説明

レーザ計測装置及びレーザ計測方法

【課題】リファレンス計測を行うことなく、単純な方法で、遠隔・非接触かつリアルタイムに、電磁波吸収の波長幅が幅広な吸収スペクトルを示す物質の濃度又は厚みを計測する。
【解決手段】計測領域にレーザ光を投光し計測領域を透過するレーザ光の受光強度を用いて、気体の濃度、若しくは、液体又は固体の厚みを計測する計測装置において、所定の波長のレーザ光を出力する光源部と、光源部と計測領域間に設けられ、光源部からのレーザ光をモニタ光と計測光とに分離し、計測光を計測領域に投光するビームスプリッタと、モニタ光の受光強度を計測する投光モニタ部と、計測領域を透過する計測光の受光強度を計測する受光モニタ部と、光源部からのレーザ光の波長を近接する波長に合わせて変更する光源制御部と、モニタ光の受光強度と計測光の受光強度の比率を波長毎に求め、各比率に基づき濃度又は厚みを計測する計測部と、を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光が透過可能な物質の濃度又は厚みを計測するレーザ計測装置及びレーザ計測方法に関し、特に、単純な方法で、遠隔・非接触かつリアルタイムに計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いて、遠隔、かつ、その計測対象物をサンプリングすることなく非接触に、レーザ光が透過可能なガス分子の濃度(以下において、単に「ガス濃度」と言う)を計測するレーザ計測方法として、2f検波法やDIAL(Differential Absorption Lidar:差分吸収ライダー)法が一般的によく知られている。この2f検波法は、レーザダイオードの波長掃引範囲を超える幅広な吸収スペクトルを示すガス、例えば、有機溶剤や可燃ガスを含むVOC(Volatile Organic Compounds;揮発性有機化合物)の揮発成分の濃度等を計測することはできない。
一方、DIAL法は、ガスの吸収スペクトルがある波長(オン波長)とない波長(オフ波長)の差分や比率を用いてガス濃度を計測することにより、幅広な吸収スペクトルを示すガスの濃度を計測することができるが、2つの光源(例えば、レーザダイオード)及び受光部が必要となり、計測コストが高くなる。
【0003】
また、レーザ光を用いて幅広な吸収スペクトルを示すガス濃度を計測可能な別の方法として、計測対象のガスを吸引してサンプリングしガス濃度を計測する吸引型の様々なレーザ計測方法(FT−IRやNDIR等)が知られている。しかしながら、ガスのサンプリングが必要なため、手間とコストがかかり、また、リアルタイムに計測できない。
【0004】
そこで、上記の問題を解決するレーザ計測装置及びレーザ計測方法が、本出願人によって提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載されたレーザ計測装置及びレーザ計測方法は、レーザ光が透過可能な物質の存する計測領域に、光源からレーザ光を投光し、計測領域を透過するレーザ光を受光し、その受光強度と光源から投光されるレーザ光の投光強度の比である透過率に基づき、ガス濃度を計測する構成であるため、単純な方法で、遠隔・非接触かつリアルタイムに、光源(例えば、レーザダイオード)の波長掃引範囲を超える幅広な吸収スペクトルを示すガスの濃度を計測することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−271213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された従来のレーザ計測方法においては、計測領域にガスがない状態での受光強度を基準にしてガス濃度の計測(演算)を行う構成であるため、実際のガス濃度の計測前に、計測領域にガスがない状態での受光強度を計測(リファレンス計測)する必要がある。したがって、例えば、工場の製造ライン等のように連続運転されており、ガスがない状態を準備することが難しい計測領域においては、上記リファレンス計測を行うことが難しい場合があり、改良の余地があった。
