説明

レーザ用トーチヘッド及びハイブリッド溶接装置

【課題】レーザ溶接用トーチヘッドにレーザビーム光路偏向機構を設け、レーザヘッド自体を固定とし、ハイブリッド溶接を行う場合は、レーザビームの照射位置とアークの発生位置との位置関係を保持したまま、レーザ溶接用トーチヘッドとレーザヘッドとを一体的に、位置調整可能、姿勢調整可能としたレーザ溶接用トーチヘッドの提供。
【解決手段】内部にレーザビーム4が通過する光路空間20と、該光路空間の先端部に設けられ、レーザビーム光軸と直交する回転中心を有するミラーハウジング31と、該ミラーハウジング内部に該ミラーハウジングと同心で回転可能なミラーホルダ44と、該ミラーホルダに保持される偏向ミラー43と、前記ミラーハウジングと前記ミラーホルダとを連動して回転する回転機構とを有し、レーザビームは前記偏向ミラーにより偏向され、前記回転機構は前記ミラーハウジングと前記偏向ミラーとを2:1の比率で回転するよう構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ溶接に用いられるレーザ用トーチヘッド及びレーザ溶接とアーク溶接との組合わせで溶接を行うハイブリッド溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接方法は、エネルギ密度が高く、小さい入熱量で深い溶込みが得られるものであり、溶接歪みが少なく、高精度の溶接を可能とする。
【0003】
従来レーザ溶接方法は、フィラーメタルを用いない突合わせ溶接に実施され、対象となるものは、通常溶着金属を必要としない小型精密部品の溶接、或は薄板の溶接等であった。
【0004】
一方で、レーザ溶接を鋼構造物に適用することで、高精度の溶接、溶接作業効率の改善が期待でき、近年ではレーザ溶接とTIG溶接、或はMIG/MAG溶接を組合わせたハイブリッド溶接方法が実施されている。
【0005】
ハイブリッド溶接方法では、TIG溶接、或はMIG/MAG溶接のアークでフィラーメタルを溶融させ、レーザ溶接では得られない適正なビードを形成することができる。
【0006】
アーク溶接法とレーザ溶接法とを組合わせてハイブリッド溶接を行う場合、アーク用トーチヘッドとレーザ用トーチヘッドとを具備し、アークの発生位置にレーザを正確に照射させる必要がある。更に、溶接位置を変更する場合、特に溶接位置に対してトーチヘッドの角度を変更する場合、例えば、突合わせ溶接から隅肉溶接に移行する際等、レーザ溶接の場合、溶接位置の変更と共にレーザビームの光路を偏向する必要がある。
【0007】
従来、レーザ用トーチヘッド自体には光路変更の機構は具備してなく、光路の変更を行う場合は、レーザ用トーチヘッド迄光ファイバを用いてレーザビームを導き、光ファイバの柔軟性を利用してトーチヘッド自体を傾けていた。
【0008】
この為、ハイブリッド溶接方法では、レーザ用トーチヘッドの姿勢変更と、アーク用トーチヘッドの姿勢変更を個別に行う必要があり、溶接位置の変更、溶接姿勢の変更は多くの調整時間を必要とし、溶接の施工性の向上を妨げる原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−512965号公報
【特許文献2】特開2001−276988号公報
【特許文献3】特開平11−226763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は斯かる実情に鑑み、レーザ溶接用トーチヘッドにレーザビーム光路偏向機構を設け、レーザヘッド自体を固定とし、レーザビーム光路のみを容易に偏向可能とし、又、偏向角度を確認可能として光路偏向の作業性を確実、容易とすると共にハイブリッド溶接を行う場合は、レーザビームの照射位置とアークの発生位置とを固定でき、レーザビームの照射位置とアークの発生位置との位置関係を保持したまま、レーザ溶接用トーチヘッドとレーザヘッドとを一体的に、位置調整可能、姿勢調整可能とし、溶接作業性の向上を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内部にレーザビームが通過する光路空間と、該光路空間の先端部に設けられ、レーザビーム光軸と直交する回転中心を有するミラーハウジングと、該ミラーハウジング内部に該ミラーハウジングと同心で回転可能なミラーホルダと、該ミラーホルダに保持される偏向ミラーと、前記ミラーハウジングと前記ミラーホルダとを連動して回転する回転機構とを有し、前記光路空間を通過するレーザビームは前記偏向ミラーにより偏向され、前記ミラーハウジングより照射され、前記回転機構は前記ミラーハウジングと前記偏向ミラーとを2:1の比率で回転する様構成されたレーザ用トーチヘッドに係るものである。
