説明

レーダシステム

【課題】システムを構成する各部を巨大化させることなく、洋上から飛来する目標をより遠距離において探知するレーダシステムを得る。
【解決手段】レーダ中枢局からの見通し範囲外の目標を探知できる洋上に、複数のレーダ送信局を展開・配置し、洋上に長距離にわたってカーテン状になったレーダ波の照射領域を形成する。また、上空には複数のレーダ受信局を滞空させ、さらにこれらレーダ受信局とデータリンクで結合されたレーダ中枢局では、各レーダ送信局及びレーダ受信局の位置を継続的に特定し把握しておく。そして、目標が飛来し、洋上に形成されたカーテン状のレーダ波照射領域を通過すると、滞空しているレーダ受信局で受信された目標からの反射波が、受信データとしてデータリンク経由でレーダ中枢局に送られ、レーダ中枢局ではリアルタイム性を失うことなく目標を検出し、その目標情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダシステムに係り、特に洋上から飛来する目標を遠距離で捕捉するレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、従来のレーダ装置においては、例えば、回転する送受共用の空中線からパルス状のレーダ波を送信してその反射波を受信し、この受信した反射波からレーダ覆域内に存在する目標に対する距離や方位等の目標情報を取得している。このようなレーダ装置を用いて、例えば洋上から飛来する目標等を極力遠方において探知しようとする場合、レーダ送信出力の高出力化や空中線の開口を広くするなどの方策によって探知性能を向上させ対応している。
【0003】
しかし、レーダ送信出力の高出力化にあたっては、近年では特に物性的に安定した半導体を材料にした高周波素子が用いられるようになったが、その効率面では更なる改善が必要であり、加えて高出力化に伴う発熱とその冷却や、供給する電源容量の増大へも対処していかなければならない。また、空中線の開口の大型化は、レーダ能力向上の方策として最も有効な手法のひとつであり、大型の空中線も実用化されつつあるが、大型であるが故、製造の困難さ、維持整備性、施設等に対する負担など、問題点も多い。
【0004】
さらに、目標等の探知を中断することなく常続的に実施する場合には、設置施設等の利便性や運用コスト等も考慮に入れて、レーダ装置は、例えば海岸線付近の陸上に設置される。しかし、この場合には、レーダ装置の設置場所の条件によっては見通しによる制約があり、図7に例示したように、特に低空で飛来する目標については、遠方で探知することが困難となる。
【0005】
これに対して、レーダ波の送受信が可能な無人機等による無人レーダサブシステムを複数同時に稼働させて目標を観測する事例が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、このような手法により、目標等の探知を中断することなく長期間にわたり継続稼働させるには、運用・維持コストの大幅な増大が見込まれる。
【特許文献1】特開平5−341042号公報(第4ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上説明したように、洋上から飛来する目標等を極力遠方において探知するレーダ装置では、送信電力の高出力化や空中線の大型化等が避けられないが、これらは必ずしも受け入れ可能な規模を超えてしまう場合があった。また、地上設置した場合には見通し距離による制約もあり、さらに、無人機等による場合には、常続的な運用に対して困難を伴っていた。
【0007】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、システムを構成する各部を巨大化させることなく、洋上から飛来する目標をより遠距離において探知するレーダシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のレーダシステムは、複数のレーダ送信局、複数のレーダ受信局、及びこれらレーダ受信局とデータリンクで結合されたレーダ中枢局とを相互に離隔して配置し目標を探知するレーダシステムであって、前記レーダ送信局は、陸地から離間して配置された洋上の浮遊体をプラットフォームにして、レーダ波を対象の覆域に向けて送信するレーダ波送信部と、電力を供給する電源部とを備え、前記レーダ受信局は、滞