説明

レーザ式ガス分析計

【課題】簡易な光量補正ロジックを追加することで、正確な光量補正を行い、濃度を正確に算出できるようにしたレーザ式ガス分析計を提供する。
【解決手段】周波数変調方式のレーザ式ガス分析計において、同期検波回路の検出信号から測定対象ガスについての受光光量実測値および測定対象ガスのガス濃度指示値を取得し、ガス濃度指示値とオフセット吸収係数とを用いて測定対象ガスの受光光量理論値を算出し、受光光量理論値から受光光量実測値を引いて算出した光量変動分と、同期検波回路の検出信号から取得したスパンを用いて測定対象ガスの濃度真値を算出するようなレーザ式ガス分析計とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙道内における測定対象ガスの有無や濃度を分析するレーザ式ガス分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術のレーザ式ガス分析計について説明する。まずレーザ式ガス分析計のガス濃度測定原理について説明する。図9はNH(アンモニア)ガスの吸収スペクトラム例を示す特性図である。気体状のガス分子には、それぞれ固有の光吸収スペクトルがあることが知られており、例えば、この図9のNHガスの吸収スペクトラムの特性図に示すように、縦軸が吸収量であり、波長別に吸収量が相違する。
【0003】
レーザ式ガス分析計は、このようなガスにレーザ光を照射し、特定波長のレーザ光をガスの濃度に比例して吸収させ、この特定波長の吸収量がガスの濃度に比例することを利用してガス濃度を測定する。このようなレーザ式ガス分析計の測定方式は、さらに、2波長差分方式と周波数変調方式とに大別される。
このうち周波数変調方式に関するレーザ式ガス分析計の従来技術として、例えば、特許文献1(国際公開WO2008/096524号公報、発明の名称「レーザ式ガス分析計」)に記載の発明が知られている。
【0004】
この特許文献1の従来技術について説明する。図10は、従来技術(特許文献1)のレーザ式ガス分析計を示す構造図であって、全体的な構成を示している。このレーザ式ガス分析計は、周波数変調方式のレーザ式ガス分析計である。レーザ式ガス分析計は、図10に示すように、フランジ101a,101bにより、例えば、煙道のように測定対象ガスが内部を通流する配管などの壁201,202に溶接等によって固定されている。一方のフランジ101aには、透明な出射窓101cが設けられている。また、フランジ101aには、取付座102aを介して有底円筒状のカバー103aが取り付けられている。
【0005】
カバー103aの内部には光源部104が配置されており、この光源部104から出射したレーザ光はコリメートレンズ105を含む光源側光学系によって平行光にコリメートされ、フランジ101aの中心を通り、出射窓101cを介して壁201,202の内部(煙道内部)へ入射される。この平行光は、壁201,202の内部にある測定対象ガスを透過する際に吸収を受ける。
【0006】
他方のフランジ101bには、取付座102bを介して有底円筒状のカバー103bが取り付けられている。また、フランジ101bには透明な入射窓101dが設けられている。煙道内部を通過した平行光は、入射窓101dを経て、カバー103b内部の受光側光学系である集光レンズ106により集光されて受光部107により受光され、電気信号に変換されて後段の信号処理回路108に入力される。
【0007】
このようなレーザ式ガス分析計では受光光量が変化するという問題がある。この点について説明する。煙道内には測定対象ガス以外にダストや測定波長領域に吸収を持つ他のガス成分といった外乱が存在する。例えば、煙道内にダストが存在すると、光源部104から発せられるレーザ光が散乱され、受光部107の受光光量が低下する。そして、図11に示すように、受光光量が経時変動するという特性を有する。このような受光光量の経時変動に伴い、同一濃度の測定対象ガスに対するピーク振幅も変動してしまい、測定誤差が生じることとなる。
【0008】
そこで、測定誤差を生じさせないようにするため、ピーク振幅(以下、スパンと表記)の受光光量による補正を行っている。このような補正は、特許文献1にも記載されているが、波長走査駆動信号成分の任意の1点を受光光量として常時モニタリングし、スパンを受光光量の変動に応じて補正する手法がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2008/096524号公報(特に受光光量の補正に関し、段落番号0082〜0087、図15A,図15Bを参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年では、半導体レーザの一種であり、室温で連続発振可能な量子カスケードレーザ(以下、Quantum cascade laserの略称であるQCLと称する)が実用化された。QCLは従来の半導体レーザでは実現不可能であった中赤外領域(4〜10μm)という広範囲な領域の波長を発光することができる。このQCLを用いることにより、NH(アンモニア)ガス以外でも、SO,NO,NO等のように中赤外領域レーザ光に吸収波長が含まれるガス成分を測定することが可能となり、従来技術では不可能であった吸収波長を有するガスの分析を可能とするレーザ式ガス分析計を実現することができる。
【0011】
また、受光素子として、同じく中赤外領域に感度を有する赤外線検出素子、例えばMCT(Mercury Cadmium Tellurium)光導電素子(以下、MCTと表記する)を用いることが好ましい。
【0012】