【0012】
又本発明は、前記ミラーホルダの第2回転軸は前記ミラーハウジングの第1回転軸を貫通し、該第1回転軸に小径ギアが嵌着され、前記第2回転軸に大径ギアが嵌着され、前記小径ギア、前記大径ギアにそれぞれ噛合する第1ラックギア、第2ラックギアを有するスライドを直進動する様に設け、前記小径ギア、前記大径ギアのピッチ円径を1:2としたレーザ用トーチヘッドに係るものである。
【0013】
又本発明は、前記偏向ミラーの形状を、該偏向ミラーを最大傾斜させた場合に、前記レーザビームの入射光束断面が食み出さない様な細長形状としたレーザ用トーチヘッドに係るものである。
【0014】
又本発明は、前記ミラーホルダの前記偏向ミラーの背面に沿って冷却室を形成し、冷却媒体を流通させる様にしたレーザ用トーチヘッドに係るものである。
【0015】
又本発明は、前記ミラーハウジングに空気を噴出するエアナイフユニットを設け、該エアナイフユニットから噴出される空気が前記ミラーハウジングから照射されるレーザビームを横断する様に設定されたレーザ用トーチヘッドに係るものである。
【0016】
又本発明は、前記第1回転軸、前記第2回転軸の少なくとも一方に対して角度指示針及び角度目盛を設けたレーザ用トーチヘッドに係るものである。
【0017】
又本発明は、上記記載のレーザ用トーチヘッドの何れか1つを具備し、該レーザ用トーチヘッドのミラーハウジングにアーク用トーチヘッドを設け、前記ミラーハウジングと前記アーク用トーチヘッドとが一体に回転する様構成したハイブリッド溶接装置に係るものである。
【0018】
更に又本発明は、前記ミラーハウジングの回転軸にトーチアームを介してアーク用トーチヘッドを取付け、前記トーチアームは多関節構成であり、前記アーク用トーチヘッドは前記レーザ用トーチヘッドに対して位置及び姿勢の調整が可能であるハイブリッド溶接装置に係るものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部にレーザビームが通過する光路空間と、該光路空間の先端部に設けられ、レーザビーム光軸と直交する回転中心を有するミラーハウジングと、該ミラーハウジング内部に該ミラーハウジングと同心で回転可能なミラーホルダと、該ミラーホルダに保持される偏向ミラーと、前記ミラーハウジングと前記ミラーホルダとを連動して回転する回転機構とを有し、前記光路空間を通過するレーザビームは前記偏向ミラーにより偏向され、前記ミラーハウジングより照射され、前記回転機構は前記ミラーハウジングと前記偏向ミラーとを2:1の比率で回転する様構成されたので、前記ミラーハウジングの向き、該ミラーハウジングから照射されるレーザビームの光軸の方向が常に合致し、レーザ用トーチヘッドの向きと、光軸の方向とを個別にする必要がなくなり、レーザ用トーチヘッドの位置調整、姿勢調整が簡単に迅速に行える。
【0020】
又本発明によれば、前記ミラーホルダの第2回転軸は前記ミラーハウジングの第1回転軸を貫通し、該第1回転軸に小径ギアが嵌着され、前記第2回転軸に大径ギアが嵌着され、前記小径ギア、前記大径ギアにそれぞれ噛合する第1ラックギア、第2ラックギアを有するスライドを直進動する様に設け、前記小径ギア、前記大径ギアのピッチ円径を1:2としたので、前記スライドを直進動させるだけで、簡単にレーザビームの照射方向の偏向が可能となる。
【0021】
又本発明によれば、前記偏向ミラーの形状を、該偏向ミラーを最大傾斜させた場合に、前記レーザビームの入射光束断面が食み出さない様な細長形状としたので、前記偏向ミラーの占有空間が小さくなり、レーザ用トーチヘッドの小型化が可能となる。
【0022】
又本発明によれば、前記ミラーホルダの前記偏向ミラーの背面に沿って冷却室を形成し、冷却媒体を流通させる様にしたので、レーザビームによる偏向ミラーの焼損、劣化を防止できる。
【0023】
