説明

レーザ治療装置

【課題】生体の体外から体内の脂肪成分にレーザを照射することができるレーザ治療装置を提供する。
【解決手段】画像取得部14で取得した画像データに基づきプラーク位置取得部22でプラークの位置を取得し、レーザモジュール49から光ファイバ48で導波された波長が1201nm以上でかつ、1227nm以下のレーザ光が集光レンズ52を通って、体表面から生体内部のプラークの位置に集光するように照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ治療装置、特に体内の脂質成分に対してレーザ光を照射して治療するためのレーザ治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、動脈硬化は余分な脂質成分が血管内に蓄積してプラークを形成し、形成されたプラークが血管を細くしていることが主な原因とされている。
【0003】
現在、動脈硬化の治療方法としては、主に下記に挙げる3つの手法が用いられている。
【0004】
1、手術により動脈硬化部位を切開してプラークがある血管内壁を直接取り除く。
【0005】
2、血管内にステントを挿入して血管を拡張する。
【0006】
3、血管内にレーザ光照射手段を挿入し、強いレーザ光をプラークに直接照射して、プラークを蒸散・剥離させる。
【0007】
手法1、は、侵襲性が高く、手術における患者の肉体的負担が大きい。また、動脈硬化が生じている部位によっては梗塞等の合併症の原因となる。特に頸部では、脳梗塞を引き起こす可能性が高い。また、手法2、は、ステント周辺でプラークが再発生するために一時凌ぎとなることが多い。
【0008】
手法3、として、カテーテルを血管内に挿入し、光ファイバから病変部にレーザ光を照射する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、体腔内に挿入した超音波探触子のプローブから治療部位にレーザ光を照射する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。これらは、手法1、よりも低侵襲であり、プラークが再発生することが少ない。
【特許文献1】特開2005−234827号公報
【特許文献2】特開2007−029277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、手法3、においても、手法1、と同様に脳梗塞を引き起こす可能性が高く、また、誤って血管を破る可能性がある。
【0010】
そのため、体外から体内のプラークを治療することが望まれるが、例えば、上記特許文献2に記載の超音波探蝕子を用いて体外からレーザ光を照射すると、皮膚表面(体表)における火傷や痛みが発生する場合がある。
【0011】
本発明は、生体の体外から体内の脂肪成分にレーザを照射することができるレーザ治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のレーザ治療装置は、生体の体内の脂肪成分を含む治療部位及び前記治療部位周辺の画像を取得する画像取得手段と、前記画像取得手段により取得した前記画像の画像データに基づいて、レーザ光の光軸方向における前記治療部位の位置を取得する位置取得手段を備え、前記治療部位に対して体外から1201nm以上でかつ、1227nm以下の波長のレーザ光を照射する照射手段と、前記照射手段から照射されたレーザ光を前記位置取得手段により取得した前記治療部位の位置に集光させる集光手段と、を備える。
【0013】
位置得手段は、画像取得手段により取得した生体の体内の脂肪成分を含む治療部位及び治療部位周辺の画像の画像データに基づいて、レーザ光の光軸方向における治療部位の位置を取得する。照射手段が治療部位に対して体外から照射した1201nm以上でかつ、1227nm以下の波長のレーザ光を、集光手段が位置取得手段により取得した治療部位の位置に集光させる。
【0014】
これにより、水分や皮膚よりも脂肪成分に対して吸収係数の高い波長のレーザ光を生体の体外から体内の治療部位に照射することができるので、生体の体外から体内の脂肪成分にレーザを照射し、治療を行うことができる。
【0015】
請求項2に記載のレーザ治療装置は、請求項1に記載のレーザ治療装置において、前記照射手段は、照射するレーザ光の光強度を変化させる光強度変化手段を備え、前記集光手段は、集光レンズと、前記集光レンズの焦点距離を変化させる焦点距離可変手段と、を備え、前記レーザ光の光強度が前記治療部位を治療可能な光強度となるように前記治療部位の位置に基づいて前記光強度変化手段及び前記焦点距離可変手段を制御する制御手段と、を備える。
