説明

レーザ顕微鏡、レーザ顕微鏡システムおよびレーザ光伝達手段

【課題】複数の異なる単一波長の超短パルスレーザ光を、時間幅の拡がりを最小限に抑えつつ同時に光伝送して顕微鏡による観察等を高速に行えるようにすること。
【解決手段】中空コアフォトニック結晶ファイバ(8、HC−PCF)のゼロ分散波長付近で動作する超短パルスレーザ光源(2A)と、異なる波長の超短パルスレーザ光源(2B)のプリチャーパ(3A、3B)出力をダイクロイックミラー(5)で合波し、光変調器(6)で透過波長と平均強度を制御した後に、HC−PCF(8)に入射して光伝送し、この出力光を顕微鏡本体(1C)に入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレーザ光により標本の観察等を行うためのレーザ顕微鏡、レーザ顕微鏡システムおよびレーザ光伝達手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、平均出力数mW〜数W、パルス幅数十fs〜数百fsの超短パルスレーザ光を対物レンズを介して標本に照射して、対物レンズの焦点面において多光子励起効果を発生させる多光子励起方式のレーザ顕微鏡が知られている。とくに、多光子励起効果により蛍光を発生させるようにして標本の走査画像を取得するようなレーザ走査型顕微鏡は、生体試料等の生物学的な研究に利用されている。このように高パワー且つ高ピークの超短パルスレーザ光を出射するレーザ光源を顕微鏡本体と組み合わせて顕微鏡システムとする場合、取り回しが容易で利便性が高い光ファイバを用いて光源からのレーザ光を適宜伝送させてから導入することが望まれている。
【0003】
ところが、光ファイバにフェムト秒オーダのパルス幅を有する超短パルスレーザ光を導入すると、ファイバ内部の光子密度が高くなることで非線形効果(自己位相変調:スペクトルの広がり)が誘発され、群速度分散と相俟って対物レンズの先端から射出される超短パルスレーザ光のパルス幅が拡大してしまい、多光子励起効率が損なわれ多光子蛍光輝度が低下してしまうという不都合がある。
【0004】
これを解決する手法として、群速度が正常分散を持つような光ファイバを用いてレーザ光を導入するため、超短パルスレーザ光を出射するレーザ光源と光ファイバとの間に異常分散光学系を配置したレーザ走査型顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。かかるレーザ顕微鏡によれば、異常分散光学系により予め超短パルスレーザ光のパルス幅を広げて光ファイバに入射させるので、光ファイバ内における非線形効果の発生を回避することができる。
【0005】
また、中心波長を可変できる超短パルスレーザ光源として、チタンサファイアレーザが広く用いられている。そして、光ファイバの終端付近においては、超短パルスレーザ光のパルス幅の再圧縮が進行するので、それに伴う非線形効果の発生を回避するために、光ファイバの下流側に配置された正常分散素子により正常分散を付与し、正常分散素子出射後のパルス幅を異常分散光学系への入射前とほぼ同等にすることとしている。
【特許文献1】特開平10−68889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、単一波長で動作する超短パルスレーザ光源が数多く発表されている。これらの光源は、チタンサファイアレーザのような中心波長の可変を行うことは出来ないが、水冷の冷却装置が不要であることや、チタンサファイアレーザと比べて非常に安価であることや、非常に小型であることなどの利点も有している。光源が
チタンサファイアレーザは中心波長を広帯域に変更することが可能であるが、波長変更において内部の光共振器内の機構部品の移動を有するため、高速な波長の切換えを行うことが出来ない。また、原理的に光共振器の発振波長が変更されるので、超短パルスレーザ光の指向が微妙に変化することから、光ファイバの光が導波するコアとの結合を微妙に都度調整する必要がある。また、従来の光ファイバによる顕微鏡本体への光入力は、波長毎に異常分散光学系の分散量を機械的に調整する必要があり、高速に波長を切り替えることが出来なかった。
【0007】
さらに、原理的にチタンサファイアレーザを用いた場合には、複数の異なる波長の超短パルスレーザ光を発振することは不可能であるので、同時に複数波長の超短パルスレーザ光を1本の光ファイバで伝送することは不可能であった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであって、複数の異なる波長の超短パルスレーザ光を高速に切替えることが可能なレーザ顕微鏡を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであって、複数の異なる波長の単一波長の超短パルスレーザ光を、時間幅の拡がりを最小限に抑えつつ光伝送して、多波長のレーザ光による観察等を迅速に行うレーザ顕微鏡を提供することにある。また、本発明の一実施形態においては、さらに複数の異なる波長の単一波長の超短パルスレーザ光を時間幅の拡がりを最小限に抑えつつ同一の(共通の)伝送手段により伝送して、多波長のレーザ光による迅速且つ高画質な観察等を行うレーザ顕微鏡およびシステムを提供することにある。
【0010】
