説明

レーザ加工方法およびレーザ加工装置

【課題】基板上の薄膜をレーザによりスクライブ加工する場合に、大型の集塵機、大量の洗浄液を必要とせず、正確に微細なスクライブ加工を行うレーザ加工方法および装置を提供することを目的とすること。
【解決手段】レーザ光の光軸103を加工対象物表面に対し概略垂直に配置し、レーザ光の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液をノズルから噴射して加工を行うレーザ加工方法において、レーザ光の光軸103が、ノズル113の噴出口115の開口中心に対して、加工の進行方向Lと反対側の方向に偏心している。あるいは加工の進行方向Lに直交する方向の位置に偏心している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
レーザ光の光軸を加工対象物表面に対し概略垂直に配置し、レーザ光の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液をノズルから噴射して加工を行うレーザ加工方法およびレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、基板上の薄膜を分断する加工(以下、スクライブ加工と称す)には、レーザが用いられている。従来のレーザを用いたスクライブ加工(レーザスクライブ)では、薄膜の光吸収波長に合わせたレーザを用いて、薄膜あるいは薄膜に含まれる一部の成分を加熱し、気化を利用してレーザ照射部の薄膜を取り除いている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このとき、取り除かれた薄膜が基板上に粉塵として付着するため、レーザスクライブ後の洗浄が欠かせない。このため、レーザ照射と洗浄を同時に行う試みもある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
一方、レーザ加工法として、水柱(ウォータジェット)を光導光路として用い、水とレーザ光を同じ加工領域に照射する方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−140677号公報(第2頁左下欄第12行目〜右下欄 第20行目、第1図)
【特許文献2】特開2006−315030号公報(0018〜0020、図1)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Laser-doped Silicon Solar Cells by Laser Chemical Processing (LCP) exceeding 20% Efficiency, 33rd IEEE Photovoltaic Specialist Conference, 12-16 May. 2008, St. Diego, CA
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来のレーザ加工方法では、スクライブ加工により粉塵が大量に発生するため、レーザ光を基板の薄膜層がある反対側から照射し、大容量の集塵機を用いて薄膜層表面に発生する粉塵を取り除く方法や、洗浄層の中でスクライブ加工を行う方法等があった。
【0008】
しかし、これらの方法では、レーザ光が基板表面で反射され損失となるため、レーザ光の透過する基板を選択しなければならないという問題があった。また、大容量の集塵機で粉塵を取り除く方法では、装置が大型化により騒音が発生し、コストも増大するという問題点があった。
【0009】
また、洗浄槽の中でスクライブ加工を行う方法では、基板が大型化することで消費する洗浄液が大量となり、環境負荷が大きくなるという問題点があった。
【0010】
さらに、水柱をレーザ光の導光路として用いる方法では、水柱の断面全体にレーザ光が広がるため、加工領域の最小面積が、水柱の最小面積より小さくできないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、基板上の薄膜をレーザによりスクライブ加工する場合に、大型の集塵機、大量の洗浄液を必要とせず、正確に微細なスクライブ加工を行うレーザ加工方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザ加工方法は、レーザ光の光軸を加工対象物表面に対し概略垂直に配置し、レーザ光の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液をノズルから噴射して加工を行うレーザ加工方法において、レーザ光の光軸が、ノズルの開口中心に対して、加工進行方向の