説明

レーザ直接描画装置

【課題】 光ビームの投射位置の回転調整を精度良くかつ簡単に行えるレーザ直接描画装置を提供する。
【解決手段】DMD7と基板Wとの間に設けられたガラス板1は、長方形の板状をなし、固定枠20に支持されたピエゾ素子21上に保持されている。ピエゾ素子21はガラス板1の相対する2つの端部10、10の両端部、即ち長方形のガラス板1の4つの角部11に設けられ、ねじり制御装置2の制御によりピエゾ素子21abcdのそれぞれを適宜伸長、短縮することにより端部10、10を反対方向にねじる。これにより、ガラス板1の表面角度が変動し、ガラス板1を透過して基板W上に照射するレーザビームの基板W上の照射位置の調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ直接描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ直接描画法(レーザダイレクトイメージング:laser Direct Imaging(以下LDIとする))では、移動ステージ上に搭載された対象物である基板等のあらかじめ決められた位置に、複数のレーザビームを投射することにより、基板上のレジスト中に配線パターンの潜像を形成しており、潜像の形成を配線パターンデータから実行することにより、フォトマスクを使用せずに直接露光が可能となる。これにより、露光プロセスの短時間化が可能となり、プリント配線基板の製造においても、レーザ直接描画法が使用されつつある。
【0003】
このLDIでは空間的光変調器であるDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:Digital Micromirror Device)を使ってレーザビームのON/OFFを個別に制御している。DMDには大きさ14μm角のミラーが多数個(例えば1024×768個)形成されており、個別ミラーのオンオフ制御が可能になっている(特許文献1)。基板は移動ステージに載置され、この移動ステージを一方向に移動させながら、ラインパターン相当する位置に光ビームを照射し、基板に塗布したレジストに配線パターンの潜像を形成するように構成されている。この光学系では、μmレベルの精度で所望の場所に光ビームを照射する必要がありDMDのミラーアレイを走査方向(移動ステージによる移動方向)に対して所定角度回転させて配置することにより解像度を上げている(特許文献2乃至4)。
【0004】
これを図11により説明する。DMDの回転方向は、ビーム位置の調整を行う上で最も重要な項目である。これにより、DMD自体の素子間隔より小さな位置に光ビームを投影できるようになる。図11(A)においてDMDのビーム間隔をpとし、その傾きをθとすると、隣のビームとの差分△dはp・θである。角度θを小さな値にすることにより△dをピッチdの1/10以下にすることが可能である。しかし、図11(B)に示すようにθが所定の値から(θ+△θ)にずれると、隣ビーム位置との間隔がわずか(εd=p・△θ)に変化する。隣同士では偏移の大きさは小さいが、nピッチ離れたビーム間では差分(E)がn・εd倍になるため、差分Eの値は調整したいピッチdより大きくなってしまう。
【0005】
【特許文献1】特開2004−9595
【特許文献2】特開2004−181723
【特許文献3】特開2007−10758
【特許文献4】特開2007−219011
【特許文献5】特開2007−47561
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上説明したように、従来はDMDを搭載した光学系全体を回転したり、基板を搭載したステージを回転したりする方法により調整していたが、このような機械的な角度調整だけでは所定の精度が得られない問題があった。これを解決するために楔状のプリズムを二つもうけ、それらの厚みと傾きとを調整することにより、ビームの焦点(z方向)と、x、 y方向の位置を個別に調整する方式も開示されている(文献5)が、十分な精度でレーザビームの間隔を調整することはできなかった。
本発明は上記従来技術の問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のレーザ直接描画装置は、複数のレーザビームをオンオフさせて対象物上に照射させることにより、所定のパターンの潜像を形成するレーザ直接描画装置において、前記対象物上に設けられ、前記複数のレーザビームを透過させる板状の透過体と、該板状の透過体の両端を反対方向にねじる手段と、を備え、該ねじる手段によるねじり角を調整して該複数のレーザビーム間のピッチ間隔を調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のレーザ直接描画装置は光ビームの投射位置の回転調整を精度良くかつ簡単に行うことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明のレーザ直接描画装置をプリント配線基板の製造に適用した例である。ステージ60には基板Wが載置され、このステージ60をステージ制御装置53を介してY方向に一定速度で移動させつつステージ60位置をセンサ(図示せず)で検出し、ステージ60の位置に対応した配線パターンを配線パターン記憶装置51から取り出し、該パターンに対応するDMD7の素子をDMD制御装置52によりオンとし、ステージ60上のレジスト上に配線パターン記憶装置51の配線パターンを直接露光するように構成されている。
【0010】
配線パターン記憶装置51の配線パターンは露光の準備段階で配線データに基づいて作成される。具体的には、ベクトルデータで書かれた配線データを二次元的な画像データであるビットマップデータに変換し、これを配線パターンとし、配線パターン記憶装置51に格納する。この作業は制御装置50で行ってもよいし、図示しない別の計算機で行ってもよい。