上記目的を達成する請求項1に記載のレーザ顕微鏡の発明は、レーザ光を試料に照射して試料から発生する光信号を検出するためのレーザ顕微鏡において、波長の異なる複数の超短パルスレーザ光に波長分散を付加する分散手段と、波長分散を付与されたレーザ光を含む前記複数の超短パルスレーザ光を合波する合波手段と、合波された前記超短パルスレーザ光を伝播させる中空コアフォトニック結晶ファイバからなるレーザ伝送手段とを備え、前記レーザ伝送手段により伝播されてきた超短パルスレーザ光を標本に照射するために、前記中空コアフォトニック結晶ファイバの光出射端部を顕微鏡の照射光学系の入口部分に光学的に接続してなるものである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ顕微鏡において、透過する波長の切り替えと平均強度の変調が可能な光変調手段をさらに備えることを特徴とするものである。また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ顕微鏡において、前記複数のレーザ光のうちの少なくとも一つは前記中空コアフォトニック結晶ファイバのゼロ分散波長付近であることを特徴とするものである。また、請求項4に記載の発明は、請求項1または3に記載のレーザ顕微鏡において、前記分散手段が、前記複数のレーザ光のうちの一部について、前記中空コアフォトニック結晶ファイバ中での群速度分散量を打ち消すような分散補償を付与することを特徴とするものである。また、請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のレーザ顕微鏡において、前記中空コアフォトニック結晶ファイバの、前記超短パルスレーザ光を伝播させるコアが楕円形状であることを特徴とするものである。さらに、請求項6に記載の発明は、請求項1から5の何れかに記載のレーザ顕微鏡において、前記中空コアフォトニクス結晶ファイバのコアは、気体を満たした中空体であることを特徴とするものである。
請求項7記載の発明は、請求項1から6の何れかに記載のレーザ顕微鏡を具備し、発振波長が異なる複数の超短パルスレーザ光源と、前記光源のそれぞれに対し前記波長分散手段を設けたことを特徴とするレーザ顕微鏡システムである。請求項8に記載の発明は、請求項2に記載のレーザ顕微鏡のための伝達手段であって、複数の超短パルスレーザ光を合波状態で光接続する入射側の光接続部と、入射後の複数の超短パルスレーザ光の合波光路上に配置した光変調手段と、前記光変調手段により光変調された複数の超短パルスレーザ光を共通の中空コアを介して伝播するよう光入射端が配置された中空コアフォトニック結晶ファイバと、前記ファイバの光出射端部に配置され、顕微鏡本体に対し光接続するための出射側の光接続部とを有することを特徴とするレーザ光伝達手段である。

【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、非線形光学効果の無い中空コアフォトニック結晶ファイバを用い、中空コアフォトニック結晶ファイバの群速度分散と中空コアフォトニック結晶ファイバ以降の群速度分散を補償するように、異なる波長の複数の超短パルスレーザ光源毎に分散補償を行い、合波してから中空コアフォトニック結晶ファイバに超短パルスレーザ光を入力し、これを伝播した超短パルスレーザ光を標本に照射するようにしたもので、レーザ光源と顕微鏡本体を光ファイバで接続することが可能で、複数の波長の超短パルスレーザ光を同時に伝播させることが出来る。さらに、標本に対し、超短パルスレーザ光の時間幅を最短に抑えて効率的な多光子励起が可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、光変調手段を備えて標本に照射する波長と平均強度を調整可能としたことで、標本に組込まれたマーカーを選択して多光子励起出来、かつ多光子蛍光画像の輝度が調整可能となる。さらに、高速に波長と平均強度を調整可能としたことで、標本の異なるマーカー毎の時間変化が観測可能となる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、異なる波長の複数の超短パルスレーザ光源の内少なくとも一つの波長を、中空コアフォトニック結晶ファイバのゼロ分散波長付近とし中空コアフォトニック結晶ファイバに入力するようにしたもので、この波長では中空コアフォトニック結晶ファイバの群速度分散がないので、中空コアフォトニック結晶ファイバ以降の群速度分散の補償を行わなくて良い用途において、分散補償手段をこの波長において無くすことが可能となり、使用する部品数を少なくすることが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1または3に記載の発明の作用効果に加えて、群速度分散による超短パルスレーザ光の時間幅の拡がりを効果的に抑えることができるとともに、超短パルスレーザ光の時間幅の拡がりによるピーク光強度の低下も抑制して、効率的な多光子励起が行われる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の作用効果に加えて、中空コアフォトニック結晶ファイバのコアを楕円形状としたことで、超短パルスレーザ光の偏光方向を保存して伝播することが可能となり、これにより偏光特性を持つ光学部品を顕微鏡本体に使用することが可能となり、偏光依存性を持つ標本のマーカーをより効率的に多光子励起出来、明るい多光子蛍光画像を得ることが可能となる。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1から5の何れかに記載の発明の作用効果に加えて、異なる波長のレーザ光を媒質の無い均一な空間で伝送することができる。
【0017】
請求項7に記載の発明によれば、請求項1から6の何れかに記載のレーザ顕微鏡に複数の超短パルス光源を組合せたレーザ顕微鏡システムを構築することができるだけでなく、光源ごとに良好な分散状態で共通の中空コアフォトニック結晶ファイバ中を伝播させることができる。
【0018】
請求項8に記載の発明によれば、請求項2に記載のレーザ顕微鏡に対し、光変調を行いながら非線形効果を抑えた複数の波長の異なる超短パルス光を伝達することが可能なレーザ光伝達手段を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ顕微鏡の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1のレーザ顕微鏡の中空コアフォトニック結晶ファイバの断面図である。
【図3】図1のレーザ顕微鏡のプリチャーパの例を示す図である。
【図4】図1のレーザ顕微鏡のプリチャーパの他の例を示す図である。
【図5】図1のレーザ顕微鏡の中空コアフォトニック結晶ファイバの波長と群速度分散の関係を示す図である。
【図6】図1のレーザ顕微鏡の動作における、時間と画像取得の関係の例を示す図である。