空体をプラットフォームにして、前記レーダ送信局からのレーダ波及びこのレーダ波の目標からの反射波を受信するレーダ波受信部と、自位置データを取得する自位置取得部と、前記レーダ波受信部からの受信データ及び自位置取得部からの自位置データを前記レーダ中枢局に送るデータリンク部と、電力を供給する電源部とを備え、前記レーダ中枢局は、前記陸地に設置され、前記レーダ受信局からの受信データ及び自位置情報を受けとるデータリンク部と、これら受けとったデータに基づき前記目標を検出し目標情報を取得するデータ処理部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記レーダ送信局は、前記レーダ中枢局からの見通し範囲外の前記洋上の領域の目標を探知できる距離分だけ、前記陸地から離間して配置したことを特徴とする。
【0010】
また、前記複数のレーダ送信局からのレーダ波のそれぞれが、異なる複数の前記レーダ受信局で同時に受信可能となるよう、前記複数のレーダ送信局及び前記複数のレーダ受信局を相互に離隔して配置したことを特徴とする。
【0011】
また、前記レーダ受信局は、所定の方向にマルチビームを形成して前記レーダ波及び反射波を受信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーダ波の距離減衰による信号強度の低下の影響を低減しているので、送信電力の高出力化や空中線の大型化等に対する要求が低減され、システムを構成する各部を巨大化させることなく、洋上から飛来する目標をより遠距離において探知できるコンパクトなレーダシステムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係るレーダシステムを実施するための最良の形態について、図1乃至図6を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明に係るレーダシステムの一実施例の構成を示す概念図である。図1に例示したように、このレーダシステム1は、複数m台のレーダ送信局2(#1〜#m)、複数n台のレーダ受信局3(#1〜#n)、及びレーダ中枢局4から構成されている。レーダ送信局2(#1〜#m)のそれぞれは、本実施例においては、後述するレーダ中枢局4からの見通し範囲外となる領域の目標5を探知できる距離分だけ、レーダ中枢局4の設置された陸地から離間した洋上に、浮遊体をプラットフォームにして互いに距離をおいて配置されており、それぞれに、例えば自局から半円球状の上空に向けてレーダ波を送信する。また、各レーダ送信局2(#1〜#m)相互間の距離は、それぞれの送信したレーダ波によって、洋上において長距離にわたるカーテン状の照射領域を形成するように展開された距離に配置するものとしている。
【0015】
レーダ受信局3(#1〜#n)のそれぞれは、レーダ送信局2(#1〜#m)からのレーダ波、及びこれらレーダ波の目標5からの反射波を受信できる上空に滞留させるように、滞空体をプラットフォームにして互いに距離をおいて配置されている。そして、これらレーダ波及び反射波を受信するとともに自位置情報を取得し、データリンクを経由してこれら取得した受信データ及び自位置データをレーダ中枢局4に送信する。本実施例においては、マルチビームを形成してレーダ波、及び目標からの反射波を受信するものとしている。また、上記したレーダ送信局2(#1〜#m)及びレーダ受信局3(#1〜#n)の相互の配置については、レーダ送信局2(#1〜#m)から送信されるそれぞれのレーダ波が、上空に滞留しているレーダ受信局3(#1〜#n)の中の異なる複数局で同時に受信可能となるように、互いに距離をおいて配置するものとしている。
【0016】
レーダ中枢局4は、例えば海岸線付近の陸上等に設置される。また、上空に滞留している各レーダ受信局3(#1〜#n)との間でデータリンクを有し、各レーダ受信局3(#1〜#n)から送られてくる受信データ及び自位置データに基づいて目標を検出し目標情報を取得する。加えて、各レーダ受信局3(#1〜#n)に対して、受信ビーム形成等の制御を含む動作制御のための制御情報を送出する。
【0017】
次に、図2乃至図6を参照して、上述したレーダ送信局2、レーダ受信局3、及びレーダ中枢局4のそれぞれの構成について説明する。
【0018】
