説明

レーザ走査型顕微鏡

【課題】標本へのダメージおよび蛍光の退色を抑制しつつ、環境光による影響を排除して安定した観察を行うことができるレーザ走査型顕微鏡を提供する。
【解決手段】標本Aを収容し、内部の温度および湿度を維持可能な培養容器6と、培養容器6に隣接して配置され、培養容器6と光学的に接続された光学系空間5とを備え、光学系空間5に、極短パルスレーザ光を標本A上で2次元的に走査するスキャナ22と、走査された極短パルスレーザ光を標本Aに集光させる一方、標本Aからの光を集光する対物レンズ15と、スキャナ22と対物レンズ15との間に設けられ、標本Aからの光とレーザ光とを分岐するダイクロイックミラー53と、分岐された標本Aからの光を検出する光検出器55と、光学系空間5を囲うように設けられ、光学系空間5の外部からの光を遮断する外装カバー2とが備えられているレーザ走査型顕微鏡1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査型顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生物標本を生かしたまま長時間観察するために、標本を特定の温度・湿度下で収容する培養容器と、標本を観察するための光学系(対物レンズ等)が配置された光学系空間とを備え、該光学系空間が、培養容器内とほぼ同等の温度に恒温化された走査型共焦点顕微鏡装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、極短パルスレーザ光を標本面に集光することで、焦点面近傍において光子密度を高めて蛍光物質を多光子励起させ、鮮明な蛍光画像を取得する多光子励起型のレーザ走査型顕微鏡が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−256927号公報
【特許文献2】特開平11−149045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている顕微鏡は、1光子励起観察を行う顕微鏡であるため、蛍光が退色しやすいという不都合がある。また、1光子励起観察は光毒性が高いため、標本として生体組織などの生体標本を用いた場合に、標本にダメージを与えてしまうという不都合がある。
【0006】
一方、特許文献2に開示されている顕微鏡は、2光子励起観察を行う顕微鏡であり、蛍光も退色しにくく、分解能も高いため、標本の観察精度を向上することができる。また、光毒性も低いため、標本へのダメージを低減することができる。しかしながら、2光子励起観察では、環境光による外部PMT(Photomultiplier Tube)への影響が大きく、観察の安定性が低いという不都合がある。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、標本へのダメージおよび蛍光の退色を抑制しつつ、環境光による影響を排除して安定した観察を行うことができるレーザ走査型顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、標本を収容し、内部の温度および湿度を維持可能な培養容器と、該培養容器に隣接して配置され、該培養容器と光学的に接続された光学系空間とを備え、該光学系空間に、極短パルスレーザ光を前記標本上で2次元的に走査する光走査手段と、該光走査手段により走査された極短パルスレーザ光を前記標本に集光させる一方、前記標本からの光を集光する対物レンズと、前記光走査手段と前記対物レンズとの間に設けられ、前記標本からの光と前記レーザ光とを分岐する分岐手段と、該分岐手段により分岐された前記標本からの光を検出する光検出部と、前記光学系空間を囲うように設けられ、前記光学系空間の外部からの光を遮断する遮光壁とが備えられているレーザ走査型顕微鏡を採用する。
【0009】
本発明によれば、培養容器内に収容された標本が、培養容器内を特定の温度に恒温化され、かつ高湿度に維持されることによって、長時間にわたって健全な状態に維持される。この標本に対して、光走査手段により走査された極短パルスレーザ光を集光させることで、多光子励起効果によって蛍光が発生し、この蛍光が対物レンズによって集光される。集光された蛍光は、分岐手段によって極短パルスレーザ光と分岐され、光検出部によって検出される。
【0010】
このように2光子励起観察を行うことで、標本へのダメージおよび蛍光の退色を抑制することができる。また、この場合において、光検出部は、周囲に設けられた遮光壁によって光学系空間の外部からの光(環境光)が遮断されているため、環境光による影響を排除して安定した観察を行うことができる。
