レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板、これを用いたレーザー脱離イオン化質量分析方法及び装置
【課題】レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板において、レーザー光を照射されたときに、妨害ピークを発生させることなく、高感度かつ正確な測定ができ、試料作成にあたっては、試料を均一に塗布することができるソフトLDI-MS測定のための試料基板およびそれを用いる測定装置の提供。
【解決手段】レーザー脱離イオン化質量分析に供するための試料基板50において、試料基板は、基台上に、カーボンナノウォール55が立設されたものであり、このカーボンナノウォールの表面上に、質量分析のための試料を塗布するものである。カーボンナノウォールの表面が、試料に対するイオン化媒体として作用する。カーボンナノウォールの表面は親水処理が施されている。これにより、低分子量から高分子量まで、広範囲に渡り、精度が良く、感度が高い、安定した質量分析を実現することができる。
【解決手段】レーザー脱離イオン化質量分析に供するための試料基板50において、試料基板は、基台上に、カーボンナノウォール55が立設されたものであり、このカーボンナノウォールの表面上に、質量分析のための試料を塗布するものである。カーボンナノウォールの表面が、試料に対するイオン化媒体として作用する。カーボンナノウォールの表面は親水処理が施されている。これにより、低分子量から高分子量まで、広範囲に渡り、精度が良く、感度が高い、安定した質量分析を実現することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板、これを用いたレーザー脱離イオン化質量分析方法及び装置に関する。特に、ソフトイオン化を支援するマトリックスを用いることのない基板、分析方法、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タンパク質・ペプチド、糖質、オリゴヌクレオチドなどの生体関連物質からなる高分子化合物や合成高分子化合物の分子量の正確な測定方法として、レーザー脱離イオン化質量分析法(LDI-MS: Laser Desorption Ionization-Mass Spectrometry)及びそのための測定装置が知られている。
【0003】
この測定方法においては、レーザーの照射により、試料の分子を分解することなく、分子単位でイオン化することが必要である。この目的のため、一般にはレーザー光を吸収する媒体上に試料を塗布するか、試料とレーザーを吸収する媒体とを混合した状態で供給することによって、試料分子の分解を回避する方法が用いられる。この試料の分解を伴わないイオン化法は、ソフトLDI-MSと呼ばれている。そのソフトLDI-MSのうちの一つに、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS: Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization-Mass Spectrometry)が知られている。質量分析においては、イオンの飛行時間を測定することにより行う飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、若しくはこれらの複合型のいずれかからなる質量分離部の作用により、質量分離された後に、検出器で該イオンが検出され、質量数が解析される。これらのうち、飛行時間型の質量分離部を用いる方法は、原理上測定の質量範囲に制限がないため多用されている。これらを組み合わせたマトリックス支援レーザー脱離イオン化のためのマトリックスとしては種々のものが使用されている。
【0004】
ところが、MALDI-MSでは、イオン化剤として低分子量有機化合物を使用するために、それに起因して妨害イオンが発生する。しかも、その発生した妨害イオンは、有機化合物の分子量付近(質量数、500以下)のみならず、これらがクラスターを形成して、質量数数千以上の領域にまで及ぶため、これらのノイズにマスクされて、目的とする試料分子の質量分析が困難となる場合が多い。また、MALDI-MSでは、イオン化に適したマトリックス剤の種類が試料分子の種類によって異なるため、測定試料の調製に際し、試行錯誤的に適切なマトリックス剤を選択しなければならないという不便がある。そのため、イオン化するためのイオン化剤として微粉末の無機化合物を用いるソフトLDI-MSが提案されている。
【0005】
この微粉末の無機化合物には、下記特許文献1、2の背景技術として記載されているように、例えば、コバルト微粉末、酸化チタン微粒子、グラファイト粉末、カーボンナノチューブ、平均粒子径が100nm以下であり、かつPVC黒度が50以下のカーボンブラック固体がある。また、表面がカーボンを含有する層を有した支持基板を用いれば、試料分子を微細な結晶に均一に結晶化させて、場所による感度、分解能のばらつきを抑制することが知られている。このうち、微粉末を用いる方法では、溶液状の試料と微粉末からなるけん濁溶液を質量分析用試料基板表面に塗布するため、均一に試料を塗布することが難しく、高感度な質量分析を行なう場合にはしばしば困難となる。さらに、レーザー光の照射によりイオン化媒体がイオン源内で飛散することがあり、それによる汚染などが問題となる。
【0006】
そこで、多孔質シリコン基板を試料基板に用いるソフトLDI-MSが提案されている。この方法は、DIOS-MS(desorption/ionization-mass spectrometry on porous silicon)と呼ばれている。この方法では、ナノメートルレベルの微細孔を持つ多孔質シリコン基板の表面に試料溶液を塗布し、乾燥させてから、これを質量分析装置のイオン源内に設置し、以降の操作はMALDI-MSと同様に、試料表面にレーザー光を照射することによって、質量分析が行われる。DIOS-MSにおけるイオン化の詳細な原理は明らかではないが、ナノシリコン構造体がレーザー光を高効率で吸収し、急速に加熱されることによって、試料分子の瞬間的な離脱が起こると共に、多孔質シリコンに結合あるいは吸着していた成分がイオン化して試料分子に電荷を受け渡すことによって、試料のイオン化が達成されるのではないかと考えられている。
【0007】
また、シリコン基板上に析出させた金微粒子上に成長させたシリコンナノワイヤーを用いるものがある。また、基板の表面部に凹部を設けたプラスチック材料としたり、さらに金属膜で覆たり、シリコンエッチングしたりしたもの、スポンジ状物質を用いるチップなどがある。
【0008】
DIOS-MSは、試料基板そのものをイオン化媒体として用いるため、試料の均一な塗布が比較的容易であり、MALDI-MSで問題となる妨害ピークの発生を回避できるという利点がある。しかしながら、多孔質シリコンのイオン化効率は作成条件に大きく左右され、また同一の多孔質構造をもつ試料基板を再現性よく作成することが極めて困難であるため、信頼性のある質量分析技術であるとは言いがたいのが現状である。さらに、一度塗布した試料の多くは多孔質構造中に取り込まれるため、試料分子の大半はイオン化されずに残留して高感度測定の障壁となるうえ、測定後の試料基板の洗浄が容易ではなく、前測定の試料に起因するピークの発生を防止する原因となるため、繰り返し測定にもあまり適していない。
【0009】
又、シリコンナノワイヤーを用いる方法では、ナノワイヤーの基材となる金微粒子がシリコン基板上に機械的に不安定な状態で結合しているため、測定中のレーザー光照射あるいは測定後の試料基板の洗浄過程において、ナノワイヤー・金微粒子構造が破損しやすく、繰り返し測定にはあまり適さない。
【0010】
そこで、本発明者らは、下記特許文献1、2に開示の技術を開発した。特許文献1の技術は、レーザー光を吸収するイオン化媒体として、表面が平坦な強誘電体等の焦電性結晶を用いる技術である。この技術は、レーザーの光エネルギーにより、焦電性結晶を瞬間的に分極させて、この分極に伴って現れる表面電荷や電場を利用して、試料分子のイオン化を行うものである。しかし、この技術は、試料を塗布する基板面が平坦な平面であるために、比表面積が小さいために、感度が小さいという問題があった。そこで、本発明者らは、検出感度を向上させるために、特許文献2の技術を開発した。特許文献2の技術は、平坦な半導体基板表面に半導体から成る微細な凸状のドット(直径20nm〜100nm以下の量子ドット)を無数に形成することで、比表面積を極めて大きくすることで、感度を向上させたものである。また、量子ドットを用いていることから、多孔質シリコンを基板に用いた場合に比べると、洗浄も容易である。
【0011】
一方、グラファイトは、炭素原子が正六角形状に平面に並んだ構造をもち、平面に対して垂直方向にπ電子軌道が飛び出しているため、グラファイト表面は特異な電場を形成している。また、グラファイトは、レーザー脱離イオン化質量分析法で用いるレーザー光をよく吸収することも知られている。そこで、グラファイト粉末をLDI-MSにおけるマトリックスとした研究も行われている(非特許文献1)。しかし、下記特許文献3の背景技術及び実施例として説明されているように、グラファイト粉末をそのままマトリックスとして用いると、グラファイトが飛散して妨害ピークが発生し、測定の妨げとなる。しかも、飛散したグラファイトがイオン源内を汚染することも大きな問題である。グラファイトは導電性であるため、イオン加速のためにイオン源で高電圧を印加すると汚染グラファイトによる放電が起こり、装置に著しい損傷を与える恐れがあるため、グラファイト粉末を用いるLDI-MSは、一部の研究例を除き利用されていない。この問題を回避するために、水−エタノール溶媒にグラファイト粉末を分散させて薄膜を調製し、それをOHPフィルムに熱固着して作成したものがある(特許文献3)。この方法では、グラファイトの飛散を抑制できるが、グラファイト薄膜を構成するグラファイト粉末の大きさ、量、厚さを精密かつ均一に制御することができない。
【0012】
現時点において、広い範囲の分子量の試料に対して、十分な大きさの感度が得られ、ノイズがなく、且つ、基板の場所に依存しない均一な感度を有したレーザー離脱イオン化質量分析基板は、得られていない。したがって、試料溶液を基板上に均一に塗布することができ、試料溶液を塗布した基板表面にレーザー光を照射しても、妨害ピークを発生せず、測定後の基板の洗浄が容易であり、さまざまな種類の試料の分析に適用でき、かつ高感度な測定が可能な基板の開発が熱望されていた。そして、それらの特性を有した基板を用いて妨害ピ−クを発生させないレーザー脱離イオン化質量分析法及びその装置の実現が、各種の物質の質量分析において、望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−201042号公報
【特許文献2】特開2006−329977号公報
【特許文献3】特開2009−81054号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. Sunner, E. Dratz, Y.-C. Chen., Anal. Chem. 1995:67:4335-4342.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板において、レーザー光を照射したきに、妨害ピークを発生させることなく、生体関連物質および合成有機化合物など広範囲に渡る分子量の様々な試料を正確かつ高感度に、質量分析ができるようにすることである。
また、試料作成にあたっては、試料を均一に塗布することができ、かつ、検出感度が高く、かつ検出感度の場所依存性の小さいソフトLDI-MS測定のための試料基板およびそれを用いる測定方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本第1の発明は、レーザー脱離イオン化質量分析に供するための試料基板において、試料基板は、基台上に、カーボンナノウォールが立設されたものであり、このカーボンナノウォールの表面上に、質量分析のための試料を塗布するものであることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板である。
【0017】
また、第2の発明は、第1の発明において、カーボンナノウォールの表面が、試料に対するイオン化媒体として作用することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板である。
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、カーボンナノウォールの表面は親水処理が施されていることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板である。
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れか一つの発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析方法である。
また、第5の発明は、第1乃至第3の発明の何れか一つの発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析装置である。
また、第6の発明は、第1乃至第3の発明の何れか一つの発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面に、溶液化された試料を塗布、乾燥させて得られることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料である。
【0018】
本発明者らは、高性能なイオン化基板を開発すべく鋭意研究を進めた結果、高感度化を達成するためには比表面積を増大させることが重要であり、その手段として、アスペクト比が大きく、比表面積が極めて大きいカーボンナノウォールを、質量分析する試料の塗布基板に用いることが有効であることを見出した。その結果、本発明者らは、試料溶液を基板上に均一に塗布することができ、添加した基板表面にレーザー光を照射しても、妨害ピークを発生せず、かつ測定後の洗浄が容易である、基台の表面にカーボンナノウォールを立設したレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を発明した。
【0019】
すなわち、レーザー光を高い効率で吸収するカーボンナノウォール構造体を基台の表面上に形成し、この基台をイオン化媒体として用いれば、レーザー光が照射されたときに妨害ピークを発生しないので、広範な分子量の高分子化合物の正確かつ高感度で感度の場所依存性の少ないソフトLDI-MS測定を行うことができることを見出した。
【0020】
本発明のイオン化素子としてふさわしいのは、レーザー光を吸収してそのエネルギーを試料の離脱に分配できるカーボンナノウォール構造体であり、基台は、カーボンナノウォールが基台の面に対して縦方向に成長するものであれば、材質は問われない。本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板は、無機化合物からなるため、ソフトLDI-MS測定において、イオン化媒体由来の妨害ピークの発生を回避することができるものである。
【0021】
又、本発明では、エッチング等の微細加工を用いる必要がなく、製造が極めて簡単であり、カーボンナノウォールのアスペクト比や面積密度は、ばらつきのないものとすることができる。したがって、多数の試料を測定する場合に、それらの試料間の感度を一定とすることができる。
また、カーボンナノウォールの炭素結合や、カーボンナノウォールと基台との結合は強固であり、レーザー光をカーボンナノウォールや基台に照射しても、レーザー光を吸収した際に微細な組織が壊れて、カーボンや基板物質の小さな固まりが基板から離脱し、イオン化されて、妨害ピークを発生させるということがない。
【0022】
すなわち、本発明では、(被測定試料の離脱エネルギー)<(基板が吸収するレーザーのエネルギー)<(カーボンナノウォールを形成する原子間結合エネルギー)を満たすことができる。この結果、本発明では平滑表面上の突起状構造は基板に対して化学的に強力に結合しており、レーザーの照射によって、カーボンナノウォールの凸状構造が破壊し離脱することはない。このため、ノイズフリーのソフトイオン化が可能となる。
【0023】
ソフトLDI-MS測定では、生じたイオンを加速するために試料基板に2万ボルト程度の高電圧を印加する。そのため、イオン化材料であるカーボンナノウォールは、導電性の試料基板ホルダーに装備される必要があるが、その固定に両面テープやプラスチック製の部品などを用いると、そこから放出されるガス成分による真空度の低下や装置内部の汚染が問題となる可能性がある。また、金属製の冶具によって固定すると、該試料基板を傷つけたり、破損する恐れがある。しかし、本発明では、カーボンナノウォールは導電性があり、基板を導電性部材とすることで、該素子と試料基板ホルダーを一体化させることにより、質量分析装置の簡易化が可能となり、真空度の低下や汚染を防止したことにより高性能な質量分析装置が得られることがわかった。
【発明の効果】
【0024】
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を使用すれば、レーザー光照射時における、イオン化剤由来の妨害ピークを発生しないので、正確な測定ができる。また、基板表面に形成された絶壁状のカーボンナノウォール構造体からなるイオン化媒体を用いることにより、比表面積を極めて大きくすることができるので、測定感度が向上する。
