説明

レーザ装置

【課題】 高出力のパルスレーザ光を生成することが可能なレーザ装置を提供する。
【解決手段】 レーザ装置1ではチャネル増幅器14において、レーザ装置1Aではスラブ型固体レーザ装置44において、連続光であるレーザ光Lのそれぞれを増幅する。このため、パルスレーザ光を増幅する場合に比べて、増幅率を高く設定できる。そのように増幅されたレーザ光Lのそれぞれを回折格子16の集光位置Pで合波して合波光Lを生成する際に、集光位置Pにおいて合波光Lの出力のピークが(同じパルス時間波形が)所定の時間間隔で繰り返し現れるように、レーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。これにより、回折格子16の集光位置Pにおいて、増幅された複数のレーザ光Lによりパルスレーザ光が生成される。よって、このレーザ装置1によれば、高出力のパルスレーザ光を生成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザ光を生成するレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野のレーザ装置として、例えば特許文献1に記載されたモード同期レーザ装置が知られている。特許文献1に記載のモード同期レーザ装置は、共振器縦モード間隔の整数倍の周波数で変調されたレーザ光を、互いに異なる中心周波数すなわち中心波長のスペクトル領域に利得を有する複数の増幅器(光ファイバ増幅器など)で増幅することによって、複数の波長領域におけるパルスレーザ光を一度に生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−90050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、パルスレーザ光は、単位時間当たりのエネルギー、すなわち平均パワーが同等である連続光に比べてピーク光強度が大きい。このため、パルスレーザ光を増幅する場合には、増幅器の損傷を防止する目的から、増幅率を制限する必要がある。このため、パルスレーザ光を増幅するレーザ装置にあっては、高出力のパルスレーザ光を生成することが困難である。
【0005】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、高出力のパルスレーザ光を生成することが可能なレーザ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ装置は、互いに周波数が異なる複数の連続レーザ光から構成されるレーザパルス列を発振する発振手段と、発振手段から発振されたレーザパルス列を互いに周波数が異なる複数の連続レーザ光に分波する分波手段と、分波手段で分波された連続レーザ光のそれぞれを増幅する増幅手段と、増幅手段で増幅された連続レーザ光のそれぞれを所定の位置において合波して合波光を生成する合波手段と、所定の位置において合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように連続レーザ光のそれぞれの位相を制御する位相制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このレーザ装置では、増幅手段において複数の連続レーザ光のそれぞれを増幅する。このため、パルスレーザ光を増幅する場合に比べて、増幅率を高く設定できる。また、そのようにして増幅された連続レーザ光のそれぞれを所定の位置で合波して合波光を生成する際に、その所定の位置において合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように、連続レーザ光のそれぞれの位相を制御する。これにより、所定の位置において、増幅された複数の連続レーザ光によりパルスレーザ光が生成される。よって、このレーザ装置によれば、高出力のパルスレーザ光を生成することが可能となる。
【0008】
ここで、発振手段は、略一定の周波数差で周波数が互いに異なる連続レーザ光から構成されるレーザパルス列を発振することが好ましい。この場合、互いに異なる周波数の連続レーザ光のそれぞれの位相を制御することによって、合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるようにすることが容易となる。したがって、高出力のパルスレーザ光を容易に生成することができる。
【0009】
また、発振手段から発振されたレーザパルス列を構成する連続レーザ光間の周波数差を調節する周波数差調節手段をさらに備えることが好ましい。この場合、連続レーザ光間の周波数差を調節することにより、生成されるパルスレーザ光のパルス繰返し率を調節することができる。
【0010】
また、発振手段は、モード同期発振器又は高速電流変調の半導体レーザであることが好ましい。この場合、レーザ装置の小型軽量化及び低消費電力化を図ることができる。また、レーザ装置の機械的な安定性を向上することができる。さらには、レーザ装置の製造コストを低減することができる。