【0011】
上記発明において、前記光学系空間に、該光学系空間内を前記培養容器内の温度とほぼ同等の温度に恒温化する光学系空間恒温化手段が備えられていることとしてもよい。
このようにすることで、光学系空間内に設けられた光学系空間恒温化手段の作動により、光学系空間内も培養容器内の温度とほぼ同等の温度に恒温化されるので、光学系空間内の光学系および機械系に、培養容器の温度に基づく温度勾配が発生することが防止される。これにより、光学系および機械系に歪みが発生することを防止でき、得られる画像の低輝度化、不鮮明化を効果的に防止することができる。
【0012】
上記発明において、前記光学系空間が、前記培養容器に対して湿度的に分離されていることとしてもよい。
光学系空間を培養容器から湿度的に分離することで、培養容器内の高湿度が対物レンズ等の光学系や光走査手段等の機械系に影響を与えることを防止できる。
【0013】
上記発明において、極短パルスレーザ光を射出するレーザ光源と、該レーザ光源を収容し、前記光学系空間と光学的に接続されたレーザ空間とを備えることとしてもよい。
このようにすることで、レーザ光源が配置されたレーザ空間と、光検出部等が配置された光学系空間とを、それぞれに応じた温度および湿度に管理することができる。
【0014】
上記発明において、前記レーザ空間に、該レーザ空間内の湿度を低減する湿度低減手段が備えられていることとしてもよい。
レーザ光源から射出される極短パルスレーザ光は、水分によって特定の波長帯域(例えば900nmから950nm)が吸収されてしまう。したがって、湿度低減手段によってレーザ空間内の湿度を低減することで、レーザ空間内の水分によって特定の波長帯域が吸収されてしまうことを抑制することができる。極短パルスレーザ光は、帯域幅十数nm程度で波長が可変であるため、上記のようにすることで、水分による吸収の影響を受けずにどの波長でも極短パルスレーザ光を良好に照射でき、標本の観察精度を向上することができる。
【0015】
上記発明において、前記湿度低減手段が、前記レーザ空間内の空気を冷却する第1の熱電素子と、該第1の熱電素子により冷却された空気を加温する第2の熱電素子であることとしてもよい。
第1の熱電素子によってレーザ空間内の空気を冷却して結露させ、冷却された空気を第2の熱電素子によって加温することで、レーザ空間内の湿度を低減することができる。
【0016】
上記発明において、前記レーザ空間に、該レーザ空間内の温度を制御する温度制御手段が備えられていることとしてもよい。
このようにすることで、発熱体であるレーザ光源を冷却して、極短パルスレーザ光を安定して射出させることができる。また、光学系空間とレーザ空間との温度差を所定の範囲内とすることができ、光学系空間内における結露を防止することができる。
【0017】
上記発明において、前記レーザ空間と前記光学系空間とが分離され、前記レーザ空間と前記光学系空間との間に極短パルスレーザ光を導光するファイバが設けられていることとしてもよい。
このようにすることで、レーザ走査型顕微鏡の本体を小型化することができる。また、ファイバを繋ぎ替えることで、複数の顕微鏡本体でレーザ光源を兼用することができる。
【0018】
上記発明において、前記光検出部を囲むカバーと、該カバー内部を冷却する冷却手段とが備えられていることとしてもよい。
このようにすることで、カバー内に配置された光検出部を冷却して熱ノイズの発生を防止することができ、光検出部による標本からの光の検出精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、標本へのダメージおよび蛍光の退色を抑制しつつ、環境光による影響を排除して安定した観察を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡を示す全体構成図である。
【図2】図1のレーザ走査型顕微鏡の第1の変形例を示す全体構成図である。
【図3】図1のレーザ走査型顕微鏡の第2の変形例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1について、図1を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1は、図1に示されるように、直方体の箱状の断熱材からなる外装カバー(遮光壁)2の内部は、水平に配された区画壁3および区画壁52によって3つの空間(観察空間4、光学系空間5、レーザ空間51)に仕切られている。
