説明

レーザ測距装置

【課題】投光・受光の過程での光エネルギーの損失が少なく、かつ投受光視差も小さいレーザ測距装置を提供する。
【解決手段】パルス波または変調波からなるレーザ光1を発光する発光素子12と、発光素子に近接して位置しレーザ光2を対象物に向けて投光する投光レンズ14と、対象物で反射したレーザ光3を反射する反射ミラー16と、反射ミラーで反射したレーザ光を受光する受光器18とを備える。発光素子12は、ビーム拡がり角が小さい狭角方向とビーム拡がり角が大きい広角方向とを有している、また、投光レンズ14は、投光レンズ直後でのビーム形状を狭角方向に短く、広角方向に長く成形し、投光レンズ通過後のビームは広角方向ではほぼ平行光に、狭角方向は徐々に拡大するように焦点距離が選定されている。さらに、反射ミラー16は、投光レンズ14から投光されたレーザ光の狭角方向にレーザ光2と干渉しないように近接して位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて対象物までの距離値を測距するレーザ測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ測距装置は、パルス波または変調波のレーザ光を対象物に向けて投光し、対象物で反射したレーザ光を受光し、投光と受光の時間差又は位相差から、対象物までの距離値を算出する装置である。
【0003】
かかるレーザ測距装置は、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0004】
特許文献1の「レーザ測距装置」は、計測対象の奥行き方向、視野内に分布する複数の受信信号を分離して計測することを可能にし、計測対象の姿勢、微小変位などの高度な計測を行うことを目的とする。
そのため、この発明では、図6に示すように、受信光学系51の焦点面上に視野制限機構52を設置し視野内の任意の位置及び形状のレーザ反射光のみを選択的に光検知器59に導き、スタート光検知器50の出力から光検知器59の出力までの時間間隔を測定装置54により測定し、計算機55により距離を算出する。また、ビームスプリッタ56により分岐した受信光から対象物の自然光による画像及びレーザ反射光イメージを取得する手段53を有し、対象物の特徴点選択を可能としている。
【0005】
特許文献2の「レーザ距離計測装置」は、小形軽量で、狭隘部への計測を非接触で行え、気中と液中の環境でも使用できることを目的とする。
そのため、この発明では、図7に示すように、レーザ装置61からの低コヒーレンスレーザ光62を計測用光63と参照用光64に分割し、計測用光63を光ファイバーを用い計測対象物に照射し計測対象物で反射した計測反射光を導く計測側光路65と、参照用光を導く参照側光路66と、参照側光路先端に設けられ参照用光を反射するとともに参照側光路の長さをレーザ光の1波長から数百波長までの範囲において変調させる光変調器67と、この光変調器によって反射され参照側光路によって導かれた参照側反射光および計測側反射光の合成された出力光を検出する光検出器68と、この光検出器で得られた信号と前記光変調器の変調信号との相関処理を行い、干渉の有無を分析し計測側光路と参照側光路の長さが一致しているかどうかの判断を行って計測対象物の距離に関する情報を出力するデータ処理装置69とを備えたものである。
【0006】
【特許文献1】特開2003−57343号公報、「レーザ測距装置」
【特許文献1】特開2003−194518号公報、「レーザ距離計測装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、レーザ測距装置においては、レーザ光を投光し計測対象物にあたった反射光を受光することにより、投受光間の時間差又は位相差から距離を計測する。
【0008】
この時、投光光路と受光光路をビームスプリッタを用いて同軸に設定する場合と、ビームスプリッタを用いずに平行に設定する場合がある。
【0009】
特許文献1、2のように、ビームスプリッタを用いる場合、ビームスプリッタによる減衰が大きく、光学的効率が悪い問題点がある。例えば、図1Aの模式図において、ビームスプリッタの透過率は50%以下、反射率も50%以下であり、投光・受光の過程で光エネルギーの75%以上が失われてしまう。
【0010】
