説明

レーザー焼結性ゴム強化ビニル系樹脂粉体およびその造形物

【課題】
エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射することにより行われる粉末焼結造形法における原料樹脂粉体として有用であり、耐衝撃性、低吸湿性等のスチレン系樹脂の特質を維持しつつ、密度が高く、外観に優れた造形物を与えるものを提供する。
【解決手段】
ゴム質重合体(a)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂(A)からなり、50%粒子径が10〜200μmのレーザー焼結性粉体であって、エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射することによりレーザー焼結性を示すことを特徴とするレーザー焼結性粉体。この粉体は、厚さ100μmの成形品とした時の波長10.6μmのレーザー光の吸光度が0.5〜2であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末焼結造形法における原料粉体として有用なレーザー焼結性ゴム強化ビニル系樹脂粉体及びそれを用いて得られた造形物に関し、詳しくは、密度が高く外観が優れた造形物を提供するレーザー焼結性樹脂粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、航空機、建造物、家電、玩具、日用雑貨用の各種工業分野における製品や部品の設計・デザイン構成をCAD、CAM、CAE等のコンピュータ上で行う手法が広く普及している。そして、この様なコンピュータ(CAD)上で設計された3次元モデルを具象化した実体モデルを製作する方法は、ラピッドプロトタイピング(RP)システム、ラピッドマニュファクチャリング(RM)システム等と呼ばれている。(以下、これらを纏めて「RPシステム」という)。
【0003】
このRPシステムの中には、3次元造形物のCAD等のデータを変換して得られたスライスデータに基づいてレーザー光線を金属または樹脂粉体の薄層に選択的に照射することにより該粉体を選択的に溶融接着させた後、該層の上に別の金属または樹脂粉体の薄層を形成して同様の操作を繰り返すことにより順次積層して造形物を得る粉末焼結積層造形法(SLS法)があり、このSLS法を利用した粉末焼結積層造形機も既に市販されている(例えば特許文献1及び2)。
【0004】
SLS法では、薄層間の内部応力を低く維持しつつ造形に要する時間を短縮するため、パートシリンダに供給された樹脂粉体の層を樹脂の軟化点Ts付近の温度(パートベッド温度)まで加熱しておき、この層にレーザー光線を選択的に照射して樹脂粉体を軟化点以上の温度(ケーキング温度Tc)まで加熱して相互に融着させることにより造形が行われる。
【0005】
現在SLS法で用いられている樹脂粉体の代表例は、ポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂は結晶性樹脂であり、その軟化点Tsが融点Tmに相当し、また、レーザー光線の吸収性が高いため、ポリアミド樹脂粉体はレーザー光線の照射により容易に融点Tm以上に達して流動化して融着するので、SLS法に好適である。
しかし、SLS法で得られた造形物は一般にポーラスな状態であり、気密性を付与するためには、真空含浸法により造形物の封止処理をする必要があった。しかも、ポリアミド樹脂は吸水性が高いため、例えば、造形物に水溶性ポリウレタンを含浸させる等の後処理が必要であった。
そこで、このような後処理を必要としないレーザー焼結性樹脂粉体が求められている。
【0006】
他方、ABS樹脂などのスチレン系樹脂は、吸水性が低く、耐衝撃性等の機械的強度に優れているだけでなく、塗装やメッキ等の二次加工性にも優れ、さらには、外観に優れた造形物も得られるので、RPシステムの原料として魅力的である。
【0007】
しかし、スチレン系樹脂は、非晶質樹脂で、軟化点(Ts)がガラス転移温度(Tg)に相当する。非晶性樹脂粉体をSLS法の原料樹脂として用いる場合、パートベッド温度をガラス転移温度(Tg)近くの温度に維持し、融着を生じさせるためにはレーザー光線を照射してガラス転移温度(Tg)以上まで加熱する必要がある。しかし、非晶性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)以上における温度上昇に対する溶融粘度の低下が小さいため、レーザー光線の照射によって非晶性樹脂粉体の温度をガラス転移温度(Tg)よりも僅かに上昇させただけでは、樹脂の溶融粘度が高すぎ、樹脂粉体全体が均一に溶融するに至らず、造形物がポーラスで密度の低いものとなる傾向がある。これに対して、高出力レーザーを使用することにより、非晶性樹脂粉体の温度をガラス転移温度(Tg)よりも大幅に上昇させることも可能であるが、熱の制御が難しく、レーザーの走査領域外の粉体まで溶融固化して焼結膨らみが生じて寸法精度が悪くなったり、材料が劣化したり、また、溶融固化後の急激な冷却により造形物に内部応力が蓄積され、造形物にそりが生じる可能性がある。また、パートベッド温度を上昇させすぎると、パートシリンダに供給された樹脂粉体がブロッキングする可能性がある。
【0008】
【特許文献1】特開平3−183530号公報
【特許文献2】特許第3477576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、ゴム強化スチレン系樹脂等のゴム強化ビニル系樹脂の高い耐衝撃性、低い吸水性等の特質を維持しつつ、密度が高く、外観に優れた造形物を得ることのできる、レーザー焼結に好適な樹脂粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的の下に鋭意研究した結果、特定のゴム強化ビニル系樹脂の樹脂粉体を、一定以上のエネルギーのレーザー光を照射してレーザー焼結した場合に、密度が高く、外観に優れた造形物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本発明によれば、ゴム質重合体(a)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂(A)からなり、50%粒子径が10〜200μmのレーザー焼結性粉体であって、エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射することによりレーザー焼結性を示すことを特徴とするレーザー焼結性粉体が提供される。
