説明

レーザ光源装置

【課題】レーザ光のスポット位置の調節が可能なレーザ光源装置を提供する。
【解決手段】光源と、前記光源から発射するレーザ光を集光する集光レンズ部と、前記レーザ光を偏向する光偏向素子と、前記集光レンズ部により集光された前記レーザ光を伝搬する光学素子を有するレーザ光源装置であって、前記光偏向素子は、液晶素子、音響光学素子、電気光学素子のいずれかにより形成されており、前記光偏向素子に印加される電圧によって生じる電位分布に応じて前記レーザ光が前記光学素子に集光する方向を偏向するレーザ光源装置を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源より発せられたレーザ光を微小な光導波路に入射させるための方法として、レンズをアクチュエータ等により移動させ、入射光の光軸調整を容易かつ短時間で行う方法が開示されており、また、このような方法によりSHG等の光学素子に入射光を入射させた構造のレーザモジュール、光通信モジュールが開示されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
このような方法においては、光導波路に入射した光をモニタし、レンズを移動させるためのアクチュエータ等にフィードバックをかけることにより、自動で光軸調整を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−233731号公報
【特許文献2】特開2003−338795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の方法を用いるレーザモジュール、光通信モジュールでは、レンズを移動させるために用いられるアクチュエータが、圧電素子やモータ等の駆動部品を有しているため、駆動部品の可動部分の使用状況等により故障が生じる場合がある。更に、レンズが可動する領域を十分に確保する必要があるため、装置が大型化してしまう、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みたものであり、レンズ等の光学部品を可動させることなく、光軸調整を行うことができ、光導波路等に高い精度で入射させることが可能なレーザ光源装置を提供することを目的とするものである。更には、このようなレーザ光源装置とSHG(Second harmonic generation)等の光学素子とを組み合わせた構造のレーザ光源装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光源と、前記光源から発射するレーザ光を集光する集光レンズ部と、前記レーザ光を偏向する光偏向素子と、前記集光レンズ部により集光された前記レーザ光を伝搬する光学素子を有するレーザ光源装置であって、前記光偏向素子は、液晶素子、音響光学素子、電気光学素子のいずれかにより形成されており、前記光偏向素子に印加される電圧によって生じる電位分布に応じて前記レーザ光が前記光学素子に集光する方向を偏向する。
【0008】
また、本発明は、前記集光レンズ部は、単一の集光レンズであり、前記集光レンズと前記光偏向素子とは、この順に前記レーザ光が入射するように備えられる。
【0009】
また、本発明は、前記集光レンズ部は、第1の集光レンズと第2の集光レンズを有し、前記光偏向素子は前記第1の集光レンズと前記第2の集光レンズとの間の光路中に備えられる。
【0010】
また、本発明は、前記光偏向素子は、透明導電膜および配向膜が備えられた一対の透明基板によって挟持された少なくとも1つの液晶層を有する液晶素子であって、一対の前記透明導電膜の一方または双方に電位勾配を与えて、前記液晶層に印加される電圧によって生じる電位分布に応じて前記レーザ光が前記光学素子に集光する方向を偏向する。
【0011】
また、本発明は、前記光偏向素子は、複数の前記液晶素子が積層されている。
【0012】
また、本発明は、前記光偏向素子は、第1の液晶素子部と第2の液晶素子部とを有しており、前記第1の液晶素子部は、前記レーザ光を前記レーザ光の入射光の光軸に対し垂直方向となる一方の方向に光を偏向させるものであり、前記第2の液晶素子部は、前記レーザ光を前記レーザ光の入射光の光軸に対し垂直方向となる他方の方向に光を偏向させるものであって、前記一方の方向と前記他方の方向は垂直である。
【0013】
また、本発明は、前記光偏向素子は、第1の液晶素子部と第2の液晶素子部とを有しており、前記光偏向素子を形成している基板に対する前記第1の液晶素子部における液晶層の液晶分子のプレチルト角度の向きと、前記光偏向素子を形成している基板に対する前記第2の液晶素子部における液晶層の液晶分子のプレチルト角度の向きとは、相互に逆となるものである。
【0014】
また、本発明は、前記光学素子は、導波路構造を有する光学素子であって、前記光学素子から前記レーザ光が出射される。
【0015】
また、本発明は、前記光学素子はSHGである。
【0016】
また、本発明は、前記光学素子より出射される前記レーザ光の一部を受光する光検出器と、前記光検出器により検出された前記レーザ光の光量に基づき前記光学素子に印加される電圧の制御を行う制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レンズ等の光学部品を可動させることなく、光軸調整を行うことができ、光導波路等に高い精度で入射させることが可能なレーザ光源装置を提供することができる。更には、このようなレーザ光源装置とSHG等の光学素子とを組み合わせた構造のレーザ光源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施の形態におけるレーザ光源装置の構造図
【図2】第1の実施の形態における光偏向素子の説明図
【図3】第1の実施の形態における光偏向素子の斜視模式図
【図4】第1の実施の形態における光偏向素子の構造断面図
【図5】光偏向素子における印加電圧とリタデーション値の相関図
【図6】光偏向素子における出射光ベクトルの説明図
【図7】第2の実施の形態におけるレーザ光源装置の構造図
【図8】第3の実施の形態におけるレーザ光源装置の構造図
【図9】第4の実施の形態における光偏向素子の斜視模式図
【図10】第4の実施の形態における他の光偏向素子の構造断面図
【図11】第5の実施の形態における光偏向素子の構造断面図
【図12】第5の実施の形態における光偏向素子の説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0020】
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態におけるレーザ光源装置について説明する。本実施の形態におけるレーザ光源装置は、図1に示されるように、レーザ光源10、集光レンズ20、光偏向素子30、光学素子40、赤外カットフィルタ50を有しており、筐体60内に設置されている。本実施の形態における説明においては、レーザ光の光軸方向をZ軸方向とし、紙面に垂直となる方向をY軸方向とし、紙面に平行で、Z軸及びY軸に垂直な方向をX軸方向とする。
【0021】
レーザ光源10は、近赤外域の波長λの光を出射する半導体レーザ又は固体レーザ等が用いられる。集光レンズ20は、レーザ光源10より出射された光を集光するためのものであり、レーザ光源10より出射された開口数NAの発散光11を開口数NAの収束光12に変換するものである。そして、レーザ光源10より出射された光は、集光レンズ20によって、光学素子40において光が入射する端部に集光される。尚、集光レンズ20は、単一の集光レンズであってもよく、また、複数のレンズにより形成されているものや、フィルタ、アパーチャ等の光学部材を含むものであってもよい。このように、単一のレンズまたは複数のレンズにより、集光作用を発生させる部分を「集光レンズ部」と称し、本実施の形態では、集光レンズ部は、集光レンズ20により構成される。
【0022】
光偏向素子30は、機械的に可動する部分を有することなく、入射する光を偏向して出射する機能を有する。具体的に、光偏向素子30には電源70が接続されており、電源70により供給される電圧等を印加することにより、印加された電圧に応じて光を偏向することができるものである。このような、光偏向素子30としては、液晶素子が挙げられる。また、外形変化を伴わない構造として、液晶素子の他には、例えば、光弾性体材料に接合した圧電体に印加する高周波となる電圧の周波数に応じて、屈折率の周期分布を光弾性材料中に生成させ、周波数の変化により入射する光の回折角度を可変させること等が可能な音響光学(AO:Acousto-optic)素子が挙げられる。また、例えば、印加電圧によって発生する電界分布に応じて屈折率が変化する電気光学結晶等を用いた電気光学(EO:Electro-Optic)素子が挙げられる。