【図7】図1のレーザ顕微鏡の複数の異なる波長の超短パルスレーザ光源の変形例を示す全体構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡システム1について、図1から図6を参照して以下に説明する。図1に示されるように、本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡システム1は、標本Aに対し超短パルスレーザ光を照射して多光子励起効果を発生させる多光子励起型のレーザ走査型顕微鏡であって、光源装置1Aにある超短パルスレーザ光源2と顕微鏡装置本体1Cとを光伝送装置1Bの光伝送手段である中空コアフォトニック結晶ファイバ8を介して接続したものである。超短パルスレーザ光源2は、複数の異なる単一波長の超短パルスレーザ光を出射するレーザ光源2Aと2Bとを有している。
【0021】
光源装置1Aにおいて、レーザ光源2Aの光出射側には、先ずレーザ光源2Aに対し波長分散を付与するためのプリチャーパ3Aが配置し、その後段にダイクロックミラー4Aが配置している。他方、レーザ光源2Bの光出射側には、レーザ光源2Bに対し波長分散を付与するためのプリチャーパ3Bが配置し、その後段に折り返しミラー4Bが配置している。折り返しミラー4Bは光路5Bをダイクロックミラー4Aに向かわせ、ダイクロックミラー4Aが光路5Aと5Bを合波して一本の共通化された合波光路5Cを形成するように配置されている。
【0022】
光伝送装置1Bは、レーザ顕微鏡のための伝達手段であって、複数の超短パルスレーザ光を合波状態で光接続する入射側の光接続部と、入射後の複数の超短パルスレーザ光の合波光路上に配置した光変調手段と、前記光変調手段により光変調された複数の超短パルスレーザ光を共通の中空コアを介して伝播するよう光入射端が配置された中空コアフォトニック結晶ファイバと、前記ファイバの光出射端部に配置され、顕微鏡本体に対し光接続するための出射側の光接続部とを有することを要件とする。ここで、図示されるように、光伝送装置1Bは、合波光路5Cを経由した2種類のレーザ光に対し後述するような光変調を付与するための光変調器6と、カップリング光学系7と中空コアフォトニック結晶ファイバ8とを光路に沿って順に配置している。ここで、2種類の超短パルスレーザ光は、光源装置1Aの分散手段によりチャーピングされた後に、合波された状態となって光伝送装置1Bの入射側から入射し、さらに光変調された状態で中空コアフォトニック結晶ファイバ8に到達するので、カップリング光学系7は、顕微鏡システム1の光源装置1Aから顕微鏡本体1Cに至る光路の唯一の光反射伝送路として機能する一本の中空コアフォトニック結晶ファイバ8の光入射端から効率よく入射して一本の中空コアにレーザ光を導入できるような配置および構成となっている。ここで、光変調手段である光変調器6は、2以上の超短パルスレーザ光の波長切替を行いながら中空コアフォトニック結晶ファイバ8に入射させる方が伝播性能を高めることから、中空コアフォトニック結晶ファイバ8の前段に配置するのが好ましいが、必ずしも前段でなければならない訳ではなく、その後段または双方に配置するようにしてもよい。
【0023】
他方、中空コアフォトニック結晶ファイバ8の出射端部8Bの後段には、中空コアから出射された2つのレーザ光が通過する光路5Dに沿って、コリメート光学系9と、ビーム整形光学系10とを含む光学的接続手段を配置し、この接続手段を経て顕微鏡本体1Cの照射用光路へと各レーザ光を入射させる構成になっている。ここで、コリメート光学系9およびビーム整形光学系10は、図1のように顕微鏡本体1Cに付属する構成要素とし、適宜の光接続用ポートを介して、光伝送装置1Bの唯一の光伝送手段である中空コアフォトニック結晶ファイバ8の光出射端部8Bと光学的に接続するようになっている。場合によっては、顕微鏡本体1Cとの光入射用の接続部と中空コアフォトニック結晶ファイバ8の光出射端部との間を接続するアダプタであってもよい。
【0024】
レーザ光源2Aと2Bは、いずれも単一波長のレーザ光を発振する光源であって、生体組織や生細胞のような試料を観察するのに有効な、波長帯域(例えば700nm〜1300nm)と、平均出力(例えば数mW〜数W)と、パルス幅(例えば数十fs〜数百fs)と有する超短パルスレーザ光(または単に短パルスレーザとも呼ばれる)の中から異なる単一波長の超短パルスレーザ光をそれぞれ単独で出射するようになっている。ここで、単一波長のレーザ光を発振する光源としては、モードロック固体レーザやモードロックファイバレーザ、モードロック半導体レーザや利得スイッチ半導体レーザが挙げられ、他に光増幅器を内蔵するものや波長変換により高調波としたものであってもよい。また、チタンサファイアレーザのような波長可変型のレーザ光源についても、2個またはそれ以上の個数の波長可変型レーザ光源を、各光源の波長同士が常に重ならないような組合せで出射させるような場合は本発明の一態様として含んでもよい。本実施形態において、超短パルスレーザ光源2は、単一波長のレーザ光を発振するレーザ光源2Aおよび2Bの2つの光源からなる。レーザ光源2Aは、980nm帯の波長帯域であるような単一波長のレーザ光を発振する利得スイッチ半導体レーザであり、ファイバ光増幅器で光増幅し、非線形パルス圧縮により超短パルスレーザ光の時間幅を約200フェムト秒に設定したものである。同様に、レーザ光源2Bは、1064nm帯の波長帯域であるような単一波長のレーザ光を発振するモードロック固体レーザであり、超短パルスレーザ光の時間幅を約200フェムト秒に設定したものである。
【0025】
プリチャーパ3A、3Bは、超短パルスレーザ光に波長分散を付加するための分散手段であり、例えば図3に示す例では、対向する一対の透過型グレーティング3a、3b、および紙面垂直方向に高さ方向を変えて折り返すミラー対3cと、透過型グレーティング3a、3bとミラー対3c、透過型グレーティング3b、3aで紙面垂直に高さ方向が変わった超短パルスレーザ光を取り出すミラー3d、により構成されている。レーザ光源2A、2Bから出射される超短パルスレーザ光の波長、中空コアフォトニック結晶ファイバ8の種類、顕微鏡本体1Cに備えられる対物レンズ12の種類に応じて、対物レンズ12の先端から出射される超短パルスレーザ光が所定のパルス幅となるように、透過型グレーティング3a、3b対の間隔を調節し、超短パルスレーザ光に付与する異常分散量を調節するようになっている。