【0011】
さらに、増幅手段は、分波手段で分波された連続レーザ光のそれぞれを伝播しつつ増幅する複数の光ファイバを含むファイバアレイ、又はスラブ型固体レーザ増幅器であり、位相制御手段は、合波光のスペクトル位相を計測すると共に、該計測の結果に基づいて連続レーザ光のそれぞれの位相を制御することが好ましい。この場合、例えば、分波手段の前段にスペクトル位相変調器を設けることにより、互いに異なる周波数の連続レーザ光のそれぞれの位相を容易に制御することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高出力のパルスレーザ光を生成することが可能なレーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】光周波数コムを説明するためのグラフである。
【図2】本発明の第1実施形態に係るレーザ装置の構成図である。
【図3】図2に示されたレーザ装置の部分拡大図である。
【図4】図2に示されたチャネル増幅器の構成を示す部分断面図である。
【図5】周波数変調器の動作を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るレーザ装置の構成図である。
【図7】図6に示されたスラブ型固体レーザ増幅器の構成を示す斜視図である。
【図8】図6に示されたレーザ装置の変形例の構成図である。
【図9】パルス出力波形の調整の様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
【0015】
本実施形態に係るレーザ装置は、光周波数コムを実現するモード同期レーザをレーザ光源として用いる。そこで、光周波数コム及びモード同期発振について説明する。
【0016】
例えばファブリペロー共振器内においては、複数の縦モードのレーザ光が存在する。各縦モードのレーザ光の周波数は、共振器長をLとしたとき、図1に示されるように、△ν=c/2Lの間隔で周波数軸上に配列されている(cは光速)。このように各レーザ光の周波数が等間隔で配列された状態を光周波数コムという。このような共振器を備えるレーザ光源において、各レーザ光に対して位相変調を行なわなければ、レーザ光同士の位相の関係がランダムであるため、それらの合波光であるレーザ光源の出力光の出力時間波形もランダムとなる。一方で、そのようなレーザ光源において、過飽和吸収素子や電気−光変調器や音響光学変調器等を用いて、各レーザ光同士の位相がそろうように各レーザ光の位相変調を行うことにより、出力光の出力時間波形が、繰り返し周期T(T=1/△ν)のパルス状となり、モード同期発振が得られる。このような発振手段は、高周波数の電流変調の半導体レーザのように、短パルスが所定の時間間隔で繰り返し現れるような光源であってもよい。
【0017】
図2に示されるように、本実施形態に係るレーザ装置1は、上述したような光周波数コムを実現するモード同期レーザ、或いは高繰り返し電流変調の半導体レーザなどのレーザ光源(発振手段)10を備えている。レーザ光源10の出力光である種光Lは、パルス光(レーザパルス列)であって、一定の周波数差で互いに周波数が異なり互いに位相が同一の複数の連続レーザ光から構成されている。つまり、レーザ光源10は、連続光であって一定の周波数差で互いに周波数が異なる複数のレーザ光を合波して、パルスレーザ光である種光Lとして発振する。なお、ここでの連続光(連続レーザ光)とは、その出力が時間に対して略一定であるようなレーザ光であり、パルスレーザ光とは、その出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるようなレーザ光である。
【0018】
レーザ装置1は、レーザ光源10から発振された種光Lの光路上に順に配置された光アイソレータ11及び回折格子(分波手段)12をさらに備えている。光アイソレータ11は、レーザ光源10への戻り光を防止する。回折格子12は、種光Lを周波数ごとに複数(ここでは3つ)のレーザ光Lに分波する(つまり、レーザ光源10から発振されたレーザパルス列を互いに周波数が異なる複数の連続レーザ光Lに分波する)。換言すれば、回折格子12は、種光Lにおける光周波数コムを角度分散させる。さらに換言すれば、回折格子12は、種光Lに含まれる複数のレーザ光を周波数ごとに空間的に配列する。このとき、レーザ光Lのそれぞれは、周波数の順に空間的に配列される。
【0019】
レーザ装置1は、回折格子12で分波されたレーザ光Lの光路上に配置されたレンズ13をさらに備えている。レンズ13は、焦点距離がfであり、回折格子12における種光Lの入射位置Pから距離fだけ離れた位置に配置されている。したがって、回折格子12で分波されたレーザ光Lのそれぞれは、レンズ13を通過することにより、所定の間隔△xでもって互いに平行に進行し、レンズ13から距離fの位置でそれぞれ集光される。