ここで、一例として図12にSOガスの吸収スペクトラム例を示す。SO濃度測定を行う場合、QCLの波長は7.2〜7.4μmが好ましい。そして、図13に、周波数変調方式のレーザ式ガス分析計によるSOガスの濃度測定時の検出信号を示す。これは後述する同期検波回路から出力された信号である。SOガスの吸収がある場合は、レーザ式ガス分析計は図13に示すようなガスの吸収波形を検出する。このピーク値がガス濃度となるため、この出力のピーク振幅を計測することにより、SOガスの濃度測定が可能となる。また、信号変化を積分してもよい。
【0013】
しかしながら、このようなQCL,MCTを用いるレーザ式ガス分析計では測定安定性が得られない場合があった。この測定安定性について説明する。具体例として図14に時間−SO濃度の測定特性図を示す。QCL,MCTを用いるレーザ式ガス分析計で一定値のガス濃度であるSO濃度を検出しても、図14でも明らかなように、時間経過により変動して検出されるという事象が確認されている。本願発明者は鋭意原因を追求し、受光部における受光光量の変化により測定安定性が変動することを知見した。この受光光量の変化の原因として以下(1)〜(3)が挙げられる。
【0014】
(1)MCTの熱特性による受光光量の変化
MCTは感熱性素子であるため、300Kの背景放射によるノイズを受けることや周囲温度の変化により感度が変動し、受光光量が変化する。これは、図14における受光部温度変化(下側グラフ)と同じ傾向でガス濃度が(上側グラフ)が変動することからも明らかである。
【0015】
(2)外乱による受光光量の変化
測定対象ガスにはダストや測定波長領域に吸収を持つ他のガス成分という外乱が含まれており、これら外乱により受光光量が変動する。
【0016】
(3)オフセット吸収による受光光量の変化
先に説明した図12に示すように、SOガスは前述の温度測定に適した波長範囲において、所定の波長で観察される吸収ピーク以外にも、波長に明確に依存しないオフセット的な吸収(以下、オフセット吸収と表記)を有することが特徴である。そのため、MCTの受光光量信号は、煙道内のダスト濃度に加えて、測定対象ガス濃度によっても受光光量が変動する。
【0017】
これらのように(1)〜(3)の要因により受光光量が変動する。前述した従来のレーザ式ガス分析計の光量補正方法を用いた場合、受光光量信号の変動には、煙道内のダスト等の外乱やレーザ光量変動のみによる受光光量の変動には対応できるが、オフセット吸収分とMCTの感度変動分とによる受光光量の変動については考慮されていないため、前述した従来のレーザ式ガス分析計の光量補正方法を単純に適用することができず、正確な光量補正ができない、という問題があった。少なくともオフセット吸収分を、そして可能であるならばMCTに特有のMCTの感度変動分も除去したいという要請があった。
【0018】
そこで、本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オフセット吸収による受光光量の変動に対応するように正確な光量補正を行い、濃度をより正確に算出できるようにしたレーザ式ガス分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の請求項1に係るレーザ式ガス分析計は、
周波数変調された中赤外領域レーザ光を出射する光源部と、この光源部からの出射光をコリメートする光源側光学系と、この光源側光学系から測定対象ガスが存在する空間を介して伝播された透過光を集光する受光側光学系と、この受光側光学系により集光された光を受光する受光部と、この受光部の出力信号を処理する信号処理回路と、処理された信号に基づいて測定対象ガスの濃度を測定する中央処理部と、を有するレーザ式ガス分析計において、
前記光源部は、
中赤外領域レーザ光を発光するレーザ素子と、
前記レーザ素子の温度を安定化させる発光側温度安定化手段と、
測定対象ガスの吸収波長を走査するように前記レーザ素子の発光波長を可変とする可変駆動信号と、前記レーザ素子の発熱量を減少させるように前記レーザ素子の発光を停止するオフセット信号と、を含む波長走査駆動信号に対し、前記発光波長を変調するための高周波変調信号を合成してレーザ駆動信号として出力するレーザ駆動信号発生部と、
このレーザ駆動信号発生部から出力された前記レーザ駆動信号を電流に変換して前記レーザ素子へこの電流を供給する電流制御部と、
を備え、
前記受光部は、
中赤外領域に感度を有する受光素子と、
この受光素子の温度を安定化させる受光側温度安定化手段と、
を備え、
前記信号処理回路は、
前記受光部の出力信号から光源部における変調信号の2倍周波数成分の信号の振幅を検出して検出信号を出力する同期検波回路と、
を備え、
前記中央処理部は、
受光光量初期値R、測定対象ガスのフルスケール濃度A、フルスケール濃度の測定対象ガスを測定した時のスパンS、係数a,bが予め登録されており、
同期検波回路の検出信号から測定対象ガスについての受光光量実測値Rを取得する受光光量実測手段と、
同期検波回路の検出信号から測定対象ガスのガス濃度指示値X〔ppm・m〕を取得するガス濃度指示値取得手段と、
オフセット吸収係数rを用いて測定対象ガスの受光光量理論値RをR=R−rXにより算出する受光光量理論値算出手段と、
光量変動分RをR=R−Rにより算出する光量変動分算出手段と、
同期検波回路の検出信号から求められるスパンSおよび係数a,bを用いて測定対象ガスの濃度真値YをY=S/(a(R−R)−b)により算出する測定対象ガス濃度算出手段と、
として機能することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項2に係るレーザ式ガス分析計は、
請求項1に記載のレーザ式ガス分析計において、
前記受光光量実測手段は、前記検出信号の前記波長走査駆動信号成分のうち、レーザ最大発光時の受光光量実測値とレーザ未発光時の受光光量実測値とを抽出して、その差分値を測定対象ガスについての受光光量実測値Rとする手段とし、