【0016】
制御手段は、レーザ光の光強度が治療部位を治療可能な光強度となるように治療部位の位置に基づいて、光強度変化手段及び焦点距離可変手段を制御することでレーザ光の光強度及び集光レンズの焦点距離を制御する。治療部位を治療可能な光強度とは、生体の体外から体内の治療部位に照射することにより治療部位に含まれる脂肪成分を溶解したり、脂肪成分をアポトーシス化・壊死化したりすることができるレーザ光の光強度をいう。
【0017】
これにより、より正確な位置に、治療に必要な光強度のレーザ光を照射することができるため、効率的に治療を行うことができる。
【0018】
請求項3に記載のレーザ治療装置は、請求項2に記載のレーザ治療装置において、前記焦点距離可変手段が、前記集光レンズを前記レーザ光の光軸方向に移動させる移動手段である。
【0019】
移動手段により集光レンズをレーザ光の光軸方向に移動させることにより、レーザ光の集光位置を生体の内部方向(振動方向)に対して変化させることができるので、より正確に治療部位にレーザ光を照射することができる。
【0020】
請求項4に記載のレーザ治療装置は、請求項2または請求項3に記載のレーザ治療装置において、前記集光レンズが、焦点距離を変更可能な液体レンズである。
【0021】
集光レンズを焦点距離を変更可能な液体レンズとすることにより、レーザ光の集光位置を生体の内部方向(振動方向)に対して変化させることができるので、より正確に治療部位にレーザ光を照射することができる。
【0022】
請求項5に記載のレーザ治療装置は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザ治療装置において、複数の前記照射手段を備え、前記集光手段が、前記複数の照射手段から照射された複数のレーザ光を集光させる。
【0023】
照射手段を複数備え、複数のレーザ光を治療部位に集光させることにより、高い出力(光強度)が必要な場合に対応することができる。
【0024】
請求項6に記載のレーザ治療装置は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレーザ治療装置において、前記画像取得手段により取得した前記治療部位及び前記治療部位周辺の画像を表示する表示手段を備える。
【0025】
表示手段により治療部位及び治療部位周辺の画像を表示することにより、治療部位の治療状況をわかりやすくすることができる。
【0026】
請求項7に記載のレーザ治療装置は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレーザ治療装置において、前記照射手段から照射されたレーザ光が照射される前記生体の表面を冷却する冷却手段を備える。
【0027】
冷却手段により、照射されたレーザ光が照射される生体の表面を冷却することにより、生体の表面が加熱することを抑制できるため、人体に与える影響をより低減できる。
【0028】
請求項8に記載のレーザ治療装置は、請求項7に記載のレーザ治療装置において、前記冷却手段が、前記レーザ光を透過する一対の薄膜材と、前記一対の薄膜材の間に、前記生体を冷却するための液体または気体を供給する供給手段と、を含む。
【0029】
一対の薄膜材の間に供給手段により生体を冷却するための液体または気体を供給することにより、より最適に生体の表面を冷却することができる。
【0030】
請求項9に記載のレーザ治療装置は、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のレーザ治療装置において、前記画像取得手段が、超音波探蝕子を含み、前記生体の体外から体内に向けて前記超音波探蝕子から出力された超音波の反射波に基づいて超音波画像を取得する超音波画像取得手段である。
【0031】
超音波画像取得手段により超音波の反射波に基づいて超音波画像を取得することにより、より正確に治療部位及び治療部位の周辺の画像を取得することができる。これにより、より正確に治療部位のみにレーザ光を照射することができる。
【0032】
請求項10に記載のレーザ治療装置は、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のレーザ治療装置において、前記集光手段の開口数が、前記生体の表面における前記レーザ光のビーム面積が、前記治療部位に集光する前記レーザ光のビーム面積の1.7倍以上となるような開口数である。
