説明

レーザ剥離装置、レーザ剥離方法、III族窒化物半導体自立基板の製造方法

【課題】レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を下地基板から剥離する際に、III族窒化物半導体膜の破損を抑制する。
【解決手段】サファイア基板11と、サファイア基板11上に設けられているGaN膜12と、を含むサファイア/GaN構造体Wから、レーザ照射によりGaN膜12を剥離するレーザ剥離装置であって、サファイア/GaN構造体Wを、GaN膜12が下方または側方に向いた状態で、GaN膜12表面に接触することなく保持する基板保持台14と、サファイア/GaN構造体Wに対してレーザを照射するレーザ照射部と、を備えるレーザ剥離装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ剥離装置、レーザ剥離方法、III族窒化物半導体自立基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)を用いた半導体デバイスを作製するにあたっては、成長させるエピタキシャルGaN層と同じ物質のバルクGaN結晶からなる基板を用いることが望ましい。GaN系結晶のバルク結晶作製の試みは多くの研究機関で行なわれている。しかしながら、GaNのような結晶では、窒素の解離圧が高いことにより、大きな面積のウェハを得ることが難しく、不純物も多いために工業的に利用できるGaN系バルク結晶の作製は非常に困難であった。
【0003】
このため、GaN半導体基板を製造するには、まず、サファイア(Al23)基板上に、MOCVD装置を用いてGaN薄膜(膜厚約2μm)を形成し、このGaN薄膜上に、HVPE装置を用いてGaN膜(膜厚約400μm)を成長させ、Al23−GaN複合基板材料(以下、適宜サファイア/GaN構造体とする)を得た後、サファイア/GaN構造体からGaN膜を分離することで半導体デバイス作成用のGaN半導体基板を作製している。
【0004】
サファイア/GaN構造体からGaN膜を分離する従来の方法としては、特許文献1に記載の方法が挙げられる。この方法では、図9に示す通り、ホットプレート53上にGaN膜52側が下(サファイア基板51側が上)となるようにサファイア/GaN構造体Wを載置する。そして、ホットプレート53を800℃程度に昇温して、GaN膜52を加熱しながらサファイア基板51側からレーザ光LBを照射する。このとき、図示しない駆動装置により、レーザ光源あるいはサファイア/GaN構造体Wを保持する手段が、サファイア基板51の水平面内を相対的に縦横に移動することで、レーザ光LBは、サファイア/GaN構造体Wに隈なく照射される。
【0005】
レーザ光LBとしては、波長が355nmのYAGレーザを用いる。この355nmの波長を有するレーザ光LBは、サファイア基板51を透過してGaN膜52で吸収される。また、レーザ光LBの出力は、サファイア基板51とGaN膜52との界面近傍のGaN膜52を、ガリウム(Ga)と窒素(N)とに分解する温度に上昇させる強度に設定されている。このため、ホットプレート53およびレーザ光LBによる加熱により、サファイア基板51とGaN膜52との界面近傍のGaN膜52が熱分解する。その結果、GaN膜52は、サファイア基板51から剥離する。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、サファイア基板51からGaN膜52を剥離する過程で、GaN膜52が破損しやすかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−57119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記のようにGaN膜が破損しやすい原因を検討したところ、特許文献1に記載の方法は、以下の課題を有することを見出した。
【0009】
第一に、特許文献1に記載の方法では、サファイア/GaN構造体Wの設置態様は、GaN膜52が下であることから、GaN膜52がサファイア基板51の重量を支えることになる。このとき、GaN膜52のサファイア基板51からの剥離が進行する過程で、GaN膜52が支えるサファイア基板51の荷重の支点、すなわち剥離領域SAと未剥離領域の境が刻々と変化するので、それに伴い局所的に応力状態が不安定となりやすく、GaN膜52の破損が生じやすい。
【0010】
第二に、特許文献1に記載の方法では、サファイア/GaN構造体WをGaN膜52の成長温度近傍まで昇温すると、GaN膜52の表面が熱分解しやすい。このため、剥離条件として理想的であるGaN膜52の成長温度近傍に昇温することは困難である。そのため、不充分な温度で剥離を行うことになり、サファイア基板51からGaN膜52を剥離する際に、無理な力がGaN膜52に加わりやすいので、GaN膜52が破損しやすい。
【0011】
第三に、特許文献1に記載の方法では、サファイア/GaN構造体Wは、GaN膜52側が凸となるように反りがあることから、ホットプレート53上で加熱される際に、ホットプレート53に接触する箇所と隙間が生じる箇所とができ、温度斑(温度分布のむら)が生じてしまうことがある。そして、サファイア/GaN構造体Wに温度斑が生じると、レーザ光LBの照射によってGaN膜52のサファイア基板51からの剥離が進行する間に、サファイア基板51が、それまでのGaN膜52側への凸形状から凹形状に変形して温度斑がさらに拡大する。このため、GaN膜52の剥離がスムーズに行われにくく、GaN膜52の破損を招く場合がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を下地基板から剥離する際に、III族窒化物半導体膜の破損を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、下地基板と、下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離装置であって、構造体を、III族窒化物半導体膜が下方または側方に向いた状態で、III族窒化物半導体膜に接触することなく保持する基板保持部と、構造体の表面に対してレーザを照射するレーザ照射部と、を備えるレーザ剥離装置を提供することができる。