【0023】
光学素子40としては、光導波路の形成された光学素子、光ファイバー、導波路構造のSHG等が挙げられる。本実施の形態における説明では、光学素子40が導波路構造のSHGである場合について説明する。SHGである光学素子40は、ニオブ酸リチウム(LiO)結晶やタンタル酸リチウム(LiTaO)等の非線形材料により、矩形断面を有する形状等により加工されており、上面には、チャネル光導波路41が形成されている。SHGである光学素子40の、光の入射側の端面(以下、「入射端面」という。)は、1mm×1mm程度の大きさに加工されており、チャネル光導波路41の入射端面は、数μm×数μmの大きさで形成されており、入射端面から光の出射側の端面(以下、「出射端面」という。)に至るまで略同じ断面形状で形成されている。
【0024】
レーザ光源10から出射された波長λの光は、集光レンズ20により、SHGである光学素子40のチャネル光導波路41の入射端面に集光させて入射することにより、光学素子40からは波長λ/2のSHG光13が出射される。例えば、SHGである光学素子40に入射する光の波長λが、1064nmの赤外光である場合、光学素子40から出射される光は、波長が、λ/2である532nmの緑色光となる。SHGである光学素子40では、SHG変換効率を高めるため、チャネル光導波路41が形成されており、SHG変換光との位相整合をとるための周期的ドメイン反転構造を有する擬似位相整合波長変換素子となるものである。このような構造とすることにより、バルク構造のSHGに比べて高いSHG変換効率が得られる。このとき、SHG変換効率は波長λの入射光のパワーに比例する。従って、SHGである光学素子40には、チャネル光導波路41の入射端面の中心に、入射光を正確に入射させることが求められる。尚、SHGである光学素子40における光の入射端面及び出射端面には、波長1064nm、532nmにおいて反射防止膜となる誘電体多層膜等が形成されていることが好ましい。
【0025】
赤外カットフィルタ50は、波長λの光を反射または吸収し、波長λ/2の光を透過する機能を有している。これにより、波長λ/2となるSHG光13のみを出射させることができる。
【0026】
このような構成のレーザ光源装置では、組立工程の際にまたは経時変化により、集光レンズ20により集光された光が、SHGである光学素子40のチャネル光導波路41の入射端面からずれた位置に集光される場合がある。このような場合において、本実施の形態におけるレーザ光源装置は、上述した光偏向素子30により、光を偏向させることにより、SHGである光学素子40のチャネル光導波路41の端面の中心に正確に光を集光させることができる。
【0027】
次に、光偏向素子30が、機械的な可動部分がなくかつ、低電圧駆動が可能な液晶素子により形成されている場合について説明する。尚、光偏向素子30による光の偏向の制御は、光偏向素子30に印加する電圧を調節することにより行うことができる。
【0028】
(光偏向素子)
図2(a)、図2(b)に基づき光偏向素子30について、より詳細に説明する。図2(a)、図2(b)は、光束直径φの等位相面αの平面波が光偏向素子30に垂直に入射した場合における、出射光の様子を示す模式図である。図2(a)は、出射光がX軸方向に偏向角度θxで偏向した透過波面βを示し、図2(b)は、出射光がY軸方向に偏向角度θyで偏向した透過波面γを示す。ここで、出射光の等位相面ABとCDにおいて、入射波面αに対する出射光の等位相面ABの偏向に関わる光路長差はδx=φ・sin(θx)であり、出射光の等位相面CDの偏向に関わる光路長差はδy=φ・sin(θy)である。
【0029】
ここで、図1に示すように、光偏向素子30が、集光レンズ20と光学素子40との間の光路中に設置した場合、光路長差を生じさせる光偏向素子30から光学素子40の入射面までの光路長をWとすると、X軸方向及びY軸方向における集光スポットの移動量ΔX及びΔYは、ΔX=W・tan(θx)及びΔY=W・tan(θy)となる。
【0030】
また、偏向角度θx及びθyが、数度以下の微小角度であれば、tan(θx)=sin(θx)、tan(θy)=sin(θy)により近似することができるため、光偏向素子30による集光スポットの移動量ΔX=W・δx/φ、ΔY=W・δy/φと近似することができる。ここで、集光レンズ20により光学素子40の入射端面に集光スポットを形成する収束光12の開口数NAは、NA=φ/(2W)で定義されるため、ΔX及びΔYは、(1)に示される式となる。
【0031】
ΔX=δx/(2・NA)、ΔY=δy/(2・NA)・・・・・・(1)
ここで、開口数NAは、集光レンズ20により定まる固有値であり、光路長差δx及びδyは、光偏向素子30に印加される電圧の値により調整することができる。従って、本実施の形態におけるレーザ光源装置を製造する際に、組立等において位置ズレ等が生じた場合や、使用の際に、経時変化により位置ズレが生じた場合、温度変化に伴う熱膨張等により光軸ズレが生じた場合にも対応することができる。つまり、これらのズレに対して、光偏向素子30に印加する電圧を調節することにより、光学素子40の所望の位置に光スポットを移動させることができ、SHGである光学素子40のチャネル光導波路41の入射端面の位置に正確に光を入射させることができる。
【0032】
次に、図3及び図4に基づき光偏向素子30が液晶素子である場合について、より詳細に説明する。尚、図3は、液晶素子からなる光偏向素子30を分解したものの斜視模式図であり、図4(a)は、XZ面における断面模式図であり、図4(b)は、YZ面における断面模式図である。
【0033】
液晶素子からなる光偏向素子30は、ガラスまたはプラスチック等からなる、2枚の透明基板31a及び31bを有している。透明基板31aの表面には透明導電膜32aを有し、更に、透明導電膜32aの上に配向膜33aを有する。また、透明基板31bの表面には透明導電膜32bを有し、更に、透明導電膜32bの上に配向膜33bを有する。透明基板31a及び31bは、透明導電膜32a及び32b同士が対向するとともに、後述する液晶層34を挟持するように配置される。また、液晶層34の周辺部には、シール材35を有し、所望のセルギャップGを有する。尚、図3では、液晶素子からなる光偏向素子の配向膜33a、33bは図示を省略している。
【0034】
また、配向膜33a及び33bとしては、ポリイミド膜等が用いられており、ラビング法等により配向処理が施されている。また、配向膜33a及び33bは、他の配向方法としては、光配向の技術、SiO(一酸化シリコン)等を斜め蒸着することにより配向させる技術、ダイヤモンドライクカーボン膜等にイオンビームを照射して配向させる技術等を用いた配向膜であってもよい。更に、透明基板31a及び31bにおいて液晶層34と接する面に微小な凹凸溝を複数形成し、液晶層34における液晶分子が溝に倣うようなものであってもよい。
【0035】
透明導電膜32a及び32bは、ITO(Indium Tin Oxide)等の導電性を有する金属酸化物を用いることができるが、後述するように、液晶層34内に電位勾配を生じさせるため、比較的高抵抗な膜であることが好ましい。具体的には、透明導電膜32a及び32bは、レーザ光源10から出射される波長の光に対し透明となる材料であって、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、イットリウム(Y)、インジウム(In)等のうち、いずれか1または2以上の元素をドープしたZnO(酸化亜鉛)膜、シリコン(Si)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、フッ素(F)等のうち、いずれか1または2以上の元素をドープしたSnO(酸化スズ)膜、ノンドープの酸化亜鉛膜、酸化スズ膜、ITO膜等、更には、これらと酸化シリコン、酸化アルミニウム等の複合酸化物が用いられる。特に、酸化スズ膜は、熱や水に対する表面抵抗率の安定性が高く、製造上の観点及び耐久性、信頼性の観点から好ましい。
【0036】
また、透明導電膜32aのY軸方向の両端には、X軸方向に伸びる、給電電極36a及び36bが、間隔Lyで設けられている。また、給電電極36a及び36bは、電源70に接続され、電源70より給電電極36a及び36bに所定の電圧を印加することにより、透明導電膜32aにおいてY軸方向に電位勾配を生じさせることができる。同様に、透明導電膜32bのX軸方向の両端には、Y軸方向に伸びる、給電電極37a及び37bが、間隔Lxで設けられている。給電電極37a及び37bは、電源70に接続され、電源70より給電電極37a及び37bに所定の電圧を印加することにより、透明導電膜32bにおいてX軸方向に電位勾配を生じさせることができる。
