説明

レーダ信号処理装置及び不要波抑圧方法

【課題】ソフトウェア実装されたSLCにより、時変システムのトラッキングによる不要波抑圧性能の劣化を抑え、収束時間の存在を無くし、高速回転するレーダアンテナにより受信されたレーダ信号に含まれる不要波を抑圧することが可能なレーダ信号処理装置及び不要波抑圧方法を提供すること。
【解決手段】SMI処理部561で、SMIアルゴリズムを用いて、主チャンネル及び補助チャンネルの信号からそれぞれ抽出した例えば4個のデータに基づいて適応ウェイトを算出する。そして、LMI処理部562で、LMSアルゴリズムを用いて、SMIアルゴリズムにより算出された適応ウェイトを初期ウェイトとして、補助チャンネルの信号に対するウェイト制御を行い、主アンテナで受信したレーダ反射信号に含まれる不要波を抑圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信不要波を抑圧して所望信号を受信可能なレーダ信号処理装置及び不要波抑圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダ信号処理装置は、指向性アンテナパターンを形成し、サイドローブで受信される不要波を不要波抑圧装置(SLC:Sidelobe Canceller)で抑圧して目標(所望)信号を捕捉している。この種のレーダ信号処理装置は、SLCに加え、指向性アンテナパターンを形成する主アンテナと、この主アンテナにおけるアンテナパターンのサイドローブよりもアンテナ利得の大きなパターンを形成する補助アンテナとを併設して備える(例えば、特許文献1参照)。SLCは、補助アンテナで受信されたレーダ反射信号に対してウェイト制御を行うことにより、不要波到来方向の受信感度が結果的にゼロとなるようにパターン形成を行って不要波を抑圧する。
【0003】
ところで、レーダ信号処理装置においてSLCをデジタル信号処理部(DSP:Digital Signal Processor)へソフトウェア実装しようとする場合、主アンテナ及び補助アンテナで取得されるレーダ反射信号のデータ列にウィナーホップ方程式を用いることで直接的に適応ウェイトを算出するSMI(Sample Matrix Inversion)アルゴリズムを使用する方式が考えられる(例えば、非特許文献1,2参照)。しかしながら、SMI方式を用いてソフトウェア実装されたSLCの場合、アンテナが高速回転するような時変システム(不要波到来方向が時間毎に変わる)に対応させるためには、サンプルデータの平均的なウェイトが瞬時的な1方向からのウェイトとなるくらいにデータを分割してSMIを実施しなければならない。そのため、データサンプル数が小さくなることから不要波抑圧性能の劣化が起こるという問題がある。また、併せてデータ分割によりSMI演算を多数繰り返す必要があるため、計算負荷が大きくなり、ハード規模が大きくなるという問題も乗じる。
【0004】
ここで、フィードバック逐次処理により適応ウェイトを逐次算出するLMS(Least Mean Squares)アルゴリズム又はRLS(Recursive Least Squares)アルゴリズムを使用する方式によりSLCをソフトウェア実装することも考えられる。なお、LMSアルゴリズム及びRLSアルゴリズムは、フィードバック逐次処理を行うため、アンテナが高速回転するような時変システムに対し適応したウェイトのトラッキング性能を満足することが可能である。しかしながら、フィードバックの逐次処理のため適応ウェイトを算出するまでに有限の収束時間が必要となり、レーダ受信距離にブラインド(不要波残留電力により目標が見えない状態)時間が発生するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−267036号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Simon Haykin, "Adaptive Filter Theory", Prentice Hall, P. 104
【非特許文献2】Brennan L.E. and Reede I.S., "Theory of Adaptive Radar", IEEE Trans. On Aerospace and Electronic Systems, Vol. AES-9, No. 2, March 1973, P. 237-252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、アンテナが高速回転するレーダ信号処理装置のSLCをソフトウェア実装しようとする場合、SMIアルゴリズムを使用した場合は時変システムの適応ウェイトのトラッキングにより不要波抑圧性能の劣化が発生し、LMS、RLSアルゴリズムを使用した場合は適応ウェイトのトラッキングによる不要波抑圧性能の劣化を回避できたとしても、ブラインド時間が発生するという問題がある。
【0008】