【0014】
この構成によれば、III族窒化物半導体膜が剥離する過程で、III族窒化物半導体膜は自身の荷重を支えるが、下地基板の荷重をほとんど支えなくて済む。このため、III族窒化物半導体膜のうち剥離領域と未剥離領域の境にある荷重支持点において、応力集中が発生することを抑制することができ、III族窒化物半導体膜が破損する可能性を低減できる。
【0015】
また、本発明によれば、下地基板と、下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離装置であって、容器と、容器内に窒素含有ガスを充填する窒素ガス供給部と、容器内に設けられており、構造体を保持する基板保持部と、構造体に対してレーザを照射するレーザ照射部と、を備えるレーザ剥離装置を提供することができる。
【0016】
この構成によれば、容器内に窒素含有ガスを充填した状態で、レーザ照射された箇所以外でのIII族窒化物半導体膜表面の分解反応を抑制しつつ昇温することが可能になることから、構造体の反りを低減してIII族窒化物半導体膜に作用する応力を低減することができる。このため、III族窒化物半導体膜が破損する可能性は低減される。
【0017】
また、本発明によれば、下地基板と、下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離装置であって、構造体を保持する基板保持部と、構造体から離れた位置に設けられており、構造体を加熱するヒータと、構造体に対してレーザを照射するレーザ照射部と、を備えるレーザ剥離装置を提供することができる。
【0018】
この構成によれば、上記構造体を全体的に加熱しているため、構造体を熱伝導により加熱する場合に比べて、構造体が均一に昇温される。このため、レーザの照射個所で確実に剥離が生じる。その結果、レーザの照射個所の移動により、剥離領域が拡大する途中で、III族窒化物半導体膜の破損が生じることを抑制できる。
【0019】
また、本発明によれば、下地基板と、下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離方法であって、構造体を、III族窒化物半導体膜が下方または側方に向いた状態で、III族窒化物半導体膜表面に接触することなく保持する工程と、構造体に対してレーザを照射する工程と、構造体からIII族窒化物半導体膜を剥離する工程と、を含むレーザ剥離方法を提供することができる。
【0020】
この方法によれば、III族窒化物半導体膜が剥離する過程で、III族窒化物半導体膜は自身の荷重を支えるが、下地基板の荷重をほとんど支えずに済む。このため、III族窒化物半導体膜のうち剥離領域と未剥離領域の境にある荷重支持点において、応力集中が発生することを抑制することができ、III族窒化物半導体膜が破損する可能性を低減できる。
【0021】
また、本発明によれば、下地基板と、下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離方法であって、構造体を保持する工程と、構造体の雰囲気ガスを窒素含有ガスに置換する工程と、構造体に対してレーザを照射する工程と、構造体からIII族窒化物半導体膜を剥離する工程と、を含むレーザ剥離方法を提供することができる。
【0022】
この方法によれば、容器内に窒素含有ガスを充填した状態で、レーザ照射された箇所以外でのIII族窒化物半導体膜表面の分解反応を抑制しつつ、上記構造体の反りを低減してIII族窒化物半導体膜に作用する応力を低減することができる。このため、III族窒化物半導体膜が破損する可能性は低減される。
【0023】
また、本発明によれば、下地基板と、下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離方法であって、構造体を保持する工程と、構造体とは離れた位置に設けられているヒータにより構造体を加熱する工程と、構造体に対してレーザを照射する工程と、構造体からIII族窒化物半導体膜を剥離する工程と、を含むレーザ剥離方法を提供することができる。
【0024】
この方法によれば、上記構造体を全体的に加熱しているため、構造体を熱伝導により加熱する場合に比べて、構造体が均一に昇温される。このため、レーザの照射個所で確実に剥離が生じる。その結果、レーザの照射個所の移動により、剥離領域が拡大する途中で、III族窒化物半導体膜の破損が生じることを抑制できる。
【0025】
なお、本発明において、下地基板とは、III族窒化物半導体膜の結晶成長の下地となる基板を意味するものとする。また、本発明において、構造体とは、1以上の膜構造を含む立体構造体を意味するものとする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、特定の方法により、下地基板とIII族窒化物半導体膜とを含む構造体に、レーザを照射するため、レーザ照射によりIII族窒化物半導体膜を下地基板から剥離する際に、III族窒化物半導体膜の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1に係るレーザ剥離装置の全体を模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態1に係るレーザ剥離装置に備わる基板保持部の上面図および断面図である。
【図3】実施形態2に係るレーザ剥離装置に備わる基板保持部の断面図である。
【図4】実施例1に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。
【図5】実施例2に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。
【図6】実施例3に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。
【図7】実施例4に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。
【図8】実施形態3に係るレーザ剥離装置の全体を模式的に示す断面図である。