【0037】
給電電極36a、36b、37a及び37bは、透明な材料であっても不透明な材料であってもよく、透明導電膜32a及び32bよりも低抵抗となる材料であればよい。具体的には、ITO、ZnO、SnO等の導電性を有する金属酸化物、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銀(Ag)等の金属により形成されている。特に、金属は表面抵抗率が小さく、細線化することが可能であることから、液晶素子を小型化する観点において好ましい。
【0038】
また、給電電極36a、36b、37a及び37bの表面抵抗率RLと、透明導電膜32a及び32bの表面抵抗率RHと、の比RL/RHの値は、1000分の1以下であることが好ましい。RL/RHの値が1000分の1を超えると、透明導電膜32a及び32bに所望の電位勾配を発生させることが困難となるからである。また、透明導電膜32a及び32bの表面抵抗率RHは、高すぎると電位勾配が発生しなくなるため、1×10Ω/□以下であることが好ましい。また、給電電極36a、36b、37a及び37bの表面抵抗率RLは、低いほど透明導電膜32a及び32bの表面抵抗率RHの許容範囲が広がるため、1〜50Ω/□の範囲であることが好ましい。例えば、給電電極36a、36b、37a及び37bとしては、表面抵抗率RLが40Ω/□のITO膜が用いられており、透明導電膜32a及び32bとしては、表面抵抗率RHが100MΩ/□のSnO膜を用いることができる。
【0039】
また、給電電極36a及び36bと給電電極37a及び37b、透明導電膜32aと透明導電膜32bと、における絶縁を確保するために、液晶層34と接する面の少なくとも一方を絶縁膜により覆った構造であってもよい。この際、用いられる絶縁膜としては、レーザ光源10より出射される波長の光を透過するものであって絶縁性を有するものであればよく、例えば、二酸化シリコン(SiO)等の無機材料からなる膜やアクリル樹脂等の有機材料からなる膜等が挙げられる。
【0040】
本実施の形態では、光偏向素子30が液晶素子であって、液晶層34が用いられるので、リタデーション値Rdの設計自由度が向上するため好ましい。液晶層34は、複数の液晶分子34aを有しており、液晶分子34aは、配向膜33a及び33bの界面において、図4(a)に示されるように所定の傾斜角度αをなすように配置される。この所定の傾斜角度αはプレチルト角度(以降、プレチルト角度αと記載する場合がある)と呼ばれている。図4(a)、図4(b)に示す場合では、レーザ光源10から出射された光であるX軸方向における直線偏光の光を、液晶層34内の液晶分子34aの異常光屈折率に対応させるため、液晶分子34aがXZ面に略平行に配向するように、配向膜33a及び33bにより配向されている。
【0041】
液晶層34には、例えば、ネマッティック液晶を用いることができる。尚、本実施の形態において用いる液晶は、誘電率異方性Δεが正の場合について説明するが、Δεが負のものを用いることもできる。プレチルト角度αは、液晶層34に電圧を印加した際の液晶分子34aの立ち上がり方向を決め、駆動時の配向不良を防ぐため、特に、1°以上であることが好ましい。本実施の形態においては、液晶層34の液晶分子34aの配向モードがホモジニアス配向である場合について説明しているが、ハイブリッド配向、ホメオトロピック配向等の配向モードを用いるものであってもよい。
【0042】
次に、液晶層34に印加する電圧について説明する。ここで、給電電極36aに印加される電位をV1aとし、給電電極36bに印加される電位をV2aとし、給電電極37aに印加される電位をV1bとし、給電電極37bに印加される電位をV2bとする。また、電源70から給電電極36a、36b、37a及び37bに供給される各々の電位V1a、V2a、V1b及びV2bは、交流であって、液晶の信頼性を維持するため直流成分が低くなるように設定されている。特に、信頼性の観点からは、直流成分は交流成分の1%以下であることが好ましい。また、この交流の周波数は50Hz〜5000Hzであり、矩形交流波等を用いることが好ましい。
【0043】
次に、図5に基づき液晶素子からなる光偏向素子30における印加電圧Vとリタデーション値Rdとの関係について説明する。このリタデーション値Rdは、光偏向素子30におけるセルギャップG内の液晶層34を透過するX軸方向の直線偏光の光である異常光偏光に対する位相と、Y軸方向の直線偏光の光である常光偏光に対する位相との差に相当するものである。異常光偏光に対する液晶層34の平均屈折率(異常光平均屈折率)をn(V)とすると、常光偏光に対する液晶層34の平均屈折率はnであり、液晶層34におけるリタデーション値Rdは、Rd={n(V)−n}×Gとなる。
【0044】
このとき、透明導電膜32aと透明導電膜32bとの間における電位に応じて生じる電位差が液晶層34に印加されると、印加電圧Vとなる電位差に応じて液晶層34における液晶分子34aの傾斜角が増加するため、異常光平均屈折率n(V)が低下する。ところで、図5に示されるように、印加電圧がVからVまでの範囲においては、印加電圧Vの増加に伴い、リタデーション値RdがRdからRdまで略線形に減少している。本実施の形態では、この領域を線形領域と呼び、液晶素子からなる光偏向素子30を駆動する際には、印加される電圧は線形領域における電圧範囲において用いられるとよい。
【0045】
このような液晶素子からなる光偏向素子30では、透明導電膜32a、32bは、比較的抵抗が高いため、給電電極36a及び36bに印加される電位V1a及びV2aに応じて、また、給電電極37a及び37bに印加される電位V1b及びV2bに応じて、(2)、(3)の式に示される電位分布が生じる。尚、X座標の原点は給電電極37aと給電電極37bとの間の中心であり、Y座標の原点は給電電極36aと給電電極36bとの間の中心であるものとする。
【0046】
透明導電膜32a:
(X,Y)=(V1a+V2a)/2+ΔVy×(Y/Ly)・・・・・(2)
透明導電膜32b:
(X,Y)=(V1b+V2b)/2+ΔVx×(X/Lx)・・・・・(3)
尚、前述したように、Lxは給電電極37aと給電電極37bとの間隔を示し、Lyは給電電極36aと給電電極36bとの間隔を示し、ΔVx=V2b−V1b、ΔVy=V2a−V1aを示す。
【0047】
従って、液晶層34に印加される電位分布V(X,Y)は、V(X,Y)=V(X,Y)−V(X,Y)であることから、(4)に示す式となる。
【0048】
V(X,Y)={(V1b+V2b)−(V1a+V2a)}/2
+ΔVx×(X/Lx)−ΔVy×(Y/Ly)・・・・・(4)
よって、給電電極36a、36b、37a及び37bに印加される電位V1a、V2a、V1b及びV2bを調整することにより、電位分布V(X,Y)に対する液晶層34のリタデーション値Rdを変化させる範囲(RdからRdまで)を線形領域であるVからVまでの電圧範囲となるように調整することができる。
【0049】
また、常光偏光の光路長を基準とすると、異常光偏光の入射光が液晶素子からなる光偏向素子30を透過した際に、XY面において生じるZ軸方向の光路長差の分布OPD(X,Y)は、液晶層34のリタデーション値Rd={n(V)−n}×Gに相当するため、(5)に示す式により近似することができる。
【0050】
OPD(X,Y)=OPD−k×V(X,Y)・・・・・(5)
但し、V≦V(X,Y)≦Vであり、OPD=(Rd×V−Rd×V)、k=(Rd−Rd)/(V−V)である。
【0051】
また(5)に示す式は、(4)に示す式により(6)に示す式となる。
【0052】
OPD(X,Y)=OPD−k×{(V1b+V2b)−(V1a+V2a)}/2
−k×ΔVx×(X/Lx)+k×ΔVy×(Y/Ly)・・・・・(6)
OPD(X,Y)をZ軸座標の値であるとすると、座標空間(X,Y,Z)において、(6)に示す式は、等位相面に対応する平面を示す。この等位相面の垂線が液晶素子からなる光偏向素子30の透過光の進行方向に対応し、その法線ベクトルτは、(7)に示す式で表される。
【0053】
τ=(k×ΔVx/Lx,−k×ΔVy/Ly,1)・・・・・(7)
即ち、入射光の進行方向ベクトル(0,0,1)に対し、出射光は、給電電極36a、36b、37a及び37bに印加される電位V1a、V2a、V1b及びV2bにより、−(V−V)から、+(V−V)まで連続的に変化する電圧ΔVx及びΔVyに対応して、(7)に示される式の進行方向に可変させることができることを意味しており、これにより光を偏向することができる。
【0054】
図6は、上述した光偏向機能を模式的に示した図である。入射光の方向に対する出射光の偏向角度をθとした場合、X軸方向における偏向成分の偏向角θxはXZ面の射影成分であり、Y軸方向における偏向成分の偏向角θyはYZ面の射影成分である。よって、(8)及び(9a)、(9b)に示す式により表される。