まず、レーダ送信局2の構成について説明する。図2は、レーダ送信局2の外観の一例を示す概念図である。図2に例示したように、このレーダ送信局2は、浮遊体20、筐体21、及びレドーム22を備えている。浮遊体20は、このレーダ送信局2のプラットフォームであり、洋上において沈降することなく浮遊する構造体である。この浮遊体20上には筐体21が設けられており、その内部には後述の構成機器を含む各種の機器等(図示せず)が収納されている。さらにこの筐体21の上方を覆うようにレドーム22が設けられており、その内部には空中線部等(図示せず)が収納され、これらを保護している。
【0019】
また、図3は、レーダ送信局2の機器構成の一例を示すブロック図である。図3に例示したように、このレーダ送信局2は、空中線部23、送信部24、制御部25、及び電源部26を有している。空中線部23は、レドーム22内に収納され、送信部24で生成されたレーダ波をレドーム22を通して空間に放射する。本実施例においては、この空中線部23は、例えばレドーム22を通した半円球状の上空全体にレーダ波を放射する指向特性を有するものとしているが、その指向特性については、運用にあわせて種々の形態を採用できる。送信部24は、周波数や電力等、所定の信号パラメータを有するレーダ波を生成し、空中線部23に送出する。制御部25は、送信部24に対するレーダ波の生成制御を含む送信局2全体の動作を監視し制御する。電源部26は、例えば燃料電池等によって構成され、長期にわたって中断することなく、送信部24や制御部25を含む送信局2内の各部に必要な電力を連続して供給する。
【0020】
次に、レーダ受信局3の構成について説明する。図4は、レーダ受信局3の外観の一例を示す概念図である。図4に例示したように、このレーダ受信局3は、滞空体30、筐体31、航行推進部32、レーダ空中線部33、及びデータリンク空中線部34を備えている。滞空体30は、このレーダ受信局3のプラットフォームであり、気球等を含んだ空中に滞留可能な構造体である。この滞空体30の下側には筐体31が設けられている。そして、その内部には後述する構成機器を含む各種の機器等(図示せず)が収納されるとともに、外部にはこのレーダ受信局3を所定の空間位置に進出・滞留させるために滞空体30を航行させる航行推進部32が設けられている。また、滞空体30の下側側面には、後述するが、複数のアンテナ素子を配列したレーダ空中線部33、及びデータリンク空中線部36が配置されている。
【0021】
また、図5は、レーダ受信局3の機器構成の一例を示すブロック図である。図5に例示したように、このレーダ受信局3は、レーダ空中線部33、受信部34、自位置取得部35、データリンク空中線部36、データリンク部37、制御部38、及び電源部39を有している。レーダ空中線部33は、滞空体30の下側側面に配置され、レーダ送信局2から放射されたレーダ波、及びこれらレーダ波の目標5からの反射波を受信し、受信部34に送出する。本実施例においては、目標を常続的かつ広域にわたって探知できるよう、このレーダ空中線部33は、複数のアンテナ素子を配列した構成として、例えばDBF(Digital Beam Foaming)手法等を用い、所定の方向に受信用のマルチビームを形成している。また、マルチビーム形成に必要なビーム制御情報は、データリンクを経由して、後述のレーダ中枢局4から提供される。受信部34は、レーダ空中線部33で受信したレーダ波及び目標からの反射波を受信処理し、デジタルデータ等、データリンク伝送用の受信データに変換する。
【0022】
自位置取得部35は、例えばGPS(Global Positioning System)信号等を受信することによって自律的に自己位置を取得し、これを自位置データとして送出する。データリンク空中線部36は、滞空体の下側側面に配置され、レーダ中枢局4との間でデータリンク信号を授受する。データリンク部37は、受信部34からの受信データ及び自位置取得部35からの自位置データを制御部38経由で受けとって編集し、データリンク信号として所定の伝送手順でデータリンク空中線部36に送出するとともに、レーダ中枢局4から送られてきたデータリンク信号からビーム制御情報等を含む各種制御情報を抽出し、制御部38に送出する。制御部38は、データリンクを経由してレーダ中枢局4と授受する上記した各種データ及び制御情報の流れを制御するとともに、レーダ中枢局4からのビーム制御情報に基づく制御を含め、レーダ送信局3全体の動作を制御する。電源部39は、例えば太陽電池等を含み構成され、長期にわたって中断することなく、受信局3内の各部に必要な電力を連続して供給する。
