説明

レーザ光イオン化装置への直接液体注入口

【課題】
【解決手段】光イオン化およびマススペクトロメトリにより、液体試料中の低濃度の検体を分析するための方法および装置を提供する。注入システムは、毛細管を使用した液体試料の直接注入のために提供される。方法および装置は、従来の液体クロマトグラフィ/マススペクトロメータ装置と比較して、液体試料中の検体の検出下限値の20ないし2000倍の改善を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、米国特許法第119条(e)に従って、出典を明示することにより実際上その開示内容全体を本願明細書の一部とするOserらが2003年4月29日に提出した同時係属米国仮特許出願第60/467,162号「レーザ光イオン化装置への直接液体注入口」に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、レーザ/マススペクトロメトリチャンバにおける光イオン化による検体の改良された検出を提供する方法および装置に関する。本発明は、こうしたチャンバへの液体試料の直接注入を可能にする。
【背景技術】
【0003】
気体中の検体は、真空レーザ光イオン化およびマススペクトロメトリによって分析し得る。この手法は、共鳴多光子イオン化(REMPI)分光法と呼ばれる。通常は、チューナブル色素レーザ(ポンプレーザ)を、選択された状態の振動準位に渡って走査し、同時に、第二の固定波長レーザ(プローブレーザ)を使用して、イオン化を誘導する。ポンプレーザが共鳴する時には、一定の光子束でのイオン化断面の大幅な増加が存在し、イオン収量の増大が生じる。非共鳴と共鳴吸収との間のイオン収量の差は、REMPIスペクトルを記録する基準として使用される。試料がイオン化されると、イオンは、マススペクトロメータの検出器に抽出される。プローブレーザを適切に整調することで、分析の対象となる分子が光イオン化される。分析は、高い効率および選択性を有する飛行時間型マススペクトロメトリによって実行される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、血漿、唾液、および皮膚といった生物試料を使用することで、こうした複合基質内の生物検体の検出を、非常に低い濃度で実行できる。しかしながら、こうした試料中の生物検体に対して通常のREMPIシステムを使用した際の検出限界は、約0.2ないし1.0μg/mlに現れる。こうした生物試料は液体であるため、この限界を下回る精度は、注入システムでの吸着によって悪化する。さらに、吸着により、システムの頻繁な洗浄が必要となり、ターンアラウンドタイムの遅延につながる。したがって、この問題を回避すると共に、生物試料の分析に必要なもの等、液体検体を遙かに低い検出限界で分析し得るように注入システムを改良することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、レーザ光イオン化/マススペクトロメトリにより、液体試料中の低濃度の検体を分析する方法を提供し、方法は、(a)液体試料を受け取る近位端部と、大気圧又は減圧領域への試料の流出のための遠位端部とを有する毛細管に、検体を含む液体試料を導入するステップと、(b)遠位端部から流出する液体試料を、連続的に低下する圧力勾配の下、経路に沿った方向性のある小滴の流れにし、経路に沿った検体の実質的な凝縮を回避するステップと、(c)検体をイオン化して検体イオンを形成するために、流れを光イオン化の区域に方向付けるステップと、(d)イオンを分析するために、検体イオンをマススペクトロメータの質量分析器に送るステップとを備える。
【0006】
この方法を実行するための好適な装置は、(a)大気圧又は減圧領域へ液体試料を導入するための毛細管と、(b)減圧下において試料の蒸発小滴への照射を行い、イオン化種をイオン化するための光イオン化の区域と、(c)毛細管から光イオン化の区域への経路に沿って連続的に低下する圧力勾配を特徴とする領域と、(d)経路に沿った検体の凝縮が実質的に回避されるように、連続的に低下する圧力領域を介した経路に沿って、コリメートされた試料の蒸発小滴の流れを光イオン化の区域へ方向付けるためのコリメータと、(e)試料への照射を行うことで形成されるイオンのm/e比を決定するマススペクトロメータと、を備える。
【0007】
検体を分析するための好適なシステムは、光イオン化/REMPIマススペクトロメトリシステムである。液体試料中の検体の定量の検出可能限界は、試料中の検体濃度で約10-4μg/mlの低さとなる。
【0008】
液体試料の蒸発小滴は、好ましくは、10-5ないし10-4トルの平均チャンバ圧で光イオン化の区域内へ向けられる。コリメータからの流出時、コリメータから照射区域までの距離は、好ましくは、約12ないし約0.5cmの範囲である。
【0009】
光イオン化は、好ましくは、レーザによって実行され、通常はチューナブルレーザである。「毛細管」という用語は、一部として、ナノチューブ、小型のガスクロマトグラフィのカラム、および液体クロマトグラフ毛細管注入口を含む。
【0010】
