説明

レースウェイポンド型培養槽

【課題】培養コストが抑制でき、浅い水深においても十分量の二酸化炭素を培養液に溶解可能なレースウェイポンド型培養槽を提供する。
【解決手段】培養液Mが流れる培養路8において攪拌手段が設けられ、攪拌手段により培養液Mの攪拌を行うレースウェイポンド型培養槽であって、攪拌手段の上方に、かつ、攪拌手段及び培養液Mの液面を覆うカバー1が設けられ、カバー1により形成された空間に二酸化炭素が供給され、当該二酸化炭素が攪拌手段により培養液Mに溶解されるように構成されていることを特徴とするレースウェイポンド型培養槽を用いることにより、培養コストが抑制でき、浅い水深においても十分量の二酸化炭素を培養液に溶解可能なレースウェイポンド型培養槽。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレースウェイポンド型培養槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を抑制する観点から、植物が吸収する二酸化炭素量と当該植物を焼却した際に生じる二酸化炭素の発生量とが等量であるという考え方、即ち「カーボンニュートラル」との考え方が浸透しつつある。このため、バイオマス資源由来の原料から生産される、所謂バイオマス燃料(例えばトリグリセリド等の脂質、エタノール等のアルコール等)の利用が以前にも増して注目されている。
【0003】
バイオマス燃料の原料となるバイオマス資源としては、例えば大豆、トウモロコシ、パーム等が挙げられるが、これらの可食性植物を上記のバイオマス資源として利用する場合、食糧不足への懸念や耕作地を確保するための森林破壊等という課題が生じることがある。そこで、上記のバイオマス資源に代わるものとして、池、湖沼等に広く生息する、光合成を行う原生生物等の光合成微生物は、植物と同様の光合成能を有し、水と二酸化炭素とから脂質、炭水化物等を生合成し、細胞内に数十質量%蓄積することが知られている。そして、この生産量は植物に比べて高く、具体的には、脂質、炭水化物等の生産量が高いといわれるパームの単位面積当たりで10倍以上であるため、上記の課題を解決するために非常に有効な手段である。
【0004】
そこで、光合成微生物を人工的に培養するための培養方法として、例えば特許文献1には、レースウェイポンドを用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3524835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、レースウェイポンド型培養槽においては、レースウェイポンド型培養槽を構成する培養路を流れる培養液の攪拌手段として、パドル等が用いられる。しかしながら、光合成微生物を培養するレースウェイポンド型培養槽の場合、その水深は約10cm〜30cm程度と、通常の場合よりも浅いものとなる。その理由としては、培養路の底部に存在する光合成微生物に対しても太陽光を満遍なく照射させるためである。そして、このように十分な太陽光を全ての光合成微生物に照射することにより、十分な光合成を行わせることが可能となる。
【0007】
しかしながら、このような浅い水深を有する培養液においては、二酸化炭素の曝気水深を確保することができない。従って、このような浅い水深である培養液に対して十分な二酸化炭素を溶解させるために過剰量の二酸化炭素を培養液に接触させなければならず、培養コストが増加するという課題がある
【0008】
本発明は上記の課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、培養コストが抑制でき、浅い水深においても十分量の二酸化炭素を培養液に溶解可能なレースウェイポンド型培養槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、レースウェイポンド型培養槽において、攪拌手段上部にカバーを備え、当該カバー内部に二酸化炭素を供給することにより、培養コストが抑制でき、浅い水深においても十分量の二酸化炭素を培養液に溶解可能なレースウェイポンド型培養槽を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、培養液が流れる培養路において攪拌手段が設けられ、当該攪拌手段により培養液の攪拌を行うレースウェイポンド型培養槽であって、当該攪拌手段の上方に、かつ、当該攪拌手段及び当該培養液の液面を覆うカバーが設けられ、当該カバーにより形成された空間に二酸化炭素が供給され、当該二酸化炭素が当該攪拌手段により当該培養液に溶解されることを特徴とする、レースウェイポンド型培養槽に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、培養コストが抑制でき、浅い水深においても十分量の二酸化炭素を培養液に溶解可能なレースウェイポンド型培養槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽を模式的に表す斜視図である。