【0022】
上部の観察空間4には、培養容器6と、培養容器6を支持する電動ステージ7と、ヒータ8とが備えられている。
培養容器6は、標本Aを収容し、内部の温度および湿度を維持可能な容器である。培養容器6は、電動ステージ7上に搭載されており、電動ステージ7の作動によって、例えば水平方向に移動可能となっている。
【0023】
培養容器6の底面、電動ステージ7および区画壁3には、上下方向に貫通し、培養容器6内の空間と光学系空間5とを連通する貫通孔9が設けられている。また、培養容器6内には、標本Aを収容する透明な材質からなる、例えば、シャーレ10aの平坦な底面にカバーガラス厚相当のガラス10bを貼ったものやウェルプレート等の標本容器10が収容されている。標本容器10は、培養容器6の底面に設けられた貫通孔9に重なる位置に配置されることにより、貫通孔9を閉塞し、培養容器6内空間と、光学系空間5とを湿度的に分離するようになっている。
【0024】
培養容器6内には、該培養容器6内の温度を検出する温度センサ11が配置されている。また、培養容器6には、温度37℃、湿度90〜100%、CO濃度5%に調節された空気を循環させる環境制御部12がチューブ13を介して接続されている。
観察空間4の内壁面に設けられたヒータ8は、観察空間4内の温度を培養容器6の温度と同等の温度に加温するようになっている。
【0025】
光学系空間5は、培養容器6に隣接して配置され、培養容器6と光学的に接続された空間である。
光学系空間5には、顕微鏡本体14が配置されている。顕微鏡本体14は、標本容器10の底面下方に間隔をあけて対向配置され光軸を鉛直方向に配置された対物レンズ15と、該対物レンズ15を光軸方向に駆動制御する焦点調節機構16と、走査光学系17と、第1の波長のレーザ光を出射する第1の半導体レーザ18aと、第2の波長のレーザ光を出射する第2の半導体レーザ18bと、これらの半導体レーザ18a,18bからのレーザ光を略平行光にするコリメートレンズ19a,19bと、これらのレーザ光を同一の光路に合流させるミラー20およびダイクロイックミラー21と、レーザ光を2次元的に走査するガルバノミラーからなるスキャナ(光走査手段)22とを備えている。
【0026】
また、顕微鏡本体14は、対物レンズ15、走査光学系17、スキャナ22を介して戻る標本Aからの蛍光を透過する一方、レーザ光を反射するダイクロイックミラー23と、ダイクロイックミラー23を透過した蛍光を集光する共焦点レンズ24と、共焦点レンズ24の焦点位置に配置された共焦点ピンホール25と、共焦点ピンホール25を通過した蛍光内に含まれるレーザ光を遮断するバリアフィルタ26と、バリアフィルタ26を透過した蛍光を検出する光検出器27とを備えている。図中符号28はミラーである。
【0027】
また、光学系空間5には、該光学系空間5内の温度を検出する温度センサ29と、光学系空間5内の空気を加温するヒータ(光学系空間恒温化手段)30とが備えられている。
また、光学系空間5内には、コントロールユニット31が配置されている。
【0028】
走査光学系17は、2次元的に走査されたレーザ光を集光させて中間像を結像させる瞳投影レンズ17aと、中間像を結像したレーザ光を略平行光にして対物レンズ15に入射させる結像レンズ17bとを備えている。
ダイクロイックミラー23は、回転可能なターレット32に複数搭載され、ステッピングモータ33の作動により、任意のダイクロイックミラー23が択一的に光路上に配置されるようになっている。
共焦点ピンホール25は、ピンホール位置駆動手段34により、光軸と直交する2次元方向に位置調節可能に設けられている。
【0029】
ダイクロイックミラー23を切り替えると、各ダイクロイックミラー23毎の微妙な角度差によって共焦点レンズ24による焦点位置がずれるので、ダイクロイックミラー23毎に共焦点ピンホールの位置を補正することができるように、ピンホール位置駆動手段34による駆動位置をダイクロイックミラー23毎に対応づけてコントロールユニット31内の図示しないメモリに記憶している。
【0030】
コントロールユニット31は、半導体レーザ18a,18b、スキャナ22、光検出器27、電動ステージ7のモータ35、焦点調節機構16のモータ36、ターレット32のステッピングモータ33およびピンホール位置駆動手段34を駆動するようになっている。また、各機器を駆動する際には、コントロールユニット31が記憶している調整パラメータに従って駆動するようになっている。