【0020】
隣り合うレーザ光L同士の間隔△xは、例えば次のように求めることができる。すなわち、図3に示されるように、波長λの所定のレーザ光Lの回折格子12における回折角をβ、mを回折次数(通常1次の回折(m=1)を用いる)、Nを回折格子12の1mm当たりの溝本数、dを回折格子12の溝間隔(1/N)、とすると、回折格子12の角分散dβ/dλは、
【数1】


と表される。また、逆線分散dλ/dxは、
【数2】


と表される。したがって、隣り合うレーザ光L同士の波長間隔を△λとすると、隣り合うレーザ光L同士の間隔△xを、
【数3】


と求めることができる。具体的には、レンズ13の焦点距離fを1m、溝本数Nを1200g/mm、回折格子12に対する種光Lの入射角αを20degとしたとき、中心波長を1060nmとすると回折角は68.43degとなる。このとき、波長間隔△λが0.375pm、37.5pm及び0.375nmのそれぞれの場合の間隔△xは、1.22μm、122μm及び1.22mmとなる。
【0021】
レーザ装置1は、図2に示されるように、レンズ13を通過したレーザ光Lの光路上に配置されたチャネル増幅器(増幅手段)14をさらに備えている。チャネル増幅器14は、レンズ13を通過したレーザ光Lのそれぞれを入射して、入射したレーザ光Lのそれぞれを増幅してレーザ光Lとして出射する。チャネル増幅器14は、図4に示されるように、活性媒質(例えばNd、Yb、Er、Bi、Pr等)が添加された複数の光ファイバ14aがアレイ状に複数配列されて構成されるファイバアレイである。したがって、チャネル増幅器14は、レーザ光Lのそれぞれを伝播しつつ増幅する。このようなチャネル増幅器14においては、活性媒質の種類とレーザ光源10における発振波長との組み合わせを適宜選択することにより、所望の中心波長をもったレーザ増幅が可能となる。
【0022】
チャネル増幅器14は、その光入射端面14bがレンズ13から距離fだけ離れた位置となるように配置されている。したがって、回折格子12で分波されたレーザ光Lのそれぞれは、レンズ13を通過することにより、チャネル増幅器14の光入射端面14bにおいて集光される。隣り合うレーザ光L同士の間隔△xが上記のように求められるので、チャネル増幅器14を構成する光ファイバ14aの隣り合うコア同士の間隔をその△xとすることにより、1つの光ファイバ14aに1つの周波数のレーザ光Lを伝播させることができる。
【0023】
レーザ装置1は、図2に示されるように、チャネル増幅器14から出射されたレーザ光Lの光路上に順に配置されたレンズ(合波手段)15及び回折格子(合波手段)16をさらに備えている。レンズ15は、焦点距離がfであり、チャネル増幅器14の光出射端面14cから距離fだけ離れた位置に配置されている。また、回折格子16は、レンズ15から距離fだけ離れた位置に配置されている。したがって、チャネル増幅器14から出射されたレーザ光Lのそれぞれは、レンズ15を通過することにより、回折格子16の集光位置Pに集光される。その結果、チャネル増幅器14から出射されたレーザ光Lが回折格子16の集光位置Pにおいて合波されて、レーザ装置1の出力光としての合波光Lが生成される。このとき、レンズ15の焦点距離f及び回折格子16の溝密度を、レンズ13の焦点距離f及び回折格子12の溝密度と異なる値とすることによって、平行ビームである合波光Lのビーム太さを所望の値にすることができる。
【0024】
ここで、レーザ装置1は、位相制御装置(位相制御手段)20をさらに備えている。位相制御装置20は、回折格子16の集光位置Pにおいて、合波光Lの出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように(同じパルス時間波形が所定の時間間隔で繰り返し現れるように)レーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。この位相の制御について具体的に説明する。
【0025】
位相制御装置20は、スペクトル位相測定器(FROG等、J. Paye et al., Opt. Lett. 18, 1946-1948 (1993))21と、スペクトル位相変調器(例えば回折格子と液晶空間変調器から構成される4f光学系、或いは音響光学プログラマブル分散フィルター、P. Tournois et al., Opt. Commun. 140, 245-249 (1997))22とを有している。また、レーザ装置1には、合波光Lの一部を分岐するためのハーフミラー23と、ハーフミラー23で分岐された合波光Lをスペクトル位相測定器21に導くためのミラー24とが設けられている。
【0026】