【0007】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、計測領域にガスがない状態での受光強度の計測(リファレンス計測)を行うことなく、単純な方法で、遠隔・非接触かつリアルタイムに、幅広な吸収スペクトルを示す物質の濃度又は厚みを計測可能なレーザ計測装置及びレーザ計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によるレーザ計測装置は、レーザ光が透過可能な物質の存する計測領域にレーザ光を投光し、前記計測領域を透過するレーザ光を受光しその受光強度を用いて、前記物質の濃度又は厚みを計測するレーザ計測装置において、所定の波長のレーザ光を出力する光源部と、前記光源部と前記計測領域の間に設けられ、前記光源部から出力されるレーザ光をモニタ光と計測光とに分離して、該計測光を前記計測領域に投光するレーザ光分離部と、前記モニタ光を受光して、その受光強度を計測するモニタ部と、前記計測領域を透過する前記計測光を受光して、その受光強度を計測する受光部と、予め定めた波長幅の範囲内で少なくとも2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように前記光源部を駆動する光源制御部と、前記モニタ光の受光強度と前記計測光の受光強度の比率を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に求め、求めた各比率に基づき前記物質の前記濃度又は厚みを計測する計測部と、を備えて構成する。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明によるレーザ計測方法は、レーザ光が透過可能な物質の存する計測領域にレーザ光を投光し、前記計測領域を透過するレーザ光を受光しその受光強度を用いて、前記物質の濃度又は厚みを計測するレーザ計測方法において、光源から予め定めた波長幅の範囲内で少なくとも2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力する工程と、前記光源から順次出力されるレーザ光を、前記光源と前記計測領域の間に設けるレーザ光分離部により、モニタ光と計測光とに順次分離して、該計測光を前記計測領域に順次投光する工程と、前記モニタ光を受光して、その受光強度を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に計測する工程と、前記計測領域を透過する前記計測光を受光して、その受光強度を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に計測する工程と、前記モニタ光の受光強度と前記計測光の受光強度の比率を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に求め、求めた各比率に基づき前記物質の前記濃度又は厚みを計測する工程と、を備える構成とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレーザ計測装置によれば、光源部から出力される所定の波長のレーザ光をレーザ光分離部によりモニタ光と計測光とに分離すると共に計測光を計測領域に投光し、モニタ部によりモニタ光の受光強度を計測し、受光部により計測領域を透過する計測光の受光強度を計測し、光源制御部により予め定めた波長幅の範囲内で少なくとも2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように光源部を駆動し、計測部によりモニタ光の受光強度と計測光の受光強度の比率を順次出力されたレーザ光の波長毎に求め、単に求めた各比率に基づき物質の濃度又は厚みを計測する構成であるため、計測前の準備として、計測領域にガスがない状態での受光強度の計測(リファレンス計測)を行うことなく、物質の濃度又は厚みを計測することができる。
【0011】
また、本発明のレーザ計測方法によれば、光源から予め定めた波長幅の範囲内で少なくとも2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力し、順次出力されるレーザ光をレーザ光分離部でモニタ光と計測光とに順次分離すると共に計測光を計測領域に順次投光し、モニタ光を受光しその受光強度を順次出力されたレーザ光の波長毎に計測し、計測領域を透過する計測光を受光しその受光強度を順次出力されたレーザ光の波長毎に計測し、モニタ光の受光強度と計測光の受光強度の比率を順次出力されたレーザ光の波長毎に求め、単に求めた各比率に基づき物質の濃度又は厚みを計測する構成であるため、計測前の準備としてリファレンス計測を行うことなく物質の濃度又は厚みを計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るレーザ計測装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】上記実施形態のレーザ計測装置の動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るレーザ計測装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、上記レーザ計測装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態のレーザ計測装置1は、レーザ光が透過可能な物質10の存する計測領域にレーザ光を投光し、計測領域を透過するレーザ光を受光しその受光強度を用いて、物質10の濃度又は厚みを計測するものであり、光源部2と、レーザ光分離部3と、モニタ部4と、受光部5と、光源制御部6と、計測部7とを備えて構成されている。