【0031】
ここで、調整パラメータとは、各機器を正しく作動させるために必要とされる制御値であり、製造誤差を補正するためのもので個々の装置毎に相違している。
調整パラメータの具体例としては、例えば、半導体レーザ18a,18bの駆動電流と明るさの関係、スキャナ22による走査中心および走査幅、ダイクロイックミラー23毎の共焦点ビンホール25の位置、光検出器27である光電子増倍管のアナログオフセット等があり、これらは、光学系空間5内の各部位が使用時の温度に恒温化された状態で設定調整されている。
【0032】
また、この設定調整作業は、工場出荷時、または、納入場所に装置を最初にセットアップしたとき、あるいは保守点検時に行われるのが一般的である。
また、光学系空間5の恒温化温度を可変設定できる場合には、温度毎に最適化された調整パラメータを予め作成、保持しておき、使用時に設定された温度に対応する調整パラメータを読み出して使用してもよい。
【0033】
また、コントロールユニット31は、培養容器6内に配置された温度センサ11、光学系空間5内に配置された温度センサ29、およびレーザ空間51内に配置された温度センサ64(後述)による検出信号に基づいて、ヒータ8,30を駆動し、各温度センサ11,29により検出される温度が37℃となるようにヒータ8,30を制御するようになっている。
【0034】
スキャナ22と対物レンズ15との間、より具体的には結像レンズ17bと対物レンズ15との間には、スキャナ22を介さずに標本Aからの蛍光を検出するノンディスキャン検出ユニット57が設けられている。
【0035】
ノンディスキャン検出ユニット57は、結像レンズ17bと対物レンズ15との間に配置されたダイクロイックミラー(分岐手段)53と、ダイクロイックミラー53により反射された光を結像する結像レンズ54と、結像レンズ54により結像された光を検出する光検出器55とを備えている。また、光検出器55の周囲を囲うように配置された筒状の光検出器カバー56を備えているようにしてもよい。
【0036】
ダイクロイックミラー53は、標本Aからの蛍光を反射する一方、スキャナ22により走査されたレーザ光を透過させることで、標本Aからの蛍光とレーザ光とを分岐するようになっている。
【0037】
光検出器55は、例えば光電子増倍管(Photomultiplier Tube)であり、外装カバー2の内部に配置されている。
外装カバー2は、遮光性を有する材料で構成されており、光学系空間5の外部からの光(環境光)を遮断するようになっている。これにより、光検出器55への環境光の影響を防止するようになっている。なお、光検出器カバー56に遮光機能は必要ないが、遮光機能を持たせてもよい。
【0038】
レーザ空間51には、2光子励起観察用のレーザ光源61と、揺動可能に設けられたミラー62と、レーザ光源61とミラー62との間に設けられた音響光学素子(AOM)63と、温度センサ64とが配置されている。
【0039】
レーザ光源61は、例えばフェムト秒パルスレーザ光等の極短パルスレーザ光を射出するようになっている。
ミラー62は、アライメント制御が可能となっており、ミラーの角度を変化させることで、レーザ光源61からの極短パルスレーザ光を後述する光学窓65に入射するように反射するようになっている。
【0040】
光学系空間5とレーザ空間51とを仕切る区画壁52には、光学系空間5とレーザ空間51と光学的に接続する光学窓65が設けられている。これにより、レーザ光源61から射出された極短パルスレーザ光は、音響光学素子63およびミラー62を介して光学窓65を透過し、光学系空間5内のミラー20に導光されるようになっている。ミラー20に導光された極短パルスレーザ光は、ミラー20を透過して、ダイクロイックミラー21によって反射されるようになっている。これにより、レーザ光源61から射出された極短パルスレーザ光は、半導体レーザ18a,18bからのレーザ光と同じ光路を通るようになっている。
【0041】
また、レーザ空間51には、レーザ空間51内の空気を冷却するペルチェ素子(第1の熱電素子)66と、ペルチェ素子66により冷却された空気を加温するペルチェ素子(第2の熱電素子)67とが設けられている。ペルチェ素子66およびペルチェ素子67は、具体的には、例えばレーザ空間51内の湿度が10%以下、温度が22±2℃となるように制御される。
【0042】