【図9】従来公知のレーザ剥離方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明において、上記基板保持部は、下地基板の表面のうちIII族窒化物半導体膜が設けられていない領域において上記構造体を支持するように構成することができる。
【0029】
この構成によれば、III族窒化物半導体膜が剥離する過程で、III族窒化物半導体膜は下地基板の荷重を支えずに済むため、III族窒化物半導体膜が破損する可能性を低減できる。
【0030】
本発明において、上記レーザ剥離装置は、基板保持部の下部に設けられている緩衝材をさらに備えてもよい。
【0031】
この構成によれば、下地基板から剥離して落下したIII族窒化物半導体膜を、破損を抑制しつつ受け止めることができる。
【0032】
また、上記レーザ剥離方法は、上記構造体のうちIII族窒化物半導体膜の表面に、III族窒化物半導体膜の成長温度以上の耐熱温度を有する保護膜を形成する工程をさらに含んでもよい。
【0033】
この方法によれば、III族窒化物半導体膜の表面には保護膜が形成されているので、上記構造体をヒータまたはレーザ照射により昇温した場合にも、III族窒化物半導体膜表面の分解反応を抑制することができる。
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0035】
<実施形態1>
図1は、本実施形態に係るレーザ剥離装置の全体を模式的に示す断面図である。図2は、本実施形態に係るレーザ剥離装置に備わる基板保持部の上面図および断面図である。
【0036】
本実施形態に係るレーザ剥離装置1は、サファイア基板11(下地基板)上にGaN膜12(III族窒化物半導体膜)を形成したサファイア/GaN構造体W(図2(a))に、レーザ光LBを照射して、サファイア基板11からGaN膜12を剥離する構成となっている。なお、本実施形態において、サファイア/GaN構造体とは、サファイア基板上にGaN膜が形成されてなる立体構造体を意味するものとする。
【0037】
図1に示すように、レーザ剥離装置1は、架台2上のケース9内に、レーザ発振装置3、レーザ発振装置保持台4、基板保持部10、保持台駆動装置8、ミラー5、ミラー昇降装置6およびスリット7を配置した構成を有する。
【0038】
図2(b)は、基板保持部10の詳細構造を示す図である。図示したように、基板保持部10は、石英容器15を備える。この石英容器15内には、GaN膜12面を下方に向けた状態で、サファイア/GaN構造体Wのサファイア基板11部分のみを保持する基板保持台14が設けられている。石英製の蓋16(レーザ透過面)を除いた石英容器15の外周(側面および底面)を、ヒータ17、18(加熱手段)で覆っている。
【0039】
レーザ剥離装置1は、ヒータ17、18により、石英容器15全体を加熱する。また、レーザ剥離装置1は、ヒータ17、18により、GaN膜12を成長温度近傍に昇温するように加熱しながら、上方からレーザ光LBを照射できるように構成されている。
【0040】
また、GaN膜12の下方(基板保持台14の下方)には石英製の布または石英ウールからなる緩衝材19が設けられている。石英容器15内には熱電対20が設けられている。そして、GaN膜12の成長温度以上の耐熱性を有する保護膜13(二酸化珪素(SiO2)膜)が、GaN膜12表面にコーティングされている。
【0041】
GaN膜12の表面には保護膜13がコーティングされているが、後述するようにサファイア/GaN構造体WをGaN膜成長温度にまで昇温しない場合は、保護膜13を設けなくてもよい。
【0042】
本実施形態に係る剥離方法を、以下説明する。
【0043】
まず、基板保持台14に、GaN膜12面を下方に向けた状態で、サファイア基板11のみを保持するように、サファイア/GaN構造体Wをセットする。次に、ヒータ17、18で、石英容器15内を加熱し、サファイア/GaN構造体Wを800℃程度に昇温する。
【0044】
そして、レーザ発振装置3で波長355nmのレーザ光LBをサファイア/GaN構造体Wに照射する。このとき、駆動装置8で基板保持部10を水平面内で移動させてレーザ光LBをサファイア/GaN構造体W全体に隈なく照射する。このレーザ照射により、GaN膜12とサファイア基板11との界面近傍においてGaN膜12の熱分解が起こり、この結果、サファイア基板11からGaN膜12が剥離する。
【0045】
本実施形態に係る剥離方法による作用効果について、以下説明する。
【0046】
本実施形態では、基板保持台14は、サファイア基板11の表面のうちGaN膜12が設けられていない領域においてサファイア/GaN構造体Wを保持するように構成されている。このため、サファイア/GaN構造体WからGaN膜12が剥離する過程で、GaN膜12は、サファイア基板11の荷重をまったく支えずに済む。このため、荷重支持点(剥離領域SAと未剥離領域との境)に加わる応力が抑制され、GaN膜12の破損は抑制される。
【0047】
本実施形態では、図示しないガス供給手段により、石英容器15内にアンモニアガスをフローパージする。アンモニアガスをフローパージすることにより、温度を高温に上昇させた場合にGaN膜12の分解を抑制できる。このため、レーザ照射時のGaN膜12の温度を高温に上昇させることができるために、GaN膜12の反りを除去してGaN膜に作用する応力を低減することができる。その結果、GaN膜12の破損のおそれがさらに低くなる。したがって、剥離箇所以外のGaN膜12の表面の分解反応を抑制できるので、剥離後のGaN膜12の分解を抑制できる。
【0048】
本実施形態では、レーザ照射による剥離の際、サファイア/GaN構造体Wが全体加熱により均一に昇温される。このため、GaN膜12に温度斑ができにくく、局所的なひずみの発生を少なくできるため、GaN膜12の破損を抑制できる。
【0049】
また、本実施形態の方法は、上記の作用効果に加えて、以下のような作用効果も奏する。
本実施形態では、GaN膜12の下方(基板保持台14の下方)には、緩衝材19を配設しているので、剥離して落下したGaN膜12の破損を抑制しつつ受け止めることができる。
【0050】