【0014】
前記物質10は、レーザ光が透過可能なものであり、計測対象となるものである。この計測対象となる物質10は、気体や液体等様々な場合がある。本実施形態においては、物質10は気体であり、計測領域に存するガス分子の濃度を計測する場合で説明する。この物質10は、光源部2(例えば、レーザダイオード)から出力されるレーザ光の波長掃引範囲を超える幅広な吸収スペクトルを示すガスであり、例えば、有機溶剤や可燃ガスを含むVOC(Volatile Organic Compounds;揮発性有機化合物)の揮発成分である。
【0015】
前記光源部2は、図1に示す様に、光源制御部6から指令を受け、所定の波長λ及び出力のレーザ光を発生するものであり、本実施形態においては、2種類の波長のレーザ光を順次出力する構成である。光源部2には、例えば、光源制御部6から矩形波状に電流値の大きさが変化する電流が入力され、その電流の大きさによって波長が順次変更(波長掃引)されるように構成されている。光源部2は、光源制御部6から入力される矩形波状の電流の変化タイミングに合わせて波長を変更する。
【0016】
前記レーザ光分離部3は、光源部2と計測領域の間に設けられ、光源部2から出力されるレーザ光をモニタ光と計測光とに分離し、計測光を計測領域に投光するものであり、例えば、ビームスプリッタである。レーザ光分離部3は、光源部2から出力されるレーザ光の一部を反射させ一部を透過させ、反射成分をモニタ光としてモニタ部4に入力し、透過成分を計測光として投光する。この計測光は、図1に示すように、装置の筐体に設けられたガラス等で形成された窓部を透過後、計測領域を透過し、例えば、計測領域の構造物(鏡など)で反射した後に再び計測領域を透過し、窓部を透過後、レーザ光分離部3で反射して受光部5に入力される。
【0017】
前記モニタ部4は、モニタ光を受光しその受光強度P(λ)を計測するものであり、例えば、フォトダイオード等の受光素子を備えて構成される。そして、この受光素子は、例えば、中間赤外域の波長のレーザ光に対して感度良好な素子であり、レーザ光分離部3におけるレーザ光の反射成分であるモニタ光を受光してその受光強度P(λ)の計測結果を計測部7に入力する。
【0018】
前記受光部5は、計測領域を透過する計測光を受光しその受光強度P(λ)を計測するものであり、例えば、モニタ部4と同様に、中間赤外域の波長のレーザ光に対して感度良好な受光素子を備えて構成される。この受光素子は、計測領域の構造物で反射した後に再び計測領域を透過し、窓部を透過後にレーザ光分離部3で反射した計測光を受光しその受光強度P(λ)の計測結果を計測部7に入力する。
【0019】
本実施形態においては、計測領域の外方からレーザ光(計測光)を投光し、計測領域の外方において計測領域を透過したレーザ光(計測光)を受光し、受光強度の計測結果を計測部7に入力し、後述する計測原理によりガス濃度を計測する構成である。このように、装置の各構成部品(受光部5等)とVOC等が接することがないため、各構成部品への溶剤付着を防止することができると共に、遠隔から計測をすることができる。また、ガスをサンプリングする必要がないためリアルタイムに計測することができる。
【0020】
前記光源制御部6は、光源部2を駆動するものであり、予め定めた波長幅の範囲内で2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように光源部2を駆動するものである。本実施形態において、光源制御部6は、中間赤外域の2種類の波長(λ、λ)を設定するように構成されている。光源制御部6は、例えば、矩形波状に電流値の大きさが変化する電流を光源部2に入力することで、光源部2から出力するレーザ光の波長を順次変更するように構成されている。上記予め定めた波長幅(差)Δλは、例えば、サブnm〜300nm程度(望ましくは、30nm〜50nm程度)であり、この波長幅において後述する受光効率T1(λ)及びT2(λ)がそれぞれ略定数とみなすことができるように適宜設定されている。また、この波長幅は、光源部2の波長掃引可能な範囲である。
【0021】
前記計測部7は、モニタ光の受光強度P(λ)と計測光の受光強度P(λ)の比率T’(λ)を順次出力されたレーザ光の波長毎に求め、求めた各比率に基づきガス濃度を計測する。本実施形態において、計測部7は、例えば、光源制御部6から光源部2に入力される矩形波状の電流に応じて順次出力される波長(λ、λ)毎に、比率T’(λ)を求め、求めた2種類の比率T’(λ)及びT’(λ)に基づき、ガス濃度を計測する。ここで、計測部7におけるガス濃度の計測原理を以下に説明する。