【0026】
また、プリチャーパ3A、3Bの変形例である図4に示す例では、ハの字に対向する一対の透過型グレーティング3a、3b、および紙面垂直方向に高さ方向を変えて折り返すミラー対3cと、ハの字に対向する一対の透過型グレーティング3a、3bとの間の第1レンズ3dと第2レンズ3eと、透過型グレーティング3aと第1レンズ3dと第2レンズ3eと透過型グレーティング3bとミラー対3c、透過型グレーティング3bと、第2レンズ3eと第1レンズ3dと透過型グレーティング3aで紙面垂直に高さ方向が変わった超短パルスレーザ光を取り出すミラー3d、により構成されている。レーザ光源2A、2Bから出射される超短パルスレーザ光の波長、中空コアフォトニック結晶ファイバ8の種類、顕微鏡本体1Cに備えられる対物レンズ12の種類に応じて、対物レンズ12の先端から出射される超短パルスレーザ光が所定のパルス幅となるように、透過型グレーティング3aと第1レンズ3dまたは、透過型グレーティング3bと第2レンズ3eの間隔を、第1レンズ3dと第2レンズ3eの間隔を変えずに調節し、超短パルスレーザ光に付与する正または負の分散量を調節するようになっている。
【0027】
折り返しミラー4Bは、レーザ光源2Bから出射されプリチャーパ3Bで分散が付加された超短パルスレーザ光を、レーザ光源2Aから出射されプリチャーパ3Aで分散が付加された異なる波長の超短パルスレーザ光とダイクロイックミラー4Aで同軸になるよう折り返し方向を調整出来るようになっている。また、ダイクロイックミラー4Aは、レーザ光源2Aから出射された超短パルスレーザ光の波長帯域を透過し、レーザ光源2Bから出射された超短パルスレーザ光の波長帯域を反射するよう構成され、透過する超短パルスレーザ光と反射する超短パルスレーザ光が同軸で伝播するよう調整出来るようになっている。
【0028】
本実施形態において、光変調器6は音響光学素子(音響光学可変フィルタ:AOTF)により構成されている。この音響光学素子は、目標となる蛍光強度が得られるように、レーザ光源2Aと2Bから出射され光変調器6を透過する超短パルスレーザ光の平均出力を、音響光学素子に入力する音波強度を変えることにより調整することと、光変調器6を透過するレーザ光源2Aと2Bの波長の切換えを音響光学素子に入力する音波周波数の変更が出来るようになっている。
【0029】
カップリング光学系7は、少なくとも1つのレンズを有し、光軸方向および光軸断面内で移動可能に配置することにより、光変調器6から出射した超短パルスレーザ光を中空コアフォトニック結晶ファイバ8の入射端における所定の集光位置に対し光軸方向および光軸断面内においてズレが生じないように調節することにより、超短パルスレーザ光を効率よく中空コア中に入射するためのものである。
【0030】
中空コアフォトニック結晶ファイバ8は、短パルスレーザ光源から発振される超短パルスレーザ光を顕微鏡本体の光照射光学系に向けて伝送するための光伝送手段の一実施形態であり、気体(好ましくは空気)を中空体内部に収容するとともに、全長に亘り一定の断面形状と寸法であるような光学的な中空の通路をコア部として有している導光用ファイバである。とくに、中空コアフォトニック結晶ファイバ8は、フォトニックバンドギャップを形成するように、中空コアを囲むようにクラッド部に周期的な配置パターンの空孔群を配置した断面構造を有している。クラッド部がフォトニックバンドギャップであるファイバのコア部が中空である場合、光伝送路となる中空コアに入射した1以上のレーザ光はもはや中空コアの外側(クラッド部)にほぼ完全に滲み出さずに反射(ブラッグ反射)を繰り返し、ファイバの全長に亘って(入射端部8Aから出射端部8Bまで)漏れなくレーザ光を伝送するようになる。また、中空コアフォトニック結晶ファイバは非線形効果を殆ど持たないことから、その透過帯域に含まれる複数種類のレーザ光をシングルモードのまま1本で伝送するのみ都合良いことを発明者らは着目したものである。本発明は、さらに共通の中空コアフォトニック結晶ファイバに対し異なる単一波長からなる複数の超短パルスレーザ光を合波状態とし、コア内を伝播させた上で顕微鏡本体へ伝達することが可能な構成を鋭意検討した末に本発明に至った。
【0031】
本実施形態における中空コアフォトニック結晶ファイバ8は、例えば近赤外波長帯域に透過帯域を持つようなファイバである。中空コアフォトニック結晶ファイバ8の断面構造の一例を図2に示す。図2において、光を導波する円形の光路を形成している中空なコア20の周囲には、透過帯域を決定するための中空体(空孔)21が規則的に配置されたクラッド22があり、クラッド22の周囲には、ガラスよりなる外周部23がある。図1に示されるように、本発明の中空コアフォトニック結晶ファイバは、超短パルスレーザ光源2と顕微鏡本体1Cを柔軟な配置に設置できるよう、適宜の長さ(例えば1m以上、好ましくは3m以上)と直径(例えば1mm以下、好ましくは0.4mm以下)であり、光透過性が高い材質(例えば石英)であるのが好ましい。本実施形態において、中空コアフォトニック結晶ファイバ8は十分に長い全長と十分に細い直径を有することにより、比較的自由にファイバを曲げることが出来るので、顕微鏡システムとしてのレイアウトを柔軟にしている。
【0032】
例示的に図示された中空コアフォトニック結晶ファイバ8は、ファイバ全長に亘り均一な形状と寸法を有する非常に細長い円柱(または楕円柱)形状の貫通孔からなるコア20を有し、且つ、このコア20がいわゆるフォトニックバンドギャップにより光エネルギーを貫通孔内に閉じ込める性質を持つように設計されたファイバ構造である以外、特別に限定すべき点は無い。しかし、後述するように、実際の設計例においては幾つかの形状的な特徴を有することが示され、例えば、コア20より外周の領域を意味するクラッド部22には多数の中空体21を全長に亘り均一に配置しており、コア20の(平均)直径は中空体21の平均直径よりも大きいことと、コア20の数は1個が好ましいことなどが挙げられる。
【0033】
