成分Bは、1分子中に活性水素を2つ以上有するものであれば、その上限は特に限定されないが、2〜6であることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2〜3であることが更に好ましく、2であることが特に好ましい。成分Bの1分子中の活性水素が2つ未満であると、成分Aと十分に反応することができない。成分Bの1分子中の活性水素が6以下であると、得られる印刷板原版のリンス性に優れるので好ましい。
【0036】
成分Bは分子中にシロキサン結合を含む必要がある。
[シロキサン結合]
シロキサン結合について説明する。シロキサン結合とはケイ素(Si)と酸素(O)が交互に結合した分子構造を意味する。
本発明の樹脂組成物を用いて得られたレリーフ印刷版が優れた溶剤インキ適性を有することに関する機構について詳細は明らかではないが、成分B中に安定的に結合しているシロキサン結合により、添加物として添加するシロキサン結合などよりもインキとの親和性が低いため、溶剤インキ適性が向上するものと発明者は推定している。
前記成分Bは、下記平均組成式(1)で表されるシリコーン化合物から得られたものであることが好ましい。
prsSiO(4-p-r-s)/2 (1)
【0037】
式(1)中、Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基若しくは炭素数6〜20のアリール基で置換された炭素数1〜30(置換前の炭素数)のアルキル基、ハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜30のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基又はその塩を含む1価の基、スルホ基又はその塩を含む1価の基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭化水素基を表し、Q及びXは、各々、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基若しくは炭素数6〜20のアリール基で置換された炭素数1〜30のアルキル基、ハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜30のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基又はその塩を含む1価の基、スルホ基又はその塩を含む1価の基、及びポリオキシアルキレン基からなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭化水素基を表し、p,r及びsは、0<p<4、0≦r<4、0≦s<4、及び(p+r+s)<4を満たす数である。
【0038】
本実施の形態において、成分Bはシロキサン結合を導入するための、シロキサン結合を有する化合物から得られうる。
シロキサン結合を導入するためのシロキサン結合を有する化合物としては、例えばシリコーンオイルが挙げられる。シリコーンオイルとしてはジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等の低粘度から高粘度のオルガノポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン、高重合度のガム状ジメチルポリシロキサン、ガム状のジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等のシリコーンゴム、及びシリコーンゴムの環状シロキサン溶液、トリメチルシロキシケイ酸、トリメチルシロキシケイ酸の環状シロキサン溶液、ステアロキシリコーン等の高級アルコキシ変性シリコーン、高級脂肪酸変性シリコーンなどが挙げられる。
【0039】
本発明において成分Bは、上記のシロキサン結合を有する化合物を変性することによっても、得ることができる。
例としてモノアミン変性シリコーンオイル、ジアミン変性シリコーンオイル、特殊アミノ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、反応性シリコーンオイルシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、シラノール変性シリコーンオイル、側鎖アミノ・両末端メトキシ変性シリコーンオイル、ジオール変性シリコーンオイルが挙げられる。これら活性水素を有するシリコーンオイルを用いることができる。
【0040】
活性水素を分子中に2つ以上有するシリコーンオイルの中でも両末端変性シリコーンオイルが好ましい。例として両末端アミノ変性シリコーンオイル、両末端カルビノール変性シリコーンオイル、両末端ポリエーテル変性シリコーンオイル、両末端メルカプト変性シリコーンオイル、両末端カルボキシ変性シリコーンオイル、両末端フェノール変性シリコーンオイル、両末端シラノール変性シリコーンオイル、が挙げられる。
また、片末端変性シリコーンオイルや側鎖変性シリコーンオイルも使用することができる。例えば、片末端ジオール変性シリコーンオイル、側鎖モノアミン変性シリコーンオイル、側鎖ジアミン変性シリコーンオイル、側鎖カルビノール変性シリコーンオイル、側鎖カルボキシ変性シリコーンオイル、側鎖アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、側鎖エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、などが挙げられる。
【0041】
中でも反応性、臭いや刺激性などの取り扱い性の観点から両末端カルビノール変性シリコーンオイル、両末端アミノ変性シリコーンオイル、片末端ジオール変性シリコーンオイルが好ましく、両末端カルビノール変性シリコーンオイル、片末端ジオール変性シリコーンオイルがより好ましく、両末端カルビノール変性シリコーンオイルが更に好ましい。
また、成分Bの数平均分子量は、好ましくは500以上30,000以下、より好ましくは500以上20,000以下である。この範囲であれば、シロキサン結合による溶剤インキ適性が十分に発揮され、また流動性、及び、成分Bと成分Aとの相溶性が確保できる傾向にあるため取り扱いが容易であり、好ましい。ここでいう数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
成分Bとして、両末端変性シリコーンオイルを使用する場合、成分Bの数平均分子量は、500以上1万以下であることが好ましく、500以上5,000以下であることがより好ましく、500以上3,000以下であることが更に好ましい。
成分Bとして、片末端変性シリコーンオイル及び/又は側鎖変性シリコーンオイルを使用する場合、成分Bの数平均分子量は1,000以上30,000以下であることが好ましく、10,000以上20,000以下であることがより好ましい。
【0042】
成分Bとして上市されている製品を採用することもでき、両末端アミノ変性シリコーンオイルとしては、KF−8010、X−22−161A(信越化学工業(株)製);両末端カルビノール変性シリコーンオイルとしては、X−22−160AS、KF−6003(以上、信越化学工業(株)製)、BY 16−004(東レ・ダウコーニング(株)製);片末端ジオール変性シリコーンオイルとしては、X−22−176DX、X−22−176F(以上、信越化学工業(株)製)が例示できる。
【0043】
レーザー彫刻用樹脂組成物における成分Bの含有量は、揮発性成分(溶剤)を除いた固形分に対して5〜80重量%であることが好ましく、15〜60重量%であることがより好ましく、30〜50重量%であることが更に好ましい。
なお、反応性の観点から、成分A中のイソシアナト基と、成分B中の活性水素との当量(モル比)が70:30〜30:70であることが好ましく、60:40〜40:60であることがより好ましく、55:45〜45:55であることが更に好ましい。前記範囲となるように、成分A及び成分Bの添加量を適宜調整することが好ましい。
【0044】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分A及び成分Bを必須の成分とし、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、(成分C)分子中にシロキサン結合を含まず、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物、(成分D)ラジカル重合性化合物、(成分E)重合開始剤、(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤、(成分G)可塑剤、(成分H)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物、等が例示できるが、これに限定されない。
なお、成分C〜成分Hの各化合物は、成分A及び成分Bを除くものであり、文言上、成分A又は成分Bに該当し、かつ、成分C〜成分Hにも該当する化合物は、成分A又は成分Bであるとする。
【0045】
(成分C)分子中にシロキサン結合を含まず、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分C)分子中にシロキサン結合を含まず、活性水素を2つ以上有する化合物を含有することが好ましい。
成分Cは、反応の進行が速く、高強度な膜が得られる点から、第一級アミノ基及び酸無水物基よりなる群から選ばれた官能基を1つ以上有する化合物、又は、第二級アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、フェノール性ヒドロキシル基及びヒドロキシル基よりなる群から選ばれた官能基を2つ以上有する化合物であることが好ましく、第一級アミノ基及び酸無水物基よりなる群から選ばれた官能基を1つ以上有する化合物、又は、第二級アミノ基及びメルカプト基よりなる群から選ばれた官能基を2つ以上有する化合物であることがより好ましく、第一級アミノ基及び酸無水物基よりなる群から選ばれた官能基を1つ以上有する化合物であることが更に好ましい。
【0046】
第一級アミノ基を少なくとも1つ有する化合物としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。
例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、オレイルアミン、2−エチルヘキシルアミン等の第一級アルキルアミン類、アニリン、4−アミノアセトフェノン、p−アニシジン、2−アミノアントラセン、1−ナフチルアミン等の第一級アニリン類、モノエタノールアミン、2−エトキシエタノールアミン、2−ヒドロキシプロパノールアミン等の第一級アルカノールアミン類、ヘキサンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン類、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン類、1,4−フェニレンジアミン、2,3−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラキノン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のポリアニリン類、ポリアミン類とアルデヒド化合物と一価又は多価フェノール類との重縮合物からなるマンニッヒ塩基、ポリアミン類とポリカルボン酸やダイマー酸との反応により得られるポリアミドポリアミン類が挙げられる。
これらの中でも、高度な三次元架橋を形勢するのに適していることから、脂肪族ポリアミン類、脂環式ポリアミン類、ポリアニリン類が好ましく、特にヘキサンジアミン、トリエチレンテトラミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンがより好ましい。
【0047】
第二級アミノ基を少なくとも2つ有する化合物としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。
例えば、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N,N’−ジイソプロピルエチレンジアミン、2,5−ジメチルピペラジン、N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、ピペラジン、ホモピペラジン、2−メチルピペラジン等が挙げられる。
【0048】
酸無水物基を少なくとも1つ有する化合物としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。
例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水ナジック酸、水素化無水ナジック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの酸無水物化合物を使用することができる。これらの中でも、特に好ましくは無水メチルヘキサヒドロフタル酸を用いることで、硬化収縮が少なく、透明性を有し、高強度な硬化膜が得られる。
【0049】
メルカプト基を少なくとも2つ有する化合物としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。
例えば、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,12−ドデカンジチオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジチオール、3−メチル−1,5−ペンタンジチオール、2−メチル−1,8−オクタンジチオール等のアルカンジチオールや、1,4−シクロヘキサンジチオール等のシクロアルカンジチオールや、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)ジスルフィド、2,2’−(エチレンジチオ)ジエタンチオール等の炭素鎖中にヘテロ原子を含有するアルカンジチオールや、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジオキサン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン等の炭素鎖中にヘテロ原子及び脂環構造を含有するアルカンジチオールや、1,1,1−トリス(メルカプトメチル)エタン、2−エーテル−2−メルカプトメチル−1,3−プロパンジチオール、1,8−メルカプト−4−メルカプトメチル−3,6−チアオクタン等のアルカントリチオールや、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、3,3’−チオビス(プロパン−1,2−ジチオール)、2,2’−チオビス(プロパン−1,3−ジチオール)等のアルカンテトラチオール等が挙げられる。