【0022】
まず、計測領域にガスがない場合、受光部5で計測される受光強度Pr(λ)は、下記の(1)式のように表せる。
(λ)=P(λ)×T1(λ) ・・・(1)
ここで、P(λ)は光源部2から出力されたレーザ光の投光強度であり、T1(λ)は計測領域にガスがないときに光源部2から受光部5までのレーザパス上で影響を受けるレーザ光の受光効率(エネルギー減衰率)である。T1(λ)は、具体的には、図1の場合、レーザ光分離部3の透過率、窓部の透過率の2乗、構造物の反射率、レーザ光分離部3の反射率、受光部5(受光素子)の受光効率の積で表されるものである。
【0023】
一方、計測領域にガスがある場合、受光部5で計測される受光強度P(λ)は、下記の(2)式のように表せる。
(λ)=P(λ)×T1(λ)×T(λ) ・・・(2)
ここで、T(λ)は、レーザ光が計測領域(ガス)を透過したときの、計測対象(ガス)の透過率である。図1ではレーザ光は計測領域(ガス)を往復で2回透過しており、そのときの透過率がT(λ)で表される。
【0024】
また、モニタ部4で計測される受光強度Pt(λ)は、下記の(3)式のように表せる。
(λ)=P(λ)×T2(λ) ・・・(3)
ここで、T2(λ)は光源部2からモニタ部4までのレーザパス上で影響を受けるレーザ光の受光効率(エネルギー減衰率)である。T2(λ)は、具体的には、図1の場合、レーザ光分離部3の透過率とモニタ部4(受光素子)の受光効率の積で表されるものである。
【0025】
そして、P(λ)とP(λ)の比率T’(λ)を、下記の(4)式で定義すると、比率T’(λ)は、上記(2)式及び(3)式より、計測領域にガスがあるときについて、下記の(5)式のように表せる。
T’(λ)=P(λ)/P(λ) ・・・(4)
=T1(λ)/T2(λ)×T(λ) ・・・(5)
ここで、受光効率T1(λ)及びT2(λ)は、レーザ光の波長λに応じて変化するが、光源部2から出力される2波長(λ、λ)の波長幅(差)Δλを、受光効率T1(λ)及びT2(λ)がそれぞれ略定数(T1,T2)とみなすことができるように適宜設定(例えば、波長幅Δλ=サブnm〜300nm程度)すれば、上記(5)式は、下記の(6)式のように表せる。
T’(λ)=T1/T2×T(λ) ・・・(6)
したがって、計測部7により求められる2種類の比率T’(λ)及びT’(λ)は、下記の(7)式及び(8)式のように表せる。
T’(λ)=T1/T2×T(λ) ・・・(7)
T’(λ)=T1/T2×T(λ) ・・・(8)
【0026】
さて、計測領域を透過したレーザ光のエネルギーは、計測領域のガスによるエネルギー吸収を受け減衰する。そのガスによる光の透過率T(λ)は、一般的によく知られているランバート・ベール(Beer-Lambert)の法則により、下記の(9)式で定義される。
(λ)=exp[−a(λ)×C×L] ・・・(9)
ここで、a(λ)はガスのモル吸光係数であり、光をガスに入射したときにそのガスがどれくらいの光を吸収するかを示す波長毎の係数である。Cは物質(ガス分子)のモル濃度であり、Lはガスのレーザ光透過方向の厚さ(パス長)である。
【0027】
ここで、T’(λ)とT’(λ)の比率は、上記(7)式〜(9)式より、下記の(10)式のように表せる。
T’(λ)/T’(λ)=exp[{a(λ)−a(λ)}×C×L] ・・・(10)
したがって、モル濃度Cは、下記の(11)式のように表せる。
C=ln{T’(λ)/T’(λ)} / [{ a(λ)-a(λ) }×L] ・・・(11)
以下の説明において、上記(11)式により求めたモル濃度Cを2種類の波長を用いて計測したものであることを示すため便宜上、モル濃度Cijと表す。
【0028】
上記(11)式において、モル吸光係数a(λj)及びa(λ)は、事前の物性計測により既知である。また、計測領域内におけるレーザ光(計測光)の全パスにわたってガスが存在していると仮定すると、ガスのレーザ透過方向の厚さLは、レーザ光のパス長と一致するとみなすことができるため、既知の値とすることができる。したがって、上記(11)式より、2種類の比率T’(λ)及びT’(λ)に基づき、モル濃度Cijをガス濃度として計測することができる。また、カラム濃度CijL(モル濃度Cijとガスのレーザ透過方向の厚さLとの積)をガス濃度として計測してもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係るレーザ計測装置1の計測動作について、図1,2に基づいて説明する。なお、以下においては、光源制御部6から光源部2に入力される矩形波状に変化する電流の一周期における計測動作を説明する。