中空コアフォトニック結晶ファイバはその製法上、最終的に光を透過する波長の帯域を決定するフォトニックバンドギャップを形成しクラッド部となるガラス管を束ね、この束の中心部でコアとなる部分を決定するガラス管を取り除きプリフォーム材を作製し、これを通常の光ファイバの製法と同様に線引きすることで製作する。つまり、幾つのガラス管(一般的には、セル数として表現する)をどの様な配置で取り除くかで中空のコアの寸法と形状が決定する。
【0034】
中空のコア20の寸法は、例えば2セルから20セル(2〜30μmの直径)を有している。発明者らが検討した例では、2セルの時非線形効果が無視できなくなる場合があった。また、セル数が7セル(10μmの直径)以上に大きくなるほどシングルモードを維持し難い傾向もあった。このことから中空コアは、セル数が3以上(3μm以上)が好ましく、7セル以下が好ましい。クラッドを形成する多数の中空体21は、フォトニックバンドギャップを形成するような配置パターンであれば特に限定されない。
【0035】
本発明の他の重要な要件として、超短パルスレーザ光を伝送する伝送手段が実質的に中空コアフォトニック結晶ファイバのみからなることが挙げられる。すなわち、通常のソリッドコア(クラッド部に中空構造が有る場合を含む)を有するファイバと異なり、中空コアフォトニック結晶ファイバは、照射された超短パルスレーザ光のほとんどが中空であるコア20を導波し、中空(とくに空気)はその非線形屈折率がソリッドコアを形成するガラス体と比べて非常に小さいので、コアの光子密度が高くなることで誘発される非線形光学効果(自己位相変調:光スペクトルの拡がり)が無視できる(実質、非線形効果を生じない)特性を有する。これにより、通常のソリッドコアファイバのような非線形光学効果に対する対処を行わなくて良い。一方、中空コアフォトニック結晶ファイバ8に偏波保持の特性を持たせるのが都合良い場合には、コア20が楕円形状であるような中空コアフォトニック結晶ファイバを使用するのが好ましい。
【0036】
これに対し、単に中空ファイバ(またはホローファイバやホーリーファイバ)と呼ばれる他のファイバは、クラッドのフォトニックバンドギャップがなく光が導波する中空部の内壁に反射膜が形成されている。この中空ファイバでは反射膜で光が透過する波長の帯域が決定され、中空コアフォトニック結晶ファイバと比べて大きい透過帯域を得ることが出来ない。また、口径が大きいことからシングルモードのみ伝播させることが容易ではない。その他、フォトニック結晶ファイバもあるが、フォトニック結晶ファイバではコアを低い非線形性の材質にすることが原理上困難であり、その多くが本発明とは逆に、非線形効果を積極的に利用する目的のために使われる。また、コアを大きくしてコアの光強度密度を下げて非線形効果を回避することも可能であるが、この場合シングルモードのみで光を導波することが困難となる。
【0037】
中空コアフォトニック結晶ファイバ8の、波長と群速度分散(β2)の関係を図5に示す。図5に示すように、中空コアフォトニック結晶ファイバ8の群速度分散は、群速度分散がゼロである波長より長波長側で負(異常)分散を持ち、逆の短波長側で正(正常)分散を持つ。超短パルスレーザ光のように光スペクトルに帯域を持つ光は、群速度分散を持つ媒質を伝播すると正常分散領域では、長波長成分が短波長成分より速く媒質を伝播することで超短パルスレーザ光の時間幅が拡がり、異常分散領域では短波長成分が長波長成分より早く媒質を伝播することで超短パルスレーザ光の時間幅が拡がる。
【0038】
本実施形態では、2つの超短パルスレーザ光のうちの1つのレーザ光を発振するレーザ光源2Aの波長が中空コアフォトニック結晶ファイバ8のゼロ分散波長付近となるように、中空コアフォトニック結晶ファイバ8を選択する。レーザ光源2Aと波長の異なるレーザ光源2Bの波長は、中空コアフォトニック結晶ファイバ8のゼロ分散波長以外となるので、プリチャーパ3Bで中空コアフォトニック結晶ファイバ8の群速度分散量を打ち消すように逆の群速度分散を発生させている。本実施形態では図5のように、レーザ光源2Bの波長は中空コアフォトニック結晶ファイバ8の異常分散領域となるので、プリチャーパ3はこれを打ち消す正常分散を発生させる。
【0039】
中空コアフォトニック結晶ファイバ8の透過帯域は、その伝播損失量が1dB/m以下となる範囲とし、この透過帯域内に図5に示したゼロ分散波長が来るように設計されている。また、コア20やクラッド21の中空体に水分や異物が入ると伝播損失量が増大する。中空コアフォトニック結晶ファイバ8の端面は、外気に触れないように遮断されており、超短パルスレーザ光は、例えば端面から一定距離の空隙を持って設けられた、無反射コートが施された透明なガラスウインドウを出入するようになっている。あるいは、光軸方向に非常に薄いガラス体を端面に融着し、非常に薄いガラス体を斜め研磨や無反射コートを施し、この非常に薄いガラス体を超短パルスレーザ光が出入するようになっている。
【0040】
本実施形態において実際に検討された中空コアフォトニック結晶ファイバ8(略称はHC−PCF)は、例えばNKTフォトニクス社から入手されるフォトニックバンドギャップファイバ(例えば型番HC−1060−02)を一実施態様として使用しており、約100μmの直径のクラッド部の中心に約10μmの直径の中空コア20を有するとともに、中心から約50μmの範囲に直径約7.5μmの中空体21が多数周期的且つ高密度に配置した断面形状(図2参照)を有している。また、この一実施態様のフォトニックバンドギャップファイバは、異常分散を持つ波長帯が波長1064nm帯で、この異常分散波長における伝送損失が約0.1dB/m以下であるような光学特性を有している。さらに、この一実施態様のフォトニックバンドギャップファイバは、ゼロ分散波長が約980nm帯で、このゼロ分散波長での伝送損失は約0.3dB/m以下という光学特性も有している。好ましくはファイバ外周には保護用の被覆がなされ、約2.5mm以下の外径を有している。
【0041】
コリメート光学系9は、少なくとも1つのレンズを光軸方向に移動させることにより、中空コアフォトニック結晶ファイバ8の出射端から出射される超短パルスレーザ光を略平行光に変換するようになっている。また、ビーム整形光学系10は、少なくとも2つのレンズにより構成され、少なくとも1つのレンズを光軸方向に移動させることにより、超短パルスレーザ光のビーム径が対物レンズ12の瞳を満たすように整形するようになっている。