このとき、実施例2で後述するように、GaN膜12がサファイア基板11から剥離する前は、緩衝材19の上面をGaN膜12表面と接触させる。また、GaN膜12がサファイア基板11から剥離した後は、緩衝材19の下方への弾性変形とサファイア基板11の上方への変形とにより、GaN膜12とサファイア基板11との間に僅かに隙間が生じる。このように緩衝材19を充填すれば、GaN膜12の剥離に伴う変形量が少なくなり、荷重支持点の応力を緩和できる。
【0051】
本実施形態では、GaN膜12の成長温度以上の耐熱性を有する保護膜13を、GaN膜12表面にコーティングする。このため、GaN膜12をその成長温度に昇温すると、反りを除去してGaN膜12に作用する応力を低減することができる。その結果、GaN膜12の破損のおそれがさらに低くなる。
【0052】
本実施形態では、剥離作業中のサファイア/GaN構造体Wは、実施例3において後述するように、GaN膜12の成長温度近傍に昇温されることが好ましい。
【0053】
その理由としては、GaN膜12の成長時には、サファイア基板11とGaN膜12との間に熱歪みが少ないためである。すなわち、GaN膜12の成長が終了し、その後の降温に伴いサファイア基板11とGaN膜12との熱膨張係数の差から熱歪みが大きくなる。このため、サファイア/GaN構造体WをGaN膜12の成長温度まで昇温すると、サファイア/GaN構造体Wを反りの少ない状態に戻すことができる。このため、GaN膜12のサファイア基板11からの剥離に伴ってGaN膜12に作用する応力を大幅に低減することが可能となる。
【0054】
もうひとつの理由としては、サファイア/GaN構造体WがGaN膜12の成長温度近傍まで達していると、低い出力のレーザ光でGaN膜12を容易に剥離することができるためである。
【0055】
本実施形態では、GaN膜12の表面は保護膜13がコーティングされているので、サファイア/GaN構造体Wを加熱しても、剥離箇所以外のGaN膜12表面の分解反応を抑制でき、剥離後の品質の低下が抑制される。保護膜13にSiO2を用いた場合は、剥離後にフッ酸溶液で除去すればよい。
【0056】
本実施形態では、サファイア/GaN構造体Wを、完全に水平に保持する必要はない。サファイア/GaN構造体Wを、水平から傾けた状態で保持すると、GaN膜12の荷重支持点における応力集中を緩和できる。
【0057】
<実施形態2>
図3は、本実施形態に係るレーザ剥離装置1に備わる基板保持部100の断面図である。基板保持部100の基本的な構成は、実施形態1の基板保持部10と共通しており、図3において同符号を用いて表しているので説明は省略する。
【0058】
基板保持部100では、レーザ透過面116に、アンモニアガスの導入口116aと排出口116bとを設け、基板保持台114にはパージガスがGaN膜12側へ行き渡るよう通気孔114aを設けている。なお、ガス導入口116aとガス排出口116bとは、レーザ透過面116以外の場所に設けても構わない。
【0059】
本実施形態でも、実施形態1の場合と同様に、ヒータ17、18で石英容器15内を加熱しサファイア/GaN構造体Wにレーザを照射すると、GaN膜12とサファイア基板11との界面で熱分解が発生し、サファイア基板11からGaN膜12が剥離する。このとき、サファイア/GaN構造体Wが均一に昇温されている。このため、レーザの照射個所で確実に剥離が生じる。その結果、レーザの照射個所の移動により、剥離領域が拡大する途中で、III族窒化物半導体膜の破損が生じることを抑制できる。
【0060】
また、本実施形態でも、実施形態1の場合と同様に、サファイア基板11上にGaN膜12を形成したサファイア/GaN構造体Wにレーザを照射して、サファイア基板11からGaN膜12を剥離するレーザ剥離装置1において、石英容器15内でGaN膜12面を下方に向けた状態で、サファイア/GaN構造体Wのサファイア基板11部分のみを保持し、石英容器15全体を加熱しながら上方からレーザ光を照射することで、サファイア基板11からGaN膜12を剥離する。
【0061】
このとき、サファイア基板11からGaN膜12が剥離する過程で、GaN膜12は、荷重支持点(剥離領域と未剥離領域の境)に集中する応力を低減でき、GaN膜12の破損を抑制できる。
【0062】
また、本実施形態では、アンモニアガスの導入口116aと排出口116bとを設けているため、石英容器15内をアンモニアガスによりフローパージすることができる。この状態で、GaN膜12の成長温度に昇温することにより、サファイア/GaN構造体Wの反りを除去することができる。このため、GaN膜12に作用する応力を低減することができ、破損のおそれをさらに抑制できる。このとき、アンモニアガスがパージされているので、剥離箇所以外のGaN膜12表面の分解反応を抑制できるため、剥離後のGaN膜12の品質の低下を抑制できる。
【0063】
<実施形態3>
図8は、本実施形態に係るレーザ剥離装置31の全体を模式的に示す断面図である。レーザ剥離装置31の基本的な構成は、実施形態1のレーザ剥離装置1と共通しているが、サファイア/GaN構造体Wを水平から傾けた状態で保持する特有の構成を備える点において異なっている。
【0064】
レーザ剥離装置31では、架台32上のケース58内に、レーザ発振装置33、レーザ発振装置保持台34、基板保持部35、保持台駆動装置(水平方向)36、保持台駆動装置(垂直方向)37が配置されている。基板保持部35の基板保持台(図示略)はサファイア/GaN構造体Wが倒れないように固定できるように構成されている。
【0065】
このレーザ剥離装置31によれば、サファイア/GaN構造体Wを垂直に保持して、サファイア基板11からGaN膜12を剥離するので、荷重支持点における応力集中を緩和できる。
【0066】
本実施形態でも、実施形態1と同様に、GaN膜12の成長温度以上の耐熱性を有する保護膜13をGaN膜12表面にコーティングし、GaN膜12の成長温度近傍に昇温すると、サファイア/GaN構造体Wの反りを除去することができる。このため、GaN膜12に作用する応力を低減することができるので、GaN膜12の破損のおそれがさらに低くなる。また、このとき、剥離箇所以外のGaN膜12表面の分解反応を抑制できるので、剥離後のGaN膜12の品質の低下を抑制できる。
【0067】