【0050】
カルボキシル基を少なくとも2つ有する化合物としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。
例えば、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、ナジック酸、水素化ナジック酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0051】
フェノール性ヒドロキシ基を少なくとも2つ有する化合物としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。
例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型樹脂等の多官能型フェノール樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;ビスフェノールS等の硫黄原子含有型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0052】
ヒドロキシル基を少なくとも2つ有する化合物としては、特に限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。
例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−テトラメチレンジオール、1,3−テトラメチレンジオール、2−メチル−1,3−トリメチレンジオール、1,5−ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレンジオール、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4−シクロヘキサンジオール等)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトールなど)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール類などが挙げられる。
【0053】
成分Cの好ましい具体例としては、下記に示す化合物が挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。
【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分Cを1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
成分Cの含有量としては、樹脂組成物の全固形分量に対し、0.01〜40重量%であることが好ましく、0.05〜30重量%であることがより好ましく、0.1〜20重量%であることが更に好ましい。
【0057】
(成分D)ラジカル重合性化合物
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、ラジカル重合性化合物を含有することが好ましい。ラジカル重合性化合物としては、多官能エチレン性不飽和化合物が好ましく、前記多官能エチレン性不飽和化合物と共に、単官能エチレン性不飽和化合物を含有していてもよい。
(成分D−1)多官能エチレン性不飽和化合物
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分Dとして、(成分D−1)多官能エチレン性不飽和化合物を含有することが好ましい。
多官能エチレン性不飽和化合物としては、末端エチレン性不飽和基を2個〜20個有する化合物が好ましい。このような化合物群は当産業分野において広く知られるものであり、本発明においてはこれらを特に制限無く用いることができる。これらは、例えば、モノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの共重合体、並びにそれらの混合物などの化学的形態をもつ。
多官能エチレン性不飽和化合物におけるエチレン不飽和基が由来する化合物の例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基や、アミノ基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル、アミド類と多官能イソシアネート類、エポキシ類との付加反応物、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアナト基や、エポキシ基、等の親電子性置換基を有する、不飽和カルボン酸エステル、アミド類と単官能又は多官能のアルコール類、アミン類との付加反応物、ハロゲン基や、トシルオキシ基、等の脱離性置換基を有する、不飽和カルボン酸エステル、アミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、ビニル化合物、アリル化合物、不飽和ホスホン酸、スチレン等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
【0058】
前記多官能エチレン性不飽和化合物に含まれるエチレン性不飽和基は、反応性の観点でアクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、アリル化合物の各残基が好ましい。また、耐刷性の観点からは多官能エチレン性不飽和化合物はエチレン性不飽和基を3個以上有することがより好ましい。
【0059】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0060】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等が挙げられる。
【0061】
イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等が挙げられる。
【0062】
クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラクロトネート等が挙げられる。
【0063】
イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート等が挙げられる。
【0064】
マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等が挙げられる。
【0065】
その他のエステルの例として、例えば、特公昭46−27926号、特公昭51−47334号、特開昭57−196231号各公報記載の脂肪族アルコール系エステル類や、特開昭59−5240号、特開昭59−5241号、特開平2−226149号各公報記載の芳香族系骨格を有するもの、特開平1−165613号公報記載のアミノ基を含有するもの等も好適に用いられる。
【0066】
上記エステルモノマーは混合物としても使用することができる。
【0067】
また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビスメタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等が挙げられる。
【0068】
その他の好ましいアミド系モノマーの例としては、特公昭54−21726号公報記載のシクロへキシレン構造を有すものを挙げることができる。
【0069】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアナト基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(i)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0070】
CH2=C(R)COOCH2CH(R’)OH (i)
(ただし、R及びR’は、それぞれ、H又はCH3を示す。)
【0071】
また、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号各公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号、特公昭56−17654号、特公昭62−39417号、特公昭62−39418号各公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類も好適である。
【0072】
更に、特開昭63−277653号、特開昭63−260909号、特開平1−105238号各公報に記載される、分子内にアミノ構造を有する付加重合性化合物類を用いることによって、短時間で硬化組成物を得ることができる。
【0073】
その他の例としては、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートを挙げることができる。また、特公昭46−43946号、特公平1−40337号、特公平1−40336号各公報記載の特定の不飽和化合物や、特開平2−25493号公報記載のビニルホスホン酸系化合物等も挙げることができる。また、ある場合には、特開昭61−22048号公報記載のペルフルオロアルキル基を含有する構造が好適に使用される。更に、日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0074】
ビニル化合物としては、ブタンジオール−1,4−ジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、1,2−プロパンジオールジビニルエーテル、1,3−プロパンジオールジビニルエーテル、1,3−ブタンジオールジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ソルビトールテトラビニルエーテル、ソルビトールペンタビニルエーテル、エチレングリコールジエチレンビニルエーテル、エチレングリコールジプロピレンビニルエーテル、トリメチロールプロパントリエチレンビニルエーテル、トリメチロールプロパンジエチレンビニルエーテル、ペンタエリスリトールジエチレンビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリエチレンビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラエチレンビニルエーテル、1,1,1−トリス〔4−(2−ビニロキシエトキシ)フェニル〕エタン、ビスフェノールAジビニロキシエチルエーテル、アジピン酸ジビニル等が挙げられる。
【0075】
アリル化合物としては、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、1,4−シクロヘキサンジアリルエーテル、1,4−ジエチルシクロヘキシルジアリルエーテル、1,8−オクタンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールエタントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタアリルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサアリルエーテル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、イソシアヌル酸トリアリル、リン酸トリアリル等が挙げられる。
【0076】
特に、成分A及び成分Bとの相溶解性に優れ、かつ架橋部分がアクリル樹脂と同じ低温分解性の骨格であることから、彫刻感度を高める点で、成分D−1としては、(メタ)アクリレート化合物がより好ましい。
これらの中でも、成分D−1としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジベンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましく例示できる。
【0077】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分D−1を1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物中における(成分D−1)多官能エチレン性不飽和化合物の総含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、樹脂組成物の全固形分量に対し、0.1〜40重量%が好ましく、1〜20重量%の範囲がより好ましい。
【0078】
(成分D−2)単官能エチレン性不飽和化合物
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分D−2)単官能エチレン性不飽和化合物を含有していてもよいが、(成分D−2)単官能エチレン性不飽和化合物を含有する場合、(成分D−1)多官能エチレン性不飽和化合物と併用することが好ましい。
エチレン性不飽和結合を分子内に1つ有する単官能エチレン性不飽和化合物としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と一価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と1価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類とイソシアネート類又はエポキシ類との付加反応物、及び、単官能又は多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。
【0079】