このような位相制御装置20においては、以下のようにレーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。すなわち、位相制御装置20においては、合波光Lの一部が、ハーフミラー23及びミラー24によってスペクトル位相測定器21に入力される。スペクトル位相測定器21は、入力された合波光Lのスペクトル位相(位置Pから位置Pの間で変化した位相)を計測する。より具体的には、スペクトル位相測定器21は、入力された合波光Lに含まれるレーザ光Lのそれぞれの位相を計測する。そして、スペクトル位相測定器21は、その計測結果を示す情報をスペクトル位相変調器22に送信(フィードバック)する。スペクトル位相変調器22は、スペクトル位相測定器21からの計測結果を示す情報に基づいて、合波光Lの出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように(同じパルス時間波形が所定の時間間隔で繰り返し現れるように)種光Lに含まれるレーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。つまり、位相制御装置20は、合波光Lのスペクトル位相を計測すると共に、その計測結果に基づいてレーザ光Lのそれぞれの位相を制御する(ひいてはレーザ光Lのそれぞれの位相を制御する)。
【0027】
このように位相制御装置20が種光Lを構成する周波数の異なる複数のレーザ光の位相を制御(位置Pから位置Pの間で付加された位相変化を周波数ごとに補正)することによって、回折格子16で生成される合波光Lが、モード同期発振された光周波数コムのレーザ光と等価でピーク強度が増大されたパルスレーザ光となる。
【0028】
以上のようにして構成されたレーザ装置1においては、まず、レーザ光源10から種光Lが発振される。レーザ光源10から発振された種光Lは、スペクトル位相変調器22及び光アイソレータ11を通過して回折格子12に到達する。回折格子12に到達した種光Lは、回折格子12によって周波数ごとに複数のレーザ光Lに分波される。回折格子12で分波されたレーザ光Lのそれぞれの位相は、スペクトル位相変調器22によって、後に生成される合波光Lがパルスレーザ光となるように制御されている。回折格子12で分波されたレーザ光Lのそれぞれは、レンズ13を通過することにより互いに平行に進行し、チャネル増幅器14に入射する。チャネル増幅器14に入射したレーザ光Lのそれぞれは、チャネル増幅器14において増幅されてレーザ光Lとして出射される。
【0029】
チャネル増幅器14から出射されたレーザ光Lのそれぞれは、レンズ15を通過することで回折格子16上に集光される。そして、回折格子16上に集光されたレーザ光Lのそれぞれは、回折格子16により互いに合波されて、パルスレーザ光である合波光Lとしてレーザ装置1から出力される。このとき出力される合波光Lの一部は、スペクトル位相測定器21に入力され、スペクトル位相の計測に供される。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ装置1では、チャネル増幅器14において連続光である複数のレーザ光Lのそれぞれを増幅する。このため、パルスレーザ光を増幅する場合に比べて、増幅率を高く設定できる。また、増幅されたレーザ光Lのそれぞれを回折格子16で合波して合波光Lを生成する際に、集光位置Pにおいて合波光Lの出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように、レーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。これにより、集光位置Pにおいて、増幅された複数のレーザ光Lによりパルスレーザ光が生成される。よって、このレーザ装置によれば、高出力のパルスレーザ光を生成することができる。
【0031】
また、レーザ装置1では、レーザパルス列である種光Lを回折格子12により連続光であるレーザ光Lに分波し、それぞれのレーザ光Lをチャネル増幅器14で連続光増幅した後に、回折格子16により再度レーザパルス列に変換する。このように、レーザ装置1は、チャネル増幅器14において連続光増幅を行うので、パルスレーザ光を増幅する際の非線形光学効果(例えば、自己位相変調やビームブレークアップ等)や狭帯域化(パルス幅の増大)が生じない。したがって、レーザ装置1によれば、パルスレーザ光を増幅するレーザ装置に比べて、高ビーム品質であると共に高繰返し且つ短パルスであるパルスレーザ光を生成することができる。
【0032】
また、レーザ装置1では、種光Lに含まれるレーザ光間の周波数差が一定であるので、合波光Lの出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるようにレーザ光Lのそれぞれの位相を制御することが容易である。
【0033】