ペルチェ素子66によってレーザ空間51内の空気を冷却して結露させ、冷却された空気をペルチェ素子67によって加温することで、レーザ空間51内の湿度を低減することができる。すなわち、ペルチェ素子66およびペルチェ素子67は、レーザ空間51内の湿度を低減する湿度低減手段として機能する。
【0043】
ここで、レーザ光源61から射出される極短パルスレーザ光は、水分によって特定の波長帯域(例えば900nmから950nm)が吸収されてしまう。したがって、ペルチェ素子66およびペルチェ素子67によってレーザ空間51内の湿度を低減することで、レーザ空間51内の水分によって特定の波長帯域が吸収されてしまうことを抑制することができる。極短パルスレーザ光は、帯域幅十数nm程度で波長が可変であるため、上記のようにすることで、水分による吸収の影響を受けずにどの波長でも極短パルスレーザ光を良好に照射でき、標本Aの観察精度を向上することができる。なお、図1に示すように、レーザ空間51内に、例えばシリカゲル等の乾燥剤68を配置することにより、レーザ空間51内の除湿効果を向上することができる。
【0044】
また、ペルチェ素子66およびペルチェ素子67は、レーザ空間51内の温度を制御する温度制御手段としても機能する。これにより、発熱体であるレーザ光源61を冷却して、極短パルスレーザ光を安定して射出させることができる。また、光学系空間5とレーザ空間51との温度差を所定の範囲内とすることができ、光学系空間5内における結露を防止することができる。
【0045】
このように構成された本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の作用について、以下に説明する。
まず、半導体レーザ18a,18bを用いた1光子励起観察について説明する。
本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1を用いて標本Aの観察を行うには、標本容器10の底面に生細胞等の標本Aを接着させた状態として、標本容器10を培養容器6内に収容し、標本容器10の底面によって電動ステージ7の貫通孔9を閉塞する。
【0046】
この状態で、環境制御部12を作動させ、培養容器6内に培養環境に適した空気、すなわち、温度37℃、湿度100%、CO濃度5%の空気を循環させる。
また、コントロールユニット31を作動させ、ヒータ8,30の作動により培養容器6内および光学系空間5内の温度センサ11,29の出力が37℃となるようにそれぞれ加温する。
【0047】
そして、観察空間4内および光学系空間5内が37℃に恒温化された状態で、半導体レーザ18a,18bを作動させてレーザ光を出射させ、ダイクロイックミラー23によって反射させ、スキャナ22によって2次元的に走査させ、瞳投影レンズ17a、結像レンズ17bおよび対物レンズ15により集光して、標本容器10底面に配置されている標本Aに対してレーザ光を照射する。
【0048】
レーザ光が照射された標本A上の各位置においては、蛍光物質が励起されることにより蛍光が発せられる。発生した蛍光は、対物レンズ15によって集光されるとともに、結像レンズ17b、瞳投影レンズ17aおよびスキャナ22を介して戻り、ダイクロイックミラー23によりレーザ光から分岐されて共焦点レンズ24によって集光される。そして、集光された蛍光のうち、対物レンズ15の焦点面において発生した蛍光のみが共焦点ピンホール25を通過して光検出器27により検出される。
【0049】
コントロールユニット31には、光検出器27により検出された蛍光の輝度情報が入力されてくるので、その輝度情報が検出された時点におけるスキャナ22による走査位置情報と対応づけて記憶していくことにより、2次元的なフレーム画像を取得することができる。
【0050】
次に、レーザ光源61を用いた2光子励起観察について説明する。
まず、コントロールユニット31を作動させ、ヒータ8,30の作動により培養容器6内および光学系空間5内の温度センサ11,29の出力が37℃となるようにそれぞれ加温する。また、ペルチェ素子66およびペルチェ素子67を作動させ、レーザ空間51内の湿度が10%以下、温度が22±2℃となるように制御する。
【0051】
この状態で、レーザ光源61を作動させて極短パルスレーザ光を出射させると、極短パルスレーザ光は、音響光学素子63およびミラー62を介して光学窓65を透過し、光学系空間5内のミラー20に導光される。そして、極短パルスレーザ光は、ミラー20を透過し、ダイクロイックミラー23によって反射され、スキャナ22によって2次元的に走査される。その後、極短パルスレーザ光は、瞳投影レンズ17a、結像レンズ17bおよび対物レンズ15により集光され、標本容器10底面に配置されている標本Aに照射される。
