説明

レーザ生成荷電粒子ビームを用いた材料分析装置

【課題】高エネルギーの荷電粒子ビームにより測定試料中の物質ごとに1μm〜0.1μm等といった高空間分解能で定量的に材料分析できるとともに、前述した高精度の材料分析を研究室規模の施設で可能とする材料分析装置を提供する。
【解決手段】パルスレーザを射出するパルスレーザ射出部1と、前記パルスレーザが照射される金属薄膜Fを有し、当該金属薄膜Fから荷電粒子ビームを生成する荷電粒子ビーム生成部2と、前記荷電粒子ビーム生成部2から射出された荷電粒子ビームIBを磁場又は電場により収束して、測定試料Sに照射する荷電粒子ビーム制御部3と、前記荷電粒子ビームIBが測定試料Sに照射された際に生じる放射線Rを測定する放射線測定部4と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームや陽子ビーム等の荷電粒子ビームを測定試料に照射した際に発生する放射線を測定して、前記測定試料の材料分析を行うために用いられる材料分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウム電池の開発においては、放電状態と充電状態における電極物質中のリチウムイオン分布がどのように変化するかを計測することは重要なポイントとなっている。より具体的には、電極物質はリチウムとそれ以外のニッケル等多くの材料の組み合わせで構成されているが、電極物質中のリチウムだけを特定して測定できるとともに、その密度分布を数100μm以上の視野で、1μmから0.1μmのオーダの高空間分解能で測定できることが求められている。
【0003】
非特許文献1に示されるように、計測の難しい重金属中のリチウムイオンの測定にはPIGE(Particle Induced Gamma-ray Emission)法とよばれる測定方法が用いられる。この方法は、リチウムイオンに対してビーム直径が1μm程度であり、MeVクラスのマイクロ陽子ビームを測定試料上に走査し、核変換等により生じるガンマ線を測定することで、リチウムイオンの密度分布を測定するものである。
【0004】
このようなPIGEを用いた測定方法は、極めて低エミッタンスの高エネルギー荷電粒子ビームを用いる必要があり、現在のところ特殊な大型研究施設に配備されている大型静電加速器でイオンを加速し荷電粒子ビームを生成して、リチウム電池の電極材料等の材料分析が行われている。
【0005】
つまり、上述したようなMeVクラスの荷電粒子ビームを測定試料に対して走査し、高分解能で材料分析を研究室規模の施設で行うことは難しく、精密な分析を行うためには、大型研究施設を利用する必要があり、そういった施設では利用制限等の問題があるので、例えばリチウム電池の材料開発における開発スピードに制限が出てしまっているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Mteus, et al. Nucl. Instr. Meth. B 266,1490, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、高エネルギーのレーザ生成荷電粒子ビームにより測定試料中の物質ごとに1μm〜0.1μm等といった高空間分解能で定量的に材料分析できるとともに、前述した高精度の材料分析を研究室規模の施設で可能とする材料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の材料分析装置は、パルスレーザを射出するパルスレーザ射出部と、前記パルスレーザが照射される金属薄膜を有し、当該金属薄膜から荷電粒子ビームを生成する荷電粒子ビーム生成部と、前記荷電粒子ビーム生成部から射出された荷電粒子ビームを磁場又は電場により収束して、測定試料に照射する荷電粒子ビーム制御部と、前記荷電粒子ビームが測定試料に照射された際に生じる放射線を測定する放射線測定部と、を備えた事を特徴とするレーザ生成荷電粒子ビームを用いた材料分析装置である。
【0009】
例えば、パルスレーザのパルス幅をごく短くし、高強度のパルスレーザを金属薄膜に照射し、金属薄膜から高エネルギーの荷電粒子ビームを生成することができ、大型の加速器を用いることなく、高エネルギーの荷電粒子ビームを用いて測定試料の材料分析を行うことができる。従って、大型の加速器を用いる必要が無いことから、材料分析装置全体をコンパクトに構成する事が可能となり、研究室規模の施設でMeVクラスのエネルギーを有した荷電粒子ビームを前記荷電粒子ビーム制御部で所望のビーム直径に収束させて、測定試料上に走査することにより、そこから得られる放射線から測定試料のメゾスコピックな構造等を好適に分析することができるようになる。