また、本発明のイオン化基板は無機材料であり、被測定試料を塗布する基板表面は化学的に安定であるため、微細な多孔質イオン化基板のような表面不安定性がなく、いつでも測定データを再現する事ができる。
また、本発明の基板はプラズマ堆積法などの汎用ドライプロセスを用いて製造することが可能であるため、多孔質シリコンを用いる場合のように、フッ酸によるエッチング等のウエットプロセスを用いることがないので、量産化が容易である。
また、カーボンナノウォールは、ナノスケール間隔で、広い壁面が立設された構造であり、その密度を一定にして製造することが容易である。この結果、基板上の感度の場所依存性を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係る製造方法を実現する製造装置を示す模式図。
【図2】(a)、(b)、(c)は、各条件の製造方法により得られたカーボンナノウォールの断面のSEM像、(d)、(e)、(f)は、各条件の製造方法により得られたカーボンナノウォールの上面のSEM像。
【図3】本実施形態に係る質量分析基板及び基板ホルダーの構成を示す斜視図。
【図4】本実施形態に係る他の質量分析基板の構成を示す斜視図。
【図5】実施例1及び比較例1の4,4’-(α,α-dimethylbenzyl)diphenylamineのマススペクトル。
【図6】実施例2のIrganox 1035のマススペクトル。
【図7】実施例3のTriton X-100のマススペクトル。
【図8】実施例4のangiotensin-Iのマススペクトル。
【図9】実施例5のミオグロビンのマススペクトル。
【図10】実施例6のβ-シクロデキストリンのマススペクトル。
【図11】本発明の実施形態に係るレーザー脱離イオン化質量分析装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の製造方法について説明する。
本発明者らは、炭素、フッ素のプラズマ雰囲気中に酸素プラズマを加えることで、良質なカーボンナノウォールが基板上に成長することを発見した。原料物質にはC2F6、CF4、CHF3うち少なくとも1種を用いることが望ましい。
また、基板上にカーボンナノウォールを成長させるためのプラズマ雰囲気中に、この雰囲気とは別のところで水素ラジカルを発生させて、この水素ラジカルをプラズマ雰囲気中に注入することが望ましい。このような製造方法によると、プラズマ雰囲気中に注入するラジカルの組成、供給量等のうち一または二以上の条件を、他の一または二以上の製造条件と独立して、あるいは該他の製造条件に関連させて調整し得る。すなわち、外部からのラジカル注入を行わない場合に比べて製造条件の調整の自由度が高い。このことは、目的に応じた性状(例えば、壁の厚さ、高さ、形成密度、平滑性、表面積等)および/または特性(例えば、電界放出特性のような電気的特性等)を有するカーボンナノウォールを製造するという観点から有利である。
【0027】
なお、この出願に係る「カーボンナノウォール」は、二次元的な広がりをもつカーボンナノ構造体である。二次元的広がりのあるグラフェンシートが基材表面上に立設されたものであり、単層、多重層で壁を構成しているものである。二次元の意味は、壁の厚さ(幅)に比べて面の縦および横方向の長さが十分に大きいという意味で用いている。面が多層であっても、単層であっても、一対の層(中に空隙のある層)で構成されたものでも良い。また、上面が覆われたもの、したがって、内部に空洞を有するものであっても良い。例えば、ウォールの厚さは0.05〜30nm程度で、面の縦横の長さは、100nm〜10μmで程度である。一般的には、面の縦方向と横方向が幅に比べて非常に大きく、制御の対象となることから二次元と表現している。
【0028】
上記製造方法により得られるカーボンナノウォールの典型例は、基材の表面からほぼ一定の方向に立ち上がった壁状の構造を有するカーボンナノ構造体である。上記「プラズマ雰囲気」とは、当該雰囲気を構成する物質の少なくとも一部が電離した状態(すなわち、原子や分子のイオンや電子などの荷電粒子や、原子や分子のラジカルなどの中性粒子などが混在した状態(プラズマ化した状態))にある雰囲気をいう。
【0029】
ここで開示される製造方法の一つの好ましい態様では、原料物質、水素、酸素を反応室内でプラズマ化することによって該プラズマ雰囲気を形成する。あるいは、反応室の外部で原料物質、水素、酸素をプラズマ化し、そのプラズマを反応室に導入して該反応室内にプラズマ雰囲気を形成してもよい。また、原料物質のプラズマだけを反応室で生成して、酸素ラジカル、水素ラジカルだけを反応室とは別のところで生成して、それらのラジカルを反応室のプラズマ雰囲気中に注入するようにしても良い。また、原料物質と酸素のプラズマだけを反応室で生成して、水素ラジカルだけを反応室とは別のところで生成して、水素ラジカルを反応室のプラズマ雰囲気中に注入するようにしても良い。さらに、原料物質と水素のプラズマだけを反応室で生成して、酸素ラジカルだけを反応室とは別のところで生成して、酸素ラジカルを反応室のプラズマ雰囲気中に注入するようにしても良い。
【0030】
ラジカル源物質からラジカルを生成する好ましい方法としては、該ラジカル源物質に電磁波を照射する方法が挙げられる。この方法に使用する電磁波としては、マイクロ波および高周波(UHF波、VHF波またはRF波)のいずれも選択可能である。VHF波またはRF波を照射することが特に好ましい。かかる方法によると、例えば周波数および/または入力電力を変更することによって、ラジカル源物質の分解強度(ラジカルの生成量)を容易に調整することができる。したがって、カーボンナノウォールの製造条件(プラズマ雰囲気中へのラジカルの供給量等)を制御し易いという利点がある。
【0031】
ここで、周知のように、「マイクロ波」とは1GHz程度以上の電磁波を指すものとする。また、「UHF波」とは300〜3000MHz程度の、「VHF波」とは30〜300MHz程度の、「RF波」とは3〜30MHz程度の電磁波を、それぞれ指すものとする。 ラジカル源物質からラジカルを生成する他の好ましい方法としては、該ラジカル源物質に直流電圧を印加する方法が挙げられる。また、該ラジカル源物質に光(例えば可視光、紫外線)を照射する方法、電子線を照射する方法、該ラジカル源物質を加熱する方法等を採用することも可能である。あるいは、触媒金属を有する部材を加熱し、その部材にラジカル源物質を接触させて(すなわち、熱と触媒作用によって)ラジカルを生成してもよい。上記触媒金属としては、Pt,Pd,W,Mo,Ni等から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0032】
プラズマ雰囲気中に注入するラジカルは、少なくとも水素ラジカル(すなわち水素原子。以下、「Hラジカル」ということもある。)、酸素ラジカル(すなわち酸素原子、以下、「酸素ラジカル」ということもある。)を含むことが好ましい。少なくとも水素を構成元素とするラジカル源物質を分解してHラジカルを生成し、そのHラジカルをプラズマ雰囲気中に注入することが好ましい。このようなラジカル源物質として特に好ましいものは水素ガス(H2)である。
【0033】
原料物質としては、少なくとも炭素を構成元素とする種々の物質を選択することができる。一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。好ましい原料物質の一例としては、少なくとも炭素と水素を構成元素とする物質(ハイドロカーボン等)が挙げられる。好ましい原料物質の他の例としては、少なくとも炭素とフッ素を構成元素とする物質(フルオロカーボン等)が挙げられる。
【0034】
また、炭素と水素とフッ素を必須構成元素とする物質(フルオロハイドロカーボン等)が挙げられる。後述するように、特に、炭素とフッ素を構成元素とする物質、例えば、C2F6やCF4を用いる時、良好な形状のカーボンナノウォールが形成される。また、炭素と水素とフッ素を構成元素とする物質、例えば、CHF3を用いる時も良好な形状のカーボンナノウォールが形成される。
【0035】
また、Hラジカルの反応領域への注入割合であるラジカル源物質であるH2ガスの流量と原料物質ガスの流量との比により、形成されるカーボンナノウォールの形状や壁面間隔、壁の厚さや壁面の大きさが制御できることを、本件発明者は発見している。したがって、ラジカルの反応領域への供給量を制御することで、カーボンナノウォールの性状を制御することができる。
【0036】
ここで開示される製造方法の一つの好ましい態様では、反応室内における少なくとも一種類のラジカルの濃度(例えば、炭素ラジカル、水素ラジカル、フッ素ラジカル、酸素ラジカル、フッ化炭素ラジカルのうち少なくとも一種類のラジカルの濃度)に基づいて、カーボンナノウォール製造条件の少なくとも一つを調整する。かかるラジカル濃度に基づいて調整し得る製造条件の例としては、原料物質の供給量、原料物質のプラズマ化強度(プラズマ化条件の厳しさ)、ラジカル(典型的にはHラジカル)の注入量等が挙げられる。このような製造条件を、上記ラジカル濃度をフィードバックして制御することが好ましい。かかる製造方法によると、目的に応じた性状および/または特性を有するカーボンナノウォールを、より効率よく製造することが可能である。
【0037】
本製造方法を用いると、基材の表面に金属触媒がなくとも、カーボンナノウォールが良好に形成される。もちろん、金属触媒を用いて、カーボンナノウォールを成長させても良い。
このようにして、酸素、フッ素、水素を含むプラズマ雰囲気中において、酸素プラズマを加えたことから、基板上に成長するカーボンナノウォールの結晶性を良好にすることができた。特に、高さ方向に、枝分かれすることなく、1枚の連続したウォールとすることができた。多数回作成しても、同一構造のカーボンナノウウォールが得られた。また、アスペクト比(カーボンナノウォールの高さ/幅)は、200以上が得られた。
【0038】
カーボンナノウォールの製造に用いる原料物質としては、少なくとも炭素を構成元素とする種々の物質を選択することができる。炭素とともに原料物質を構成し得る元素の例としては、水素、フッ素、塩素、臭素、窒素、酸素等から選択される一種または二種以上が挙げられる。好ましい原料物質としては、実質的に炭素と水素から構成される原料物質、実質的に炭素とフッ素から構成される原料物質、実質的に炭素と水素とフッ素から構成される原料物質が例示される。フルオロカーボン(例えばC2F6)、フルオロハイドロカーボン(例えばCHF3)等を好ましく用いることができる。直鎖状、分岐状、環状のいずれの分子構造のものも使用可能である。通常は、常温常圧において気体状態を呈する原料物質(原料ガス)を用いることが好ましい。原料物質として一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。使用する原料物質の種類(組成)は、カーボンナノウォールの製造段階(例えば成長過程)の全体を通じて一定としてもよく、製造段階に応じて異ならせてもよい。目的とするカーボンナノ構造体の性状(例えば壁の厚さ)および/または特性(例えば電気的特性)に応じて、使用する原料物質の種類(組成)や供給方法等を適宜選択することができる。
【0039】
ラジカル源物質としては、少なくとも水素を構成元素とする物質を好ましく用いることができる。常温常圧において気体状態を呈するラジカル源物質(ラジカル源ガス)を用いることが好ましい。特に好ましいラジカル源物質は水素ガス(H2)である。また、ハイドロカーボン(CH4等)のように、分解によりHラジカルを生成し得る物質をラジカル源物質として用いることも可能である。ラジカル源物質として一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。
【0040】
ここで開示される製造方法では、原料物質と酸素がプラズマ化されたプラズマ雰囲気中にラジカルを注入する。これにより原料物質と酸素のプラズマとラジカル(典型的にはHラジカル)とを混在させる。すなわち、原料物質のプラズマ雰囲気中に高密度のラジカル(Hラジカル)を形成することができる。また、原料物質のプラズマに、酸素ラジカルと水素ラジカルとを注入するようにしても良い。その混在領域から基材上に堆積した炭素によりカーボンナノウォールが形成される(成長する)。使用し得る基材の例としては、少なくともカーボンナノウォールの形成される領域がSi、SiO2、Si3N4、GaAs、Ai2O3等の材質により構成されている基材が挙げられる。基材の全体が上記材質により構成されていてもよい。上記製造方法では、ニッケル鉄等の触媒を特に使用することなく、上記基材の表面に直接カーボンナノウォールを作製することができる。また、Ni,Fe,Co,Pd,Pt等の触媒(典型的には遷移金属触媒)を用いてもよい。例えば、上記基材の表面に上記触媒の薄膜(例えば厚さ1〜10nm程度の膜)を形成し、その触媒被膜の上にカーボンナノウォールを形成してもよい。使用する基材の外形は特に限定されない。典型的には、板状の基材(基板)が用いられる。
【0041】
カーボンナノウォールの製造装置の一構成例を図1に示す。図1に示すように、本実施例に係る装置3に備えられたラジカル供給手段40は、反応室10の上方にプラズマ生成室46を有する。プラズマ生成室46と反応室10とは、基板5のカーボンナノウォール形成面に対向して設けられた隔壁44によって仕切られている。プラズマ生成室46の上方にマイクロ波39を導入する導波路47が設けられている。そして、スロットアンテナ49を用いて石英窓48からプラズマ生成室46にマイクロ波を導入し、高密度のプラズマ332を生成する。このプラズマ332をプラズマ生成室46内に拡散させ(プラズマ334)、そこからラジカル38を生じさせることができる。隔壁44には適宜バイアスを印加することができる。例えば、プラズマ生成室46内のプラズマ334と隔壁44との間、または反応室10内のプラズマ雰囲気34と隔壁44との間へバイアス電圧を印加する。バイアスの向きは適宜可変である。隔壁44に負のバイアスを印加し得る構成とすることが好ましい。
【0042】
このプラズマ334から生じたイオンは、隔壁44で消滅し、中性化してラジカル38となる。このとき、適宜隔壁44に電界を印加して中性化率を高めることができる。また、中性化ラジカルにエネルギーを与えることもできる。隔壁44には多数の貫通孔が分散して設けられている。これらの貫通孔が多数のラジカル導入口14となって、反応室10にラジカル38が導入され、そのまま拡散してプラズマ雰囲気34中に注入される。図示するように、これらの導入口14は基板5の上面に対向する面、すなわちカーボンナノウォール形成面の面方向に広がって配置されている。
【0043】
このような構成を有する装置3によると、反応室10内のより広い範囲に、より均一にラジカル38を導入することができる。このことによって、基板5のより広い範囲(面積)に効率よくカーボンナノウォールを形成することができる。また、面方向の各部で構造(性状、特性等)がより均一化されたカーボンナノウォールを形成することができる。本実施例によると、これらの効果のうち一または二以上の効果を実現し得る。
【0044】
隔壁44は、Pt等の触媒機能性の高い材質が表面にコーティングされたもの、あるいはそのような材質自体により形成されたものとすることができる。かかる構成の隔壁44とプラズマ雰囲気34との間に電界を印加する(典型的には、隔壁44に負のバイアスを印加する)ことによって、プラズマ雰囲気34中のイオンを加速し、隔壁44をスパッタリングする。これにより、触媒機能を有する原子(Pt等)あるいはクラスターをプラズマ雰囲気34中に注入することができる。
【0045】
カーボンナノウォールを形成するプロセスにおいて、プラズマ生成室46から注入されるラジカル(典型的にはHラジカル)38、プラズマ雰囲気34において発生する少なくとも炭素を含むラジカルおよび/またはイオン、および、上述のように隔壁44のスパッタリングにより発生して注入される触媒機能を有する原子またはクラスターを用いる。これにより、得られるカーボンナノウォールの内部および/または表面に、触媒機能を有する原子、クラスターまたは微粒子を堆積させることができる。このようにな原子、クラスターまたは微粒子を具備するカーボンナノウォールは、高い触媒性能を発揮し得ることから、燃料電池の電極材料等として応用することが可能である。
【0046】
プラズマ放電手段20は、平行平板型容量結合プラズマ(CCP)発生機構として構成されている。プラズマ放電手段20を構成する第一電極22および第二電極24は、いずれも略円板状の形状を有する。これらの電極22,24は、互いにほぼ平行になるようにして反応室10内に配置されている。典型的には、第一電極22が上側に、第二電極24がその下側になるようにして配置する。第一電極(カソード)22には、図示しないマッチング回路(matching network)を介して図示しない電源が接続されている。これらの電源およびマッチング回路により、RF波(例えば13.56MHz)、UHF波(例えば500MHz)、VHF波(例えば、27MHz,40MHz,60MHz,100MHz,150MHz)、またはマイクロ波(例えば2.45GHz)の少なくともいずれかを発生することができる。少なくともRF波を発生し得るように構成されている。
【0047】
第二電極24は、反応室10内で第一電極22から離して配置される。両電極22,24の間隔は、例えば0.5〜10cm程度とすることができる。本実施例では約5cmとした。第二電極24は接地されている。カーボンナノウォールの製造時には、この第二電極24上に基板(基材)5を配置する。例えば、基材5のうちカーボンナノウォールを製造しようとする面が露出する(第一電極22に対向する)ようにして、第二電極24の表面上に基板5を配置する。第二電極24には、基材温度調節手段としてのヒータ25(例えばカーボンヒータ)が内蔵されている。必要に応じてこのヒータ25を稼動させることによって基板5の温度を調節することができる。
