説明

レーザ治療装置

【課題】大型化やコストアップを回避しつつ、パルス状のレーザビームを高出力で出射可能であり、伝送路である光ファイバの径も細線化できるレーザ治療装置を提供する。
【解決手段】1個のLD素子14と、LD素子14にパルス電流を供給する電源12と、LD素子14から出射されたレーザビームが入射する入力端16aを有する伝送用の光ファイバ16とを備えたレーザ治療装置10であって、電源12がLD素子14の定格電流の2倍以上の過電流を供給する能力を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はレーザ治療装置に係り、特に、半導体レーザを用いたレーザ治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでも、レーザビームを人体に向けて照射することで患部を治療するレーザ治療装置が種々考案されているが、レーザは波長によって生体組織における吸収特性が異なるため、治療の目的や対象に応じて最適のレーザを用いる必要がある。例えば、歯科において歯周病の治療を行う場合、歯周ポケットの内部に対しては0.6〜1.4μm波長の組織透過型のレーザビームを照射する必要がある。
この歯科治療用の組織透過型レーザとして、従来はNd:YAGレーザが主流であったが、最近になってLDレーザ(半導体レーザ)の利用が注目されつつある。
このLDレーザを用いた治療装置は、Nd:YAGレーザを用いた治療装置に比べて小型・軽量で取扱いも容易であるため、今後の普及拡大が期待されている。
【非特許文献1】OSADA LIGHTSURGE 3000/診療の流れを大きく変えるレーザ手術装置[平成18年8月8日検索]インターネットURL:http://www.osada-electric.co.jp/jp/products/laser/osl3003/index.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、半導体レーザは元々連続波発振が基本であるが、連続波を生体に照射すると大きな痛みを伴うため、痛みの少ない治療を実現するためには熱蓄積の少ないパルスビーム化すると共に、パルス幅を小さく整形し、かつパルス間隔をも十分に確保する必要がある。
しかしながら、これまでのLDレーザ治療装置は、図3に示すように、半導体レーザの定格出力内で電気的にスイッチングすることによってパルス波を生成しているため、1個のLD素子では十分なエネルギが得られないという問題があった。
【0004】
このため、図4に示すように、従来のレーザ治療装置50では、複数個のLD素子54を電源52に並列接続させ、各LD素子54から一斉に出力されたレーザビームを各カップリングミラー55で反射・集光し、光ファイバ56の入力端56aに照射することが行われている。
このいわゆるマルチ・エミッタ方式を採用することにより、確かに光ファイバ56の出力端に接続されたハンドピース58からは、比較的高出力のレーザビームLがパルス的に出射されることとなるが、多くのLD素子54を搭載する分、必然的に装置の大型化やコストアップをもたらす。
また、複数のレーザビームが光ファイバ56の入力端56aに反射・集光される関係上、そのファイバ径の極小化には制約があり、現実には300μm以上の径を確保する必要があった。このため、取り回しが悪く、生体の極微細空間における精密治療には適用できなかった。
【0005】
この発明は、従来のレーザ治療装置が抱えていた上記の問題点を解決するために案出されたものであり、大型化やコストアップを回避しつつ、パルス状のレーザビームを高出力で出射可能であり、しかも伝送路である光ファイバの径を細線化できるレーザ治療装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載したレーザ治療装置は、1個のLD素子と、このLD素子にパルス電流を供給する電源と、上記LD素子から出射されたレーザビームが入射する入力端を有する伝送用の光ファイバとを備えたレーザ治療装置であって、上記電源が、上記LD素子の定格電流の2倍以上の過電流を供給する能力を備えていることを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載したレーザ治療装置は、請求項1に記載のレーザ治療装置であって、さらに、上記光ファイバの径が200μm以下(例えば105μm)であることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載したレーザ治療装置は、請求項1または2に記載のレーザ治療装置であって、さらに、上記LD素子が3W以上の定格出力を備えていることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載したレーザ治療装置は、請求項1〜3に記載のレーザ治療装置であって、さらに、上記電源が50μm以下のパルス幅でパルス電流を上記LD素子に供給することを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載したレーザ治療装置は、請求項1〜4に記載のレーザ治療装置であって、さらに、上記電源が10%以下(望ましくは5%以下)のデューティサイクル(DutyCycle/パルス間の間隔に占めるパルス幅の比率)でパルス電流を上記LD素子に供給することを特徴としている。
【0011】
請求項6に記載したレーザ治療装置は、請求項1〜5に記載のレーザ治療装置であって、さらに上記光ファイバの出力端から出射されるレーザビームのパワー密度が、4kW/cm2以上であることを特徴としている。
【0012】
請求項7に記載したレーザ治療装置は、請求項1〜6に記載のレーザ治療装置であって、さらに上記電源が、10μm以下のパルス幅、5kHz以上の周波数、5%以下のデューティサイクルで調整されるパルス電流を供給するものであり、上記光ファイバの径が、120μm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るレーザ治療装置は、上記のように1個のLD素子を用いた所謂シングル・エミッタ方式を採用しているため、装置全体の小型化・低コスト化が実現できる。
また、1個のLD素子から出射されたレーザビームを入力端で受ければ足りるため、その分径の小さい光ファイバを用いることが可能となり、ハンドリング性が向上すると共に、狭小領域におけるレーザビームの高密度照射が可能となる。
しかも、電源からはLD素子の定格の2倍以上の過電流が供給されるため、1個のLD素子であっても高出力が得られる。この結果、歯周病等の治療目的に十分適用可能である。
さらに、このパルス波のデューティサイクルを10%以下に設定することにより、高パワー密度(例えば4kW/cm2)のレーザビームを照射しても患部に蓄熱することがなく、患者に痛みを与える危険性がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、この発明に係るレーザ治療装置10の基本構成を示す模式図であり、電源12と、1個のLD(半導体レーザダイオード)素子14と、光学素子15と、光伝送路としての光ファイバ16と、光ファイバ16の出力端に接続されたハンドピース18とを備えている。
【0015】
上記LD素子14としては、少なくとも3W、理想的には5W以上の出力を有するものが選定される。
また、上記光ファイバ16としては、ファイバ径が200μm以下のものが選定される。
さらに、上記電源12としては、LD素子14の定格に対して2倍以上の過電流を流すことにより、定格出力の2倍以上のパワー密度を実現可能なものが選定される。
【0016】
以上の電源12を用いることにより、図2に示すように、LD素子14を連続波発振させた場合の定格出力に対し、2倍以上のピーク値を備えたパルス波がLD素子14から出力され、光学素子15を経由して光ファイバ16の入力端16aに入射する。
この結果、ハンドピース18の先端からは200μm以下のビーム径を備えたレーザが出射され、治療対象部位に照射されることとなる。
【実施例1】
【0017】
定格5 W−8 A−1.8 Vのシングル・エミッタLD素子14に105μmの光ファイバ16をカップリングすると共に、パルス幅5μm、繰返し周波数5,000Hz、電流上限値120 Aのスペックを備えた電源12をLD素子14に接続したレーザ治療装置10を用意し、これに8 A〜24 Aの範囲で電流をパルスモードで流した際のレーザ出力(エネルギ密度)を測定した結果を、以下の表1に示す。
【表1】