【0010】
従って、新たな電極を開発した場合に、遠方にある特別な研究施設等に持ち込むことなく、研究室ですぐに材料分析を行うことが可能となり、リチウム電池等の評価、開発のスピードを向上させることができる。
【0011】
前記荷電粒子ビームのビーム直径を例えば1μm程度に収束し、各種材料分析において高分解能の測定を可能とする。測定試料の所望の場所に荷電粒子ビームを照射するための具体的な構成としては、前記荷電粒子ビーム制御部は、前記荷電粒子ビーム生成部から射出された荷電粒子ビームを磁場又は電場によりエネルギーごとに分散させるエネルギー分散部と、前記エネルギー分散部を通過して分散された各荷電粒子ビームが通過するスリットアレイと前記スリットアレイを通過した各荷電粒子ビームを磁場又は電場により収束させる収束手段と、を具備する収束部と、前記収束部により収束された各荷電粒子ビームを磁場又は電場により結合する結合部と、前記結合部により結合された荷電粒子ビームを磁場又は電場により前記測定試料上で走査する走査部と、を備えたものである。このようなものであれば、前記荷電粒子ビーム生成部から入射した荷電粒子ビームを前記エネルギー分散部でエネルギーに分散させ、さらにエネルギーごとに分散された荷電粒子ビームをそれぞれスリットアレイで分離し、その後、収束部と結合部においてエネルギーごとに分離した荷電粒子ビームをそれぞれ収束し1つのビームに結合させることにより材料分析で必要とされる空間分解能に適したビーム直径を実現できる。
【0012】
荷電粒子ビームを磁場によって所望のビーム直径にするために適した前記エネルギー分散部、前記収束部、前記結合部の具体的な実施の態様としては、前記エネルギー分散部が、複数のダイポール磁石対で構成されており、前記収束手段が、四重極の磁気レンズアレイであり、前記結合部が複数のダイポール磁石対で構成されたものが挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明のレーザ生成荷電粒子ビームを用いた材料分析装置であれば、例えば短パルス高エネルギーのレーザを金属薄膜に照射することにより、高エネルギーを有した荷電粒子ビームを生成し、この荷電粒子ビームを用い測定試料中の各元素について密度等を高空間分解能で測定することができる。従って、大型の静電加速器を用いなくても、必要なエネルギーを有した荷電粒子ビームを生成できるので、高分解能を有する材料分析装置でありながら、研究室規模の大きさでコンパクトに構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る材料分析装置を示す模式図。
【図2】レーザ生成イオンビームの特性について示す模式図。
【図3】同実施形態における陽子ビーム制御部の詳細を示す模式的斜視図。
【図4】同実施形態におけるエネルギー分散部と収束部の作用を示す模式図。
【図5】同実施形態における放射線測定部での動作を示す模式図。
【図6】同実施形態における放射線測定部における測定開始トリガの概念を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態の材料分析装置100は、例えば、リチウム電池の材料評価に用いられるものであり、MeVクラスのエネルギーを有した荷電粒子ビームを電極材料に照射した際に発生する放射線Rに基づいて、充電状態、放電状態におけるリチウムイオンの密度分布を1μmオーダの空間分解能で測定することを目的としたものである。
【0017】
さらにこの材料分析装置100は、従来のように大型のバンデグラフ等の静電加速器により荷電粒子を加速するのではなく、高エネルギー短パルスレーザPLを金属薄膜Fに照射することにより生じる高エネルギー荷電粒子ビームIBを材料分析のために用いるものである。従って、大型の静電加速器を使用する必要が無いので、研究室程度の小規模の実験施設において、高空間分解能で材料分析を行うことが可能である。
【0018】