【0048】
反応室10には、図示しない供給源から原料物質(原料ガス)を供給可能な原料導入口12が設けられている。好ましい一つの態様では、第一電極(上部電極)22と第二電極(下部電極)24との間に原料ガスを供給し得るように原料導入口12と酸素ガスを供給し得るように酸素導入口13とを配置する。酸素導入口13から反応室10内に延長された供給管15は、基板5の付近まで、基板5に平行に配設されており、その供給管15の吹き出し口17が基板5の近くに開口している。第一電極22と第二電極24との間にラジカルを導入し得るように導入口14を配置する。さらに、反応室10には排気口16が設けられている。この排気口16は、反応室10内の圧力を調節する圧力調節手段(減圧手段)としての図示しない真空ポンプ等に接続されている。好ましい一つの態様では、この排気口16は第二電極24の下方に配置されている。
【0049】
ラジカル発生手段40には、マイクロ波(例えば2.45GHz)を直接導入して、プラズマ発生室46において、導入された水素ガスをプラズマ化して、水素プラズマを生成させ、これによりHラジカルを発生させている。
【0050】
このような構成の装置1を用いて、例えば以下のようにしてカーボンナノウォールを製造することができる。すなわち、第二電極24の上に基材5をセットし、原料導入口12と酸素導入口13とから反応室10にガス状の原料物質(原料ガス)32と酸素ガス33とを所定の流量で供給する。また、ラジカル源導入口42からラジカル発生室41にガス状のラジカル源物質(ラジカル源ガス)36を所定の流量で供給する。排気口16に接続された図示しない真空ポンプを稼動させ、反応室10の内圧(原料ガスの分圧と酸素ガスの分圧とラジカル源ガスの分圧との合計圧力)を10〜2000mTorr程度に調整する。なお、原料ガスおよびラジカル源ガスの好ましい供給量の比は、それらのガスの種類(組成)、目的とするカーボンナノウォールの性状、特性等によって異なり得る。例えば原料ガスとして炭素数1〜3のフルオロカーボンを使用し、ラジカル源ガスとして水素ガスを使用する場合には、原料ガス/ラジカル源ガスの供給量比(例えば、温度を同程度としたときの流量の比)が2/98〜60/40の範囲となるように供給することができる。この供給量比を5/95〜50/50の範囲とすることが好ましく、10/90〜30/70の範囲とすることがより好ましい。また、酸素ガスの供給比は、酸素ガス/原料ガスの供給比は、1/100〜2/10が望ましい。さらに望ましくは、2/100〜12/100である。
【0051】
これにより、主として第一電極22と第二電極24との間で原料ガス32と酸素ガス33とをプラズマ化してプラズマ雰囲気34を形成する。また、導波管47には、マイクロ波(例えば2.45GHz)を導入して、プラズマ生成室46内のラジカル源ガス36を分解してラジカル38を生成する。生成したラジカル38は、ラジカル導入口14から反応室10に導入され、プラズマ雰囲気34中に注入される。これにより、プラズマ雰囲気34を構成する原料ガスのプラズマと、その外部から注入されたラジカル38とが混在する。このようにして、第二電極24上に配置された基板5の表面にカーボンナノウォールを成長させることができる。このとき、ヒータ25等を用いて基板5の温度を100〜800℃程度(より好ましくは200〜600℃程度)に保持しておくことが好ましい。
【0052】
次に、上述した装置1を用いてカーボンナノ構造体を基板5の上に形成して、レーザー離脱イオン化質量分析用試料基板を作成した。そして、得られたカーボンナノ構造体の特性を評価した。原料ガス32としてC2F6を使用した。ラジカル源ガス36としては水素ガス(H2)を使用した。基板5としては厚さ約0.5mmのシリコン(Si)基板を用いた。なお、このシリコン基板5は触媒(金属触媒等)を実質的に含まない。第二電極24上にシリコン基板5を、その(100)面が第一電極22側に向くようにしてセットした。原料導入口12から反応室10にC2F6(原料ガス)32を、酸素導入口13から酸素ガス33を供給すると共に、ラジカル源導入口42から水素ガス(ラジカル源ガス)36を供給した。また、反応室10内のガスを排気口16から排気した。
【0053】
そして、反応室10内におけるC2F6を50sccmで、プラズマ生成室46内には水素ガスを100sccmで供給し、反応室10内には、酸素ガスを0、2、5sccmで供給し、全圧が約1.2Torrとなるように、排気条件を調節した。この条件で原料ガス32と酸素ガス33を供給しながら、電源から第一電極22に13.56MHz、100WのRF電力を入力し、反応室10内の原料ガス(C2F6)32と酸素ガス33にRF波を照射した。これにより原料ガス32と酸素ガス33をプラズマ化し、第一電極22と第二電極24との間にプラズマ雰囲気34を形成した。
【0054】
また、上記条件でラジカル源ガス36を供給しながら、マイクロ波を導波管47に導入して、プラズマ発生室46内のラジカル源ガス(H2)36にマイクロ波を照射した。これにより生成したHラジカルを、ラジカル導入口14から反応室10内に導入した。このようにして、シリコン基板5の(100)面にカーボンナノ構造体を成長(堆積)させた。構造体の成長時間は、酸素ガスを供給しない場合には20分、酸素ガスを供給する場合には40分とした。その間、必要に応じてヒータ25および図示しない冷却装置を用いることにより、基板5の温度を約500℃に保持した。
【0055】
上記の条件で形成されたカーボンナノウォールを走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。図2の(a)〜(c)は、上記の方法により形成されたカーボンナノウォールの断面のSEM像、図2の(d)〜(f)は、カーボンナノウォールを上面から観察したSEM像である。そして、(a)、(d)は、酸素ガスをプラズマ雰囲気中に供給しなかった場合のSEM像である。(b)、(e)は、酸素ガスを2sccm、すなわち、C2F6を50sccmと水素ガスを100sccmとの総和150sccmに対する酸素ガスの供給比率が1.3%の場合のSEM像である。また、(c)、(f)は、酸素ガスを5sccm、すなわち、C2F6を50sccmと水素ガスを100sccmとの総和150sccmに対する酸素ガスの供給比率が、3.2%の場合のSEM像である。
酸素ガスを供給しない場合には、カーボンナノウォールの成長速度は、60nm/min.であり、高さ1200nmのカーボンナノウォールが得られている。しかし、図2の(a)、(d)から明らかなように、カーボンナノウォールは、高さ方向に多くの枝分かれが存在しており、1枚のウォールが形成されていないことが理解される。
【0056】
これに対して、酸素ガスを2sccmで供給した場合には、成長速度は19nm/min.が得られ、高さ760nmのカーボンナノウォールが得られた。図2の(b)、(e)から明らかなように、高さ方向に枝分かれのない1枚のカーボンナノウォールが得られていることが理解される。
また、酸素ガスを5sccmで供給した場合には、成長速度は22nm/min.が得られ、高さ890nmのカーボンナノウォールが得られた。図2の(c)、(f)から明らかなように、高さ方向に枝分かれのない1枚のカーボンナノウォールが得られていることが理解される。
【0057】
以上の製法では、原料ガスとして、C2F6を用いたが、炭素とフッ素のプラズマに、水素ラジカルが存在し、これに酸素ガスを導入して酸素プラズマを加えることで、カーボンナノウォールが良質に形成される。したがって、原料ガスとしては、CF4、CHF3のように、炭素とフッ素、又は、炭素とフッ素と水素とから成るフッ化炭素、フッ化水化炭素などのCF系のガスを用いることができる。それは、プラズマの構成原子としては、C2F6に、水素ラジカルを導入した場合と、同一であるので、それらの原料ガスに酸素ガスを供給してプラズマ化する場合に拡張することが可能である。酸素ガスの供給比は、0.5%程度で、プラズマ雰囲気に酸素が微量存在すれば良く、酸素ガスが多く成り過ぎると、原料ガスによるカーボンナノウォールの結晶成長を阻害するので、その酸素ガスの流量比の上限は、5%〜10%と思われる。また、これらの比率の範囲は、プラズマを構成する原子に代わりがないので、C2F6ガス以外のCF系、CHF系の原料ガスにも適用可能と考えられる。
また、この効果は、酸素原子による作用により生じるので、微量のOラジカルの他、微量のOHラジカルも、有効である。また、それらの混合ラジカルであっても良い。
【0058】
以上のように製造にして、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を作成した。また、カーボンナノウォールは、親水性があることが望ましい。そこで、次のようにして、親水処理を施しても良い。
プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとし、大気圧プラズマビームの発光領域内に、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面における照射領域を位置させ、その照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、表面の法線方向から大気圧プラズマビームを表面に照射しながら、表面の全体に渡って照射領域を相対的に走査して、親水処理を行う。
【0059】
ここにおいて、プラズマ温度は100℃以下とすることができる。プラズマを発生させるガスは、アルゴンの他、窒素、酸素、これらの2種以上の混合ガスを用いることができる。酸素とアルゴンとの混合ガスを用いた場合には、酸素混合比率は、0.1%以上、10%以下が望ましい。プラズマビームの直径(可視発光領域の軸に垂直な断面)は、5mm以下が望ましい。レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の処理時の表面温度を100℃以下、最も望ましい場合には、70℃以下にすることができるので、損傷を与えることがない。
プラズマビームに対するレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板のビーム軸方向の配設位置と、親水性との間には、相関がある。すなわち、プラズマビームにおける可視発光領域内に、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を設けると、高い親水性効果が得られる。したがって、表面にプラズマビームの照射されたレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の親水性を高く保持することができる。また、プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとすることで、プラズマを安定化でき、ビーム軸に垂直な断面におけるプラズマ密度を均一にすることができる。そして、大気圧プラズマビームの発光領域内に、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面における照射領域を位置させ、その照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、表面の法線方向から大気圧プラズマビームを表面に照射しながら、表面の全体に渡って照射領域を相対的に走査することにより、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面全体に渡って均一一様で、且つ、高い親水性を付与することができた。
【0060】
プラズマ発生装置は、3相又は、3相以上の多相交流電源を用いた大気圧下でグロー放電プラズマを発生させる装置である。大気圧グロー放電プラズマ発生装置の小形化やグロー放電プラズマの均一化などの観点等より、n相交流電源の周波数は、20Hz〜200Hz程度がより望ましい。したがって、交流電圧を適当な電圧(例:数kV程度)にまで昇圧する昇圧回路を用いれば、大気圧グロー放電プラズマ発生装置の電源回路に50Hz乃至60Hzの商用電源を利用することも可能である。また、上記のプラズマ原料ガスとしては、アルゴン(Ar)ガスなどが最も適しているが、その他にも用途や被加工物に応じて、一般に大気圧グロー放電プラズマの生成に使用される公知のガスを用いてもよい。これらのプラズマ原料ガスとしては、例えば、He、Neなどの希ガスや、窒素、空気、酸素などである。
【0061】
また、親水性処理をするために、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板と反応させるための酸素原子を含むガスを同時に電極の微小間隙に流入させてもよい。放電電極の材料としては、ステンレス、モリブデン、タンタル、ニッケル、銅、タングステン、又は、これらの合金などを使用することができる。
【0062】
また、特に電子捕捉作用(ホローカソード放電)に寄与する凹部または溝部を形成する場合、放電ギャップを構成する放電電極のガス流方向の長さは、1〜10mm程度設けると良い。1mmより狭い場合、10mmより広い場合には、安定した放電が実現できない。また、その凹部または溝部は、例えば幅及び深さを1mm以下、より望ましくは0.5mm程度とすると良い。溝部の幅及び深さが1mmより大きくすると、安定した放電が得られない。また、電子捕捉作用に寄与する凹部はドット状に形成しても良い。更に、これらの凹部または溝部の形状は、円柱面状、半球面状、角柱面状、角錐状、その他任意に形成することができる。なお、親水処理については、特願2008−19267号に記載の技術を用いることができる。
【0063】
カーボンナノウォールを立設したレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の試料を塗布する表面の親水処理は、上記のようにプラズマビームを照射することで、行うことができる。この場合に、試料の塗布領域を格子状に区画して、親水処理をしていない境界領域を形成して良い。この場合には、異なる試料が、親水処理された各区画にのみ、他の試料と区別されて塗布されることになり、この基板を分析装置の内部に設置することで、一度に、各試料に関する質量分析を行うことができる。
また、上述の親水処理は、カーボンナノウォールを形成した後、製造装置から取り出して、別のプラズマ発生装置で、プラズマビームを照射することで、行っている。しかし、カーボンナノウォールの製造装置において、カーボンナノウォールの成長の後に、他の原料ガスの供給を停止して、酸素ガスを導入して、プラズマを発生させて、カーボンナノウォールの表面を親水処理しても良い。この場合には、試料基板の製造が簡単となる。
【0064】
このようにカーボンナノウォールが立設されたレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板に、窒素レーザー(波長 337 nm)やNd:YAGレーザー(波長266、355、532、1064nm)などのレーザーが照射されると、カーボンナノウォールは、レーザー光の特定波長の光エネルギーを吸収することによって急速に加熱されるので、その表面に吸着した試料分子のイオン化・脱離が起こるものであると考えられる。ソフトLDI-MSでは、一般にレーザー光照射とほぼ同時に試料基板ないしは試料基板ホルダーに2万ボルト程度の高電圧が印加されるため、イオン化した試料分子は、直ちに電気的な反発によって試料基板から飛び出し、質量分離部へと導入され、質量分析されるのであると考えられる。即ち、試料分子はイオン化および脱離に必要なエネルギーを、レーザー光から直接受け取るのではなく、カーボンナノウォールから間接的に提供されるため、試料分子の分解をほとんど伴わないソフトなイオン化が効率よく達成され、高精度に質量分析できるという所期の目的を達成することができる。カーボンナノウォールは、図2に示されているように、壁の端面が、ランダムな大きなうねりを持った形状をしている。このカーボンナノウォール特有な構造が、分子のソフトイオン化に効果的に作用している。
【0065】
試料調製は、試料を水又は有機溶媒に溶解させて作成する。タンパク質、ペプチド、糖などの生体高分子化合物は、0.1〜1%のトリフルオロ酢酸を含む水とアセトニトリルの混合溶液(アセトニトリルの含量5-75%)に溶解して、濃度1〜100pmol/μLの試料溶液を調製する。試料の溶解性などに応じて、水またはアセトニトリル100%の溶媒を用いたり、アセトニトリルの代わりにメタノール、エタノール、プロパノール、アセトンなどの有機溶媒を選択してもよい。前記生体高分子の中のタンパク質やペプチドの測定では、試料分子にプロトンを付着させることによって安定なイオンの形成を促進するために、トリフルオロ酢酸のほか、クエン酸、クエン酸アンモニウム類などのプロトン供与性の試薬を溶媒に対して0.1〜5%加えても良い。また、前記生体高分子の中の糖の測定では、安定な試料イオンを生成させるために、アルカリ陽イオン付加分子を生成させるために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウムなどの塩を0.1〜1mg/mLの濃度となるように加えてもよい。有機合成ポリマーおよびオリゴマーを含む有機合成化合物は、試料が可溶な有機溶媒に溶解して濃度0.1〜1mg/mLの試料溶液を調製する。有機溶媒として、クロロホルム、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、プロパノール、エタノール、メタノールなどが挙げられるが、試料が溶解すればこれらに限定されない。また、ポリエチレングリコールなどの水溶性の合成高分子は、水又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解しても良い。さらに、安定な試料イオンを生成させるために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、トリフルオロ酢酸銀、硝酸銀などの塩を0.1〜1mg/mLの濃度となるように加えてもよい。前記各試薬濃度は典型例であり、質量分析できるイオンが形成できればよく、上記濃度に限定されない。