すなわち、本実施形態でも、実施形態1と同様に、サファイア/GaN構造体Wの温度を均一に昇温することができる。この際、GaN膜12に支持されるサファイア基板11の荷重を低減するので、剥離の際にGaN膜12の破損の生じる可能性が低減される。さらに、サファイア/GaN構造体WをGaN膜12の成長温度近傍まで昇温する際に、GaN膜12の品質の低下を抑制できる。その結果、剥離の際にGaN膜12の破損を抑制できる。
【0068】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0069】
たとえば、実施形態3のレーザ剥離装置31では、基板保持部35を垂直に配設しているが、レーザ発振装置保持台34および保持台駆動装置36、37を傾斜設置するなどして所定の角度に傾けた状態で配設してもよい。この構成によっても、サファイア/GaN構造体Wを水平から傾けた状態に保持して、サファイア基板11からGaN膜12を剥離するので、荷重支持点における応力集中を緩和できる。その結果、剥離後のGaN膜12の品質の低下を抑制できる。
【0070】
また、上記実施形態1では、サファイア/GaN構造体WをGaN膜12の成膜温度近傍にまで加熱したが、特に限定されず、後述する実施例1のように、GaN膜12の成膜温度よりも低い温度であっても、サファイア/GaN構造体WからGaN膜12を剥離できればかまわない。
【実施例】
【0071】
<実施例1>
実施形態1で説明したレーザ剥離装置1およびレーザ剥離方法を用いて、サファイア基板11上に250μmの厚さのGaN膜12が形成されたサファイア/GaN構造体Wから、GaN膜12を剥離した例について、図1、図2および図4を用いて説明する。
【0072】
図4は、本実施例に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。
【0073】
まず、サファイア/GaN構造体Wは、有機金属とアンモニア(NH3)を用いるMOCVD法と、ガリウム(Ga)および塩化水素(HCl)の反応による塩化ガリウム(GaCl)とアンモニア(NH3)とを用いるハイドライドVPE法とにより、サファイア基板11上に、1020℃の温度でGaN膜12をエピタキシャル成長して形成した。
【0074】
次いで、基板保持台14の底部に緩衝材19を挿入し、サファイア/GaN構造体WをGaN膜12面を下方に向けた状態(サファイア基板11面側が上方)で、基板保持台14に載置した。このとき、基板保持台14は、サファイア/GaN構造体Wのサファイア基板11部分のみを保持するようにした。サファイア/GaN構造体Wを載置した基板ホルダー14を、石英製容器15内に収納して、レーザ透過面(石英製の蓋)16を取り付けた。石英容器15を、ヒータ17、18で構成される電気炉内に収納した。
【0075】
ヒータ17、18でサファイア/GaN構造体W全体が850℃になるよう昇温した。昇温速度は850℃/25分間で行なった。石英容器15内の熱電対20の温度が安定した時点で、レーザ発振装置3で波長が355nmのレーザ光LBを発生させ、ミラー5で光軸を水平方向から垂直方向へと角度を変えて(図中、作図上の便宜のためにレーザ光LBの方向を変えて示していない。以下、同様である。)サファイア/GaN構造体Wに照射した(図4(a))。
【0076】
レーザ光LBの強度は、0.25J/cm2とし、保持台駆動装置8の移動速度は0.5cm/secとして、サファイア/GaN構造体Wの全面をスキャニングしながら照射した。サファイア/GaN構造体Wにレーザ光LBを照射すると、サファイア基板11を透過したレーザ光LBにより、サファイア基板11とGaN膜12との界面近傍のGaN膜12が溶解して、剥離領域SAが生じた(図4(b))。
【0077】
このとき、サファイア基板11とGaN膜12とには、成長温度と剥離温度との差により反りが発生したが、サファイア/GaN構造体Wにおける温度斑(温度分布のむら)の発生が抑制されたので、剥離領域SAの拡大は円滑に行われた。また、GaN膜12が剥離する過程で、GaN膜12はサファイア基板11の荷重をほとんど支えずにすむので、荷重支持点(剥離領域SAと未剥離領域との境)において、応力集中の発生が抑制され、GaN膜12の破損はほとんど生じなかった。
【0078】
サファイア/GaN構造体Wの全面に亙ってレーザ光LBを照射したことで、GaN膜12全体が剥離し落下した(図4(c))。このとき、GaN膜12は、緩衝材19によって落下の衝撃が緩衝されたので、破損を抑制することができた。
【0079】
GaN膜12の剥離後、ヒータ17、18の電源を遮断して、石英容器15内を降温した。常温まで降温してから、石英製容器15を取り出した。レーザ透過面(石英製の蓋)16を外して、サファイア基板11を取り出した後、GaN膜12を取り出した。
【0080】
取り出したGaN膜12の表面を顕微鏡観察したところ、GaN膜12にクラックはほとんど発生しておらず、表面の分解も抑制され、平坦な状態を維持していた。
【0081】
<実施例2>
実施形態1で説明したレーザ剥離装置1およびレーザ剥離方法を用いて、サファイア基板11上に300μmの厚さのGaN膜12が形成されたサファイア/GaN構造体Wから、GaN膜12を剥離した例について、図1、図2および図5を用いて説明する。
【0082】
図5は、本実施例に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。本実施例のレーザ剥離方法は、実施例1の場合と基本的には同様であるが、緩衝材19をGaN膜12に接触するように基板保持台14中に設けている点が異なる。
【0083】
すなわち、GaN膜12がサファイア基板11から剥離する前は、緩衝材19の上面をGaN膜12表面と接触させ、GaN膜12がサファイア基板11から剥離した後は、緩衝材19の下方への弾性変形とサファイア基板11の上方への変形とにより、GaN膜12とサファイア基板11との間に僅かな隙間が生ずるように、石英容器15内に緩衝材19は充填されている。
【0084】
まず、サファイア/GaN構造体Wは、有機金属とアンモニア(NH3)とを用いるMOCVD法と、ガリウム(Ga)および塩化水素(HCl)の反応による塩化ガリウム(GaCl)とアンモニア(NH3)とを用いるハイドライドVPE法により、サファイア基板11上に、1000℃の温度でGaN膜12をエピタキシャル成長して形成した。
【0085】
