説明

レーダークロスセクション(RCS)測定システム

【課題】 従来のRCS測定では、遠方界で測定するか、コンパクトレンジで測定するかのどちらかの方法しかなかった。遠方界で測定する方法では、遠方で測定しなければならない。また、コンパクトレンジで測定する方法では、モノスタティックだけの測定に限られてしまうという問題があった。遠方界でなく、近傍界において、しかもモノスタティックだけでなくバイスタティックのRCSを測定したい。
【解決手段】 回転する試料に平面波を照射し、近傍界においてプローブアンテナで試料からの反射波を受信し、それをアレイファクタを用いて近傍界から遠方界に変換してRCSを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
レーダークロスセクションを測定する際、近傍界で測定し、遠方界に変換する測定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、レーダークロスセクションを測定する際、遠方界で測定する方法とコンパクトレンジで測定する方法がある。遠方界で測定すると測定距離が長いという欠点がある。
λ:波長、L:試料の幅とすると測定距離は
2L/λ以上であり、たとえば10GHzで試料の幅が10mだと、6.6km以上遠くから測定しなければならない。また、コンパクトレンジの場合、距離は20m程度という近距離でよいが、モノスタティックの測定だけという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
なし
【非特許文献】
【0004】
なし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
背景技術で述べたようにレーダークロスセクションを測定する際、遠方界で測定する方法では、遠方で測定しなければならない。また、コンパクトレンジで測定する方法では、モノスタティックだけの測定に限られてしまう。遠方からではなく、また、モノスタティックでもバイスタティックでもレーダークロスセクション(RCS)を測定したい、という要望を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
試料を回転させる。この試料に電磁波の平面波を照射する。試料から反射してきた電磁波を1点で受信し、角度ごとの振幅と位相を入手する。アレイファクタ、ArrayFactor(AF)の考えを用いた計算式と、測定した振幅、位相などからレーダークロスセクションを計算する。
【発明の効果】
【0007】
試料を1回、回転するだけで、近傍においてモノスタティック、バイスタティックなど希望するレーダークロスセクションが求められる。なお、照射する平面波からの角度を変えた複数のアンテナを上下に移動させながら、試料を回転し、しかも周波数を変えると各種のレーダークロスセクションを一度の回転で入手できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の全体構成の一例。なお、図1の下の図は全体構成を上から見た図。
【図2】レーダークロスセクションを測定する対象となる試料。
【図3】反射波を受信するプローブアンテナの位置と、モノスタティック、バイスタティックなどレーダークロスセクションの内容を示す図。
【図4】試料を回転すると、同一素子が円形リングアレイとして表現できる。この座標を示す。
【図5】図3で示した各種位置のプローブアンテナで受信し、それを遠方界に変換したレーダークロスセクション。なお、プローブアンテナで反射波を受信するのではなく、プローブアンテナから電磁波を送信してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1、図2、図3に示す構成にベクトルネットワークアナライザ及びプログラムの入ったウインドウズコンピュータからの指令で試料を回転させ、また、プローブアンテナを上下に移動させながら、一次放射器から電波を放射し、反射波をプローブで受け、その振幅と位相を記録し、コンピュータでアレイファクタを用いた近傍界遠方界変換を行ってレーダークロスセクションを得る。
【実施例】
【0010】
図1に示す構成に基づき、ベクトルネットワークアナライザのSパラメータ出入り口のポート1を一次ホーンアンテナ2に接続する。そして、ポート2をプローブアンテナに接続する。一方、アレイファクタを用いて近傍界遠方界変換するソフトウエアと、試料4を回転するモータの制御プログラム及びプローブアンテナを上下させるリニアモータを制御するプログラムを内蔵する、ウインドウズパソコンをベクトルネットワークアナライザ、モータ及びリニアモータに接続する。まず、プローブアンテナを3bの位置、すなわちパラボラアンテナ1から出る平面波と平行で、試料4の中央を見透す線上で、試料4を見て、右方向に水平45°振ったところにプローブアンテナを置く。ベクトルネットワークアナライザはS21モードとし、周波数は10GHzに固定し、ゲートモードで、試料4を中心にして前に10cm、後ろに10cmだけを測定するようにする。
ポート1から10GHzを送り、一次放射器2から送信した電波はパラボラアンテナで反射して平面波となって試料4を照射する。そして、試料4のあらゆる部分から反射した電波を、プローブアンテナで受信する。このとき、プローブアンテナは導波管WR90をカットし、また、肉厚部は先端部を薄く仕上げる。なお、このプローブアンテナの−3dB半値角は広いので試料の反射はすべて受信できる。この状況で試料を回転し、0.1度おきに振幅と位相情報を入手する。
次に、円筒走査で取得した近傍界データの遠方界変換に、簡略なアレイファクタ(AF)の考えを適用したときの計算式、及び実測結果比較について示す。
図4で示すように、同一素子が回転して、1,2,3・・・nと移動した場合の円筒アレイのアレイファクタ(AF)は同一素子がN個x−y平面の円周上に配列されているので、