【0052】
レーザ光が照射された標本A上の焦点位置においては、2光子励起効果により、蛍光物質が励起されて蛍光が発せられる。発生した蛍光は、対物レンズ15によって集光され、ダイクロイックミラー53により反射されて、結像レンズ54を介して光検出器55により検出される。
【0053】
コントロールユニット31には、光検出器55により検出された蛍光の輝度情報が入力されてくるので、その輝度情報が検出された時点におけるスキャナ22による走査位置情報と対応づけて記憶していくことにより、2次元的なフレーム画像を取得することができる。
【0054】
上記のように、標本Aから発生した蛍光をスキャナ22に戻さずに光検出器55により検出することで、各光学部品における信号の減衰を最小限に抑え、2光子蛍光のS/N比を向上させることができる。ここで、ノンディスキャン検出では共焦点ピンホールにより標本Aの焦点面において発生した2光子蛍光のみを切り出すことはできないが、2光子励起による蛍光は極短パルスレーザ光の集光位置(ピント位置)のごく近傍でしか生じないので、共焦点ピンホールがなくても標本Aの光学的断面画像を取得することができる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1によれば、培養容器6内に収容された標本Aは、培養容器6内の温度が約37℃に恒温化され、かつ湿度が90%〜100%に維持されることによって、長時間にわたって健全な状態に維持される。この標本Aに対して、スキャナ22により走査された極短パルスレーザ光を集光させることで、多光子励起効果によって蛍光が発生し、この蛍光が対物レンズ15によって集光される。集光された蛍光は、ダイクロイックミラー53によって極短パルスレーザ光と分岐され、光検出器55によって検出される。
【0056】
このように2光子励起観察を行うことで、標本Aへのダメージおよび蛍光の退色を抑制することができる。また、この場合において、光検出器55は、周囲に設けられた外装カバー2によって光学系空間5の外部からの光(環境光)が遮断されているため、環境光による影響を排除して安定した観察を行うことができる。
【0057】
また、光学系空間5に、光学系空間5内を培養容器6内の温度とほぼ同等の温度に恒温化するヒータ30を備えることで、光学系空間5内も培養容器6内の温度とほぼ同等の温度に恒温化されるので、光学系空間5内の光学系および機械系に、培養容器6の温度に基づく温度勾配が発生することが防止される。これにより、光学系および機械系に歪みが発生することを防止でき、得られる画像の低輝度化、不鮮明化を効果的に防止することができる。
【0058】
また、光学系空間5を培養容器6から湿度的に分離することで、培養容器6内の高湿度が、対物レンズ15等の光学系やスキャナ22等の機械系に影響を与えることを防止できる。
【0059】
なお、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の第1の変形例として、図2に示すように、ノンディスキャン検出ユニット57(光検出器カバー56)の一部を外装カバー2の外部に突出させ、この突出した部分に光検出器55を配置するとともに、ペルチェ素子(冷却部)72を設け、光検出器55から発生する熱を排出することとしてもよい。この場合、光検出器カバー56にも遮光性を持たせ、外装カバー2から出た部分に関しても環境光を遮断する。
本変形例に係るレーザ走査型顕微鏡1によれば、光検出器カバー56内に配置された光検出器55を冷却して熱ノイズの発生を防止することができ、光検出器55による標本Aからの光の検出精度を向上することができる。
【0060】
また、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の第2の変形例として、図3に示すように、レーザ空間51と光学系空間5とが分離され、レーザ空間51と光学系空間5との間に極短パルスレーザ光を導光するファイバ75を設けることとしてもよい。
このようにすることで、レーザ走査型顕微鏡1の本体(観察空間4および光学系空間5)を小型化することができる。また、ファイバ75を繋ぎ替えることで、複数のレーザ走査型顕微鏡1でレーザ光源61を兼用することができる。
【0061】
なお、本実施形態および上記の各変形例に係るレーザ走査型顕微鏡1において、除湿用のペルチェ素子66を省略し、乾燥剤68と温度調整用のペルチェ素子67をレーザ空間51に設けることとしてもよい。
