説明

レーザ共振器

【課題】複数のAO−Qスイッチを直列に並べてレーザ発振のON/OFF(Hold−off)の性能を向上させることができ、かつAO−Qスイッチの切り替えの過渡期に、発生するレーザ光のビームプロファイルを均一化できるレーザ共振器を提供する。
【解決手段】直線偏光のレーザ光を増幅するレーザ発振器であって、レーザ光の光路11上に配置され、交互に直交する回折方向を有する1対又は複数対のAO−Qスイッチ12A,12Bと、対のAO−Qスイッチの間に位置し偏光面を90°回転させる偏光回転素子14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hold−off性能を向上させるためのレーザ共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率のレーザ共振器として、例えば特許文献1〜3が既に提案されている。
【0003】
特許文献1の「レーザ共振器」は、高効率で波長変換されたレーザ光を得ることを目的とする。
そのため、このレーザ共振器は、図5に示すように、レーザ媒質50aおよびレーザ媒質を励起する励起光源50bを有する励起装置50と、励起装置50から互いに反対方向に出射される基本波をそれぞれ反射する第1および第2の反射鏡51,52と、第1および第2の反射鏡51,52により反射された基本波をそれぞれ折り返し反射して励起装置を通して往復させる第3および第4の反射鏡53,54と、第1と第3の反射鏡51,53との間および第2と第4との反射鏡52,54の間に設けられ、基本波の一部を変換して基本波と異なる波長の変換波を出射する第1および第2の非線形光学媒質56,57とから成り、第1乃至第4の反射鏡51,52,53,54は、基本波を反射すると共に第1および第2の非線形光学媒質56,57から出射された変換波を透過する波長分離手段でなるものである。
【0004】
特許文献2の「レーザ共振器及びその組立方法」は、波長変換素子をレーザ光の焦点位置に好適に配置し得ることを目的とする。
そのため、このレーザ共振器は、図6に示すように、レーザ媒質64からレーザ光を出射してレーザ光の焦点位置に基準点を定める基本光学系に、像転写光学系を付加するレーザ共振器67であって、像転写光学系は、レーザ光の基準点から複数のレンズ60,61の焦点距離f1,f2を用いて像転写の投影点を決定する像転写レンズ手段を備え、投影点には、レーザ光の波長を変更し得る波長変換素子66を配置して構成されるものである。
【0005】
特許文献3の「レーザ発振器」は、所望のパルス幅のレーザ光を出力できることを目的とする。
そのため、このレーザ発振器は、図7に示すように、レーザ媒質71を挟んで設けられる一対のミラー73,74からなる光共振器76と、この光共振器76内に励起されるレーザ光をスイッチングするQスイッチ72と、光共振器76内に配置されて光共振器76内に励起された所定位置の光の像を所定距離離れた位置に転写して光共振器76の共振器長を調整する像転写光学系70とを具備するものである。
【0006】
【特許文献1】特開2000−216465号公報、「レーザ共振器」
【特許文献2】特開2005−45174号公報、「レーザ共振器及びその組立方法」
【特許文献3】特開2005−72131号公報、「レーザ発振器」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1は、Q−スイッチとしてAO−Qスイッチを用いたレーザ共振器の従来例である。このレーザ共振器1は、終端ミラー2と出力ミラー3の間にレーザ媒体4(例えばNd:YAG等)を配置し、レーザ媒体4と出力ミラー3の間に複数(図で2台)のAO−Qスイッチ5を配置している。
すなわち、レーザ発振のON/OFF(Hold−off)の性能を向上させる手段として、この例では2台のAO−Qスイッチ5を直列に並べている。なおこの図で6は出力レーザであり、Q−スイッチを用いる場合にはパルスレーザ光である。
【0008】
図2は、AO−Qスイッチ5の作動説明図である。AO−Qスイッチ5は、音響光学効果(Acusto Optical effect)を利用したQスイッチであり、音響光学効果を有する媒体(石英など)に超音波aを伝播させると、一種の回折格子として入射レーザ7をある角度(回折角)で回折反射し、超音波を停止すると直進させる特性を利用するものである。回折反射光8を「1次回折光」、直進光9を「0次光」と呼ぶ。
【0009】
AO−Qスイッチ5は媒体の1側面にピエゾ素子等を貼り付けた構造である。すなわち、Qスイッチとして、ピエゾ素子に電圧を印加して超音波aを伝播させ入射レーザを回折反射する状態がOFFであり、電圧印加を中止し入射レーザを直進させる状態がONである。
【0010】
図3は、AO−Qスイッチ5の回折光8によるレーザへの影響を示す説明図である。
上述したように、AO−Qスイッチ5は入射レーザ光7を特定の方向に回折させることによりHold−offを行っているが、Hold−offを切ってレーザが発振を開始するときには過渡状態であるため回折光8が残留しており、これがレーザ発振に影響を与える。すなわち、回折光8は回折方向の平面8a上にあり、その回折方向が不均等であるためレーザ光に不均等な影響を与え、ビームプロファイル形状(強度分布)の不均一化の原因になる。
【0011】
そのため、図1のように、複数(2台)のAO−Qスイッチ5を直列に並べると、AO−Qスイッチ5のHold−offを切ってレーザが発振を開始する際の過渡状態における回折光の影響がさらに大きくなり、ビームプロファイル形状(強度分布)が不均一になりすぎる問題点があった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。