又本発明によれば、前記ミラーハウジングに空気を噴出するエアナイフユニットを設け、該エアナイフユニットから噴出される空気が前記ミラーハウジングから照射されるレーザビームを横断する様に設定されたので、溶接時に飛散するスパッタがレーザ用トーチヘッドに付着することが防止でき、又エアナイフユニットはミラーハウジングと一体に回転するので、前記レーザ用トーチヘッドの向き、姿勢を変更した場合でも、エアナイフユニットの位置調整を省略できる。
【0024】
又本発明によれば、前記第1回転軸、前記第2回転軸の少なくとも一方に対して角度指示針及び角度目盛を設けたので、レーザビームの照射方向を確実に把握でき、勘に頼らずレーザビームの照射方向、照射位置を設定でき、作業性が向上する。
【0025】
又本発明によれば、請求項1〜請求項6の何れか1つに記載のレーザ用トーチヘッドを具備し、該レーザ用トーチヘッドのミラーハウジングにアーク用トーチヘッドを設け、前記ミラーハウジングと前記アーク用トーチヘッドとが一体に回転する様構成したので、ハイブリッド溶接を可能とし、又溶接姿勢を変更する場合に、レーザ用トーチヘッド、アーク用トーチヘッドを個別に調整する必要がなくなり、作業性が向上する。
【0026】
更に又本発明によれば、前記ミラーハウジングの回転軸にトーチアームを介してアーク用トーチヘッドを取付け、前記トーチアームは多関節構成であり、前記アーク用トーチヘッドは前記レーザ用トーチヘッドに対して位置及び姿勢の調整が可能であるので、ハイブリッド溶接を行う場合に、状況に応じてレーザ用トーチヘッドとアーク用トーチヘッドとの位置関係を自在に調整でき、ハイブリッド溶接の汎用性が増大する等の優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るハイブリッド溶接装置に設けられるハイブリッド溶接トーチヘッドの前方からの斜視図である。
【図2】同前後方からの斜視図である。
【図3】図1のA−A矢視図である。
【図4】図3のB矢視図である。
【図5】図4のC矢視図である。
【図6】(A)(B)は、回転機構の説明図であり、(A)はスライドと小径ギアとの関係を示す図、(B)はスライドと大径ギアとの関係を示す図である。
【図7】図1のD矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0029】
先ず、図1、図2に於いて、本発明に係るハイブリッド溶接装置のハイブリッド溶接トーチヘッド1を示している。レーザ用トーチヘッド2は、ハイブリッド溶接装置のロボットアーム(図示せず)を介して支持され、上下、左右、前後の3軸方向に移動可能となっている。
【0030】
前記ハイブリッド溶接トーチヘッド1は、レーザ用トーチヘッド2、アーク用トーチヘッド3を具備している。尚、図示では、アーク用トーチヘッド3の1例として、MIG溶接用のアーク用トーチヘッド3を示している。
【0031】
図中、4はレーザビーム、5はフィラーメタルを示し、前記レーザビーム4の合焦位置と前記フィラーメタル5先端に発生されるアーク位置とが合致している。
【0032】
前記レーザ用トーチヘッド2は、レーザビーム偏向部6を有し、該レーザビーム偏向部6は偏向回転軸7を中心に回転可能であり、該偏向回転軸7に前記アーク用トーチヘッド3が設けられ、前記レーザビーム偏向部6と前記アーク用トーチヘッド3とが一体に回転する様になっている。
【0033】
該アーク用トーチヘッド3は、トーチアーム8を介して前記偏向回転軸7に取付けられ、前記トーチアーム8は前記アーク用トーチヘッド3の位置、姿勢を調整可能な様に、多関節構成となっている。
【0034】
前記トーチアーム8は第1腕9、第2腕10、第3腕11を具備し、前記第1腕9は前記偏向回転軸7に直交し、水平方向に延出すると共に回転可能に設けられ、第1ロック螺子13を締付けることで前記偏向回転軸7に固定、緩めることで回転可能となっている。又、前記第2腕10は、前記第1腕9の先端部に垂直に立設され、第2ロック螺子14を締付けることで前記第1腕9に固定、緩めることで回転可能となっている。前記第2腕10の上端部にはアームホルダ15が設けられ、該アームホルダ15に前記第3腕11が水平方向に挿通され、該第3腕11は第3ロック螺子16を締付けることで前記第2腕10に固定され、緩めることで回転可能となると共に軸心方向に進退可能となっている。
【0035】
