説明

レーザー除染装置

【課題】 汚染物の内側に侵入したRIでも除去できる充分なエネルギー密度を確保することができ、また汚染物の表面に凹凸がある場合でも照射ムラが生じず、レーザ加工時の熱的影響によるRIの拡散や再汚染もなく、しかも、コスト面や環境面、作業効率の面でも優れたレーザー除染装置を提供すること。
【解決手段】 レーザ発振器1と;XY軸スキャナ21及びZ軸スキャナ22を備え、かつ、前記レーザ発振器1から出射されたレーザ光L1をfθレンズ等の複合レンズを介さず汚染物Tの表面上に集光して光走査を行うスキャナ装置2と;前記汚染物Tの表面形状測定装置3とを具備すると共に、
前記スキャナ装置2のZ軸スキャナ22には、表面形状測定装置3で得られた形状データに基づいて、レーザ光L1の焦点が汚染物Tの表面にくるように照射位置に応じて焦点位置を自動的に調整する焦点位置制御部22bを備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー除染装置の改良、詳しくは、事故から回復作業中或いは廃止措置中の原子炉、放射性物質(RI)の取扱保管施設、再処理工場、核燃料保管施設、加速器施設などにおいてRIで汚染された容器や機器等を効率良く除染することができ、しかも、従来以上の優れた除染機能を発揮するレーザー除染装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くからあるレーザー除染法としては、RI汚染された物体表面に、概略平行光にした低平均出力のパルスレーザを線状に1次元或いは平面状に2次元走査して照射する方法が知られており、この方法を採用した除染装置では、母材の金属等を破損させずに黒色などの光吸収の大きな有色表面のRI汚染物を蒸散させて除去することできる。
【0003】
ところが、上記のようにパルスレーザを平行光とする方法では、エネルギー密度(照射強度)を高くするために集光面積を小さくすると、高速で走査した際に未照射ムラが必ず発生するため、同じ場所を複数回照射しなければならない。一方で、1パルスの照射面積を大きくすると、エネルギー密度が低下するため(数MW/cm2程度以下)、照射したレーザ光が光沢のある金属表面で反射してしまい、金属表面の微小な亀裂等に侵入したRIを全く除去することができない。
【0004】
また、従来においては、上記レーザー除染以外にもサンドブラストやサンダー、グラインダー等を用いた除染も行われており、これらの機械的方法では、サンドブラストやサンダーでRI汚染された物体表面を0.05mmから0.1mm以上の厚み分削り取って付着したRIを除去するのが一般的である。
【0005】
しかし、上記機械的な除染法では、研削中にRIが表面内に再侵入して再汚染が起こり易いだけでなく、繰り返し使用されるサンドブラストの研削粒子、又はサンダーやグラインダーの研削ベルト、研削ディスクによって研削装置(サンドブラストのノズル等)が二次汚染される。
【0006】
しかも、上記研削粒子や研削ベルトによって二次汚染されたサンドブラスト装置やサンダー等を除染の度に交換するとなると、装置や部品の交換費用が嵩んで除染コストが非常に高く付くだけでなく、大量の二次廃棄物を生み出す要因にもなるため、コスト面や環境面で好ましくない。
【0007】
一方、従来の除染技術としては、RI汚染された物体を酸化剤・還元剤を含む溶液中に浸して、汚染物質を溶液中に溶出させる方法も知られているが、このような化学的方法では、廃液からRIを分離するために使用する大量のイオン交換樹脂の処理(燃やして容積を減らした後、コンクリート等で固定して保管する)に、高額な処理費用がかかる。
【0008】
また最近では、ピーク出力が10MW以上のパルスレーザを除染に用いる技術も提案されているが(例えば、特許文献1参照)、これらの装置では、RI汚染された物体表面にレーザ光の焦点を精密に合わせることができないため、GW/cm2のエネルギー密度(照射強度)を確保することができない。また凹凸のある物体表面では照射ムラも生じる。
【0009】
そしてまた、上記のような高出力のパルスレーザを用いる場合には、熱的影響によるRIの溶融拡散や再付着の問題も考慮する必要があるが、照射ヘッドを動かしてレーザ光を照射する方法だと例え自動走査であったとしても低速域に走査速度の限界があるため、レーザを照射した部分が大きく深く溶融する等、RIの溶融拡散や熱影響が非常に大きくなる。また、大出力CWレーザで表面を溶融してガス圧で除去する方法(非特許文献1参照)もあるが、更に熱影響が大きく、RIの溶融拡散が極めて大きい。