反対側の位置に偏心させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他のレーザ加工方法は、レーザ光の光軸を加工対象物表面に対し概略垂直に配置し、レーザ光の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液をノズルから噴射して加工を行うレーザ加工方法において、レーザ光の光軸が、ノズルの開口中心に対して、加工進行方向に直交した方向の位置に偏心させることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光を集光するレンズと、洗浄液を供給し流速を制御する液流制御部と、集光されたレーザ光を導入する入射窓が設けられた洗浄液を導入する配管と、入射窓から洗浄液中に導入し、洗浄液中を伝播するレーザ光が内壁に接触しない大きさで、配管の入射窓と対応する位置に設けられ、洗浄液を噴射する開口を有するノズルとを備え、洗浄液中を伝播するレーザ光を加工対象物に照射して加工を行うレーザ加工装置において、レーザ光の光軸が加工対象物の表面に対し概略垂直であり、レーザ光の光軸が、ノズルの開口の中心に対して、加工進行方向の反対側の位置に偏心していることを特徴とする。
【0015】
さらにまた、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光を集光するレンズと、洗浄液を供給し流速を制御する液流制御部と、集光されたレーザ光を導入する入射窓が設けられた洗浄液を導入する配管と、入射窓から洗浄液中に導入し、洗浄液中を伝播するレーザ光が内壁に接触しない大きさで、配管の入射窓と対応する位置に設けられ、洗浄液を噴射する開口を有するノズルとを備え、洗浄液中を伝播するレーザ光を加工対象物に照射して加工を行うレーザ加工装置において、レーザ光の光軸が加工対象物の表面に対し概略垂直であり、レーザ光の光軸が、ノズルの開口の中心に対して、加工進行方向に直交した方向の位置に偏心していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レーザ光の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液をノズルから噴射して加工を行うレーザ加工方法において、レーザ光の光軸が、ノズルの開口中心に対して、加工の進行方向の逆側の位置、あるいは進行方向に直交した方向の位置に偏心させることにより、粉塵が散乱せず加工周辺部およびレーザ加工装置の光学部品への粉塵の付着を抑制でき、集塵機を必要とせず大量の洗浄液を必要としない加工ができるだけでなく、気泡や粉塵による散乱等の影響を受けずに、絶縁基板上に形成された薄膜に所望の形状で、レーザ光を照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明に係る実施の形態1のレーザ加工装置の加工点近傍の要部を示す概略拡大断面図であり、(a)はレーザ加工装置の正面から見た断面図であり、(b)は(a)のG方向側面から見た断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る実施の形態1におけるレーザ加工装置のノズル先端部の部分拡大図である。
【図3】図3は、本発明に係る実施の形態1における発明者らが行ったスクライブ実験結果の模式図である。
【図4】図4は、薄膜上の洗浄液の流れの様子を示す図である。
【図5】図5は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態1のレーザ加工方法により加工した薄膜太陽電池でのセルの製造工程を示す断面拡大図である。
【図6】図6は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態1のレーザ加工方法により加工した薄膜太陽電池でのセルの全体構造を示す上面図である。
【図7】図7は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態2の構成を示す概略図である。
【図8】図8は、本発明に係るレーザ加工装置の実施の形態2における発明者らが行ったスクライブ実験結果の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかるレーザ加工方法およびレーザ加工装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
実施の形態1.