【0033】
集光手段の開口数を、生体の表面におけるレーザ光のビーム面積が、治療部位に集光するレーザ光のビーム面積の1.7倍以上となるようにすることで、より生体の表面を損傷するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、体外から体内に向けて1201nm以上でかつ、1227nm以下の波長のレーザ光を照射することができるので、体内の脂肪成分を体外から治療することができるレーザ治療装置を提供することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
まず、本発明の実施の形態の光学システムについて図1〜図5を参照して詳細に説明する。
【0036】
本発明の実施の形態のレーザ治療装置は、体外から体内に向けてレーザ光を照射するものである。体外から体内にレーザ光を照射する場合、レーザ光の吸収係数は、血液や水分に対してよりもプラークに対して高く、かつ、体表(皮膚)で吸収されないことが望まれる。
【0037】
図1及び図2に示すように、波長が1201nm以上かつ、1227nm以下のレーザ光は、水よりも脂肪成分(脂質)に対して吸収係数が高く、脂肪成分に効率的に吸収される(参考文献:Lasers in Surgery and Medicine,Vol。38,p913−919(2006)“Selective Photothermolysys of Lipid−Rich Tissues:A Free Electron Laser Study”)。そのため、1201nm以上かつ、1227nm以下、特に1210nmの波長のレーザ光は、脂質の温度が周辺の体組織よりも選択的・優先的に加温されるため、照射条件を適度に制御することで、プラークのみを選択的に除去することが可能である。また、皮膚で吸収されることも少ない。
【0038】
従って、本発明の実施の形態のレーザ治療装置は、波長が1201nm以上かつ、1227nm以下のレーザ光を照射することにより、体外から照射したレーザ光により体内のプラーク(脂肪成分)のみを除去する。
【0039】
また、図3に示すように、一般に、頸部における表皮と真皮の厚さは1mm〜3mm程度であり、頸動脈の太さは比較的太い総頸動脈で約10mm、また、細い内頸動脈で約5mmであり、血管の膜厚は約1mmと言われている。従って、血管内のプラークは、皮膚表面(体表面)からの距離が約2mm〜12mmの範囲内に存在することになる。
【0040】
脂肪成分を溶解するのに必要な照射エネルギー密度は、最近の研究によれば約75J/cmであり、このときに約40℃まで体組織が温度上昇すると言われている。
【0041】
一方、波長が1210nmのレーザ光の水に対する吸収係数は約1.1cm−1であることから、体表から2mm〜12mm体内に進入したレーザ光の光強度を見積もると、初期光強度をI、吸収係数をα、及びレーザ光の進行距離をxとした場合、進入後の光強度Iは、I=I×10−αxにより計算される。
【0042】
これにより、体内に2mm〜12mm進入した後のレーザ光の光強度は、皮膚(体内)に浸入する前の光強度の60%〜5%にまで減衰すると見積もられる。すなわち、体表面から体内の深い領域にあるプラークを溶融しようとするほど、より高いエネルギー(光強度)を必要とする。従って、皮膚へのダメージを考慮する必要があることになる。
【0043】
波長が1210nmのレーザ光は水よりも脂肪への吸収係数の方が大きいため、皮膚へ照射するエネルギー密度を上述したように、75J/cmよりも小さくしておけば、皮膚の温度上昇を40℃以下に抑えることができるため、火傷等、皮膚の損傷を防止することができる。
【0044】
エネルギー密度を小さくするためには、集光レンズのNA(開口数)を大きくすることが好ましい。
【0045】
一例として、図4に示すように、プラークに集光させた際のレーザ光のビーム面積を1cmとすると、体表におけるレーザ光のビーム面積は、体表からの深度が2mmにあるプラークに集光させた場合は約1.7cm以上に、深度が12mmにあるプラークに集光させた場合は約20cm以上に拡げる光学系にする。すなわち、体外からレーザ光を照射し、血管内のプラークを溶融するためには、体表におけるレーザ光のビーム面積を集光部(プラーク)におけるビーム面積の1.7倍以上にすることが好ましい。また、頸動脈のどの位置にあるプラークにも対応できるようにするためには、ビーム面積を約20倍以上まで拡げるようにレーザ治療装置を設計することが好ましい。