なお、レーザ装置1は、図2,5に示されるように、種光Lの光路上の光アイソレータ11の前段において、周波数変調器(周波数差調節手段)18をさらに備えることができる。周波数変調器18は、種光Lに含まれるレーザ光間の周波数差を調整する。これにより、種光Lに含まれるレーザ光間の周波数間隔(光周波数コムの間隔)を、例えば100MHzから10GHzというように整数倍にすることもできるし、100MHzから100kHzというように整数分の1にすることもできる。これにより、回折格子12で分波されて空間的に配列されたレーザ光L同士の間隔△xを任意に調整できる。また、アプリケーションの要望により、合波光Lのパルス繰返し率を可変にすることができる。なお、周波数変調器18は、ミラーペアにより構成されてもよいし、LN(リチウムニオブ酸)変調器であってもよい。さらに、合波光Lの繰り返しを高くするには、スペクトル位相変調器22として振幅、位相両方を変調できるものを用いてもよい。
[第2実施形態]
【0034】
本実施形態に係るレーザ装置は、第1実施形態に係るレーザ装置1と以下の点で異なっている。すなわち、図6に示されるように、本実施形態に係るレーザ装置1Aは、チャネル型増幅器14に替えて、スラブ型固体レーザ増幅器44を備えている。レーザ装置1Aにおいては、レンズ13の焦点位置とレンズ15の焦点位置とを一致させて、その一致点にスラブ型固体レーザ増幅器44を配置している。
【0035】
スラブ型固体レーザ増幅器44は、図7に示されるように、活性媒質(例えばNd、Yb、Er、Bi、Pr等)が添加された増幅媒質(例えばセラミック材料等)からなる層44aを、無添加のセラミック材料或いは増幅媒質よりも低屈折率、高熱伝導率の材料(例えばサファイア等)からなる一対の層44bで挟んだ構造を有している。このようなスラブ型固体レーザ増幅器44には、互いに異なる周波数のレーザ光Lのそれぞれが図4で説明した△xの間隔をもって入射する。そして、スラブ型固体レーザ増幅器44は、入射したレーザ光Lのそれぞれを連続光として増幅し、増幅したレーザ光Lのそれぞれを出射する。つまり、スラブ型固体レーザ増幅器44は、回折格子12で分波されたレーザ光Lのそれぞれを伝播しつつ増幅する。なお、スラブ型固体レーザ増幅器44は、増幅媒質からなる層44a単体で構成してもよい。
【0036】
このようなスラブ型固体レーザ増幅器44を備えるレーザ装置1Aにおいても、第1実施形態に係るレーザ装置1と同様に、スラブ型固体レーザ増幅器44で増幅されて出射されたレーザ光Lのそれぞれは、レンズ15を通過した後に回折格子16に集光されて合波される。したがって、このレーザ装置1Aにおいても、レーザ装置1と同様に、高出力のパルスレーザ光を生成することができる。また、本実施形態に係るレーザ装置1Aは、レーザ光Lの増幅手段としてスラブ型固体レーザ増幅器44を用いているので、1kHz〜数100kHzといった比較的低い繰返し周波数の種光Lを用いる場合にも好適に利用できる。
【0037】
なお、レーザ装置1Aは、レーザ光Lのそれぞれを回折格子16により合波して合波光Lを生成する構成としたが、合波光Lを伝送する必要がない場合には、例えば図8に示されるように、回折格子16を用いずに、レーザ光Lのそれぞれを加工対象物O上に直接集光して、その位置において合波光Lを生成する構成としてもよい。この場合、レーザ光Lの光路上におけるレンズ15の光入射面側に、凸レンズまたは凹レンズのマルチレンズアレイ17を配置して、このマルチレンズアレイ17の焦点距離を調整することにより、加工対象物O上での集光スポットのサイズを調整することができる。
【0038】
また、この場合には、レンズ15の後段にハーフミラー23を配置し、レーザ光Lのそれぞれの一部を分岐させ、スペクトル位相測定器21に入射させることができる。したがって、この場合の位相制御装置20においては、レーザ光Lのそれぞれの位相を計測すると共に、その計測結果に基づいてレーザ光Lのそれぞれの位相を制御する。
【0039】
さらに、レーザ光Lの増幅器として、チャネル型増幅器14を用いるかスラブ型固体レーザ増幅器44を用いるか、或いは、どのような活性媒質を用いるか等は、所望するレーザ中心波長や出力パワー等によって最適なものを選択することができる。
【0040】
以上説明した第1及び第2実施形態に係るレーザ装置1,1Aにおいては、互いに周波数の異なるレーザ光Lの増幅光であるレーザ光Lのそれぞれの位相を、互いに同一に制御することもできるし、互いに異なった値に制御することもできる。パルス時間波形とスペクトル位相分布とは複素フーリエ変換の関係にあるので、互いに周波数の異なるレーザ光Lの増幅光であるレーザ光Lのそれぞれの位相を、位相制御装置20を用いて(すなわちスペクトル位相変調器22を用いて)調整することによって、図9に示されるように、合波光Lにおいて任意のパルス出力波形を得ることができる。つまり、レーザ装置1,1Aにおいては、互いに異なる周波数のレーザ光L(レーザ光L)の位相を制御することによって、生成されるレーザパルスの時間波形を様々に制御することができる。
【0041】