次いで、基板保持台14の底部に緩衝材19を挿入し、サファイア/GaN構造体Wを、GaN膜12面を下方に向けた状態(サファイア基板11面側が上方)で、基板保持台14に載置した。このとき、基板保持台14は、サファイア/GaN構造体Wのうちサファイア基板11部分のみを保持するようにした。緩衝材19は、GaN膜12面に接触する程度の嵩になるように基板保持台14中に設けた。サファイア/GaN構造体Wを載置した基板ホルダー14を、石英製容器15内に収納して、レーザ透過面(石英製の蓋)16を取り付けた。石英容器15を、ヒータ17、18で構成される電気炉内に収納した。
【0086】
ヒータ17、18でサファイア/GaN構造体W全体が850℃になるよう昇温した。昇温速度は、850℃/25分間で行なった。石英容器15内の熱電対20の温度が安定した時点から、レーザ発振装置3で波長が355nmのレーザ光LBを発生させ、ミラー5で光軸を水平方向から垂直方向へと角度を変えて、サファイア/GaN構造体Wに照射した(図5(a))。
【0087】
レーザ光LBの強度は、0.25J/cm2とし、保持台駆動装置8の移動速度は0.5cm/secとして、サファイア/GaN構造体Wの全面をスキャニングしながら照射した。サファイア/GaN構造体Wにレーザ光LBを照射すると、サファイア基板11を透過したレーザ光LBにより、サファイア基板11とGaN膜12との界面近傍のGaN膜12が溶解して、剥離領域SAが生じた(図5(b))。
【0088】
このとき、サファイア基板11とGaN膜12とには、成長温度と剥離温度との差により反りが発生したが、サファイア/GaN構造体Wの温度斑(温度分布のむら)が抑制できたため、剥離領域SAの拡大は円滑に行われた。また、GaN膜12が剥離する過程で、GaN膜12は緩衝材19によって自身の荷重の殆どを支えられているので、荷重支持点(剥離領域SAと未剥離領域の境)においては、応力集中の発生は抑制され、GaN膜12はほとんど破損しなかった。
【0089】
サファイア/GaN構造体Wの全面に亙ってレーザ照射したことで、GaN膜12全体が剥離し、GaN膜12とサファイア基板11との間に僅かな隙間が形成された(図5(c))。このとき、GaN膜12は、緩衝材19によって落下の衝撃が緩衝されたので、ほとんど破損しなかった。
【0090】
GaN膜12の剥離後、ヒータ17、18の電源を遮断して、石英容器15内を降温した。常温まで降温してから、石英製容器15を取り出した。レーザ透過面(石英製の蓋)16を外して、サファイア基板11を取り出した後、GaN膜12を取り出した。
【0091】
取り出したGaN膜12の表面を顕微鏡観察したところ、GaN膜12にクラックはほとんど発生しておらず、表面の分解も抑制され、平坦な状態を維持していた。
【0092】
<実施例3>
実施形態2で説明したレーザ剥離装置1およびレーザ剥離方法を用いて、サファイア基板11上に300μmの厚さのGaN膜12が形成されたサファイア/GaN構造体Wから、GaN膜12を剥離した例について、図1、図3および図6を用いて説明する。
【0093】
図6は、本実施例に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。本実施例のレーザ剥離方法は、実施例2の場合と基本的には同様であるが、石英容器内にアンモニアガスをフローパージし、GaN膜成長温度に昇温する点が異なる。
【0094】
まず、サファイア/GaN構造体Wは、有機金属とアンモニア(NH3)とを用いるMOCVD法と、ガリウム(Ga)および塩化水素(HCl)の反応による塩化ガリウム(GaCl)とアンモニア(NH3)とを用いるハイドライドVPE法とにより、サファイア基板11上に1000℃の温度でGaN膜12をエピタキシャル成長して形成した。
【0095】
次に、基板保持台14の底部に緩衝材19を挿入し、サファイア/GaN構造体WをGaN膜12面を下方に向けた状態(サファイア基板11面側が上方)で、基板保持台114に載置した。このとき、基板保持台114は、サファイア/GaN構造体Wのうちサファイア基板11部分のみを保持するようにした。サファイア/GaN構造体Wを載置した基板ホルダー114を、石英製容器15内に収納して、レーザ透過面(石英製の蓋)116を取り付けた。石英容器15をヒータ17、18で構成される電気炉内に収納した。
【0096】
ガス導入口116aから窒素(N2)ガスを供給して、石英容器15内をパージした。パージしたN2ガスは排気口116bより排出した。
【0097】
ヒータ17、18で、サファイア/GaN構造体Wの全体が1040℃になるよう昇温した。このとき、500℃に到達した時点からは、アンモニア(NH3)ガスの供給も開始した。このとき、500℃〜1040℃まで25分かけて昇温した。
【0098】
石英容器15内の熱電対20の温度が安定した時点から、レーザ発振装置3で波長が355nmのレーザ光LBを発生させ、ミラー5で光軸を水平方向から垂直方向へと角度を変えて、サファイア/GaN構造体Wに照射した。このとき、サファイア/GaN構造体Wは、GaN膜12の成長温度近傍に昇温されたため、熱歪みは開放されて平坦な状態となっていた(図6(a))。
【0099】
レーザ光LBの強度は、0.28J/cm2とし、保持台駆動装置8の移動速度は0.2cm/secとして、サファイア/GaN構造体Wの全面をスキャニングしながら照射した。サファイア/GaN構造体Wにレーザ光LBを照射すると、サファイア基板11を透過したレーザ光LBにより、サファイア基板11とGaN膜12との界面近傍のGaN膜12が溶解して、剥離領域SAが生じた(図6(b))。
【0100】
このとき、サファイア基板11とGaN膜12とには、熱歪みが開放されているので、反りが殆ど発生しなかった。さらに、予め緩衝材19をGaN膜12に当接するように充填してあったので、剥離したGaN膜の自重でGaN膜が撓むことも殆どなく、GaN膜12の一部に局所的に応力が集中することは抑制された。
【0101】
サファイア/GaN構造体Wの全面に亙ってレーザ照射することで、GaN膜12全体が剥離したが、GaN膜12に当接するように緩衝材19が充填されていたので、GaN膜12が落下することはなく、落下の衝撃が緩衝されたので、GaN膜12が破損することを抑制することができた(図6(c))。