【0012】
また、本発明の他の局面によれば、ゴム質重合体(a)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂(A)からなり、50%粒子径が10〜200μmのレーザー焼結性粉体を、エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射して焼結させることからなる、造形物の製造方法が提供される。
また、本発明のさらに他の局面によれば、上記レーザー焼結性粉体をレーザー焼結してなる造形物、及び、上記製造方法によって得られた造形物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定のゴム強化ビニル系樹脂の樹脂粉体をレーザー焼結用の成形材料として用いることとしたので、一定以上のエネルギーのレーザー光を照射してレーザー焼結することにより、密度が高く、外観に優れた造形物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例で使用したSLS造形装置の概略を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0016】
成分(A)
本発明で使用する成分(A)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を共重合成分として含有する透明性の高いゴム強化ビニル系樹脂からなり、本発明によれば、該成分(A)を50%粒子径が10〜200μmの樹脂粉体とすることにより、エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射することにより実用的なレーザー焼結性を示すことがわかった。
【0017】
本発明で使用する成分(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂からなり、さらに、ビニル系単量体(b)の(共)重合体を含有してもよい。後者の(共)重合体は、ゴム質重合体(a)の非存在下に、ビニル系単量体(b)を重合して得られるものである。
【0018】
上記ゴム質重合体(a)は、特に限定されないが、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、ブタジエン・スチレンブロック共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体などのジエン系ゴム及びその水素添加物、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ブテン・非共役ジエン共重合体などのエチレン−α−オレフィン系共重合ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、シリコーン・アクリル系複合ゴムなどの非ジエン系ゴムが挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
ビニル系単量体(b)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を必須成分として含有し、所望によりこれらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体成分を含有してもよい。
かかる共重合可能な他のビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物の他、酸無水物基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を含有するビニル系化合物が挙げられる。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、それ単独で重合体にしたとき、その重合体のガラス転移温度(示差走査熱量計(DSC)で測定)が50℃以上であるものが好ましく、かかるガラス転移温度を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることがより好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、より好ましくは1〜6、さらにより好ましくは1〜4である。メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルの中では、メタクリル酸エステルの方が好ましい。これらの例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、ヒドロキシル基を有するノルボルネン化合物の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、さらに好ましくはメタクリル酸メチルである。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物が挙げられ、芳香族ビニル化合物又は芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の組み合わせが好ましい。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα―メチルスチレンが好ましい。
シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0022】
