説明

レーザ加工装置

【課題】加工用ビームの強度やその変化を精度良く表した受光量信号を取得する。
【解決手段】レーザ光源10から光ファイバ3を介してヘッド部2に導かれたレーザ光をダイクロイックミラー22に導き、ダイクロイックミラー22で反射したレーザ光を加工用ビームとして出射する。ミラー22からの透過光の光路には、加工用ビームの強度をモニタするためのフォトダイオード23と、フォトダイオード23に入る光を減衰させるための光減衰フィルタ24とが設けられる。ダイクロイックミラー22の設計上の透過率は、透過光量の誤差によりP波とS波との間に生じる透過率の差が許容範囲内に収まることを条件に定められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文字や図形などのパターンをマーキングしたり、穴開け、切断、トリミングなどの加工を行う目的に用いられるレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工装置として、ダイクロイックミラーにより分離された非可視レーザ光を加工用ビームとして出射すると共に、ダイクロイックミラーにより分離されたもう一方の光を受光素子により受光し、その受光量を加工用ビームの強度を表す情報として使用するものがある。また、この種のレーザ加工装置では、可視光線によるガイド光を加工用ビームの光路に沿って出射することにより、直接には視認できない加工用ビームの照射位置や照射の方向を確認できるようにしている。
【0003】
たとえば特許文献1には、非可視レーザ光を発するレーザ光源の光軸上にビームスプリッタとダイクロイックミラーとが一体化された鏡体を設けると共に、この鏡体を介してレーザ光源と同じ軸にあたる位置に可視レーザ光源を配備し、ダイクロイックミラーを透過した非可視レーザ光による測定光とダイクロイックミラーで反射した可視レーザ光によるガイド光とを外部に出射する構成の装置が開示されている。
【0004】
また特許文献1には、鏡体により分岐された光路上に非可視レーザ光の参照用信号を取得するための受光素子(フォトダイオード)を配備することも記載されている。さらに、非可視レーザ光を直交する2つの偏光成分を有する光とし、可視レーザ光を直線偏光の光とし、受光素子とダイクロイックミラーとの間に可視レーザ光の偏光成分を遮断するための偏光板を配備することにより、受光素子にガイド光の強度を表す成分が入射するのを防いで、参照用信号の品質を確保することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、加工用のレーザ光源とガイド光用の可視光源とをミキシングミラー(可視光域を含む波長域の光を透過させるダイクロイックミラーであると思われる。)を介して光軸を合わせた状態で配置し、ミキシングミラーで反射した加工用ビームとミキシングミラーを透過した可視ガイド光とを外部に出射する一方、レーザ光源からミキシングミラーを透過した光の光路に受光素子を設けた構成のレーザ加工装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−164951号公報
【特許文献2】特開2007−61843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年は、レーザ光源からのレーザ光を光ファイバを介してヘッド部に導く構成のレーザ加工装置が普及しているが、このタイプのレーザ加工装置では、レーザ光が光ファイバを通過する間の増幅作用などによってレーザ光の偏光特性(P波とS波との強度比)が変動する。しかも、光ファイバが動かされると、ヘッド部に入光するレーザ光の偏光特性が変わってしまうため、特許文献1に記載されている構成を採用するのは難しい。ヘッド部に入るレーザ光の偏光特性が変わると、偏光板を通過して受光素子に入射する光の強度も変動し、受光量信号の精度を確保できないからである。
【0008】
特許文献2に記載された発明では、可視光源からの光は全てダイクロイックミラーを透過してガイド光として出射されるので、可視光が受光素子の方に向かうおそれがなく、偏光板を使用しなくとも、ガイド光の影響が除外された受光量信号を得ることができる。しかしながら、ダイクロイックミラーでのP波の透過率とS波の透過率との差が大きくなると、ミラーを透過して受光素子に入射する光における各偏光成分の比率と、加工用ビームとして出射される反射光における各偏光成分の比率とが異なる状態になる。このため、光ファイバ式のレーザ加工装置に特許文献2に示された構成をそのまま導入すると、光ファイバからのレーザ光の偏光特性が変動した場合に、その変動を正しく認識するのが困難になる。