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、ソフトウェア実装されたSLCにより、時変システムのトラッキングによる不要波抑圧性能の劣化を抑え、収束時間の存在を無くし、高速回転するレーダアンテナにより受信されたレーダ信号に含まれる不要波を抑圧することが可能なレーダ信号処理装置及び不要波抑圧方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るレーダ信号処理装置は、レーダ反射信号を互いに独立して受信する複数のアンテナと、前記複数のアンテナで受信された複数系統のレーダ反射信号それぞれを受信検波する複数の受信処理部と、前記複数の受信処理部で受信検波された前記複数系統の受信検波信号のうち一つの特定の系統の受信検波信号から、ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算することで、前記特定系統の受信検波信号に含まれる不要波成分を抑圧する信号処理部とを具備し、前記信号処理部は、SMI(Sample Matrix Inversion)アルゴリズムを利用して、前記複数系統の受信検波信号それぞれの予め設定された先頭領域のデータに基づき、前記特定系統以外の受信検波信号のウェイトを算出するウェイト算出手段と、前記ウェイト算出手段で算出されたウェイトを初期ウェイトとして、フィードバック逐次処理により前記特定系統以外の受信検波信号のウェイト制御を行い、前記特定系統の受信検波信号から前記ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算する不要波抑圧手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る不要波抑圧方法は、レーダ反射信号を互いに独立して受信する複数のアンテナと、前記複数のアンテナで受信された複数系統のレーダ反射信号それぞれを受信検波する複数の受信処理部と、前記複数の受信処理部で受信検波された前記複数系統の受信検波信号のうち一つの特定の系統の受信検波信号から、ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算することで、前記特定系統の受信検波信号に含まれる不要波成分を抑圧する信号処理部とを具備するレーダ信号処理装置に用いられる不要波抑圧方法であって、SMI(Sample Matrix Inversion)アルゴリズムを利用して、前記複数の受信処理部で受信検波された前記複数系統の受信検波信号それぞれの予め設定された先頭領域のデータに基づき、前記特定系統以外の受信検波信号のウェイトを算出し、前記算出されたウェイトを初期ウェイトとして、フィードバック逐次処理により前記特定系統以外の受信検波信号のウェイト制御を行い、前記特定系統の受信検波信号から前記ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算することを特徴とする。
【0011】
上記構成によるレーダ信号処理装置及び不要波抑圧方法では、SMIアルゴリズムを用いて初期ウェイトを算出し、この初期ウェイトを用いてフィードバック逐次処理を行うようにしている。これにより、アンテナが高速に回転する場合であっても、逐次処理によるウェイト更新により適応ウェイトのトラッキングによる不要波抑圧性能劣化を回避すると共に、ウェイトが収束するまでのブラインド時間を無くすことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ソフトウェア実装されたSLCにより、時変システムの適応ウェイトのトラッキングによる不要波抑圧性能の劣化を抑えて、高速回転するレーダアンテナにより受信されたレーダ反射信号に含まれる不要波を抑圧することが可能なレーダ信号処理装置及び不要波抑圧方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るレーダ信号処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す信号処理部の機能構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す等化部における処理を模式的に示すブロック図である。
【図4】図2に示すLMS処理部の機能構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示すウェイト処理部の機能構成を示すブロック図である。
【図6】図2に示すSLCの処理を示すフローチャートである。
【図7】図2に示すSMI処理部及びLMS処理部における処理を模式的に示した図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る信号処理部の機能構成を示すブロック図である。
【図9】図8のパルス圧縮部における処理を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係るレーダ信号処理装置の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ信号処理装置の機能構成を示すブロック図である。図1に示すレーダ信号処理装置は、主アンテナ10、主受信器20、補助アンテナ30−1〜30−n、補助受信器40−1〜40−n及び信号処理部50を具備する。
【0016】
主アンテナ10は、アンテナ素子11−1〜11−n、受信モジュール12−1〜12−n及び受信給電回路13を備える。主アンテナ10は、アンテナ素子11−1〜11−nの位相が外部からそれぞれ制御されることにより、その指向方向が高速で回転する。主アンテナ10は、アンテナ素子11−1〜11−nにより目標物から反射されるレーダ反射信号を受信し、受信したレーダ反射信号を主受信器20へ供給する。また、主アンテナ10は、後述する信号処理部50における等化部53−2〜53−nの等化係数を算出する際には、指向方向が固定され、レーダ反射信号の受信帯域より広い帯域幅の雑音信号が吹き付けられる。主アンテナ10は、受信した雑音信号を主受信器20へ供給する。
【0017】