受光素子の変動成分を除去することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項3に係るレーザ式ガス分析計は、
請求項1または請求項2に記載のレーザ式ガス分析計において、
測定中に受光光量理論値Rに対する受光光量実測値Rの変動率が、予め定められた値を超える場合において補正を行うことを決定する決定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、オフセット吸収による受光光量の変動に対応するように正確な光量補正を行い、濃度をより正確に算出できるようにしたレーザ式ガス分析計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態のレーザ式ガス分析計を示す全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態のレーザ式ガス分析計の光源部の構成図である。
【図3】波長走査駆動信号発生部からの出力信号図である。
【図4】本発明の実施の形態のレーザ式ガス分析計のレーザ素子の波長走査駆動信号波形、SOガスの吸収波形、同期検波回路のガス吸収波形を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態のレーザ式ガス分析計の受光部、信号処理回路および中央処理部の構成図である。
【図6】周波数変調方式の原理図である。
【図7】SO濃度−スパン特性およびSO濃度−オフセット吸収量特性を示す特性図である。
【図8】受光光量−スパン吸収係数特性を示す特性図である。
【図9】NHガスの吸収スペクトラム例を示す特性図である。
【図10】従来技術のレーザ式ガス分析計の説明図である。
【図11】受光光量によるスパンの変動を示す特性図である。
【図12】SOガスの吸収スペクトラム例を示す特性図である。
【図13】周波数変調方式のレーザ式ガス分析計によるSOガスの濃度測定時の検出信号を示す図である。
【図14】受光光量変動があるときのSO濃度測定結果例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、本発明を実施するための形態について図を参照しつつ以下に説明する。なお、先の図で説明した従来技術と共通する構成があるが、発明の明瞭化のため再度説明する。図1は、本形態のレーザ式ガス分析計を示す構造図であって、全体的な構成を示している。このレーザ式ガス分析計は、周波数変調方式のレーザ式ガス分析計である。レーザ式ガス分析計は、図1に示すように、フランジ101a,101bにより、例えば、煙道のように測定対象ガスが内部を通流する配管などの壁201,202に溶接等によって固定されている。一方のフランジ101aには、透明な出射窓101cが設けられている。また、フランジ101aには、取付座102aを介して有底円筒状のカバー103aが取り付けられている。
【0025】
カバー103aの内部には光源部104が配置されている。光源部104はレーザ素子104e(図2参照)を備えており、このレーザ素子104eは、詳しくはQCLを用いている。この光源部104から出射したレーザ光はコリメートレンズ105を含む光源側光学系によって平行光にコリメートされ、フランジ101aの中心を通り、出射窓101cを介して壁201,202の内部(煙道内部)へ入射される。この平行光は、壁201,202の内部にある測定対象ガスを透過する際に吸収を受ける。
【0026】
他方のフランジ101bには、取付座102bを介して有底円筒状のカバー103bが取り付けられている。また、フランジ101bには透明な入射窓101dが設けられている。煙道内部を通過した平行光は、入射窓101dを経て、カバー103b内部の受光側光学系である集光レンズ106により集光されて受光部107により受光される。受光部107は、詳しくはMCTを使用している。受光部107は、集光を電気信号に変換し、この電気信号が後段の信号処理回路108に入力される。この信号処理回路108は、中央処理部109に接続されている。
【0027】
次に、光源部104の詳細について説明する。図2は光源部104の構成を示している。この光源部104は、測定対象ガスの吸収波長を走査するようにレーザ素子の発光波長を可変とする波長走査駆動信号発生部104aと、測定対象ガスの吸収波長を検出するために、例えば6.5kHz程度の正弦波で波長を周波数変調するための高周波数変調信号発生部104bと、からなるレーザ駆動信号発生部104sを備えており、これらの信号発生部104a,104bの出力信号が合成されてレーザ駆動信号が生成されるようになっている。上記レーザ駆動信号は電流制御部104cにより電流に変換され、QCLによるレーザ素子104eに供給される。このQCLによるレーザ素子104eは中赤外領域レーザ光を発光する。
【0028】
また、レーザ素子104eには発光側温度安定化手段が設けられている。この発光側温度安定化手段は、温度制御部104d、サーミスタ104f、ペルチェ素子104gを備える。レーザ素子104eに近接して温度検出素子としてのサーミスタ104fが配置され、このサーミスタ104fにはペルチェ素子104gが近接して配置されている。このペルチェ素子104gは、サーミスタ104fの抵抗値が一定値になるようにするため、温度制御部104dによって制御が行われ、結果としてレーザ素子104eの温度を安定化するように動作するものである。
【0029】
ここで、波長走査駆動信号発生部104aから出力される波長走査駆動信号は、図3に示すように、可変駆動信号S1およびオフセット信号S2により一のほぼ台形波状の単位波形となり、このような単位波形が一定周期で繰り返される信号である。ここで、オフセット部分S2は、光源部104のレーザ素子104eのスレッショルド電流値未満の電流を、光源部104のレーザ素子104eに供給するような値に設定する。