【0030】
まず、ステップS1において、光源部2は、光源制御部4の指令に基づき、所定の出力で、中間赤外域の波長λのレーザ光を出力する。
【0031】
ステップS2において、レーザ光分離部3は、光源部2から出力されるレーザ光の一部を反射させ一部を透過させ、反射成分をモニタ光としてモニタ部4に入力し、透過成分を計測光として投光する。この計測光は、筐体の窓部を透過後、計測領域を透過し、計測領域の構造物で反射した後に再び計測領域を透過し、窓部を透過後、レーザ光分離部3で反射して受光部5に入力される。
【0032】
ステップS3において、モニタ部4は、レーザ光分離部3におけるレーザ光の反射成分であるモニタ光を受光してその受光強度P(λ)の計測結果を計測部7に入力する。
【0033】
ステップS4において、受光部5は、計測領域の構造物で反射した後に再び計測領域を透過し、窓部を透過後にレーザ光分離部3で反射した計測光を受光しその受光強度P(λ)の計測結果を計測部7に入力する。
【0034】
ステップS5において、光源制御部6は、光源部2に入力する電流値を変化させ、光源部2から出力されるレーザ光の波長λをλからλに変更させる。
【0035】
ステップS6において、ステップS1と同様にして、波長λのレーザ光を投光し、ステップS7でそのレーザ光をモニタ光と計測光とに分離すると共に計測光を計測領域に投光し、ステップS8において、モニタ光の受光強度P(λ)を計測しその計測結果を計測部7に入力し、ステップS9において、計測光の受光強度P(λ)を計測しその計測結果を計測部7に入力する。
【0036】
ステップS10において、計測部7は、波長λのレーザ光についてのモニタ光の受光強度P(λ)と計測光の受光強度P(λ)を用いて比率T’(λ)を求め、同様に、波長λのレーザ光についてのモニタ光の受光強度P(λ)と計測光の受光強度P(λ)を用いて比率T’(λ)を求め、求めた2つの比率T’(λ)及びT’(λ)に基づき、モル濃度Cijをガス濃度として計測する。なお、ステップS1〜S10の動作は、光源制御部6から光源部2に入力される矩形波状に変化する電流の一周期における計測動作であり、この一周期で、モル濃度Cijの計測結果を1つ得ることができるが、これに限らず、この動作を複数周期繰り返し、各周期で得た計測結果の平均値や中央値を最終的な計測結果として得るようにしてもよい。これにより、計測誤差を小さくすることができる。
【0037】
このような構成により、本実施形態に係るレーザ計測装置1は、光源部2から出力される所定の波長のレーザ光をレーザ光分離部3によりモニタ光と計測光とに分離し、モニタ部4によりモニタ光の受光強度P(λ)を計測し、受光部5により計測領域を透過する計測光の受光強度P(λ)を計測し、光源制御部6により予め定めた波長幅の範囲内で2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように光源部2を制御し、計測部7によりモニタ光の受光強度P(λ)と計測光の受光強度P(λ)の比率T’(λ)を順次出力されたレーザ光の波長毎に求め、単に求めた各比率に基づきガス濃度を計測する構成であるため、計測前の準備として、計測領域にガスがない状態での受光強度の計測(リファレンス計測)を行うことなく、実際の計測を行うことができる。また、投光するレーザ光の波長は近接する波長であり、かつ、モニタ光と計測光の比率によって濃度を計測する構成であるため、計測対象の物質が幅広な吸収スペクトルを示す物質であっても、複数の光源部2を設ける必要がない。このようにして、リファレンス計測を行うことなく、単純な方法で、遠隔・非接触かつリアルタイムに、幅広な吸収スペクトルを示すガス濃度を計測可能な計測装置を提供することができる。
【0038】
また、本実施形態において、光源部2は中間赤外域の波長のレーザ光を出力する構成である。この中間赤外域の波長域は、VOCのモル吸光係数a(λ)がピークを示す波長域(光吸収波長帯)を含むため、例えば、印刷工程で使用されるインキに含まれるVOCや、樹脂や金属や紙等を積層接着してレトルトパックやフィルムコンデンサ等の機能性材料を製造する工程で使用される接着剤等に含まれるVOCの揮発成分濃度を効率的に計測することができる。また、VOCを含んだもの(印刷物、機能性材料、クリーニング時の衣類等)を乾燥させる乾燥炉内のVOCの揮発成分濃度を計測しその品質管理や爆発安全監視などに活用できる。また、VOCの脱臭処理プロセスにおいて脱臭後のクリーンになっているはずの排気計測を行い、環境モニタリングなどにも活用できる。
【0039】