より具体的には、本実施形態のレーザ生成荷電粒子ビームを用いた材料分析装置100は、図1に示すようにパルスレーザ射出部1と、前記パルスレーザ射出部1から射出された短パルスレーザPLにより荷電粒子ビームの一種である陽子ビームIBを生成する陽子ビーム生成部2と、前記陽子ビームIBを磁場により収束させて、測定試料Sに照射する陽子ビーム制御部3と、前記測定試料Sが収容されており、当該測定試料Sに陽子ビームIBが照射されることにより生じるガンマ線やX線等の放射線Rを測定する放射線測定部4とから構成してある。
【0019】
各部について詳述する。なお、以下の説明では陽子ビームIBの進行方向をZ軸、水平方向にX軸、鉛直方向にY軸をとった座標軸に基づいて説明を行う場合もある。
【0020】
前記パルスレーザ射出部1は、パルス幅0.1ps、エネルギーとして1〜10Jを有するパルスレーザPLを射出するものである。さらに、パルスレーザPLは、集光径が10μm以下、コントラスト比が109以上のものである。これらの値は一例であり、後述する前記陽子ビーム生成部2において高効率で陽子ビームIBを発生させるのに適した値を選択すればよい。また、前記パルスレーザ射出部1から水平方向に射出されたパルスレーザPLは、ミラー11によって反射された後に、前記陽子ビーム生成部2のレーザ透過窓211を介して内部へと導入されるようにしてある。
【0021】
前記陽子ビーム生成部2は、請求項での荷電粒子ビーム生成部に相当するものであり、内部が真空に保たれた真空室内にパルスレーザPLが照射されることにより陽子ビームIBが発生する金属薄膜Fを少なくとも収容するものである。より具体的には、真空室の側面に設置され、前記パルスレーザ射出部1から射出されたレーザPLを真空室内に導入するためのレーザ導入部21と、前記レーザ導入部21を通過したパルスレーザPLを反射し、前記金属薄膜FにパルスレーザPLを集光して照射するための凹面鏡22と、前記金属薄膜Fが巻き付けられており、当該金属薄膜FにおけるパルスレーザPLの照射位置を逐次変更するためのロール機構23と、前記金属薄膜Fから生成される陽子ビームIBのうち所定の角度広がり以内のものだけを選別するための生成部ピンホール24と、を備えたものである。
【0022】
前記レーザ導入部21は、一端にレーザ透過窓211が形成され、もう一端が真空室内に開口する水平方向に延びる筒状体である。すなわち、前記レーザ透過窓211を陽子ビームIBが発生する前記金属薄膜Fから遠ざけて配置することにより、陽子ビームIBに付随して発生する金属薄膜Fの蒸発粒子による影響により汚れが付着する事等を防ぐようにしてある。
【0023】
前記凹面鏡22は、その焦点が前記金属薄膜Fの一方の面上となるように配置されており、-X方向に進むパルスレーザPLを金属薄膜方向(Z方向)へと反射するようにしてある。
【0024】
前記ロール機構23は、金属薄膜Fを巻き取りつつ移動させるためのものであり、上下に設けられた第1ロール231と、第2ロール232とを備えたものである。より具体的には、前記ロール機構23は、前記金属薄膜Fが巻き付けられた第1ロール231と、前記金属薄膜Fの一端が取り付けられた第2ロール232と、を備え、前記第2ロール232を回転させることにより当該第2ロール232へと金属薄膜Fを巻き取るように構成したものである。このロール機構23は、パルスレーザPLのパルスに同期にして前記金属薄膜Fを所定の速度で巻き取っていくので、前記金属薄膜FにパルスレーザPLが照射される場所は逐次新しい領域となる。従って、例えば60分間等といった長時間に亘って陽子ビームIBを生成し続けられる。
【0025】
前記金属薄膜Fは、幅が1cm程度であり薄膜中央部の幅100μm程度のレーザ照射面以外は厚さが100μm程度であり、レーザ照射面の厚さが1mm以下のアルミ(Al)等からなるものであり、パルスレーザPLが照射されるレーザ照射面と、その反対側の面である裏面とを有し、前記裏面には、2nm程度の厚さで水を塗布してある。
【0026】
ここで、金属薄膜FにレーザPLが照射されることにより発生する陽子ビームIBについて説明する。前記金属薄膜Fに照射されるレーザPL強度が1018 W/cm2以上になると、MeVエネルギーの電子が金属薄膜Fから放射される結果、前記金属薄膜Fにおけるレーザ照射スポットは高電圧となる。一方、レーザ照射スポットの裏側においては、金属薄膜Fが1μmほどの厚さしかなく、前記レーザ照射スポットという非常に狭い領域に形成される高電圧電場に近接しているため、前記金属薄膜Fのレーザ照射面とは反対側の面である裏面に塗布された水から陽子ビームIBが発生することになる。