【0009】
たとえば、ダイクロイックミラーのP波の透過率がS波の透過率を大幅に上回る場合に、光ファイバからのレーザ光のP波の強度が大幅に低下すると、加工用ビームとなる反射光中のP波の強度も同様に低下し、加工用ビーム全体の強度も低下する。しかし、モニタ用の透過光におけるP波の低下の度合いは比較的緩やかになり、透過光全体の強度の低下幅も小さくなるので、加工用ビームの強度が低下したことを正しく認識できないおそれがある。また光ファイバからのレーザ光のS波の強度が大幅に高められると、加工用ビームとなる反射光中のS波の強度も同様に高められて、加工用ビーム全体の強度も高められる。しかし、モニタ用の透過光のS波の強度の上昇幅はさほど大きくならない可能性があり、そのため加工用ビームの強度が高められたことを正しく認識できないおそれがある。
【0010】
本発明は上記の問題点に着目し、加工用ビームの強度やその変化を精度良く表した受光量信号を取得できるようにすることを、技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、レーザ光源からのレーザ光が光ファイバを介してヘッド部に導かれ、ヘッド部においてレーザ光がダイクロイックミラーにより2つの光路に分けられて、一方の光路のレーザ光が加工用ビームとして外部に出射されると共に、他方の光路に加工用ビームの強度をモニタするための受光素子が設けられた構成のレーザ加工装置に適用される。本発明では、ダイクロイックミラーは、2つの光路におけるレーザ光の偏光特性が同等になるように設計される。またダイクロイックミラーと受光素子との間には光減衰フィルタが設けられる。
【0012】
上記構成においては、P波とS波との透過率(反射率と言い換えてもよい。以下も同じ。)の比率が概ね1となるように設計されたダイクロイックミラーが用いられるのが望ましい。このような特性のミラーによれば、反射光における各偏光成分の強度比と透過光における各偏光成分の強度比とをほぼ同一にすることができる。よって、反射光および透過光のいずれが加工用ビームとして使用される場合でも、各偏光成分が加工用ビームにおけるのと同様の比率で含まれる光を受光素子に導くことが可能になる。
この関係は、光ファイバからヘッド部に入るレーザ光の偏光特性が変動しても維持されるので、加工用ビームの偏光特性が変化した場合には、モニタ用の光にも同様の変化が生じ、光全体の強度の変化の状態も同様になる。よって、モニタ用の光の精度を確保することができる。
【0013】
ただし、実際のダイクロイックミラーの特性は設計どおりにはならず、誘電体層の構造のばらつきなどによって、ダイクロイックミラーからの透過光量に誤差が生じる。この透過光量の誤差は、偏光成分によって異なる場合があるので、各偏光成分の透過率に差が生じる。このため、モニタ用の光として分離される光の割合を小さくすると、透過光量の誤差が透過率に大きな影響を及ぼし、偏光成分間の透過率の差が大きくなる。そうなると、モニタ用の光の偏光特性と加工用ビームの偏光特性との間の相違が大きくなり、モニタ用の光の精度が低下する。
【0014】
一方、モニタ用の光として分離される光の割合を大きくすると、透過光量の誤差が透過率に及ぼす影響が小さくなるので、偏光成分間の透過率の差を許容範囲内に収めることができる。しかし、モニタ用の光の強度が高まるため、その光を受ける受光素子に飽和が生じるおそれがある。
【0015】
上記の問題に関して、本発明では、ダイクロイックミラーと受光素子との間に光減衰フィルタを設けているので、モニタ用の光と加工用ビームとの間における各偏光成分の透過率の差が許容範囲に収まるようにモニタ用の光の光量を上げた上で、その光を光減衰フィルタにより受光素子が飽和しない程度まで減衰させて、受光素子に導くことができる。これにより、受光素子から、加工用ビームの強度を精度良く表す受光量信号を安定して取得することが可能になる。
【0016】
上記のレーザ加工装置の一実施形態では、レーザ光源から出射されたレーザ光に対するダイクロイックミラーからの反射光が加工用ビームとして出射されると共に、この反射光路にダイクロイックミラーを介して光軸を合わせた可視光源が設けられる。またダイクロイックミラーは、レーザ光源から出るレーザ光の波長域の一部および可視光源から出る可視光を透過させる特性を具備する。
【0017】