【0066】
上述した方法により製造された試料基板5に、0.1〜1μLの試料溶液を直接塗布し、室温で自然乾燥させるだけで均一な乾燥試料を得ることができる。図3に示される導電性試料基板ホルダー61は、質量分析装置のイオン加速用電極として、直流電源装置67により、高電圧を印加するために用いるものである。この導電性試料基板ホルダー61の上に、このホルダ61に対して導通状態で導電性の試料基板5が設けられる。導電性の試料基板5としては、導電性のシリコン、銅、ステンレスなどの金属板を用いることができる。また、導電性の試料基板5として、LDI-MS用のステンレス鋼製の試料基板を用いることができる。すなわち、この場合には、このステンレス鋼製の基板ホルダー61上に、直接、カーボンナノウォールを形成しても良い。この基板ホルダー61の材料は、導電性であればよく、上記材料に限定されない。
【0067】
また、試料基板に、セラミックス、ガラス、真性シリコン基板などを用いた場合には、各6面に、金属膜51を蒸着したものを試料基板50とすることができる。この場合には、図4に示すように、表面の金属膜51の上に、カーボンナノウォールを55を形成することになる。このようにしてカーボンナノウォール55に対して通電可能な基板50が、基板ホルダー61の上に、基板50に対して、通電可能に、保持される。金属膜51は、たとえばAu、Al、Agを用いることができる。金属薄膜の作成は、蒸着またはスパッタ等の成膜法、あるいは無電解めっき等のめっき技術など、公知の方法で行うことができる。
また、このようにして導電性にした基板50自体を、ホルダー61として、量分析装置のイオン加速用電極として作用させてよい。このようにすると、図3の導電性試料基板ホルダー61が不要となり、質量分析装置を簡易化することができる。また、両面テープなどの構成材料が不要となるため、高真空のイオン源内でその構成材料から放出されるガス成分の気化による真空度の低下や装置内部の汚染を抑制することができ、より高精度な質量分析を達成することができる。
【0068】
又、レーザー照射スポット近傍に非常に大きな温度を発生させるためには熱は基板内部に拡散しない方が望ましい。このため、該物質の熱拡散率は低い方が望ましい。
【0069】
以下、実施例及び比較例を示して本発明の内容を具体的に説明するが、これは本発明が広範な試料の分析に適したものであることを例示するものであって、分析対象は、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0070】
工業製品分析への適用について(1)
フェニレンジアミン系酸化防止剤[4,4’-(α,α-dimethylbenzyl)diphenylamine]を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解し、1 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1 mL)をカーボンナノウォール素子(カーボンナノウォールを立設した試料基板、以下、同じ)に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。なお、カーボンナノウォールを立設した基板の材料は、導電性シリコン基板とした。基板の形状は、10 mm×10 mmの正方形とした。以下の実施例においても同じである。もちろん、基板は、絶縁性シリコン基板、導電性又は絶縁性の半導体基板、ガラス基板、セラミックス基板、銅基板、ステンレス基板、その他の金属基板上にカーボンナノウォールを立設した基板を用いても精度の高い測定が達成できる。
【0071】
図5は、カーボンナノウォール素子を用いた場合に観測された該酸化防止剤試料のマススペクトルである。m/z 405.2に該酸化防止剤試料のM+イオンが強く観測されている。これは、カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、酸化防止剤試料の質量分析が可能であることを示す事例である。
【比較例1】
【0072】
マトリックス剤として2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を用いて、フェニレンジアミン系酸化防止剤[4,4’-(α,α-dimethylbenzyl)diphenylamine]のMALDI-TOFMS測定を行った。マトリックス剤をテトラヒドロフランに溶解し、10mg/mLのマトリックス剤溶液を調製した。試料溶液は、上記実施例1と同様である。マトリックス剤溶液、試料溶液、及びカチオン化剤溶液を5/1/1の比で混合し、混合溶液(1 mL)をMALDI測定用試料台に塗布して乾燥した後、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。マススペクトルは、図1に併記する。この場合には、カーボンナノウォール素子を試料基板として用いていない。
【0073】
マトリックス剤にDHBを用いたMALDI−TOFMS測定(比較例1)では、数多くのピークが観測され、いずれが試料由来のピークであるのか判別することはできない。実際には、m/z 405.2に該試料のピークが観測されているが、これはあらかじめ試料の質量が既知であるために判別できたのであり、未知試料の分析には適さない。これは、MALDI−TOFMSでは、マトリックス剤に由来する様々なフラグメントピーク及びそれらのクラスターイオンが生じるためである。実施例1と、比較例1は、上記の問題が、カーボンナノウォール素子を試料用基板に用いることでマトリックス剤を不要とした本発明の方法によれば解決されることを示す事例である。
【実施例2】
【0074】
工業製品分析への適用について(2)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(Irganox 1035、登録商標)を、0.5mg/mLのヨウ化ナトリウムを含むクロロホルムに溶解し、0.5 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1 mL)をカーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。
【0075】
図6は、カーボンナノウォール素子を用いた場合に観測された該酸化防止剤試料のマススペクトルである。m/z 665.4に酸化防止剤試料の[M+Na]+イオンが強く観測されている。これは、カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、酸化防止剤試料の質量分析が可能であることを示す事例である。
【実施例3】
【0076】
工業製品分析への適用について(3)
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤(Triton X-100、登録商標)を、0.5mg/mLのヨウ化ナトリウムを含むクロロホルムに溶解し、0.5 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1 mL)をカーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。なお、該界面活性剤は、C8H17-PhO-(CH2-CH2-O)n-Hであり、Phはフェニル基を、nは繰り返し単位の数を意味する。
【0077】
図7は、カーボンナノウォール素子を用いた場合に観測された該界面活性剤試料のマススペクトルである。m/z 650付近を極大として、m/z 400〜1200付近にかけて [M+Na]+イオンの分布が観測されている。なお、質量44間隔で現れるピークは、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位(-CH2-CH2-O-、質量44)に分布をもつためであり、この分布はn値が概ね3から18程度の範囲に存在するという報告(G. A. Cumme, E. Blume, R. Bublitz, H. Hoppe, A. Horn, Journal of Chromatography A, 791, 245-253 (1997))に一致している。これは、カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、分子量分布をもつ試料の質量分析が可能であることが示す事例である。
【0078】
水溶性の試料は、親水化処理を施したカーボンナノウォール素子を用いるとイオン化できることが分かった。その実例を示す。
【実施例4】
【0079】
ペプチド試料分析の適用について
ペプチド試料(angiotensin-I、モノアイソトープ質量 [M+H]+ m/z 1296.7)を、クエン酸二水素アンモニウム含有メタノール溶液に溶解し、1pmoL/μLの試料溶液を調製した。試料溶液(1μL)を親水化カーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(AXIMA CFR-pulse)に装着し、分析した。
【0080】
図8は、観測されたangiotensin-Iのマススペクトルである。 質量1296.7にangiotensin-Iの[M+H]+イオンが明瞭に観測されている。これは、親水化カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、ペプチド試料の質量分析が達成されることを示す事例である。
【実施例5】
【0081】
タンパク質試料分析の適用について
タンパク質試料(ミオグロビン、分子量16951.5)を、クエン酸二水素アンモニウム含有メタノール溶液に溶解し、10pmoL/μLの試料溶液を調製した。試料溶液(1μL)を親水化カーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(AXIMA CFR-pulse)に装着し、分析した。
【0082】
図9は、観測されたミオグロビンのマススペクトルである。m/z 16952.6にミオグロビンの1価イオン([M+H]+)が、m/z 8476.8にミオグロビンの2価イオン([M+2H]2+)が、さらにm/z 5651.5にミオグロビンの3価イオン([M+3H]3+)が明瞭に観測されている。マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法などのソフトイオン化法で、タンパク質のイオン化において、1価イオンのみならずそれ以上の価数を持つイオンが生じやすいことは良く知られている。すなわち、本実施例の結果は、親水化カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、タンパク質試料の質量分析が達成されることを示す事例である。
【実施例6】
【0083】
糖質試料分析の適用について
β-シクロデキストリン(和光純薬製)を、純水に溶解し、1 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1μL)を親水化カーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(AXIMA-CFR pulse)に装着し、分析した。
【0084】
図10は、カーボンナノウォールを立設したレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いた場合に観測されたβ-シクロデキストリンのマススペクトルである。m/z1157.4にβ-シクロデキストリンの[M+Na]+イオンが強く観測されている。これは、親水化カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、糖質試料の質量分析が可能であることを示す事例である。
【0085】
[まとめ]
上記の実施例から明らかなように、カーボンナノウォールを立設した基板を、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板とした場合には、検出スペクトルは、試料物質以外のスペクトル、すなわち、ノイズが極めて少ないスペクトルとなっている。
一方、マトリックスを用いる方法では、レーザー光のエネルギーを吸収して、分子のソフトイオン化に寄与するイオン化支援物質が必要である。このイオン化支援物質のスペクトルが観測スペクトルに混入し、ノイズの増加の原因となっていた。換言すれば、従来の方法では、測定する試料に応じた各種のソフトイオン化支援物質のスペクトルを予め知っておく必要がある。
【0086】
これに対して、本発明では、カーボンナノウォールが、試料物質のソフトイオン化に寄与するので、イオン化支援物質を試料物質に混入する必要がなく、観測スペクトルにおいてノイズを低減させることができる。したがって、本発明によると、検出精度を格段に向上させることができると共に、非常に簡便に行うことができる。 なお、カーボンナノウォールを構成する炭素分子のスペクトルが観測されていないことから、レーザーが照射されても、カーボンナノウォールの分離は、起こっていない。
【0087】
本発明は、従来、用いることが必要であったソフトイオン化支援物質のスペクトルに近い、スペクトルを有する物質の質量分析に、特に有効である。すなわち、分析する試料のスペクトルと、ソフトイオン化支援物質のスペクトルが重ならないために、低分子量の試料であっても、精度の高い測定が可能となる。
また、上記の実施例から明らかなように、測定する試料の種類は、問われない。各種の試料において適用可能である。また、低分子量から17000の高分子量まで、測定できていることが分かる。カーボンナノウォール自体が、分子のソフトイオン化に寄与していることから、この分子量以上の範囲においても、本発明は適用可能であることが理解される。
本発明では、試料が固体の場合には、試料を溶解させる溶液(水を含む)だけを用いるが、試料が液体であれば、溶液を用いる必要はない。また、立設したカーボンナノウォールの端面に、直接、塗布できるような試料であれば、溶液をも用いる必要がない。
【0088】
本発明の試料基板を用いるレーザー脱離イオン化質量分析装置は、試料をレーザーで分子単位でイオン化させるものであれば、装置の種類は問わない。例えば、本発明の装置の一例を、図11に原理図で示す。本装置は、内部が真空に減圧できる筐体62を有している。筐体62の一方の端面には、試料ホルダー61が配設され、その試料ホルダー61上に、上記のようにして作成された試料基板5が配設される。この試料基板5の上に塗布された試料に向けて、レーザー光を照射するレーザー装置63が設けられている。筐体62の内部には、試料から離脱した分子イオンを加速するための電界を発生させる電極66が設けられており、基板ホルダー61と電極66との間に、直流電源67から、電圧が印加される。また、イオンの飛行経路中には、電磁場発生装置65が設けられており、分子イオンの質量に対する分解能を一定とするために、飛行経路長が質量に比例するように、イオンの飛行経路を制御するための界発生装置67が設けられている。 そして、筐体62の他方の端部には、イオン検出器64が設けられており、イオン検出器64により、到達したイオンが検出されるタイミングで、検出信号が、CPU70に出力される。CPU70は、レーザー装置63のパルスレーザの出力タイミングと、DC電源67の電圧印加タイミングを制御し、各イオンの飛行時間を演算する装置である。そして、CPU70は、各検出信号から得られる飛行時間から、単位電荷当たりの質量を演算して、スペクトルとして、DSP71に表示し、出力装置72から、測定結果を印刷する。
【0089】
質量分析装置は、基本的には、このような構成をしている。この他、幾つかの改良が成された一般に市販され、知られている装置にも、本発明の試料基板を用いて、試料分析装置を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、タンパク質や高分子材料などの分子の質量分析に応用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1… カーボンナノウォール製造装置
10… 反応室
12…原料ガス導入口
13…酸素ガス導入口
14…ラジカル導入口
20…プラズマ放電手段
22…第一電極
24…第二電
5,50…質量分析用試料基板
55…カーボンナノウォール
61…試料ホルダー
63…レーザー装置
64…検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板、これを用いたレーザー脱離イオン化質量分析方法及び装置に関する。特に、ソフトイオン化を支援するマトリックスを用いることのない基板、分析方法、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タンパク質・ペプチド、糖質、オリゴヌクレオチドなどの生体関連物質からなる高分子化合物や合成高分子化合物の分子量の正確な測定方法として、レーザー脱離イオン化質量分析法(LDI-MS: Laser Desorption Ionization-Mass Spectrometry)及びそのための測定装置が知られている。