更に、イソシアナト基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類とアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲノ基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル又はアミド類とアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。
また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。
重合性化合物としては、特に制限はなく、前記例示した化合物の他、公知の種々の化合物を用いることができ、例えば、特開2009−204962号公報に記載の化合物などを使用してもよい。
【0080】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分D−2を1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物中における(成分D−2)単官能エチレン性不飽和化合物の総含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、樹脂組成物の全固形分量に対し、0.1〜40重量%が好ましく、1〜20重量%の範囲がより好ましい。
【0081】
(成分E)重合開始剤
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、架橋構造形成を促進するため、(成分E)重合開始剤を含有することが好ましく、(成分D−1)多官能エチレン性不飽和化合物及び(成分E)重合開始剤を含有することがより好ましい。
重合開始剤は、当業者間で公知のものを制限なく使用することができる。以下、好ましい重合開始剤であるラジカル重合開始剤について詳述するが、本発明はこれらの記述により制限を受けるものではない。
【0082】
本発明において、好ましいラジカル重合開始剤としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(l)アゾ系化合物等が挙げられる。以下に、上記(a)〜(l)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
本発明においては、彫刻感度と、レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物がより好ましく、(c)有機過酸化物が特に好ましい。
【0084】
前記(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)メタロセン化合物、(j)活性エステル化合物、及び(k)炭素ハロゲン結合を有する化合物としては、特開2008−63554号公報の段落0074〜0118に挙げられている化合物を好ましく用いることができる。
また、(c)有機過酸化物及び(l)アゾ系化合物としては、以下に示す化合物が好ましい。
【0085】
(c)有機過酸化物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として好ましい(c)有機過酸化物としては、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましい。
【0086】
(l)アゾ系化合物
本発明に用いることができるラジカル重合開始剤として好ましい(l)アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロピオニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0087】
なお、本発明においては、前記(c)有機過酸化物が本発明における重合開始剤として、膜(レリーフ形成層)の架橋性の観点から好ましく、更に、予想外の効果として、彫刻感度向上の観点で特に好ましいことを見出した。
【0088】
(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤(以下、単に「光熱変換剤」ともいう。)を更に含有することが好ましい。すなわち、本発明における光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、レーザー彫刻時の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。このため、彫刻に用いるレーザー波長の光を吸収する光熱変換剤を選択することが好ましい。
【0089】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における架橋レリーフ形成層を、700〜1,300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合に、光熱変換剤としては、700〜1,300nmに極大吸収波長を有する化合物が用いることが好ましい。
本発明に用いることができる光熱変換剤としては、種々の染料又は顔料が用いられる。
【0090】
光熱変換剤のうち、染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、700〜1,300nmに極大吸収波長を有するものが好ましく挙げられ、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、ジインモニウム化合物、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
【0091】
本発明において好ましく用いられる染料としては、ヘプタメチンシアニン色素等のシアニン系色素、ペンタメチンオキソノール色素等のオキソノール系色素、フタロシアニン系色素及び特開2008−63554号公報の段落0124〜0137に記載の染料を挙げることができる。
【0092】
本発明において使用される光熱変換剤のうち、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0093】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち、好ましいものはカーボンブラックである。
【0094】
カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途(例えば、カラー用、ゴム用、乾電池用など)の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。
【0095】
本発明においては、比較的低い比表面積及び比較的低いDBP吸収を有するカーボンブラックや比表面積の大きい微細化されたカーボンブラックまでを使用することが好ましい。好適なカーボンブラックの例は、Printex(登録商標)U、Printex(登録商標)A、又はSpezialschwarz(登録商標)4(Degussa社製)、#45L(三菱化学(株)製)を含む。
【0096】
本発明に用いることができるカーボンブラックとしては、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が、150ml/100g未満であることが好ましい。100ml/100g以下であることがより好ましく、70ml/100g以下であることが更に好ましい。
また、カーボンブラックとしては、光熱変換により発生した熱を周囲のポリマー等に効率よく伝えることで彫刻感度が向上するという観点で、比表面積が少なくとも100m2/gである、伝導性カーボンブラックが好ましい。
【0097】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分Fを1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物中における(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤の含有量は、その分子固有の分子吸光係数の大きさにより大きく異なるが、樹脂組成物の全固形分に対し、0.01〜20重量%が好ましく、0.05〜10重量%がより好ましく、0.1〜5重量%が特に好ましい。
【0098】
(成分G)可塑剤
本発明の樹脂組成物は、フレキソ版として必要な柔軟性を付与するという観点から、(成分G)可塑剤を含有することが好ましい。
可塑剤としては、高分子の可塑剤として公知のものを用いることができ、限定されないが、例えば、高分子大辞典(初版、1994年、丸善(株)発行)の第211〜220頁に記載のアジピン酸誘導体、アゼライン酸誘導体、ベンゾイル酸誘導体、クエン酸誘導体、エポキシ誘導体、グリコール誘導体、炭化水素及び誘導体、オレイン酸誘導体、リン酸誘導体、フタル酸誘導体、ポリエステル系、リシノール酸誘導体、セバシン酸誘導体、ステアリン酸誘導体、スルホン酸誘導体、テルペン及び誘導体、トリメリット酸誘導体が挙げられる。これらの中でも、ガラス転移温度を低下させる効果の大きさという観点から、アジピン酸誘導体、クエン酸誘導体及びリン酸誘導体が好ましい。
アジピン酸誘導体としては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸2−ブトキシエチルが好ましい。
クエン酸誘導体としては、クエン酸トリブチルが好ましい。
リン酸誘導体としては、リン酸トリブチル、リン酸トリ2−エチルヘキシル、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリフェニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸t−ブチルフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル等が挙げられる。
【0099】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分Gを1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物における成分Gの含有量は、ガラス転移温度を室温以下に低下させるという観点から、固形分換算で、樹脂組成物の総重量を100重量%として、1〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、20〜30重量%が更に好ましい。
【0100】
(成分H)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分H)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物を含有することが好ましい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物に用いられる成分Hにおける「加水分解性シリル基」とは、加水分解性基を有するシリル基のことであり、加水分解性基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、ハロゲノ基、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、イソプロペノキシ基等を挙げることができる。シリル基は加水分解してシラノール基となり、シラノール基は脱水縮合してシロキサン結合が生成する。このような加水分解性シリル基又はシラノール基は下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0101】
【化8】

【0102】
前記式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、ヒドロキシル基、水素原子、又は、1価の有機基を表す。ただし、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、アリールオキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシル基を表す。また、波線部分は他の構造との結合位置を表す。
1〜R3が1価の有機基を表す場合の好ましい有機基としては、種々の有機溶剤への溶解性を付与できる観点から、炭素数1〜30のアルキル基が挙げられる。
前記式(1)中、ケイ素原子に結合する加水分解性基としては、特にアルコキシ基、ハロゲン原子が好ましい。
アルコキシ基としては、リンス性と耐刷性の観点から炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜15のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜5のアルコキシ基が更に好ましく、炭素数1〜3のアルコキシ基が特に好ましい。
また、ハロゲン原子としては、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が挙げられ、合成のしやすさ及び安定性の観点で、Cl原子及びBr原子が好ましく、Cl原子がより好ましい。
【0103】
成分Hは、前記式(1)で表される基を少なくとも1つ以上有する化合物であることが好ましく、前記式(1)で表される基を少なくとも2つ以上有する化合物であることがより好ましい。また、成分Hは、加水分解性シリル基を少なくとも2つ以上有する化合物が特に好ましく用いられる。
また、成分Hとしては、分子内にケイ素原子を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。化合物中に含まれるケイ素原子の数は2以上6以下が好ましく、2又は3が最も好ましい。
前記加水分解性基は、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、式(1)中における加水分解性基の総個数は2又は3の範囲であることが好ましく、3つの加水分解性基がケイ素原子に結合していることが特に好ましい。加水分解性基がケイ素原子に2個以上結合するときは、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0104】