前記第3腕11の先端部にはトーチホルダ17が設けられ、該トーチホルダ17に前記アーク用トーチヘッド3が取付けられ、該アーク用トーチヘッド3は第4ロック螺子18を締付けることで固定され、緩めることで回転可能となる。
【0036】
前記アーク用トーチヘッド3は下方に延出し、中途部で湾曲し、先端部が直線となっているワイヤガイド19を有し、前記フィラーメタル5は前記ワイヤガイド19を通って供給され、又該ワイヤガイド19から給電される様になっている。
【0037】
次に、前記レーザ用トーチヘッド2について図3〜図7を参照して説明する。
【0038】
該レーザ用トーチヘッド2は、内部に光路空間20を形成する鏡筒部21を有し、該鏡筒部21がハイブリッド溶接装置のロボットアーム(図示せず)に支持されている。
【0039】
前記鏡筒部21は上部鏡筒部22、下部鏡筒部23に分割され、前記上部鏡筒部22の上端に光ファイバ保持部24が設けられ、該光ファイバ保持部24にレーザ光源(図示せず)からレーザビームを導く光ファイバ(図示せず)が固定されている。
【0040】
前記上部鏡筒部22の内部には、レンズユニット25が収納され、該レンズユニット25はレンズホルダ26によって保持固定されている。該レンズホルダ26は前記上部鏡筒部22に内嵌され、該上部鏡筒部22の内周面と前記レンズホルダ26の外周面の間には筒状の冷却流路27が形成されている。
【0041】
該冷却流路27の一端には冷却ガス供給管28が連通され、前記冷却流路27の他端には冷却ガス排出管29が連通され、前記冷却ガス供給管28は図示しない冷却ガス供給源に接続され、前記冷却流路27には冷却ガスが流通される様になっている。
【0042】
前記下部鏡筒部23の下端には、前記レーザビーム偏向部6が設けられている。以下、該レーザビーム偏向部6について説明する。
【0043】
中空の略円筒形状をしたミラーハウジング31は、両側面から突出する第1回転軸A32、第1回転軸B33を有し、該第1回転軸A32、該第1回転軸B33はそれぞれ軸受34,35を介して側板A36、側板B37にそれぞれ回転自在に支持されている。前記第1回転軸A32は前記側板A36から更に延出して、前記偏向回転軸7をなし、前述した様に該偏向回転軸7には前記第1腕9が取付けられている。
【0044】
前記ミラーハウジング31の上部には、円周方向に沿って長孔の開口38が穿設されている。該開口38は前記レーザビーム4の入射口であり、前記ミラーハウジング31が所要角度、例えば60゜回転した場合でも、前記ミラーハウジング31がレーザビーム4と干渉しない形状、大きさとなっている。
【0045】
又前記ミラーハウジング31の下部にはレーザビーム射出筒39が突出形成され、該レーザビーム射出筒39は前記レーザビーム4の射出口を形成する。前記レーザビーム射出筒39には射出口を閉塞する様に透明の保護ガラス41が設けられ、又前記レーザビーム射出筒39には後述するエアナイフユニット42が取付けられている。
【0046】
前記ミラーハウジング31の内部にはミラーホルダ44が収納されている。該ミラーホルダ44の両側面からは第2回転軸A45、第2回転軸B46が突設され、前記第2回転軸A45は軸受47を介して前記第1回転軸A32に回転自在に支持され、前記第2回転軸B46は軸受48を介して前記第1回転軸B33に回転自在に支持されると共に前記第1回転軸B33を貫通して突出している。而して、前記ミラーホルダ44は前記ミラーハウジング31内に収納され、前記第2回転軸A45、前記第2回転軸B46を介して前記ミラーハウジング31に回転自在に支持されている。
【0047】
前記ミラーホルダ44には偏向ミラー43が保持され、該偏向ミラー43は前記レーザビーム4の光束断面直径より所定寸法大きい幅(図4中左右寸法)を有し、又前記偏向ミラー43が前記レーザビーム4の光軸49に対して傾斜した場合でも、レーザビーム4の光束が食み出さない寸法(図4中上下寸法)となっている。従って、前記偏向ミラー43の形状は、長方形形状、或は楕円形状、又はこれらの形状に相当する形状が選択される。
【0048】
前記偏向ミラー43の反射面中心は前記ミラーホルダ44の回転中心線上にあり、又前記光軸49上に位置する様になっている。即ち、該光軸49は前記ミラーホルダ44の回転中心線と前記偏向ミラー43の反射面中心で交差する様になっている。
【0049】