【図2】第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽に適用可能な攪拌手段の一具体例を模式的に表す図である。
【図3】第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽において、図2に示す攪拌手段を用い、カバーを取り外した様子を模式的に表す図である。
【図4】図2に示す攪拌手段を用いたレースウェイポンド型培養槽において、攪拌手段近傍を模式的に表す横断面図である。
【図5】図2に示す攪拌手段を用いたレースウェイポンド型培養槽において、攪拌手段近傍を模式的に表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本実施形態は以下の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0014】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽を模式的に表す斜視図である。図1に示すように、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rは、培養液Mが流れる培養路8において攪拌手段P(図1においては図示していない。具体的な構成は後述する。)が設けられ、攪拌手段Pにより培養液Mの攪拌を行うレースウェイポンド型培養槽であって、攪拌手段Pの上方に、かつ、攪拌手段P及び培養液Mの液面を覆うカバー1が設けられ、カバー1により形成された空間(即ち、カバー1内部)に二酸化炭素が供給され、二酸化炭素が攪拌手段Pにより培養液Mに溶解されるようになっている。なお、図1及び図3において、培養液M中に示している矢印は培養液Mの流れの向きを表し、支持材2の軸まわりに示している矢印は支持材2の回転方向を表している。
【0015】
二酸化炭素の具体的な供給方法として、図1においては、カバー1の上面に、パイプ、管等の二酸化炭素供給路4が接続されている。二酸化炭素供給路4はガス供給量調整バルブ5を介して二酸化炭素供給源3と接続され、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rはこのような構成を有することにより、カバー1の内部に二酸化炭素を供給することができるようになっている。
【0016】
なお、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rにおいて培養可能なものは、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されない。ただし、培養液Mに効率良く二酸化炭素が溶解されるという観点から、好ましくは二酸化炭素を利用して培養される生物、より好ましくは光合成生物、さらに好ましくは光合成微生物、よりさらに好ましくは藻類、特に好ましくはユーグレナである。
【0017】
ユーグレナは鞭毛虫の一群で、運動性のある藻類として有名なミドリムシを含む。大部分のユーグレナは葉緑体を有しており、光合成を行って独立栄養生活を行うが、捕食性のものや吸収栄養性のものもある。ユーグレナは動物学と植物学との双方に分類される属である。
【0018】
培養液Mの組成は、培養される生物の種類に応じて決定すればよい。例えば、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rを用いてユーグレナを培養する場合、培養液Mとしては、例えば、窒素源、リン源、ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液、例えば、改変Cramer−Myers培地((NHHPO 1.0g/L、KHPO 1.0g/L、MgSO・7HO 0.2g/L、CaCl・2HO 0.02g/L、Fe(SO・7HO 3mg/L、MnCl・4HO 1.8mg/L、CoSO・7HO 1.5mg/L、ZnSO・7HO 0.4mg/L、NaMoO・2HO 0.2mg/L、CuSO・5HO 0.02g/L、チアミン塩酸塩(ビタミンB) 0.1mg/L、シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NHHPOは、(NHSOやNHaqに変換することも可能である。
【0019】
また、培養液MのpHは好ましくは2以上、また、その上限は、好ましくは6以下、より好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
【0020】