【0055】
tanθ=k×{(ΔVx/Lx)+(ΔVy/Ly)1/2・・・・・・(8)
tanθx=k×ΔVx/Lx・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9a)
tanθy=−k×ΔVy/Ly・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9b)
偏向角度は数度以下のため、k=(Rd−Rd)/(V−V)に、ほぼ比例し、Rd−Rd={n(V)−n(V)}×Gであるため、液晶素子において液晶層34のセルギャップGが広い程、偏向角度の可変範囲を広くすることができる。
【0056】
よって、レーザ光源10より出射されるレーザ光がX軸方向の直線偏光の光である場合には、液晶素子からなる光偏向素子30により、印加電圧に応じて光学素子40の入射端面における光スポットの照射される位置をXY平面において移動させて調節することができる。これにより、正確な調芯制御が可能となる。
【0057】
次に、本実施の形態におけるレーザ光源装置において、光学素子40に形成されているチャネル光導波路41に光を入射させる場合を考える。このとき、チャネル光導波路41の入射端面の幅が5μmである場合では、光偏向素子30による集光スポットの可変範囲は、X軸方向及びY軸方向に±5μm以上あることが好ましく、更には、光軸調整の負担の軽減等を考慮するならば、±10μm以上であることが好ましい。また、光偏向素子30の駆動電圧、応答速度、特性安定性等の観点を考慮すると、±20μm以下であることが好ましい。
【0058】
また、液晶素子からなる光偏向素子30では、透明導電膜32a及び32bにおける抵抗値は比較的高いものであるが、透明導電膜32a及び32bのいずれか一方における抵抗値を低くし、透明導電膜における電位を等電位としてもよい。この場合、X軸方向またはY軸方向における光偏向機能のみとなるが、制御が容易となる。また、後述するように、このような液晶素子を2つ積層することにより、X軸方向及びY軸方向において任意の偏向機能をもたせることも可能である。
【0059】
具体的には、透明導電膜32aを比較的高抵抗となるように形成し、透明導電膜32bを低抵抗となるように形成した液晶素子と、透明導電膜32bを比較的高抵抗となるように形成し、透明導電膜32aを低抵抗となるように形成した液晶素子とを積層した構造の光偏向素子30により、X軸方向及びY軸方向において任意の偏向機能をもたせることが可能である。この場合、各々の液晶素子において低抵抗となるように形成された透明導電膜をコモン電位とし、比較的高抵抗となるように形成された透明導電膜の給電電極の各々に所定の交流電圧を印加するとよい。この場合、低抵抗とする透明導電膜は、1〜50Ω/□の範囲であることが好ましい。
【0060】
また、液晶素子からなる光偏向素子30による偏向角度は、液晶層34のセルギャップGを広げることにより拡大させることができるが、印加電圧を切り換えた際の偏向応答時間は、セルギャップGの2乗に略比例して長くなる。このため、後述するように、複数の液晶素子を積層等した構造とすることにより、応答速度を維持したまま偏向角度の可変範囲を広げることができる。
【0061】
尚、本実施の形態においては、レーザ光源10として、半導体レーザ等の場合について説明したが、光ファイバーや光導波路の端面よりレーザ光を出射するものであってもよい。また、集光レンズ20に代えて、反射型の集光ミラーを用いた構成のものであってもよい。また、本実施の形態は、微小領域に発光源を有し、この発光源より発せられた光を別の微小な領域に集光することが必要とされる光学装置においても適用することが可能である。
【0062】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態におけるレーザ光源装置は、2枚の集光レンズを有する構造のレーザ光源装置である。本実施の形態におけるレーザ光源装置は、図7に示されるように、レーザ光源10、第1の集光レンズ121、光偏向素子30、第2の集光レンズ122、光学素子40、赤外カットフィルタ50を有しており、筐体60内に設置されている。
【0063】
本実施の形態におけるレーザ光源装置では、レーザ光源10より出射された発散光111は、第1の集光レンズ121により平行光112となり、光偏向素子30に入射する。光偏向素子30を透過した光は、第2の集光レンズ122に入射し、収束光113となり光学素子40の入射端面に集光される光スポットを形成し、光学素子40のチャネル光導波路41に集光された光を入射させることができるものである。尚、本実施の形態において、「集光レンズ部」は、第1の集光レンズ121と第2の集光レンズ122により構成される。
【0064】
本実施の形態におけるレーザ光源装置では、第1の集光レンズ121及び第2の集光レンズ122の2枚の集光レンズを用いることにより、光偏向素子30に入射する光を平行光112とすることができる。尚、光学素子40がSHGである場合には、光学素子40よりSHG光114が出射される。
【0065】
とくに、光学素子40がSHGである場合、チャネル光導波路41の断面は数μm×数μmと小さいため、集光スポットがチャネル光導波路41の中心より1μm以上ずれると、チャネル光導波路41内を伝搬できる波長が1064nmの基本波光強度が低下する。その結果、基本波光強度の2乗に比例して生じる波長532nmのSHG変換光強度が著しく低下する。集光スポットの位置ズレは、レーザ光源10、第1の集光レンズ121、第2の集光レンズ122、光学素子40を組立て固定する際に発生する場合や、これらを固定している部材等が熱膨張した場合、経時変化に伴い発生する場合がある。したがって、偏向素子30により、この位置ズレを補正して、チャネル光導波路41の中心に集光スポットの中心が位置するように位置合せを行うことができるので有用である。
【0066】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
【0067】
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態におけるレーザ光源装置は、光学素子より出射される光の光量をモニタし、制御する機能を有するレーザ光源装置である。本実施の形態におけるレーザ光源装置は、図8に示されるように、レーザ光源10、集光レンズ20、光偏向素子30、光学素子40、ビームスプリッタ250、光検出器251を有しており、筐体60内に設置されている。また、制御部260を有しており、制御部260は、光検出器251、レーザ光源10、電源70に接続されている。
【0068】
ビームスプリッタ250は、2個の三角柱プリズムを相互の斜面において接合したものであり、光の入射面には、波長λ/2の光は透過し、波長λの光を反射する不図示のダイクロイックフィルターが成膜されている。また、接合される三角柱プリズムの斜面には、SHG変換光である波長λ/2の光の一部を反射し大部分を透過する不図示の部分反射膜が成膜されている。尚、ビームスプリッタ250の出射面側には、波長λ/2の光に対応した不図示の反射防止膜が成膜されている。
【0069】
SHGからなる光学素子40から出射された光は、ビームスプリッタ250により直進する光であるSHG光213と、略直角方向に反射される光214とに分岐され、分岐される光214が光検出器251に入射する。光検出器251では、入射した光の光量を測定することができ、測定された光量の情報は制御部260に伝達される。制御部260では、光量が最大となるように、電源70を制御することにより、液晶素子からなる偏向素子30に印加される電圧の制御を行うことができる。このように光検出器251に入射する光の光量が最大となるように、偏向素子30に印加される電圧の制御を行うことにより、SHGからなる光学素子40におけるチャネル光導波路41の入射端面の中心部分に光を入射させることができる。尚、制御部260は、レーザ光源10にも接続されており、レーザ光源10の制御を行うことも可能である。
【0070】
また、光検出器251の受光面を複数に分割し、入射する光の強度分布の変化を検出し、これに基づき制御部260により液晶素子からなる光偏向素子30に印加される電圧の制御を行なってもよい。また、図8においては、光検出器251を筐体60内に設置されている構造のものを示しているが、光検出器251は筐体60の外部に設けてもよい。この場合には、ビームスプリッタ250により分岐された光が光検出器251に入射するように、筐体60の一部は光を透過する材料により形成される。