なお、本実施形態においては、光源制御部6は、予め定めた波長幅の範囲内で2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように光源部2を駆動する場合で説明したが、これに限らず、予め定めた波長幅の範囲内で3種類以上の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように光源部2を駆動するように構成してもよい。このように、光源制御部6は、予め定めた波長幅の範囲内で少なくとも2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように光源部2を駆動するように構成すればよい。3種類以上の波長を設定する場合、光源部2は、3種類以上の波長のレーザ光を順次出力し、計測部7は、3種類以上の波長の中からの2種類の波長の組合せ毎に物質(気化分子)10の濃度を計測し、各計測値に基づき最終的な濃度を計測するように構成する。例えば、3種類の波長を用いる場合、モル濃度Cijは、3種類(C12、C13、C23)計測することができる。すなわち、n種類の波長を用いる場合、モル濃度Cijは、n/(n−1)/2の組み合わせ個数だけ計測することができ、これらの平均値や中央値などの統計値を用いることで計測誤差をより小さくすることができる。
【0040】
また、本実施形態においては、中間赤外域の波長を用いてVOCの揮発成分濃度を計測する場合で説明したが、これに限らず、中間赤外域以外の赤外域の波長を用いてその波長域に光吸収波長帯があるガスの濃度を計測してもよい。赤外域の波長については、他の波長域と比較して、ガスの種類毎の吸収スペクトルのデータベースがよく整備されているため、従来のFT−IRやNDIR等を用いた計測器でサンプリングして計測する必要があった計測対象のガスに対しても、遠隔・非接触かつリアルタイムにガス濃度の計測を行うことができる。また、赤外域の波長に限らず、そのガスの種類に応じて、紫外域や可視域の波長を用いてもよい。さらには、X線領域からテラヘルツ領域の波長を用いてもよく、この場合は、光源部2として、自由電子レーザを用いればよい。
【0041】
さらに、本実施形態の計測原理は、計測対象としての物質10が気体(ガス)で有る場合に限らず、レーザ光が透過可能なものであれば、液体や固体であっても適用できる。物質が液体や固体の場合、この物質を透過するレーザ光の透過方向の物質の厚みを計測することができる。例えば、特定の種類の液体(油等)の漏洩度合い等を検出したい場合、その液体の濃度(密度)及びモル吸光係数は計測前に既知であるため、計測器7によって2種類の比率T’(λ)及びT’(λ)を求めれば、上記(11)式より、液体を透過したレーザ光のパス長Lを液体のレーザ光透過方向の厚みとして計測することができる。この液体の厚みにより漏洩度合い等を検出することができる。また、液体に限らず、レーザ光が透過可能なものであれば固体であっても、同様に、その固体のレーザ光透過方向の厚みを計測することができる。
【0042】
次に、本発明に係るレーザ計測方法の実施形態を図面について説明する。
【0043】
本実施形態のレーザ計測方法は、図2のフロー図に示すように、レーザ光が透過可能な物質10の存する計測領域にレーザ光を投光し、計測領域を透過するレーザ光を受光しその受光強度を用いて、物質10の濃度又は厚みを計測する方法である。本実施形態においては、物質10は気体であり、計測領域に存するガス分子の濃度を計測する場合で説明する。
【0044】
本実施形態のレーザ計測方法は、ステップS1において、光源から中間赤外域の波長λのレーザ光を出力し、ステップS2において、光源から出力されるレーザ光を、光源と計測領域の間に設けるレーザ光分離部3で反射するモニタ光とレーザ光分離部3を透過して計測領域に投光される計測光とに分離し、ステップS3において、モニタ光を受光して、その受光強度P(λ)を計測し、ステップS4において、計測領域を透過する計測光を受光して、その受光強度P(λ)を計測し、ステップS5において、光源から出力するレーザ光の波長を近接する波長λに合わせて変更し、ステップS6において、波長λのレーザ光を出力し、ステップS7において、レーザ光分離部3でレーザ光をモニタ光と計測光とに分離し、ステップS8において、モニタ光を受光しその受光強度P(λ)を計測し、ステップS9において、計測光を受光しその受光強度P(λ)を計測し、ステップS10において、モニタ光の受光強度P(λ)と計測光の受光強度P(λ)の比率T’(λ)を近接波長(λ、λ)毎に求め、求めた2種類の比率T’(λ)及びT’(λ)に基づき、前述した(11)式を用いてモル濃度Cijをガス濃度として計測する。
【0045】