この表1より明らかなように、パルスモードで8 Aの定格電流を投入した場合には、レーザ出力のエネルギ密度は959W/cm2に過ぎないが、定格の3倍に当たる24 Aの過電流を投入するとエネルギ密度は4,044W/cm2まで跳ね上がり、定格の4.2倍の高出力が得られることが実証された。
【0018】
このレーザ治療装置10にあっては、上記のように1個のLD素子14を用いた所謂シングル・エミッタ方式を採用しているため、装置全体の小型化・低コスト化が実現できる。
また、1個のLD素子14から出射されたレーザビームを入力端16aで受ければ足りるため、その分径の小さい光ファイバ16を用いることが可能となり、ハンドリング性が向上すると共に、狭小領域におけるレーザビームの高密度照射が可能となる。
しかも、上記電源12からはLD素子14の定格を越える過電流が供給されるため、1個のLD素子14であっても高出力が得られるため、治療目的に十分対応可能である。
さらに、このパルス波のDC(DutyCycle/パルス間の間隔Aに占めるパルス幅Bの比率)は10%以下(理想的には5%以下)に設定されているため、高パワー密度(例えば4kW/cm2)のレーザビームが照射されても患部に蓄熱することがなく、患者に痛みを与える危険性がない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係るレーザ治療装置の基本構成を示す模式図である。
【図2】この発明に係るLD素子の出力波形を示すグラフである。
【図3】従来のレーザ治療装置の基本構成を示す模式図である。
【図4】従来のレーザ治療装置の出力波形を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
10 レーザ治療装置
12 電源
14 LD素子
15 光学素子
16 光ファイバ
16a 光ファイバの入力端
18 ハンドピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個のLD素子と、
このLD素子にパルス電流を供給する電源と、
上記LD素子から出射されたレーザビームが入射する入力端を有する伝送用の光ファイバと、
を備えたレーザ治療装置であって、
上記電源は、上記LD素子の定格電流の2倍以上の過電流を供給する能力を備えていることを特徴とするレーザ治療装置。
【請求項2】
上記光ファイバの径が200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ治療装置。
【請求項3】
上記LD素子が、3W以上の定格出力を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ治療装置。
【請求項4】
上記電源が、50μm以下のパルス幅でパルス電流を上記LD素子に供給することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のレーザ治療装置。
【請求項5】
上記電源が、10%以下のデューティサイクルでパルス電流を上記LD素子に供給することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のレーザ治療装置。
【請求項6】
上記光ファイバの出力端から出射されるレーザビームのパワー密度が、4kW/cm2以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のレーザ治療装置。
【請求項7】
上記電源が、10μm以下のパルス幅、5kHz以上の周波数、5%以下のデューティサイクルで調整されるパルス電流を供給するものであり、上記光ファイバの径が、120μm以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のレーザ治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−86636(P2008−86636A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272822(P2006−272822)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000187220)昭和薬品化工株式会社 (16)
【Fターム(参考)】