説明

レーザ着火火工品用セーフアーム装置

【課題】アーム時においてレーザ発振装置からの着火用レーザ光を着火タイミングに対応させて複数伝送経路の中から選択された目的の経路に切り換え伝送すること、セーフ時においていずれの経路にも伝送しないことを確実に行うことができ、簡単かつ小型化可能な構造を有するレーザ着火火工品用セーフアーム装置の提供。
【解決手段】レーザ発振装置1と出射された着火用レーザ光を受光する一又は複数の光ファイバ6と着火用レーザ光の光路の進行方向を制御する方向制御装置(10)を有し、着火用レーザ光をレーザ発振装置より一定間隙離れて配置された光ファイバに伝送するレーザ着火火工品において、方向制御装置を制御することによりレーザ発振装置からの着火用レーザ光を一又は複数の光ファイバの中から選択された光ファイバへ伝送させ又は伝送させないように切り換える機構を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ着火火工品用セーフアーム装置に関するものである。具体的には、ロケット、人工衛星、航空機、ミサイル等の航空宇宙製品のレーザ着火火工品に適用される安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、航空宇宙製品の火工品発火部は、その多くが火薬を電気的に着火する電気着火方式であった。しかし、火薬をレーザ光により着火するレーザ着火火工品が採用されるのに伴って、該レーザ着火火工品に対する安全装置となるセーフアーム装置が開発されている。このようなレーザ着火火工品用セーフアーム装置としては、レーザ光を遮蔽物で遮断することによりセーフ機構をもたせる方式が考えられてきた。
【0003】
例えば、着火用レーザ光を伝送する上流光路側光ファイバと下流光路側光ファイバに一定間隙を設け、その間隙にシャッターを挿入する機構をもたせたレーザ着火火工品用セーフアーム装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に記載された方式では、シャッターの上流側と下流側が1対1の関係になっているため、ひとつのレーザ発振装置によってひとつのレーザ着火火工品の着火を制御するのに有利である。
【0004】
【特許文献1】特開平8−303300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多段ロケットにレーザ着火火工品用セーフアーム装置を採用する場合、多段のロケットの点火装置個々に対し、レーザ発振装置の着火用レーザ光を所定のタイミング(各段のロケットの点火時期に応じたタイミング、着火タイミング)で伝送させる系が必要である。しかし、上記特許文献1に記載された方式では、シャッターの上流側と下流側が1対1の関係になっているため、このまま多段ロケットに適用するのは不可能であるという問題が生じる。
【0006】
この問題の解決策としては、多段のロケットの点火装置個々に対し、同数のレーザ着火火工品用セーフアーム装置を用いる手段が考えられるが、この手段では構造においても、価格においても、数量分大きくならざるを得ないという問題が生じる。もう一つの解決策としては、特許文献1に記載された方式において、下流側の伝送経路を複数に分岐し、所定のタイミングで伝送経路を切り換える機構をもたせる手段が考えられるが、この手段ではその機構を新たに付加するために、系の構造を複雑にせざるを得ないという問題が生じる。
【0007】
このように、特許文献1に記載されたレーザ着火火工品用セーフアーム装置では、多段ロケットに適用する場合、複雑な構造をとらざるを得ないため、設計上からも品質保証上からも価格的にも非常に困難な問題が存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、以上のような問題点を取り除き、アーム時においてレーザ発振装置からの着火用レーザ光を複数伝送経路の中から選択された目的の経路に切り換え伝送すること、また、セーフ時においてはいずれの経路にも伝送しないことを確実に行うことができ、簡単かつ小型化可能な構造を有するレーザ着火火工品用セーフアーム装置を提供することを目的として鋭意研究した結果、レーザ発振装置からの着火用レーザ光の進行方向を制御するだけで所定の伝送経路または遮断経路に切り換えることができる簡便な方式を見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って本発明は、着火用レーザ光を発光するレーザ発振装置と着火用レーザ光を受光するひとつ又は複数の光ファイバと着火用レーザ光の光路の進行方向を制御する方向制御装置を有し、レーザ発振装置から発する着火用レーザ光をレーザ発振装置より一定間隙離れて配置された光ファイバに伝送するレーザ着火火工品において、前記方向制御装置を制御することによりレーザ発振装置からの着火用レーザ光を前記ひとつ又は複数の光ファイバの中から選択された光ファイバへ伝送させ又はいずれの光ファイバへも伝送させないように切り換える機構を有することを特徴とする。
【0010】
ここで、レーザ発振装置の発光面、及び光ファイバの受光面には、着火用レーザ光を確実に伝送するために、レンズが配置される構造をとること、着火用レーザ光の進行方向を制御するために、方向制御装置が鏡で構成されること、方向制御装置が電動モータ等に取り付けられ、電動モータにより回転駆動することを特徴とする。
【0011】