カバー1は、攪拌手段P(具体的な構成、機能等については後述する。)の上方に、かつ、攪拌手段P及び培養液Mの液面を覆うように設けられているものである。カバー1の大きさは特に制限されないが、攪拌手段Pを完全に覆うことができるものとする。カバー1の下部が培養液Mの液面に接触した場合、カバー1が培養液Mの流れを受けることになる、換言するとカバー1が培養液Mの流れを阻害することになるが、本発明の効果を著しく損なわない程度の阻害であれば、このような接触がなされていてもよい。また、カバー1が攪拌手段Pと比べて大きすぎる場合(即ち、カバー1を設けることにより形成される空間が大きすぎる場合)、培養液Mに溶解されない二酸化炭素の量が過剰なものとなる可能性がある。
【0021】
カバー1の形状も特に制限されない。図1に示す第一実施形態においては四角形状(即ち、半正八角形状)としているが、半円柱形状等であってもよい。
【0022】
また、カバー1を構成する材料も特に制限されない。カバー1を構成する材料としては、例えば樹脂、金属等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。ただし、カバー1内部において培養液Mが攪拌され、培養液Mのミスト(飛沫)が生じる可能性が極めて高いことから、カバー1を構成する材料としては、培養液Mによって腐食されないものを用いることが特に好ましい。
【0023】
支持材2は後述する攪拌手段Pにおける平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7とが固定されるものである。支持材2を構成する材料等は特に制限されないが、カバー1と同様に培養液Mによって腐食されず、かつ、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7を確実に固定できるものを用いることが好ましい。
【0024】
また、支持材2の長さも特に制限されない。ただし、支持材2は、通常はギア、ベルト等を介して駆動手段(図示しない。)と接続される構成となっており、当該駆動手段によって支持材2を回転(即ち、攪拌手段Pを駆動)させることができるようになっている。そのため、ギアやベルトと接触させることができる程度に、支持材2が培養路8の外部に突き出す長さを有していることが好ましい。また、支持材2の太さも特に制限されず、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7を確実に固定できる程度の強度を有する太さにすればよい。
【0025】
二酸化炭素供給源3は、カバー1内部に二酸化炭素を供給するものである。図1に示す第一実施形態においては、二酸化炭素が充填されたガスボンベを用いている。ただし、二酸化炭素供給源3はガスボンベに何ら限定されるものではなく、例えば二酸化炭素を含む工場等からの排気ガスを用いてもよい。ただし、工場等からの排気ガスを二酸化炭素供給源3として用いる場合には、予め培養する例えば光合成微生物の成長及び培養を阻害する成分を除去したガスを用いることが好ましい。このような成分を除去する装置(例えば硫黄酸化物(SO)や窒素酸化物(NO)の除去装置等)は公知の任意のものを用いることができ、その設置場所も任意である。例えば、予め当該装置により除去したガスを二酸化炭素供給路4(後述する。)に流通させてもよいし、当該装置をカバー1の上部に設け、除去前の排気ガスを二酸化炭素供給路4に流通させて当該装置で当該成分を除去後、二酸化炭素をカバー1内部に供給する構成としてもよい。なお、培養する光合成微生物が例えば硫黄酸化物や窒素酸化物等に対して耐性があったり、浄化作用があったりするものであれば、硫黄酸化物や窒素酸化物等の除去は行わなくてもよい。
【0026】
二酸化炭素供給路4は、カバー1内部と二酸化炭素供給源3とを接続するものである。二酸化炭素供給路4の長さや構成材料は特に制限されないが、供給される二酸化炭素の損失をできるだけ抑制する観点から、可能な限り短いことが好ましい。また、構成材料は二酸化炭素によって劣化しないものが好ましく、特に、工場等からの排気ガスを二酸化炭素供給源3として用い、例えばSOやNOの除去装置をカバー1の上部に設ける場合、当該排気ガスに含まれる二酸化炭素以外の成分によっても劣化しない材料を用いることが好ましい。
【0027】
二酸化炭素供給路4の途中には、二酸化炭素供給路4を流れるガスの流量を調整するガス供給量調整バルブ5が設けられ、これにより、カバー1内部に供給される二酸化炭素の量を調整することができる。ガス供給量調整バルブ5は手動で操作されてもよく、自動で操作されてもよい。
【0028】
なお、供給する二酸化炭素の量は必ずしも一定である必要は無く、例えば時間や天候等に応じてその供給量を変動させるようにすることができる。具体的には、培養する光合成微生物の種類(活動状況)に応じて供給量を変動させてもよい。例えば、午前に光合成が活発であるならば午前に二酸化炭素の量を多く、午後に光合成が活発であるならば午後に二酸化炭素の量を多く、夜間に光合成が行われないならば夜間は二酸化炭素の供給を停止(培養槽全体の運転を停止)する等して、光合成微生物の活動状況に応じて二酸化炭素を供給する。このようにすることで、二酸化炭素の無駄な消費を抑制すること、換言すると、光合成微生物に取り込まれなかった二酸化炭素が大気中に無駄に放散されることを防止できる。ちなみに、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rは、このような光合成微生物の活動状況に応じて二酸化炭素を供給する機能を備えているものとする。