【0030】
また、波長走査駆動信号の可変駆動信号S1は、吸収波長を走査する信号であり、電流制御部104cを介してレーザ素子104eに供給される電流の大きさを直線的に変えることにより、レーザ素子104eの発光波長を徐々にずらしていき、吸収波長を走査する信号である。信号S1の傾き、すなわち、供給電流の変化量によって、発光波長をサブnm〜数nmの範囲で走査可能である。例えばSOガスであれば、0.2nm程度の線幅を走査可能とする部分である。
【0031】
また、波長走査駆動信号のオフセット信号S2は、レーザ素子104eが発光するスレッショルド電流値未満の電流をレーザ素子104eに供給するような値とした信号であり、レーザ素子104eを発光させないオフセット部分である。波長走査駆動信号発生部104aがこのオフセット信号S2を出力しているタイミングではQCLは未発光である。信号S1と信号S2とは交互に切り替わるように挿入されている。
【0032】
このようにオフセット信号S2が、レーザ素子104eの発光が安定するスレッショルド電流値未満であり、さらに可変駆動信号S1の時間に対してオフセット信号S2の時間が大幅に長い。
このような間欠発光条件、すなわち、信号S1と信号S2の時間の比は、QCLであるレーザ素子104eの発熱量とペルチェ素子等の温度安定化手段の性能とを勘案して決定すれば良く、例えばS1:S2=1:2とすることにより、連続発光する場合と比較して、発熱量を大幅に低減することができる。
【0033】
仮にQCLを用いる光源部を連続発光させたり、または、少し停止するが殆ど連続して発光させたりすると発熱が過大となり、ペルチェ素子による温度制御が困難になることが予想されるが、本形態では上記のようにQCLを発光時間よりも消光時間が長いように間欠発光させることにより、QCLの発熱量を低減し、従来のレーザ式ガス分析計と同等の構成およびコストでQCLの使用が可能となるようにした。発光時間と消光時間との割合は、発光側温度安定化手段(図2の温度制御部104d、サーミスタ104f、ペルチェ素子104g)により温度安定化が可能な限界温度を想定したとき、この限界温度よりも低い温度となるように発光時間と消光時間との割合が決定される。この場合、少なくとも発光時間よりも消光時間を長くして、温度を低下させる。このような駆動方式は、QCLやMCTの不安定性の解消に寄与するものである。
【0034】
さて、このような波長走査駆動信号発生部104aから出力される波長走査駆動信号に対し、高周波変調信号発生部104bからの高周波変調信号を合成して周波数変調を行い、図4で示すようなレーザ駆動信号を生成する。このレーザ駆動信号は、SOガスの場合では、高周波変調信号の周波数を6.5kHz、波長走査駆動信号の周波数を20Hzとなり、λ、λはSOガスの吸収波長に相当する走査範囲の上下限値を示している。
【0035】
なお、波長走査駆動信号のλ、λはSOガスの吸収波長に相当する走査範囲として説明しているが、SO以外にも、NOのガス成分を測定したり、または、NOのガス成分を測定したりすることができる。しかしながら、QCLの特性(電流や温度による波長走査可能範囲)とSO,NO,NOの吸収スペクトルを合わせて勘案すると、SO,NO,NOの何れか一つについての単成分計として個別に測定するレーザ式ガス分析計となる。この場合レーザ式ガス分析計では、SO,NO,NO等の中から一つ選定された測定対象の吸収波長に対応した発光波長を持つQCLが選定され、この測定対象のガス成分に応じて中赤外領域のλ、λが設定される。このようなレーザ駆動信号が出力される。
【0036】
次に、図5は、受光部107、信号処理回路108および中央処理部109の構成を示している。中赤外領域に感度を有するMCT光導電素子は低温でないと十分な感度が得られないため、MCT光導電素子である受光素子107aに対して、受光側温度安定化手段を受光部107に設けている。
【0037】
受光側温度安定化手段は、さらにサーミスタ107b、ペルチェ素子107c、温度制御部107dを備え、受光素子107aを冷却する。具体的には、MCT光導電素子内にサーミスタ107bやペルチェ素子107cが内蔵される。このように受光素子107aに近接して温度検出素子としてのサーミスタ107bが配置され、このサーミスタ107bにはペルチェ素子107cが近接して配置されている。
【0038】
このペルチェ素子107cは、サーミスタ107bの抵抗値が一定値になるように温度制御部107dによって制御され、結果として受光素子107aの温度を安定化するように動作するものである。このような受光側温度安定化手段により、例えばMCT光導電素子の動作温度を−3℃で一定にする。
【0039】
MCT光導電素子である受光素子107aは、QCLであるレーザ素子104eの中赤外領域レーザ光の発光波長に感度を持つ受光素子である。この受光部107の出力電流はI/V変換器108aへ入力される。I/V変換器108aは、発振器108cから2f信号(2倍波信号)が入力されており、出力電流に対して2f信号(2倍波信号)により変調してから電圧に変換して電圧信号を出力する。この電圧信号が同期検波回路108bに入力される。同期検波回路108bはこの電圧信号に対して検波を行い、変調信号の2倍周波数成分の振幅のみを取り出す。
【0040】
ここで周波数変調方式のレーザ式ガス分析計の計測原理について説明する。図6は、周波数変調方式の原理図を示している。この周波数変調方式のレーザ式ガス分析計では、中心周波数fc、変調周波数fmで半導体レーザの出射光を周波数変調し、測定対象ガスに照射する。ここで、周波数変調とは、レーザ素子104eに供給するドライブ電流の波形を正弦波状にすることである。