即ち、本発明のレーザ着火火工品用セーフアーム装置は、着火用レーザ光の進行方向の切換機構を用いて、アーム時及びセーフ時の伝送及び遮断経路選択を行うことにより、簡単な構造にすることができるものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、簡単かつ小型化可能な構造にもかかわらず、アーム時においてレーザ発振装置からの着火用レーザ光を複数伝送経路の中から選択された目的の経路に切り換え伝送すること、またセーフ時においてはいずれの経路にも伝送しないことを確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、図を用いて具体的に説明する。図1に本発明のレーザ着火火工品用セーフアーム装置の一実施例を示す。
【実施例1】
【0014】
図1において、1はレーザ発振装置、2は拡散レンズ、3は第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列、4は第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列、5はスリーブ、6は光ファイバ心線、7は光ファイバコネクタ、8は集光レンズ、9は回転駆動モータ、10は反射鏡である。
【0015】
図には示していないが、各光ファイバ6の下流側には、例えばロケットモータの点火装置が位置し、本レーザ着火火工品用セーフアーム装置からの着火用レーザ光により、点火装置内の点火薬に火がつき、最終的にロケットモータ内の推進薬への点火が行われる。
【0016】
レーザ発振装置1には、伝送されるレーザ光が点火薬を十分に点火させる出力をもつレーザ発振装置が用いられる。全体の系を小型化する観点から、例えば、高出力タイプのレーザダイオードが用いられる。レーザ発振装置1の発光面には拡散レンズ2が配置されている。拡散レンズ2は、片面凸型のレンズで、レーザ発振装置1から発光される着火用レーザ光を下流へ拡散して出射する役割を担う。
【0017】
第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3、及び、第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4は、光ファイバ心線6、光ファイバコネクタ7、集光レンズ8より構成される。光ファイバコネクタ7の中心には、光ファイバ心線6が保持されている。光ファイバコネクタ7の受光面には集光レンズ8が配置されている。集光レンズ8は、片側凸型のレンズで、上流から出射された着火用レーザ光を集光し、下流側の光ファイバ心線8へ伝送する役割を担う。
【0018】
レーザ発振装置1、及び、第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3、及び、第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4は、スリーブ5で連結されている。本実施例の場合、スリーブは3つの円筒が合わさった形状になっており、着火用レーザ光が各光ファイバ系列3、4にずれなく伝送されるよう、それぞれの円筒の中心軸が同一面で重なるように配置されている。
【0019】
スリーブ5内部における、レーザ発振装置1、及び、第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3、及び、第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4の光軸が重なる点を中心にした位置には、方向制御装置を構成する反射鏡10が配置され、着火用レーザ光を反射する役割を担っている。反射鏡10は、スリーブ5の底面から内部に挿入されており、反射鏡10の下部は、回転駆動モータ9に連結されている。
【0020】
回転駆動モータ9は着火用レーザ光の進行方向を切り換える機構を構成するものである。この回転駆動モータ9は予め回転角度が設定されており、所定のタイミング(例えば、各段のロケットモータに対する点火、非点火時期に対応したタイミング)で反射鏡10を回転駆動し、レーザ発振装置1の着火用レーザ光の進行方向を切り換えることができる。回転駆動モータ9は、例えば、電動モータが用いられる。
【0021】
次に、作動機構について述べる。
【0022】
いずれの点火装置にも点火させない場合のセーフモードには、回転駆動モータ9を回転駆動させない。従って、反射鏡10の初期位置は、着火用レーザ光の進行方向がいずれの伝送光ファイバ系列3、4にも反射伝送しない位置にあることになる。このため、仮に、迷走電流等による誤動作でレーザ発振装置1が着火用レーザ光を発光したとしても、伝送光ファイバ系列3、4のいずれにも着火用レーザ光が反射伝送されないため、下流の点火装置の発火は起こりえないことになる。
【0023】
第1段ロケットモータ用点火装置に点火する場合のアームモードでは、回転駆動モータ9の回転駆動により、反射鏡10が回転し、レーザ発振装置1の進行方向が第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3に反射伝送するように位置決めされ、レーザ発振装置1からの着火用レーザ光が最終的に第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3の下流に伝送されることになる。図1に示す反射鏡10の角度位置は、第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3へ着火用レーザ光を伝送する場合を表している。
【0024】
第2段ロケットモータ用点火装置に点火する場合のアームモードでも、同様に反射鏡10の回転駆動を行うことにより、レーザ発振装置1からの着火用レーザ光が最終的に第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4の下流に伝送されることになる。
【0025】