また、第1及び第2実施形態に係るレーザ装置1,1Aにおいて、合波光Lのピーク強度が回折格子16の損傷閾値を超えるような場合には、レンズ15の焦点距離fをレンズ13の焦点距離fに比べて数倍長くすることにより、回折格子16上での合波光Lのピーク強度を下げることもできる。
【0042】
さらに、第1及び第2実施形態に係るレーザ装置1,1Aにおいては、レーザ光源10としてモード同期発振器又は高速電流変調の半導体レーザを用いることが好ましい。この場合、レーザ装置の小型軽量化及び低消費電力化を図ることができる。また、レーザ装置の機械的な安定性を向上することができる。さらには、レーザ装置の製造コストを低減することができる。
【0043】
本実施形態に係るレーザ装置は、連続光であって互いに周波数が異なる複数のレーザ光を合波して発振する発振手段と、前記発振手段から発振された前記レーザ光を周波数ごとに分波する分波手段と、前記分波手段で分波された前記レーザ光のそれぞれを増幅する増幅手段と、前記増幅手段で増幅された前記レーザ光のそれぞれを所定の位置において合波して合波光を生成する合波手段と、前記所定の位置において前記合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように前記レーザ光のそれぞれの位相を制御する位相制御手段と、を備えるものとすることができる。その場合、前記発振手段は、略一定の周波数差で周波数が互いに異なる前記レーザ光を合波して発振するものとすることができる。また、前記発振手段から発振された前記レーザ光間の周波数差を調節する周波数差調節手段をさらに備えることができる。また、前記発振手段は、半導体レーザであることができる。また、前記増幅手段は、前記分波手段で分波された前記レーザ光のそれぞれを伝播しつつ増幅する複数の光ファイバを含むファイバアレイであり、前記位相制御手段は、前記光ファイバのそれぞれの温度を制御することにより、前記レーザ光のそれぞれの位相を制御することができる。
【符号の説明】
【0044】
1,1A…レーザ装置、10…レーザ光源(発振手段)、12…回折格子(分波手段)、14…チャネル増幅器(増幅手段)、14a…光ファイバ、15…レンズ(合波手段)、16…回折格子(合波手段)、18…周波数変調器(周波数差調整手段)、20…位相制御装置(位相制御手段)、44…スラブ型固体レーザ増幅器(増幅手段)、L…種光(レーザパルス列)、L,L…レーザ光(連続レーザ光)、L…合波光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに周波数が異なる複数の連続レーザ光から構成されるレーザパルス列を発振する発振手段と、
前記発振手段から発振された前記レーザパルス列を互いに周波数が異なる複数の前記連続レーザ光に分波する分波手段と、
前記分波手段で分波された前記連続レーザ光のそれぞれを増幅する増幅手段と、
前記増幅手段で増幅された前記連続レーザ光のそれぞれを所定の位置において合波して合波光を生成する合波手段と、
前記所定の位置において前記合波光の出力のピークが所定の時間間隔で繰り返し現れるように前記連続レーザ光のそれぞれの位相を制御する位相制御手段と、を備えることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記発振手段は、略一定の周波数差で周波数が互いに異なる前記連続レーザ光から構成される前記レーザパルス列を発振することを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記発振手段から発振された前記レーザパルス列を構成する前記連続レーザ光間の周波数差を調節する周波数差調節手段をさらに備えることを特徴とする請求項2記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記発振手段は、モード同期発振器又は高速電流変調の半導体レーザであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記増幅手段は、前記分波手段で分波された前記連続レーザ光のそれぞれを伝播しつつ増幅する複数の光ファイバを含むファイバアレイ、又はスラブ型固体レーザ増幅器であり、
前記位相制御手段は、前記合波光のスペクトル位相を計測すると共に、該計測の結果に基づいて前記連続レーザ光のそれぞれの位相を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のレーザ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−78813(P2012−78813A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192954(P2011−192954)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591114803)財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】