【0046】
このような設計となるようなNA(開口数)の集光レンズを用いる。レーザ光のビーム径に換算すると、ビーム面積を1.7倍にするにはビーム径を√1.7倍に、ビーム面積を20倍にするにはビーム径を√20倍にすることになる。これらの見積もりから集光レンズにおけるNAを見積もると、屈折率nが1.46のレンズを使用する場合、NA=n×sinθから算出すると、NA=0.11〜0.21、となる。
【0047】
すなわち、NAが約0.21となるレンズを集光レンズとして使用し、体表面から体内への深さ方向には集光レンズを光軸方向に移動可能に構成し、レンズの位置に応じてレーザ光の出力(光強度)を変化させることが、より好ましい。
【0048】
また、図5に示すように、集光レンズとして、集光位置を可変できる液体レンズを用いてもよい。液体レンズとは、水溶液と油を封入した容器の内側に部分的に撥水加工が施されており、容器の側面の電極に電圧を印加することにより、両者の界面形状を変化及び制御するものである。液体レンズを用いる場合には、液体レンズの 焦点距離に応じてレーザ光の出力(光強度)を変化させることにより、プラークに安定してレーザ光を照射することができる。
【0049】
次に、レーザ治療装置の具体的構成について以下の実施の形態において詳細に説明する。
【0050】
[第1の実施の形態]
【0051】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の具体的一例を詳細に説明する。
【0052】
図6は、本実施の形態のレーザ治療装置10の概略構成の一例を示す構成図である。本実施の形態のレーザ治療装置10は、超音波探蝕子12、プラーク位置取得部22、表示部23、レーザ光照射部24、及び制御部28を備えて構成されている。
【0053】
本実施の形態の超音波探蝕子12は、患者の体表面に充てて、体内のプラーク及び周辺部の画像を取得すると共に、レーザ光を照射するためのものである。超音波探蝕子12は、画像取得部14、焦点距離可変部18を含む集光部16、及び冷却部20を含んで構成されている(詳細後述)。
【0054】
本実施の形態のプラーク位置取得部22は、超音波探触子12から出力された超音波の反射波に基づいて体表からのプラークの位置として深度や体表面と平行方向(深度と直交する方向)の位置を取得し、プラークまでのレーザ光の進行距離を算出したりするものである。
【0055】
本実施の形態の表示部23は、画像取得部14で取得した画像を表示するためのものであり、例えば、モニタやディスプレイ等が挙げられる。
【0056】
本実施の形態のレーザ光照射部24は、プラークを治療するためのレーザ光を照射するためのものであり、照射するレーザ光の強度を変化させるための出力変化部26を含んで構成されている。
【0057】
本実施の形態の制御部28は、レーザ治療装置10全体の制御を司るものであり、CPU30、ROM32、RAM34、及びHDD36を含んで構成されている。HDD36には、上述した進入後の光強度Iとレーザ光の進行距離xとの関係式やレーザ光の進行距離と集光レンズの焦点距離との関係等が予め記憶されている。ROM32には、レーザ治療処理を実行するための処理フロー(詳細後述)やパラーメタ等が記憶されており、当該処理フローはCPU30により読込まれて実行される。RAM34は、CPU30による各種プログラムの事項時におけるワークエリア等として用いられる。
【0058】
次に、本実施の形態の超音波探蝕子12の具体的構成の一例について図7及び図8を参照して詳細に説明する。
【0059】
図7は、本実施の形態に係る超音波探蝕子12の一例の一部の模式図である。本実施の形態の超音波探蝕子12は、バッキング材40、圧電素子42、音響整合層44、音響レンズ46、及び冷却部20が順に積層された積層体を含んで構成されている。超音波探蝕子12の中央部にはレーザ光が通るためのガイド穴47がバッキング材40、圧電素子42、音響整合層44、及び音響レンズ46に開けられている。なお、本実施の形態では、圧電素子42、音響整合層44、及び音響レンズ46が画像取得部14に当たる。
【0060】