【0071】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。また、本実施の形態は、集光レンズ部として、第1の集光レンズ121と第2の集光レンズ122を用いる、第2の実施の形態におけるレーザ光源装置についても適用可能である。
【0072】
〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1から第3の実施の形態におけるレーザ光源装置において、光偏向素子が複数の液晶素子を積層することにより形成されているものである。
【0073】
図9には、本実施の形態における光偏向素子300を示す。光偏向素子300は、第1の液晶素子部301と第2の液晶素子部302を有している。光偏向素子300においては、第1の透明基板311の表面には透明導電膜312を有し、第2の透明基板314の一方の面には透明導電膜313を有し、第2の透明基板314の他方の面には透明導電膜315を有し、第3の透明基板317の表面には透明導電膜316を有する。透明導電膜312のY軸方向の両端には、X軸方向に伸びる、給電電極321a及び321bが、間隔Lyで設けられている。また、透明導電膜316のX軸方向の両端には、Y軸方向に伸びる、給電電極322a及び322bが、間隔Lxで設けられている。
【0074】
第1の透明基板311と第2の透明基板314とは、第1の透明基板311の透明導電膜312を有する側と、第2の透明基板314の透明導電膜313を有する側とが対向するとともに、後述する液晶層331を挟持するように配置される。また、液晶層331の周辺部には、不図示のシール材を有し、所望のセルギャップGを有する。同様に、第3の透明基板317と第2の透明基板314とは、第3の透明基板317の透明導電膜316を有する側と、第2の透明基板314の透明導電膜315を有する側とが対向するとともに、後述する液晶層332を挟持するように配置される。また、液晶層332の周辺部には、不図示のシール材を有し、所望のセルギャップGを有する。
【0075】
本実施の形態における光偏向素子300では、第1の液晶素子部301は、第1の透明基板311、透明導電膜312、液晶層331、透明導電膜313、第2の透明基板314を含んで構成されており、第2の液晶素子部302は、第2の透明基板314、透明導電膜315、液晶層332、透明導電膜316、第3の透明基板317を含んで構成されている。尚、透明導電膜312、313、315、316の表面には、不図示の配向膜が各々備えられている。
【0076】
尚、透明導電膜313及び315は低抵抗の透明材料からなり、同一の交流実効電位Vcが印加されており等電位となっている。また、電源より給電電極321aにはV1aの電位が印加され、給電電極321bにはV2aの電位が印加され、給電電極322aにはV1bの電位が印加され、給電電極322bにはV2bの電位が印加される。
【0077】
本実施の形態における光偏向素子300は、第1の実施の形態における液晶素子からなる光偏向素子30と同様に駆動することができる。具体的には、本実施の形態における光偏向素子300において、給電電極321aは給電電極36aに、給電電極321bは給電電極36bに、給電電極322aは給電電極37aに、給電電極322bは給電電極37bに、透明導電膜312は透明導電膜32aに、透明導電膜316は透明導電膜32bに相当するものとして考えることができる。そして、第1の実施の形態における液晶素子からなる光偏向素子30と同様に駆動することが可能であり、このような光偏向素子300では、液晶層331及び332に印加される電圧をVからVの範囲で調整することが可能である。これにより、入射した光は、液晶層331を有する第1の液晶素子部301においてY軸方向に偏向させることができ、液晶層332を有する第2の液晶素子部302においてX軸方向に偏向させることができる。
【0078】
また、図9では、第1の液晶素子部301と第2の液晶素子部302とにおいて、共有される透明基板として第2の透明基板314が用いられているが、各々別個の透明基板を用いてもよい。例えば、第1の実施の形態における液晶素子からなる光偏向素子30を2つ積層した構成であってもよい。
【0079】
更に、図10には、本実施の形態における他の光偏向素子の構造を示す。図10に示される光偏向素子350は、第1の液晶素子部351における液晶層361の液晶分子361aはY軸方向に配向しており、第2の液晶素子部352における液晶層362の液晶分子362aはX軸方向に配向している。
【0080】
尚、光偏向素子350では、第1の透明基板311の表面には、透明導電膜371を有し、透明導電膜371のX軸方向の両端にはY軸方向に伸びる、給電電極381a及び381bを有する。また、第2の透明基板314において第1の透明基板311に対向する一方の面には、透明導電膜372を有し、透明導電膜372のY軸方向の両端にはX軸方向に伸びる、給電電極382a及び382bを有する。また、透明導電膜371の上には配向膜391を有し、透明導電膜372の上には配向膜392を有し、配向膜391及び392は、液晶分子361aがY軸方向に配向するようにラビング処理等がなされている。
【0081】
また、第3の透明基板317の表面には、透明導電膜374を有し、透明導電膜374のX軸方向の両端にはY軸方向に伸びる、給電電極384a及び384bを有する。また、第2の透明基板314において第3の透明基板317に対向する他方の面には、透明導電膜373を有し、透明導電膜373のY軸方向の両端にはX軸方向に伸びる、給電電極383a及び383bを有する。また、透明導電膜373の上には配向膜393を有し、透明導電膜374の上には配向膜394を有し、配向膜393及び394は、液晶分子362aがX軸方向に配向するようにラビング処理等がなされている。
【0082】
これにより、光偏向素子350は、入射光の偏光状態に依存することのない光偏向素子となる。即ち、光偏向素子350に入射する光が、光ファイバーや光導波路等を伝搬してランダム偏光となったレーザ光である場合においても、液晶層361及び362に印加される交流実効電圧を制御することにより、光の偏向角度を調節することができる。このような光偏向素子350は、例えば、光ファイバーから出射されたランダム偏光の光を半導体光増幅素子や光ファイバーアンプに入射させるものであって、入射させる光に対し高い位置精度が求められる場合等に用いることができる。
【0083】
尚、上記以外の内容については、第1から第3の実施の形態と同様である。
【0084】
〔第5の実施の形態〕
次に、第5の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態等に示されるように、光偏向素子に入射する光が収束光または発散光の場合に、特に好ましく用いられる液晶素子からなる光偏向素子を有するレーザ光源装置である。
【0085】
一般的に、光偏向素子として液晶素子を用いる場合、液晶素子に含まれる液晶層は、印加される電圧に応じて基板面に対する液晶分子の傾斜角度が変化するため、電圧印加時において、リタデーション値Rdは光の入射角度依存性が生じやすい。このため、光偏向素子が発散光や収束光となる光の光路に配置した場合、リタデーション値Rdは平行光が入射した場合と異なるため、光学素子の所定の位置に、高精度で光を入射させるためには、後述するように本実施の形態のレーザ光源装置が有効である。
【0086】
次に、図11に基づき、本実施の形態におけるレーザ光源装置に用いられる光偏向素子について説明する。本実施の形態における光偏向素子400は、第1の液晶素子部401と第2の液晶素子部402を有している。この光偏向素子400においては、第1の透明基板411の表面には透明導電膜412を有し、第2の透明基板414の一方の面には透明導電膜413を有し、第2の透明基板414の他方の面には透明導電膜415を有し、第3の透明基板417の表面には透明導電膜416を有する。透明導電膜412のY軸方向の両端には、X軸方向に伸びる、給電電極421a及び421bが設けられており、透明導電膜413のX軸方向の両端には、Y軸方向に伸びる、給電電極422a及び422bが設けられている。また、透明導電膜415のY軸方向の両端には、X軸方向に伸びる、給電電極423a及び423bが設けられており、透明導電膜416のX軸方向の両端には、Y軸方向に伸びる、給電電極424a及び424bが設けられている。
【0087】
第1の透明基板411と第2の透明基板414とは、第1の透明基板411の透明導電膜412を有する側と、第2の透明基板414の透明導電膜413を有する側とが対向するとともに、後述する液晶層441を挟持するように配置される。また、液晶層441の周辺部には、シール材431を有し、所望のセルギャップGを有する。同様に、第3の透明基板417と第2の透明基板414とは、第3の透明基板417の透明導電膜416を有する側と、第2の透明基板414の透明導電膜415を有する側とが対向するとともに、後述する液晶層442を挟持するように配置される。また、液晶層442の周辺部には、シール材432を有し、所望のセルギャップGを有する。