また、透明性が高くレーザー焼結性に優れたゴム強化ビニル系樹脂(A)を得るためには、ゴム質重合体(a)の屈折率と、ビニル系単量体(b)の(共)重合体部分の屈折率との差が好ましくは0.05以下、さらに好ましくは0.02以下となるように、ビニル系単量体(b)の組成を適宜選択することが好ましい。なお、ビニル系単量体(b)のみからなるマトリックス樹脂の屈折率は、理論式から計算または予めその組成からなる単量体混合物を重合して得た樹脂の屈折率を測定することにより知ることができる。かかる条件を満たすゴム質重合体(a)とビニル系単量体(b)の組合せを選択することにより、所望の透明性を備えた組成物を得ることが可能となる。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル化合物と他のビニル系単量体との使用割合に特に制限はなく、適宜選択することができるが、他のビニル系単量体に対する(メタ)アクリル酸エステル化合物の質量比率((メタ)アクリル酸エステル化合物/他のビニル系単量体)で表して、通常50〜98/50〜2(質量%)であり、好ましくは55〜95/45〜5(質量%)であり、より好ましくは60〜90/40〜10(質量%)である。この質量比率が上記範囲にあると、レーザー焼結性に優れ、好ましい。
【0024】
上記ゴム質重合体(a)の使用量は、成分(a)及び成分(b)の合計100質量%に対して、通常1〜40質量%、好ましくは3〜35質量%、より好ましくは5〜35質量%である。成分(a)の使用量が1質量%未満では、造形物の耐衝撃性が十分でなく、一方、40質量%を超えると、溶融粘度の低下が十分でなくなる可能性がある。
【0025】
上記成分(A)のグラフト率は、通常10〜200%、好ましくは20〜120%、さらに好ましくは30〜90%である。グラフト率が10%未満では、耐衝撃強度が十分でなく、一方、200%を超えると、溶融粘度の低下が十分でなくなる可能性がある。グラフト率は、重合開始剤の種類、量、重合温度、さらには単量体の量などによって容易に調整することができる。
【0026】
このグラフト率(質量%)は、次式(1)により求められる。
【0027】
グラフト率(質量%)={(T−S)/S}×100・・・(1)
【0028】
上記式(1)中、Tは成分(A)1gをアセトン(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル)20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sは該成分(A)1gに含まれる成分(a)の質量(g)である。
【0029】
また、上記成分(A)のアセトン(アクリル系ゴムの場合、アセトニトリル)可溶分の極限粘度[η](30℃、メチルエチルケトン中で測定)は、0.1〜1.5dl/g、好ましくは0.15〜1.0dl/g、さらに好ましくは0.2〜0.8l/gである。極限粘度[η]が0.1dl/g未満であると、造形物の耐衝撃強度が十分でなく、一方、1.5dl/gを超えると、溶融粘度の低下が十分でなく、溶融時の流動性が十分でなくなる可能性がある。上記極限粘度[η]は、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤などの種類や量、さらには重合時間、重合温度などを変えることにより、制御することができる。
【0030】
前記極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、該(共)重合体をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位はdl/gである。
【0031】
成分(A)は、成分(a)の存在下に、上記成分(b)を乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などでラジカルグラフト重合を行い、製造することができる。このうち好ましくは乳化重合、懸濁重合、溶液重合である。なお、上記ラジカルグラフト重合には、通常使用されている重合溶媒(溶液重合の場合)、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤(乳化重合の場合)、懸濁剤(懸濁重合の場合)などを用いることができる。また、成分(A)を製造するのに用いる単量体成分は、ゴム質重合体全量の存在下に、単量体成分を一括添加して重合してもよく、または分割もしくは連続添加して重合してもよい。また、これらを組み合わせた方法で、重合してもよい。さらに、ゴム質重合体の全量または一部を、重合途中で添加して重合してもよい。
【0032】
溶液重合法で用いられる溶剤は、通常のラジカル重合で使用される不活性重合溶剤であり、例えばエチルベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類、ジクロロメチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素などの有機溶剤が用いられる。溶剤の使用量は、上記成分(a)及び成分(b)の合計量100質量部に対し、通常20〜200質量部、好ましくは50〜150質量部である。
【0033】
上記重合開始剤は、重合法に合った一般的な開始剤が用いられる。溶液重合の重合開始剤としては、例えばケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの有機過酸化物等を用いることができる。また、重合開始剤は、重合系に、一括または連続的に添加することができる。重合開始剤の使用量は、単量体成分に対し、通常0.05〜2質量%、好ましくは0.2〜0.8質量%である。
【0034】
また、乳化重合の重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどで代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方などで代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系、または過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物等を用いることができる。このうち、好ましくは、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどで代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方などで代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系がよい。また、開始剤は油溶性でも水溶性でもよく、さらには油溶性と水溶性を組み合わせて用いてもよい。組み合わせる場合の水溶性開始剤の添加比率は、通常全添加量の50質量%以下、好ましくは25質量%以下である。さらに、重合開始剤は、重合系に一括または連続的に添加することができる。重合開始剤の使用量は、単量体成分に対し、通常0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%である。