バッキング材40は、圧電素子により発生した超音波のうち、後方(人体と逆方向)に向かう超音波を吸収して、圧電素子の余分な振動を抑えるためのものであり、具体的一例としては、ゴム等が挙げられる。圧電素子42は、超音波を発生するとともに、生体内部で反射された超音波をモニタするためのものであり、本実施の形態では、各々に電極(図示省略)が接続されたm個の短冊状の圧電素子により構成されているが、これに限らず、アレイ状の複数の圧電素子により構成されていても良い。音響整合層44は、圧電素子と人体との音響インピーダンスとの整合性をとり、効率的に超音波を生体内に伝えるためのものである。音響レンズ46は、超音波を屈折させて、絞り込むためのものであり、具体的一例としては、シリコンゴム等が挙げられる。
【0061】
冷却部20は、本実施の形態では、一対の透明なフィルムの間に供給部(図示省略)により水が流れるようになっており、冷却水の温度を低く設定することで、冷却ユニットを冷やしている。なお、フィルムに限らず、ガラスやプラスチック等、レーザ光及び超音波に対し高い吸収を伴わない(透過させる)透明なものであれば特に限定されない。また、冷却するために供給する媒体としては、冷却水に限らず、その他の液体や、液体窒素から取り出した窒素ガス等、レーザ光及び超音波に対し高い吸収を伴わないものであれば特に限定されない。
【0062】
図8に、図7に示した超音波探蝕子12をA−Aで切断し矢印方向に見た場合の、超音波探蝕子12全体の断面図を示す。本実施の形態の超音波探蝕子12は、図7に示した(上述した)積層体とコリメートレンズ50、集光レンズ52、集光レンズ可動用圧電素子58、フェルール51、フェルール可動用圧電素子54、及びフェルール可動用圧電素子56が筐体60の内部に収納された構成となっている。なお、本実施の形態では、コリメートレンズ50、集光レンズ52、及び集光レンズ可動用圧電素子58が集光部16であり、集光レンズ可動用圧電素子58が焦点距離可変部18である。また、フェルール51、フェルール可動用圧電素子54、フェルール可動用圧電素子固定用支持体56、光ファイバ48、及びレーザモジュール49がレーザ光照射部24であり、レーザモジュール49が出力変化部26である。
【0063】
レーザモジュール49から光ファイバ48で導波された波長が1201nm以上でかつ、1227nm以下のレーザ光は、コリメータレンズ50で平行光になり、当該平行光が集光レンズ52を通って、体表面から生体内部(プラーク)に集光するように照射される。なお、レーザ光の照射は、主にパルス駆動で行うようになっている。連続光を生体に照射すると集光箇所の周囲に熱が伝わり、プラーク以外の正常な組織に熱損傷を与える場合があるのを抑制するためのものである。
【0064】
集光位置を深度方向に調整する(焦点位置を調整する)場合は、集光レンズ可動用圧電素子58に電圧を印加して、集光レンズ52を集光レンズ52の光軸方向に移動させる。また、体表面に対して平行方向(光軸方向と直行する方向)に調整する場合は、フェルール可動用圧電素子54に電圧を印加して、光ファイバ48のフェルール22を体表面に対して平行方向に移動させる。これにより、3次元的に任意の位置にレーザ光を集光させ、選択的にレーザ光を照射することができる。
【0065】
次に、本実施の形態のレーザ治療装置10による治療方法について図9〜図11を参照して詳細に説明する。
【0066】
本実施の形態のレーザ治療装置10は、図9に示すように、医師が超音波探蝕子12を患者の頸部(プラークが認められる部位)に充てながら、表示部23で頸動脈の形態を診断する。診断により図10(A)に示すようなプラークが確認されると、図10(B)に示すように、超音波探蝕子12からプラークに対し、レーザ光を照射する。超音波探蝕子12から照射されたレーザ光は、患者の体外から体内に進入し、頸動脈内部のプラークに照射される。照射されたレーザ光はプラークに吸収され、プラークを加温する。これにより、プラーク中の脂質成分が血液中に溶解されたり、脂肪細胞がアポトーシス化・壊死化されたりする。なお、本実施の形態では、レーザ光の照射はスイッチ等の指示手段(図示省略)により医師が指示することにより照射される。医師はプラークの状態を観察しながらレーザ光の照射(照射時間)を指示する。
【0067】
図11に本実施の形態のレーザ治療装置10の治療方法の一例のフローチャートを示す。図11に示したフローチャートは、例えば、レーザ治療装置10に電源が投入された場合や医師等の指示入力があった場合に実行される。
【0068】
まず、ステップ100では、画像取得部14により患者の体内の画像の画像データの取得を開始する。なお、取得した画像データは、表示部23に表字する。これにより、医師はプラークの有無を判断する。次のステップ102では、レーザ光の照射指示が有るか否か判断する。指示が無い場合は否定されて、待機状態になる。一方、指示が有った場合は肯定されて、ステップ104へ進む。また、本実施の形態では、レーザ光の照射指示が有ると冷却部20により、患者の体表(レーザ光が照射される体表部分)の冷却を開始する。