なお、上記ステップS1及びS6が、本願発明の光源から予め定めた波長幅の範囲内で2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力する工程に相当する。そして、上記ステップS2及びS7が、本願発明の光源から順次出力されるレーザ光を、光源と計測領域の間に設けるレーザ光分離部により、モニタ光と計測光とに順次分離して、計測光を計測領域に順次投光する工程に相当する。また、上記ステップS3及びS8が、本願発明のモニタ光を受光して、その受光強度を順次出力されたレーザ光の波長毎に計測する工程に相当する。さらに、上記ステップS4及びS9が、本願発明の計測領域を透過する計測光を受光して、その受光強度を順次出力されたレーザ光の波長毎に計測する工程に相当する。そして、上記ステップS10が、本願発明のモニタ光の受光強度と計測光の受光強度の比率を順次出力されたレーザ光の波長毎に求め、求めた各比率に基づき物質の濃度を計測する工程に相当する。
【0046】
このような構成により、本実施形態に係る計測方法は、光源から予め定めた波長幅Δλの範囲内で2種類の波長(λ,λ)を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力し、順次出力されるレーザ光をレーザ光分離部3でモニタ光と計測光とに順次分離すると共に計測光を計測領域に順次投光し、モニタ光を受光しその受光強度P(λ)を順次出力されたレーザ光の波長毎に計測し、計測領域を透過する計測光を受光しその受光強度P(λ)を順次出力されたレーザ光の波長毎に計測し、モニタ光の受光強度P(λ)と計測光の受光強度P(λ)の比率T’(λ)を順次出力されたレーザ光の波長(λ、λ)毎に求め、単に求めた2種類の比率T’(λ)及びT’(λ)に基づき物質の濃度を計測する構成であるため、計測前の準備としてリファレンス計測を行うことなく物質の濃度を計測することができる。また、幅広な吸収スペクトルを示す物質の場合でも複数の光源は不要となる。このようにして、リファレンス計測を行うことなく、単純な方法で、遠隔・非接触かつリアルタイムに、幅広な吸収スペクトルを示すガス濃度を計測可能な計測方法を提供することができる。
【0047】
また、本実施形態において、光源は中間赤外域の波長のレーザ光を出力し、この中間赤外域の波長のレーザ光を用いて計測する構成であるため、インキや接着剤等に含まれるVOCの揮発成分濃度を効率的に計測することができる。また、中間赤外域の波長を用いてVOCの揮発成分濃度を計測する場合で説明したが、これに限らず、中間赤外域以外の赤外域の波長を用いてその波長域に光吸収波長帯があるガスの濃度を計測してもよい。また、赤外域の波長に限らず、そのガスの種類に応じて、紫外域や可視域の波長を用いてもよい。さらには、X線領域からテラヘルツ領域の波長を用いてもよい。
【0048】
なお、本実施形態においては、予め定めた波長幅の範囲内で2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように光源部2に指令する場合で説明したが、これに限らず、予め定めた波長幅の範囲内で3種類以上の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を光源から順次出力するように構成してもよい。この場合、モル濃度Cijはn/(n−1)/2の組み合わせ個数だけ計測することができ、この各計測値に基づき最終的な濃度を計測するように構成してもよい。
【0049】
また、本実施形態の計測原理は、気体(ガス)に限らず、レーザ光が可能なものであれば、液体や固体であっても適用できる。この場合、計測対象とする液体や固体の密度及びモル吸光係数は既知であるため、2種類の比率T’(λ)及びT’(λ)を求めれば、上記(11)式より、液体や固体のレーザ光透過方向の厚みを計測することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 計測装置
2 光源部
3 レーザ光分離部
4 モニタ部
5 受光部
6 光源制御部
7 計測部
10 物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光が透過可能な物質の存する計測領域にレーザ光を投光し、前記計測領域を透過するレーザ光を受光しその受光強度を用いて、前記物質の濃度又は厚みを計測するレーザ計測装置において、
所定の波長のレーザ光を出力する光源部と、
前記光源部と前記計測領域の間に設けられ、前記光源部から出力されるレーザ光をモニタ光と計測光とに分離して、該計測光を前記計測領域に投光するレーザ光分離部と、
前記モニタ光を受光して、その受光強度を計測するモニタ部と、
前記計測領域を透過する前記計測光を受光して、その受光強度を計測する受光部と、