【0010】
他方、ビームエキスパンダを利用して焦点距離を調節するレーザ加工装置も既に公知となっているが(特許文献2参照)、この装置ではXYスキャナの後に複合レンズを含めた集光光学系が配置されているため、レーザ距離計で表面形状を測定しようとしても、対象物からの反射光が複合レンズ等の影響を受けて距離計測を正確に行うことができない場合が多い。また、複合レンズ等を通過させることで加工用及び計測用レーザ光の減衰も大きくなる。このため、取り扱える加工用レーザ光は出力が小さいものに制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−193267号公報
【特許文献2】特開2010−82663号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】小川竜一郎,他二名,「レーザ除染技術の開発」,サイクル機構技報,2002年6月,第15号,p.59-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、汚染物の内側に侵入したRIでも除去できる充分なエネルギー密度を確保することができ、また汚染物の表面に凹凸がある場合でも照射ムラが生じず、また更にレーザ加工時の熱的影響によるRIの溶融拡散や再汚染もなく、しかも、装置や運転のコスト面や環境面、作業効率の面でも優れたレーザー除染装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0015】
即ち、本発明は、加工用レーザ光L1の光源に用いるCWレーザ発振器1と;レーザ光L1を光偏向器21aで二次元的に偏向走査するXY軸スキャナ21、及びレーザ光L1の焦点距離を可変焦点レンズや可動レンズ22aによって調整するZ軸スキャナ22を備え、かつ、このZ軸スキャナ22を前記XY軸スキャナ21よりも光源側に配置すると共に、前記XY軸スキャナ21及びZ軸スキャナ22によって走査したレーザ光L1をfθレンズ等の複合レンズ(以下複合レンズと略称)を介さずに汚染物Tの表面上に集光するスキャナ装置2と;前記汚染物Tの表面形状を、レーザ距離計31とXY軸スキャナ21を用いた光学的手段によって測定する表面形状測定装置3とからレーザー除染装置を構成し、
更に前記スキャナ装置2のZ軸スキャナ22には、表面形状測定装置3で得られた形状データに基づいて、レーザ光L1の焦点が汚染物Tの表面にくるように照射位置に応じて焦点位置を自動的に調整する焦点位置制御部24を備えて構成したことにより、
汚染物Tの表面に焦点位置を合わせながらレーザ光L1を三次元的に走査・照射可能とした点に特徴がある。
【0016】
また、上記レーザ発振器1及びスキャナ装置2に関しては、レーザ発振器1に平均出力が大きく、かつ10μm以下の微小点集光が可能なシングルモードファイバレーザを使用すると共に、汚染物Tの表面にレーザ光L1が1GW/cm2以上(停止状態で)のエネルギー密度で照射されるようにレーザ発振器1の出力調整および光学系の設計を行うことで、エネルギー密度の1から2乗に比例して溶融なしに汚染物Tの破砕・蒸散・昇華量を増加させる。これにより、除染の速度や効率を高めることができる。また、従来のレーザー法では除染対象に含まれなかった、内部までRIが侵入した表面亀裂を有するステンレス鋼等の除染も問題なく行えるようになる。
【0017】
また更に、上記のようにレーザ発振器1に小口径の光ファイバを有するファイバレーザを使用して、光ファイバからスキャナ装置2の光偏向器21に直接レーザ光L1を出射可能とすれば、エネルギー密度を上げるために像点の径を物点よりも小さくする縮小光学系を使用する必要もない。そのため、縮小光学系によって走査速度と走査面積が小さくなることもない。
【0018】
一方、上記の表面形状測定装置3に関しては、目標物に測定用レーザ光L2を照射して照射光とその散乱光との干渉による位相差或いは時間差から距離を計算するレーザ距離計31を使用し、更に測定用レーザ光L2の走査を加工用レーザL1と同じXY軸スキャナ21で同時に、又は独立して個別に行えるようにレーザ距離計31を設置することで効率的に測定を行うことができる。