このような供給量の変動は手動でガス供給量調整バルブ5を操作して行ってもよいし、例えば上記の変動を行わせることができるプログラムが記録された装置(例えば時間に応じて供給量を変動させる場合にはタイマー等)とガス供給量調整バルブ5とを連動させて、上記の操作を自動で行わせてもよい。
【0029】
さらに、培養する光合成微生物の種類(活動パターン)に応じて供給量を変動させてもよい。例えば、培養する光合成微生物の活動が午後に特に活発になる場合、通常は光合成も午後に活発に行われるため、午後において二酸化炭素の供給量を増加させる等してもよい。
【0030】
カバー1内部に供給される二酸化炭素の量は特に制限されない。ただし、培養コストを抑制しつつ、かつ、効率良く培養液Mに二酸化炭素を溶解させる観点から、培養液Mの二酸化炭素の溶解量が培養液Mの飽和二酸化炭素濃度となるように、カバー1内部に二酸化炭素を供給することが好ましい。
【0031】
このような適切な量の二酸化炭素をカバー1内部に供給するために、例えばカバー1内部に二酸化炭素濃度測定器、培養液Mの溶存二酸化炭素濃度測定器等を設け、カバー1内部及び培養液M中の二酸化炭素濃度を測定することが好ましい。そして、測定値に基づいて二酸化炭素の供給量を変動させることにより、より適切な量の二酸化炭素をカバー1内部に供給することができる。
【0032】
また、培養液Mの流れを阻害しない程度にカバー1を培養液Mに接触させ、カバー1内部の圧力及び二酸化炭素濃度を測定しながら培養を行ってもよい。このようにすることで、例えば二酸化炭素が不足してカバー1内の圧力が下がったら二酸化炭素を供給し、カバー1内部の圧力が所定のものになったら、供給を止める制御を行うことができ、過剰な二酸化炭素量(即ち、外部に放散される二酸化炭素量)をより確実に減少させることができる。
【0033】
さらには、上記のように、本発明の効果を著しく損なわない程度にカバー1を培養液Mに接触させ、カバー1内部に二酸化炭素を供給して培養液Mに二酸化炭素を溶解させる際、培養液Mから放散される二酸化炭素量も考慮して、カバー1内部に供給する二酸化炭素量を制御してもよい。
【0034】
次に、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rに適用可能な攪拌手段Pの一具体例を、図2を参照しながら説明する。
【0035】
図2は、第一実施形態に係るレースウェイ培養装置Rに適用可能な攪拌手段Pの一具体例(以下、適宜、「第一実施形態に係る攪拌手段」と言う。)を模式的に表す図である。図2に示す第一実施形態に係る攪拌手段Pは、培養液Mの流れ方向に対して平行(即ち、同方向)若しくは略平行な方向の攪拌を行う平行方向攪拌手段6と、流れ方向に対して垂直若しくは略垂直な方向の攪拌を行う垂直方向攪拌手段7と、を備えている。そして、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7は、いずれも等間隔となるように支持材2に固定されている。また、第一実施形態に係る攪拌手段Pは、培養液Mを攪拌する機能に加えて、培養液Mの流れを作り出す機能(即ち、培養液Mの循環手段としての機能)も有している。
【0036】
図2に示すように、第一実施形態に係る攪拌手段Pにおいては、平行方向攪拌手段6として板状羽根を、垂直方向攪拌手段7として櫛状羽根を用いている。また、支持材2に固定される、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7の数は図2においてはいずれも4つずつとしているが、固定される各手段の数は4つに限定されるものではない。また、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7の数を異なるものにしてもよい。さらに、図2においては、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7が交互に支持材2に設けられているが、必ずしも交互に設けられる必要は無い。また、垂直方向攪拌手段7を構成する櫛部7a(後述する。)の数も特に制限されない。
【0037】
また、図2に示す平行方向攪拌手段6は、その端部(支持材2に固定されていない側)が折り曲げられて形成されている。図2に示すように、平行方向攪拌手段6の端部が折り曲げられた形状を有する板状羽根とし、さらに折り曲げ角を鈍角とすることにより、カバー1内部の二酸化炭素を培養液M中により効率良く溶解させることができる。
【0038】