すなわち、本発明の目的は、複数のAO−Qスイッチを直列に並べてレーザ発振のON/OFF(Hold−off)の性能を向上させることができ、かつAO−Qスイッチの切り替えの過渡期に、発生するレーザ光のビームプロファイルを均一化できるレーザ共振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、直線偏光のレーザ光を増幅するレーザ発振器であって、
前記レーザ光の光路上に配置され、交互に直交する回折方向を有する1対又は複数対のAO−Qスイッチと、
該対のAO−Qスイッチの間に位置し偏光面を90°回転させる偏光回転素子とを備える、ことを特徴とするレーザ発振器が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の構成によれば、直線偏光のレーザ光を増幅するレーザ発振器の場合に、1対又は複数対のAO−Qスイッチが交互に直交する回折方向を有し、その間に偏光面を90°回転させる偏光回転素子を備えるので、Qスイッチ間に配置した偏光回転素子により両方のQスイッチ素子に対して最適な偏光方向でレーザ光を入射させることができる。これにより、直交する2方向に対して均等に回折が起こり、ビームプロファイル形状(強度分布)を直交する2方向に均一化できる。
【0015】
従って、複数のAO−Qスイッチを直列に並べてレーザ発振のON/OFF(Hold−off)の性能を向上させることができ、かつAO−Qスイッチの切り替えの過渡期に、発生するレーザ光のビームプロファイルを均一化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0017】
図4は、本発明によるレーザ共振器の実施形態図である。この図において、本発明のレーザ共振器10は、直線偏光のレーザ光を増幅するレーザ発振器である。
このレーザ共振器10は、対のAO−Qスイッチ12A,12Bと、偏光回転素子14と、図示しないレーザ媒体と1対の反射ミラーを備える。対のAO−Qスイッチ12A,12Bは、この例では、1対(2台)であるが、複数対であってもよい。
以下、AO−Qスイッチが1対の場合を説明する。
【0018】
レーザ媒体(図示せず)は、例えばNd:YAG等の固体レーザ媒体であり、図示しない励起源により励起され レーザ光を出射する。このレーザ光は、出射時点から直線偏光であるのが好ましい。しかし、偏光フィルタ等を用いて円偏光を直線偏光に変換してもよい。
【0019】
1対の反射ミラー(図示せず)は、全反射ミラーと半反射ミラーからなり、その間にレーザ媒体を軸方向に挟んで設けられ、その間で直線偏光のレーザ光を往復させて光共振によりレーザ光を増幅し、半反射ミラーを透してレーザ光を外部に出射するようになっている。
【0020】
図4において、1対のAO−Qスイッチ12A,12Bは、レーザ光の光路11上に配置され、交互に直交する回折方向bを有する。なお、cは各Qスイッチの最適な偏光方向であり、それぞれ回折方向bに対し、直交する。また、X、Yは各Qスイッチを通過する直線偏光の偏光方向を示している。この偏光方向X、Yは、それぞれ各Qスイッチの最適な偏光方向cと一致する。
【0021】
また、偏光回転素子14は、例えば1/2波長板であり、1対のAO−Qスイッチ12A,12Bの間に位置し、通過する直線偏光の偏光方向(偏光面)を90°回転させるようになっている。
【0022】
上述した実施形態の構成により、図で偏光方向Yの直線偏光がこれと同一の偏光方向cに最適なAO−Qスイッチ12Aを通過し、偏光回転素子14により偏光面を90°回転して偏光方向Xの直線偏光となり、次いで偏光方向Xの直線偏光がこれと同一の偏光方向cに最適なAO−Qスイッチ12Bを通過する。
また、図示しないレーザ媒体と1対の反射ミラーにより、その間で直線偏光のレーザ光を往復させて光共振によりレーザ光を増幅し、半反射ミラーを透してレーザ光を外部に出射する。
【0023】
従って、1対のAO−Qスイッチ12A,12B間に配置した偏光回転素子14により両方のQスイッチ素子に対して最適な偏光方向でレーザ光を入射させることができ、かつ直交する2方向X、Yに対して均等に回折が起こり、ビームプロファイル形状(強度分布)を直交する2方向X、Yに均一化できる。
【0024】
上述したように、本発明の実施形態によれば、複数のAO−Qスイッチを直列に並べてレーザ発振のON/OFF(Hold−off)の性能を向上させることができ、かつAO−Qスイッチの切り替えの過渡期に、発生するレーザ光のビームプロファイルを均一化できる。
【0025】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】AO−Qスイッチを用いたレーザ共振器の従来例である。
【図2】AO−Qスイッチ5の作動説明図である。
【図3】AO−Qスイッチ5の回折光8によるレーザへの影響を示す説明図である。
【図4】本発明によるレーザ共振器の実施形態図である。
【図5】特許文献1の「レーザ共振器」の模式図である。
【図6】特許文献2の「レーザ共振器」の模式図である。
【図7】特許文献3の「レーザ発振器」の模式図である。
【符号の説明】
【0027】
10 レーザ共振器、11 レーザ光の光路、
12A,12B AO−Qスイッチ、14 偏光回転素子(1/2波長板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光のレーザ光を増幅するレーザ発振器であって、
前記レーザ光の光路上に配置され、交互に直交する回折方向を有する1対又は複数対のAO−Qスイッチと、
該対のAO−Qスイッチの間に位置し偏光面を90°回転させる偏光回転素子とを備える、ことを特徴とするレーザ発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−238983(P2009−238983A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82510(P2008−82510)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】