【0019】
また、上記レーザ発振器1、スキャナ装置2及び表面形状測定装置3の配置に関しては、レーザ発振器1をスキャナ装置2から離れた場所に設置すると共に、このレーザ発振器1に小口径の光ファイバを有するファイバレーザを使用し、更に光ファイバの出射端部とレーザ窓23の間に、Z軸スキャナ22、ダイクロイックミラー33(レーザ距離計31からの測定用レーザ光L2をXY軸スキャナ21に向けて反射すると共に、Z軸スキャナ22を通過してXY軸スキャナ21に向かう加工用レーザ光L1を透過するミラー)およびXY軸スキャナ21を順に配置して構成する。
【0020】
そして更に、上記スキャナ装置2のXY軸スキャナ21の走査速度を10m/s以上の高速に設定すると共に、往復走査される加工用レーザ光L1が被照射面の任意の照射点にナノ秒域の継続時間で照射されるようにXY軸スキャナ21の走査速度と集光径を設定することにより、レーザ光L1を1GW/cm2以上の非常に高いエネルギー密度で照射した場合でも、伝熱の影響を低くして破砕・蒸散・昇華による非熱的な加工が可能となる。ゆえに、RIの溶融拡散や再付着の問題を解消することができる。
【0021】
また、上記スキャナ装置2の焦点位置制御部24については、照射ムラなく高いエネルギー密度で効率的にRIの破砕・蒸散・昇華を行うために、レーザ光L1の焦点深度(レイリー長)の範囲内、またはその近傍に汚染物Tの照射面が調整されるように設定するので高い破砕・蒸散・昇華効率が得られる。
【0022】
他方、上記構成から成るレーザー除染装置に、加工用レーザ光L1が照射されている汚染物Tの表面に、レーザ光L1の走査方向と概略逆方向となる角度方向に不活性ガスを吹き付けて照射部分を常に不活性ガスで覆いながら、粒子を吹き飛ばすガス噴出装置4と、このガス噴出装置4によって吹き飛ばされた放射性物質を含む除去物を吸引して捕集する除去物回収装置5とを付設すれば、RIを含んだ除去物の捕集が容易となり、また僅かな二次汚染も防止できる。
【0023】
また、上記レーザ発振器1を遠隔操作ロボットRに積載すると共に、スキャナ装置2を、自走手段を備えた遠隔操作ロボットRのアーム部Aに取り付けて、汚染物Tの表面の広範囲においてスキャナ装置2を駆動可能とすれば、作業者が被ばくすることなく除染作業を行うことができ、また面積の大きい壁面を除染する場合にも、アーム部を操作してレーザ光を順次照射していくことにより効率良く除染作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、スキャン装置の結像光学系(Z軸スキャナ)によって汚染物表面の微小な領域にレーザ光を集光可能とし、更にレーザ光の焦点距離を、Z軸スキャナによって汚染物の表面に合わせて精密に調整可能としたことにより、レーザ光のエネルギー密度を従来よりも3桁大きいGW/cm2まで引き上げることができるため、汚染物の内部に侵入したRIであっても母材ごと破砕・蒸散・昇華させて根こそぎ除去することが可能となる。
【0025】
また本発明では、集光光学系をXY軸スキャナよりも光源側に配置して、レーザ距離計から出射された測定用レーザ光が、集光光学系を通らないようにしているため、表面形状の測定を正確に行うこともできる。また本発明では、複合レンズ等の多枚数の複合レンズも使用しないので、高出力のレーザ光を殆ど減衰させることなく、レンズ光学系が破損する可能性もなくRI汚染物に照射できる。
【0026】
しかも、本発明では、表面形状測定装置によって測定された汚染物の表面形状のデータ(立体地図)に基いて、Z軸スキャナの焦点位置制御部が、CWレーザ光の焦点を照射位置に応じて自動的に調整するようにしているため、汚染物の表面が凹凸状の場合であっても時間や手間をかけずに照射ムラなく除染を行うことができる。
【0027】
また、本発明のようにスキャナ装置を、光偏向器(ガルバノミラー等)を用いたXY軸スキャナと可動レンズ(または可変焦点レンズ)を用いたZ軸スキャナとから構成すれば、レーザ光の走査速度を照射ヘッドを動かして走査するよりも格段に高速化することができるため、エネルギー密度が大きいレーザ光であっても非熱的加工が可能となり、熱的影響によるRIの溶融拡散や再付着を防止できる。
【0028】