前記アルコキシ基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ベンジルオキシ基などを挙げることができる。アルコキシ基の結合したアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基などのジメトキシシリル基;メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基などのモノアルコキシシリル基を挙げることができる。これらの各アルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよいし、異なるアルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよい。
前記アリールオキシ基としては、具体的には、例えば、フェノキシ基などを挙げることができる。アリールオキシ基の結合したアリールオキシシリル基としては、例えば、トリフェノキシシリル基などのトリアリールオキシシリル基を挙げることができる。
【0105】
本発明における成分Hの好ましい例としては、複数の前記式(1)で表される基が連結基を介して結合している化合物が挙げられ、このような連結基としては、効果の観点からスルフィド基、イミノ基、又は、ウレイレン基を含んで構成される連結基が好ましい。
スルフィド基、イミノ基、又は、ウレイレン基を有する連結基を含む成分Gの代表的な合成方法を以下に示す。
【0106】
(スルフィド基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法)
スルフィド基を含む連結基を有する成分H(以下、適宜、スルフィド連結基含有成分Hともいう。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Hと硫化アルカリの反応、メルカプト基を有する成分Hとハロゲン化炭化水素の反応、メルカプト基を有する成分Hとハロゲン化炭化水素基を有する成分Hの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Hとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Hとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Hとメルカプト基を有する成分Hの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とメルカプト基を有する成分Hの反応、ケトン類とメルカプト基を有する成分Hの反応、ジアゾニウム塩とメルカプト基を有する成分Hの反応、メルカプト基を有する成分Hとオキシラン類との反応、メルカプト基を有する成分Hとオキシラン基を有する成分Hの反応、メルカプタン類とオキシラン基を有する成分Hの反応、及び、メルカプト基を有する成分Hとアジリジン類との反応等から選択される合成法のいずれかにより合成される。
【0107】
(イミノ基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物の合成法)
イミノ基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物(以下、適宜、イミノ連結基含有成分Hともいう。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Hとハロゲン化炭化水素の反応、アミノ基を有する成分Hとハロゲン化炭化水素基を有する成分Hの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Hとアミン類の反応、アミノ基を有する成分Hとオキシラン類との反応、アミノ基を有する成分Hとオキシラン基を有する成分Hの反応、アミン類とオキシラン基を有する成分Hの反応、アミノ基を有する成分Hとアジリジン類との反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Hとアミン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Hとアミノ基を有する成分Hの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Hの反応、アセチレン性不飽和三重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Hの反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Hと有機アルカリ金属化合物の反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Hと有機アルカリ土類金属化合物の反応、及び、カルボニル化合物とアミノ基を有する成分Hの反応等から選択される合成法のいずれかにより合成される。
【0108】
(ウレイレン基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物の合成法)
ウレイレン基を含む連結基を有する加水分解性シリル基及びシラノール基の少なくとも1種を有する化合物(以下、適宜、ウレイレン連結基含有成分Hともいう。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Hとイソシアン酸エステル類の反応、アミノ基を有する成分Hとイソシアン酸エステルを有する成分Hの反応、及び、アミン類とイソシアン酸エステルを有する成分Hの反応等から選択される合成法のいずれかにより合成される。
【0109】
本発明における成分Hとしては、シランカップリング剤を用いることが好ましい。
以下、本発明における成分Hとして好適なシランカップリング剤について説明する。
本発明においては、Si原子に、アルコキシ基又はハロゲノ基が少なくとも1つ直接結合した官能基をシランカップリング基と呼び、このシランカップリング基を分子中に1つ以上有している化合物をシランカップリング剤ともいう。シランカップリング基は、Si原子にアルコキシ基又はハロゲン原子が2つ以上直接結合したものが好ましく、3つ以上直接結合したものが特に好ましい。
本発明における好ましい態様であるシランカップリング剤においては、Si原子に直接結合している官能基として、アルコキシ基及びハロゲン原子の少なくとも1つ以上の官能基を有することが必須であり、化合物の取り扱いやすさの観点からは、アルコキシ基を有するものが好ましい。
ここで、アルコキシ基としては、リンス性と耐刷性の観点から、炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜15のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜5のアルコキシ基が直に好ましい。
また、ハロゲン原子として、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が挙げられ、合成のしやすさ及び安定性の観点で、Cl原子及びBr原子が好ましく、Cl原子がより好ましい。
【0110】
本発明におけるシランカップリング剤は、膜の架橋度と柔軟性のバランスを良好に保つ観点で、上記シランカップリング基を分子内に1個以上10個以下含むことが好ましく、1個以上5個以下含むことがより好ましく、2個以上4個以下含むことが特に好ましい。
シランカップリング基が2つ以上ある場合には、シランカップリング基同士が連結基で連結されていることが好ましい。連結基としては、ヘテロ原子や炭化水素などの置換基を有してもよい2価以上の有機基が挙げられ、彫刻感度が高い点ではヘテロ原子(N、S、O)を含む態様が好ましく、S原子を含む連結基が特に好ましい。
このような観点からは、本発明におけるシランカップリング剤として、アルコキシ基としてメトキシ基又はエトキシ基、中でもメトキシ基がSi原子に結合したシランカップリング基を分子内に2個有し、かつ、これらシランカップリング基が、ヘテロ原子(特に好ましくはS原子)を含むアルキレン基を介して結合している化合物が好適である。より具体的には、スルフィド基を含む連結基を有するものが好ましい。
また、シランカップリング基同士を連結する連結基の他の好ましい態様として、オキシアルキレン基を有する連結基が挙げられる。連結基がオキシアルキレン基を含むことで、レーザー彫刻後の彫刻カスのリンス性が向上する。オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基が好ましく、オキシエチレン基が複数連結されたポリオキシエチレン鎖がより好ましい。ポリオキシエチレン鎖におけるオキシエチレン基の総数としては、2〜50が好ましく、3〜30がより好ましく、4〜15が特に好ましい。
【0111】
本発明に用いることができるシランカップリング剤の具体例を以下に示す。本発明におけるシランカップリング剤としては、例えば、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)デカン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ウレア、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができ、そのほかにも、以下の式で示す化合物が好ましいものとして挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。
【0112】
【化9】

【0113】
【化10】

【0114】
【化11】

【0115】
【化12】

【0116】
【化13】

【0117】
前記各式中、Rは以下の構造から選択される部分構造を表す。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。また、下記化学式中、Etはエチル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0118】
【化14】

【0119】
【化15】

【0120】
前記各式中、Rは以下に示す部分構造を表す。R1は前記したものと同義である。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0121】
【化16】

【0122】
成分Hは、適宜合成して得ることも可能であるが、市販品を用いることがコストの面から好ましい。成分Hとしては、例えば、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)、モメンティブパフォーマンスマテリアルズ(株)、チッソ(株)等から市販されているシラン製品、シランカップリング剤などの市販品がこれに相当するため、本発明の組成物に、これら市販品を、目的に応じて適宜選択して使用してもよい。
【0123】
本発明におけるシランカップリング剤として、前記化合物の他、1種のシランを用いて得られた部分加水分解縮合物、及び、2種以上のシランを用いて得られた部分共加水分解縮合物を用いることができる。以下、これらの化合物を「部分(共)加水分解縮合物」と称することがある。
【0124】
このような部分(共)加水分解縮合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メトキシプロポキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、へキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、シアノエチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン又はアセチルオキシシラン、エトキサリルオキシシラン等のアシロキシシランからなるシラン化合物から選択される1種以上を前駆体として用いて得られた部分(共)加水分解縮合物を挙げることができる。
【0125】
これらの部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、膜の相溶性の観点から、ケイ素上の置換基としてメチル基及びフェニル基から選択される置換基を有するシラン化合物であることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが好ましい前駆体として例示される。
【0126】
この場合、部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)〜100量体、好ましくは2量体〜50量体、更に好ましくは2量体〜30量体としたものが好適に使用できるし、2種以上のシラン化合物を原料とする部分(共)加水分解縮合物を使用することも可能である。
【0127】
なお、このような部分(共)加水分解縮合物はシリコーンアルコキシオリゴマーとして市販されているものを使用してもよく(例えば、信越化学工業(株)などから市販されている。)、また、常法に基づき、加水分解性シラン化合物に対し当量未満の加水分解水を反応させた後に、アルコール、塩酸等の副生物を除去することによって製造したものを使用してもよい。製造に際しては、前駆体となる原料の加水分解性シラン化合物として、例えば、上記したようなアルコキシシラン類やアシロキシシラン類を使用する場合は、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン等のアルカリ性有機物質等を反応触媒として部分加水分解縮合すればよく、クロロシラン類から直接製造する場合には、副生する塩酸を触媒として水及びアルコールを反応させればよい。
【0128】
(成分I)充填剤
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、レーザー彫刻用樹脂組成物の硬化皮膜の物性を改良するため、(成分I)充填剤を含有することが好ましい。
充填剤としては、公知の充填剤を用いることができ、例えば、無機粒子、有機樹脂粒子が挙げられる。
無機粒子としては、公知のものを用いることができ、カーボンナノチューブ、フラーレン、黒鉛、シリカ、アルミナ、アルミニウム、炭酸カルシウムなど例示できる。
有機樹脂粒子としては、公知のものを用いることができ、熱膨張性マイクロカプセルが好ましく例示できる。
熱膨張性マイクロカプセルとしては、EXPANCEL(Akzo Noble社製)が例示できる。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、成分Iを1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物中における(成分I)充填剤の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対し、0.01〜20重量%が好ましく、0.05〜10重量%がより好ましく、0.1〜5重量%が特に好ましい。