実施の形態1について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る実施の形態1のレーザ加工装置201の加工点近傍の要部を示す概略拡大断面図であり、(a)はレーザ加工装置201の正面から見た断面図であり、(b)は(a)のG方向側面から見た断面図である。
【0020】
図1において、本実施の形態1におけるレーザ加工装置201は、レーザ光101を発生するレーザ光源141、洗浄液112を絶縁基板(加工対象物)11上に供給し流速を制御する液流制御部131、レーザ光源141からのレーザ光101を集光し、集光したレーザ光101を液流制御部131からの洗浄液112の噴射と共に絶縁基板11上の薄膜10へ照射する加工ヘッド142を備えている。
【0021】
加工ヘッド142は、基本的構成部分として、レーザ光源141からのレーザ光101を集光するレンズ102、液流制御部131で流速を制御され、供給される先浄液112の液流をレーザ光101の照射方向に導く配管111、集光されたレーザ光101を先浄液112としての液流と共に基板の加工領域へ照射するノズル113で構成する。
【0022】
ここで、図1(b)に示すように、絶縁基板11上の薄膜10で、加工が完了した点をH点、加工中の中心点である加工点をJ点、これから加工される点をI点とし、レーザ光101の光軸103上の点をK点とする。また、ノズル113の噴出口115のH点側を下流側、I点側を上流側と呼ぶ。
【0023】
加工進行方向は、レーザ光101の光軸103を絶縁基板11のレーザ光101に対する相対的な進行方向Lで定義され、H点からI点に向かう方向となる。絶縁基板11と加工ヘッド142とは、相対的に絶縁基板11がL方向に移動するように構成されている。
【0024】
図1(b)では、レーザ光101の光軸103は、絶縁基板11の表面に対してほぼ垂直であり、レーザ光101の光軸103をノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、加工進行方向Lの進行方向反対側に偏心している。
【0025】
ノズル113は、集光され、照射されるレーザ光101がノズル113の内壁に接触しない位置、および径で設けられる。配管111には、集光されたレーザ光101を透過して洗浄液112中に導入し、ノズル113の方向へ導く位置に入射窓104が設けられる。入射窓104は、洗浄液112を囲む配管111との間で、パッキング114によりシールされている。
【0026】
この構成により、ノズル113は、レーザ光101の照射と共に、レーザ光101の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液112を噴射する。
【0027】
次に、本実施の形態1におけるレーザ加工装置201の動作について説明する。図1において、加工に用いるレーザ光101は、レーザ光源141からA方向に向けて進行している。
【0028】
レーザ光101は、絶縁基板11上の薄膜10の加工点Jに向け、レンズ102により集光あるいは、結像されながら、入射窓104を透過し、配管111によって導かれた純水等の洗浄液112中に入射する。
【0029】
レーザ光101は、集光、結像されながら洗浄液112中を伝播し、ノズル113から洗浄液112の噴射と共に、絶縁基板11上に形成された薄膜10にL方向(加工進行方向)にほぼ垂直に、所望の形状で照射される。レーザ光101が照射された薄膜10は、照射された部分がレーザ光101を吸収し、熱の発生によりアブレーションされ、絶縁基板11から剥離される。
【0030】
一方、洗浄液112は、液流制御部131から配管111でB方向に向けて供給されている。洗浄液112は、配管111の端部で流れをM方向に変えてノズル113に導かれ、ノズル113より整流され、絶縁基板11上に形成された薄膜10に向けて噴射される。
【0031】
噴射された洗浄液112は、レーザ光101の照射により絶縁基板11上の薄膜10の剥離で生じる粉塵122を取り込み、絶縁基板11上から取り除く。粉塵122を取り込んだ洗浄液112は、図示しない回収器により回収される。
【0032】
このように、加工点Jにレーザ光101の照射と共に洗浄液112を噴射してスクライブ加工し、アブレーションの際発生する粉塵122を洗浄液112中に取り込むことで、粉塵122が散乱せず、加工周辺部およびレーザ加工装置の光学部品への粉塵の付着を抑制でき、集塵機を必要としない加工ができる。
【0033】
また、洗浄液112を加工点Jに吹き付けることにより、スクライブ加工時に完全に基板から剥離しなかった部分も除去でき、スクライブ後の洗浄工程も省略もしくは簡略化できる。さらに、加工点Jの冷却が促進でき、直列接続の際の漏れ電流の伝達路の原因となる加工点J周辺の薄膜10の結晶化を抑制することができる。
【0034】