周波数変調方式で距離の影響をキャンセルするためには、半導体レーザ素子の出力を周波数変調すると同時に周波数fmで振幅変調を行えばよいのであるが、半導体レーザ素子の出力に周波数変調を掛けると振幅変調も掛かるので、これが利用できる。
【0041】
図6に示したように、ガスの吸収線は変調周波数に対してほぼ2次関数となっているので、この吸収線が弁別器の役割を果たし、受光部では変調周波数fmの2倍の周波数の信号(2倍周波数信号)が得られる。ここで、変調周波数fmは任意の周波数で良いため、例えば、変調周波数fmを数kHz程度に選ぶと、デジタル信号処理装置(DSP)または汎用のプロセッサを用いて、2倍周波数信号の抽出等の高度な信号処理を行うことが可能になる。
【0042】
また、受光部によりエンベロープ検波を行えば振幅変調による基本波を推定でき、この基本波の振幅と前記2倍周波数信号の振幅との比を位相同期させて検出することで、距離に関係なく測定対象ガス濃度に比例した信号を得ることができる。
【0043】
このような原理のもと、同期検波回路108bにおいて、測定対象ガスによるレーザ光の吸収が無い場合は、同期検波回路108bによって2倍波信号が検出されないので、同期検波回路108bの出力はほぼ直線となる。
一方、測定対象ガスによるレーザ光の吸収がある場合は、同期検波回路108bによって出射光の変調信号の2倍周波数成分の振幅のみが抽出された信号である2倍波信号が検出される。その出力波形は図4の長方形の枠内に図示された同期検波回路108bの出力波形に示すようになる。この波形はフィルタ108dによりノイズが除去され、適宜増幅して後段のCPUやDSP等である中央処理部109へ出力される。
なお、I/V変換器108aからの出力信号は抽出回路(フィルタ)108eにも入力され、抽出された波長走査駆動信号成分S11が中央処理部109に送られるが、この波長走査駆動信号成分S11は後述するタイミング同期で用いられることとなる。
【0044】
この図4の四角枠内に示される同期検波回路108bの出力波形のピーク値が測定対象ガスの濃度に相当するため、ピーク値を測定するか、あるいは波形の一部または全部を積分してその積分値から測定対象ガスの濃度を検出すればよい。以下、この濃度検出手段によって求められるピーク値、あるいは積分値を「スパン」と表記する。
【0045】
次いで、光量補正の原理について説明する。
(1)MCTの熱特性による受光光量の変化に対する補正
図3で示す波長走査駆動信号S11の波形は、光源部104のレーザ素子への供給電流を直線的に変化させて光源部104のレーザ素子の発光波長を徐々に変化させる部分S1と、レーザ素子が発光しないオフセット部分S2と、からなる基本波が一定周期で繰り返される波形である。
【0046】
光量を計測するとき、図5に示す中央処理部109へはI/V変換器108a、抽出回路108eを経て、図3で示すような波長走査駆動信号成分S11が入力される。中央処理部109は信号S1の出力終了時のタイミングと信号S2の出力を開始するタイミングと、すなわちQCL発光量最大時とQCL未発光時とにおいて、図2の同期検波回路108b、フィルタ108dを経て入力される図13の同期検波回路信号出力からデジタルデータである受光光量実測値をそれぞれ入力し、その差分を取って受光光量実測値Rとし、この受光光量実測値Rを、一定時間ごとに、例えば1秒ごとに中央処理部109の図示しないメモリ部に保存する。隣接するタイミングで取得された二個の受光光量実測値には受光素子の長期周期の感度変動分が共に含まれており、差分値をとることで感度変動分を除去することができ、正確な受光光量をモニタリングすることが可能となる。これにより、受光光量信号からMCTの感度変動分を除去した受光光量実測値Rを取得することが可能となる。
【0047】
(2)ダスト等の外乱およびオフセット吸収による受光光量の変化に対する補正
また、本願発明者は、SOのオフセット吸収による光量変動量とSO濃度との関係を詳細に調査した結果、受光光量信号に含まれる、SOのオフセット吸収による光量変動分とダスト等の外乱による光量変動分とを区別して、以下の数1,数3のように算出することが可能であることを見出した。
【0048】
[数1]
=R−rX
【0049】
〔V〕は、SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時の受光光量理論値(ダスト等の外乱影響なし)である。
〔V〕は受光光量初期値である。なお、R〔V〕はレーザ式ガス分析計を煙道に設置した直後に、測定対象ガスや前記外乱が存在しない状況で測定した値である。
r〔V/ppm・m〕はオフセット吸収係数である。ここで、rXは、SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時のオフセット吸収による光量変動量rX〔V〕となる。
また、X〔ppm・m〕は計測により求められるSO濃度指示値である。このXは、数2のように算出される。
[数2]
X=A・(S/S
なお、Aは測定対象ガスのフルスケール濃度〔ppm・m〕である。
〔V〕はSO濃度指示値X〔ppm・m〕の時のスパンである。
は出荷前の工場試験時に、フルスケール濃度の測定対象ガスを測定した時のスパン〔V〕である。
上記のAおよびSが中央処理部109の図示しないメモリに登録されている。
【0050】
すなわち、SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時の受光光量理論値R〔V〕は、受光光量初期値R〔V〕からSO濃度指示値X〔ppm・m〕の時のオフセット吸収による光量変動量rX〔V〕を差し引いたものであり、この点でオフセット吸収による光量変動を考慮したものである。続いて数3について説明する。
【0051】
[数3]
=(R−Z)−r’Y
【0052】
〔V〕は、SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時の受光光量実測値である。