上記の構成によれば、レーザ光源から出てダイクロイックミラーで反射したレーザ光が加工用ビームとして出射されると共に、可視光源から出てダイクロイックミラーを透過した可視光が加工用ビームに沿って出射される。これにより可視光源からの光をガイド光として機能させることができる。また、レーザ光源から出てダイクロイックミラーを透過したレーザ光がモニタ用の光として機能することになるが、可視光源からの光の殆どがダイクロイックミラーを透過するので、ダイクロイックミラーで反射してモニタ用の光の光路に沿って進む可視光がモニタ用の光に影響を及ぼすおそれがない。
【0018】
他の実施形態では、レーザ光源から出てダイクロイックミラーを透過したレーザ光を受光素子に導くための第1の導光路と、可視光源から出た可視光をダイクロイックミラーに導くための第2の導光路とが設けられると共に、双方の導光路がダイクロイックミラーに対応する場所で連通する。
さらに光減衰フィルタとして反射型減衰器が用いられる。この反射型減衰器は、第1の導光路内に傾けられた姿勢で配備され、その傾きにより、レーザ光源からダイクロイックミラーを透過したレーザ光を、可視光源に向かって進む光にならない方向に反射させる。
なお、「可視光源に向かって進む光」には、反射型減衰器から第2の導光路に直接入って可視光源に向かって進む光のほか、反射型減衰器からダイクロイックミラーに入った後に、当該ミラーで反射して第2の導光路に入り、可視光源に向かって進む光が含まれる。
【0019】
上記の構成によれば、ダイクロイックミラーから反射型減衰器を経て受光素子に向かうモニタ用の光と可視光源からダイクロイックミラーに向かうガイド用の光とを、それぞれ導光路により安定して導くことができる。また反射型減衰器で反射したレーザ光が可視光源に向かって進む光とならずに反射するように反射型減衰器の姿勢が調整されているので、反射によるレーザ光が可視光源に照射されて可視光源が破壊されるのを防ぐことができる。
【0020】
上記の反射型減衰器に係る一実施形態では、反射型減衰器は、レーザ光源からダイクロイックミラーを透過したレーザ光を第1の導光路内の壁面に反射させる姿勢をもって配備される。また他の実施形態では、反射型減衰器は、レーザ光源からダイクロイックミラーを透過したレーザ光を第2の導光路内の壁面に反射させる姿勢をもって配備される。
【0021】
また各実施形態において、反射型減衰器からの反射光が導かれる導光路の壁面に、反射型減衰器からの反射光を吸収または拡散させるための加工を施せば、当該壁面に導かれたレーザ光を当該壁面で吸収または拡散することができるので、反射型減衰器で反射したレーザ光が可視光源に導かれるのを、より確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ダイクロイックミラーにより分離された加工用ビームと偏光特性が同等の光であって、受光素子を飽和させることがない強度の光を受光素子に導くことができる。よって受光素子により得られる受光量信号に基づき、加工用ビームの強度やその変化の状態を精度良く認識することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例にかかるレーザ加工装置の構成を示す図である。
【図2】第1の変形例にかかるヘッド部の構成を示す図である。
【図3】図2と同じ構成のヘッド部に関して、反射型減衰器からの反射光の別の光路を示した図である。
【図4】第2の変形例にかかるヘッド部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明が適用されたレーザ加工装置の構成例を示す。
この実施例のレーザ加工装置は、レーザ光源10を含むコントローラ1と、レーザ光源10からのレーザ光を処理して加工用ビームを出射するヘッド部2と、コントローラ1とヘッド部2とを結ぶ光ファイバ3とを有する。コントローラ1には、レーザ光源10のほか、コンピュータを含む制御回路11、受光回路12、表示部13などが設けられる。
【0025】
ヘッド部2には、光学ユニット20、アイソレータ21、一対のガルバノミラー26A,26B、集光レンズ27などが含まれる。光学ユニット20は、L字状に連通した導光路201,202を有する支持部材200にダイクロイックミラー22、フォトダイオード23、光減衰フィルタ24、レーザダイオード25を固定した構成のものである。支持部材200はアルミニウム製であって、導光路201,202の壁面には、黒色アルマイトなどによる光吸収膜(図1では示さず。)が形成されている。またフォトダイオード23はコントローラ1の受光回路12に電気接続されている。
【0026】
レーザ光源10には、赤外光域の光を発する発振素子が含まれる。制御回路11は、このレーザ光源10の発光動作および発光強度を制御する。