【0027】
前記生成部ピンホール24は、所定の直径を有する穴であり、前記レーザ照射スポットと一直線状に並ぶように前記裏面に対向するように設けてある。より具体的には、前記金属薄膜Fのレーザ照射スポットに対して裏面において対向して発生する、陽子ビームIB発生スポットの中心付近、直径10μmから発生する陽子ビームIBのみを通過させるように前記生成部ピンホール24を配置してある。このため、本実施形態の生成部ピンホール24は、例えば直径30mm以上100mm以下に形成してある。
【0028】
図2に示す本実施形態の材料分析装置100とは別の実験装置100Aにおけるレーザ生成イオンビームIBの放射方向分布とエネルギースペクトルの測定例を示す。この実験装置100Aは、X方向に所定間隔ごとに設けられたピンホール24Aに金属薄膜FにレーザPLを照射することにより発生したイオンビームを通過させるとともに、X方向磁場に通すことで、レーザ生成イオンビームIBにおけるイオンの放射方向とエネルギースペクトルを同時測定している。この実験結果から分かるようにレーザ生成イオンビームIBはビームの粒子軌道に重なりがなく、層流となっている。従って、本実施形態の材料分析装置100において、前述したように前記生成部ピンホール24を設けることにより陽子ビームIBを射出方向の揃ったビームとすることができる。
【0029】
次に、請求項での荷電粒子ビーム制御部に相当する前記陽子ビーム制御部3について説明する。前記陽子ビーム生成部2から射出される陽子ビームIBは、図1に示すように前記陽子ビーム制御部3により所定のビーム径に収束されるとともに、測定試料Sの所望の位置に照射されるように走査される。また、この陽子ビーム制御部3においては、ビーム中における陽子のエネルギーの違いに関わらず同一点に略収束するようにアクロマティックな収束系が構成してある。以下の説明では、前記陽子ビーム制御部3のみを拡大して、X軸方向が上下方向となるように記載した図3の斜視図も参照しながら説明する。
【0030】
前記陽子ビーム制御部3は、前記陽子ビーム生成部2から射出された陽子ビームIBを磁場によりエネルギー分散するエネルギー分散部31と、前記エネルギー分散部31を通過した陽子ビームIBが通過するであるスリットアレイ321と四重極磁気レンズアレイ322からなる収束部32と、前記収束部32を通過した陽子ビーム群IBを磁場によって結合する結合部33と、結合部33により収束されたビームを磁場により前測定試料S上で走査する走査部34と、を備えたものである。
【0031】
前記エネルギー分散部31は、2つのダイポール磁石対311、312で構成してあるものであり、このダイボール磁石対311、312はY軸方向に対向して設けてあり、−Y軸方向とY軸方向に磁力線が向かうように設定してある。つまり、これらダイボール磁石対の間を通過する陽子ビームIBは、XZ平面内において屈曲されることになる。前記エネルギー分散部31についてより詳述すると、前記陽子イオンビームIBはY軸マイナス方向に磁力線が向いている第1ダイボール磁石対311を先ず通過し、エネルギー分布ごとに曲げられた後、Y軸プラス方向に磁力線が向いている第2ダイポール磁石対312を通過して各陽子の移動方向を略Z軸方向に戻されるようにしてある。
【0032】
このように陽子ビームIBのエネルギー分散が行われることにより、図4に示すように陽子ビームIBの低エネルギー成分ほど大きく外側へと曲げられ、高エネルギー成分はほとんど曲げられずに略直進することになる。
【0033】
前記スリットアレイ及び四重極磁気レンズアレイからなる収束部32は、通過した陽子ビームIBがエネルギーごとの多数のビームとなりそれぞれが同じ焦点に収束するようにしたものである。
【0034】
結合部33は前記エネルギー分散部31と鏡面対称の構造をしており、ダイポール磁石対331、332で,エネルギーの異なる多数のビームを結合し収束する為のものである。前記収束部32の四重極磁気レンズアレイ322は、XZ平面において複数並べて設けてあり、前記エネルギー分散部31でエネルギー分散された陽子ビームIBごとに、X軸及びY軸方向それぞれの方向についてビームを収束させるためのものである。前記四重極磁気レンズアレイ322を通過したエネルギーごとに収束する陽子ビーム群IBは、前記エネルギー分散部31とは逆のプロセスを経て再びひとつのビームに合流する。より具体的には、前記四重極磁気レンズアレイ322の後に設けられたY軸プラス方向に磁力線が向いている第3ダイポール磁石対331において、X軸方向マイナス側へと陽子ビーム群IBは曲げられた後、Y軸マイナス方向に磁力線が向いている第4ダイポール磁石対332により陽子ビームIBは略X軸方向と平行となって1つのビームに収束される。