Z〔V〕はダスト等の外乱による受光光量変動量である。
r’〔V/ppm・m〕は、ダスト等の外乱により受光光量が(R−Z)〔V〕に変動した時のオフセット吸収係数である。
Y〔ppm・m〕は、SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時の、煙道内の実際のSO濃度真値である。
【0053】
すなわち、SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時の受光光量実測値R〔V〕は、受光光量初期値R〔V〕から前記外乱による受光光量変動量Z〔V〕と、SO濃度実測値Y〔ppm・m〕に対する、オフセット吸収による受光光量変動量r’Y〔V〕を差し引いたものであり、この点で外乱による光量変動を考慮したものである。
【0054】
SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時の受光光量理論値Rから受光光量実測値Rを引いた差R〔V〕は、上記の数1,数3から数4のように表される。
【0055】
[数4]
=R−R=Z+r’Y−rX
【0056】
図7に、ダスト等の外乱による光量変動がない場合の、SO濃度とスパンとの関係及びSO濃度とオフセット吸収による受光光量変動量との関係の一例を示す。SO濃度とオフセット吸収による受光光量変動量の関係を示す近似直線の傾きがオフセット吸収係数rである。また、SO濃度とスパンの関係を示す近似直線の傾きをスパン係数s〔V/ppm・m〕とすると、s≒10×rであることが分かる。
【0057】
図8にオフセット吸収係数r及びスパン係数sと、受光光量との関係の一例を示す。前記外乱により、受光光量に対するオフセット吸収係数及びスパン係数の変動率は同様であり、受光光量が変動しても、上記のrとsの関係は不変であることが分かる。
ここで、s〔V/ppm・m〕をSO濃度指示値X〔ppm・m〕の時のスパン係数、s’〔V/ppm・m〕をダスト等の外乱により受光光量が(R−Z)〔V〕に変動した時のスパン係数とすると、数4はスパン係数を用いて数5のように表せる。
【0058】
[数5]
=Z+r’・S/s’−r・S/s
【0059】
図3の結果から、rとsの比は受光光量に依存せず、r/s=r’/s’となり、R=Zであることが分かる。すなわち、SO濃度指示値X〔ppm・m〕の時の受光光量理論値と受光光量実測値との差R〔V〕は前記外乱による光量変動分に相当する。
【0060】
そこで、受光光量初期値R〔V〕はダスト等の外乱により、(R−R)〔V〕に変動したとみなすことができ、図3の受光光量とスパン吸収係数との関係式から、数6のように煙道内の実際のSO濃度を求めることができる。
【0061】
[数6]
Y=S/s’=S/[a(R−R)−b]
【0062】
この式では(R−R)でダスト等の外乱が補正されている。そして、[a(R−R)−b]によりオフセット吸収による外乱が補正される。
なお、a,bは図8の関係から求められる比例定数である。測定原理はこのようなものである。
【0063】
続いてレーザ式ガス分析計による分析処理について説明する。ここに干渉ガスおよび測定対象ガスを含むガスが煙道内を流れているものとする。説明の具体化のため、SOガスを分析するものとして説明する。
【0064】
ここで、レーザ式ガス分析計では、予め工場出荷前や校正時において補正式の確定処理がなされている必要がある。この処理ではレーザ式ガス分析計を用いて実際のガス測定を行い、得られた計測値を用いてSやRや数6のa,bを予め確定する処理である。
【0065】
図2に示したように、QCLを用いたSO分析〔フルスケール:100ppm・m〕の測定例において、受光光量初期値Rは2.63〔V〕であり、そのときのオフセット吸収係数rは4.76×10−3〔V/ppm・m〕、スパン係数sは、4.84×10−2〔V/ppm・m〕であった。また、SO濃度100ppm・mガス流通時のスパンSは4.82〔V〕であった。これらデータが中央処理部109の図示しないメモリに登録される。
【0066】
ダスト等の外乱による受光光量変動を模擬するため、QCLの駆動条件を調整し、発光量を約80%としてSO濃度100ppm・mガスを測定したところ、SO濃度指示値Xは75.1ppm・m(スパンS=3.62〔V〕)、受光光量実測値Rは1.71〔V〕であった。受光光量実測値R=1.71〔V〕、SO濃度指示値X=75.1[ppm・m]、スパンS=3.62〔V〕を関連させて、中央処理部109の図示しないメモリに登録される。
【0067】
さらに、発光量を約50%として同様の測定を行ったところ、SO濃度指示値Xは50.8ppm・m(スパンS=2.45〔V〕)、受光光量実測値Rは、1.25〔V〕であった。ここで受光光量実測値R=1.25〔V〕、SO濃度指示値X=50.8[ppm・m]、スパンS=2.45〔V〕を関連させて、中央処理部109の図示しないメモリに登録される。
以下同様に、このようなデータが発光量のパーセンテージを変えて多数蓄積されて中央処理部109の図示しないメモリ部に登録されている。
【0068】
なお、少なくとも2回計測しておれば、以上の結果から、図8のように受光光量とスパン係数との関係式が求められ、数6の比例定数はa=2.07×10−2,b=6.25×10−3であることが分かる。
これでa,b,Rが算出されたため、数6が具体的に確定された。具体的な数式を次式に示す。
【0069】
[数7]
SO濃度真値Y=S/[2.07×10−2(2.63−R)−6.23×10−3
【0070】
このように工場出荷時にオフセット吸収係数r、スパン吸収係数s及び数6の定数a,b,Rを、中央処理部109の図示しない演算部の図示しないメモリに登録しておく。中央処理部109は、数7を用いてSO濃度真値を算出することとなる。