レーザ光源10から出射された赤外レーザ光は光ファイバ3内で増幅されてヘッド部2内のアイソレータ21に導かれる。アイソレータ21は、赤外レーザ光の光ファイバ3への逆戻りを防止し、赤外レーザ光を光学ユニット20に向けて進行させる。
【0027】
ダイクロイックミラー22は、アイソレータ21から出た赤外レーザ光の光路上に、その光路の中心軸に対して鏡面を45度傾けた姿勢で配備される。光減衰フィルタ24およびフォトダイオード23は、このダイクロイックミラー22から透過する赤外レーザ光の光路に配備される。
【0028】
レーザダイオード25は、可視レーザ光を発するもので、赤外レーザ光の反射光路にダイクロイックミラー22を介して光軸を合わせた状態で配備される。レーザダイオード25から出た可視レーザ光は、導光路201を進行してダイクロイックミラー22に導かれる。
【0029】
ダイクロイックミラー22は、赤外光域内の約5%にあたる波長域の光と可視光とを透過させ、その他の波長域の光を反射させる特性を具備する。またこのダイクロイックミラー22は、偏光透過率比がほぼ1.0になるように設計されている。偏光透過率比は、S波の透過率Tsに対するP波の透過率Tpの比(Tp/Ts)である。
【0030】
上記特性のダイクロイックミラー22によれば、光ファイバ3およびアイソレータ21を介してダイクロイックミラー22に導かれた赤外レーザ光のうちの一部がダイクロイックミラー22を透過し、残りの赤外レーザ光は、ダイクロイックミラー22で反射してガルバノミラー26Aへと導かれる。このガルバノミラー26Aともう一方のガルバノミラー26Bとにより赤外レーザ光の照射位置および照射方向が定められる。各ガルバノミラー26A,26Bを経た赤外レーザ光は、集光レンズ27により絞り込まれて、加工用ビームとして外部に出射される。
【0031】
なお、図1には示していないが、ガルバノミラー26A,26Bは、コントローラ1の制御回路11に電気接続され、制御回路11からの信号によって各ミラー26A,26Bのモータの回転方向や回転量が制御される。
【0032】
レーザダイオード25から出た可視レーザ光は、ダイクロイックミラー22を透過し、当該ミラー22で反射した赤外レーザ光と同じ光路を辿って、ガイド光として外部に出射される。
【0033】
導光路202は、ダイクロイックミラー22を透過した赤外レーザ光を、フォトダイオード23に導くためのものであるが、両者の間には光減衰フィルタ24が設けられる。
光減衰フィルタ24として、この実施例では反射型減衰器を使用する。この反射型減衰器24は、導光路202内に、他方の導光路201との連通位置から十分な距離を隔て、導光路201への連通側の壁面に反射面を向けた姿勢で配備される。また導光路202の壁面のうち、少なくとも導光路201への連通位置から反射型減衰器24の配置位置までの範囲の壁面に、周方向に沿って複数のV字状溝204が形成されている。これらV字状溝204やその周囲にも、前記した光吸収膜が形成されている。
【0034】
ダイクロイックミラー22を透過した赤外レーザ光は、反射型減衰器24に導かれ、そのうちの一部が反射型減衰器24を透過してフォトダイオード23に入射する。残りの赤外レーザ光は、反射型減衰器24内のミラーで反射するが、その反射の方向がV字状溝204が形成されている壁面に向かうようにミラーが傾けられているので、反射した赤外レーザ光の大半はV字状溝204の形成範囲に照射されて拡散され、光吸収膜に吸収される。また、反射型減衰器24で反射した赤外レーザ光の一部は、ダイクロイックミラー22の中心部から離れた場所に入射して導光路201の壁面に向かって反射する(後記する図3に点線Qで示すのと同じ経路を辿ることになる。)が、導光路201の壁面にも光吸収膜が形成されているので、この経路を辿る赤外レーザ光も光吸収膜に吸収される。
よって、光減衰フィルタ24で反射した赤外レーザ光がダイクロイックミラー22に戻ってレーザダイオード25の方に反射するのを防ぐことができる。
【0035】
光減衰フィルタ24を通過した赤外レーザ光を受光したフォトダイオード23からの受光量信号は、コントローラ1の受光回路12に入力される。受光回路12には、この受光量信号を増幅する回路やディジタル変換のためのA/D変換回路が含まれる。制御回路11は、ディジタル変換後の受光量信号を入力して、その信号が示す受光量を表示部13に表示する。また受光量信号が示す受光量に基づきレーザ光源10の発光強度を調整したり、受光量が著しく低下した場合に表示部13等によるエラー報知を実行する。