【0035】
また、連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、テトラエチルチウラムスルフィド、四塩化炭素、臭化エチレンおよびペンタフェニルエタンなどの炭化水素類、またはアクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンのダイマーなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用方法は、一括添加、分割添加、または連続添加のいずれの方法でも差し支えない。連鎖移動剤の使用量は、単量体成分に対し、通常0〜5質量%である。
【0036】
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。このうち、アニオン性界面活性剤としては、例えば高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸スルホン酸塩、リン酸系塩、脂肪酸塩などが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、通常のポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型などが用いられる。さらに、両性界面活性剤としては、アニオン部分としてカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩を、カチオン部分としてアミン塩、第4級アンモニウム塩などを持つものが挙げられる。乳化剤の使用量は、単量体成分に対し、通常0.3〜5質量%である。なお、グラフト重合の際の重合温度は、通常10〜160℃、好ましくは30〜120℃である。
【0037】
ゴム質重合体(a)の存在下、ビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂組成物には、通常ビニル系単量体成分がゴム質重合体にグラフトした共重合体と、ビニル系単量体成分がゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト成分(すなわち、ビニル系単量体成分同士の単独及び共重合体)が含まれる。
本発明で使用する成分(A)は、上述のように、ゴム質重合体(a)の非存在下に、ビニル系単量体(b)を重合して得られる(共)重合体を含有してもよい。この(共)重合体の重合は、ゴム質重合体(a)の非存在下で行う以外、上記と同様の方法で行うことができる。この(共)重合体を構成するビニル系単量体(b)としては、上記と同様に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物の他、酸無水物基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を含有するビニル系化合物が挙げられ、これらの好ましい化合物も上記と同様である。該(共)重合体の好ましい例としては、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の共重合体、芳香族ビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体、及び、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体が挙げられる。
【0038】
該(共)重合体の極限粘度[η](30℃、メチルエチルケトン中で測定)は、通常0.1〜1.5dl/g、好ましくは0.15〜1.0dl/g、さらに好ましくは0.2〜0.8dl/gである。極限粘度[η]が0.1dl/g未満であると、造形物の耐衝撃強度が十分でなく、一方、1.5dl/gを超えると、溶融粘度の低下が十分でなく、溶融時の流動性が十分でなくなる可能性がある。上記極限粘度[η]は、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤などの種類や量、さらには重合時間、重合温度などを変えることにより、容易に制御することができる。該極限粘度[η]の測定方法は、前述と同様である。
【0039】
レーザー焼結性粉体の製造方法、物性及び造形方法
本発明のレーザー焼結性粉体は、上記成分(A)を溶融混練して均一な熱可塑性樹脂組成物を得た後、該組成物を粉砕し、得られた粉体を分級することにより製造することができる。粉砕方法は特に限定されるものではないが、例えば、凍結粉砕法が挙げられる。分級方法も特に限定されるものではないが、例えば、所定の篩を用いて行うことができる。
【0040】
本発明のレーザー焼結性粉体は、本発明の効果を損なわない範囲で、目的、用途等に応じて、添加剤を混合して使用してもよい。かかる添加剤としては、流動剤、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、蛍光染料、その他の着色剤、光拡散剤、結晶核剤、流動改質剤、衝撃改質剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤、光触媒系防汚剤、重合開始剤等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
これらの添加剤の添加方法は、添加剤の種類によって異なり、特に限定されるものではない。例えば、成分(A)を溶融混練する際に該添加剤を配合して本発明の熱可塑性樹脂組成物中に均一に含有せしめてもよく、または、本発明のレーザー焼結性粉体に該添加剤を添加して該粉体の表面に付着させたり若しくは該粉体と均一に混合させてもよい。
【0041】