前記ミラーホルダ44には前記偏向ミラー43の裏面に沿って冷却室51が形成され、該冷却室51には冷却ガス流入口52及び冷却ガス流出口53が連通され、前記冷却ガス流入口52から前記冷却室51に冷却ガスが導入され、前記冷却ガス流入口52から冷却ガスが流出されることで、前記偏向ミラー43が冷却される様になっている。尚、前記冷却ガス流入口52、前記冷却ガス流出口53が前記ミラーハウジング31を貫通する孔は、前記冷却ガス流入口52、前記冷却ガス流出口53が前記ミラーハウジング31と干渉しない様に長孔となっている。
【0050】
前記ミラーハウジング31の外周面は該ミラーハウジング31の回転中心を中心とする円周面となっており、前記下部鏡筒部23の下面に摺接する様になっている。前記ミラーハウジング31の内部、前記下部鏡筒部23の内部は気密な空間となっており、外部からの埃等、異物が浸入しない様な構成となっている。
【0051】
尚、前記レンズユニット25及び前記偏向ミラー43を冷却する媒体は、冷却ガスに限らず、冷却水等の液体であってもよい。
【0052】
以下、図5〜図7を参照して、前記ミラーハウジング31と前記ミラーホルダ44の回転機構54について説明する。該回転機構54は、前記ミラーハウジング31と前記ミラーホルダ44とは1:2の比率で回転させる構成となっている。
【0053】
前記側板B37の前記第2回転軸B46を含む周辺には凹部55が形成され、該凹部55に前記回転機構54が収納され、更に前記凹部55は蓋56によって閉塞される。
【0054】
前記第1回転軸B33の先端部に小径ギア57が外嵌固着され、前記第2回転軸B46には大径ギア58が嵌合固着され、前記小径ギア57のピッチ円直径と前記大径ギア58のピッチ円直径とは1:2となっている。
【0055】
前記凹部55にはスライド59が水平方向に摺動自在に設けられ、該スライド59の下縁部には第1ラックギア61が刻設され、前記小径ギア57と噛合している。又、前記スライド59の反光軸49側の側面にはスライド片62が固着され、該スライド片62の下面には第2ラックギア63が刻設され、該第2ラックギア63は前記大径ギア58と噛合している。尚、図示していないが、前記凹部55には、前記スライド59を水平方向にスライド可能とするガイドが設けられている。
【0056】
前記側板B37には前記凹部55を水平方向に貫通する螺子ロッド64が回転自在に設けられ、該螺子ロッド64は前記スライド59と螺合し、又前記螺子ロッド64の突出端には回転摘み65が嵌着されている。
【0057】
該回転摘み65を回転することで、前記スライド59が水平方向に移動し、又該スライド59は、前記第1ラックギア61を介して前記小径ギア57を、又前記第2ラックギア63を介して前記大径ギア58をそれぞれ同量周方向に回転させる。更に、前記小径ギア57のピッチ円直径と前記大径ギア58のピッチ円直径とは1:2となっているので、回転角は前記小径ギア57の1に対して前記大径ギア58は1/2となる。即ち、前記回転摘み65を回転することで、前記ミラーハウジング31の回転に対して1/2の回転で前記ミラーホルダ44、即ち偏向ミラー43が回転し、前記ミラーハウジング31を回転させた場合に、前記レーザビーム射出筒39を通過する前記光軸49は前記レーザビーム射出筒39の軸心と常に合致することになる。
【0058】
前記第2回転軸B46には角度指示針66が設けられ、前記蓋56には前記第2回転軸B46を中心として角度目盛67が設けられている。従って、前記偏向ミラー43の角度は、前記角度指示針66が指す前記角度目盛67の角度によって確認することができる。
【0059】
次に、前記エアナイフユニット42について説明する。
【0060】
前記レーザビーム射出筒39にL字形状のブラケット69が取付けられ、該ブラケット69にエアノズル71が固着される。該エアノズル71はエア配管72を介して図示しない圧縮空気源に接続されている。
【0061】
前記エアノズル71は扁平な板状の空気を噴出する様、吹出し口が形成され、前記エアノズル71から噴出される空気は、前記レーザビーム射出筒39から照射される前記レーザビーム4の光軸に対して垂直となる様に設定される。
【0062】
又、吹出し口の一例としては、小径のノズル孔を所定間隔で一列に形成する、或はスリット状のノズル孔を形成する等である。
【0063】
板状の空気が光路を横切って噴出されることで、溶接部から飛散るスパッタを吹飛ばし、スパッタが前記保護ガラス41に付着することを防止する。