【0088】
透明導電膜412の表面には配向膜451を有し、透明導電膜413の表面には配向膜452を有し、配向膜451及び452は、液晶分子441aがX軸方向に配向するようにラビング処理等がなされている。これにより、液晶分子441aは、プレチルト角度αで配向している。また、透明導電膜415の表面には配向膜453を有し、透明導電膜416の表面には配向膜454を有し、配向膜453及び454は、液晶分子442aがX軸方向に配向するようにラビング処理等がなされている。これにより、液晶分子442aは、プレチルト角度αで配向している。ここで、液晶分子441aと液晶分子442aは、同じX軸方向において同じプレチルト角度αで配向しているが、液晶分子441aと液晶分子442aとは逆向きのプレチルト角度αで配向している。
【0089】
即ち、図11において、光偏向素子400の断面に相当するXZ面から見て、液晶分子441aは、透明基板411の基板面に対し、反時計回りにプレチルト角度αで配向しており、液晶分子442aは、透明基板414の基板面に対し、時計回りにプレチルト角度αで配向している。
【0090】
本実施の形態における光偏向素子400においては、第1の液晶素子部401は、第1の透明基板411、透明導電膜412、配向膜451、液晶層441、配向膜452、透明導電膜413、第2の透明基板414により構成されており、第2の液晶素子部402は、第2の透明基板414、透明導電膜415、配向膜453、液晶層442、配向膜454、透明導電膜416、第3の透明基板417により構成されている。尚、給電電極421aと給電電極423aには同じ電位が印加され、給電電極421bと給電電極423bには同じ電位が印加され、給電電極422aと給電電極424aには同じ電位が印加され、給電電極422bと給電電極424bには同じ電位が印加されている。
【0091】
本実施の形態における光偏向素子400では、光偏向素子400に対し斜め方向より入射する光の入射角度依存性を相殺することができるため、発散光や収束光となる光の光路に配置された場合においても、平行光が垂直に入射した場合と同様の光偏向特性を得ることができる。図12は、光偏向素子400のXZ面における断面図であり、光偏向素子400に対し収束光が入射する光の様子を模式的に示したものである。尚、給電電極422b及び424bには電位Vが印加されており、給電電極422a及び424aには電位Vが印加されており、給電電極421a、421b、423a及び423bが、0Vの電位が印加されているものとする。尚、V≦V<V≦Vである。
【0092】
このとき、図12に示されるように、給電電極422bが設けられている側から給電電極422aが設けられている側に向かって、液晶層441の液晶分子441aは反時計回りに透明基板411等の基板面に対する傾斜角は増大する。一方、給電電極424bが設けられている側から給電電極424aが設けられている側に向かって、液晶層442の液晶分子442aは時計回りに透明基板411等の基板面に対する傾斜角は増大する。光偏向素子400に入射する光の中心における光線460aは、給電電極422aと給電電極422bとの中心、及び、給電電極424aと給電電極424bとの中心を通るものとすると、第1の液晶素子部401におけるセルギャップと第2の液晶素子部402におけるセルギャップとが等しい場合には、透明基板411等の基板面に対し略垂直方向より入射する光線460aでは、光線460aに対する液晶分子441a及び442aの傾きは等しく、液晶層441における光路長と液晶層442における光路長とは等しい。
【0093】
これに対し、透明基板411等の基板面に対し斜め方向より入射した光線460bでは、光線460bが通過する領域における液晶分子441aと液晶分子442aとの傾きは異なり、液晶層441における光路長と液晶層442における光路長とは異なる。尚、光線460bの偏光方向は、光線460bの進行方向に対して略直交する方向であり、後述する光線460cの偏光方向も、光線460cの進行方向に対して略直交する方向であり、光線460aの偏光方向に対して傾いた方向に相当する。即ち、液晶層441における光線460bの光路長に対し、光線460bの進行方向に対してより垂直に近い液晶分子442aの配向方向となる液晶層442における光路長が長くなる。また、透明基板411等の基板面に対し斜め方向より入射した光線460cでは、光線460cが通過する領域における液晶分子441aと液晶分子442aとの傾きは異なり、液晶層441における光路長と液晶層442における光路長とは異なる。即ち、液晶層442における光線460cに対し、光線460cの進行方向に対してより垂直に近い液晶分子441aの配向方向となる液晶層441における光路長が長くなる。
【0094】
ここで、斜めから入射する光線460bと光線460cの光路長と、光線460bの近傍および光線460cの近傍で、光偏向素子400に垂直(Z軸方向)に入射する光線(ここでは、垂直光線という。)の光路長と、を比べる。まず、光線460bは、液晶層441で、垂直光線よりも光路長が短く、液晶層442で、垂直光線よりも光路長が長くなる。そして、光線460cは液晶層441で、垂直光線よりも光路長が長く、液晶層442で、垂直光線よりも光路長が短くなる。その結果、第1の液晶素子部401あるいは第2の液晶素子部402のみを、収束光の光路中に配置した場合、発生する透過波面が収差の影響で球面波から逸脱し、光学素子40の入射端面の集光スポットが拡大する。しかし、第1の液晶素子部401と第2の液晶素子部402を積層した光偏向素子400では、液晶層441における光路長と液晶層442における光路長との大小関係を逆にすることができる。これにより光路長の補正を有効に行うことができ、収差の発生を抑制することができるため、光学素子40の入射端面に集光できる。このように、本実施の形態における液晶素子からなる光偏向素子400では、斜入射光であっても収差の発生が抑制されるため、SHG光をより安定して効率よく生成することができる。
【0095】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態及び第4の実施の形態と同様である。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
実施例1として、第2の実施の形態におけるレーザ光源装置について説明する。最初に、レーザ光源装置に用いられ、液晶素子とする光偏向素子30について、図3及び図4に基づき説明する。透明基板31a及び31bとして、厚さ約0.5mmの無アルカリガラスを用い、その表面にスパッタリングに表面抵抗率値が、1Ω/□のCr膜を成膜する。この後、成膜されたCr膜上にフォトレジストを塗布し露光装置による露光及び現像を行うことにより、給電電極36a、36b、37a及び37bが形成される部分に、レジストが残るようにレジストパターンを形成する。この後、エッチングを行うことにより、レジストパターンの形成されていない領域のCr膜を除去し、更に、レジストパターンを除去することにより、給電電極36a、36b、37a及び37bを形成する。
【0097】
次に、透明基板31a及び31bの表面にスパッタリングにより、表面抵抗率値が100kΩ/□の酸化スズ膜からなる透明導電膜32a及び32bを成膜する。透明導電膜32aは、給電電極36aと給電電極36bとが接続されるように成膜し、透明導電膜32bは、給電電極37aと給電電極37bとが接続されるように成膜することにより形成する。尚、給電電極36aと給電電極36bとの間隔Ly、給電電極37aと給電電極37bとの間隔Lxは、ともに1.1mmとなるように形成する。
【0098】
次に、透明導電膜32a及び32bの表面上に、ポリイミド膜を形成し、一軸方向に沿ってラビングによる配向処理を行い、配向膜33a及び33bを得る。この後、エポキシ樹脂からなるシール材35を透明基板31a及び31bに印刷し、熱圧着を行うことによりセルギャップGを有するセルを作製する。尚、シール材35の内部には、ガラスファイバスペーサを混入させることにより、セルギャップGを均一にする。本実施例では、セルギャップG=30μmとなるように作製されている。尚、給電電極36a、36b、37a及び37bの各々には交流電圧が供給できる電源70に接続される。
【0099】
次に、真空注入法により、屈折率異方性Δn=n−nが、0.24の液晶を、セルギャップ内の空隙に封入した後、封止剤により封止して液晶層34とし、光偏向素子30を得る。