また、ノズル113を、集光されたレーザ光101がノズル113の内壁に接触しない位置、および径で構成することで、レーザ光の集光限界まで微細に加工できる。
【0035】
絶縁基板11と加工ヘッド142とは、相対的に移動させることによりレーザ光101の照射が線状となり、薄膜10の剥離を線状に進展することで、粉塵を取り除きながらスクライブ加工される。
【0036】
図2は、本発明に係る実施の形態1におけるレーザ加工装置201のノズル113の先端部の部分拡大図である。図2に示すように、洗浄液112の流れ方向Nは、ノズル113に対する絶縁基板11の相対的な動きにより、加工進行方向Lの進行方向反対側のH点側に向かう。スクライブ加工を行った際、アブレーションにより加工点Jで発生する気泡121や粉塵122は、図中グレイの矢印で示す方向Nのように進む洗浄液112の流れに乗って下流のH点側に流れる。
【0037】
これに対し、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116は、レーザ光101の光軸103(加工点J)に対して、気泡121や粉塵122の流れる方向と反対側の上流のI点側に位置する。このため、光軸103(加工点J)の位置には、気泡121や粉塵122をあまり含まない清浄度の高い洗浄液112が流れることとなるため、気泡121や粉塵122による散乱等の影響を受けずに、レーザ光101を絶縁基板11上に形成された薄膜10にねらい通りの形状で照射することができる。
【0038】
図3に発明者らが行ったスクライブ実験結果の模式図を示す。図3において、(a1)、(b1)、(c1)は、それぞれ、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、「レーザ光101の光軸103を一致させた場合」、「加工進行方向Lの進行方向側に配置(偏心)した場合」、「加工進行方向Lの進行方向反対側に配置(偏心)した場合」の位置関係を示したものである。また、(a2)、(b2)、(c2)は、上記配置で薄膜10に対し、スクライブ加工を実施したときに形成されるスクライブ加工痕17の典型例を示したものである。
【0039】
(a1)に示すように、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を一致させた場合、(a2)に示すように、スクライブ加工痕17は連続にならず、所々に未加工部分18が存在する。この未加工部分18は、噴出口115の開口中心では、洗浄液112がほぼ垂直に薄膜10に噴出されるため、洗浄液112の流れの方向が一定方向にならず乱雑な流れとなっている状態であることから、気泡121や粉塵122がレーザ光101の位置に残留し、レーザ光101が散乱され適切に薄膜10に照射されず、加工ができなかったと考えられる。また、このレーザ光位置では、直線的な加工を実施した場合でもスクライブ加工痕17が蛇行する傾向が観測されたが、これも、気泡121が障害物となり、レーザ光101が曲げられたためだと推測される。
【0040】
また、(b1)に示すように、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lの進行方向側に配置した場合、(b2)に示すように、スクライブ加工痕17は、(a2)と比較し、蛇行する現象は観測されないが、未加工部分18の存在が確認された。
【0041】
一方、(c1)に示す、本実施の形態1の構成であるノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lの進行方向反対側に配置した場合では、直線性が良く、未加工部分のないスクライブ加工が実現できている。
【0042】
ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lの進行方向側に配置した場合と進行方向反対側に配置した場合の違いを考察するため、図4に薄膜上10上の洗浄液112の流れの様子を示す。図1(b)に対して、紙面上方から見た断面である。薄膜10とノズル113は、相対的に加工進行方向Lと逆の方向に動くため、加工進行方向Lの進行方向側では、噴出された洗浄液112の流れ方向が薄膜10の相対的な移動方向と逆方向になり、洗浄液112が薄膜10に引きずられ、流れが不安定になると共に、気泡等を巻き込む場合がある。そのため、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lの進行方向側に配置した場合、巻き込まれた気泡等の影響で、未加工領域が発生する。
【0043】