平行方向攪拌手段6の大きさ及び厚さ、並びに垂直方向攪拌手段7の長さ及び太さ等は特に制限されず、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7が、培養路8の底部に接触しない程度の大きさ及び長さにし、各手段の強度が保てる程度の厚さ及び太さにすればよい。
【0039】
図3は、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rにおいて攪拌手段Pとして図2に示す攪拌手段を用い、カバー1を取り外した様子を模式的に表す図である。図3に示すように、攪拌手段Pが駆動することにより、培養路8内で浅い水深の培養液Mに対して、培養コストを抑制しつつも十分量の二酸化炭素を溶解させることができる。また、培養液Mの流れを作り出すこともできる。
【0040】
ここで、図2に示す攪拌手段Pを構成する、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7について、図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、図2に示す攪拌手段Pを用いたレースウェイポンド型培養槽Rにおいて、攪拌手段P近傍を模式的に表す横断面図、図5は、図2に示す攪拌手段Pを用いたレースウェイポンド型培養槽Rにおいて、攪拌手段P近傍を模式的に表す斜視図である。なお、図5においては、説明の簡略化のために、垂直方向攪拌手段7を構成する一部の櫛部7aのみを示している。
【0041】
なお、図4において、白抜きの矢印がカバー1内部における二酸化炭素の流れる向きを表し、培養液M中に示されている円形状のものが、培養液M中に溶解している二酸化炭素を表している。また、黒い実線矢印は各手段(及び支持材2)が回転する方向を表している。
【0042】
図4に示すように、カバー1内部に供給された二酸化炭素はカバー1内部に一様に拡散するが、平行方向攪拌手段6の回転により二酸化炭素の流れる向きがほぼ一方向となり(図4において、支持材2を中心として反時計回り方向。)、拡散した二酸化炭素の大部分が、平行方向攪拌手段6とともに培養液Mに強制的に接触させられる(即ち、二酸化炭素が培養液Mに押し込められる)ことになる。そして、平行方向攪拌手段6により培養液Mに強制的に接触させられた二酸化炭素は培養液Mに溶解し、溶解し切れなかった二酸化炭素は培養液Mとカバー1との間に存在する隙間を通って外部に放出される。
なお、図4に示す実施形態においては、カバー1の端部と培養液Mとは接触していないが、上記のようにカバー1の端部と培養液Mとを接触させて、二酸化炭素を外部に放出させない構成としてもよい。
【0043】
また、平行方向攪拌手段6及び垂直方向攪拌手段7によって培養液Mの攪拌が繰り返され、カバー1内部には培養液Mのミスト(しぶき)が飛び散っている状態であり、二酸化炭素で充満した空間に当該飛沫が曝露されていることになる。従って、当該飛沫は、周辺の雰囲気である二酸化炭素を溶解しやすく、このようにして二酸化炭素を溶解した飛沫は、再び培養液Mとなって培養路8を流れることになる。
【0044】
以上のように、攪拌手段Pの上方に、かつ、攪拌手段P及び培養液Mの液面を覆うカバー1が設けられ、カバー1内部に二酸化炭素が供給されることにより、効率よく培養液Mに二酸化炭素を溶解させることができる。なお、攪拌手段Pが平行方向攪拌手段6又は垂直方向攪拌手段7を有さず、攪拌手段Pが例えばスクリュー等であっても、例えば水流によって生じる気流の乱れや発生する飛沫等によって、上記の効果と同様の効果を奏する。
【0045】
また、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rにおいては、攪拌手段として図2に示す攪拌手段Pを用いているため、以下のような利点も得られる。
【0046】
レースウェイポンド型培養槽を用いて光合成微生物を培養する場合、通常は培養液の水深が浅いため培養液の移動が二次元方向(即ち、水深方向に垂直な方向)のみになる傾向があり、水深方向の培養液の移動が起き難いという課題がある。従って、培養路の底部に存在する光合成微生物まで太陽光が到達しうる程度の浅さに培養液の水深を調整しても依然としてその培養条件が不十分である可能性が高い。そのため、十分に太陽光が照射される培養液液面付近に存在する光合成微生物層と、太陽光が照射されにくい培養路底部に存在する光合成微生物層と、の二層に分かれやすくなり、上層(液面に近い層)と下層(培養路の底部に近い層)との混合が行われにくく、一様な培養が行われにくいという課題がある。
【0047】
しかしながら、第一実施形態に係る攪拌手段Pを用いることにより、平行方向攪拌手段6は、上記の二酸化炭素溶解の作用に加えて、培養液Mの流れを形成する作用も有する。さらに、培養路8の底部から培養液Mを掻き揚げる(即ち、底部から培養液Mを掬い上げる)ように平行方向攪拌手段6が駆動するため、培養路8における培養液Mの上下方向(図4における紙面上下方向)の攪拌を行うこともできる。