この場合には、乾燥剤68によってレーザ空間51内の空気の湿度を低減させ、この空気が22±2℃となるように、ペルチェ素子67によって温度を調整する。
【符号の説明】
【0062】
A 標本
1 レーザ走査型顕微鏡
2 外装カバー(遮光壁)
3 区画壁
4 観察空間
5 光学系空間
6 培養容器
8 ヒータ(加温手段、観察空間恒温化手段)
9 貫通孔
10 標本容器
15 対物レンズ
16 焦点調節機構
17 走査光学系
18a,18b 半導体レーザ
20 ミラー
21 ダイクロイックミラー
22 スキャナ(光走査手段)
23 ダイクロイックミラー
25 共焦点ピンホール
30 ヒータ(光学系空間恒温化手段)
31 コントロールユニット
51 レーザ空間
52 区画壁
53 ダイクロイックミラー(分岐手段)
55 光検出器(光検出部)
56 光検出器カバー
57 ノンディスキャン検出ユニット
61 レーザ光源
62 ミラー
63 音響光学素子(AOM)
64 温度センサ
65 光学窓
66 ペルチェ素子(第1の熱電素子)
67 ペルチェ素子(第2の熱電素子)
68 乾燥剤
72 ペルチェ素子(冷却手段)
75 ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本を収容し、内部の温度および湿度を維持可能な培養容器と、
該培養容器に隣接して配置され、該培養容器と光学的に接続された光学系空間とを備え、
該光学系空間に、
極短パルスレーザ光を前記標本上で2次元的に走査する光走査手段と、
該光走査手段により走査された極短パルスレーザ光を前記標本に集光させる一方、前記標本からの光を集光する対物レンズと、
前記光走査手段と前記対物レンズとの間に設けられ、前記標本からの光と前記レーザ光とを分岐する分岐手段と、
該分岐手段により分岐された前記標本からの光を検出する光検出部と、
前記光学系空間を囲うように設けられ、前記光学系空間の外部からの光を遮断する遮光壁とが備えられているレーザ走査型顕微鏡。
【請求項2】
前記光学系空間に、該光学系空間内を前記培養容器内の温度とほぼ同等の温度に恒温化する光学系空間恒温化手段が備えられている請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記光学系空間が、前記培養容器に対して湿度的に分離されている請求項1または請求項2に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項4】
極短パルスレーザ光を射出するレーザ光源と、
該レーザ光源を収容し、前記光学系空間と光学的に接続されたレーザ空間とを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記レーザ空間に、該レーザ空間内の湿度を低減する湿度低減手段が備えられている請求項4に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項6】
前記湿度低減手段が、前記レーザ空間内の空気を冷却する第1の熱電素子と、該第1の熱電素子により冷却された空気を加温する第2の熱電素子である請求項5に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項7】
前記レーザ空間に、該レーザ空間内の温度を制御する温度制御手段が備えられている請求項4から請求項6のいずれかに記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項8】
前記レーザ空間と前記光学系空間とが分離され、前記レーザ空間と前記光学系空間との間に極短パルスレーザ光を導光するファイバが設けられている請求項4から請求項7のいずれかに記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項9】
前記光検出器を囲むカバーと、該カバー内部を冷却する冷却手段とが備えられている請求項1から請求項8のいずれかに記載のレーザ走査型顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−102970(P2011−102970A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226420(P2010−226420)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】