一方、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103が加工進行方向Lに対し進行方向反対向には、洗浄液112の流れ方向と、薄膜10の相対的移動方向が逆にならないため、洗浄液112が安定して流れる。そのため、気泡等の巻き込みもなく、良好なスクライブ加工が可能である。
【0044】
このように、本発明の実施の形態1では、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lに対し進行方向と反対方向の範囲に配置することで、洗浄液112の流れが安定な領域で薄膜10にレーザ光101を照射するので、直線性の良い安定したスクライブ加工を実現できる。
【0045】
また、絶縁基板11を相対的に往復移動し、往復移動時にスクライブ加工を行う場合、レーザ光101の光軸103を回転中心として、ノズル113を180度回転させることにより、加工進行方向Lとノズル113の開口中心軸116およびレーザ光101の光軸103の位置関係を維持した状態でスクライブ加工ができる。このような動作をすれば、往復加工が可能で、加工時間を短縮することができる。
【0046】
ここで、レーザ光101は、スクライブ加工の対象となる薄膜10の光吸収特性により選択される。例えば、薄膜太陽電池では、YAG等の固体レーザ、ファイバレーザの基本波(波長1μm程度)、第二高調波(波長0.5μm程度)、第三高調波(波長0.3〜0.4μm程度)が用いられる。
【0047】
また、レーザ光101は、スクライブ加工の対象となる薄膜10のアブレーション特性により、マイクロ秒、ナノ秒、ピコ秒のパルスレーザあるいは連続発振のレーザが用いられる。
【0048】
なお、上記の説明では、洗浄液として純水を用いた場合の例を示したが、レーザ光101の照射により、スクライブ加工の対象となる薄膜10に対し化学反応を起こす、あるいは促進する液体であってもよい。例えば、KOH水溶液等のアルカリ性水溶液、またはHNO3等の酸性水溶液を用いてもよい。
【0049】
また、上記の説明では、絶縁基板11にガラス板を用いた場合の例を示したが、フレキシブルな樹脂フィルムでも良い。
【0050】
また、スクライブ加工の対象となる薄膜10は、レーザ光101により直接アブレーションする方法だけではなく、薄膜10の下地の薄膜にレーザ光101を吸収させ、その下地薄膜のアブレーションと同時に薄膜10を剥離する方法や、下地薄膜からの伝熱により薄膜10をアブレーションする方法により、薄膜10の一部を剥離することができる。
【0051】
次に、本実施の形態1におけるレーザ加工方法を用いるレーザ加工装置201により加工された半導体デバイスの実施例として、薄膜太陽電池の場合について説明する。図5は、図1のレーザ加工装置201を用いて加工する薄膜太陽電池におけるセルの製造工程を示す断面拡大図であり、図6は全体構成を示す上面図である。
【0052】
図5(g)は、レーザ加工装置201を用いて加工された薄膜太陽電池におけるセルの断面を示す拡大図であり、11は絶縁基板、12(12a、12b、12c、・・)は透明電極、13(13a、13b、13c、・・)は発電層、14(14a、14b、14c、・・)は裏面電極、15(15a、15b、15c、・・)は光電変換領域、21(21a、21b、・・)は第一のスクライブ部、22(22a、22b、・・)は第二のスクライブ部、23(23a、23b、・・)は第三のスクライブ部であり、添え字a、b、cは、発電領域の区別を表している。
【0053】
図5(g)に示すように、厚さ1〜3mmのガラス板からなる透光性の絶縁基板11と、絶縁基板11の上には透光性導電酸化膜等の透明電極12(12a、12b、12c、・・)が形成され、透明電極12(12a、12b、12c、・・)の上にはさらに発電層13(13a、13b、13c、・・)としてPN接合を有する例えばアモルファスシリコンの半導体層が形成される。
【0054】
さらに、発電層13(13a、13b、13c、・・)の上には、例えば、アルミ、銀等の裏面電極14(14a、14b、14c、・・)が形成される。これらの構成により、絶縁基板11側から入射される光エネルギーを電気エネルギーに変換する。
【0055】
薄膜太陽電池では、発電効率向上のため、絶縁基板11の発電変換領域15(15a、15b、15c、・・)を区切って、発電変換領域15(15a、15b、15c、・・)の直列接続が行われる。この発電領域を区切る際にレーザスクライブが用いられる。
【0056】
まず、絶縁基板11(図5(a))の上面に、透明電極12が均一に形成され(図5(b))、透明電極12は、本実施の形態1のレーザ加工装置201により透明電極12が吸収する波長のレーザ光を用いて、透明電極12の一部を線状に剥離することで第一のスクライブ部21a、21b、・・が形成され、発電変換領域15a、15b、15c、・・に対応する領域12a、12b、12c、・・に分割される(図5(c))。