これらのアームモードでは、反射鏡10の位置が精度良く配置されなければ、光エネルギの伝送損失が大きくなる。このため、伝送損失を低く押さえるよう、例えば、反射鏡10の位置を精度良く配置設定することを可能にする配置ガイドや、回転駆動モータ9を正確に止めるストッパーを適用する方式がとられる。
【実施例2】
【0026】
前述の実施例1において、着火用レーザ光の進行方向を制御する方向制御装置を反射鏡10によって構成した。この反射鏡10は、片面が反射面として構成されたものでも良く、また両面が反射面として構成されたものであっても良い。
【0027】
また方向制御装置として、2ポジション又は3ポジションの直線往復駆動手段を採用しても良い。この場合、第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3と第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4を並列させると共にこれらの系列3、4と対向させてレーザ発振装置1を配置し、更に、方向制御装置としての3ポジションの直線往復駆動手段を備えて構成される。
【0028】
上記方向制御装置によってレーザ発振装置1、又は第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3或いは第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4を移動させることで、レーザ発振装置1と第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3又は第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4を選択的に対向させ、或いはレーザ発振装置1を各系列3、4に対向することのない位置に配置することで、レーザ発振装置1からの着火用レーザ光の進行方向を制御することが可能である。
【0029】
更に、方向制御装置として、90度プリズムを採用しても良い。この場合、レーザ発振装置1と第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3、第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4を並列させると共に、前記プリズムを切り換え機構としての3ポジションの直線往復駆動手段によって駆動し得るように構成される。
【0030】
上記方向制御装置では、直線往復駆動手段を操作して90度プリズムを移動させることで、レーザ発振装置1からの着火用レーザ光を反射させて、該着火用レーザ光の進行方向を、第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列3又は第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列4に導くように制御することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上記構成を有する本発明のレーザ着火火工品用セーフアーム装置では、一つのレーザ発振装置1から出射されたレーザ光を、着火タイミングに対応させてひとつ又は複数の光ファイバ6の中から選択された目的の光ファイバに確実に伝送することができ、且ついずれの光ファイバにも伝送しないセーフモードの場合には、確実にいずれの光ファイバにも伝送しない。このため、多段ロケットを含む、着火タイミングの異なる複数の着火部位を有する航空宇宙製品のレーザ着火火工品に対し有利に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のレーザ着火火工品用セーフアーム装置の一実施例説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ・・・ レーザ発信装置
2 ・・・ 拡散レンズ
3 ・・・ 第1段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列
4 ・・・ 第2段ロケットモータ用伝送光ファイバ系列
5 ・・・ スリーブ
6 ・・・ 光ファイバ心線
7 ・・・ 光ファイバコネクタ
8 ・・・ 集光レンズ
9 ・・・ 回転駆動モータ
10 ・・・ 反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着火用レーザ光を発光するレーザ発振装置と着火用レーザ光を受光するひとつ又は複数の光ファイバと着火用レーザ光の光路の進行方向を制御する方向制御装置を有し、レーザ発振装置から発する着火用レーザ光をレーザ発振装置より一定間隙離れて配置された光ファイバに伝送するレーザ着火火工品において、前記方向制御装置を制御することによりレーザ発振装置からの着火用レーザ光を前記ひとつ又は複数の光ファイバの中から選択された光ファイバへ伝送させ又はいずれの光ファイバへも伝送させないように切り換える機構を有することを特徴とするレーザ着火火工品用セーフアーム装置。
【請求項2】
レーザ発振装置の発光面及び光ファイバの受光面にレンズを配置することを特徴とする請求項1記載のレーザ着火火工品用セーフアーム装置。
【請求項3】
方向制御装置が鏡で構成されることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ着火火工品用セーフアーム装置。
【請求項4】
レーザ発振装置からの着火用レーザ光の進行方向を方向制御装置を用いて制御する機構において、方向制御装置を電動モータで回転駆動することを特徴とする請求項1又は2又は3記載のレーザ着火火工品用セーフアーム装置。


【図1】
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