【0069】
ステップ104では、プラーク位置取得部23によりプラークの位置を取得する。また、プラークまでのレーザ光の進行距離を算出する。次のステップ106では、取得したプラークの位置(算出したレーザ光の進行距離)に基づいて、プラークの位置にレーザ光が集光するように焦点距離可変部18により集光レンズの集光位置を調整する(詳細後述)。
【0070】
次のステップ108では、照射するレーザ光の出力(光強度)を調整する。取得したプラークの位置(算出したレーザ光の進行距離)に基づいて、レーザ光の出力を算出し、出力変化部26に算出した出力になるよう指示する。
【0071】
次のステップ110では、レーザ光照射部24によりプラーク位置取得部22で取得したプラークの体表面と平行方向の位置に基づいて、レーザを照射する位置を調整する。
【0072】
次のステップ112では、レーザ光照射部24からレーザ光をプラークに対して照射する。本実施の形態では、上述したように医師からの指示がある間、レーザ光を照射し続ける。なお、レーザ光を照射し続けている間も照射位置を取得し、集光位置の調整やレーザ出力の調整等を行うようにしても良い。レーザ光の照射が終了するとステップ114へ進む。
【0073】
ステップ114では、本処理を終了するか否か判断する。否定されるとステップ100に戻り本処理を繰り返す。一方、医師から終了の指示が有った場合やレーザ治療装置10の電源がオフされた場合等は肯定されて、画像データの取得を終了し、本処理を終了する。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態のレーザ治療装置12は、画像取得部14で取得した画像データに基づきプラーク位置取得部22でプラークの位置を取得し、レーザモジュール49から光ファイバ48で導波された波長が1201nm以上でかつ、1227nm以下のレーザ光が集光レンズ52を通って、体表面から生体内部のプラークの位置に集光するように照射される。
【0075】
これにより、人体に対して影響が少なく、かつ脂肪成分のみに影響を与える波長のレーザ光を照射することができ、体表面での光密度を低減することができるためレーザ光が照射された体表面の皮膚が火傷による損傷や痛みを受けたり、プラーク周辺の体組織が損傷したりすることを防止することができる。従って、生体の体外から体内の脂肪成分にレーザを照射することができ、人体に対して低侵襲に頸動脈硬化や手足等の末梢動脈硬化等の治療を行うことができる。
【0076】
また、集光位置を深度方向及び体表面に対して平行方向に、3次元的に調整することができるので、プラークのみを選択的に狙い撃ちすることが容易になり、高い治療効果を得ることができる・
【0077】
さらに、生体を切開しないため低侵襲であり治療後の回復も早く、レーザ光の出力を制御することで治療効果を制御することが可能なため梗塞を引き起こす可能性を低減でき、一生に何度でも繰り返し治療を行うことができ、血管を損傷する可能性が低い等の効果をえることができる。これによりQOL(Quality of Life)の向上や、治療費の抑制に貢献することができる。
【0078】
[第2の実施の形態]
【0079】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態のその他の具体的一例を詳細に説明する。なお、本実施の形態のレーザ治療装置は、第1の実施の形態のレーザ治療装置12と略同様の構成及び効果であり、超音波探蝕子及びレーザ光照射部のみ異なるため、同一部分は、同一符号を付して説明を省略し、異なる部分のみ詳細に説明する。また、治療方法も第1の実施の形態と略同様であるため、説明を省略する。
【0080】
図12は、本実施の形態に係る超音波探蝕子13の一例の一部の模式図である。本実施の形態の超音波探蝕子12は、レーザ光が通るための複数(レーザ光の照射数)のガイド穴70がバッキング材40、圧電素子42、音響整合層44、及び音響レンズ46に開けられている。
【0081】
図13に、図12に示した超音波探蝕子13をA−Aで切断し矢印方向に見た場合の、超音波探蝕子13全体の断面図を示す。本実施の形態の超音波探蝕子13は、集光用焦点距離可変レンズ(液体レンズ)74と複数のフェルール72(図13ではフェルール72A,72B、及び72C)が筐体60の内部に収納された構成となっている。