【0023】
次に、レーダ中枢局4の構成について説明する。図6は、レーダ中枢局4の機器構成の一例を示すブロック図である。図6に例示したように、このレーダ中枢局4は、データリンク空中線部41、データリンク部42、目標情報処理部43、操作表示部44、及び制御部45を備えている。データリンク空中線部41は、滞空するすべてのレーダ受信局3(#1〜#n)との間でデータリンク信号を授受する。データリンク部42は、各レーダ受信局3から送られてくるデータリンク信号から、そのレーダ受信局での受信データ及び自位置データを抽出し目標情報処理部43に送出するとともに、制御部45から各レーダ受信局3に対するビーム制御情報等を含む各種制御情報を受けとって編集し、所定の伝送手順でデータリンク空中線部41に送出する。
【0024】
目標情報処理部43は、各レーダ受信局3(#1〜#n)からデータリンクを経由して送られてきたそれぞれの受信データ及び自位置データに基づいて目標を検出するとともに、その位置等の目標情報を取得する。目標を検出するには、例えば、各レーダ受信局からの受信データに含まれる目標からの反射波をDBF手法等によるマルチビーム処理後にそれぞれのビーム内での受信レベルに基づいて検出する手法等が適用できる。さらに、その距離情報もあわせて取得することができる。また、目標情報として、特にその位置情報を取得するには、レーダ波を送信したレーダ送信局2の位置情報、及び反射波を受信したレーダ受信局3の位置情報を必要とする。まず、レーダ送信局2の位置情報の取得にあたっては、ひとつのレーダ送信局2からのレーダ波は、上空に滞留している複数の異なるレーダ受信局3で同時に受信可能であるので、目標情報処理部43では、同一のレーダ送信局2からのレーダ波を同時に受信した複数のレーダ受信局3からの受信データに基づき、例えば各レーダ受信局3からの距離を算出しそれらの交点をそのレーダ送信局2の位置とする手法等を適用できる。また、各レーダ受信局3の位置情報については、それぞれのレーダ受信局3からデータリンク経由で送られてくる自位置データがこれに該当する。そして、これら目標の検出結果、ならびにレーダ送信局2及びレーダ受信局3の位置情報等に基づき目標の位置情報を取得するには、例えば、特許文献「特許第3041278号公報」や、「特許第3277194号公報」等に開示された手法を適用することができる。
【0025】
操作表示部44は、目標情報処理部43で取得した目標情報等を含む本レーダシステム1内の各種の情報を表示するとともに、操作員等による本レーダシステム1に対する各種の指示操作を受けつけ、各部に転送する。制御部45は、操作・表示部44で受けつけた操作員等からの指示操作や本レーダシステム内各部の動作ステータス等に基づいて、レーダ受信局3に対するビーム制御等を含み、本レーダシステム1を制御する。
【0026】
次に、前述の図1乃至図6を参照して、上述のように構成された本実施例のレーダシステムの動作を説明する。まず、レーダ中枢局4からの見通し範囲外の目標を探知できる距離分だけ、レーダ中枢局4の設置された陸地から離間した洋上に、複数のレーダ送信局2(#1〜#m)が互いに距離をおき展開・配置される。各レーダ送信局2(#1〜#m)は、それぞれに上空に向けてレーダ波を送信するとともに、これら送信された複数のレーダ波により、洋上には長距離にわたってカーテン状になったレーダ波の照射領域が形成される。また、各レーダ送信局2(#1〜#m)は、自局に必要な電力を供給可能な電源部26を有しており、洋上に長期間滞留してレーダ波の送信動作を継続することができる。
【0027】
一方、上空には複数のレーダ受信局3(#1〜#n)が配置される。各レーダ受信局3(#1〜#n)は、航行推進部32を有しており、それぞれに所定の位置まで進出して滞空する。その滞空位置については、それぞれには、レーダ送信局2(#1〜#m)からのレーダ波、及びこれらレーダ波により形成されたカーテン状のレーダ波の照射領域を通過する目標からの反射波を受信できる上空位置であるとともに、相互には、各レーダ送信局2(#1〜#m)の位置を特定できるように、各レーダ送信局2(#1〜#m)からのレーダ波が、複数の異なるレーダ受信局3(#1〜#n)で同時に受信可能となるように互いに距離をおいて配置される。そして、それぞれに広範囲の目標を探知できるようにマルチビームを形成して受信データを取得するとともに、自位置データも取得し、データリンクを経由してこれら取得したデータをレーダ中枢局4に送出する。また、各レーダ受信局3(#1〜#n)は、自局に必要な電力を供給可能な電源部39を有しており、航行推進部32により所定の上空位置に滞留して上記したレーダ受信局としての動作を長時間継続することができる。