【0129】
(成分J)バインダーポリマー
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分J)バインダーポリマー(以下、単に「バインダーポリマー」ともいう。)を含有してもよいが、その含有量は、成分A及び成分Bの合計の含有量より少ないことが好ましく、成分A及び成分Bの合計の含有量の50重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることが更に好ましく、(成分J)バインダーポリマーを含有しないことが特に好ましい。
バインダーポリマーは、レーザー彫刻用樹脂組成物に含有される高分子成分であり、一般的な高分子化合物を適宜選択し、1種を単独使用するか、又は、2種以上を併用することができる。特に、レーザー彫刻用樹脂組成物を印刷版原版に用いる際は、レーザー彫刻性、インキ受与性、彫刻カス分散性などの種々の性能を考慮して選択することが好ましい。
バインダーポリマーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、アクリル樹脂、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択して用いることができる。
例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光又は加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。このようなポリマーは、特開2008−163081号公報の段落0038に記載されているものが好ましく挙げられる。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂や熱可塑性エラストマーが選択される。特開2008−163081号公報の段落0039〜0040に詳述されている。更に、レーザー彫刻用樹脂組成物を、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層に適用する場合であれば、レリーフ形成層用組成物の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。親水性ポリマーとしては、特開2008−163081号公報の段落0041に詳述されているものを使用することができる。
【0130】
加えて、加熱や露光により硬化させ、強度を向上させる目的に使用する場合には、分子内にエチレン性不飽和結合をもつポリマーが好ましく用いられる。
このようなポリマーとして、主鎖にエチレン性不飽和結合を含むポリマーとしては、例えば、SB(ポリスチレン−ポリブタジエン)、SBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等が挙げられる。
側鎖にエチレン性不飽和結合をもつポリマーとしては、後記のバインダーポリマーの骨格に、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基のようなエチレン性不飽和基を側鎖に導入することにより得られる。バインダーポリマー側鎖にエチレン性不飽和基を導入する方法は、(1)重合性基に保護基を結合させてなる重合性基前駆体を有する構成単位をポリマーに共重合させ、保護基を脱離させて重合性基とする方法、(2)水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基などの反応性基を複数有する高分子化合物を作製し、これらの反応性基と反応する基及びエチレン性不飽和基を有する化合物を高分子反応により導入する方法など、公知方法をとることができる。これらの方法によれば、高分子化合物中へのエチレン性不飽和基の導入量を制御することができる。
【0131】
バインダーポリマーは、ヒドロキシル基、シラノール基及び加水分解性シリル基等の反応性官能基を有するバインダーポリマーであることが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物が成分B−1を含有する場合、本発明の樹脂組成物は、バインダーポリマーとして、前記反応性官能基を有するバインダーポリマーを含有することがより好ましく、ヒドロキシル基を有するバインダーポリマーを含有することが更に好ましい。
【0132】
前記反応性官能基は、ポリマー分子中のいずれかに存在すればよいが、鎖状ポリマーの側鎖に存在することが好ましい。このようなポリマーとしては、ビニル共重合体(ポリビニルアルコールやポリビニルアセタールなどのビニルモノマーの共重合体及びその誘導体)やアクリル樹脂(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーの共重合体及びその誘導体)が好ましく例示できる。
【0133】
バインダーポリマーに反応性官能基を導入する方法は特に限定されず、反応性官能基を有する単量体を付加(共)重合又は重縮合する方法、反応性官能基に誘導可能な基を有するポリマーを合成した後、このポリマーを高分子反応により反応性官能基に誘導する方法が含まれる。
成分Jとしては、特に、(成分J−1)ヒドロキシル基を有するバインダーポリマーが好ましく用いられる。以下に説明する。
【0134】
(成分J−1)ヒドロキシル基を有するバインダーポリマー
以下、本発明の樹脂組成物におけるバンインダーポリマーとしては、(成分J−1)ヒドロキシル基を有するバインダーポリマー(以下、「特定ポリマー」ともいう。)が好ましい。この特定ポリマーは、水不溶であって、かつ、炭素数1〜4のアルコールに可溶であることが好ましい。
成分J−1として、水性インキ適性とUVインキ適性を両立しつつ、かつ彫刻感度が高く皮膜性も良好であるレリーフ形成層を与えるレーザー彫刻用樹脂組成物には、ポリビニルアセタール及びその誘導体、側鎖にヒドロキシル基を有するアクリル樹脂、及び、側鎖にヒドロキシル基を有するエポキシ樹脂等が好ましく挙げられる。
【0135】
成分J−1は、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上であることが好ましい。任意成分である(成分D)700nm〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤と組み合わせた場合に、バインダーポリマーのガラス転移温度(Tg)を20℃以上とすることにより、彫刻感度が向上する。このようなガラス転移温度を有するバインダーポリマーを以下、「非エラストマー」ともいう。バインダーポリマーのガラス転移温度の上限には制限はないが、200℃以下であることが取り扱い性の観点から好ましく、25℃以上120℃以下であることがより好ましい。
【0136】
ガラス転移温度が室温(20℃)以上のポリマーを用いる場合、特定ポリマーは常温ではガラス状態をとるが、このためゴム状態をとる場合に比較して、熱的な分子運動はかなり抑制された状態にある。レーザー彫刻においては、レーザー照射時に、赤外線レーザーが付与する熱に加え、所望により併用される(成分D)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤の機能により発生した熱が、周囲に存在する特定ポリマーに伝達され、これが熱分解、消散して、結果的に彫刻されて凹部が形成されると推定される。
特定ポリマーを用いた場合、特定ポリマーの熱的な分子運動が抑制された状態の中に光熱変換剤が存在すると特定ポリマーへの熱伝達と熱分解が効果的に起こるものと考えられ、このような効果によって彫刻感度が更に増大したものと推定される。
【0137】
本発明において好ましく用いられる非エラストマーであるポリマーの具体例を以下に挙げる。
【0138】
(1)ポリビニルアセタール及びその誘導体
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルを鹸化して得られる。)を環状アセタール化することにより得られる化合物である。また、ポリビニルアセタール誘導体は、前記ポリビニルアセタールを変性したり、他の共重合成分を加えたものである。
ポリビニルアセタール誘導体中のアセタール含量(原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数を100%とし、アセタール化されるビニルアルコール単位のモル%)は、30〜90%が好ましく、50〜85%がより好ましく、55〜78%が特に好ましい。
ポリビニルアセタール誘導体中のビニルアルコール単位としては、原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数に対して、10〜70モル%が好ましく、15〜50モル%がより好ましく、22〜45モル%が特に好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、その他の成分として、酢酸ビニル単位を有していてもよく、その含量としては0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%が更に好ましい。ポリビニルアセタール誘導体は、更に、その他の共重合単位を有していてもよい。
ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラール、ポリビニルプロピラール、ポリビニルエチラール、ポリビニルメチラールなどが挙げられる。中でも、ポリビニルブチラール誘導体(PVB)が好ましい。
ポリビニルブチラールは、通常、ポリビニルアルコールをブチラール化して得られるポリマーである。また、ポリビニルブチラール誘導体を用いてもよい。
ポリビニルブチラール誘導体の例として、水酸基の少なくとも一部をカルボキシル基等の酸基に変性した酸変性PVB、水酸基の一部を(メタ)アクリロイル基に変性した変性PVB、水酸基の少なくとも一部をアミノ基に変性した変性PVB、水酸基の少なくとも一部にエチレングリコールやプロピレングリコール及びこれらの複量体を導入した変性PVB等が挙げられる。
ポリビニルアセタールの分子量としては、彫刻感度と皮膜性のバランスを保つ観点で、重量平均分子量として5,000〜800,000であることが好ましく、8,000〜500,000であることがより好ましい。更に、彫刻カスのリンス性向上の観点からは、50,000〜300,000であることが特に好ましい。
【0139】
以下、ポリビニルアセタールの特に好ましい例として、ポリビニルブチラール(PVB)及びその誘導体を挙げて説明するが、これに限定されない。
ポリビニルブチラールの構造は、以下に示す通りであり、これらの構成単位を含んで構成される。
【0140】
【化17】

【0141】
上記式中、l、m及びnは上記式中のそれぞれの繰返し単位のポリビニルブチラール中における含有量(モル%)を表し、l+m+n=100の関係を満たす。ポリビニルブチラール及びその誘導体中のブチラール含量(上記式中におけるlの値)は、30〜90モル%が好ましく、40〜85モル%がより好ましく、45〜78モル%が特に好ましい。
彫刻感度と皮膜性とのバランスの観点から、ポリビニルブチラール及びその誘導体の重量平均分子量は、5,000〜800,000が好ましく、8,000〜500,000がより好ましく、彫刻カスのリンス性向上の観点からは、50,000〜300,000が特に好ましい。
【0142】
PVBの誘導体としては、市販品としても入手可能であり、その好ましい具体例としては、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で、積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズ、「エスレックK(KS)」シリーズ、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」が好ましい。更に好ましくは、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズと電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」である。これらのうち、特に好ましい市販品を、上記式中の、l、m、及びnの値と、分子量とともに以下に示す。積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズでは、「BL−1」(l=61、m=3、n=36、重量平均分子量:1.9万)、「BL−1H」(l=67、m=3、n=30、重量平均分子量:2.0万)、「BL−2」(l=61、m=3、n=36、重量平均分子量:約2.7万)、「BL−5」(l=75、m=4、n=21、重量平均分子量:3.2万)、「BL−S」(l=74、m=4、n=22、重量平均分子量:2.3万)、「BM−S」(l=73、m=5、n=22、重量平均分子量:5.3万)、「BH−S」(l=73、m=5、n=22、重量平均分子量:6.6万)が、また、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」シリーズでは「#3000−1」(l=71、m=1、n=28、重量平均分子量:7.4万)、「#3000−2」(l=71、m=1、n=28、重量平均分子量:9.0万)、「#3000−4」(l=71、m=1、n=28、重量平均分子量:11.7万)、「#4000−2」(l=71、m=1、n=28、重量平均分子量:15.2万)、「#6000−C」(l=64、m=1、n=35、重量平均分子量:30.8万)、「#6000−EP」(l=56、m=15、n=29、重量平均分子量:38.1万)、「#6000−CS」(l=74、m=1、n=25、重量平均分子量:32.2万)、「#6000−AS」(l=73、m=1、n=26、重量平均分子量:24.2万)が、それぞれ挙げられる。
PVB誘導体を特定ポリマーとして用いてレリーフ形成層を製膜する際には、溶剤に溶かした溶液をキャストし乾燥させる方法が、膜表面の平滑性の観点で好ましい。
【0143】
(2)アクリル樹脂(ただし、ブロック共重合体を除く。)