【0071】
続いて、中央処理部による実際のガス分析処理について説明する。この状態では分析を所望する箇所にレーザ式ガス分析計が設置されて、図1で示すような状態で測定対象ガス(SOガス)が通流しているものとする。
【0072】
前提として、中央処理部109には、先に説明したように受光光量初期値R、受光光量実測値Rに対応するガス濃度指示値X、測定対象ガスのガス濃度指示値Xに対応するスパンS、係数a,bが予め登録されているものとする。また、中央処理部109が処理する値はデジタルデータであってデジタル演算を行うものであるが、理解を容易にするため、通常の値として説明している。
【0073】
中央処理部109は、抽出回路108eからの検出信号の波長走査駆動信号成分S11をタイミング信号とし、レーザ最大発光時においてフィルタ108dから出力される検波信号の受光光量実測値を取得し、さらにレーザ未発光時においてフィルタ108dから出力される検波信号の受光光量実測値を取得し、その差分値を測定対象ガスについての受光光量実測値Rとする受光光量実測手段として機能する。これにより受光素子の熱による感度変動成分を除去する。
【0074】
ここで中央処理部109の差分処理の詳細について説明する。I/V変換回路108aの出力信号から抽出回路108eを通過した信号は、図3で示すような波長走査駆動信号成分S11となる。中央処理部109は、この波長走査駆動信号成分S11をモニタリングする。
【0075】
このモニタリングでは、波長走査駆動信号発生部104aからの信号S1の出力終了直前のタイミングと、信号S2の出力を開始するタイミングと、すなわちQCL発光量最大時と、QCL未発光時と、で同期検波回路108bからの出力波形をそれぞれサンプリングして受光光量実測値を取得し、その差分値を一定時間ごとに、例えば1秒ごとに信号処理回路62に保存する。両タイミングにおけるデータには熱による感度変動分が共に重畳されているため、差分を取ることで感度変動分がキャンセルされる。これにより、受光素子(MCT)の感度変動分を除去した上で所定期間毎の受光光量をモニタリングすることが可能となる。以下の説明では、中央処理部109はこのようなMCTの熱特性による受光光量の変化をキャンセルする処理により受光光量に関する受光光量実測値Rを取得しているものとして説明する。
【0076】
以上のように求められた受光光量変動量をもとに、数7により、中央処理部109は、SO濃度真値Yを求める。
まず、中央処理部109は、受光光量実測値Rに基づいて測定対象ガスのガス濃度指示値X〔ppm・m〕を取得するガス濃度指示値取得手段として機能する。
【0077】
このガス濃度指示値取得手段では、例えば、中央処理部109は、SO濃度100ppm・mのガスを検出したところ、受光光量実測値Rが1.71〔V〕であり、スパンSは3.62〔V〕であり、AおよびSをメモリ部から読み出し、SO濃度としてX=100〔ppm・m〕×3.62/4.82=75.1〔ppm・m〕を検出したものとする。
【0078】
続いて、中央処理部109は、オフセット吸収係数rを用いて測定対象ガスの受光光量理論値RをR=R−rXにより算出する受光光量理論値算出手段として機能する。
【0079】
この受光光量理論値算出手段では、例えば、中央処理部109は、数1からR=2.63−4.76×10−2×75.1=2.27〔V〕を算出する。
【0080】
続いて、中央処理部109は、光量変動分RをR=R−Rにより算出する光量変動分算出手段として機能する。
【0081】
この光量変動分算出手段では、例えば、中央処理部109は、R=R−R=Z=2.27−1.71=0.56〔V〕を算出する。
【0082】
続いて、中央処理部109は、係数a,bを用いて測定対象ガスの濃度真値YをY=S/(a(R−R)−b)により算出する測定対象ガス濃度算出手段として機能する。
【0083】
この測定対象ガス濃度算出手段では、中央処理部109は、スパンS=3.62〔V〕を図示しないメモリから読み出し、上記のように算出した各値を数7に代入し、SO濃度真値Y=3.62/[2.07×10−2×(2.63−0.56)−6.23×10−3]=99.1ppm・mを算出する。
【0084】
このように光量補正による誤差はSO濃度100ppm・mと比較しても1%未満と精度の高い補正値を得ることが可能である。
【0085】
また、他の例について説明する。
中央処理部109は、ガス濃度指示値取得手段として機能し、SO濃度100ppm・mのガスを検出したところ、受光光量実測値Rが1.25〔V〕であり、スパンSは2.45〔V〕であり、AおよびSをメモリ部から読み出し、SO濃度としてX=100〔ppm・m〕×2.45/4.82=50.8ppm・mを検出したものとする。
【0086】
続いて中央処理部109は、受光光量理論値算出手段として機能し、数1からR=2.63−4.76×10−2×50.8=2.39〔V〕を算出する。
【0087】
続いて中央処理部109は、光量変動分算出手段として機能し、R=R−R=Z=2.39−1.25=1.14〔V〕を算出する。
【0088】
続いて中央処理部109は、測定対象ガス濃度算出手段として機能し、中央処理部109は、スパンS=2.45〔V〕を図示しないメモリから読み出し、上記のように算出した各値を数7に代入し、SO濃度真値Y=2.45/[2.07×10−2×(2.63−1.14)−6.23×10−3]=99.5ppm・mを算出する。
【0089】
このように光量補正による誤差はSO濃度100ppm・mと比較しても前述の結果と同様に1%未満と精度の高い補正値を得ることが可能である。
【0090】
なお、このような補正であるが、全て一律に補正しても良いが、例えば、測定中に受光光量理論値Rに対する受光光量実測値Rの変動率(=[R−R]×100/R)が、所定値(例えば5%)を超えるような場合において、上記光量補正法により求められる演算値を表示するようにしてもよい。光量補正はこのようなものである。