【0011】
レーザ5からのレーザビームはビーム拡大光学系6を経由し、DMD7で前記したように配線パターンに対応したオンオフにより透過光のみが結像光学系8を経由し、レーザビーム透過体であるガラス板1を透過して基板W上に照射される。ガラス板1はDMD7と基板Wとの間に設けられているが、レーザビームの光路中であれば他の位置であっても良い。
【0012】
ガラス板1は、長方形の板状をなし、図2に示すように固定枠20に支持されたピエゾ素子21上に保持されている。ピエゾ素子21は長方形のガラス板1の4つの角部11に設けられており、ピエゾ素子21abの間隔とピエゾ素子21cdの間隔は同一で且つピエゾ素子21ab間の辺とピエゾ素子21cd間の辺は平行になっている。図2の(B)に示すようにねじり制御装置2の制御によりピエゾ素子21abcdのそれぞれを適宜伸長、短縮することにより相対する平行な端部10、10を反対方向にねじるように構成されている。
【0013】
このようにガラス板1の両端を反対方向にねじることにより、ガラス板1の表面角度が変動し、ガラス板1を透過し基板W上に照射するレーザビームの基板W上の照射位置の調整が可能になる。これを図3により説明する。
【0014】
ガラス板1をねじることにより、ガラス板1のある部分を角度θ傾けたとすると、この部分を透過する透過ビームBは△xだけ偏移する。傾斜角θのとき、偏移量△xは、tθ(1−1/n)で表される。ここで、 tはガラス板1の厚み、nはガラス板1の屈折率である。
またガラス板1の幅Wと端のz方向偏移△Zの間には△z=θWの関係がある。例えば、屈折率1.5、厚み1mm、幅10mmのガラス板1のを△Z=15μm傾斜させると、ビーム偏移(△x)は0.5μmとなる。
【0015】
次に図4乃至図6によりガラス板1全体のビーム偏移を説明する。
いま図4に示すようにガラス板1上に、abcdのレーザビームが入射しているとき、図示する4つのレーザビームが透過する点aとb、cとdを例にとって、これらの位置調整を説明する。なお、ガラス板1の中心Oと光軸とは一致しているものとし、ガラス板1のxy方向の中心線はねじりの中心軸T1、T2と一致しているものとする。換言すれば、ガラス板のxy方向の中心線を中心軸としてガラス板1がねじられるものとする。この時、点abcdは中心Oに対して対称の位置にある。即ち、中心軸T1について、abとcは夫々線対称、中心軸T2に対してacとbdは夫々線対称である。このような条件においてガラス板1の2つの端部10、10を実線、あるいは点線で示す方向にねじったときのレーザビームの位置変動を図5に示す。
【0016】
図5が図4に示す点線で示す方向にガラス板1をねじった場合のビーム照射位置変化、図6がガラス板1を図4に示す実線で示す方向にねじったときのビーム位置変化である。図5のA、Bはそれぞれa、bに入射した光ビームが基板W上を照射した位置を示す。ガラス板1の両端を反対方向にねじることにより、それぞれ点aが角度θ、点bにおいて角度−θ傾斜すると、このとき、図3で検討したように、点a、bを透過し、対象物に投影されるレーザビームのX方向間隔は初期値Dに比べ2△x増加する。一方図6では、点abを透過する光ビームはA’、B’に照射し両者の間隔は2△xだけ狭くなる。
【0017】
図7に点abcの基板W上の照射位置の状態を示す。当初の照射位置(A0、B0、C0、D0)に対し、ガラス板1のねじり方向を破線矢印、実線矢印のように変えることによりABCD、あるいはA’B’C’D’に照射位置が変化する。その結果、それぞれのx方向間隔を変化させることが可能であり、ねじり方向とねじり角を変えることにより、ピッチ間隔の微調整が可能になる。この構成により、ミクロンレベルの微細なビーム位置の調整が可能となる。
なお、ガラス板1の中心Oは、ねじりによっても傾斜せず、その結果その照射位置Oは移動しない。またガラス板1のねじりによるガラス板1上の各点Nの傾斜角度は中心Oからの距離に比例して大きくなり、その結果照射位置の移動距離は、この中心Oからの距離に比例して大きくなる。
【0018】
図8に他の実施形態を示す。この実施形態ではガラス板1の角部11に表裏から1対のピエゾ素子21、21を配設してねじりの力を大きくしている。
図9に更に他の実施形態を示す。この実施形態ではピエゾ素子21に代えて高さ調整ねじ22を用いている。25は固定枠、26は枠体である。高さ調整ねじ22はモータ(図示せず)により駆動され、該モータの回転により加える力を調整することによりビーム位置の調整が可能となる。
【0019】
図10により制御方法を説明する。
最初にDMDの見かけ角度の調節を、以下の手順に従って行う。
第1工程)DMD傾斜角の計測
第2工程)ガラス板1ねじり角とDMD見かけ傾斜角との関係を計測
第3工程)ガラス板1のねじり角調整
第4工程)DMDみかけ傾斜角の確認と修正
【0020】
第1工程のDMD傾斜角の計測方法としては、基板に塗布したレジスト上にテストパターンを露光し、現像後、寸法測定器でテストパターンの位置を計測する方法と、露光ビームの位置を装置内に設置したセンサで計測し、その計測結果をもとに傾斜角度を計測する方法とがある。前者は露光した潜像の現像を別工程で行うため時間がかかる問題があり、後者はラインの露光・現像プロセスを省略でき調整時間を短くできる利点があるので、より効率的な計測が可能な後者の方法について説明する。
【0021】
ステージ60上に、ラインCCD40を基板Wのレジストと同じ高さで、且つラインCCD40方向がステージ60移動方向と直行するように設置する。入手可能なラインCCD40の素子ピッチは約5−10μmで、素子数は1Kから4K個であるため1つのラインCCD40で最大40mm(10μm×4000)までの範囲の計測が可能である。