特定ポリマーとして用いることができるアクリル樹脂(ただし、ブロック共重合体を除く。)としては、公知のアクリル単量体を用いて得るアクリル樹脂であって、分子内にヒドロキシル基を有するものであればよい。
ヒドロキシル基を有するアクリル樹脂の合成に用いられるアクリル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類(メタ)アクリルアミド類であって分子内にヒドロキシル基を有するものが好ましい。この様な単量体の具体例としては例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタアクリル」のいずれか一方、又は、その両方を含む語であり、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリル」及び「メタアクリル」のいずれか一方、又は、その両方を含む語である。
【0144】
また、アクリル樹脂としては、上記ヒドロキシル基を有するアクリル単量体以外のアクリル単量体を共重合成分として含むこともできる。このようなアクリル単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アセトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体のモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
更に、ウレタン基やウレア基を有するアクリル単量体を含んで構成される変性アクリル樹脂も好ましく使用することができる。
これらの中でも、水性インキ耐性の観点で、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレートなど脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレート類が特に好ましい。
【0145】
(3)ノボラック樹脂
また、特定ポリマーとして、フェノール類とアルデヒド類を酸性条件下で縮合させた樹脂であるノボラック樹脂を用いることができる。
好ましいノボラック樹脂としては、例えばフェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、p−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、o−クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、オクチルフェノールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂、フェノール/クレゾール(m−,p−,o−又はm−/p−,m−/o−,o−/p−混合のいずれでもよい)の混合物とホルムアルデヒドから得られるノボラック樹脂などが挙げられる。
これらのノボラック樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000で、数平均分子量が400〜60,000のものが好ましい。
特定ポリマーとして、ヒドロキシル基を側鎖に有するエポキシ樹脂を用いることも可能である。好ましい具体例としては、ビスフェノールAとエピクロヒドリンの付加物を原料モノマーとして重合して得られるエポキシ樹脂が好ましい。
これらのエポキシ樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000であり、かつ、数平均分子量が400〜60,000のものが好ましい。
【0146】
特定ポリマーの中でも、レリーフ形成層としたときのリンス性及び耐刷性の観点でポリビニルブチラール誘導体が特に好ましい。
本発明における特定ポリマーに含まれるヒドロキシル基の含有量は、前記いずれの態様のポリマーにおいても、0.1〜15mmol/gであることが好ましく、0.5〜7mmol/gであることがより好ましい。
【0147】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、ヒドロキシル基を有しないポリマーなど特定ポリマーに包含されない公知のポリマーを含有してもよい。以下、このようなポリマーを一般ポリマーともいう。
一般ポリマーとしては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレアポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ヒドロキシエチレン単位を含む親水性ポリマー、アクリル樹脂(ただし、ブロック共重合体を除く。)、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマーなどから選択して用いることができる。
【0148】
例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光又は加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。このようなポリマーは、特開2008−163081号公報の段落0038に記載されているものが好ましく挙げられる。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂や熱可塑性エラストマーが選択される。特開2008−163081号公報の段落0039〜0040に詳述されている。更に、レリーフ形成層用組成物の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。親水性ポリマーとしては、特開2008−163081号公報の段落0041に詳述されているものを使用することができる。
【0149】
特定ポリマーの中でも、レリーフ形成層としたときのリンス性及び耐刷性の観点から、ポリビニルブチラール誘導体が特に好ましい。
特定ポリマーに含まれるヒドロキシル基の含有量は、前記いずれの態様のポリマーにおいても、0.1〜15mmol/gであることが好ましく、0.5〜7mmol/gであることがより好ましい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、成分Jを1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0150】
(成分K)溶剤
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、溶剤を含有していてもよい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製する際に用いる溶剤は、各成分の溶解性の観点から、主として非プロトン性の有機溶剤を用いることが好ましい。より具体的には、非プロトン性の有機溶剤/プロトン性有機溶剤=100/0〜50/50(重量比)で用いることが好ましく、100/0〜70/30(重量比)で用いることがより好ましく、100/0〜90/10(重量比)で用いることが特に好ましい。
非プロトン性の有機溶剤の好ましい具体例としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
プロトン性有機溶剤の好ましい具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールが挙げられる。
これらの中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0151】
<その他の添加剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、前記成分A〜成分K以外の添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、ワックス、プロセス油、金属酸化物、オゾン分解防止剤、老化防止剤、熱重合防止剤、着色剤、香料、アルコール交換反応触媒等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0152】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、彫刻感度向上のための添加剤として、ニトロセルロースや高熱伝導性物質を加えることがより好ましい。
ニトロセルロースは自己反応性化合物であるため、レーザー彫刻時、自身が発熱し、共存する親水性ポリマー等のバインダーポリマーの熱分解をアシストする。その結果、彫刻感度が向上すると推定される。
高熱伝導性物質は、熱伝達を補助する目的で添加され、熱伝導性物質としては、金属粒子等の無機化合物、導電性ポリマー等の有機化合物が挙げられる。金属粒子としては、粒径がマイクロメートルオーダーから数ナノメートルオーダーの、金微粒子、銀微粒子、銅微粒子が好ましい導電性ポリマーとしては、特に共役ポリマーが好ましく、具体的には、ポリアニリン、ポリチオフェンが挙げられる。
また、共増感剤を用いることで、レーザー彫刻用樹脂組成物を光硬化させる際の感度を更に向上させることができる。
更に、組成物の製造中又は保存中において重合性化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合禁止剤を添加することが好ましい。
レーザー彫刻用樹脂組成物の着色を目的として染料又は顔料等の着色剤を添加してもよい。これにより、画像部の視認性や、画像濃度測定機適性といった性質を向上させることができる。
【0153】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第1の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第2の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を架橋した架橋レリーフ形成層を有する。
本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、レーザー彫刻用樹脂組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、架橋される前の状態、及び、光又は熱により硬化された状態の両方又はいずれか一方のものをいう。
本発明において「レリーフ形成層」とは、架橋される前の状態の層をいい、すなわち、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、必要に応じ、乾燥が行われていてもよい。
架橋レリーフ形成層を有する印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
本発明において「架橋レリーフ形成層」とは、前記レリーフ形成層を架橋した層をいう。前記の架橋は、熱及び/又は光により行うことができる。また、前記架橋は樹脂組成物が硬化される反応であれば特に限定されず、成分B同士の反応、成分Bと他の成分との反応などによる架橋構造が例示できる。
また、本発明において「レリーフ層」とは、レリーフ印刷版におけるレーザーにより彫刻された層、すなわち、レーザー彫刻後の前記架橋レリーフ形成層をいう。
【0154】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記のような成分を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。(架橋)レリーフ形成層は、支持体上に設けられることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要により更に、支持体と(架橋)レリーフ形成層との間に接着層を、また、(架橋)レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
【0155】
<レリーフ形成層>
レリーフ形成層は、前記本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、熱架橋性の層であることが好ましい。
【0156】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させて架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、架橋レリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成してレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0157】
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記の如き成分を有するレーザー彫刻用樹脂組成物を、シート状又はスリーブ状に成形することで形成することができる。レリーフ形成層は、通常、後述する支持体上に設けられるが、製版、印刷用の装置に備えられたシリンダーなどの部材表面に直接形成したり、そこに配置して固定化したりすることもでき、必ずしも支持体を必要としない。
以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
【0158】
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PAN(ポリアクリロニトリル))やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PETフィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。
【0159】
<接着層>
レリーフ形成層を支持体上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。
接着層に使用し得る材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0160】
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面への傷や凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、25〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えば、PETのようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。保護フィルムは、剥離可能であることが好ましい。