【0003】
この測定方法においては、レーザーの照射により、試料の分子を分解することなく、分子単位でイオン化することが必要である。この目的のため、一般にはレーザー光を吸収する媒体上に試料を塗布するか、試料とレーザーを吸収する媒体とを混合した状態で供給することによって、試料分子の分解を回避する方法が用いられる。この試料の分解を伴わないイオン化法は、ソフトLDI-MSと呼ばれている。そのソフトLDI-MSのうちの一つに、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS: Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization-Mass Spectrometry)が知られている。質量分析においては、イオンの飛行時間を測定することにより行う飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、若しくはこれらの複合型のいずれかからなる質量分離部の作用により、質量分離された後に、検出器で該イオンが検出され、質量数が解析される。これらのうち、飛行時間型の質量分離部を用いる方法は、原理上測定の質量範囲に制限がないため多用されている。これらを組み合わせたマトリックス支援レーザー脱離イオン化のためのマトリックスとしては種々のものが使用されている。
【0004】
ところが、MALDI-MSでは、イオン化剤として低分子量有機化合物を使用するために、それに起因して妨害イオンが発生する。しかも、その発生した妨害イオンは、有機化合物の分子量付近(質量数、500以下)のみならず、これらがクラスターを形成して、質量数数千以上の領域にまで及ぶため、これらのノイズにマスクされて、目的とする試料分子の質量分析が困難となる場合が多い。また、MALDI-MSでは、イオン化に適したマトリックス剤の種類が試料分子の種類によって異なるため、測定試料の調製に際し、試行錯誤的に適切なマトリックス剤を選択しなければならないという不便がある。そのため、イオン化するためのイオン化剤として微粉末の無機化合物を用いるソフトLDI-MSが提案されている。
【0005】
この微粉末の無機化合物には、下記特許文献1、2の背景技術として記載されているように、例えば、コバルト微粉末、酸化チタン微粒子、グラファイト粉末、カーボンナノチューブ、平均粒子径が100nm以下であり、かつPVC黒度が50以下のカーボンブラック固体がある。また、表面がカーボンを含有する層を有した支持基板を用いれば、試料分子を微細な結晶に均一に結晶化させて、場所による感度、分解能のばらつきを抑制することが知られている。このうち、微粉末を用いる方法では、溶液状の試料と微粉末からなるけん濁溶液を質量分析用試料基板表面に塗布するため、均一に試料を塗布することが難しく、高感度な質量分析を行なう場合にはしばしば困難となる。さらに、レーザー光の照射によりイオン化媒体がイオン源内で飛散することがあり、それによる汚染などが問題となる。
【0006】
そこで、多孔質シリコン基板を試料基板に用いるソフトLDI-MSが提案されている。この方法は、DIOS-MS(desorption/ionization-mass spectrometry on porous silicon)と呼ばれている。この方法では、ナノメートルレベルの微細孔を持つ多孔質シリコン基板の表面に試料溶液を塗布し、乾燥させてから、これを質量分析装置のイオン源内に設置し、以降の操作はMALDI-MSと同様に、試料表面にレーザー光を照射することによって、質量分析が行われる。DIOS-MSにおけるイオン化の詳細な原理は明らかではないが、ナノシリコン構造体がレーザー光を高効率で吸収し、急速に加熱されることによって、試料分子の瞬間的な離脱が起こると共に、多孔質シリコンに結合あるいは吸着していた成分がイオン化して試料分子に電荷を受け渡すことによって、試料のイオン化が達成されるのではないかと考えられている。
【0007】
また、シリコン基板上に析出させた金微粒子上に成長させたシリコンナノワイヤーを用いるものがある。また、基板の表面部に凹部を設けたプラスチック材料としたり、さらに金属膜で覆たり、シリコンエッチングしたりしたもの、スポンジ状物質を用いるチップなどがある。
【0008】
DIOS-MSは、試料基板そのものをイオン化媒体として用いるため、試料の均一な塗布が比較的容易であり、MALDI-MSで問題となる妨害ピークの発生を回避できるという利点がある。しかしながら、多孔質シリコンのイオン化効率は作成条件に大きく左右され、また同一の多孔質構造をもつ試料基板を再現性よく作成することが極めて困難であるため、信頼性のある質量分析技術であるとは言いがたいのが現状である。さらに、一度塗布した試料の多くは多孔質構造中に取り込まれるため、試料分子の大半はイオン化されずに残留して高感度測定の障壁となるうえ、測定後の試料基板の洗浄が容易ではなく、前測定の試料に起因するピークの発生を防止する原因となるため、繰り返し測定にもあまり適していない。
【0009】
又、シリコンナノワイヤーを用いる方法では、ナノワイヤーの基材となる金微粒子がシリコン基板上に機械的に不安定な状態で結合しているため、測定中のレーザー光照射あるいは測定後の試料基板の洗浄過程において、ナノワイヤー・金微粒子構造が破損しやすく、繰り返し測定にはあまり適さない。
【0010】
そこで、本発明者らは、下記特許文献1、2に開示の技術を開発した。特許文献1の技術は、レーザー光を吸収するイオン化媒体として、表面が平坦な強誘電体等の焦電性結晶を用いる技術である。この技術は、レーザーの光エネルギーにより、焦電性結晶を瞬間的に分極させて、この分極に伴って現れる表面電荷や電場を利用して、試料分子のイオン化を行うものである。しかし、この技術は、試料を塗布する基板面が平坦な平面であるために、比表面積が小さいために、感度が小さいという問題があった。そこで、本発明者らは、検出感度を向上させるために、特許文献2の技術を開発した。特許文献2の技術は、平坦な半導体基板表面に半導体から成る微細な凸状のドット(直径20nm〜100nm以下の量子ドット)を無数に形成することで、比表面積を極めて大きくすることで、感度を向上させたものである。また、量子ドットを用いていることから、多孔質シリコンを基板に用いた場合に比べると、洗浄も容易である。
【0011】
一方、グラファイトは、炭素原子が正六角形状に平面に並んだ構造をもち、平面に対して垂直方向にπ電子軌道が飛び出しているため、グラファイト表面は特異な電場を形成している。また、グラファイトは、レーザー脱離イオン化質量分析法で用いるレーザー光をよく吸収することも知られている。そこで、グラファイト粉末をLDI-MSにおけるマトリックスとした研究も行われている(非特許文献1)。しかし、下記特許文献3の背景技術及び実施例として説明されているように、グラファイト粉末をそのままマトリックスとして用いると、グラファイトが飛散して妨害ピークが発生し、測定の妨げとなる。しかも、飛散したグラファイトがイオン源内を汚染することも大きな問題である。グラファイトは導電性であるため、イオン加速のためにイオン源で高電圧を印加すると汚染グラファイトによる放電が起こり、装置に著しい損傷を与える恐れがあるため、グラファイト粉末を用いるLDI-MSは、一部の研究例を除き利用されていない。この問題を回避するために、水−エタノール溶媒にグラファイト粉末を分散させて薄膜を調製し、それをOHPフィルムに熱固着して作成したものがある(特許文献3)。この方法では、グラファイトの飛散を抑制できるが、グラファイト薄膜を構成するグラファイト粉末の大きさ、量、厚さを精密かつ均一に制御することができない。
【0012】
現時点において、広い範囲の分子量の試料に対して、十分な大きさの感度が得られ、ノイズがなく、且つ、基板の場所に依存しない均一な感度を有したレーザー離脱イオン化質量分析基板は、得られていない。したがって、試料溶液を基板上に均一に塗布することができ、試料溶液を塗布した基板表面にレーザー光を照射しても、妨害ピークを発生せず、測定後の基板の洗浄が容易であり、さまざまな種類の試料の分析に適用でき、かつ高感度な測定が可能な基板の開発が熱望されていた。そして、それらの特性を有した基板を用いて妨害ピ−クを発生させないレーザー脱離イオン化質量分析法及びその装置の実現が、各種の物質の質量分析において、望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−201042号公報
【特許文献2】特開2006−329977号公報
【特許文献3】特開2009−81054号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. Sunner, E. Dratz, Y.-C. Chen., Anal. Chem. 1995:67:4335-4342.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板において、レーザー光を照射したきに、妨害ピークを発生させることなく、生体関連物質および合成有機化合物など広範囲に渡る分子量の様々な試料を正確かつ高感度に、質量分析ができるようにすることである。
また、試料作成にあたっては、試料を均一に塗布することができ、かつ、検出感度が高く、かつ検出感度の場所依存性の小さいソフトLDI-MS測定のための試料基板およびそれを用いる測定方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本第1の発明は、レーザー脱離イオン化質量分析に供するための試料基板において、試料基板は、基台上に、カーボンナノウォールが立設されたものであり、このカーボンナノウォールの表面上に、質量分析のための試料を塗布するものであることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板である。
【0017】
また、第2の発明は、第1の発明において、カーボンナノウォールの表面が、試料に対するイオン化媒体として作用することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板である。
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、カーボンナノウォールの表面は親水処理が施されていることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板である。
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れか一つの発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析方法である。
また、第5の発明は、第1乃至第3の発明の何れか一つの発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析装置である。
また、第6の発明は、第1乃至第3の発明の何れか一つの発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面に、溶液化された試料を塗布、乾燥させて得られることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料である。
【0018】
本発明者らは、高性能なイオン化基板を開発すべく鋭意研究を進めた結果、高感度化を達成するためには比表面積を増大させることが重要であり、その手段として、アスペクト比が大きく、比表面積が極めて大きいカーボンナノウォールを、質量分析する試料の塗布基板に用いることが有効であることを見出した。その結果、本発明者らは、試料溶液を基板上に均一に塗布することができ、添加した基板表面にレーザー光を照射しても、妨害ピークを発生せず、かつ測定後の洗浄が容易である、基台の表面にカーボンナノウォールを立設したレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を発明した。
【0019】
すなわち、レーザー光を高い効率で吸収するカーボンナノウォール構造体を基台の表面上に形成し、この基台をイオン化媒体として用いれば、レーザー光が照射されたときに妨害ピークを発生しないので、広範な分子量の高分子化合物の正確かつ高感度で感度の場所依存性の少ないソフトLDI-MS測定を行うことができることを見出した。
【0020】
本発明のイオン化素子としてふさわしいのは、レーザー光を吸収してそのエネルギーを試料の離脱に分配できるカーボンナノウォール構造体であり、基台は、カーボンナノウォールが基台の面に対して縦方向に成長するものであれば、材質は問われない。本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板は、無機化合物からなるため、ソフトLDI-MS測定において、イオン化媒体由来の妨害ピークの発生を回避することができるものである。
【0021】
又、本発明では、エッチング等の微細加工を用いる必要がなく、製造が極めて簡単であり、カーボンナノウォールのアスペクト比や面積密度は、ばらつきのないものとすることができる。したがって、多数の試料を測定する場合に、それらの試料間の感度を一定とすることができる。
また、カーボンナノウォールの炭素結合や、カーボンナノウォールと基台との結合は強固であり、レーザー光をカーボンナノウォールや基台に照射しても、レーザー光を吸収した際に微細な組織が壊れて、カーボンや基板物質の小さな固まりが基板から離脱し、イオン化されて、妨害ピークを発生させるということがない。
【0022】
すなわち、本発明では、(被測定試料の離脱エネルギー)<(基板が吸収するレーザーのエネルギー)<(カーボンナノウォールを形成する原子間結合エネルギー)を満たすことができる。この結果、本発明では平滑表面上の突起状構造は基板に対して化学的に強力に結合しており、レーザーの照射によって、カーボンナノウォールの凸状構造が破壊し離脱することはない。このため、ノイズフリーのソフトイオン化が可能となる。
【0023】
ソフトLDI-MS測定では、生じたイオンを加速するために試料基板に2万ボルト程度の高電圧を印加する。そのため、イオン化材料であるカーボンナノウォールは、導電性の試料基板ホルダーに装備される必要があるが、その固定に両面テープやプラスチック製の部品などを用いると、そこから放出されるガス成分による真空度の低下や装置内部の汚染が問題となる可能性がある。また、金属製の冶具によって固定すると、該試料基板を傷つけたり、破損する恐れがある。しかし、本発明では、カーボンナノウォールは導電性があり、基板を導電性部材とすることで、該素子と試料基板ホルダーを一体化させることにより、質量分析装置の簡易化が可能となり、真空度の低下や汚染を防止したことにより高性能な質量分析装置が得られることがわかった。
【発明の効果】
【0024】
本発明のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を使用すれば、レーザー光照射時における、イオン化剤由来の妨害ピークを発生しないので、正確な測定ができる。また、基板表面に形成された絶壁状のカーボンナノウォール構造体からなるイオン化媒体を用いることにより、比表面積を極めて大きくすることができるので、測定感度が向上する。
また、本発明のイオン化基板は無機材料であり、被測定試料を塗布する基板表面は化学的に安定であるため、微細な多孔質イオン化基板のような表面不安定性がなく、いつでも測定データを再現する事ができる。
また、本発明の基板はプラズマ堆積法などの汎用ドライプロセスを用いて製造することが可能であるため、多孔質シリコンを用いる場合のように、フッ酸によるエッチング等のウエットプロセスを用いることがないので、量産化が容易である。
また、カーボンナノウォールは、ナノスケール間隔で、広い壁面が立設された構造であり、その密度を一定にして製造することが容易である。この結果、基板上の感度の場所依存性を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係る製造方法を実現する製造装置を示す模式図。
【図2】(a)、(b)、(c)は、各条件の製造方法により得られたカーボンナノウォールの断面のSEM像、(d)、(e)、(f)は、各条件の製造方法により得られたカーボンナノウォールの上面のSEM像。
【図3】本実施形態に係る質量分析基板及び基板ホルダーの構成を示す斜視図。
【図4】本実施形態に係る他の質量分析基板の構成を示す斜視図。
【図5】実施例1及び比較例1の4,4’-(α,α-dimethylbenzyl)diphenylamineのマススペクトル。
【図6】実施例2のIrganox 1035のマススペクトル。
【図7】実施例3のTriton X-100のマススペクトル。
【図8】実施例4のangiotensin-Iのマススペクトル。
【図9】実施例5のミオグロビンのマススペクトル。
【図10】実施例6のβ-シクロデキストリンのマススペクトル。
【図11】本発明の実施形態に係るレーザー脱離イオン化質量分析装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の製造方法について説明する。
本発明者らは、炭素、フッ素のプラズマ雰囲気中に酸素プラズマを加えることで、良質なカーボンナノウォールが基板上に成長することを発見した。原料物質にはC2F6、CF4、CHF3うち少なくとも1種を用いることが望ましい。