【0082】
複数のレーザモジュール49(レーザモジュール49A、49B、及び49C)から複数の光ファイバ48(光ファイバ48A、48B、及び48C)で導波された波長が1201nm以上でかつ、1227nm以下のレーザ光(平行光)は、液体レンズ74を通って、体表面から生体内部(プラーク)に集光するように照射される。
【0083】
なお、本実施の形態の光ファイバ48には、出射側の先端にコリメートレンズの機能を有するグレーデッドファイバが融着されており、出射端からのレーザ光は平行光になっている。
【0084】
集光位置を深度方向に調整する(焦点位置を調整する)場合は、液体レンズ74に電圧を印加して、レンズの形状を変化させることにより、焦点距離を変化させる。
【0085】
以上説明したように、本実施の形態では、複数のレーザ光をプラークに対して照射することができるため、高い出力が必要な場合により適しており、レーザモジュール49の数を増やすことで多種な出力に対応することができ、治療の範囲を拡げることができる。
【0086】
また、レーザ光を通すためのガイド穴70を小さくすることができるので、超音波画像 が精度良く取得することができる。
【0087】
なお、上述の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、画像取得部14が超音波により画像を取得する(超音波探蝕子)の場合について詳細に説明したがこれに限らず、他の代替技術を用いても良い。例えば、光干渉トモグラフィー(OCT)や、あまり深い位置は見えないが赤外のレーザ光を用いた共焦点顕微鏡等を用いても良い。
【0088】
また、上述の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、超音波探蝕子が人体に接触する表面部分全体を覆うように冷却部20を設けているがこれに限らず、レーザ光が照射される部分及びその周辺部分のみ覆うようにしてもよいが、人体に接触する面は平らである方が超音波画像を取得するのに好ましい。
【0089】
また、上述の第1の実施の形態では集光レンズ58を用い、第2の実施の形態では液体レンズ74を用いているがこれに限らず、どちらのレンズを用いるかは超音波探蝕子のその他の設計事項等や所望の性能等により選択すればよい。
【0090】
また、上述の第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、人体内部のプラークを治療する場合について説明したがこれに限らず、人体以外の生体(動物等)に用いるようにしても良い。また、プラークに限らず皮下脂肪に照射して代謝を促進することにより肥満の治療(ダイエット)に用いることができる。いずれの場合においても、生体に対して低侵襲で治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態に係るレーザ治療装置より照射されるレーザ光の波長を説明するための説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るレーザ治療装置より照射されるレーザ光の波長を説明するための説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るレーザ治療装置より照射されるレーザ光の光強度及びプラークの位置を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るレーザ治療装置より照射されるレーザ光のビーム面積及び開口数を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るレーザ治療装置より照射されるレーザ光を集光する集光レンズを液体レンズとした場合の一例を説明するための説明図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ治療装置の概略構成の一例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る超音波探蝕子の一例の一部の模式図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る超音波探蝕子の一例の全体の断面図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ治療装置による治療方法の一例を説明するための説明図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ治療装置による治療方法の一例を説明するための別の説明図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ治療装置による治療方法の一例を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る超音波探蝕子の一例の一部の模式図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る超音波探蝕子の一例の全体の断面図である。本発明の第2の実施の形態に係る