また本発明では、上記レーザ発振器に、連続的にレーザ光を出射するCWレーザを使用することで、パルスレーザよりも集光径をかなり小さくすることできるため、照射エネルギー密度を高い値に設定できるだけでなく、汚染物の表面形状に合わせてより精密に3次元走査を行うこともできる。またコスト面でも、レーザ単位出力当たりの装置価格が高く電気−光変換効率の低いパルスレーザよりも同じ平均出力で比較して安価に抑えることができる。
【0029】
また更に、本発明のレーザー除染装置では、機械的方法のように汚染物に部品を直接接触させる必要がないため、装置に二次汚染物が出る心配や作業者の放射線被曝の心配もなく、また、コスト面に関しても、汚染された装置本体や部品の交換費用、イオン交換樹脂の処理費用等がかからないため、除染コストを低廉に抑えることができる。また、もし仮にケース等の部品等が汚染されたとしても本装置で自己除染することができる。
【0030】
したがって、本発明により、従来のレーザー除染装置よりもRIの除去性能を大幅に向上することができ、しかも、レーザー法以外の除染方法で生じていた二次汚染物の排出による環境の悪化や高額なコスト負担の問題も解消できるレーザー除染装置を提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1におけるレーザー除染装置を表わす概略図である。
【図2】本発明の実施例1におけるレーザー除染装置の光学機構を説明するための概略図である。
【図3】本発明におけるレーザー除染装置の効果を説明するための説明図である。
【図4】本発明におけるレーザー除染装置の効果を説明するための説明図である。
【図5】本発明におけるレーザー除染装置の高速走査による横方向パルスと従来技術の無走査の縦方向パルスを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
『実施例1』
本発明の実施例1について、図1から図4に基いて説明する。同図において、符号1で指示するものは、レーザ発振器であり、符号2で指示するものは、スキャナ装置である。また符号3で指示するものは、Z軸方向の距離計を含む表面形状測定装置であり、符号4で指示するものは、ガス噴出装置である。また符号5で指示するものは、除去物回収装置である。
【0033】
[レーザー除染装置の構成]
まずこの実施例1では、加工用レーザ光L1の光源であるレーザ発振器1を、レーザ光L1を汚染物Tの表面上に集光して走査するスキャン装置2に光ファイバ11で接続している。なお、レーザ発振器1には、長い小口径の光ファイバ11を備えたファイバレーザを使用している。
【0034】
また本実施例では、上記レーザ光L1のエネルギー密度を一層高めるために、パルスレーザではなく集光径を小さくできるCWレーザをレーザ発振器1に使用している。また、CWレーザは、パルスレーザよりも装置価格が安く電気−光変換効率も高いため、コスト面でも実用性に優れている(パルスレーザは、深く剥がれるが、除染ムラや除染できない箇所が発生してしまう)。
【0035】
また、上記スキャン装置2に関しては、レーザ光L1を光偏向器21a・21a(ガルバノミラー)で二次元的に偏向走査するXY軸スキャナ21と、レーザ光L1の焦点距離を可動レンズ22a及び集光光学系である固定レンズ22bによって調整するZ軸スキャナ22とから構成しており、双方のスキャナを経由したレーザ光L1はレーザ窓23から目標物に向けて出射される。
【0036】
なお、上記Z軸スキャナ22は、XY軸スキャナ21よりも光源側(レーザ発振器1とXY軸スキャナ21の間)に配置すると共に、XY軸スキャナ21で走査したレーザ光L1は複合レンズを介さずに対象物に照射する。
【0037】
また更に、上記スキャン装置2には、汚染物Tの表面形状を測定するための表面形状測定装置3を付設しており、本実施例では、目標物に測定用レーザ光L2を照射して照射光とその散乱光との干渉による位相差或いは時間差から距離を割り出すレーザ距離計31を使用して、測定用レーザ光L2の走査をXY軸スキャナ21で行えるようにレーザ距離計31を設置している。
【0038】
なお、上記レーザ距離計31の測定用レーザ光L2は、ミラー32及びダイクロイックミラー33(Z軸スキャナ22とXY軸スキャナ21間の光路上に配置)、XY軸スキャナ21を経由してレーザ窓23から出射される。また逆に、散乱光はレーザ窓23、XY軸スキャナ21、ダイクロイックミラー33、及びミラー32を経由してレーザ距離計31に入射される。