【0064】
以下、上記実施例の作用について説明する。
【0065】
本実施例に係るハイブリッド溶接トーチヘッドは、レーザ用トーチヘッド単体として使用することもでき、又ハイブリッド溶接トーチヘッド1としても使用することができる。
【0066】
以下は、ハイブリッド溶接トーチヘッド1として使用される場合を説明する。
【0067】
先ず、作業し易い様に前記回転摘み65を回転して、前記ミラーハウジング31の方向を決定する。例えば、前記レーザビーム射出筒39の方向を水平に調整する。
【0068】
前記アーク用トーチヘッド3を前記トーチホルダ17に取付け、前記フィラーメタル5の先端位置を前記レーザビーム4の合焦位置に対して所定の関係となる様に設定する。
【0069】
前記フィラーメタル5の位置調整は、前記第1腕9の回転、前記第2腕10の回転、前記第3腕11の回転、軸心方向の位置調整、前記アーク用トーチヘッド3の回転、該アーク用トーチヘッド3の上下位置の調整等によって行う。又、所定の関係とは、前記フィラーメタル5の先端にアークが発生された状態で、アークとレーザビーム4の合焦位置が一致する状態を言う。尚、合焦位置は光学系で決定されるので、前記レーザビーム射出筒39の先端からの位置関係は事前に調べておく。
【0070】
又、前記レーザビーム4の出力を低下させ、或は出力の低いレーザ光線を入射させ、前記レーザ用トーチヘッド2から該レーザビーム4を照射した状態で前記フィラーメタル5の位置調整を行ってもよい。或は、位置調整用に針金等を前記レーザビーム偏向部6に取付け、針金先端がレーザビーム4の合焦位置を示す様にしてもよい。
【0071】
前記アーク用トーチヘッド3の取付けが完了すると、前記回転摘み65を回転する。
【0072】
該回転摘み65の回転により、前記スライド59が移動し、前記第1ラックギア61、前記第2ラックギア63を介して前記小径ギア57、前記大径ギア58が回転される。上記した様に、該小径ギア57のピッチ円直径と、前記大径ギア58のピッチ円直径とは1:2の関係があるので、前記小径ギア57を介して回転されるミラーハウジング31、前記大径ギア58を介して回転されるミラーホルダ44は1:1/2の比で回転する。従って、前記偏向ミラー43で反射される前記レーザビーム4の光軸は、前記レーザビーム射出筒39の方向と合致する。従って、前記レーザビーム射出筒39に対する機械的な位置を溶接すべき部位に一致させることで、又溶接部位に対する角度を設定することで、実際の前記レーザビーム4の合焦位置も前記ミラーハウジング31の回転に追従する。
【0073】
前記アーク用トーチヘッド3は前記偏向回転軸7に取付けられているので、前記ミラーハウジング31の回転と一体に回転し、前記フィラーメタル5の先端とレーザビーム4の合焦位置との関係は崩れることがない。即ち、一度、前記アーク用トーチヘッド3の取付けを完了すると、前記アーク用トーチヘッド3の位置調整を行う必要がなくなる。
【0074】
又、前記レーザビーム4の照射方向、即ち傾斜角は前記角度指示針66と前記角度目盛67との関係で正確に把握することができる。例えば、隅肉溶接を行う場合で、前記レーザビーム4の傾斜角を水平に対して45゜に設定する場合、前記角度目盛67を読むことで勘に頼らず、正確に設定できる。
【0075】
更に、前記偏向ミラー43の角度を調整することで、該偏向ミラー43に入射する際の光束の断面形状が変化する。前記レーザビーム4の光束断面形状を円とすると、角度を持って前記偏向ミラー43に入射することで、入射光束の断面形状は楕円となる。更に、段円形状は入射角が大きくなる程楕円の長径が大きくなる様に変化する。一方で、短径は変化がないので、前記偏向ミラー43の形状を、該偏向ミラー43の幅がレーザビーム4断面形状の短径以上とし、長さを最大入射角の時の長径以上とすれば、経済的な偏向ミラー43の形状とすることができ、更に前記偏向ミラー43を収納するミラーハウジング31も小型化できる。従って、前記レーザ用トーチヘッド2の小型化が可能となる。
【0076】
溶接実行中は、前記冷却流路27に冷却ガスが流されて前記レンズユニット25が冷却され、又前記冷却室51に冷却ガスが流されて前記偏向ミラー43が冷却され、前記レンズユニット25、前記偏向ミラー43の焼損が防止される。
【0077】