【0102】
GaN膜12の剥離後、ヒータ17、18の電源を遮断して、石英容器15内を降温した。炉内の温度が、500℃前後に到達する時点までNH3ガスとN2ガスとを供給して、500℃以下となった時点からN2ガスのみ供給して、常温となるまで降温した。N2ガスの供給を止め、石英製容器15を取り出した。レーザ透過面(石英製の蓋)116を外して、サファイア基板11を取り出した後、GaN膜12を取り出した。
【0103】
取り出したGaN膜12の表面を顕微鏡観察したところ、GaN膜12にクラックはほとんど発生しておらず、表面の分解も抑制され、平坦な状態を維持していた。
【0104】
<実施例4>
実施形態1で説明したレーザ剥離装置1およびレーザ剥離方法を用いて、サファイア基板11上に400μmの厚さのGaN膜12が形成されたサファイア/GaN構造体Wから、GaN膜12を剥離した例について、図1、図2および図7を用いて説明する。
【0105】
図7は、本実施例に係るレーザ剥離方法を説明するための工程断面図である。本実施例のレーザ剥離方法は、実施例1の場合と基本的には同様であるが、GaN膜12表面に二酸化珪素(SiO2)膜13を形成する点が異なる。
【0106】
まず、サファイア/GaN構造体Wは、有機金属とアンモニア(NH3)とを用いるMOCVD法と、ガリウム(Ga)および塩化水素(HCl)の反応による塩化ガリウム(GaCl)とアンモニア(NH3)とを用いるハイドライドVPE法とにより、サファイア基板11上に、1040℃の温度でGaN膜12をエピタキシャル成長して形成した。次に、サファイア/GaN構造体WのGaN膜12表面に、二酸化珪素(SiO2)膜13を形成した。SiO2膜13の形成には、シラン(SiH4)と酸素(O2)との反応による熱分解法(CVD法)や、SiO2原料を用いる電子ビーム(EB)蒸着法があるが、そのどちらを用いても構わない。SiO2膜13の厚さは0.5μmとした。
【0107】
次に、基板保持台14の底部に緩衝材19を挿入し、SiO2膜13を形成したサファイア/GaN構造体Wを、GaN膜12面を下方に向けた状態(サファイア基板11面側が上方)で、基板保持台14に載置した。このとき、基板保持台14は、サファイア/GaN構造体Wのうちサファイア基板11部分のみを保持するようにした。サファイア/GaN構造体Wを載置した基板ホルダー14を、石英製容器15内に収納して、レーザ透過面(石英製の蓋)16を取り付けた。石英容器15を、ヒータ17、18で構成される電気炉内に収納した。
【0108】
ヒータ17、18で、サファイア/GaN構造体Wの全体が1050℃になるよう昇温した。このとき、室温〜1050℃まで30分かけて昇温した。
【0109】
石英容器15内の熱電対20の温度が安定した時点から、レーザ発振装置3で波長が355nmのレーザ光LBを発生させ、ミラー5で光軸を水平方向から垂直方向へと角度を変えて、サファイア/GaN構造体Wに照射した。このとき、サファイア/GaN構造体Wは、GaN膜成長温度に昇温されたため、熱歪みは開放されて平坦な状態になっていた(図7(a))。
【0110】
レーザ光LBの強度は、0.18J/cm2とし、保持台駆動装置8の移動速度は0.15cm/secとして、サファイア/GaN構造体Wの全面をスキャニングしながら照射した。サファイア/GaN構造体Wにレーザ光LBを照射したところ、サファイア基板11を透過したレーザ光LBにより、サファイア基板11とGaN膜12との界面近傍のGaN膜12が溶解して、剥離領域SAが生じた(図7(b))。
【0111】
このとき、サファイア基板11とGaN膜12とにおいては、熱歪みが開放されて反りが殆ど発生しなかったため、GaN膜12の一部に局所的に応力が集中することは抑制された。
【0112】
サファイア/GaN構造体Wの全面に亙ってにレーザ照射したことで、GaN膜12全体が剥離した(図7(c))。しかし、緩衝材19によって落下の衝撃が緩衝されたので、GaN膜12が破損することを抑制できた(図7(d))。
【0113】
GaN膜12の剥離後、ヒータ17、18の電源を遮断して石英容器15内を降温した。常温まで降温した時点で、石英製容器15を取り出した。蓋16を外して、サファイア基板11を取り出した後、GaN膜12を取り出した。取り出したGaN膜12を、弗化水素(HF)と水との混合液に浸し、SiO2膜13を除去した。SiO2膜13を除去後、十分流水洗浄して乾燥させた。
【0114】
取り出したGaN膜12の表面を顕微鏡観察したところ、GaN膜12にクラックはほとんど発生しておらず、表面の分解も抑制され、平坦な状態を維持していた。また、SiO2膜を形成したことによるGaN膜12表面のダメージは、ほとんど観察されなかった。
【0115】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0116】
たとえば、GaN膜の表面にSiO2膜を設ける場合には、SiO2膜の膜厚は、特に限定されず、GaN膜表面の分解を抑えることのできる膜厚であれば良い。また、GaN膜の表面に設ける耐熱性膜の材料は、SiO2に限定されず、GaN膜の表面の分解を抑えることができる材料、すなわちGaN膜成長温度以上の耐熱性を有する材料であれば他の材料でも良い。
【符号の説明】
【0117】
1 レーザ剥離装置
2 架台
3 レーザ発振装置
4 レーザ発振装置保持台
5 ミラー
6 ミラー昇降装置
7 スリット
8 保持台駆動装置
9 ケース
10 基板保持部
100 基板保持部
11 サファイア基板
12 GaN膜
13 保護膜
14 基板保持台
114 基板保持台
114a 通気孔
15 石英容器
16 石英製の蓋
116 石英製の蓋
116a ガス導入口
116b ガス排出口
17 ヒータ
18 ヒータ
19 緩衝材(石英製布、石英製ウール)
20 熱電対
31 レーザ剥離装置
32 架台
33 レーザ発振装置
34 レーザ発振装置保持台
35 基板保持部
36 保持台駆動装置(水平方向)
37 保持台駆動装置(垂直方向)
38 ケース
LB レーザ光
SA 剥離領域