【0036】
この実施例のダイクロイックミラー22は、偏光透過率比を約1.0とし、赤外光域の光に対する透過率を約5%とする設計に基づき、製作されたものである。この特性のダイクロイックミラー22と光減衰フィルタ24とを用いることにより、フォトダイオード23より出力される受光量信号を加工用ビームの強度を精度良く示すものにすることができる。以下、その理由について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、ダイクロイックミラー22および光減衰フィルタ24を透過した赤外レーザ光を「透過レーザ光」といい、ダイクロイックミラー22で反射した赤外レーザ光を「反射レーザ光」という。
【0037】
まず、設計どおりのダイクロイックミラー22では、P波の透過率とS波の透過率とが等しくなるので、透過レーザ光におけるP波とS波との比率は反射レーザ光におけるP波とS波との比率とほぼ同じになると考えられる。これにより、透過レーザ光の強度は、反射レーザ光の強度を正しく表すものになる。
仮に光ファイバ3が動くなどしてヘッド部2に入る赤外レーザ光の偏光特性(P波とS波との強度比率)が変わったとしても、加工用ビームと透過用ビームとの偏光特性が等しくなる状態に変わりはないので、引き続き反射レーザ光の強度を正しく反映した透過レーザ光を得ることができる。よって、ヘッド部2に入る赤外レーザ光の偏光特性の変化に左右されることなく、透過レーザ光の強度に基づき加工用ビームの強度やその変化状態を把握することができる。
【0038】
ところが、実際に製造されるダイクロイックミラーでは、誘電体層の微小な構造の違いなどの影響でミラーを透過する光の強度にばらつきが生じ、それによって透過率に誤差が生じる。P波の透過率とS波の透過率とに等しく誤差が生じるのであれば、偏光透過率比を1.0にすることができるが、現実には、透過率の誤差は偏光成分によって異なる場合があり、偏光透過率比を完全に1.0にするのは困難である。特にダイクロイックミラーにおける設計上の透過率が小さく設定されている場合に、一方の偏光成分の透過光量に比較的大きな誤差が生じると、その偏光成分の透過率が大きく変動し、偏光透過率比も1.0から大きくずれる。その結果、透過レーザ光の偏光特性と反射レーザ光の偏光特性との間に許容できない相違が生じるので、光ファイバ3からの赤外レーザ光の偏光特性の変動に対応するのが困難になる。
【0039】
具体例として、赤外レーザ光に対する透過率が1%に設定されているが、実際の透過光量に、赤外レーザ光全体の1%程度の誤差が生じ得るダイクロイックミラーについて考えてみる。このダイクロイックミラーにおいて、P波の透過光量にのみ上記した1%の誤差が生じたとすると、P波の透過率は2%となる。これに対し、S波の透過光量には殆ど誤差が生じなかったとすると、S波の透過率は1%となるので、1.0とすべき偏光透過率比が2.0となる。
【0040】
ここで、たとえば光ファイバ3からの赤外レーザ光において、S波の強度は変動せず、P波の強度が大幅に低下したとすると、反射レーザ光でも、同様にP波の強度が大幅に低下して全体の強度も低下する。これに対し、透過レーザ光におけるP波の低下は比較的緩やかで、全体の強度の低下の度合いも緩やかになる。
また光ファイバ3からの赤外レーザ光において、S波の強度は変動せず、P波の強度がやや上昇した場合には、反射レーザ光のP波の強度は大きくは変動しないので、全体の強度にも大きな変化は生じにくい。これに対し、透過レーザ光ではP波が強調されるので、P波の強度が大きく上昇して全体の強度も高められる可能性がある。
【0041】
このように、ダイクロイックミラー22における赤外光域の光に対する透過率を小さく設定すると、透過光量の誤差が透過率に大きく影響し、その結果、透過レーザ光は、反射レーザ光の強度を精度良く表さないものとなる。そこでこの実施例では、ダイクロイックミラー22における赤外レーザ光の透過率を高めに設定することにより、偏光透過率比を1.0に近い状態にして、透過レーザ光の精度を確保する。
たとえば、ダイクロイックミラーからの透過レーザ光の光量に当該ミラーに照射される光の1%に相当する誤差が生じるものとすると、透過率を5%にすれば、偏光透過率比を0.83〜1.2の範囲に含めることができる。
【0042】
透過率を高くすると、フォトダイオード23に入射する反射レーザ光が強くなり、受光量信号が飽和するおそれがあるが、この実施例では、ダイクロイックミラー22とフォトダイオード23との間に反射型減衰器24を配備し、この反射型減衰器24により減衰された光をフォトダイオード23に導くようにしたので、フォトダイオード23の飽和を防ぐことができる。よってフォトダイオード23からの受光信号を処理することにより、加工用レーザ光の強度を安定して得ることができる。