【0057】
次に、発電変換領域15a、15b、15c、・・に対応する透明電極12の領域12a、12b、12c、・・を形成した絶縁基板11の上に発電層13をプラズマCVD等で蒸着した後(図5(d))、発電層13は、レーザ加工装置201により発電層13のみが吸収する波長のレーザ光を用いて、透明電極12を残した状態で、発電層13の一部のみを線状に剥離することで第二のスクライブ部22a、22b、・・が形成され、発電変換領域15a、15b、15c、・・に対応する領域13A、13B、13C、・・に分割される(図5(e))。
【0058】
続いて、発電変換領域15a、15b、15c、・・に対応する発電層13の領域13A、13B、13C、・・を形成した絶縁基板11の上に裏面電極14を蒸着した後(図5(f))、裏面電極14は、レーザ加工装置201により、裏面電極14および発電層13の領域13A、13B、13C、・・の一部を線状に剥離することで第三のスクライブ部23a、23b、・・が形成され、発電変換領域15a、15b、15c、・・に対応する領域14a、14b、14c、・・および領域13a、13b、13c、・・に分割される(図5(g))。
【0059】
透明電極12を残した状態で、発電変換領域15に対応する裏面電極14の領域14a、14b、14c、・・および発電層13の領域13a、13b、13c、・・に分割することで、各発電変換領域15a、15b、15c、・・の直列接続が成される。
【0060】
薄膜太陽電池のセルにおいては、図6に示すように、例えば、1m角の絶縁基板11上に複数の発電変換領域15、第一のスクライブ部21、第二のスクライブ部22、第三のスクライブ部23からなるスクライブライン16で分割され、直列接続されている。
【0061】
なお、裏面電極14および発電層13領域13A、13B、13C、・・を発電変換領域15a、15b、15c、・・に対応する領域14a、14b、14c、・・および領域13a、13b、13c、・・に分割する際には、裏面電極14および発電層13が共に吸収する波長のレーザ光を用いて、裏面電極14および発電層13の一部を線状に剥離する。
【0062】
また、裏面電極14および発電層13の領域13A、13B、13C、・・の一部を上記のように両方が吸収する波長のレーザ光を用いる代わりに、裏面電極14の発電層13の領域13A、13B、13C、・・の一部にレーザ光を吸収させ、その発電層13の領域13A、13B、13C、・・のアブレーションと同時に裏面電極14を剥離する方法により剥離してもよい。
【0063】
また、発電層13の領域13A、13B、13C、・・からの伝熱により裏面電極14をアブレーションする方法により剥離してもよい。これらの場合、裏面電極14の種類の選択、もしくはレーザ光の種類の選択等の幅が広がる。
【0064】
また、上記のような三層のスクライブ加工を行う場合、スクライブ加工の領域、即ち第一のスクライブ部21から第三のスクライブ部23までの領域は発電に寄与できず、スクライブ加工領域の縮小のため、スクライブ部の幅を狭くする要求があったが、レーザ加工装置201により、レーザ光の集光限界まで微細に加工でき、効率のよいセルを形成できる。
【0065】
以上のように、本実施の形態1では、レーザ加工装置201により、加工点Jにレーザ光101の照射と共に洗浄液112を噴射してスクライブ加工し、アブレーションの際発生する粉塵22を洗浄液112中に取り込むようにしたので、粉塵が散乱せず、加工周辺部およびレーザ加工装置の光学部品への粉塵の付着を抑制でき、集塵機を必要とせず、大量の洗浄液を必要としない加工ができる。
【0066】
また、洗浄液の噴射により、スクライブ加工時に完全に基板から剥離しなかった部分も除去でき、スクライブ後の洗浄工程も省略もしくは簡略化できる。さらに、加工領域の冷却が促進でき、直列接続の際の漏れ電流の伝達路の原因となる加工領域周辺の結晶化を抑制することができる。
【0067】
また、ノズル113を、集光されたレーザ光101がノズル113の内壁に接触しない位置、および径で構成するようにしたので、レーザ光の集光限界まで微細に加工できる。
【0068】
また、アブレーションの際発生する気泡121や粉塵122を洗浄液112の流れによって下流側に導きながら、洗浄液112の流れが安定な領域で薄膜にレーザ光を照射するようにしたので、気泡121や粉塵122による散乱等の影響を受けずに、絶縁基板上に形成された薄膜に所望の形状で、照射することができ、安定な加工ができる。
【0069】