【0039】
また、上記レーザ距離計31の測定用レーザ光L2は、スキャナ装置2のXY軸スキャナ21で加工用レーザ光L1と同時に実時間の計測と加工を行うために走査することもでき、また加工用レーザ光L1を走査する前に独立して個別に走査することもできる。また、レーザ距離計31で得られた形状データは、データ送信手段34によってスキャナ装置2に送られる。
【0040】
そして、実時間でも別時間でもスキャナ装置2のZ軸スキャナ22に、表面形状測定装置3で得られた形状データに基づいて、レーザ光L1の焦点が汚染物Tの表面にくるように照射位置に応じて焦点位置を自動的に調整する焦点位置制御部24を設けることで、レーザ光L1を汚染物Tの表面に三次元的に走査・照射できるようにしている。
【0041】
また本実施例では、上記スキャナ装置2の焦点位置制御部23を、レーザ光L1の焦点深度の範囲内、またはその近傍に汚染物Tの照射面が調整されるように設定しているが、必要に応じて焦点位置制御部23の設定を変えることにより焦点位置を自由に調整できる。
【0042】
そして上記のように、汚染物Tの表面に対しレーザ光L1の焦点位置を精密に調整できるようにしたことによって、レーザ光L1のエネルギー密度を従来以上に高めることができるため、図3に示すように、汚染物Tの表面の亀裂からRIが内側に侵入している場合でも、レーザ光L1でRIを母材ごと瞬間的に破砕・蒸散・昇華させて取り除くことができる。
【0043】
また、上記レーザ光L1による破砕のメカニズムについてもう少し説明を加えると、まずレーザ光L1が照射されて高温となった物質の表面部位において、表面内層に存在する微小な割れ目や欠陥が、図4(a)に示すように伸展を始める。その後、表面内層の割れ目や欠陥は図4(b)に示すように更に伸展し、最終的にこの表面層は、図4(c)に示すように未照射の周囲部分から大きな圧縮応力を受けて外側にはじき飛ばされ、母材から剥離する。なお、照射する材料によって、破砕と蒸散と昇華の割合やその詳細は異なる。
【0044】
また本実施例では、上記スキャナ装置2の走査速度を10m/s以上の高速に設定すると共に、図5(a)に示すように、走査方向に往復する加工用レーザ光L1の微小な集光点が被照射面の任意の照射点Pにナノ秒域の継続時間で照射されるようにXY軸スキャナ21の走査速度と集光径を設定している。
【0045】
これにより、図5(b)に示すようなパルスレーザ照射型の従来装置(例えば、特開2007-315995等)よりも、安価で高出力、更に照射ムラも生じない非熱的加工が可能となる。なお、上記高速レーザ加工は、小型の光学部材を駆動モータによって高速回転又は移動させてレーザ光L1を走査するXY軸スキャナ21及びZ軸スキャナ22によって実現している。
【0046】
また本実施例では、上記CWレーザの出力及びスキャナ装置2のZ軸スキャナ22を、エネルギー密度が従来よりも3桁大きくなるように設定しているため(具体的には1GW/cm2以上に設定している)、ステンレス鋼なども含めた殆どの材料を除染対象として選択することができる。
【0047】
一方、本実施例では、上記レーザー装置に、加工用レーザ光L1が照射されている汚染物Tの表面に、吹出口41からレーザ光L1の走査方向と概略逆方向となる角度方向に不活性ガスを吹き付けるガス噴出装置4を付設しているため、このガス噴出装置4を用いて照射部分を常に不活性ガスで覆いながら、破砕・蒸散・昇華した粒子を吹き飛ばすこともできる。
【0048】
また、上記ガス噴出装置4によって吹き飛ばされた除去物については、除去物回収装置5を付設して、吸込口51から吸引した除去物を、分離捕集器52(水封金網)を経由させてフィルター付きの集塵機53で回収している。なお、RI汚染物の破砕・蒸散・昇華粒子については、途中の水封金網で全量捕集されるため、僅かな二次汚染も防止できる。
【0049】
また、上記スキャナ装置2を、自走手段を備えた遠隔操作ロボットRのアーム部Aに取り付けて、別室で遠隔操作ロボットRを操作すれば、作業者が被ばくすることなく除染作業を行うことができる。なお、ファイバレーザの光ファイバの長さを調節すれば、レーザ発振器1を離れた別室に置くことも遠隔操作ロボットRに積載することもできる。
【0050】