【0100】
このようにして作製された光偏向素子30における液晶層34について、印加電圧Vとリタデーション値Rd={n(V)−n}との関係について、図5に基づき説明する。本実施例における液晶素子からなる光偏向素子では、リタデーション値の線形性が得られる範囲は、印加電圧V=1.2VrmsからV=2.0Vrmsの範囲であり、リタデーション値Δn×G=7.2μmの約2/3であるため、最大獲得リタデーション値(Rd−Rd)は約4.8μmとなる。
【0101】
この光偏向素子30にビーム径が1mmにコリメートされた波長1064nmのレーザ光を透明基板31a及び31bに垂直(Z軸方向に沿って)入射させて、給電電極36a、36b、37a及び37bに所定の電圧を印加する。
【0102】
このとき、給電電極36a及び36bを0電位とし、給電電極37aにV=1.2Vrms、周波数200Hzの矩形交流電圧を印加し、給電電極37bにV=2.0Vrms、周波数200Hzの矩形交流電圧を印加する。尚、給電電極37aと給電電極37bには同位相の矩形交流電圧を印加する。これにより、XZ面において、+Z軸方向に対して、+0.38°の偏向角度が得られる。また、給電電極37a及び37bに印加される電圧をV=1.2VrmsからV=2.0Vrmまでの範囲において調節することにより、XZ平面における偏向角度を約+0.38°から約−0.38°までの範囲で可変調節することができる。尚、XZ面及びYZ面における偏向角度の符号は、+X軸から+Z軸及び+Y軸から+Z軸に向かう角度を+(プラス)とする。
【0103】
同様に、給電電極37a及び37bを0電位とし、給電電極36aにV=1.2Vrms、周波数200Hzの矩形交流電圧を印加し、給電電極36bにV=2.0Vrms、周波数200Hzの矩形交流電圧を印加する。尚、給電電極36aと給電電極36bには同位相の矩形交流電圧が印加する。これにより、YZ面において、+Z軸方向に対して、+0.38°の偏向角度が得られる。また、給電電極36a及び36bに印加される電圧をV=1.2VrmsからV=2.0Vrmまでの範囲において調節することにより、YZ平面における偏向角度を約+0.38°から約−0.38°までの範囲で可変調節することができる。
【0104】
更に、給電電極36a、36b、37a、37bの全てに、周波数200Hzの矩形交流電圧を印加した場合、例えば、給電電極36aと給電電極36bに同位相の矩形交流電圧を印加し、給電電極37aと給電電極37bに同位相の矩形交流電圧を印加し、給電電極36a及び36bと給電電極37a及び37bとに印加される矩形交流の位相差を180°とする。このとき、透明導電膜32aと透明導電膜32bとにより液晶層34に印加される実効電圧が、V=1.2VrmsからV=2.0Vrmまでの範囲となるように、給電電極36a、36b、37a、37bに印加される交流印加電圧をV/2=0.6VrmsからV/2=1.0Vrmまでの範囲で調節した場合には、+Z軸方向に対して、任意の方向に約−0.38°から約+0.38°までの範囲で偏向角度を可変調節することができる。
【0105】
また、液晶層34の印加電圧に対するリタデーション値Rdにおいて、線形性が得られる範囲を印加電圧範囲としているため、光偏向素子30の出射偏向光の透過波面収差は、0.072λrms以下であり、回折限界の性能指標であるマレシャル基準の波面収差RMS値0.072λrmsの範囲内であるため、集光レンズの開口数NAと波長により定まる光スポットに集光させることができる。
【0106】
次に、本実施例におけるレーザ光源装置について詳細に説明する。レーザ光源10は、GaAs基板にレーザ活性層となるGaAsIn層を結晶成長させることにより形成されており、その上部または下部に回折格子を設けることにより1064nmの波長が選択的に反射されてレーザ発振する分布帰還型半導体レーザとする。
【0107】
このレーザ光源10より出射された光を開口数NA=0.65の第1の集光レンズ121に入射させることにより光束径φ=1mmの平行光とし、前述した光偏向素子30に略垂直に入射させる。光偏向素子30を透過した光は開口数NA=0.20の第2の集光レンズ122に入射させることにより、第2の集光レンズ122からの出射光は、光学素子40の入射端面に集光される。また、光学素子40は、ニオブ酸リチウム(LiNbO)結晶からなるSHGであり、チャネル光導波路41が形成されているものである。第2の集光レンズ122により集光された光は、チャネル光導波路41の入射端面に集光される。光学素子40においては、波長が1064nmの光を波長が532nmのSHG光に高効率に波長変換するため、チャネル光導波路41の断面は4μm×4μmの矩形形状のチャネル光導波路構造が形成されており、周期的ドメイン反転構造を有する擬似位相整合波長変換素子となるものである。
【0108】
レーザ光源10からの出射光は、第1の集光レンズ121及び第2の集光レンズ122により、光学素子40のチャネル光導波路41の入射端面近傍において、スポット径が約3.3μmの集光スポットとして集光される。ここで、チャネル光導波路41の光が入射する端面となるXY面において、チャネル光導波路41の中心と集光スポットの中心とにおいて位置ズレが生じた場合には、液晶素子からなる光偏向素子30の給電電極36a、36b、37a及び37bに印加される電圧を調整することにより、前述したように、+Z軸方向に対して任意の方向に、約−0.38°から約+0.38°までの範囲において偏向角度を可変調節することができる。
【0109】
これにより光スポットの位置ズレを補正して、チャネル光導波路41の中心に集光スポットの中心が位置するように位置合せを行うことができる。より具体的に説明すると、第2の集光レンズ122は開口数NA=0.20であり、入射する平行光は光束直径φ=1.0mmであるため、(1)に示される式に基づき、光偏向素子30における界面での屈折を考慮すると、光偏向素子30による集光スポットの可変移動量はXY面における任意の方向に対して、約16.6μmとなる。従って、本実施例では、レーザ光源装置の組立調整時または経時変化等により生じる集光スポットの約16μm以下の位置ズレは、光偏向素子30を用いることにより補正することが可能である。
【0110】
また、本実施例に基づく光偏向素子30を、図8に示される第3の実施の形態のレーザ光源装置に用い、波長が532nmのSHG変換光の光強度を光検出器251により検出し、給電電極36a、36b、37a及び37bに印加する電圧を制御部260により制御する。このとき、液晶素子からなる光偏向素子30においては、液晶層34のリタデーション値Rdは、温度変化に伴い変化するため、上述した制御を行うことにより、より正確に光学素子40に入射する光の光スポットの位置ズレの補正を行うことができる。
【0111】
(実施例2)
次に、実施例2として第5の実施の形態におけるレーザ光源装置について、図11及び図12に基づき説明する。
【0112】
本実施例における光偏向素子400は、実施例1における光偏向素子30と同様の構造のものを積層したものであり、第1の液晶素子部401と第2の液晶素子部402とを有している。第1の液晶素子部401における液晶層441の液晶分子441aは、第1の透明基板411等の基板面に対しプレチルト角度αが反時計回りに約2°となるように、配向膜451及び452に配向処理がなされている。また、第2の液晶素子部402における液晶層442の液晶分子442aは、第2の透明基板414等の基板面に対しプレチルト角度αが時計回りに約2°となるように、配向膜453及び454に配向処理がなされている。
【0113】
第1の透明基板411、第2の透明基板414、第3の透明基板417は、厚さ約0.5mmの無アルカリガラスにより形成されている。光偏向素子400は、開口数NAが0.20の収束光の光路中に配置されることを想定して作製されたものであり、第1の液晶素子部401における給電電極421aと給電電極421bとの間隔Ly、給電電極422aと給電電極422bとの間隔Lxは、1.10mmで形成されており、第2の液晶素子部402における給電電極423aと給電電極423bとの間隔Ly、給電電極424aと給電電極424bとの間隔Lxは、0.97mmで形成されている。尚、第1の液晶素子部401及び第2の液晶素子部402におけるセルギャップGは、ともに20μmである。上記以外の内容については、実施例1と同様である。
【0114】
本実施例における光偏向素子400における液晶層441及び442における印加電圧にとリタデーション値Rdとの関係は、図5に示されるようなものであり、線形性が得られる範囲の最大獲得リタデーション値(Rd−Rd)は、約3.2μmとなる。
【0115】