【0042】
顕微鏡本体1Cは、中空コアフォトニック結晶ファイバ8を出射し、コリメート光学系9で略平行光化され、ビーム整形光学系10で整形された超短パルスレーザ光を2次元的に走査するスキャナ13と、瞳投影レンズ14および結像レンズ15により更に整形された超短パルスレーザ光を集光して標本Aに照射する一方、標本Aにおいて発生した多光子蛍光を集光する対物レンズ12と、該対物レンズ12により集光された多光子蛍光を超短パルスレーザ光の光路から分岐するダイクロイックミラー16と、該ダイクロイックミラー16により分岐された多光子蛍光を集光する集光レンズ17と、集光された多光子蛍光を検出する光検出器18と、該光検出器18により検出された多光子蛍光に基づいて多光子蛍光画像を構築し表示する表示部19とを備えている。
【0043】
このように構成された本実施形態に係るレーザ走査型顕微鏡1の動作について、以下に説明する。
【0044】
レーザ光源2Bを出射した超短パルスレーザ光は、プリチャーパ3B2で中空コアフォトニック結晶ファイバ8の異常分散量と、顕微鏡本体1Cの正常分散量の合計の分散量を打ち消すように異常分散が付加され、折り返しミラー4Bで反射されダイクロイックミラー4Aに入射し、このダイクロイックミラー4Aを反射して光変調器6に入射する。一方、レーザ光源2Aを出射した超短パルスレーザ光は、プリチャーパ3Aで顕微鏡本体1Cの正常分散量を打ち消すように異常分散が付加され、ダイクロイックミラー4Aを透過して光変調器6に入射する。
【0045】
光変調器6に入射したレーザ光源2A、2Bの超短パルスレーザ光は、いずれか一方の超短パルスレーザ光が透過し、かつその平均強度が調整される。光変調器6を透過した超短パルスレーザ光は、カップリング光学系7で集光され、中空コアフォトニック結晶ファイバ8のコアに結合する。中空コアフォトニック結晶ファイバ8を伝播する超短パルスレーザ光は、中空コアフォトニック結晶ファイバ8の持つ群速度分散を受け出射し、コリメート光学系9で略平行光化された後、ビーム整形光学系10により顕微鏡本体1Cの対物レンズ12の瞳を満たすように超短パルスレーザ光のビーム径が調整される。
【0046】
顕微鏡本体1Cに入射した超短パルスレーザ光は、標本の少なくとも一部に対しレーザ光を照射するための照明光学系11のスキャナ13により2次元的に光走査され、瞳投影レンズ14および結像レンズ15で略平行光にされ、対物レンズ12で集光して標本Aの特定箇所を照射し多光子励起を行う。標本Aである生体試料(例えば細胞、組織等)には、レーザ光源2Aの波長で多光子励起可能なマーカー(GFP;緑色蛍光蛋白)と、レーザ光源2Bの波長で多光子励起可能なマーカー(RFP;赤色蛍光蛋白)が、それぞれ興味ある標本Aの特定箇所に組込まれている。
【0047】
標本A上の超短波パルスレーザ光の時間幅は、レーザ光源2Aの波長に対して、中空コアフォトニック結晶ファイバ8はゼロ分散波長であるのでこれによる分散は考慮しておらず、中空コアフォトニック結晶ファイバ後の正常分散を打ち消すようにプリチャーパ3Aで異常分散が付与されているので、群速度分散による超短パルスレーザ光の時間幅の拡がりは1〜2倍に抑えられている。また、レーザ光源2Bの波長に対しては、プリチャーパ3Bで中空コアフォトニック結晶ファイバの異常分散と、中空コアファイバ後の正常分散の合計量(異常分散となる)を打ち消すように正常分散が付加されているので、群速度分散による超短パルスレーザ光の時間幅の拡がりは1〜2倍に抑えられ、超短パルスレーザ光の時間幅の拡がりによるピーク光強度の低下が抑制され、効率的な多光子励起が行われる。このように、本実施形態においては、複数の波長のレーザ光にそれぞれ対応する分散手段としての複数のプリチャーパ(3A、3B)のうち、一部、すなわちゼロ分散波長に対応するプリチャーパ(3A)については中空コアフォトニック結晶ファイバ8後の正常分散のみを補償するようなチャーピングを行えばよい。言い換えると、他の一部のプリチャーパ、すなわち、ゼロ分散波長に対応するプリチャーパ(3A)以外の残りのプリチャーパ(3B)については、中空コアフォトニック結晶ファイバ8中の異常分散を補償するようなチャーピングを行えばよい。
【0048】
標本Aにおいて発生した多光子蛍光は対物レンズ12により集光され、ダイクロイックミラー16で超短パルスレーザ光の光路から分岐され、集光レンズ17で集光して光検出器18に入射され、検出された多光子蛍光に基づいて表示部19に多光子蛍光画像が表示される。
【0049】
光変調器6である音響光学可変フィルターの動作と、表示部19に得られる多光子蛍光画像の関係を図6に示す。図6は、横軸が時間で縦軸にレーザ光源2Aと2Bの光変調器6の透過状況を示してある。最初、光変調器6はレーザ光源2Aの超短パルスレーザ光を、得られる多光子蛍光画像の強度が最適となるよう透過平均強度を調整して透過するようになっている。この時、標本Aのレーザ光源2Aの波長の超短パルスレーザ光で多光子励起可能なマーカー30からの検出信号が光検出器18に検出されて、多光子励起蛍光画像が表示部19に表示される。次の瞬間、光変調器6はその音響光学可変フィルターの入力音波周波数を切換え、レーザ光源2Bの波長の超短パルスレーザ光を、得られる多光子蛍光画像の強度が最適となるよう透過平均強度を調整して透過する。そして、標本Aのレーザ光源2Bの波長の超短パルスレーザ光で多光子励起可能なマーカー31からの検出信号が光検出器18に検出されて、多光子励起蛍光画像が表示部19に表示される。
【0050】
このように、2種類の波長を有する超短パルスレーザ光は、光変調器6により高速に切り替えられながら中空コアフォトニック結晶ファイバ8を交互に繰り返し伝達することで実質同時に顕微鏡本体に入射して、多色の蛍光画像をリアルタイムに検出し、表示することができる。ここで、同時という語は、共通の伝播路である中空コアフォトニック結晶ファイバの中空コアを、2以上の波長の異なるレーザ光が合波された光路内を混合状態または短時間で切り替わるような交互の伝播状態で伝達することで、顕微鏡本体1Cに配置された標本Aに対しほぼ同時に短パルスレーザ光を照射可能とするような伝播状態を指すものである。標本Aに対する照射位置は、波長ごとの役割に応じて同一でも異なる位置でもよい。