【0035】
前記走査部34は、X軸方向とY軸方向の双方に対向するように設けられた平板電極であり、各平板電極が概略中空直方体形状をなすように配置してある。そして、この走査部34に印加するX軸方向及びY軸方向に対向する各平板電極に印加する電圧を調節することにより、図5に示すように陽子ビームIBをX軸及びY軸に走査する。
【0036】
次に、前記陽子ビーム制御部3を通過した陽子ビームIBが前記測定試料Sに照射されることにより発生する放射線Rを測定する前記放射線測定部4について説明する。
【0037】
前記放射線測定部4は、図1及び図5に示すように、陽子ビームIBが測定試料Sに照射されると、核励起/核反応によりX線又はガンマ線などの放射線Rが元素に固有のエネルギーで、その反応断面積に応じた量が放出されるのを検出するためのものである。
【0038】
前記放射線測定部4は、前記陽子ビームIBにより測定試料Sから生じるガンマ線を検出するガンマ線検出部41と、前記荷電粒子ビームにより測定試料Sから生じるX線を測定するX線検出部42と、備えたものである。ガンマ線検出部41は、リチウムなど軽い元素を測定するために用いられるものであり、前記X線検出部42は、主に重元素の測定に用いられる。
【0039】
また、前記放射線測定部4は、図6に示すように前記パルスレーザ射出部1からパルスレーザPLが射出されてから、所定時間経過後にゲートをかけて放射線Rの測定を開始するように構成してある。より具体的には、パルスレーザPLが金属薄膜Fに照射された際に生じる陽子ビームIB以外のX線、ガンマ線、電子線等の放射線Rが、放射線測定部4に到達した後から、測定を開始し、例えばパルスレーザPLが次のパルスに入るまで測定を続けるように構成してある。具体的な数値例としては、前記放射線測定部4は、パルスレーザPLが射出されてから10ns経過後であって、100ns経過前に放射線Rの測定が開始されるようにしてある。このように構成することにより、前記測定試料S由来のX線やガンマ線のみを測定することができ、測定精度を向上させることができる。
【0040】
さらに、本実施形態の測定試料Sはリチウム電池の電極材料であるため、リチウムとニッケルについてそれぞれ充電状態と放電状態における密度分布の変化を測定するために、データ蓄積部43を更に備えている。前記データ蓄積部43は、前記ガンマ線検出部41で検出されたガンマ線に基づいて、PIGE法により得られるガンマ線のエネルギースペクトル/空間強度分布データを蓄積すると共に前記リチウムからの核励起ガンマ線強度分布を可視化する。また、前記データ蓄積部43は、前記X線検出部42で検出されるPIXE法により得られるX線のエネルギースペクトル/空間分布データを蓄積すると共に前記ニッケルの特性X線強度分布を可視化するよう構成してある。
【0041】
このように構成された材料分析装置100によれば、集光径が非常に小さく、高エネルギー、超短パルスレーザPLを金属薄膜Fに照射することで、金属薄膜Fから生成される高エネルギーの陽子ビームIBを生成することができ、大型の静電加速器を用いることなく、高エネルギーの陽子ビームIBを用いて測定試料Sの材料分析を行うことができる。
【0042】
従って、大型の加速器を用いる必要が無いことから、材料分析装置100全体をコンパクトに構成する事が可能となり、例えば材料分析装置100全体を、長さ寸法で数m程度の大きさにすることができる。さらに、研究室規模の施設でMeVクラスのエネルギーを有する陽子ビームIBを前記陽子ビーム制御部3で所望のビーム直径に収束させて、測定試料S上に走査することにより、そこから得られる放射線Rから測定試料Sのメゾスコピックな構造等を好適に分析することができるようになる。例えば、放電時と充電時のリチウムの密度分布を把握することから、新たに開発された電極材料の評価を行うことができる。
【0043】
従って、新たな電極を開発した場合に、遠方にある特別な研究施設等に持ち込むことなく、研究室ですぐに材料分析を行うことが可能となり、リチウム電池等の評価、開発のスピードを向上させることができる。