【0048】
さらに、図5に示すように、垂直方向攪拌手段7が駆動することにより、垂直方向攪拌手段7を構成する櫛部7aの移動後には、図5において黒い細実線矢印で示すように横方向(即ち、培養液Mの流れ方向に対して垂直若しくは略垂直。厳密には垂直ではないが、説明を簡略化するために「垂直」と呼称している。)の培養液Mの流れが生じる。従って、第一実施形態に係る攪拌手段Pを用いることにより、平行方向攪拌手段6による培養液Mの上下方向の攪拌のみならず、培養液Mの流れ方向に対して垂直な方向の攪拌を行うこともできる。
【0049】
従って、第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rにおいて攪拌手段として図2に示す攪拌手段Pを用いることにより、培養液Mの流れ方向に対して平行(即ち、流れ方向と同方向)及び垂直、さらには培養液Mの上下方向の攪拌を、一体的に形成された一つの攪拌手段によって行うことができ、上記の培養液Mに対する二酸化炭素溶解の促進に加え、均一な培養液Mの攪拌をも行うことが可能となる。
【0050】
<まとめ>
以上、本実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rを、攪拌手段として図2に示す攪拌手段Pを用いて具体的に説明したが、本実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rに適用可能な攪拌手段は、図2に示す攪拌手段Pに限定されるものではない。即ち、本実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rに設けられる攪拌手段としては、公知の任意の攪拌手段を用いることができる。また、レースウェイポンド型培養槽Rに設けられる攪拌手段の数も任意であり、設ける攪拌手段の数に応じてカバー1をそれぞれ設ければよい。
【0051】
さらに、上記のように、第一実施形態に係る攪拌手段Pは培養液Mの流れを作り出す機能(即ち、培養液Mの循環手段としての機能)も有しているが、攪拌手段は循環手段としての機能を有する必要はなく、循環手段としての機能を有さない攪拌手段と、循環手段とを組み合わせて本実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rとしてもよい。
【0052】
また、図1に示す第一実施形態に係るレースウェイポンド型培養槽Rにおいては、二酸化炭素供給源3からカバー1内部に直接二酸化炭素が供給される構成としているが、例えば、カバー1外部において、別の溶解手段(図示しない。)によって二酸化炭素を培養液Mに溶解させ、当該二酸化炭素が溶解した培養液Mがカバー1の下部を通過する際にカバー1内部に二酸化炭素が放散されることにより、二酸化炭素がカバー1内部に供給される構成としてもよい。このような構成とすることにより、カバー1内部に放散した二酸化炭素を再び培養液Mに溶解させることができ、外部へ放散する二酸化炭素量を減少させることができ、ひいては培養コストを削減できる。
【0053】
その他にも、本発明の要旨を損なわない限り、上記の内容を適宜変更して実施可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0054】
1 カバー
2 支持材
3 二酸化炭素供給源
4 二酸化炭素供給路
5 ガス供給量調整バルブ
6 平行方向攪拌手段
7 垂直方向攪拌手段
7a 櫛部
8 培養路
M 培養液
P 攪拌手段
R レースウェイポンド型培養槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液が流れる培養路において攪拌手段が設けられ、該攪拌手段により培養液の攪拌を行うレースウェイポンド型培養槽であって、
該攪拌手段の上方に、かつ、該攪拌手段及び該培養液の液面を覆うカバーが設けられ、
該カバーにより形成された空間に二酸化炭素が供給され、該二酸化炭素が該攪拌手段により該培養液に溶解されるように構成されている
ことを特徴とする、レースウェイポンド型培養槽。
【請求項2】
該攪拌手段が、
該培養液の流れ方向に対して平行若しくは略平行な方向の攪拌を行う平行方向攪拌手段と、
該流れ方向に対して垂直若しくは略垂直な方向の攪拌を行う垂直方向攪拌手段と、
該平行方向攪拌手段及び該垂直方向攪拌手段を固定する支持材と、
を少なくとも備えている
ことを特徴とする、請求項1に記載のレースウェイポンド型培養槽。
【請求項3】
該平行方向攪拌手段が板状羽根であり、
該垂直方向攪拌手段が櫛状羽根である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のレースウェイポンド型培養槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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