また、薄膜太陽電池のセルを形成する場合には、粉塵の付着を抑制できるだけでなく、微細なスクライブ溝が得られるので、発電に寄与しないスクライブ加工領域を狭くでき、発電に寄与する発電層の拡大により発電効率の向上を図ることができる。
【0070】
以上説明したように本実施の形態1のレーザ加工装置201は、レーザ光101を出射するレーザ光源141と、レーザ光101を集光するレンズ102と、洗浄液112を供給し流速を制御する液流制御部131と、集光されたレーザ光101を導入する入射窓104が設けられた洗浄液112を導入する配管111と、入射窓104から洗浄液中に導入し、洗浄液中を伝播するレーザ光101が内壁に接触しない大きさで、配管の入射窓104と対応する位置に設けられ、洗浄液112を噴射する噴出口115を有するノズル113とを備えており、洗浄液中を伝播するレーザ光101を加工対象物に照射して加工を行う。そして、レーザ光101の光軸103が絶縁基板11の薄膜10に対し概略垂直であり、レーザ光101の光軸103が、ノズル113の噴出口115の中心に対して、加工進行方向反対側の位置に偏心している。そのため、洗浄液112の流れが安定な領域で薄膜10にレーザ光101を照射するので、直線性の良い安定したスクライブ加工を実現できる。
【0071】
実施の形態2.
実施の形態1のレーザ加工装置201においては、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を洗浄液112の流れの下流側に配置する構成を示したが、実施の形態2では、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lに直交する方向に配置した場合について示す。
【0072】
図7は、本発明の形態2におけるレーザ加工装置212の構成を示す概略図である。実施の形態2では、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lに直交する方向に配置し、レーザ光101をほぼ垂直に薄膜10に照射するとともに、レーザ光101の光径より大きい液柱状の洗浄液112を噴射する。
【0073】
その他の構成および動作に関しては、実施の形態1と同様であり、相当部分には図1と同一符号を付して説明を省略する。
【0074】
図8に実施の形態2における発明者らの実施したスクライブ実験結果の模式図を示す。図8において、(a1)は、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lに直交する方向に配置した場合の位置関係を示す。また、(a2)は、(a1)の配置で薄膜10に対し、スクライブ加工を実施したときに形成されるスクライブ加工痕17の典型例を示したものである。ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lに直交する方向に配置した場合でも、実施の形態1のものと同様に、スクライブ加工痕17をみると、直線性が良く、未加工部分のないスクライブ加工が実現できている。
【0075】
図4に示した薄膜上10上の洗浄液112の流れの様子から考察すると、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lに対し直交した方向でも、洗浄液112の流れ方向と、薄膜10の相対的移動方向が逆にならないため、洗浄液112が安定して流れる。そのため、気泡等の巻き込みもなく、良好なスクライブ加工が可能である。
【0076】
実施の形態2では、実施の形態1同様の効果に加えて、ノズル113の噴出口115の開口中心軸116に対して、レーザ光101の光軸103を加工進行方向Lに対し直交した方向に配置することによって、加工進行方向Lを逆転する場合、即ち、往復で加工する場合でも、レーザ光101の照射位置での洗浄液112の状態が同じであるため、ノズル113又は、レーザ光101の光軸103の位置関係を変更しなくても、同様の加工が実現できる。そのため、往復加工において、複雑な制御を必要とせず、加工ヘッド142の構造を簡略化できる。
【0077】