また、基板上にカーボンナノウォールを成長させるためのプラズマ雰囲気中に、この雰囲気とは別のところで水素ラジカルを発生させて、この水素ラジカルをプラズマ雰囲気中に注入することが望ましい。このような製造方法によると、プラズマ雰囲気中に注入するラジカルの組成、供給量等のうち一または二以上の条件を、他の一または二以上の製造条件と独立して、あるいは該他の製造条件に関連させて調整し得る。すなわち、外部からのラジカル注入を行わない場合に比べて製造条件の調整の自由度が高い。このことは、目的に応じた性状(例えば、壁の厚さ、高さ、形成密度、平滑性、表面積等)および/または特性(例えば、電界放出特性のような電気的特性等)を有するカーボンナノウォールを製造するという観点から有利である。
【0027】
なお、この出願に係る「カーボンナノウォール」は、二次元的な広がりをもつカーボンナノ構造体である。二次元的広がりのあるグラフェンシートが基材表面上に立設されたものであり、単層、多重層で壁を構成しているものである。二次元の意味は、壁の厚さ(幅)に比べて面の縦および横方向の長さが十分に大きいという意味で用いている。面が多層であっても、単層であっても、一対の層(中に空隙のある層)で構成されたものでも良い。また、上面が覆われたもの、したがって、内部に空洞を有するものであっても良い。例えば、ウォールの厚さは0.05〜30nm程度で、面の縦横の長さは、100nm〜10μmで程度である。一般的には、面の縦方向と横方向が幅に比べて非常に大きく、制御の対象となることから二次元と表現している。
【0028】
上記製造方法により得られるカーボンナノウォールの典型例は、基材の表面からほぼ一定の方向に立ち上がった壁状の構造を有するカーボンナノ構造体である。上記「プラズマ雰囲気」とは、当該雰囲気を構成する物質の少なくとも一部が電離した状態(すなわち、原子や分子のイオンや電子などの荷電粒子や、原子や分子のラジカルなどの中性粒子などが混在した状態(プラズマ化した状態))にある雰囲気をいう。
【0029】
ここで開示される製造方法の一つの好ましい態様では、原料物質、水素、酸素を反応室内でプラズマ化することによって該プラズマ雰囲気を形成する。あるいは、反応室の外部で原料物質、水素、酸素をプラズマ化し、そのプラズマを反応室に導入して該反応室内にプラズマ雰囲気を形成してもよい。また、原料物質のプラズマだけを反応室で生成して、酸素ラジカル、水素ラジカルだけを反応室とは別のところで生成して、それらのラジカルを反応室のプラズマ雰囲気中に注入するようにしても良い。また、原料物質と酸素のプラズマだけを反応室で生成して、水素ラジカルだけを反応室とは別のところで生成して、水素ラジカルを反応室のプラズマ雰囲気中に注入するようにしても良い。さらに、原料物質と水素のプラズマだけを反応室で生成して、酸素ラジカルだけを反応室とは別のところで生成して、酸素ラジカルを反応室のプラズマ雰囲気中に注入するようにしても良い。
【0030】
ラジカル源物質からラジカルを生成する好ましい方法としては、該ラジカル源物質に電磁波を照射する方法が挙げられる。この方法に使用する電磁波としては、マイクロ波および高周波(UHF波、VHF波またはRF波)のいずれも選択可能である。VHF波またはRF波を照射することが特に好ましい。かかる方法によると、例えば周波数および/または入力電力を変更することによって、ラジカル源物質の分解強度(ラジカルの生成量)を容易に調整することができる。したがって、カーボンナノウォールの製造条件(プラズマ雰囲気中へのラジカルの供給量等)を制御し易いという利点がある。
【0031】
ここで、周知のように、「マイクロ波」とは1GHz程度以上の電磁波を指すものとする。また、「UHF波」とは300〜3000MHz程度の、「VHF波」とは30〜300MHz程度の、「RF波」とは3〜30MHz程度の電磁波を、それぞれ指すものとする。 ラジカル源物質からラジカルを生成する他の好ましい方法としては、該ラジカル源物質に直流電圧を印加する方法が挙げられる。また、該ラジカル源物質に光(例えば可視光、紫外線)を照射する方法、電子線を照射する方法、該ラジカル源物質を加熱する方法等を採用することも可能である。あるいは、触媒金属を有する部材を加熱し、その部材にラジカル源物質を接触させて(すなわち、熱と触媒作用によって)ラジカルを生成してもよい。上記触媒金属としては、Pt,Pd,W,Mo,Ni等から選択される一種または二種以上を用いることができる。
【0032】
プラズマ雰囲気中に注入するラジカルは、少なくとも水素ラジカル(すなわち水素原子。以下、「Hラジカル」ということもある。)、酸素ラジカル(すなわち酸素原子、以下、「酸素ラジカル」ということもある。)を含むことが好ましい。少なくとも水素を構成元素とするラジカル源物質を分解してHラジカルを生成し、そのHラジカルをプラズマ雰囲気中に注入することが好ましい。このようなラジカル源物質として特に好ましいものは水素ガス(H2)である。
【0033】
原料物質としては、少なくとも炭素を構成元素とする種々の物質を選択することができる。一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。好ましい原料物質の一例としては、少なくとも炭素と水素を構成元素とする物質(ハイドロカーボン等)が挙げられる。好ましい原料物質の他の例としては、少なくとも炭素とフッ素を構成元素とする物質(フルオロカーボン等)が挙げられる。
【0034】
また、炭素と水素とフッ素を必須構成元素とする物質(フルオロハイドロカーボン等)が挙げられる。後述するように、特に、炭素とフッ素を構成元素とする物質、例えば、C2F6やCF4を用いる時、良好な形状のカーボンナノウォールが形成される。また、炭素と水素とフッ素を構成元素とする物質、例えば、CHF3を用いる時も良好な形状のカーボンナノウォールが形成される。
【0035】
また、Hラジカルの反応領域への注入割合であるラジカル源物質であるH2ガスの流量と原料物質ガスの流量との比により、形成されるカーボンナノウォールの形状や壁面間隔、壁の厚さや壁面の大きさが制御できることを、本件発明者は発見している。したがって、ラジカルの反応領域への供給量を制御することで、カーボンナノウォールの性状を制御することができる。
【0036】
ここで開示される製造方法の一つの好ましい態様では、反応室内における少なくとも一種類のラジカルの濃度(例えば、炭素ラジカル、水素ラジカル、フッ素ラジカル、酸素ラジカル、フッ化炭素ラジカルのうち少なくとも一種類のラジカルの濃度)に基づいて、カーボンナノウォール製造条件の少なくとも一つを調整する。かかるラジカル濃度に基づいて調整し得る製造条件の例としては、原料物質の供給量、原料物質のプラズマ化強度(プラズマ化条件の厳しさ)、ラジカル(典型的にはHラジカル)の注入量等が挙げられる。このような製造条件を、上記ラジカル濃度をフィードバックして制御することが好ましい。かかる製造方法によると、目的に応じた性状および/または特性を有するカーボンナノウォールを、より効率よく製造することが可能である。
【0037】
本製造方法を用いると、基材の表面に金属触媒がなくとも、カーボンナノウォールが良好に形成される。もちろん、金属触媒を用いて、カーボンナノウォールを成長させても良い。
このようにして、酸素、フッ素、水素を含むプラズマ雰囲気中において、酸素プラズマを加えたことから、基板上に成長するカーボンナノウォールの結晶性を良好にすることができた。特に、高さ方向に、枝分かれすることなく、1枚の連続したウォールとすることができた。多数回作成しても、同一構造のカーボンナノウウォールが得られた。また、アスペクト比(カーボンナノウォールの高さ/幅)は、200以上が得られた。
【0038】
カーボンナノウォールの製造に用いる原料物質としては、少なくとも炭素を構成元素とする種々の物質を選択することができる。炭素とともに原料物質を構成し得る元素の例としては、水素、フッ素、塩素、臭素、窒素、酸素等から選択される一種または二種以上が挙げられる。好ましい原料物質としては、実質的に炭素と水素から構成される原料物質、実質的に炭素とフッ素から構成される原料物質、実質的に炭素と水素とフッ素から構成される原料物質が例示される。フルオロカーボン(例えばC2F6)、フルオロハイドロカーボン(例えばCHF3)等を好ましく用いることができる。直鎖状、分岐状、環状のいずれの分子構造のものも使用可能である。通常は、常温常圧において気体状態を呈する原料物質(原料ガス)を用いることが好ましい。原料物質として一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。使用する原料物質の種類(組成)は、カーボンナノウォールの製造段階(例えば成長過程)の全体を通じて一定としてもよく、製造段階に応じて異ならせてもよい。目的とするカーボンナノ構造体の性状(例えば壁の厚さ)および/または特性(例えば電気的特性)に応じて、使用する原料物質の種類(組成)や供給方法等を適宜選択することができる。
【0039】
ラジカル源物質としては、少なくとも水素を構成元素とする物質を好ましく用いることができる。常温常圧において気体状態を呈するラジカル源物質(ラジカル源ガス)を用いることが好ましい。特に好ましいラジカル源物質は水素ガス(H2)である。また、ハイドロカーボン(CH4等)のように、分解によりHラジカルを生成し得る物質をラジカル源物質として用いることも可能である。ラジカル源物質として一種類の物質のみを用いてもよく、二種以上の物質を任意の割合で用いてもよい。
【0040】
ここで開示される製造方法では、原料物質と酸素がプラズマ化されたプラズマ雰囲気中にラジカルを注入する。これにより原料物質と酸素のプラズマとラジカル(典型的にはHラジカル)とを混在させる。すなわち、原料物質のプラズマ雰囲気中に高密度のラジカル(Hラジカル)を形成することができる。また、原料物質のプラズマに、酸素ラジカルと水素ラジカルとを注入するようにしても良い。その混在領域から基材上に堆積した炭素によりカーボンナノウォールが形成される(成長する)。使用し得る基材の例としては、少なくともカーボンナノウォールの形成される領域がSi、SiO2、Si3N4、GaAs、Ai2O3等の材質により構成されている基材が挙げられる。基材の全体が上記材質により構成されていてもよい。上記製造方法では、ニッケル鉄等の触媒を特に使用することなく、上記基材の表面に直接カーボンナノウォールを作製することができる。また、Ni,Fe,Co,Pd,Pt等の触媒(典型的には遷移金属触媒)を用いてもよい。例えば、上記基材の表面に上記触媒の薄膜(例えば厚さ1〜10nm程度の膜)を形成し、その触媒被膜の上にカーボンナノウォールを形成してもよい。使用する基材の外形は特に限定されない。典型的には、板状の基材(基板)が用いられる。
【0041】
カーボンナノウォールの製造装置の一構成例を図1に示す。図1に示すように、本実施例に係る装置3に備えられたラジカル供給手段40は、反応室10の上方にプラズマ生成室46を有する。プラズマ生成室46と反応室10とは、基板5のカーボンナノウォール形成面に対向して設けられた隔壁44によって仕切られている。プラズマ生成室46の上方にマイクロ波39を導入する導波路47が設けられている。そして、スロットアンテナ49を用いて石英窓48からプラズマ生成室46にマイクロ波を導入し、高密度のプラズマ332を生成する。このプラズマ332をプラズマ生成室46内に拡散させ(プラズマ334)、そこからラジカル38を生じさせることができる。隔壁44には適宜バイアスを印加することができる。例えば、プラズマ生成室46内のプラズマ334と隔壁44との間、または反応室10内のプラズマ雰囲気34と隔壁44との間へバイアス電圧を印加する。バイアスの向きは適宜可変である。隔壁44に負のバイアスを印加し得る構成とすることが好ましい。
【0042】
このプラズマ334から生じたイオンは、隔壁44で消滅し、中性化してラジカル38となる。このとき、適宜隔壁44に電界を印加して中性化率を高めることができる。また、中性化ラジカルにエネルギーを与えることもできる。隔壁44には多数の貫通孔が分散して設けられている。これらの貫通孔が多数のラジカル導入口14となって、反応室10にラジカル38が導入され、そのまま拡散してプラズマ雰囲気34中に注入される。図示するように、これらの導入口14は基板5の上面に対向する面、すなわちカーボンナノウォール形成面の面方向に広がって配置されている。
【0043】
このような構成を有する装置3によると、反応室10内のより広い範囲に、より均一にラジカル38を導入することができる。このことによって、基板5のより広い範囲(面積)に効率よくカーボンナノウォールを形成することができる。また、面方向の各部で構造(性状、特性等)がより均一化されたカーボンナノウォールを形成することができる。本実施例によると、これらの効果のうち一または二以上の効果を実現し得る。
【0044】
隔壁44は、Pt等の触媒機能性の高い材質が表面にコーティングされたもの、あるいはそのような材質自体により形成されたものとすることができる。かかる構成の隔壁44とプラズマ雰囲気34との間に電界を印加する(典型的には、隔壁44に負のバイアスを印加する)ことによって、プラズマ雰囲気34中のイオンを加速し、隔壁44をスパッタリングする。これにより、触媒機能を有する原子(Pt等)あるいはクラスターをプラズマ雰囲気34中に注入することができる。
【0045】
カーボンナノウォールを形成するプロセスにおいて、プラズマ生成室46から注入されるラジカル(典型的にはHラジカル)38、プラズマ雰囲気34において発生する少なくとも炭素を含むラジカルおよび/またはイオン、および、上述のように隔壁44のスパッタリングにより発生して注入される触媒機能を有する原子またはクラスターを用いる。これにより、得られるカーボンナノウォールの内部および/または表面に、触媒機能を有する原子、クラスターまたは微粒子を堆積させることができる。このようにな原子、クラスターまたは微粒子を具備するカーボンナノウォールは、高い触媒性能を発揮し得ることから、燃料電池の電極材料等として応用することが可能である。
【0046】
プラズマ放電手段20は、平行平板型容量結合プラズマ(CCP)発生機構として構成されている。プラズマ放電手段20を構成する第一電極22および第二電極24は、いずれも略円板状の形状を有する。これらの電極22,24は、互いにほぼ平行になるようにして反応室10内に配置されている。典型的には、第一電極22が上側に、第二電極24がその下側になるようにして配置する。第一電極(カソード)22には、図示しないマッチング回路(matching network)を介して図示しない電源が接続されている。これらの電源およびマッチング回路により、RF波(例えば13.56MHz)、UHF波(例えば500MHz)、VHF波(例えば、27MHz,40MHz,60MHz,100MHz,150MHz)、またはマイクロ波(例えば2.45GHz)の少なくともいずれかを発生することができる。少なくともRF波を発生し得るように構成されている。
【0047】
第二電極24は、反応室10内で第一電極22から離して配置される。両電極22,24の間隔は、例えば0.5〜10cm程度とすることができる。本実施例では約5cmとした。第二電極24は接地されている。カーボンナノウォールの製造時には、この第二電極24上に基板(基材)5を配置する。例えば、基材5のうちカーボンナノウォールを製造しようとする面が露出する(第一電極22に対向する)ようにして、第二電極24の表面上に基板5を配置する。第二電極24には、基材温度調節手段としてのヒータ25(例えばカーボンヒータ)が内蔵されている。必要に応じてこのヒータ25を稼動させることによって基板5の温度を調節することができる。
【0048】
反応室10には、図示しない供給源から原料物質(原料ガス)を供給可能な原料導入口12が設けられている。好ましい一つの態様では、第一電極(上部電極)22と第二電極(下部電極)24との間に原料ガスを供給し得るように原料導入口12と酸素ガスを供給し得るように酸素導入口13とを配置する。酸素導入口13から反応室10内に延長された供給管15は、基板5の付近まで、基板5に平行に配設されており、その供給管15の吹き出し口17が基板5の近くに開口している。第一電極22と第二電極24との間にラジカルを導入し得るように導入口14を配置する。さらに、反応室10には排気口16が設けられている。この排気口16は、反応室10内の圧力を調節する圧力調節手段(減圧手段)としての図示しない真空ポンプ等に接続されている。好ましい一つの態様では、この排気口16は第二電極24の下方に配置されている。
【0049】
ラジカル発生手段40には、マイクロ波(例えば2.45GHz)を直接導入して、プラズマ発生室46において、導入された水素ガスをプラズマ化して、水素プラズマを生成させ、これによりHラジカルを発生させている。
【0050】
このような構成の装置1を用いて、例えば以下のようにしてカーボンナノウォールを製造することができる。すなわち、第二電極24の上に基材5をセットし、原料導入口12と酸素導入口13とから反応室10にガス状の原料物質(原料ガス)32と酸素ガス33とを所定の流量で供給する。また、ラジカル源導入口42からラジカル発生室41にガス状のラジカル源物質(ラジカル源ガス)36を所定の流量で供給する。排気口16に接続された図示しない真空ポンプを稼動させ、反応室10の内圧(原料ガスの分圧と酸素ガスの分圧とラジカル源ガスの分圧との合計圧力)を10〜2000mTorr程度に調整する。なお、原料ガスおよびラジカル源ガスの好ましい供給量の比は、それらのガスの種類(組成)、目的とするカーボンナノウォールの性状、特性等によって異なり得る。例えば原料ガスとして炭素数1〜3のフルオロカーボンを使用し、ラジカル源ガスとして水素ガスを使用する場合には、原料ガス/ラジカル源ガスの供給量比(例えば、温度を同程度としたときの流量の比)が2/98〜60/40の範囲となるように供給することができる。この供給量比を5/95〜50/50の範囲とすることが好ましく、10/90〜30/70の範囲とすることがより好ましい。また、酸素ガスの供給比は、酸素ガス/原料ガスの供給比は、1/100〜2/10が望ましい。さらに望ましくは、2/100〜12/100である。