【0051】
以上のように、非線形光学効果をほとんど無視できる中空コアフォトニック結晶ファイバの、ゼロ分散波長付近の単一波長の超短パルスレーザ光源の超短パルスレーザ光と、中空コアフォトニック結晶ファイバのゼロ分散波長以外の単一波長の超短パルスレーザ光源の超短パルスレーザ光を、プリチャーパで中空コアフォトニック結晶ファイバと中空コアフォトニック結晶ファイバ後の群速度分散量を打ち消すように分散補償して中空コアフォトニック結晶ファイバに入力することで、1本の光ファイバで複数の単一波長の超短パルスレーザ光を、標本上で超短パルスレーザ光の時間幅の拡がりを最小に抑えつつ伝送することが可能となり、またレーザ光源と顕微鏡本体間を光ファイバで接続可能となったことで、自由なレーザ走査型顕微鏡のレイアウトが可能となる。
【0052】
更に、光変調器を設けたことで、光変調器に入力する電気信号の切換えで、標本を照射し多光子励起する波長を高速に切り替えることが可能となり、異なるマーカーが組込まれた標本内の特定箇所の時間変化を高速に観察することが可能になる。
(変形例)
複数の異なる波長の超短パルスレーザ光源の変形例を図7に示す。図7において、レーザ走査型顕微鏡システム1には、異なる単一波長の超短パルスレーザ光源2Aと2Cがあり、レーザ光源2Cは、もう一方の超短パルスレーザ光源2Aの超短パルスレーザ光の一部が入力され、この超短パルスレーザ光によってレーザ光源2Aとは異なる単一波長の超短パルスレーザ光を出射するように構成されている。ここで、レーザ光源2Aの超短パルスレーザ光から、波長の異なる超短パルスレーザ光とするには、レーザ光源2Aの超短パルスレーザ光のフォトン2つから、高調波のフォトン1つに変換する第2高調波発生や、レーザ光源2Aの超短パルスレーザ光のフォトン1つから、低周波の信号光とアイドラ光のフォトン2つに変換する光パラメトリック発振や、媒質のラマン散乱効果により低周波のストークス光へのラマンシフト光や、高周波のアンチストークス光へのラマンシフト光で実現することが出来る。こうすることで、超短パルスレーザ光の生成に適したレーザ媒質が無い波長の超短パルスレーザ光を生成することが出来る。
【0053】
また、図7においてレーザ光源2Aの波長は、中空コアフォトニック結晶ファイバ8のゼロ分散波長付近とし、図1にあるプリチャーパ3Aが無い構成となっている。中空コアフォトニック結晶ファイバ以降の分散による、標本A上での超短パルスレーザ光の時間幅の拡がりが使用上問題とならない場合、プリチャーパ3Aが無くなったことで使用する構成部品の削減と、調整手順の削減により、より安価で簡便なレーザ顕微鏡となる。その上、レーザ光源2Aの超短パルスレーザ光を有効に利用して、エネルギー効率の高いレーザ顕微鏡を実現することが出来るという利点もある。
【0054】
以上の説明において、本発明は上述した実施形態や変形例等の記載に限定されず、本発明の主旨に基づいて種々の変更や均等物を含むものである。ここで、本発明は、光源から光検出(さらには表示手段)までのレーザ顕微鏡システムや、光源と顕微鏡本体との間に着脱自在なレーザ顕微鏡装置のための光伝送装置も含まれるものである。光伝送装置については、上述した伝送手段1Bにおいて説明された光分散手段と中空コアフォトニック結晶ファイバと、光源装置1Aおよび顕微鏡本体1Cと光路を接続(または中継)するための各光接続手段とを主な要件とする。
【0055】
例えば、本発明におけるレーザ顕微鏡という用語は、上述した実施形態等に例示された顕微鏡に限らず、超短パルスレーザ光を2種類以上の波長で利用するとともに少なくとも1以上のレーザ光が画像形成に寄与するようなあらゆるタイプの顕微鏡を包含し、顕微鏡の照明光学系と同等の構成を有する他の分光学的な画像取得装置を含むこともできる。また、光学顕微鏡のように画像による観察を主目的としない光測定(または光計測)用の顕微鏡においても、少なくとも一部の演算過程で顕微鏡画像に基づくデータを利用する場合には本発明のレーザ顕微鏡に含まれる。また、複数の超短パルスレーザ光のうち一つの波長により生体試料を光刺激し、その応答を他の波長を用いて画像取得することにより観察および/または測定するレーザ顕微鏡も本発明に含まれる。
【0056】
また、標本Aは、図1に示されるように顕微鏡本体1Cの照明光学系11の下方のステージ等に載置し得る大きさの物体ないし容器等に収容可能な任意の物質である必要はない。すなわち、小動物等の生物個体を観察等する場合には、生物個体内外の任意の位置の光照射部位に対し対物レンズの先端がなるべく接近するように、少なくとも対物レンズおよび照明用光路の一部を細長い筒に収納するようにしてもよい。この場合、顕微鏡本体1Cの照明光学系11の光路を、上記実施形態で述べたような中空コアフォトニック結晶ファイバ8と同等の光伝送手段で伝送するように照明用光路として配置することにより、標本への直接的且つ非侵襲なアクセスが可能なシステムを構築することも出来る。この場合、顕微鏡本体1C内に第2の中空コアフォトニック結晶ファイバ8をビーム整形光学系10の後段に入射端部を配置し、その出射端部をスキャナ13の直前まで延在することができることから、スキャナ13までの距離をなるべく細長いデザインに設計するのが好ましい。
第2のファイバを伝送させる場合、このための異常分散に対する分散補償を分散手段により設定するのが好ましい。光伝送手段1Bと顕微鏡本体1Cを一体にした顕微鏡システムである場合には、伝送手段1B内の中空コアフォトニック結晶ファイバ8を顕微鏡本体1Cの入射光学系11内に延長するような配置とすることにより、別途のファイバを設ける必要が無く、さらなる光分散制御または分散手段の必要性が無いので好ましい。
【0057】