しかも、上記アーム部Aを三次元的に操作することで、汚染物Tの表面上の任意の位置でスキャナ装置2を駆動させることができるため、面積の大きい壁面等を除染する際に、遠隔操作ロボットRの位置を固定してアーム部Aを操作すれば効率良く除染作業を進めることができる。
【0051】
また本発明は、概ね上記のように構成されるが、記載した実施例に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、レーザ発振器1には、ファイバレーザだけでなく、技術的に困難であるが、10m/sの高速走査が可能で、直径10μm以下の微小面積に集光してエネルギー密度を1GW/cm2以上に持っていける(言い換えれば、シングルモードファイバレーザ並みのビームパラメータ0.3mmmradと同等の性能を持つ)高出力の半導体レーザや固体レーザ、ガスレーザ等を採用することもできる。
【0052】
また、スキャナ装置2に関しても、XY軸スキャナ21の光偏向器21aをガルバノミラーから更に高速の電気光学素子やレゾナントミラー等に変更することができる。また、Z軸スキャナ22の可動レンズ22a、レンズ(液体又は結晶の素子等を用いたもの)を電気的に制御して焦点距離を高速に調整する可変焦点レンズ等に変更することもできる。
【0053】
そしてまた、表面形状測定装置3に関しても、必ずしもレーザ距離計31を用いる必要はなく、レーザ距離計31以外の光学的手段(例えば、全光路にわたってミリ以下の直径の微小光路を使用することが可能な位相差以外の3角測量や画像を用いる方法で測定する手段など)によって対象物の表面形状を測定する装置を採用することができる。
【0054】
他方また、除去物回収装置5に関しても、RI汚染粒子の捕集に水封金網以外の分離捕集器52を使用することができる。またレーザー除染装置そのものは、ポータブルな小型の形態であっても、設置式の大型の形態であってもよく、何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
原発事故によって、事故からの回復、廃止措置を予定している原子炉は多く、今後更に増えることが予想されることから、従来の除染方法で生じていた様々な課題(例えば、作業者の被ばくやRI汚染物による再汚染、二次廃棄物の発生、高額な除染コスト、作業効率等)の早急な解決が望まれている。
【0056】
そのような中で、本発明のレーザー除染装置は、従来装置と比較して炭素鋼、ステンレス鋼、チタン、アルミ、ジルコニウム、タイル、コンクリート、鉛、ガラス、合成樹脂、塗装膜等、殆どの材質の汚染物からRIを取り除く基本的な除染機能に優れるだけでなく、従来の除染装置よりも無反発力、低コスト化、小型化、軽量化、自動化および低被曝等が可能な実用面において有用な技術であるため、その産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0057】
1 レーザ発振器
11 光ファイバ
2 スキャナ装置
21 XY軸スキャナ
21a 光偏向器
22 Z軸スキャナ
22a 可動レンズ
22b 固定レンズ
23 レーザ窓
24 焦点位置制御部
3 表面形状測定装置
31 レーザ距離計
32 ミラー
33 ダイクロイックミラー
34 データ送信手段
4 ガス噴出装置
41 吹出口
5 除去物回収装置
51 吸込口
52 分離捕集器(金網式)
53 集塵機(フィルター付)
T 汚染物
1 加工用レーザ光
2 測定用レーザ光
R 遠隔操作ロボット
A アーム部
P 照射点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用レーザ光(L1)の光源に用いるCWレーザ発振器(1)と;レーザ光(L1)を光偏向器(21a)で二次元的に偏向走査するXY軸スキャナ(21)、及びレーザ光(L1)の焦点距離を可変焦点レンズや可動レンズ(22a)によって調整するZ軸スキャナ(22)を備え、かつ、このZ軸スキャナ(22)を前記XY軸スキャナ(21)よりも光源側に配置すると共に、前記XY軸スキャナ(21)及びZ軸スキャナ(22)によって走査したレーザ光(L1)を複合レンズを介さずに汚染物(T)の表面上に集光するスキャナ装置(2)と;前記汚染物(T)の表面形状を、レーザ距離計(31)とXY軸スキャナ(21)を用いた光学的手段によって測定する表面形状測定装置(3)とを含んで成り、