一方ビームスプリッタを用いずに、図2に示すように平行に設定する場合、投受光光路の光軸間にずれ(投受光視差)が必然的に生じる。この投受光視差のため厳密には投受光光路は平行ではなく計測対象物を頂点としたV型となり、図1Bに模式的に示すように、投受光光路間に視差が生じる。そのため、図1Cのように、計測対象物からの反射光が受光素子に正確に結像しない不感帯が生じるという問題がある。
投光器に半導体レーザを用いた場合、投光光路幅、受光光路幅はそれぞれ例えば6mm前後であり、投受光視差は少なくとも6mm以上となる。
【0011】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、投光・受光の過程での光エネルギーの損失が少なく、かつ投受光視差も小さいレーザ測距装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、パルス波または変調波からなるレーザ光を発光する発光素子と、
該発光素子に近接して位置し前記レーザ光を対象物に向けて投光する投光レンズと、
対象物で反射したレーザ光を反射する反射ミラーと、
該反射ミラーで反射したレーザ光を受光する受光器とを備え、
前記発光素子は、ビーム拡がり角が小さい狭角方向とビーム拡がり角が大きい広角方向とを有しており、
前記投光レンズは、投光レンズ直後でのビーム形状を狭角方向に短く、広角方向に長く成形し、投光レンズ通過後のビームは広角方向ではほぼ平行光に、狭角方向は徐々に拡大するように焦点距離が選定されており、
前記反射ミラーは、前記投光レンズから投光されたレーザ光の狭角方向に該レーザ光と干渉しないように近接して位置する、ことを特徴とするレーザ測距装置が提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記発光素子は、狭角方向のビーム拡がり角が3〜6°である半導体レーザ素子である。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の構成によれば、発光素子がビーム拡がり角が小さい狭角方向とビーム拡がり角が大きい広角方向とを有しており、投光レンズが投光レンズ直後でのビーム形状を狭角方向に短く、広角方向に長く成形し、投光レンズ通過後のビームは広角方向ではほぼ平行光に、狭角方向は徐々に拡大するように焦点距離が選定されているので、レーザ測距装置内部で投光光路と受光光路の間隔を短縮することが可能となる。
これにより、視差により受光素子での結像位置がずれる問題を軽減でき、視差による不感帯の問題を低減することができる。また、ビームスプリッタを用いないことから光学的な効率の悪さを被ることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0016】
図3は、本発明によるレーザ測距装置の全体構成図である。また図4は、本発明によるレーザ測距装置の作用説明図である。図3及び図4において、本発明のレーザ測距装置10は、発光素子12、投光レンズ14、反射ミラー16、及び受光器18を備える。
【0017】
発光素子12は、パルス波または変調波からなるレーザ光1を発光する。
この発光素子12は、ビーム拡がり角が小さい狭角方向(この図でZ方向)とビーム拡がり角が大きい広角方向(この図でY方向)とを有している。
発光素子12は、好ましくは狭角方向のビーム拡がり角が3〜6°である半導体レーザ素子である。なお、この場合、広角方向のビーム拡がり角は例えば30°前後である。
【0018】
投光レンズ14は、発光素子12に近接して位置し、発光したレーザ光1を対象物に向けて投光する。以下、投光したレーザ光2を「投光レーザ光」と呼ぶ。
この投光レンズ14は、図4A〜図4Dに示すように、投光レンズ直後での投光レーザ光2のビーム形状を狭角方向に短く、広角方向に長く成形し、投光レンズ通過後の投光レーザ光2は広角方向ではほぼ平行光に、狭角方向は徐々に拡大するように焦点距離が選定されている。
【0019】
反射ミラー16は、対象物で反射したレーザ光3(以下反射レーザ光)を好ましくは直角に反射する。
反射ミラー16は、投光レンズ14から投光されたレーザ光2(投光レーザ光)の狭角方向にレーザ光と干渉しないように近接して位置する。
また反射ミラー16は、全反射ミラーであり、反射率は少なくとも80%以上である。
【0020】
受光器18は、反射ミラーで反射したレーザ光3(反射レーザ光)を受光する。
【0021】
本発明のレーザ測距装置10は、さらに距離値演算器20を備える。