また、上記実施形態では2つの波長の異なる単一波長光源としたが、標本において光検出すべき検出光(例えば多色の蛍光)を得るために必要な任意の数に対応する異なる単一波長のレーザ光を別々の光路でもって同時に発振するような光源であればよい。例えば、3または4以上の波長を個別に発振する光源装置を用いると、あらゆる色情報に対応した画像観察および/または画像解析(計測)が可能となる他、多種多様な光応答反応や光刺激を画像化と同時に行なうことも可能になる。ここで、例えば単一波長光源を3つにする場合の光源装置の構成は、図1に示した折り返しミラー4Aとダイクロイックミラー4Bの間の光路5B上に、更に第3の単一波長の超短パルスレーザ光源および第3のプリチャーパを付加を同様に配置することで、第2の単一波長の超短パルスレーザ光源2Bから発振されたレーザ光と合波してから、その合波レーザ光を図1のダイクロイックミラー4Bに到達するように構成すればよい。
【0058】
また、本実施形態では光変調器6として音響光学可変フィルターとしたが、波長の切換えを必要としない場合には、音響光学素子(AOM、AOBS)、電気光学素子(EOM)、NDフィルターあるいはλ/2板と偏光子との組み合わせでも光変調手段としての使用が可能である。また、本実施形態ではプリチャーパ3として透過型グレーティング対を用いたが、反射型グレーティング対やプリズム対を用いても良い。また、端面が処理された中空コアフォトニック結晶ファイバやその他の光学部品からの反射光による超短パルスレーザ光源への戻り光による損傷を防ぐために、レーザ光源直後にアイソレータやλ/4板を配置しても良い。さらに光変調により波長切換えされた各レーザ光に対するスキャナ13の動作は、2次元走査に限らず、3次元走査する構成であってもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、異なる単一波長の超短パルスレーザ光源を、各々異なるマーカーの多光子励起に用いた画像観察用のレーザ顕微鏡として例示したが、一方の光源を(多光子)刺激用とし、もう一方の光源を多光子蛍光画像取得用として用いた多機能タイプのレーザ顕微鏡であってもよい。また、光励起により蛍光を発するマーカーとしては、GFP等の蛍光蛋白に限らず、各種蛍光色素または自家蛍光物質であってもよいし、蛍光以外の光検出可能なマーカーであってもよい。また、レーザ光による刺激に応答する物質は、それ自身蛍光を発する必要はなく、その光応答により誘起される形態的、生物化学的、または物理化学的変化に対応する任意の観察部位および/または測定物質であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 レーザ走査型顕微鏡システム
2 超短パルスレーザ光源
3 プリチャーパ
3a、3b 透過型グレーティング
3c 折り返しミラー対
3d 取り出しミラー
3d、3e レンズ
4A ダイクロックミラー
4B 折り返しミラー
6 光変調器
7 カップリング光学系
8 中空コアフォトニック結晶ファイバ
9 コリメート光学系
10 ビーム整形光学系
1、70 顕微鏡本体
12 対物レンズ
13 スキャナ
14 瞳投影レンズ
15 結像レンズ
16 ダイクロイックミラー
17 集光レンズ
18 光検出器
19 表示部
20 コア
21 中空体(空孔)
22 クラッド
23 外周部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を標本に照射して試料から発生する光信号を検出するためのレーザ顕微鏡において、
波長の異なる複数の超短パルスレーザ光に波長分散を付加する分散手段と、
波長分散を付与されたレーザ光を含む前記複数の超短パルスレーザ光を合波する合波手段と、
合波された前記超短パルスレーザ光を伝播させる中空コアフォトニック結晶ファイバからなるレーザ伝送手段とを備え、
前記レーザ伝送手段により伝播されてきた超短パルスレーザ光を標本に照射するために、前記中空コアフォトニック結晶ファイバの光出射端部を顕微鏡の照射光学系の入口部分に光学的に接続してなる、レーザ顕微鏡。
【請求項2】
透過する波長の切り替えと平均強度の変調が可能な光変調手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1記載のレーザ顕微鏡。
【請求項3】
前記複数のレーザ光のうちの少なくとも一つは前記中空コアフォトニック結晶ファイバのゼロ分散波長付近であることを特徴とする、請求項1記載のレーザ顕微鏡。
【請求項4】
前記分散手段が、前記複数のレーザ光のうちの一部について、前記中空コアフォトニック結晶ファイバ中での群速度分散量を打ち消すような分散補償を付与することを特徴とする、請求項1または3に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項5】
前記中空コアフォトニック結晶ファイバの、前記超短パルスレーザ光を伝播させるコアが楕円形状であることを特徴とする、請求項3記載のレーザ顕微鏡。
【請求項6】
前記中空コアフォトニクス結晶ファイバのコアは、気体を満たした中空体であることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載のレーザ顕微鏡。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載のレーザ顕微鏡を具備し、発振波長が異なる複数の超短パルスレーザ光源と、前記光源のそれぞれに対し前記波長分散手段を設けたことを特徴とするレーザ顕微鏡システム。
【請求項8】
請求項2に記載のレーザ顕微鏡のための伝達手段であって、複数の超短パルスレーザ光を合波状態で光接続する入射側の光接続部と、入射後の複数の超短パルスレーザ光の合波光路上に配置した光変調手段と、前記光変調手段により光変調された複数の超短パルスレーザ光を共通の中空コアを介して伝播するよう光入射端が配置された中空コアフォトニック結晶ファイバと、前記ファイバの光出射端部に配置され、顕微鏡本体に対し光接続するための出射側の光接続部とを有することを特徴とするレーザ光伝達手段。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−257589(P2011−257589A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131800(P2010−131800)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】