【0028】
レーダ中枢局4は、これら各レーダ受信局3(#1〜#n)からデータリンク経由で送られてくる受信データ及び自位置データを受けとって、各レーダ送信局2(#1〜#m)及びレーダ受信局3(#1〜#n)の位置を継続的に特定し把握するとともに、受信データに基づき目標を検出し、その目標情報を取得する。本レーダシステム1の動作開始直後は、まず、各レーダ受信局3(#1〜#n)からの自位置データに基づいて、各レーダ受信局3(#1〜#n)の位置が特定されるとともに、各レーダ受信局3(#1〜#n)からの受信データに基づいて各レーダ送信局2(#1〜#m)の位置も特定され、さらにこれらは、レーダ中枢局4内で継続して把握される。以上のようにして、複数のレーダ送信局2(#1〜#m)、及びレーダ受信局3(#1〜#n)が配置されてそれぞれに送信動作及び受信動作を開始し、レーダ中枢局4ではこれら各局の位置が特定されるとともに、洋上にはカーテン状のレーダ波照射領域が形成される。
【0029】
そして、このようにしてレーダシステム1が動作を継続している中で、図1に例示したように目標5が飛来し、洋上に形成されたカーテン状のレーダ波照射領域を通過すると、この時の反射波が滞空している1局以上のレーダ受信局3で受信される。ここで、このカーテン状のレーダ波照射領域は、レーダ中枢局4から見通し範囲外となる洋上に長距離にわたり形成され、またその反射波は上空に滞留している受信局3で受信されるので、飛来する目標5に対しては、低空での飛来を含め、より接近した距離でこの目標5を捕捉することになる。このため、例えばレーダ中枢局4が設置された陸地からレーダ波を送受信する場合等と比べて、レーダ波の距離減衰による影響を大幅に低減できるので、各レーダ送信局2は大電力での送信を必要とせず、また、各レーダ受信局3も、距離減衰を補償するための大型化した空中線を必ずしも必要としない。また、各レーダ受信局3は、マルチビームを形成して目標からの反射波を捕捉しており、洋上に長距離にわたって形成されたカーテン状のレーダ波照射領域と相俟って、低空を含む広域を探知できる。
【0030】
次いで、それぞれのレーダ受信局3(#1〜#n)で受信された目標5からの反射波は、受信データとして編集され、データリンクを経由してレーダ中枢局4に送出される。レーダ中枢局4では、目標情報処理部43においてこれら受信データに対して目標検出のための各種の処理を実行し、その検出結果、ならびに継続して把握している各レーダ送信局2(#1〜#m)及び各レーダ受信局3(#1〜#n)の位置に基づいて、目標5の位置を含む目標情報を取得する。ここでは、各レーダ受信局3(#1〜#n)からの受信データは、データリンクを経由してリアルタイムに送られてきており、レーダ中枢局4から遠距離の洋上に配置したレーダ送信局2(#1〜#m)及びレーダ受信局3(#1〜#n)での探知結果を、リアルタイム性を失うことなく処理して目標情報を取得している。そして、その結果はレーダ中枢局4内の操作・表示部44に表示される。
【0031】
以上説明したように、本実施例においては、レーダ中枢局からの見通し範囲外の目標を探知できる距離分だけ、レーダ中枢局の設置された陸地から離間した洋上に、複数のレーダ送信局を互いに距離をおき展開・配置し、洋上に長距離にわたってカーテン状になったレーダ波の照射領域を形成している。また、上空には複数のレーダ受信局を滞空させており、さらにこれらレーダ受信局とデータリンクで結合されたレーダ中枢局では、各レーダ送信局及びレーダ受信局の位置を継続的に特定し把握している。そして、目標が飛来し、洋上に形成されたカーテン状のレーダ波照射領域を通過すると、滞空しているレーダ受信局で受信された目標からの反射波が、受信データとしてデータリンク経由でレーダ中枢局に送られ、レーダ中枢局ではリアルタイム性を失うことなく目標を検出し、その目標情報を取得している。これにより、目標をより接近した距離で捕捉することになり、陸地からレーダ波を送受信する場合等と比べて、レーダ波の距離減衰による影響を大幅に低減できるので、各レーダ送信局は大電力での送信を必要とせず、また、各レーダ受信局も大型化した空中線を必要としない。従って、システムを構成する各部を巨大化させることなく、洋上から飛来する目標をより遠距離において探知するコンパクトなレーダシステムを得ることができる。