【0043】
また反射型減衰器24を、その反射面を透過レーザ光の光路に直交させて配備すると、反射型減衰器24で反射した赤外レーザ光がダイクロイックミラー22に戻ってレーザダイオード25の方に反射し、その反射光がレーザダイオード25に入射した結果、レーザダイオード25が損傷する可能性がある。しかしこの実施例では、反射型減衰器24の反射面を導光路201への連通側の壁面に向けて傾けて配備することにより、この壁面に大半の反射光を導いてV字状溝204により拡散させた上で光吸収膜に吸収し、反射型減衰器24からダイクロイックミラー22を介して導光路201の上側の壁面に導かれる反射光も当該壁面の光吸収膜に吸収されるようにしたので、レーザダイオード25に反射光が照射されるのを防ぐことができる。
【0044】
なお、この実施例では、導光路202の壁面に形成したV字状溝204により、反射型減衰器24からの反射光を拡散させたが、反射光を拡散させる手段はこれに限らず、壁面に複数の突部を設けたり、壁面を細かい凹凸による粗面にしてもよい。また範囲を限定せずに、導光路202の壁面全体に光を拡散させる加工を施してもよい。ただし、光を拡散させる加工をせずに、黒色アルマイト等による光吸収膜のみを形成してもよい。また、反射型減衰器24からの反射光が直接照射される箇所やダイクロイックミラーを介して導かれる可能性のある箇所のみを対象に、光を拡散させる加工を施したり、光吸収膜を設けてもよい。
【0045】
また、上記の実施例では、レーザダイオード25からの可視レーザ光をダイクロイックミラー22に導くための導光路201と、ダイクロイックミラー22から透過した赤外レーザ光をフォトダイオード23に導くための導光路202とを、ダイクロイックミラー22を介してL字状に連通させているが、導光路201,202の連通に関する構成はこれに限定されるものではない。また連通部分の形状が変われば、反射型減衰器24の姿勢や反射型減衰器24からの反射光の方向も変化し、これに合わせて光を拡散させる加工や光吸収膜が必要な箇所を変える必要がある。
【0046】
上記の変形の具体例として、以下、図2〜図4を参照して2つの具体例を説明する。なお、各例の光学系の基本構成は図1の例と同じであるので、図示のみで説明を省略する。また図1の例と同一の構成および対応する構成を同じ符号により示す。またコントローラ1の図示は省略する。
【0047】
図2および図3は、第1の変形例にかかるヘッド部2の構成を示す。
この実施例の光学ユニット20では、レーザダイオード25を含む導光路201と受光素子23および反射型減衰器24を含む導光路202とを、それぞれ対応する光路に合わせた長さにし(最初の実施例より短くする。)、ダイクロイックミラー22の鏡面に平行な導光路203を間に挟んで、導光路201,202,203を連通させている。
【0048】
反射型減衰器24の位置や姿勢は図1の例と同じであるが、導光路203への連通口近くに反射面を臨ませた状態となるため、反射型減衰器24からの反射光を導光路202内で処理することはできない。しかし、主な反射光は、図2中の点線Pに示す経路、すなわち導光路203を通過してさらに導光路201を横切り、その上方側の壁面へと向かう経路を辿る。また、図3中の点線Qに示すように、ダイクロイックミラー22に入った後にミラー22から導光路201へと反射する光もあるが、この光も、導光路201の上方側の壁面に照射される。
【0049】
上記の反射光の特性に鑑み、この実施例では、少なくとも導光路210の上方側の壁面に光吸収膜210を形成する。これにより、反射型減衰器24から導光路210の上方側の壁面に直接に導かれた赤外レーザ光および反射型減衰器24からダイクロイックミラー22を介して当該壁面に導かれた赤外レーザ光を、光吸収膜210に吸収することができる。これによりレーザダイオード25に赤外レーザ光が入射するのを防ぐことができる。
【0050】
図4は、第2の変形例にかかるヘッド部2の構成を示す。