【0022】
1つのラインCCD40でDMD7の露光範囲をカバーできない場合には、ラインCCD40を複数ライン使用ずることで対応が可能である。またラインCCD40の代わりに、二次元CCDを用いてもよい。この場合は、DMD7の結像位置がCCD上になるようステージ60を移動し、静止させる。DMD7の角度の算定方法は下記説明するラインCCDの場合と同じである。
【0023】
DMD7の傾斜角度θを計測する場合は、たとえば2つのDMD素子70、71のみを、ON状態にしてラインCCD40上を通過させ、その信号画像を蓄積する。このとき点DMD素子70、71の基板上の結像位置をそれぞれA’、B’とする。計測の結果から、A’、B’スポットのセンサ上の距離△p、両者が検出された時間間隔△tが分かる。このときのステージ60の移動速度をvとすると、結像点の角度θは、tanθ=△p/(△t・v)で計算できる。これが、見かけのDMD傾斜角度である。
【0024】
なお、ここでは計測点を2点としたが、多数の計測点を設けたほうが正確に角度を計測できるため、必要に応じて計測点を増加することは可能である。
【0025】
次に第2工程においては、この測定系を用いて、本格的な露光前に、ピエゾ素子21への印加電圧と見かけのDMD角度の変動量との関係を計測する。具体的には、各ピエゾ素子21に加える電圧を変化させ、それぞれのビーム位置の変化を第1の工程で説明した方法を用いて計測し、結果を記録する。この計測では測定するDMD7の素子ペア数を多くしたほうが、印加電圧とビームとの関係をより正確に計測することが可能となる。印加電圧と各ビームの変化の関係は制御装置50に記録しておく。
【0026】
第3工程においては、露光装置を用いて本格的な露光を行う前の準備としてDMD7の傾き角を調整する。まず、第1の工程を用いてDMD7の角度を計測する。制御装置50は、計測した角度が設定角の許容範囲内にあるか否かを判定し、計測角度が当初の設定範囲からずれていた場合には、第2工程で求めた関係を用いて、計測範囲に入るようにピエゾ素子21に電圧を印加する。
【0027】
第4工程においては、露光装置を一定時間使用した後、第3の工程を行いDMD7の見かけの角度が設定値内に入っていることを確認する。これは、露光装置を使用したことにより開始時点とは異なる温度分布となり、ビーム位置が変化することがあるからである。もしも、計測した角度が設定範囲から逸脱しそうな場合には、第2工程で求めた関係を用いてガラス板1の角度の修正を行うようにピエゾ素子21への印加電圧を調整する。
【0028】
なお、図9に示す実施形態の場合は、高さ調整ねじ22のメモリを読み取り、人手で回転・修正することによりピエゾ素子21と同じ動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略図。
【図2】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図3】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図4】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図5】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図6】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図7】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図8】本発明の他の実施形態を示す概略図。
【図9】本発明の他の実施形態を示す概略図。
【図10】本発明の一実施形態の動作を示す説明図。
【図11】従来例の説明図。
【符号の説明】
【0030】
1:ガラス板、2:ねじり制御装置、5:レーザ、6:ビーム拡大光学系、7:DMD、8:結像光学系、10:端部、11:角部、20:固定枠、21:ピエゾ素子、22:高さ調整ねじ、25:固定枠、26:枠体、40:ラインCCD、50:制御装置、51:配線パターン記憶装置、52:DMD制御装置、53:ステージ制御装置、60:ステージ、70:DMD素子、71:DMD素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーザビームをオンオフさせて対象物上に照射させることにより、所定のパターンの潜像を形成するレーザ直接描画装置において、
前記対象物上に設けられ、前記複数のレーザビームを透過させる板状の透過体と、
該板状の透過体の両端を反対方向にねじる手段と、を備え、
該ねじる手段によるねじり角を調整して該複数のレーザビーム間のピッチ間隔を調整する、
ことを特徴とするレーザ直接描画装置。
【請求項2】
前記レーザビームのオンオフを空間的光変調器により行う、
請求項1のレーザ直接描画装置。
【請求項3】
前記ねじる手段が、前記透過体の端部に設置したピエゾ素子を有する、
請求項1のレーザ直接描画装置。
【請求項4】
前記ねじる手段が、前記透過体の端部に設置した機械的ねじを有する、
請求項1のレーザ直接描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−210960(P2009−210960A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55777(P2008−55777)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(300091670)株式会社アドテックエンジニアリング (23)
【Fターム(参考)】