更に前記スキャナ装置(2)のZ軸スキャナ(22)には、表面形状測定装置(3)で得られた形状データに基づいて、レーザ光(L1)の焦点が汚染物(T)の表面にくるように照射位置に応じて焦点位置を自動的に調整する焦点位置制御部(24)を備えて構成したことにより、
汚染物(T)の表面に焦点位置を合わせながらレーザ光(L1)を三次元的に走査・照射可能としたことを特徴とするレーザー除染装置。
【請求項2】
レーザ発振器(1)に、平均出力が大きく、かつ直径10μm以下の微小点集光が可能なシングルモードファイバレーザを使用すると共に、汚染物(T)の表面にレーザ光(L1)が1GW/cm2以上(停止状態で)のエネルギー密度で照射されるようにレーザ発振器(1)の出力調整及び光学系を設計して、エネルギー密度の1から2乗に比例して溶融なしに汚染物(T)の破砕・蒸散・昇華量を増加可能としたことを特徴とする請求項1記載のレーザ除染装置。
【請求項3】
スキャナ装置(2)のXY軸スキャナ(21)の走査速度が10m/s以上の高速に設定されると共に、往復走査される加工用レーザ光(L1)が被照射面の任意の微小な照射点にナノ秒域の継続時間で照射されるようにXY軸スキャナ(21)の走査速度と集光径が設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー除染装置。
【請求項4】
スキャナ装置(2)の焦点位置制御部(24)が、レーザ光(L1)の焦点深度(レイリー長)の範囲内、またはその近傍に汚染物(T)の照射面が調整されるように設定されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のレーザー除染装置
【請求項5】
表面形状測定装置(3)に、目標物に測定用レーザ光(L2)を照射して照射光とその散乱光との干渉による位相差或いは時間差から距離を計算するレーザ距離計(31)を使用すると共に、測定用レーザ光(L2)の走査を加工用レーザ(L1)の走査と同じXY軸スキャナ(21)で同時に、又は独立して個別に行えるようにXY軸スキャナ(21)の直前にレーザ距離計(31)を設置したことを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載のレーザー除染装置。
【請求項6】
レーザ発振器(1)をスキャナ装置(2)から離れた場所に設置すると共に、このレーザ発振器(1)に小口径の光ファイバを有するファイバレーザを使用し、更に光ファイバの出射端部とレーザ窓(23)の間には、Z軸スキャナ(22)、ダイクロイックミラー(33)およびXY軸スキャナ(21)を順に配置して構成したことを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載のレーザー除染装置。
【請求項7】
加工用レーザ光(L1)が照射されている汚染物(T)の表面に、レーザ光(L1)の走査方向と概略逆方向となる角度方向に不活性ガスを吹き付けて照射部分を常に不活性ガスで覆いながら、粒子を吹き飛ばすガス噴出装置(4)と、このガス噴出装置(4)によって吹き飛ばされた放射性物質を含む除去物を吸引して捕集する除去物回収装置(5)とを備えたことを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載のレーザー除染装置。
【請求項8】
レーザ発振器(1)を遠隔操作ロボット(R)に積載すると共に、スキャナ装置(2)を、自走手段を備えた遠隔操作ロボット(R)のアーム部(A)に取り付けて、汚染物(T)の表面に対しスキャナ装置(2)を広範囲に駆動可能としたことを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載のレーザー除染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108977(P2013−108977A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−235164(P2012−235164)
【出願日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【出願人】(397022885)公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター (36)
【Fターム(参考)】