この実施例の光学ユニット20にも、第1の変形例と同様の構成の導光路201,202,203が設けられるが、導光路202内の反射型減衰器24は、先の2例の反射型減衰器24とは鏡面の向きの高低を逆にして配備される。この鏡面の傾きにより、ダイクロイックミラー22を透過して反射型減衰器24で反射した赤外レーザ光は、図4中の点線Rに示すように、ダイクロイックミラー22に入射した後に導光路203を横切る方向に反射し、導光路203のダイクロイックミラー22に対向する箇所の壁面に照射される。さらにこの照射対象の壁面に光吸収膜210が形成されるので、反射型減衰器24からダイクロイックミラー22を介してこの壁面に導かれた赤外レーザ光は光吸収膜210に吸収される。これにより、レーザダイオード25に赤外レーザ光が入射するのを防ぐことができる。
【0051】
なお、第1および第2の変形例とも、導光路201および導光路203の壁面全体に光吸収膜210を形成してもよい。また最初の実施例と同様に、光吸収膜210が形成する範囲にV字状溝などによる光拡散のための加工を施してもよい。
【0052】
また、最初の実施例および2つの変形例のいずれにおいても、光減衰フィルタ24は反射型に限らず、光を吸収するタイプのフィルタや光を拡散させるタイプのフィルタを用いることもできる。これらのフィルタを用いる場合には、光減衰フィルタ24を傾けることなく配置してもよい。また導光路の壁面に光の吸収や光の拡散のための加工を施さなくとも、特に支障は生じない。
【0053】
また、第1および第2の変形例では、説明の便宜上、光学ユニット20に3つの導光路201,202,203が存在するとしたが、導光路203は導光路201または導光路202と一体のものであると考えてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 コントローラ
2 ヘッド部
3 光ファイバ
10 レーザ光源
22 ダイクロイックミラー
23 フォトダイオード
24 光減衰フィルタ(反射型減衰器)
25 レーザダイオード
201,202,203 導光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源からのレーザ光が光ファイバを介してヘッド部に導かれ、ヘッド部において前記レーザ光がダイクロイックミラーにより2つの光路に分けられて、一方の光路のレーザ光が加工用ビームとして外部に出射されると共に、他方の光路に加工用ビームの強度をモニタするための受光素子が設けられたレーザ加工装置において、
前記ダイクロイックミラーは、前記2つの光路におけるレーザ光の偏光特性が同等になるように設計されると共に、ダイクロイックミラーと前記受光素子との間に光減衰フィルタが設けられている、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記レーザ光源から出射されたレーザ光に対するダイクロイックミラーからの反射光が加工用ビームとして出射されると共に、この反射光路にダイクロイックミラーを介して光軸を合わせた可視光源が設けられ、
前記ダイクロイックミラーは、前記レーザ光源から出るレーザ光の波長域の一部および可視光源から出る可視光を透過させる特性を具備する、請求項1に記載されたレーザ加工装置。
【請求項3】
前記レーザ光源から出てダイクロイックミラーを透過したレーザ光を受光素子に導くための第1の導光路と、前記可視光源から出た可視光をダイクロイックミラーに導くための第2の導光路とが設けられると共に、双方の導光路がダイクロイックミラーに対応する場所で連通し、
前記光減衰フィルタは反射型減衰器であって、前記第1の導光路内に傾けられた姿勢で配備され、その傾きにより、前記レーザ光源からダイクロイックミラーを透過したレーザ光を、前記可視光源に向かって進む光にならない方向に反射させる、請求項2に記載されたレーザ加工装置。
【請求項4】
前記反射型減衰器は、前記レーザ光源からダイクロイックミラーを透過したレーザ光を第1の導光路内の壁面に反射させる姿勢をもって配備される、請求項3に記載されたレーザ加工装置。
【請求項5】
前記反射型減衰器は、前記レーザ光源からダイクロイックミラーを透過したレーザ光を前記第2の導光路内の壁面に反射させる姿勢をもって配備される、請求項3に記載されたレーザ加工装置。
【請求項6】
前記反射型減衰器からの反射光が導かれる導光路の壁面に、反射型減衰器からの反射光を吸収または拡散させるための加工が施されている、請求項3〜5のいずれかに記載されたレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−10116(P2013−10116A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144171(P2011−144171)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】