又、前記エアノズル71からの空気の噴射で、スパッタが前記保護ガラス41に付着することが防止され、又前記エアナイフユニット42は前記ミラーハウジング31に設けられているので、該ミラーハウジング31の回転と一体に回転し、前記エアノズル71と前記レーザビーム4との関係も変ることがなく、レーザ光線の照射位置を変更する度に、前記エアナイフユニット42を位置調整する必要がない。
【0078】
尚、前記角度指示針66、前記角度目盛67は、前記偏向回転軸7に対して設けられてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 ハイブリッド溶接トーチヘッド
2 レーザ用トーチヘッド
3 アーク用トーチヘッド
4 レーザビーム
5 フィラーメタル
6 レーザビーム偏向部
7 偏向回転軸
8 トーチアーム
20 光路空間
21 鏡筒部
25 レンズユニット
31 ミラーハウジング
33 第1回転軸B
41 保護ガラス
42 エアナイフユニット
43 偏向ミラー
44 ミラーホルダ
46 第2回転軸B
51 冷却室
57 小径ギア
58 大径ギア
59 スライド
61 第1ラックギア
62 スライド片
63 第2ラックギア
64 螺子ロッド
66 角度指示針
67 角度目盛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にレーザビームが通過する光路空間と、該光路空間の先端部に設けられ、レーザビーム光軸と直交する回転中心を有するミラーハウジングと、該ミラーハウジング内部に該ミラーハウジングと同心で回転可能なミラーホルダと、該ミラーホルダに保持される偏向ミラーと、前記ミラーハウジングと前記ミラーホルダとを連動して回転する回転機構とを有し、前記光路空間を通過するレーザビームは前記偏向ミラーにより偏向され、前記ミラーハウジングより照射され、前記回転機構は前記ミラーハウジングと前記偏向ミラーとを2:1の比率で回転する様構成されたことを特徴とするレーザ用トーチヘッド。
【請求項2】
前記ミラーホルダの第2回転軸は前記ミラーハウジングの第1回転軸を貫通し、該第1回転軸に小径ギアが嵌着され、前記第2回転軸に大径ギアが嵌着され、前記小径ギア、前記大径ギアにそれぞれ噛合する第1ラックギア、第2ラックギアを有するスライドを直進動する様に設け、前記小径ギア、前記大径ギアのピッチ円径を1:2とした請求項1のレーザ用トーチヘッド。
【請求項3】
前記偏向ミラーの形状を、該偏向ミラーを最大傾斜させた場合に、前記レーザビームの入射光束断面が食み出さない様な細長形状とした請求項1又は請求項2のレーザ用トーチヘッド。
【請求項4】
前記ミラーホルダの前記偏向ミラーの背面に沿って冷却室を形成し、冷却媒体を流通させる様にした請求項1又は請求項2のレーザ用トーチヘッド。
【請求項5】
前記ミラーハウジングに空気を噴出するエアナイフユニットを設け、該エアナイフユニットから噴出される空気が前記ミラーハウジングから照射されるレーザビームを横断する様に設定された請求項1又は請求項2のレーザ用トーチヘッド。
【請求項6】
前記第1回転軸、前記第2回転軸の少なくとも一方に対して角度指示針及び角度目盛を設けた請求項2のレーザ用トーチヘッド。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1つに記載のレーザ用トーチヘッドを具備し、該レーザ用トーチヘッドのミラーハウジングにアーク用トーチヘッドを設け、前記ミラーハウジングと前記アーク用トーチヘッドとが一体に回転する様構成したことを特徴とするハイブリッド溶接装置。
【請求項8】
前記ミラーハウジングの回転軸にトーチアームを介してアーク用トーチヘッドを取付け、前記トーチアームは多関節構成であり、前記アーク用トーチヘッドは前記レーザ用トーチヘッドに対して位置及び姿勢の調整が可能である請求項7のハイブリッド溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−284698(P2010−284698A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141251(P2009−141251)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】