上記流動剤としては、例えば、水和シリカ、無定形アルミナ、ガラス状シリカ、ガラス状燐酸塩、ガラス状硼酸塩、ガラス状酸化物、チタニア、タルク、雲母、ヒュームドシリカ、カオリン、アタパルジャイト、珪酸カルシウム、アルミナ、珪酸マグネシウム等の無機粉末物質が挙げられる。これらの流動剤は、上記成分(A)を溶融混練して予め製造しておいた本発明のレーザー焼結性粉体に添加して混合することが好ましい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。上記流動剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.02〜5質量部である。上記流動剤の粒径は通常100μm以下、好ましくは60μm以下である。
【0042】
上記充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ミルドファイバー、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素フレーク、カーボンビーズ、カーボンミルドファイバー、金属フレーク、金属繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コートガラスフレーク、シリカ、セラミック粒子、セラミック繊維、アラミド粒子、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、グラファイト、導電性カーボンブラック、各種ウィスカー等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。上記充填剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.1〜5質量部である。
【0043】
上記熱安定剤としては、例えば、ホスファイト類、ヒンダードフェノール類、チオエーテル類等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。上記熱安定剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.01〜2質量部である。
【0044】
上記酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類、硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。上記酸化防止剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.01〜2質量部である。
【0045】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。また、これらは、ヒンダードアミン類と併用すると好ましい場合がある。上記紫外線吸収剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.05〜2質量部である。
【0046】
上記老化防止剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.01〜2質量部である。
【0047】
上記帯電防止剤としては、例えば、低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤等が挙げられる。また、これらは、イオン伝導型でもよいし、電子伝導型でもよい。
低分子型帯電防止剤としては、例えば、アニオン系帯電防止剤;カチオン系帯電防止剤;非イオン系帯電防止剤;両性系帯電防止剤;錯化合物;アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等の金属アルコキシド及びその誘導体;コーテッドシリカ、リン酸塩、リン酸エステル等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
また、高分子型帯電防止剤としては、例えば、分子内にスルホン酸金属塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ベタイン等が挙げられる。更に、高分子型帯電防止剤として、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等を用いることもできる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
上記帯電防止剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.1〜5質量部である。
【0048】
上記可塑剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.5〜5質量部である。
【0049】
上記滑剤としては、例えば、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、金属石鹸、シリコーン、変性シリコーン等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。上記滑剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.5〜5質量部である。
【0050】
上記難燃剤としては、例えば、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。上記難燃剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.5〜30質量部である。
尚、本発明の組成物に難燃剤を含有させる場合には、難燃助剤を用いることが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ、酸化鉄等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0051】
上記抗菌剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、0.1〜5質量部である。
【0052】
上記着色剤としては、例えば、無機顔料、有機顔料、染料が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。上記着色剤の含有量は、上記成分(A)を100質量部とした場合に、通常、10質量部以下、好ましくは0.0005〜5質量部、より好ましくは0.001〜2質量部である。