距離値演算器20は、投光したレーザ光1と受光したレーザ光3の時間差または位相差から対象物までの距離値を演算する。演算された距離値は、計測データ(二次元データまたは三次元データ)として図示しない出力装置(表示装置、記憶装置、制御装置等)に出力される。
【0022】
図5は、投光レンズの焦点距離とビームの幅の関係を示す図である。この図において、レンズ14から距離Lにおけるビームの幅W(L)は、数1の式(1)で表される。式(2)と式(3)はレンズ入射端でのビーム幅Wと、式(1)のMを表す式である。
これらの関係式から、投光レンズ14の直後での投光レーザ光2のビーム形状を狭角方向に短く、広角方向に長く成形し、投光レンズ通過後の投光レーザ光2は広角方向ではほぼ平行光に、狭角方向は徐々に拡大するように焦点距離fを設定することができる。
【0023】
【数1】

【0024】
上述したように、本発明では、ビームスプリッタを用いず、投受光光路を平行に設定する光学系において、投光レンズ14の直後での投光レーザ光2のビーム形状を狭角方向に短く、広角方向に長く成形する。
また発光素子12と受光素子18が構造的に干渉しないよう、受光光路(または投光光路)をミラー16により屈曲させる。
さらに、発光素子12(半導体レーザ素子)のビーム拡がり角が狭角方向とこれに直交する広角方向で異なることを利用し、投光レンズ出射端直後でのビーム形状を広角方向に長く、受光光路との間隔方向である狭角方向に短い形状に成形し、投光レンズ通過後のビームは広角方向ではほぼ平行光に、狭角方向は徐々に拡大するような、適切な焦点距離のレンズを選定している。なお、狭角方向と広角方向の向きは、どちらが水平方向であってもよい。
【0025】
これにより、レーザ測距装置10の内部で投光光路と受光光路の間隔を短縮することが可能になり、視差により受光素子での結像位置がずれる問題を軽減できる。
一方、計測対象物の位置におけるビーム形状が極端に狭いと、凹凸のある物体を測距する場合に、ビームが当たる位置によって距離値が過敏に変動しやすく使用しにくいことがある。このためビーム形状はある程度大きいことが望ましいが、本発明では計測対象物付近でのビーム形状は拡大しているためこの問題を被ることはない。
【0026】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の問題点を模式的に示す図である。
【図2】ビームスプリッタを用いない従来のレーザ測距装置の模式図である。
【図3】本発明によるレーザ測距装置の全体構成図である。
【図4】本発明によるレーザ測距装置の作用説明図である。
【図5】投光レンズの焦点距離とビームの幅の関係を示す図である。
【図6】特許文献1の「レーザ測距装置」の模式図である。
【図7】特許文献2の「レーザ距離計測装置」の模式図である。
【符号の説明】
【0028】
1 レーザ光、2 投光レーザ光、3 反射レーザ光、
10 レーザ測距装置、12 発光素子、
14 投光レンズ、16 反射ミラー、
18 受光器、20 距離値演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス波または変調波からなるレーザ光を発光する発光素子と、
該発光素子に近接して位置し前記レーザ光を対象物に向けて投光する投光レンズと、
対象物で反射したレーザ光を反射する反射ミラーと、
該反射ミラーで反射したレーザ光を受光する受光器とを備え、
前記発光素子は、ビーム拡がり角が小さい狭角方向とビーム拡がり角が大きい広角方向とを有しており、
前記投光レンズは、投光レンズ直後でのビーム形状を狭角方向に短く、広角方向に長く成形し、投光レンズ通過後のビームは広角方向ではほぼ平行光に、狭角方向は徐々に拡大するように焦点距離が選定されており、
前記反射ミラーは、前記投光レンズから投光されたレーザ光の狭角方向に該レーザ光と干渉しないように近接して位置する、ことを特徴とするレーザ測距装置。
【請求項2】
前記発光素子は、狭角方向のビーム拡がり角が3〜6°である半導体レーザ素子である、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−286595(P2008−286595A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130595(P2007−130595)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】