【0044】
その他の実施形態について説明する。
【0045】
前記陽子ビーム制御部3は、荷電粒子の有するエネルギーが異なる場合でも最終的に収差がなく同一点に収束させることができるアクロマティックな収束系であればその他のものであっても構わない。
【0046】
前記実施形態では、測定試料はリチウム電池の電極材料であるリチウムやニッケルを対象としていたが、その他の元素を対象としてもよい。例えば、本発明の材料分析装置は、高エネルギーの荷電粒子ビームを用いることができるので、水素、ベリリウム、ホウ素などの軽元素を対象にした場合でも好適に測定を行うことができる。
【0047】
前記金属薄膜の構成を変化させることで、陽子ビームではなく、重水素や炭素ビームなどの荷電粒子ビームを用いてもかまわない。また、荷電粒子ビームの収束は磁場によるものだけでなく、電場による収束を行っても構わない。
【0048】
さらに前記レーザ透過窓等に汚れが付着しにくくするには、前記レーザ導入部内や凹面鏡前面に磁場を印加可能に構成し、前記レーザ透過窓や凹面鏡に入射しようとするイオンの軌道を曲げ、当該レーザ透過窓や凹面鏡に到達しないようにすることが挙げられる。また、レーザ導入部に低圧ガスを導入するとともに、前記レーザ導入部と前記真空室との接続部において差動排気を行うようにすることで、イオンなどが前記真空室からレーザ導入部に侵入しないようにしても構わない。
【0049】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行ってもかまわない。
【符号の説明】
【0050】
100・・・材料分析装置
1 ・・・パルスレーザ射出部
2 ・・・陽子ビーム生成部(荷電粒子ビーム生成部)
21 ・・・レーザ導入部
211・・・レーザ透過窓
22 ・・・凹面鏡
23 ・・・ロール機構
231・・・第1ロール
232・・・第2ロール
24 ・・・生成部ピンホール
3 ・・・陽子ビーム制御部(荷電粒子ビーム制御部)
31 ・・・エネルギー分散部
32 ・・・収束部
321・・・スリットアレイ
322・・・四重極磁気レンズアレイ
33 ・・・結合部
34 ・・・走査部
4 ・・・放射線測定部
F ・・・金属薄膜
PL ・・・パルスレーザ
IB ・・・陽子ビーム(荷電粒子ビーム)
S ・・・測定試料
R ・・・放射線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザを射出するパルスレーザ射出部と、
前記パルスレーザが照射される金属薄膜を有し、当該金属薄膜から荷電粒子ビームを生成する荷電粒子ビーム生成部と、
前記荷電粒子ビーム生成部から射出された荷電粒子ビームを磁場又は電場により収束して、測定試料に照射する荷電粒子ビーム制御部と、
前記荷電粒子ビームが測定試料に照射された際に生じる放射線を測定する放射線測定部と、を備えた事を特徴とするレーザ生成荷電粒子ビームを用いた材料分析装置。
【請求項2】
前記荷電粒子ビーム制御部が、前記荷電粒子ビーム生成部から射出された荷電粒子ビームを磁場又は電場によりエネルギーごとに分散させるエネルギー分散部と、
前記エネルギー分散部を通過して分散された各荷電粒子ビームが通過するスリットアレイと、前記スリットアレイを通過した各荷電粒子ビームを磁場又は電場により収束させる収束手段と、を具備する収束部と、
前記収束部により収束された各荷電粒子ビームを磁場又は電場により結合する結合部と、
前記結合部により結合された荷電粒子ビームを磁場又は電場により前記測定試料上で走査する走査部と、を備えた請求項1記載のレーザ生成荷電粒子ビームを用いた材料分析装置。
【請求項3】
前記エネルギー分散部が、複数のダイポール磁石対で構成されており、
前記収束手段が、四重極磁気レンズアレイであり、
前記結合部が複数のダイポール磁石対で構成された請求項2記載のレーザ生成荷電粒子ビームを用いた材料分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−88201(P2013−88201A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227386(P2011−227386)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】