【符号の説明】
【0092】
10 レーザ治療装置
12 超音波探蝕子
14 画像取得部
16 集光部
18 焦点距離可変部
20 冷却部
22 プラーク位置取得部
23 表示部
24 レーザ光照射部
26 出力変化部
28 制御部
52 集光レンズ
74 液体レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の体内の脂肪成分を含む治療部位及び前記治療部位周辺の画像を取得する画像取得手段と、
前記画像取得手段により取得した前記画像の画像データに基づいて、レーザ光の光軸方向における前記治療部位の位置を取得する位置取得手段を備え、
前記治療部位に対して体外から1201nm以上でかつ、1227nm以下の波長のレーザ光を照射する照射手段と、
前記照射手段から照射されたレーザ光を前記位置取得手段により取得した前記治療部位の位置に集光させる集光手段と、
を備えたレーザ治療装置。
【請求項2】
前記照射手段は、照射するレーザ光の光強度を変化させる光強度変化手段を備え、
前記集光手段は、集光レンズと、前記集光レンズの焦点距離を変化させる焦点距離可変手段と、を備え、
前記レーザ光の光強度が前記治療部位を治療可能な光強度となるように前記治療部位の位置に基づいて前記光強度変化手段及び前記焦点距離可変手段を制御する制御手段と、
を備えた請求項1に記載のレーザ治療装置。
【請求項3】
前記焦点距離可変手段が、前記集光レンズを前記レーザ光の光軸方向に移動させる移動手段である、
請求項2に記載のレーザ治療装置。
【請求項4】
前記集光レンズが、焦点距離を変更可能な液体レンズである、
請求項2または請求項3に記載のレーザ治療装置。
【請求項5】
複数の前記照射手段を備え、
前記集光手段が、前記複数の照射手段から照射された複数のレーザ光を集光させる、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザ治療装置。
【請求項6】
前記画像取得手段により取得した前記治療部位及び前記治療部位周辺の画像を表示する表示手段を備えた、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレーザ治療装置。
【請求項7】
前記照射手段から照射されたレーザ光が照射される前記生体の表面を冷却する冷却手段を備えた、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレーザ治療装置。
【請求項8】
前記冷却手段が、前記レーザ光を透過する一対の薄膜材と、前記一対の薄膜材の間に、前記生体を冷却するための液体または気体を供給する供給手段と、を含む、
請求項7に記載のレーザ治療装置。
【請求項9】
前記画像取得手段が、超音波探蝕子を含み、前記生体の体外から体内に向けて前記超音波探蝕子から出力された超音波の反射波に基づいて超音波画像を取得する超音波画像取得手段である、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のレーザ治療装置。
【請求項10】
前記集光手段の開口数が、前記生体の表面における前記レーザ光のビーム面積が、前記治療部位に集光する前記レーザ光のビーム面積の1.7倍以上となるような開口数である、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のレーザ治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−5194(P2010−5194A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168976(P2008−168976)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】