光イオン化/マススペクトロメトリシステムを使用する場合、小滴の流れの照射区域との近接性のため、シグネチャスペクトルの取り出しを可能にする試料の十分な冷却が存在しない場合がある。しかしながら、検体の存在を識別するために、少なくとも二種類の代替方法が存在する。第一に、高濃度の検体を有する試料を注入し、超音波ジェット冷却注入口を使用して、ジェット冷却スペクトルを測定し、試料中に同じ原子量で現れる他のものを決定してよい。干渉が見られない場合、その質量を単独の識別基準として使用して、試料を注入してよい。
【0011】
また、液体クロマトグラフ分離を使用して、試料を分離してもよい。その後、従来の質量分光又は蛍光検出の代わりに、光イオン化/REMPI検出によって感度を高める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1を参照すると、信号応答と液体試料中の制癌剤XK469の既知の濃度とを対比するグラフが図示されている。実線は、注入試料中のXK469の既知の濃度を示す。黒色の四角形は、未修正のジェットREMPIシステムを使用して観察された濃度を示す。確認できるように、未修正システムは、試料の検出可能濃度約0.1μg/mlまでは比較的正確である。しかしながら、濃度0.01μg/mlでは、未修正システムは著しく不正確である。白抜きの四角形は、本発明による修正毛細入口管を使用して得られたデータを示す。データは、高濃度から0.01μg/mlで試験された最低濃度まで、直線の関係を示す。こうした結果は、毛細管入口の使用ではXK469の損失が存在しないことを示し、未修正ジェット注入口を使用した60倍の損失とは対照的である。さらに、検体は、光イオン化区域へ向かう途中で凝縮しないため、入口を閉塞せず、洗浄の必要性を低下させ、結果として、一定の期間に渡って流す場合がある試料について、機器の使用効率が高まる
【0013】
図2を参照すると、レーザ光イオン化/マススペクトロメトリシステムへの直接液体注入用の本発明による注入装置が図示されている。液体クロマトグラフ注入口は、長い管10を備え、管10は、ケーシング11により、光イオン化装置の注入口内に同軸に配置される。図示したように、注入口は光イオン化/REMPI装置の一部だが、本発明は、これに限定されない。試料は、入口13において注入され、管10の他方の端部から流出し、ノズル14を通過する。通常のノズル直径は、約0.1ないし0.8ミリメートルであり、有効な直径は、約0.4ミリメートルである。液体試料は、ノズル通過後、小滴の形態となる。小滴15は、圧力が連続的に低減された区域を通過する。第一の区域は、大気圧又は減圧下にある。好ましくは、減圧が使用され、通常は約1ないし10トルである。図には5トルの圧力を示している。小滴15は、次に、通常は約0.4ないし0.8mmの僅かに大きな直径であるスキマ16を通過する。有効なスキマ直径は、約0.6mmである。小滴は、次に、通常は約0.1ないし1トルの圧力である低圧区域を通過する。有効な圧力は、図に示したように0.13トルである。最後に、小滴は、通常、約0.8ないし1.2ミリメートルの直径を有するコリメータ17を通過する。図に示したように、コリメータは、約1ミリメートルの直径を有する。コリメータ通過後、蒸発小滴の柱は、通常、10-4ないし10-5トルまでの圧力の更なる低下にさらされる。図示したように、その圧力は、5×10-5トルである。
【0014】
コリメートされた蒸発小滴は、次に、レーザ光線18内に送られ、ここで試料中の検体化学種がイオン化される。イオンは、分析のために抽出され、マススペクトロメータ(図示なし)へ向けられる。コリメータ17の出口とレーザ光線18との間の距離xは、分析の感度を調整するために変更してよい。通常、距離xは、約12ないし0.5センチメートルの範囲である。
【0015】
以下の実施例は、例示の目的で提示するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
実施例:
図2に示したような修正光イオン化/REMPIシステムを利用して、制癌剤XK469を含む液体試料を、入口へ注入した。レーザは、励起波長266nmに調整した。この波長は、市販の固体Nd−YAGレーザにより容易に利用できる。使用した距離xは、12.5センチメートルである。既知の量のXK469を含む液体試料は、従来の未修正ジェットREMPI注入システムと、本発明による修正注入システムとを使用して注入した。結果を図1に示す。この構成において、従来の液体クロマトグラフィ/マススペクトロメータ装置を使用した検出の最下限値が約0.2μg/mlであるのと比較して、本発明によるXK469検出の正確な下限値は、約0.01μg/mlである。これは、検出能において約20倍の改善となる。蒸発小滴入口をレーザビームの近くに移動させることで、本発明による検出下限値は、約10-4μg/ml程度となり、即ち、従来の液体クロマトグラフィ/マススペクトロメータ装置の現在の検出限界に対して、2000倍の改善となる。直接液体注入では、検体を同定する上で十分に試料が冷却されなかったため、質量による同定を使用してもよい。これは、未修正ジェット冷却システムを使用して、より高い濃度での試料のスペクトルを決定し、例えば、ヒト組織又は血漿の実際の試料において同じ原子量で現れる他の任意の物質が存在するかを判定することで実行してよい。この場合には、化合物XK469では160amuである同じ質量の適切な吸収波長での干渉をチェックする。試料中に干渉が確認されない場合は、質量を単独の同定法とする直接液体注入口を使用した同定を行ってもよい。
【0017】