【0161】
保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0162】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法)
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用塗布液組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法が挙げられる。また、レーザー彫刻用樹脂組成物を、支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して樹脂組成物から溶剤を除去する方法でもよい。
中でも、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋した架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製造方法であることが好ましい。
【0163】
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶剤を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることによって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0164】
<層形成工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
レリーフ形成層の形成方法としては、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用樹脂組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法や、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して溶剤を除去する方法が好ましく例示できる。
レーザー彫刻用樹脂組成物は、例えば、成分A及び成分B、並びに、任意成分として、成分C〜成分Jを適当な溶剤に溶解又は分散させ、次いで、これらの液を混合することによって製造できる。溶剤成分のほとんどは、レリーフ印刷版原版を製造する段階で除去することが好ましいので、溶剤としては、揮発しやすい低分子アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル)等を用い、かつ温度を調整するなどして溶剤の全添加量をできるだけ少なく抑えることが好ましい。
【0165】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における(架橋)レリーフ形成層の厚さは、架橋の前後において、0.05mm以上10mm以下が好ましく、0.05mm以上7mm以下がより好ましく、0.05mm以上3mm以下が更に好ましい。
【0166】
<架橋工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記レリーフ形成層を熱により架橋した架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程を含む製造方法である。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱することで、レリーフ形成層を架橋することができる(熱架橋工程)。熱により架橋を行うための加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
レリーフ形成層を熱架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。
なお、本発明において、前記架橋工程において、成分A及び成分Bの重合反応が生じる。
【0167】
また、光重合開始剤等を使用し、重合性化合物を重合し架橋を形成するため、光による架橋を更に行ってもよい。
レリーフ形成層が光重合開始剤を含有する場合には、光重合開始剤のトリガーとなる活性光線をレリーフ形成層に照射することで、レリーフ形成層を架橋することができる。
光は、レリーフ形成層全面に行うのが一般的である。光(「活性光線」ともいう。)としては可視光、紫外光、及び電子線が挙げられるが、紫外光が最も一般的である。レリーフ形成層の支持体等、レリーフ形成層を固定化するための基材側を裏面とすれば、表面に光を照射するだけでもよいが、支持体が活性光線を透過する透明なフィルムであれば、更に裏面からも光を照射することが好ましい。表面からの照射は、保護フィルムが存在する場合、これを設けたまま行ってもよいし、保護フィルムを剥離した後に行ってもよい。酸素の存在下では重合阻害が生じる恐れがあるので、レリーフ形成層に塩化ビニルシートを被せて真空引きした上で、活性光線の照射を行ってもよい。
【0168】
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光で架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含むことが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層を架橋及びレーザー彫刻して得られたレリーフ層を有するレリーフ印刷版であり、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたレリーフ印刷版であることが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、水性インキを印刷時に好適に使用することができる。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法における層形成工程及び架橋工程は、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法における層形成工程及び架橋工程と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0169】
<彫刻工程>
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程を含むことが好ましい。
彫刻工程は、前記架橋工程で架橋された架橋レリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋された架橋レリーフ形成層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、架橋レリーフ形成層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、架橋レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、架橋レリーフ形成層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で架橋レリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
【0170】
彫刻工程に用いられる赤外線レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザー(FC−LD)が好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率かつ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。
半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものが更に好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
【0171】
また、ファイバー付き半導体レーザーは、更に光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ、安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、「実用レーザー技術」電子通信学会編等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法に好適に使用し得るファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
【0172】
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記リンス工程、乾燥工程、及び/又は、後架橋工程を含んでもよい。
リンス工程:彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程。
乾燥工程:彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程。
後架橋工程:彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程。
前記工程を経た後、彫刻表面に彫刻カスが付着しているため、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流すリンス工程を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0173】
本発明に用いることができるリンス液のpHは、9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、11以上であることが更に好ましい。また、リンス液のpHは、14以下であることが好ましく、13.5以下であることがより好ましく、13.2以下であることが更に好ましく、12.5以下であることが特に好ましい。上記範囲であると、取り扱いが容易である。
リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜、酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
本発明に用いることができるリンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。
また、リンス液は、水以外の溶剤として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶剤を含有していてもよい。
【0174】
リンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。
【0175】
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。更に、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の使用量は特に限定する必要はないが、リンス液の全重量に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.05〜10重量%であることがより好ましい。
【0176】
以上のようにして、支持体等の任意の基材表面にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上7mm以下、特に好ましくは0.05mm以上3mm以下である。
【0177】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、25℃において、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0178】
本発明のレリーフ印刷版は、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ、及び、UVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。本発明のレリーフ印刷版は、リンス性に優れており彫刻カスの残存がなく、かつ、得られたレリーフ層が耐刷性に優れ、長期間にわたりレリーフ層の塑性変形や耐刷性低下の懸念がなく、印刷が実施できる。
【実施例】
【0179】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例におけるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に断らない限りにおいて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定した値を表示している。
【0180】
なお、各実施例及び比較例で使用した成分の詳細は以下の通りである。
(成分A)
デュラネート TPA−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:600、イソシアナト基重量%:23重量%、イソシアナト基平均数fn:3.3)
デュラネート TKA−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:660、イソシアナト基重量%:21.7重量%、イソシアナト基平均数fn:3.4)
デュラネート TLA−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:540、イソシアナト基重量%:23.4重量%、イソシアナト基平均数fn:3.0)
デュラネート TSE−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:860、イソシアナト基重量%:12.2重量%、イソシアナト基平均数fn:2.5)
デュラネート TSA−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:560、イソシアナト基重量%:20.7重量%、イソシアナト基平均数fn:2.8)
デュラネート TSS−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:610、イソシアナト基重量%:17.8重量%、イソシアナト基平均数fn:2.6)