【0053】
上記光拡散剤としては、例えば、アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子、極薄ガラスフレーク、炭酸カルシウム粒子等が挙げられる。
上記衝撃改質剤としては、グラフトゴム等が挙げられる。
上記光触媒系防汚剤としては、微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛等が挙げられる。
【0054】
本発明のレーザー焼結性粉体は、上記添加剤自体を除き、50%粒子径が10〜200μmであることが必要であり、25〜175μmであることが好ましく、25〜125μmであることがより好ましく、30〜75μmであることがさらにより好ましい。50%粒子径が10μm未満の場合、パートベッド上での粉体の流動性が十分でなくなる可能性がある。50%粒子径が200μmを超える場合、造形物の寸法精度が十分でなく、また、造形物表面に大きな凹凸が生じる可能性がある。上記所定の粒子径範囲を満たす粉体は、例えば、200メッシュ篩を用いて200メッシュパス品を取得したり、上記粉砕の運転条件を変更することにより得ることができる。
【0055】
本発明のレーザー焼結性粉体は、良好なレーザー焼結性を備えるために、所定のレーザー光の吸光度を有することが好ましい。本発明のレーザー焼結性粉体を厚さ100μmの試験片とした時の波長10.6μmのレーザー光の吸光度は、通常0.5〜2であり、好ましくは0.5〜1.8、より好ましくは0.5〜1.5である。該吸光度が上記範囲内にあると、レーザー焼結性粉体の溶融が十分となり、密な成形品が得られ好ましい。
【0056】
本発明によれば、かかるレーザー焼結性粉体は、50%粒子径が10〜200μmのレーザー焼結性粉体にした場合、エネルギーが通常5×10J/m以上、好ましくは1×10J/m以上、より好ましくは1×10〜1×1010J/m、特に好ましくは7×10〜1×1010J/mのレーザー光を照射することによりレーザー焼結して造形品を得ることができることがわかった。レーザー光のエネルギーが5×10J/m未満の場合、レーザー焼結性粉体の溶融及び固化が十分に起こらないため、造形品の密度が上がらず、成形品の外観も悪くなる。
上記レーザー照射によるエネルギーは、1回のレーザー照射により与えてもよいし、複数回のレーザー照射により与えてもよいが、複数回のレーザー照射によりエネルギーを与える方が好ましい。複数回のレーザー照射によりエネルギーを与えると、密度が高く、外観に優れた造形品が得られ好ましい。レーザー照射の回数は、レーザー光の走査行程数(n)を2行程以上にしたり、レーザー走査間隔(Dy)のレーザースポット径(R)に対する比(R/Dy)を1より大きくすることにより調整することができる。
【0057】
なお、レーザー照射によるエネルギー(J/m)は、下記式(2)により求めることができる。
【0058】
【数1】

式(2)中、nは走査行程数、Rはスポット径(mm)、Dyはレーザー走査間隔(mm)である。
【0059】
レーザー出力は、通常0.01〜1000W、好ましくは0.1〜200W、より好ましくは0.5〜120Wである。
レーザーのスポット径は、通常0.001〜5mm、好ましくは0.01〜2mm、より好ましくは0.1〜1mmである。
レーザー走査速度は、通常0.01〜1000m/s、好ましくは0.1〜100m/s、より好ましくは0.5〜20m/sである。
【0060】
本発明のレーザー焼結性粉体を用いてレーザー焼結することにより、通常、密度0.7 〜1.2g/cmの造形品を得ることができる。したがって、本発明において「レーザー焼結性」とは、樹脂粉体がレーザー焼結により上記範囲の密度の造形品を与える性質を意味する。該造形品の密度は、好ましくは0.75〜1.2g/cm、より好ましくは0.8〜1.2g/cm、特に好ましくは0.85〜1.2g/cmである。造形品の密度が0.7g/cm未満の場合、外観及び耐衝撃性が劣り、実用に適さない。
【0061】
本発明のレーザー焼結性粉体は、通常のSLS法に従って使用して、造形物を得ることができる。例えば、該粉体の薄層を形成するとともに該薄層を軟化点よりも僅かに低い温度に維持しつつ、3次元造形物のCAD等のデータを変換して得られたスライスデータに基づいてレーザー光線を該薄層に照射して該薄層の粉体を選択的に溶融接着させて焼結した後、該薄層の上に該粉体の別の薄層を積層して該薄層にレーザー光線を照射して該薄層の粉体を選択的に焼結させる前記と同様の工程を繰り返すことにより、溶融接着された粉体からなる造形物が得られる。
【0062】
このようなSLS法による造形は、公知のSLS法造形装置によって実施することができる。このような造形装置は、一般に、レーザー焼結性粉体の薄層が敷設される作業台(パートベッド)と、該作業台を昇降させる昇降手段と、該作業台にレーザー焼結性粉体を供給してその薄層を形成するローラーなどの粉体供給手段と、該薄層を選択的に加熱して焼結するレーザー光線供給手段と、焼結した薄層を冷却する冷却手段とを備えてなる。このような造形装置では、作業台に敷設された薄層をレーザー光線で選択的に加熱して焼結した後、作業台を僅かに降下させ、焼結した薄層の上に別の薄層を敷設して該薄層をレーザー光線で選択的に加熱して焼結させる工程を繰り返すとともに、焼結した薄層の一層または複数層を適宜冷却することにより造形物を形成することができる。このような造形装置としては、例えば、特開2003−305777号公報、特開2005−238488号公報、特開2007−21747号公報、特開2007−30303号公報などに記載の装置が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<評価方法>
(1)50%粒子径
島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−2100(商品名)」を用いて測定を行った。なお、粉体全体の体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径を50%粒子径とした。
【0065】
(2)密度