本願の本発明は、薬物動態学のみではなく、医療/保健用途を一部として含むその他の分野にも含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の方法を使用した、応答信号と検体の既知の濃度とを対比するグラフである。
【図2】本発明による好適な注入口の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マススペクトロメトリにより液体試料中の低濃度の検体を分析する方法であって、
(a)液体試料を受け取る近位端部と、前記試料の流出のための遠位端部とを有する毛細管に前記検体を含む液体試料を導入するステップと、
(b)前記遠位端部から流出する前記液体試料を、連続的に低下する圧力勾配の下、光イオン化の区域に向かう経路に沿った方向性のある小滴の流れにして、前記経路に沿った前記検体の実質的な凝縮を回避するステップと、
(c)前記検体をイオン化して検体イオンを形成するために、前記流れを前記光イオン化の区域に方向付けるステップと、
(d)前記イオンを質量分析するために、前記検体イオンをマススペクトロメータの質量分析器に送るステップと、
を備える方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記ステップ(a)において、前記試料は、大気圧下の領域へ流出する、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、
前記ステップ(a)において、前記試料は、減圧下の領域へ流出する、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、
前記検体は、定量的に分析される、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、
前記ステップ(c)において、前記流れは、10-4ないし10-5トルの範囲の圧力である前記光イオン化の区域へ向けられる、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、
前記流れは、コリメータを介して前記経路に沿って送られる、方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法であって、
前記コリメータから前記光イオン化の区域までの距離は、約12ないし約0.5センチメートルの範囲である、方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法であって、
前記流れが前記光イオン化の区域に導入される際の前記距離および前記圧力は、前記検体が約0.0001μg/mlの試料中での最低濃度で検出可能となるように選択される、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法であって、
前記光イオン化の区域は、レーザによって提供される、方法。
【請求項10】
イオン化対象の検体を含む液体試料の照射のための装置であって、
(a)前記液体試料を小滴として前記装置へ導入するための毛細管と、
(b)減圧下において前記液体試料の蒸発小滴への照射を行うことによりイオン化種を形成するための光イオン化の区域と、
(c)前記光イオン化の区域へ向かう経路に沿って連続的に低下する圧力勾配を特徴とする減圧の領域と、
(d)前記経路に沿った前記検体の凝縮が実質的に回避されるように、減圧の前記領域を介した前記経路に沿って、コリメートされた前記試料の蒸発小滴の流れを前記光イオン化の区域へ方向付けるためのコリメータと、
(e)前記試料への照射を行うことで生じるイオンのm/e比を決定するマススペクトロメータと、
を備える装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置であって、
前記毛細管は、前記装置の大気圧下の領域へ前記小滴を導入するように配置される、装置。
【請求項12】
請求項10記載の装置であって、
前記毛細管は、前記装置の減圧下の領域へ前記小滴を導入するように配置される、装置。
【請求項13】
請求項10記載の装置であって、
前記コリメータから前記光イオン化の区域までの距離は、約12センチメートルないし約0.5センチメートルの範囲である、装置。
【請求項14】
請求項10記載の装置であって、
前記光イオン化の区域は、レーザによって提供される、装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−525528(P2006−525528A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514270(P2006−514270)
【出願日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/013821
【国際公開番号】WO2004/097891
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(501228071)エスアールアイ インターナショナル (66)
【氏名又は名称原語表記】SRI International
【住所又は居所原語表記】333 Ravenswood Avenue, Menlo Park, California 94025, U.S.A.
【Fターム(参考)】