以上説明したように本実施の形態2のレーザ加工装置201は、レーザ光101を出射するレーザ光源141と、レーザ光101を集光するレンズ102と、洗浄液112を供給し流速を制御する液流制御部131と、集光されたレーザ光を導入する入射窓104が設けられた洗浄液112を導入する配管111と、入射窓104から洗浄液中に導入し、洗浄液中を伝播するレーザ光101が内壁に接触しない大きさで、配管の入射窓104と対応する位置に設けられ、洗浄液112を噴射する噴出口115を有するノズル113とを備えており、洗浄液中を伝播するレーザ光101を加工対象物に照射して加工を行う。そして、レーザ光101の光軸103が絶縁基板(加工対象物)11の表面に対し概略垂直であり、レーザ光101の光軸103が、ノズル113の噴出口115の中心に対して、加工進行方向に直交した方向に偏心している。そのため、洗浄液112の流れが安定な領域で薄膜10にレーザ光101を照射するので、直線性の良い安定したスクライブ加工を実現できるとともに、レーザ光101の光軸103が、加工進行方向に直交した方向に偏心しているので、レーザ光の光軸103の位置、あるいはノズル113の噴出口115の位置を変更することなく往復加工ができる。
【0078】
なお、上記の実施の形態1および2では、薄膜10のスクライブ加工について説明したが、他の微細レーザ加工にも適応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明にかかるレーザ加工方法および装置は、薄膜太陽電池、液晶、有機エレクトロルミネッセンス、プラズマディスプレイ等のフラットパネル機器における基板上の薄膜を、レーザを用いて加工するレーザ加工方法および装置に適している。
【符号の説明】
【0080】
10 薄膜(加工対象物)
11 絶縁基板(加工対象物)
12 透明電極
13 発電層
14 裏面電極
15 光電変換領域
16 スクライブライン
17 スクライブ加工痕
18 未加工部分
21 第一のスクライブ部
22 第二のスクライブ部
23 第三のスクライブ部
101 レーザ光
102 レンズ
103 光軸
104 入射窓
111 配管
112 洗浄液
113 ノズル
114 パッキング
115 噴出口
116 開口中心軸
121 気泡
122 粉塵
131 液流制御部
141 レーザ光源
142 加工ヘッド
201、212 レーザ加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の光軸を加工対象物表面に対し概略垂直に配置し、前記レーザ光の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液をノズルから噴射して加工を行うレーザ加工方法において、
前記レーザ光の光軸が、前記ノズルの開口中心に対して、加工進行方向と反対側の位置に偏心させることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
レーザ光の光軸を加工対象物表面に対し概略垂直に配置し、前記レーザ光の照射点の領域より大きい液柱状の洗浄液をノズルから噴射して加工を行うレーザ加工方法において、
前記レーザ光の光軸が、前記ノズルの開口中心に対して、加工進行方向に直交する方向の位置に偏心させることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項3】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光を集光するレンズと、
洗浄液を供給し流速を制御する液流制御部と、
集光された前記レーザ光を導入する入射窓が設けられた前記洗浄液を導入する配管と、 前記入射窓から前記洗浄液中に導入し、前記洗浄液中を伝播するレーザ光が内壁に接触しない大きさで、前記配管の前記入射窓と対応する位置に設けられ、前記洗浄液を噴射する噴出口を有するノズルとを備え、
前記洗浄液中を伝播する前記レーザ光を加工対象物に照射して加工を行うレーザ加工装置において、
前記レーザ光の光軸が前記加工対象物の表面に対し概略垂直であり、
前記レーザ光の光軸が、前記ノズルの前記噴出口の中心に対して、加工進行方向と反対側の位置に偏心していることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光を集光するレンズと、
洗浄液を供給し流速を制御する液流制御部と、
集光された前記レーザ光を導入する入射窓が設けられた前記洗浄液を導入する配管と、 前記入射窓から前記洗浄液中に導入し、前記洗浄液中を伝播するレーザ光が内壁に接触しない大きさで、前記配管の前記入射窓と対応する位置に設けられ、前記洗浄液を噴射する噴出口を有するノズルとを備え、
前記洗浄液中を伝播する前記レーザ光を加工対象物に照射して加工を行うレーザ加工装置において、
前記レーザ光の光軸が前記加工対象物の表面に対し概略垂直であり、
前記レーザ光の光軸が、前記ノズルの前記噴出口の中心に対して、加工進行方向に直交する方向の位置に偏心していることを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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