【0091】
以上説明した本発明によれば、量子カスケードレーザ用いたレーザ式ガス分析計の演算部において、受光信号のうち、測定対象ガスの吸収ピークを検出する2倍周波数成分信号の振幅と、前記レーザ素子の発光量を検出する波長走査駆動信号成分とを用いることにより、ダスト等の外乱による受光光量の変動と測定対象ガスのピーク外吸収による受光光量の変動とを区別して、常時モニタリングして、受光光量の変動に応じて測定値を補正することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の多成分用レーザ式ガス分析計は、ボイラ、ゴミ焼却等の燃焼排ガス測定用として最適である。その他、鉄鋼用ガス分析[高炉、転炉、熱処理炉、焼結(ペレット設備)、コークス炉]、青果貯蔵及び熟成、生化学(微生物)[発酵]、大気汚染[焼却炉、排煙脱硫・脱硝]、自動車排ガス(除テスタ)、防災[爆発性ガス検知、有毒ガス検知、新建築材燃焼ガス分析]、植物育成用、化学用分析[石油精製プラント、石油化学プラント、ガス発生プラント]、環境用[着地濃度、トンネル内濃度、駐車場、ビル管理]、理化学各種実験用などの分析計としても有用である。
【符号の説明】
【0093】
201,202:壁
101a,101b:フランジ
101c:出射窓
101d:入射窓
102a,102b:取付座
103a,103b:カバー
104:光源部
104a:波長走査駆動信号発生部
104b:高周波変調信号発生部
104c:電流制御部
104d:温度制御部
104e:レーザ素子
104f:サーミスタ
104g:ペルチェ素子
104s:レーザ駆動信号発生部
105:コリメートレンズ
106:集光レンズ
107:受光部
107a:受光素子
107b:サーミスタ
107c:ペルチェ素子
107d:温度制御部
108:信号処理回路
108a:I/V変換回路
108b:同期検波回路
108c:発振器
108d:フィルタ
108e:抽出手段(フィルタ)
109:中央処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調された中赤外領域レーザ光を出射する光源部と、この光源部からの出射光をコリメートする光源側光学系と、この光源側光学系から測定対象ガスが存在する空間を介して伝播された透過光を集光する受光側光学系と、この受光側光学系により集光された光を受光する受光部と、この受光部の出力信号を処理する信号処理回路と、処理された信号に基づいて測定対象ガスの濃度を測定する中央処理部と、を有するレーザ式ガス分析計において、
前記光源部は、
中赤外領域レーザ光を発光するレーザ素子と、
前記レーザ素子の温度を安定化させる発光側温度安定化手段と、
測定対象ガスの吸収波長を走査するように前記レーザ素子の発光波長を可変とする可変駆動信号と、前記レーザ素子の発熱量を減少させるように前記レーザ素子の発光を停止するオフセット信号と、を含む波長走査駆動信号に対し、前記発光波長を変調するための高周波変調信号を合成してレーザ駆動信号として出力するレーザ駆動信号発生部と、
このレーザ駆動信号発生部から出力された前記レーザ駆動信号を電流に変換して前記レーザ素子へこの電流を供給する電流制御部と、
を備え、
前記受光部は、
中赤外領域に感度を有する受光素子と、
この受光素子の温度を安定化させる受光側温度安定化手段と、
を備え、
前記信号処理回路は、
前記受光部の出力信号から光源部における変調信号の2倍周波数成分の信号の振幅を検出して検出信号を出力する同期検波回路と、
を備え、
前記中央処理部は、
受光光量初期値R、測定対象ガスのフルスケール濃度A、フルスケール濃度の測定対象ガスを測定した時のスパンS、係数a,bが予め登録されており、
同期検波回路の検出信号から測定対象ガスについての受光光量実測値Rを取得する受光光量実測手段と、
同期検波回路の検出信号から測定対象ガスのガス濃度指示値X〔ppm・m〕を取得するガス濃度指示値取得手段と、
オフセット吸収係数rを用いて測定対象ガスの受光光量理論値RをR=R−rXにより算出する受光光量理論値算出手段と、
光量変動分RをR=R−Rにより算出する光量変動分算出手段と、
同期検波回路の検出信号から求められるスパンSおよび係数a,bを用いて測定対象ガスの濃度真値YをY=S/(a(R−R)−b)により算出する測定対象ガス濃度算出手段と、
として機能することを特徴とするレーザ式ガス分析計。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ式ガス分析計において、
前記受光光量実測手段は、前記検出信号の前記波長走査駆動信号成分のうち、レーザ最大発光時の受光光量実測値とレーザ未発光時の受光光量実測値とを抽出して、その差分値を測定対象ガスについての受光光量実測値Rとする手段とし、
受光素子の変動成分を除去することを特徴とするレーザ式ガス分析計。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーザ式ガス分析計において、
測定中に受光光量理論値Rに対する受光光量実測値Rの変動率が、予め定められた値を超える場合において補正を行うことを決定する決定手段と、を備えることを特徴とするレーザ式ガス分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−113647(P2013−113647A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258544(P2011−258544)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】