予め定めた波長幅の範囲内で少なくとも2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように前記光源部を駆動する光源制御部と、
前記モニタ光の受光強度と前記計測光の受光強度の比率を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に求め、求めた各比率に基づき前記物質の前記濃度又は厚みを計測する計測部と、
を備えて構成することを特徴とするレーザ計測装置。
【請求項2】
前記光源部は、赤外域の波長のレーザ光を出力することを特徴とする請求項1に記載のレーザ計測装置。
【請求項3】
前記赤外域の波長は、中間赤外域の波長であることを特徴とする請求項2に記載のレーザ計測装置。
【請求項4】
前記光源制御部は、前記予め定めた波長幅の範囲内で3種類以上の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力するように前記光源部を駆動し、
前記計測部は、前記3種類以上の波長の中からの2種類の波長の組合せ毎に前記物質の前記濃度又は厚みを計測し、各計測値に基づき最終的な前記濃度又は厚みを計測することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーザ計測装置。
【請求項5】
前記物質が、気体のとき、
前記計測部は、前記気体の濃度を計測することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のレーザ計測装置。
【請求項6】
前記物質が、液体又は固体のとき、
前記計測部は、前記液体又は固体のレーザ光透過方向の厚みを計測することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のレーザ計測装置。
【請求項7】
レーザ光が透過可能な物質の存する計測領域にレーザ光を投光し、前記計測領域を透過するレーザ光を受光しその受光強度を用いて、前記物質の濃度又は厚みを計測するレーザ計測方法において、
光源から予め定めた波長幅の範囲内で少なくとも2種類の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力する工程と、
前記光源から順次出力されるレーザ光を、前記光源と前記計測領域の間に設けるレーザ光分離部により、モニタ光と計測光とに順次分離して、該計測光を前記計測領域に順次投光する工程と、
前記モニタ光を受光して、その受光強度を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に計測する工程と、
前記計測領域を透過する前記計測光を受光して、その受光強度を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に計測する工程と、
前記モニタ光の受光強度と前記計測光の受光強度の比率を前記順次出力されたレーザ光の前記波長毎に求め、求めた各比率に基づき前記物質の前記濃度又は前記厚みを計測する工程と、
を備えることを特徴とするレーザ計測方法。
【請求項8】
前記光源は、赤外域の波長のレーザ光を出力することを特徴とする請求項7に記載のレーザ計測方法。
【請求項9】
前記赤外域の波長は、中間赤外域の波長であることを特徴とする請求項8に記載のレーザ計測方法。
【請求項10】
前記レーザ光を順次出力する工程は、前記予め定めた波長幅の範囲内で3種類以上の波長を設定し、それぞれの波長のレーザ光を順次出力し、
前記計測工程は、前記3種類以上の波長の中からの2種類の波長の組合せ毎に前記物質の前記濃度又は厚みを計測し、各計測値に基づき最終的な前記濃度又は厚みを計測することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つに記載のレーザ計測方法。
【請求項11】
前記物質が、気体のとき、
前記計測工程は、前記気体の濃度を計測することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1つに記載のレーザ計測方法。
【請求項12】
前記物質が、液体又は固体のとき、
前記計測工程は、前記液体又は固体のレーザ光透過方向の厚みを計測することを特徴とする請求項7〜10のいずれか1つに記載のレーザ計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−3038(P2013−3038A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136170(P2011−136170)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】