W サファイア/GaN構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板と、前記下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射により前記III族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離装置であって、
前記構造体を、前記III族窒化物半導体膜が下方または側方に向いた状態で、前記III族窒化物半導体膜に接触することなく保持する基板保持部と、
前記構造体の表面に対してレーザを照射するレーザ照射部と、
を備える
ことを特徴とするレーザ剥離装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ剥離装置において、
前記基板保持部は、前記下地基板の表面のうち前記III族窒化物半導体膜が設けられていない領域において前記構造体を支持するように構成されている
ことを特徴とするレーザ剥離装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ剥離装置において、
前記基板保持部を格納する容器と、
前記容器内に窒素含有ガスを充填する窒素ガス供給部と、
をさらに備える
ことを特徴とするレーザ剥離装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載のレーザ剥離装置において、
前記構造体を加熱するヒータをさらに備え、
前記ヒータは、前記構造体とは離れた位置に設けられている
ことを特徴とするレーザ剥離装置。
【請求項5】
下地基板と、前記下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射により前記III族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離装置であって、
容器と、
前記容器内に窒素含有ガスを充填する窒素ガス供給部と、
前記容器内に設けられており、前記構造体を保持する基板保持部と、
前記構造体に対してレーザを照射するレーザ照射部と、
を備える
ことを特徴とするレーザ剥離装置。
【請求項6】
下地基板と、前記下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射により前記III族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離装置であって、
前記構造体を保持する基板保持部と、
前記構造体から離れた位置に設けられており、前記構造体を加熱するヒータと、
前記構造体に対してレーザを照射するレーザ照射部と、
を備える
ことを特徴とするレーザ剥離装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載のレーザ剥離装置において、
前記基板保持部の下部に設けられている緩衝材をさらに備える
ことを特徴とするレーザ剥離装置。
【請求項8】
下地基板と、前記下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射により前記III族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離方法であって、
前記構造体を、前記III族窒化物半導体膜が下方または側方に向いた状態で、前記III族窒化物半導体膜の表面に接触することなく保持する工程と、
前記構造体に対してレーザを照射する工程と、
前記構造体から前記III族窒化物半導体膜を剥離する工程と、
を含むことを特徴とするレーザ剥離方法。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ剥離方法において、
前記構造体を保持する前記工程は、前記下地基板の表面のうち前記III族窒化物半導体膜が設けられていない領域において前記構造体を支持する工程を含む
ことを特徴とするレーザ剥離方法。
【請求項10】
下地基板と、前記下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射により前記III族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離方法であって、
前記構造体を保持する工程と、
前記構造体の雰囲気ガスを窒素含有ガスに置換する工程と、
前記構造体に対してレーザを照射する工程と、
前記構造体から前記III族窒化物半導体膜を剥離する工程と、
を含むことを特徴とするレーザ剥離方法。
【請求項11】
下地基板と、前記下地基板上に設けられているIII族窒化物半導体膜と、を含む構造体から、レーザ照射により前記III族窒化物半導体膜を剥離するレーザ剥離方法であって、
前記構造体を保持する工程と、
前記構造体とは離れた位置に設けられているヒータにより前記構造体を加熱する工程と、
前記構造体に対してレーザを照射する工程と、
前記構造体から前記III族窒化物半導体膜を剥離する工程と、
を含むことを特徴とするレーザ剥離方法。
【請求項12】
請求項8乃至11いずれかに記載のレーザ剥離方法において、
前記レーザを照射する前記工程の前に、
前記構造体のうち前記III族窒化物半導体膜の表面に、前記III族窒化物半導体膜の成長温度以上の耐熱温度を有する保護膜を形成する工程をさらに含む
ことを特徴とするレーザ剥離方法。
【請求項13】
請求項8乃至12いずれかに記載のレーザ剥離方法により、前記構造体から、前記III族窒化物半導体膜を剥離して、前記III族窒化物半導体膜の少なくとも一部を含むIII族窒化物半導体自立基板を得る工程を含む
ことを特徴とするIII族窒化物半導体自立基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−151400(P2011−151400A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26787(P2011−26787)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【分割の表示】特願2004−359207(P2004−359207)の分割
【原出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】