SLS造形装置(3D systems社製)を用い、寸法80mm×10mm×4mmの試験片を造形した。 得られた試験片を用い、ISO1183に準じて測定した。
なお、使用したSLS造形装置は、図1に概略的に示すように、粉体をDzの高さで均一に供給した後、スポット径Rのレーザー光Lを所定の走査速度でX軸方向(主走査方向)に少なくとも1行程走査させた後、Y軸方向(副走査方向)にピッチDyだけ移動した位置で上記と同様にレーザー光LをX軸方向(主走査方向)に走査させ、この工程を繰り返すことにより、図形Aの全面にレーザー光を照射して、造形物の1層を形成するものである。そして、該1層をZ軸方向に樹脂粉体の積層厚さDzだけ下降させた後、この層の上に別の層を上記と同様の方法で積層し、この工程を繰り返すことにより、所望の造形物が得られる。ここにおいて、SLS造形装置は、下記のSLS造形条件で使用した。
・SLS造形条件
レーザーのスポット径(R):0.45mm
レーザー走査速度:10m/s
レーザー走査間隔(Dy):表1に記載のとおり
積層厚さ(Dz):0.13mm
レーザー出力:表1に記載のとおり
レーザー照射強度:表1に記載のとおり
パートベッド温度:110℃
フィードベッド温度: 90℃
なお、レーザー走査間隔(Dy)は通常スポット径(R)以下に設定されるので、図形AにはR/Dy回のレーザー照射が行われる。また、走査行程数(n)は、レーザー光LをX軸方向(主走査方向)に走査させる行程数であり、図形Aにはn回のレーザー照射が行われる。したがって、図形Aには、平均的にn(R/Dy)回のレーザー照射が行われる。
【0066】
(3)成形品外観
上記(2)と同様にして得られた試験片を用いて、下記評価基準に従い評価した。
評価基準:
○:表面の凸凹が滑らかな密な成形品が得られた。
△:表面の凸凹が一部滑らかでなく粗密な部分がある成形品が得られた。
×:表面が凸凹しており、粗密な成形品が得られた。
(4)透明性(吸光度)
レーザー焼結性粉体をプレスして、厚さ100μmの吸光度測定用試験片を得た。その後、日本分光(株)製のFT−IR測定装置FT−460plus(商品名)を用いて、波長10.6μm(943cm−1)の吸光度を測定した。
【0067】
実施例1〜8(透明ABS樹脂の調製)
(1)グラフト体(A−1)の調製
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエン30部(固形分換算)、スチレン4部、アクリロニトリル1.25部及びメタクリル酸メチル12.25部を入れ、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点でエチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート2水和物0.2部及びイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液、並びにジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.1部を添加し、1時間反応を続けた。
その後、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルヒドロパーオキサイド0.2部、スチレン12部、アクリロニトリル3.75部及びメタクリル酸メチル36.75部からなる重合成分を3時間に渡って連続的に添加し、重合を続けた。添加終了後、更に攪拌を1時間行い、2,2−メチレン−ビス−(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し反応性生物をフラスコより取り出した。反応性生物のラテックスを塩化カルシウム2部で凝固し、反応生成物を良く水洗した後、75℃で24時間乾燥し、白色粉末樹脂を得た。重合転化率は98.5%、ポリブタジエンの含有量は30.5%であった。グラフト率は40%、極限粘度は0.3dl/gであった。重合前のポリブタジエンの屈折率は1.516、アセトン可溶分の屈折率は1.517であった。
【0068】
(2)共重合体(A−2)
溶液重合法で製造された結合メタクリル酸メチル含量72質量%、結合スチレン含量21質量%、結合アクリロニトリル含量7質量%、極限粘度〔η〕0.5dl/g、屈折率が1.517のメタクリル酸メチル系共重合体樹脂のペレットを用いた。
【0069】
(3)(メタ)アクリル酸エステル含有ゴム強化スチレン系樹脂(A)の調製
成分(A−1)60部及び成分(A−2)40部をヘンシェルミキサーで3分間混合し、混合物を得た。その後、シリンダー設定温度200℃の40mmφ押出機を用いて、該混合物を溶融混練りして(メタ)アクリル酸エステル含有ゴム強化スチレン系樹脂(A)のペレットを得た。
得られたペレットを十分に乾燥した後、東邦冷熱社製CM−11型凍結粉砕機を用いて凍結粉砕を行い、粉体を得た。その後、この粉体を篩を用いて分級してレーザー焼結性粉体とした。
得られた粉体を上記評価に供した。結果を表1に示す。
【0070】
比較例1〜3(一般ABS樹脂の調製)
(1)グラフト体(B−1)の調製
攪拌機を備えた重合器に、水280部および重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、t−ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。その後、得られたラテックスに、2,2′−メチレン−ビス(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し、塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物のグラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.38dl/gであった。
【0071】
(2)共重合体(B−2)の調製