デュラネート TSR−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:520、イソシアナト基重量%:20.4重量%、イソシアナト基平均数fn:2.5)
デュラネート 24A−100:ヘキサメチレンジイソシアネート無黄変型ポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ(株)製、数平均分子量:560、イソシアナト基重量%:23.5重量%、イソシアナト基平均数fn:3.1)
【0181】
(成分B)
KF−6003(両末端カルビノール変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
X−22−160AS(両末端カルビノール変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
BY16−004(両末端カルビノール変性シリコーンオイル、東レ・ダウコーニング(株)製)
KF−8010(両末端アミノ変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
X−22−161A(両末端アミノ変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
X−22−176DX(片末端ジオール変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
X−22−176F(片末端ジオール変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
X−22−176D(片末端ジオール変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
KF−96−10(ジメチルシリコーンオイル、信越化学工業(株)製)
【0182】
(成分C)
PCDL T4672(デュラノール T4672、ポリカーボネートジオール、旭化成(株)製)
ジエチレングリコール(和光純薬工業(株)製)
トリメチロールプロパン(東京化成工業(株)製)
【0183】
(成分D)
パーブチルZ(t−ブチルパーオキシベンゾエート、日本油脂(株)製)
(成分E)
ジエチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業(株)製)
(成分F)
カーボンブラック#45L(三菱化学(株)製、粒子径:24nm、比表面積:125m2/g、DBP吸油量:45cm3/100g)
(成分G)
RS−540(アデカサイザーRS−540、(株)ADEKA製)
(成分H)
KBE−846(シランカップリング剤、(CH3CH2O)3Si−(CH23−SSSS−(CH23−Si(OCH2CH33、信越化学工業(株)製)
【0184】
(実施例1〜16、及び、比較例1〜4)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
撹拌羽及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、表1に記載の成分Aを35重量部、表1に記載の成分Bを50重量部、表1に記載の成分Cを10重量部、表1に記載の成分Eを15重量部、表1に記載の成分Gを10重量部入れ、この混合液を撹拌しながら70℃で30分間加熱した。
その後、混合液を40℃にし、表1に記載の成分Dを1重量部、表1に記載の成分Fを2重量部及び表1に記載の成分Hを5重量部添加して30分間撹拌した。
その後、香料として酢酸イソボルニル(和光純薬工業(株)製)を0.1重量%(樹脂組成物の全固形分量に対し)添加し、40℃で10分間撹拌した。
この操作により、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用樹脂組成物)をそれぞれ得た。なお、表1に「なし」と記載されている場合、当該成分は上記において添加しなかった(添加しなかった重量分は、その他素材の添加量比率は同じで、全体の添加量を増やすことで補填した。)。
この操作により、流動性のある架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用樹脂組成物)をそれぞれ得た。なお、表1に「なし」と記載されている場合、当該成分は上記において添加しなかった。
【0185】
なお、比較例1においては、成分A及び成分Bの代わりに、以下の樹脂Aを85重量部添加した。
−樹脂Aの調製−
温度計、撹拌機、還流器を備えたセパラブルフラスコに、信越化学工業(株)製、両末端カルビノール変性シリコーンオイルであるKF−6003(数平均分子量5,100、OH価22.0)を413.72重量部と、トリレンジイソシアネート11.05重量部を加え、80℃加温下で約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート16.24重量部を添加し、更に約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子当たり平均約2.0個)である、数平均分子量約8,000の樹脂Aを調製した。この樹脂は、主鎖にシロキサン結合を含み、20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ、外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0186】
また、比較例2においては、成分A及び成分Bの代わりに、以下の樹脂Bを85重量部添加した。
−樹脂Bの調製−
温度計、撹拌機、還流器を備えたセパラブルフラスコに、信越化学工業(株)製、片末端ジオール変性シリコーンオイルであるX−22−176DF(数平均分子量3,206、OH価35.0)を474.24重量部と、トリレンジイソシアネート22.17重量部を加え、80℃加温下で約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート6.42重量部を添加し、更に約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子当たり平均約2.0個)である、数平均分子量約24,000の樹脂Bを調製した。この樹脂は、側鎖にシロキサン結合を含み、20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ、外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0187】
【表1】

【0188】
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、上記より得られた実施例1〜16、及び、比較例1〜4の各レーザー彫刻用樹脂組成物をそれぞれ、スペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、90℃のオーブン中で加熱して、厚さがおよそ1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版をそれぞれ作製した。この時、90℃のオーブン中で表面のベトツキが完全になくなるまで加熱し、熱架橋を行った。
【0189】
3.レリーフ印刷版の作製
架橋後のレリーフ形成層に対し、以下の2種のレーザーにより彫刻した。
炭酸ガスレーザー彫刻機として、レーザー照射による彫刻を、高品位CO2レーザーマーカML−9100シリーズ((株)キーエンス製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版1から保護フィルムを剥離後、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長 915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
【0190】
得られた実施例1〜16、及び、比較例1〜4の各レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さはそれぞれ、およそ1mmであった。
また、レリーフ層のショアA硬度をそれぞれ、前述の測定方法により測定したところ、75°であった。
【0191】
4.レリーフ印刷版の評価
以下の項目でレリーフ印刷版の性能評価を行い、結果を表2に示す。
【0192】
(4−1)製造に要する時間
各レーザー彫刻用樹脂組成物をスペーサーに流延した直後から90℃のオーブン中で表面のベトツキが完全になくなるまでの時間(熱架橋完了の指標となる。)を表2における製造時間と定義した。
【0193】
(4−2)リンス性
レーザー彫刻した版を水に浸漬し、彫刻部を歯ブラシ(ライオン(株)製、クリニカハブラシ フラット)で10回こすった。その後、光学顕微鏡でレリーフ層の表面におけるカスの有無を確認した。カスがないものを◎、ほとんどないものを○、少し残存しているものを○△、カスが残存しているが、実用上問題のないレベルであるものを△、カスが除去できていないものを×とした。
【0194】
(4−3)インキ転移性
上記耐刷性の評価において、印刷開始から1,000mにおける印刷物上のベタ部におけるインキの付着度合いを目視で比較した。
評価基準は、濃度ムラがなく、均一かつ僅かに光沢(光沢があるということは、インキがそれなりの厚み(量)だけしっかり転移されていることの指標になる。)があるものを◎、濃度ムラなく均一なものを○、ムラがあるものを×、○と×との中間の程度を△とした。
【0195】
(4−4)耐刷性
得られたレリーフ印刷版を印刷機(ITM−4型、(株)伊予機械製作所製)にセットし、インクとして、水性インキ アクアSPZ16紅(東洋インキ製造(株))を希釈せずに用いて、印刷紙として、フルカラーフォームM 70(日本製紙(株)製、厚さ100μm)を用いて印刷を継続し、ハイライト1〜10%を印刷物で確認した。印刷されない網点が生じたところを刷了とし、刷了時までに印刷した紙の長さ(メートル)を指標とした。数値が大きいほど耐刷性に優れると評価する。
【0196】
(4−5)彫刻深さ
レリーフ印刷版原版1〜50、C1〜C5が有するレリーフ形成層をレーザー彫刻して得られたレリーフ層の「彫刻深さ」を、以下のように測定した。ここで、「彫刻深さ」とは、レリーフ層の断面を観察した場合の、彫刻された位置(高さ)と彫刻されていない位置(高さ)との差をいう。本実施例における「彫刻深さ」は、レリーフ層の断面を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK9510((株)キーエンス製)にて観察することにより測定した。彫刻深さが大きいことは、彫刻感度が高いことを意味する。結果は、彫刻に用いたレーザーの種類毎に表2に示す。
【0197】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物、及び、(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、
前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含むことを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分C)分子中にシロキサン結合を含まず、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を更に含有する、請求項1に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分D)ラジカル重合性化合物、及び、(成分E)ラジカル重合開始剤を更に含有する、請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を更に含有する、請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項5】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分G)可塑剤を更に含有する、請求項1〜4のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項6】
前記レーザー彫刻用樹脂組成物が、(成分H)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物を更に含有する、請求項1〜5のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1つに記載の製造方法により得られたレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項8】
(成分A)イソシアナト基の平均数fnが2より大きいイソシアネート化合物、及び、(成分B)分子中にシロキサン結合を有し、かつ、活性水素を2つ以上有する化合物を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、
前記レリーフ形成層を熱により架橋し、架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、及び、
前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻し、レリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とする
レリーフ印刷版の製版方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版。
【請求項10】
前記レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である、請求項9に記載のレリーフ印刷版。
【請求項11】
前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である、請求項9又は10に記載のレリーフ印刷版。

【公開番号】特開2012−183712(P2012−183712A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48128(P2011−48128)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】