【0051】
これにより、主として第一電極22と第二電極24との間で原料ガス32と酸素ガス33とをプラズマ化してプラズマ雰囲気34を形成する。また、導波管47には、マイクロ波(例えば2.45GHz)を導入して、プラズマ生成室46内のラジカル源ガス36を分解してラジカル38を生成する。生成したラジカル38は、ラジカル導入口14から反応室10に導入され、プラズマ雰囲気34中に注入される。これにより、プラズマ雰囲気34を構成する原料ガスのプラズマと、その外部から注入されたラジカル38とが混在する。このようにして、第二電極24上に配置された基板5の表面にカーボンナノウォールを成長させることができる。このとき、ヒータ25等を用いて基板5の温度を100〜800℃程度(より好ましくは200〜600℃程度)に保持しておくことが好ましい。
【0052】
次に、上述した装置1を用いてカーボンナノ構造体を基板5の上に形成して、レーザー離脱イオン化質量分析用試料基板を作成した。そして、得られたカーボンナノ構造体の特性を評価した。原料ガス32としてC2F6を使用した。ラジカル源ガス36としては水素ガス(H2)を使用した。基板5としては厚さ約0.5mmのシリコン(Si)基板を用いた。なお、このシリコン基板5は触媒(金属触媒等)を実質的に含まない。第二電極24上にシリコン基板5を、その(100)面が第一電極22側に向くようにしてセットした。原料導入口12から反応室10にC2F6(原料ガス)32を、酸素導入口13から酸素ガス33を供給すると共に、ラジカル源導入口42から水素ガス(ラジカル源ガス)36を供給した。また、反応室10内のガスを排気口16から排気した。
【0053】
そして、反応室10内におけるC2F6を50sccmで、プラズマ生成室46内には水素ガスを100sccmで供給し、反応室10内には、酸素ガスを0、2、5sccmで供給し、全圧が約1.2Torrとなるように、排気条件を調節した。この条件で原料ガス32と酸素ガス33を供給しながら、電源から第一電極22に13.56MHz、100WのRF電力を入力し、反応室10内の原料ガス(C2F6)32と酸素ガス33にRF波を照射した。これにより原料ガス32と酸素ガス33をプラズマ化し、第一電極22と第二電極24との間にプラズマ雰囲気34を形成した。
【0054】
また、上記条件でラジカル源ガス36を供給しながら、マイクロ波を導波管47に導入して、プラズマ発生室46内のラジカル源ガス(H2)36にマイクロ波を照射した。これにより生成したHラジカルを、ラジカル導入口14から反応室10内に導入した。このようにして、シリコン基板5の(100)面にカーボンナノ構造体を成長(堆積)させた。構造体の成長時間は、酸素ガスを供給しない場合には20分、酸素ガスを供給する場合には40分とした。その間、必要に応じてヒータ25および図示しない冷却装置を用いることにより、基板5の温度を約500℃に保持した。
【0055】
上記の条件で形成されたカーボンナノウォールを走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。図2の(a)〜(c)は、上記の方法により形成されたカーボンナノウォールの断面のSEM像、図2の(d)〜(f)は、カーボンナノウォールを上面から観察したSEM像である。そして、(a)、(d)は、酸素ガスをプラズマ雰囲気中に供給しなかった場合のSEM像である。(b)、(e)は、酸素ガスを2sccm、すなわち、C2F6を50sccmと水素ガスを100sccmとの総和150sccmに対する酸素ガスの供給比率が1.3%の場合のSEM像である。また、(c)、(f)は、酸素ガスを5sccm、すなわち、C2F6を50sccmと水素ガスを100sccmとの総和150sccmに対する酸素ガスの供給比率が、3.2%の場合のSEM像である。
酸素ガスを供給しない場合には、カーボンナノウォールの成長速度は、60nm/min.であり、高さ1200nmのカーボンナノウォールが得られている。しかし、図2の(a)、(d)から明らかなように、カーボンナノウォールは、高さ方向に多くの枝分かれが存在しており、1枚のウォールが形成されていないことが理解される。
【0056】
これに対して、酸素ガスを2sccmで供給した場合には、成長速度は19nm/min.が得られ、高さ760nmのカーボンナノウォールが得られた。図2の(b)、(e)から明らかなように、高さ方向に枝分かれのない1枚のカーボンナノウォールが得られていることが理解される。
また、酸素ガスを5sccmで供給した場合には、成長速度は22nm/min.が得られ、高さ890nmのカーボンナノウォールが得られた。図2の(c)、(f)から明らかなように、高さ方向に枝分かれのない1枚のカーボンナノウォールが得られていることが理解される。
【0057】
以上の製法では、原料ガスとして、C2F6を用いたが、炭素とフッ素のプラズマに、水素ラジカルが存在し、これに酸素ガスを導入して酸素プラズマを加えることで、カーボンナノウォールが良質に形成される。したがって、原料ガスとしては、CF4、CHF3のように、炭素とフッ素、又は、炭素とフッ素と水素とから成るフッ化炭素、フッ化水化炭素などのCF系のガスを用いることができる。それは、プラズマの構成原子としては、C2F6に、水素ラジカルを導入した場合と、同一であるので、それらの原料ガスに酸素ガスを供給してプラズマ化する場合に拡張することが可能である。酸素ガスの供給比は、0.5%程度で、プラズマ雰囲気に酸素が微量存在すれば良く、酸素ガスが多く成り過ぎると、原料ガスによるカーボンナノウォールの結晶成長を阻害するので、その酸素ガスの流量比の上限は、5%〜10%と思われる。また、これらの比率の範囲は、プラズマを構成する原子に代わりがないので、C2F6ガス以外のCF系、CHF系の原料ガスにも適用可能と考えられる。
また、この効果は、酸素原子による作用により生じるので、微量のOラジカルの他、微量のOHラジカルも、有効である。また、それらの混合ラジカルであっても良い。
【0058】
以上のように製造にして、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を作成した。また、カーボンナノウォールは、親水性があることが望ましい。そこで、次のようにして、親水処理を施しても良い。
プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとし、大気圧プラズマビームの発光領域内に、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面における照射領域を位置させ、その照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、表面の法線方向から大気圧プラズマビームを表面に照射しながら、表面の全体に渡って照射領域を相対的に走査して、親水処理を行う。
【0059】
ここにおいて、プラズマ温度は100℃以下とすることができる。プラズマを発生させるガスは、アルゴンの他、窒素、酸素、これらの2種以上の混合ガスを用いることができる。酸素とアルゴンとの混合ガスを用いた場合には、酸素混合比率は、0.1%以上、10%以下が望ましい。プラズマビームの直径(可視発光領域の軸に垂直な断面)は、5mm以下が望ましい。レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の処理時の表面温度を100℃以下、最も望ましい場合には、70℃以下にすることができるので、損傷を与えることがない。
プラズマビームに対するレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板のビーム軸方向の配設位置と、親水性との間には、相関がある。すなわち、プラズマビームにおける可視発光領域内に、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を設けると、高い親水性効果が得られる。したがって、表面にプラズマビームの照射されたレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の親水性を高く保持することができる。また、プラズマを、その発光領域におけるプラズマの流線に垂直な断面積を、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面積よりも小さくした大気圧プラズマビームとすることで、プラズマを安定化でき、ビーム軸に垂直な断面におけるプラズマ密度を均一にすることができる。そして、大気圧プラズマビームの発光領域内に、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面における照射領域を位置させ、その照射領域の発光領域内のビーム軸方向における位置を一定としつつ、表面の法線方向から大気圧プラズマビームを表面に照射しながら、表面の全体に渡って照射領域を相対的に走査することにより、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面全体に渡って均一一様で、且つ、高い親水性を付与することができた。
【0060】
プラズマ発生装置は、3相又は、3相以上の多相交流電源を用いた大気圧下でグロー放電プラズマを発生させる装置である。大気圧グロー放電プラズマ発生装置の小形化やグロー放電プラズマの均一化などの観点等より、n相交流電源の周波数は、20Hz〜200Hz程度がより望ましい。したがって、交流電圧を適当な電圧(例:数kV程度)にまで昇圧する昇圧回路を用いれば、大気圧グロー放電プラズマ発生装置の電源回路に50Hz乃至60Hzの商用電源を利用することも可能である。また、上記のプラズマ原料ガスとしては、アルゴン(Ar)ガスなどが最も適しているが、その他にも用途や被加工物に応じて、一般に大気圧グロー放電プラズマの生成に使用される公知のガスを用いてもよい。これらのプラズマ原料ガスとしては、例えば、He、Neなどの希ガスや、窒素、空気、酸素などである。
【0061】
また、親水性処理をするために、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板と反応させるための酸素原子を含むガスを同時に電極の微小間隙に流入させてもよい。放電電極の材料としては、ステンレス、モリブデン、タンタル、ニッケル、銅、タングステン、又は、これらの合金などを使用することができる。
【0062】
また、特に電子捕捉作用(ホローカソード放電)に寄与する凹部または溝部を形成する場合、放電ギャップを構成する放電電極のガス流方向の長さは、1〜10mm程度設けると良い。1mmより狭い場合、10mmより広い場合には、安定した放電が実現できない。また、その凹部または溝部は、例えば幅及び深さを1mm以下、より望ましくは0.5mm程度とすると良い。溝部の幅及び深さが1mmより大きくすると、安定した放電が得られない。また、電子捕捉作用に寄与する凹部はドット状に形成しても良い。更に、これらの凹部または溝部の形状は、円柱面状、半球面状、角柱面状、角錐状、その他任意に形成することができる。なお、親水処理については、特願2008−19267号に記載の技術を用いることができる。
【0063】
カーボンナノウォールを立設したレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の試料を塗布する表面の親水処理は、上記のようにプラズマビームを照射することで、行うことができる。この場合に、試料の塗布領域を格子状に区画して、親水処理をしていない境界領域を形成して良い。この場合には、異なる試料が、親水処理された各区画にのみ、他の試料と区別されて塗布されることになり、この基板を分析装置の内部に設置することで、一度に、各試料に関する質量分析を行うことができる。
また、上述の親水処理は、カーボンナノウォールを形成した後、製造装置から取り出して、別のプラズマ発生装置で、プラズマビームを照射することで、行っている。しかし、カーボンナノウォールの製造装置において、カーボンナノウォールの成長の後に、他の原料ガスの供給を停止して、酸素ガスを導入して、プラズマを発生させて、カーボンナノウォールの表面を親水処理しても良い。この場合には、試料基板の製造が簡単となる。
【0064】
このようにカーボンナノウォールが立設されたレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板に、窒素レーザー(波長 337 nm)やNd:YAGレーザー(波長266、355、532、1064nm)などのレーザーが照射されると、カーボンナノウォールは、レーザー光の特定波長の光エネルギーを吸収することによって急速に加熱されるので、その表面に吸着した試料分子のイオン化・脱離が起こるものであると考えられる。ソフトLDI-MSでは、一般にレーザー光照射とほぼ同時に試料基板ないしは試料基板ホルダーに2万ボルト程度の高電圧が印加されるため、イオン化した試料分子は、直ちに電気的な反発によって試料基板から飛び出し、質量分離部へと導入され、質量分析されるのであると考えられる。即ち、試料分子はイオン化および脱離に必要なエネルギーを、レーザー光から直接受け取るのではなく、カーボンナノウォールから間接的に提供されるため、試料分子の分解をほとんど伴わないソフトなイオン化が効率よく達成され、高精度に質量分析できるという所期の目的を達成することができる。カーボンナノウォールは、図2に示されているように、壁の端面が、ランダムな大きなうねりを持った形状をしている。このカーボンナノウォール特有な構造が、分子のソフトイオン化に効果的に作用している。
【0065】
試料調製は、試料を水又は有機溶媒に溶解させて作成する。タンパク質、ペプチド、糖などの生体高分子化合物は、0.1〜1%のトリフルオロ酢酸を含む水とアセトニトリルの混合溶液(アセトニトリルの含量5-75%)に溶解して、濃度1〜100pmol/μLの試料溶液を調製する。試料の溶解性などに応じて、水またはアセトニトリル100%の溶媒を用いたり、アセトニトリルの代わりにメタノール、エタノール、プロパノール、アセトンなどの有機溶媒を選択してもよい。前記生体高分子の中のタンパク質やペプチドの測定では、試料分子にプロトンを付着させることによって安定なイオンの形成を促進するために、トリフルオロ酢酸のほか、クエン酸、クエン酸アンモニウム類などのプロトン供与性の試薬を溶媒に対して0.1〜5%加えても良い。また、前記生体高分子の中の糖の測定では、安定な試料イオンを生成させるために、アルカリ陽イオン付加分子を生成させるために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウムなどの塩を0.1〜1mg/mLの濃度となるように加えてもよい。有機合成ポリマーおよびオリゴマーを含む有機合成化合物は、試料が可溶な有機溶媒に溶解して濃度0.1〜1mg/mLの試料溶液を調製する。有機溶媒として、クロロホルム、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、プロパノール、エタノール、メタノールなどが挙げられるが、試料が溶解すればこれらに限定されない。また、ポリエチレングリコールなどの水溶性の合成高分子は、水又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解しても良い。さらに、安定な試料イオンを生成させるために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、トリフルオロ酢酸銀、硝酸銀などの塩を0.1〜1mg/mLの濃度となるように加えてもよい。前記各試薬濃度は典型例であり、質量分析できるイオンが形成できればよく、上記濃度に限定されない。
【0066】
上述した方法により製造された試料基板5に、0.1〜1μLの試料溶液を直接塗布し、室温で自然乾燥させるだけで均一な乾燥試料を得ることができる。図3に示される導電性試料基板ホルダー61は、質量分析装置のイオン加速用電極として、直流電源装置67により、高電圧を印加するために用いるものである。この導電性試料基板ホルダー61の上に、このホルダ61に対して導通状態で導電性の試料基板5が設けられる。導電性の試料基板5としては、導電性のシリコン、銅、ステンレスなどの金属板を用いることができる。また、導電性の試料基板5として、LDI-MS用のステンレス鋼製の試料基板を用いることができる。すなわち、この場合には、このステンレス鋼製の基板ホルダー61上に、直接、カーボンナノウォールを形成しても良い。この基板ホルダー61の材料は、導電性であればよく、上記材料に限定されない。
【0067】
また、試料基板に、セラミックス、ガラス、真性シリコン基板などを用いた場合には、各6面に、金属膜51を蒸着したものを試料基板50とすることができる。この場合には、図4に示すように、表面の金属膜51の上に、カーボンナノウォールを55を形成することになる。このようにしてカーボンナノウォール55に対して通電可能な基板50が、基板ホルダー61の上に、基板50に対して、通電可能に、保持される。金属膜51は、たとえばAu、Al、Agを用いることができる。金属薄膜の作成は、蒸着またはスパッタ等の成膜法、あるいは無電解めっき等のめっき技術など、公知の方法で行うことができる。