この光偏向素子400に第1の透明基板411側から波長が1064nmでNAが0.20の収束光を、その主軸が垂直となるように入射させる。この際、液晶層441はビーム径が1.00mmとなる位置に、液晶層442はビーム径が0.87mmとなる位置に配置されている。
【0116】
例えば、給電電極421a、421b、423a、423bを0電位とし、給電電極422a、424aにV=1.2Vrms、給電電極422b、424bにV=2.0Vrmsの周波数200Hzの同位相の矩形交流電圧を印加する。これにより、XZ面において+Z軸方向に対して約+0.68度の偏向角度が得られる。また、給電電極422a、424a及び給電電極422b、424bに印加される電圧をV=1.2VrmsからV=2.0Vrmsの範囲において調整することにより、XZ面における偏向角度を約−0.68度から約+0.68度までの範囲で可変調整することができる。
【0117】
同様に、給電電極422a、422b、424a、424bを0電位とし、給電電極421a、423aにV=1.2Vrms、給電電極421b、423bにV=2.0Vrmsの周波数200Hzの同位相の矩形交流電圧を印加する。これにより、YZ面において+Z軸方向に対して約+0.68度の偏向角度が得られる。また、給電電極421a、423a及び給電電極421b、423bに印加される電圧をV=1.2VrmsからV=2.0Vrmsの範囲において調整することにより、YZ面における偏向角度を約−0.68度から約+0.68度までの範囲で可変調整することができる。
【0118】
更に、給電電極421a、421b、422a、422b、423a、423b、424a、424bの全てに、周波数200Hzの矩形交流電圧を印加した場合、例えば、給電電極421a及び423aと給電電極421b及び423bに同位相の矩形交流電圧を印加し、給電電極422a及び424aと給電電極422b及び424bに同位相の矩形交流電圧を印加し、給電電極421a、423a、421b及び423bと給電電極422a、424a、422b及び424bとに印加される矩形交流の位相差を180°とする。このとき、透明導電膜412と透明導電膜413とにより液晶層441に印加される実効電圧及び透明導電膜415と透明導電膜416とにより液晶層442に印加される実効電圧をV=1.2VrmsからV=2.0Vrmまでの範囲となるように、給電電極421a、423a、421b、423b、422a、424a、422b及び424bに印加される交流印加電圧をV/2=0.6VrmsからV/2=1.0Vrmまでの範囲で調節した場合においては、+Z軸方向に対して、任意の方向に、約−0.68度から約+0.68度の範囲で可変調節することができる。
【0119】
次に、レーザ光源装置について詳細に説明する。本実施例におけるレーザ光源装置は、図8に示される第3の実施の形態におけるレーザ光源装置において、第5の実施の形態における光偏向素子400を用いた構造のものである。即ち、集光レンズ20により、レーザ光源10より出射された波長1064nm、開口数NA=0.65の発散光11が開口数NA=0.20の集束光12に変換され、光偏向素子30に代えて設置された光偏向素子400を透過し、光学素子40の入射端面に光が集光されるものである。集光レンズ20の光出射面における光束径φ=1.2mmの収束光12が、光偏向素子400に入射した場合、液晶層441におけるビーム径は1.0mmとなり、液晶層442におけるビーム径は0.87mmとなる。
【0120】
チャネル光導波路41の光の入射端面となるXY面において、チャネル光導波路41の中心と集光スポットの中心とにおいて位置ズレが生じた場合には、液晶素子からなる光偏向素子400の給電電極421a、421b、422a、422b、423a、423b、424a及び424bに印加される電圧を調整することにより、前述したように、+Z軸方向に対して任意の方向に、約−0.68度から約+0.68度までの範囲において偏向角度を可変調節することができる。これにより光スポットの位置ズレを補正して、チャネル光導波路41の中心に集光スポットの中心が位置するように位置合せを行うことができる。
【0121】
より具体的に説明すると、液晶層441における給電電極421a、421b、422a及び422bに印加される電圧に応じた偏向角度変化と、液晶層442における給電電極423a、423b、424a及び424bに印加される電圧に応じた偏向角度変化と、光偏向素子400の空気との界面における屈折により、光偏向素子400による集光スポット可変移動量は、XY面における任意の方向に対して、約27.4μmとなる。従って、本実施例では、レーザ光源装置の組立調整時または経時変化等により生じる集光スポットの約27μm以下の位置ズレは、光偏向素子400を用いることにより補正することが可能である。
【0122】
尚、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0123】
10 レーザ光源
11 発散光
12 収束光
20 集光レンズ
30 光偏向素子
31a、31b 透明基板
32a、32b 透明導電膜
33a、33b 配向膜
34 液晶層
34a 液晶分子
35 シール材
36a、36b 給電電極
37a、37b 給電電極
40 光学素子
41 チャネル光導波路
50 赤外カットフィルタ
60 筐体
70 電源
NA 開口数
NA 開口数
W 光路長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源から発射するレーザ光を集光する集光レンズ部と、前記レーザ光を偏向する光偏向素子と、前記集光レンズ部により集光された前記レーザ光を伝搬する光学素子を有するレーザ光源装置であって、
前記光偏向素子は、液晶素子、音響光学素子、電気光学素子のいずれかにより形成されており、前記光偏向素子に印加される電圧によって生じる電位分布に応じて前記レーザ光が前記光学素子に集光する方向を偏向するレーザ光源装置。
【請求項2】
前記集光レンズ部は、単一の集光レンズであり、前記集光レンズと前記光偏向素子とは、この順に前記レーザ光が入射するように備えられた請求項1に記載のレーザ光源装置。
【請求項3】
前記集光レンズ部は、第1の集光レンズと第2の集光レンズを有し、前記光偏向素子は前記第1の集光レンズと前記第2の集光レンズとの間の光路中に備えられた請求項1に記載のレーザ光源装置。
【請求項4】
前記光偏向素子は、透明導電膜および配向膜が備えられた一対の透明基板によって挟持された少なくとも1つの液晶層を有する液晶素子であって、
一対の前記透明導電膜の一方または双方に電位勾配を与えて、前記液晶層に印加される電圧によって生じる電位分布に応じて前記レーザ光が前記光学素子に集光する方向を偏向する請求項1から3のいずれかに記載のレーザ光源装置。
【請求項5】
前記光偏向素子は、複数の前記液晶素子が積層されている請求項4に記載のレーザ光源装置。
【請求項6】
前記光偏向素子は、第1の液晶素子部と第2の液晶素子部とを有しており、
前記第1の液晶素子部は、前記レーザ光を前記レーザ光の入射光の光軸に対し垂直方向となる一方の方向に光を偏向させるものであり、
前記第2の液晶素子部は、前記レーザ光を前記レーザ光の入射光の光軸に対し垂直方向となる他方の方向に光を偏向させるものであって、
前記一方の方向と前記他方の方向は垂直である請求項5に記載のレーザ光源装置。
【請求項7】
前記光偏向素子は、第1の液晶素子部と第2の液晶素子部とを有しており、
前記光偏向素子を形成している基板に対する前記第1の液晶素子部における液晶層の液晶分子のプレチルト角度の向きと、前記光偏向素子を形成している基板に対する前記第2の液晶素子部における液晶層の液晶分子のプレチルト角度の向きとは、相互に逆となるものである請求項5に記載のレーザ光源装置。
【請求項8】
前記光学素子は、導波路構造を有する光学素子であって、
前記光学素子から前記レーザ光が出射される請求項1から7のいずれかに記載のレーザ光源装置。
【請求項9】
前記光学素子はSHGである請求項8に記載のレーザ光源装置。
【請求項10】
前記光学素子より出射される前記レーザ光の一部を受光する光検出器と、
前記光検出器により検出された前記レーザ光の光量に基づき前記光学素子に印加される電圧の制御を行う制御部と、
を有する請求項8または9に記載のレーザ光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−128276(P2012−128276A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280983(P2010−280983)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】