【0032】
また、カーテン状のレーダ波照射領域は、レーダ中枢局から見通し範囲外となる目標を探知できる遠距離に長距離にわたって形成されるとともに、各レーダ受信局はマルチビームを形成して目標からの反射波を捕捉しているので、レーダ中枢局から遠距離の低空を含む広域の目標を探知することができる。さらに、各レーダ受信局及び各レーダ送信局は、それぞれ自局に必要な電力を自局内で供給することができるので、運用・維持コストを大幅に増大させることなく、長期間にわたって常続的に稼働させることができる。
【0033】
なお、本発明は、上記した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るレーダシステムの一実施例の構成を示す概念図。
【図2】レーダ送信局2の外観の一例を示す概念図。
【図3】レーダ送信局2の機器構成の一例を示すブロック図。
【図4】レーダ受信局3の外観の一例を示す概念図。
【図5】レーダ受信局3の機器構成の一例を示すブロック図。
【図6】レーダ中枢局4の機器構成の一例を示すブロック図。
【図7】地上設置位置からの目標の見通し範囲を説明するための説明図。
【符号の説明】
【0035】
1 レーダシステム
2 レーダ送信局
3 レーダ受信局
4 レーダ中枢局
5 目標
20 浮遊体
21、31 筐体
22 レドーム
23 空中線部
24 送信部
25、38、45 制御部
26、39 電源部
30 滞空体
32 航行推進部
33 レーダ空中線部
34 受信部
35 自位置取得部
36、41 データリンク空中線部
37、42 データリンク部
43 目標情報処理部
44 操作・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーダ送信局、複数のレーダ受信局、及びこれらレーダ受信局とデータリンクで結合されたレーダ中枢局とを相互に離隔して配置し目標を探知するレーダシステムであって、
前記レーダ送信局は、陸地から離間して配置された洋上の浮遊体をプラットフォームにして、レーダ波を対象の覆域に向けて送信するレーダ波送信部と、電力を供給する電源部とを備え、
前記レーダ受信局は、滞空体をプラットフォームにして、前記レーダ送信局からのレーダ波及びこのレーダ波の目標からの反射波を受信するレーダ波受信部と、自位置データを取得する自位置取得部と、前記レーダ波受信部からの受信データ及び自位置取得部からの自位置データを前記レーダ中枢局に送るデータリンク部と、電力を供給する電源部とを備え、
前記レーダ中枢局は、前記陸地に設置され、前記レーダ受信局からの受信データ及び自位置情報を受けとるデータリンク部と、これら受けとったデータに基づき前記目標を検出し目標情報を取得するデータ処理部とを備えたことを特徴とするレーダシステム。
【請求項2】
前記レーダ送信局は、前記レーダ中枢局からの見通し範囲外の前記洋上の領域の目標を探知できる距離分だけ、前記陸地から離間して配置したことを特徴とする請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記複数のレーダ送信局からのレーダ波のそれぞれが、異なる複数の前記レーダ受信局で同時に受信可能となるよう、前記複数のレーダ送信局及び前記複数のレーダ受信局を相互に離隔して配置したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記レーダ受信局は、所定の方向にマルチビームを形成して前記レーダ波及び反射波を受信することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のレーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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