撹拌機付き重合容器に、水250部およびパルミチン酸ナトリウム1.0部を投入し、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら70℃まで加熱した。さらにナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み後、α−メチルスチレン70部、アクリロニトリル25部、スチレン5部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、クメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる単量体混合物を、重合温度70℃で連続的に7時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を75℃にし、1時間撹拌を続けて重合を終了させ、共重合体のラテックスを得た。重合転化率は99%であった。その後、得られたラテックスを塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の共重合体を得た。得られた共重合体のアセトン可溶分の極限粘度[η]は0.40dl/gであった。
【0072】
(3)(メタ)アクリル酸エステル非含有ゴム強化スチレン系樹脂(B)の調製
成分(B−1)30部及び成分(B−2)70部をヘンシェルミキサーで3分間混合し、混合物を得た。その後、シリンダー設定温度200℃の40mmφ押出機を用いて、該混合物を溶融混練りして(メタ)アクリル酸エステル非含有ゴム強化スチレン系樹脂(B)のペレットを得た。
得られたペレットを十分に乾燥した後、東邦冷熱社製CM−11型凍結粉砕機を用いて凍結粉砕を行い、粉体を得た。その後、この粉体を篩を用いて分級してレーザー焼結性粉体とした。
得られた粉体を上記評価に供した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示す結果から、以下のことがわかる。
実施例1〜8に示されるように、本発明の(メタ)アクリル酸エステル含有ゴム強化スチレン系樹脂(A)からなるレーザー焼結用樹脂粉体より得られる造形物は、高い密度及び良好な成形品外観を備えており、エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射するレーザー焼結法で使用するに適したレーザー焼結性粉体であることが示された。
比較例1は、(メタ)アクリル酸エステル非含有ゴム強化スチレン系樹脂(B)からなるレーザー焼結用樹脂粉体より造形物を得た例であるが、密度が低く、成形品外観も劣っていた。
比較例2は、レーザー焼結用樹脂粉体の粒子径が本願の範囲外の例であるが、密度が低く、成形品外観も劣っていた。
比較例3は、エネルギーが低すぎる例であるが、密度が低く、成形品外観も劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のレーザー焼結性粉体は、エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射することにより行われる粉末焼結造形法における原料粉体として有用であり、RPシステムにおける試作品の他、実製品の造形に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
A 図形
L レーザー光
R レーザー光のスポット径
Dy レーザー走査間隔
Dz 積層厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体(a)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂(A)からなり、50%粒子径が10〜200μmのレーザー焼結性粉体であって、5×10J/m以上のエネルギーのレーザー光を照射することによりレーザー焼結性を示すことを特徴とするレーザー焼結性粉体。
【請求項2】
上記ゴム質重合体(a)の含有量が、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A)を100質量部として、1〜40質量部である請求項1に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項3】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の含有量が、上記ビニル系単量体(b)を100質量%として、50〜98質量%である請求項1または2に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項4】
上記ビニル系単量体(b)が、芳香族ビニル化合物を含有する請求項3に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項5】
上記ビニル系単量体(b)が、シアン化ビニル化合物を含有する請求項4に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項6】
厚さ100μmの成形品とした時の波長10.6μmのレーザー光の吸光度が0.5〜2である請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザー焼結性粉体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザー焼結性粉体をレーザー焼結してなる造形物。
【請求項8】
密度が0.7〜1.2g/cmである請求項7に記載の造形物。
【請求項9】
ゴム質重合体(a)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化ビニル系樹脂(A)からなり、50%粒子径が10〜200μmのレーザー焼結性粉体を、エネルギーが5×10J/m以上のレーザー光を照射して焼結させることを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法により得られた造形物。
【請求項11】
密度が0.7〜1.2g/cmである請求項10に記載の造形物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−99023(P2011−99023A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253691(P2009−253691)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】