また、このようにして導電性にした基板50自体を、ホルダー61として、量分析装置のイオン加速用電極として作用させてよい。このようにすると、図3の導電性試料基板ホルダー61が不要となり、質量分析装置を簡易化することができる。また、両面テープなどの構成材料が不要となるため、高真空のイオン源内でその構成材料から放出されるガス成分の気化による真空度の低下や装置内部の汚染を抑制することができ、より高精度な質量分析を達成することができる。
【0068】
又、レーザー照射スポット近傍に非常に大きな温度を発生させるためには熱は基板内部に拡散しない方が望ましい。このため、該物質の熱拡散率は低い方が望ましい。
【0069】
以下、実施例及び比較例を示して本発明の内容を具体的に説明するが、これは本発明が広範な試料の分析に適したものであることを例示するものであって、分析対象は、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0070】
工業製品分析への適用について(1)
フェニレンジアミン系酸化防止剤[4,4’-(α,α-dimethylbenzyl)diphenylamine]を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解し、1 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1 mL)をカーボンナノウォール素子(カーボンナノウォールを立設した試料基板、以下、同じ)に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。なお、カーボンナノウォールを立設した基板の材料は、導電性シリコン基板とした。基板の形状は、10 mm×10 mmの正方形とした。以下の実施例においても同じである。もちろん、基板は、絶縁性シリコン基板、導電性又は絶縁性の半導体基板、ガラス基板、セラミックス基板、銅基板、ステンレス基板、その他の金属基板上にカーボンナノウォールを立設した基板を用いても精度の高い測定が達成できる。
【0071】
図5は、カーボンナノウォール素子を用いた場合に観測された該酸化防止剤試料のマススペクトルである。m/z 405.2に該酸化防止剤試料のM+イオンが強く観測されている。これは、カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、酸化防止剤試料の質量分析が可能であることを示す事例である。
【比較例1】
【0072】
マトリックス剤として2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を用いて、フェニレンジアミン系酸化防止剤[4,4’-(α,α-dimethylbenzyl)diphenylamine]のMALDI-TOFMS測定を行った。マトリックス剤をテトラヒドロフランに溶解し、10mg/mLのマトリックス剤溶液を調製した。試料溶液は、上記実施例1と同様である。マトリックス剤溶液、試料溶液、及びカチオン化剤溶液を5/1/1の比で混合し、混合溶液(1 mL)をMALDI測定用試料台に塗布して乾燥した後、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。マススペクトルは、図1に併記する。この場合には、カーボンナノウォール素子を試料基板として用いていない。
【0073】
マトリックス剤にDHBを用いたMALDI−TOFMS測定(比較例1)では、数多くのピークが観測され、いずれが試料由来のピークであるのか判別することはできない。実際には、m/z 405.2に該試料のピークが観測されているが、これはあらかじめ試料の質量が既知であるために判別できたのであり、未知試料の分析には適さない。これは、MALDI−TOFMSでは、マトリックス剤に由来する様々なフラグメントピーク及びそれらのクラスターイオンが生じるためである。実施例1と、比較例1は、上記の問題が、カーボンナノウォール素子を試料用基板に用いることでマトリックス剤を不要とした本発明の方法によれば解決されることを示す事例である。
【実施例2】
【0074】
工業製品分析への適用について(2)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(Irganox 1035、登録商標)を、0.5mg/mLのヨウ化ナトリウムを含むクロロホルムに溶解し、0.5 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1 mL)をカーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。
【0075】
図6は、カーボンナノウォール素子を用いた場合に観測された該酸化防止剤試料のマススペクトルである。m/z 665.4に酸化防止剤試料の[M+Na]+イオンが強く観測されている。これは、カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、酸化防止剤試料の質量分析が可能であることを示す事例である。
【実施例3】
【0076】
工業製品分析への適用について(3)
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤(Triton X-100、登録商標)を、0.5mg/mLのヨウ化ナトリウムを含むクロロホルムに溶解し、0.5 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1 mL)をカーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。なお、該界面活性剤は、C8H17-PhO-(CH2-CH2-O)n-Hであり、Phはフェニル基を、nは繰り返し単位の数を意味する。
【0077】
図7は、カーボンナノウォール素子を用いた場合に観測された該界面活性剤試料のマススペクトルである。m/z 650付近を極大として、m/z 400〜1200付近にかけて [M+Na]+イオンの分布が観測されている。なお、質量44間隔で現れるピークは、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位(-CH2-CH2-O-、質量44)に分布をもつためであり、この分布はn値が概ね3から18程度の範囲に存在するという報告(G. A. Cumme, E. Blume, R. Bublitz, H. Hoppe, A. Horn, Journal of Chromatography A, 791, 245-253 (1997))に一致している。これは、カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、分子量分布をもつ試料の質量分析が可能であることが示す事例である。
【0078】
水溶性の試料は、親水化処理を施したカーボンナノウォール素子を用いるとイオン化できることが分かった。その実例を示す。
【実施例4】
【0079】
ペプチド試料分析の適用について
ペプチド試料(angiotensin-I、モノアイソトープ質量 [M+H]+ m/z 1296.7)を、クエン酸二水素アンモニウム含有メタノール溶液に溶解し、1pmoL/μLの試料溶液を調製した。試料溶液(1μL)を親水化カーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(AXIMA CFR-pulse)に装着し、分析した。
【0080】
図8は、観測されたangiotensin-Iのマススペクトルである。 質量1296.7にangiotensin-Iの[M+H]+イオンが明瞭に観測されている。これは、親水化カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、ペプチド試料の質量分析が達成されることを示す事例である。
【実施例5】
【0081】
タンパク質試料分析の適用について
タンパク質試料(ミオグロビン、分子量16951.5)を、クエン酸二水素アンモニウム含有メタノール溶液に溶解し、10pmoL/μLの試料溶液を調製した。試料溶液(1μL)を親水化カーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(AXIMA CFR-pulse)に装着し、分析した。
【0082】
図9は、観測されたミオグロビンのマススペクトルである。m/z 16952.6にミオグロビンの1価イオン([M+H]+)が、m/z 8476.8にミオグロビンの2価イオン([M+2H]2+)が、さらにm/z 5651.5にミオグロビンの3価イオン([M+3H]3+)が明瞭に観測されている。マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法などのソフトイオン化法で、タンパク質のイオン化において、1価イオンのみならずそれ以上の価数を持つイオンが生じやすいことは良く知られている。すなわち、本実施例の結果は、親水化カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、タンパク質試料の質量分析が達成されることを示す事例である。
【実施例6】
【0083】
糖質試料分析の適用について
β-シクロデキストリン(和光純薬製)を、純水に溶解し、1 mg/mLの試料溶液を調製した。試料溶液(1μL)を親水化カーボンナノウォール素子に塗布して乾燥した後、該素子をMALDI測定用試料台上に貼り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(AXIMA-CFR pulse)に装着し、分析した。
【0084】
図10は、カーボンナノウォールを立設したレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いた場合に観測されたβ-シクロデキストリンのマススペクトルである。m/z1157.4にβ-シクロデキストリンの[M+Na]+イオンが強く観測されている。これは、親水化カーボンナノウォール素子をイオン化素子に用いることによって、糖質試料の質量分析が可能であることを示す事例である。
【0085】
[まとめ]
上記の実施例から明らかなように、カーボンナノウォールを立設した基板を、レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板とした場合には、検出スペクトルは、試料物質以外のスペクトル、すなわち、ノイズが極めて少ないスペクトルとなっている。
一方、マトリックスを用いる方法では、レーザー光のエネルギーを吸収して、分子のソフトイオン化に寄与するイオン化支援物質が必要である。このイオン化支援物質のスペクトルが観測スペクトルに混入し、ノイズの増加の原因となっていた。換言すれば、従来の方法では、測定する試料に応じた各種のソフトイオン化支援物質のスペクトルを予め知っておく必要がある。
【0086】
これに対して、本発明では、カーボンナノウォールが、試料物質のソフトイオン化に寄与するので、イオン化支援物質を試料物質に混入する必要がなく、観測スペクトルにおいてノイズを低減させることができる。したがって、本発明によると、検出精度を格段に向上させることができると共に、非常に簡便に行うことができる。 なお、カーボンナノウォールを構成する炭素分子のスペクトルが観測されていないことから、レーザーが照射されても、カーボンナノウォールの分離は、起こっていない。
【0087】
本発明は、従来、用いることが必要であったソフトイオン化支援物質のスペクトルに近い、スペクトルを有する物質の質量分析に、特に有効である。すなわち、分析する試料のスペクトルと、ソフトイオン化支援物質のスペクトルが重ならないために、低分子量の試料であっても、精度の高い測定が可能となる。
また、上記の実施例から明らかなように、測定する試料の種類は、問われない。各種の試料において適用可能である。また、低分子量から17000の高分子量まで、測定できていることが分かる。カーボンナノウォール自体が、分子のソフトイオン化に寄与していることから、この分子量以上の範囲においても、本発明は適用可能であることが理解される。
本発明では、試料が固体の場合には、試料を溶解させる溶液(水を含む)だけを用いるが、試料が液体であれば、溶液を用いる必要はない。また、立設したカーボンナノウォールの端面に、直接、塗布できるような試料であれば、溶液をも用いる必要がない。
【0088】
本発明の試料基板を用いるレーザー脱離イオン化質量分析装置は、試料をレーザーで分子単位でイオン化させるものであれば、装置の種類は問わない。例えば、本発明の装置の一例を、図11に原理図で示す。本装置は、内部が真空に減圧できる筐体62を有している。筐体62の一方の端面には、試料ホルダー61が配設され、その試料ホルダー61上に、上記のようにして作成された試料基板5が配設される。この試料基板5の上に塗布された試料に向けて、レーザー光を照射するレーザー装置63が設けられている。筐体62の内部には、試料から離脱した分子イオンを加速するための電界を発生させる電極66が設けられており、基板ホルダー61と電極66との間に、直流電源67から、電圧が印加される。また、イオンの飛行経路中には、電磁場発生装置65が設けられており、分子イオンの質量に対する分解能を一定とするために、飛行経路長が質量に比例するように、イオンの飛行経路を制御するための界発生装置67が設けられている。 そして、筐体62の他方の端部には、イオン検出器64が設けられており、イオン検出器64により、到達したイオンが検出されるタイミングで、検出信号が、CPU70に出力される。CPU70は、レーザー装置63のパルスレーザの出力タイミングと、DC電源67の電圧印加タイミングを制御し、各イオンの飛行時間を演算する装置である。そして、CPU70は、各検出信号から得られる飛行時間から、単位電荷当たりの質量を演算して、スペクトルとして、DSP71に表示し、出力装置72から、測定結果を印刷する。
【0089】
質量分析装置は、基本的には、このような構成をしている。この他、幾つかの改良が成された一般に市販され、知られている装置にも、本発明の試料基板を用いて、試料分析装置を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、タンパク質や高分子材料などの分子の質量分析に応用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1… カーボンナノウォール製造装置
10… 反応室
12…原料ガス導入口
13…酸素ガス導入口
14…ラジカル導入口
20…プラズマ放電手段
22…第一電極
24…第二電
5,50…質量分析用試料基板
55…カーボンナノウォール
61…試料ホルダー
63…レーザー装置
64…検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー脱離イオン化質量分析に供するための試料基板において、
前記試料基板は、基台上に、カーボンナノウォールが立設されたものであり、このカーボンナノウォールの表面上に、質量分析のための試料を塗布するものであることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
【請求項2】
前記カーボンナノウォールの表面が、前記試料に対するイオン化媒体として作用することを特徴とする請求項1に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
【請求項3】
前記カーボンナノウォールの表面は親水処理が施されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、前記試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、前記試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面に、溶液化された試料を塗布、乾燥させて得られることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料。
【請求項1】
レーザー脱離イオン化質量分析に供するための試料基板において、
前記試料基板は、基台上に、カーボンナノウォールが立設されたものであり、このカーボンナノウォールの表面上に、質量分析のための試料を塗布するものであることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
【請求項2】
前記カーボンナノウォールの表面が、前記試料に対するイオン化媒体として作用することを特徴とする請求項1に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
【請求項3】
前記カーボンナノウォールの表面は親水処理が施されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、前記試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板を用いて、前記試料の質量を分析することを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面に、溶液化された試料を塗布、乾燥させて得られることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【公開番号】特開2011−38797(P2011−38797A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183797(P2009−183797)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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