が得られる。ここで、R=Rは円周の半径、φ=2πn/Nは素子アンテナの配列角度である。実測の位相と振幅を複素数aとして、この円形AFに入力することで、容易に遠方変換が可能となる。なお、(1)式はすでに遠方でのパターン表示になっている。
以上が単層リングアレイとしてのアンテナ理論であり、素子の座標と励振位相が決まれば、単一のリングアレイのパターンが得られることが分かる。円筒状に半径RmnのリングアレイがM個重なっている場合には、(1)式を

とすればいい。ここで、θ,φは空間球座標における放射パターンの角度である。各層のリングアレイがz方向に全く同じように配列されている場合、つまり周方向の素子座標が同じ場合、φmn=φとなる。また、円筒形を想定しているので、径方向の距離はR=Rである。
円筒アレイファクタによる近傍界の遠方変換
さて、遠方界を評価する手続きについて示す。これには、近傍で取得した位相と振幅のデータを複素数のまま、係数amnに入力することを考える。このとき、相対的な給電位相は全て取得データとしてamnに情報を組み込むことになる。サンプリングの位置座標は各点で自由度が残っているが、通常は円筒の半径は一定であるので、Rmn=Rとすることができる。また、プローブは同じアンテナを円筒のz軸を向くようにプロービング走査する。このときのプローブ補正は次のように考えればよい。つまり、プローブのパターンをf(θ,φ)とする。ここでθ,φはデータを取得するサンプリング点における局所座標を表している。このプローブパターンを重み関数として、遠方界の放射パターンを計算する際、アレイファクタに乗じる。簡単のためf=cos(φ)と仮定して、周方向だけの単層リングアレイを考えると、これは近似的にcos(φ−φ)と走査座標に変換できるので、最終的なプローブ補正後の遠方パターンは

で評価できる。実際のプローブアンテナは、たとえば、導波管の端部を利用したタイプなどが多く採用されるが、この指向性パターンをあらかじめ測定して数値化し、補正する。なお、近似的にホーンアンテナの計算値を使ってもよい。
以上の手順で測定した結果を図5の(1)に示した。角度0度は円板が正面を向いている状態で、これは水平方向バイスタティック45度のレーダークロスセクション値であり、理論値と概ね一致している。なお、この実験の前に45度を0度にして、モノスタティックの実験を行ったが、理論値とほとんど一致していた。今回の実験の場合、一次放射器から送信したが、これをプローブアンテナから放射してパラボラアンテナで受信してもよい。また、パラボラアンテナをオフセットパラボラアンテナにして、一次放射器を平面波の通り道からはずれた位置にずらしてもよい。
【0011】
前回の実施例の場合は、プローブアンテナを3bに置いたが、これを3cに移動する。この位置だと、水平45°、垂直20°のバイスタティックRCSである。結果を[図5]の(2)に示したが、理論値と概ね一致する。
【0012】
次に、プローブアンテナを3dに置いたが、この位置だと、水平45°、垂直40°のバイスタティックRCSである。結果を[図5]の(3)に示したが、理論値と概ね一致する。なお、試料を0.1度回転し、プローブアンテナを下から上に移動し、また、0.1度回転し、プローブアンテナを上から下に移動する。なお、プローブは静止することはないが、ゆっくり動かし、周波数を9.5GHzから0.1GHzおきに10.4GHzまで10点取得するなどもできる。これが一巡したら、次に、プローブアンテナを水平に15度移動すれば、45度+15度で水平方向バイスタティック60度のRCS測定の開始となる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
レーダーで試料を測定したときの各種の状況
1.モノスタティックモードすなわちレーダー波を送信したところにもどってくる反射波2.バイスタティックモード ▲1▼レーダー送信波の水平面上の送信波と異なる方向から観測した反射波 ▲2▼レーダー送信波の水平面上の送信波と同一または異なる方向への反射波
このように上方向または下方向から観測した反射波のRCSを近傍界で測定できるので、レーダーからの反射波の大きい車の開発、レーダーからの反射波の少ない航空機の開発など、多くの利用可能性がある。
【符号の説明】
【0014】
1.パラボラアンテナ
2.一次放射器
3.プローブアンテナ
3a.モノスタティックモードの位置のプローブアンテナ
3b.水平面上で45°異なる角度のバイスタティックモード
3c.水平面上で45°異なり、上の方向に20°異なるバイスタティックモードの位置のプローブアンテナ
3d.水平面上で45°異なり、上の方向に40°異なるバイスタティックモードの位置のプローブアンテナ
4.試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する試料に平面波を照射し、試料の各点からの反射波の振幅と位相を導波管開口部などの半値幅の広いアンテナで受信し、アレイファクタを用いて近傍界遠方界変換を行ってRCSを測定する装置。
【請求項2】
照射している平面波と試料との線上から、試料を軸にして水平面上、及び、または垂直面上に受信アンテナの角度が取れる、請求項1の装置。
【請求項3】
照射している平面波と試料との線上から、試料を軸にして水平面上に角度が取れ、しかも上下に移動できる受信アンテナを持つ、請求項1の装置。
【請求項4】
照射している平面波と試料との線上から、試料を軸にして水平面上の複数の角度の位置に各々受信アンテナを持つ、請求項1,2,3の装置。
【請求項5】
コンパクトレンジ法を用いて平面波をつくる、請求項1,2,3,4の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−68222(P2012−68222A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230970(P2010−230970)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(502383889)キーコム株式会社 (28)
【Fターム(参考)】