主受信器20は、受信したレーダ反射信号又は雑音信号を受信検波し、信号処理部50へ供給する。具体的には、主受信器20は、受信したレーダ反射信号又は雑音信号を中間周波数帯の信号へ周波数変換し、アナログ−デジタル変換した後、主チャンネルのデジタル信号として信号処理部50へ供給する。
【0018】
補助アンテナ30−1〜30−nは、アンテナ素子31−11〜31−1n…31−n1〜31−nn、受信モジュール32−11〜32−1n…32−n1〜32−nn及び受信給電回路33−1〜33−nを備える。補助アンテナ30−1〜30−nは、アンテナ素子31−11〜31−1n…31−n1〜31−nnによりレーダ反射信号を受信し、受信したレーダ反射信号を補助受信器40−1〜40−nへ供給する。また、補助アンテナ30−1〜30−nは、後述する信号処理部50における等化部53−2〜53−nの等化係数を算出する際には雑音信号が吹き付けられる。補助アンテナ30−1〜30−nは、受信した雑音信号を補助受信器40−1〜40−nへ供給する。
【0019】
補助受信器40−1〜40−nは、受信したレーダ反射信号又は雑音信号を受信検波し、信号処理部50へ供給する。具体的には、補助受信器40−1〜40−nは、受信したレーダ反射信号又は雑音信号を中間周波数帯の信号へ周波数変換し、アナログ−デジタル変換した後、補助チャンネルのデジタル信号として信号処理部50へ供給する。
【0020】
信号処理部50は、例えばDSP(Digital Signal Processor)で構成され、アプリケーションプログラムを実行させることで、図2のブロック図に示す機能構成を実現させる。もちろん、マイクロプロセッサからなるCPU(Central Processing Unit)を用いることも可能である。すなわち、信号処理部50は、受信データ一時記憶部51、切替部52−1〜52−(n+1)、等化部53−2〜53−(n+1)、等化係数演算部54、MTI(Moving Target indicator)55及びSLC56の機能を実現する。
【0021】
受信データ一時記憶部51は、受け取った主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号を一時的に記憶し、各チャンネルのデジタル信号をそれぞれ切替部52−1〜52−(n+1)へ出力する。切替部52−1〜52−(n+1)は、デジタル信号の出力系統を選択的に切り替えるものであり、等化部53−2〜53−(n+1)の等化係数を算出する際には、信号を等化係数演算部54へ導出する。また、等化部53−2〜53−(n+1)の等化係数の調整時以外の場合には、切替部52−1は主チャンネルのデジタル信号をMTI55へ導出し、切替部52−2〜52−(n+1)は補助チャンネルのデジタル信号を等化部53−2〜53−(n+1)へ導出する。
【0022】
等化部53−2〜53−(n+1)は、補助チャンネルのデジタル信号を受け取り、等化係数演算部54で算出された等化係数に基づいて、補助チャンネルのデジタル信号の振幅調整及び位相調整を行い、主チャンネルのデジタル信号との周波数特性の整合を取る。図3は、等化部53−2〜53−(n+1)のうち、等化部53−2における処理を模式的に示すブロック図である。等化部53−2は、受け取った補助チャンネルのデジタル信号に対してFFT(Fast Fourier Transform)処理531を施し、このデジタル信号を予め設定した大きさの容量のデータ単位でブロック化する。等化部53−2は、FFT処理531でブロック化したデータブロックに対して、等化係数演算部54で算出された等化係数にFFT処理を施した係数を乗算し、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理532を施したのち、MTI55へ出力する。
【0023】
等化係数演算部54は、主チャンネル及び補助チャンネルの雑音信号に由来するデジタル信号に基づいて等化部53−2〜53−(n+1)の等化係数を算出する。例えば、等化係数演算部54は、SMIアルゴリズムを用いて、サンプリングされた主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号から相関行列及び相関ベクトルを推定し、ウィナーホップ方程式により適応等化することで、等化部53−2〜53−(n+1)に最適な等化係数を直接算出する。なお、等化係数を算出するに当たりLMSアルゴリズム及びRLSアルゴリズム等を用いることも可能である。
【0024】
MTI55は、主チャンネルのデジタル信号及び等化部53−2〜53−(n+1)から出力された補助チャンネルのデジタル信号に含まれるクラッタを抑圧し、抑圧後のデジタル信号をSLC56へ供給する。
【0025】
SLC56は、SMI処理部561及びLMS処理部562を備えており、ウェイト制御を行うことにより、不要波到来方向の受信感度が結果的に受信機雑音以下となるようにパターン形成を行って不要波を抑圧する。
【0026】
SMI処理部561は、MTI55から出力される主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号を受け取る。SMI処理部561は、SMIアルゴリズムを用いて、MTI55からの主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号のうち、先頭データから連続して入力されるそれぞれ例えば4個のデータ(アンテナ回転数と波長の条件から1方向のデータとみなしてよい時間から決まる)に基づいて適応ウェイトWiを算出する。そして、SMI処理部561は、算出した適応ウェイトWiをLMS処理部562へ出力する。
【0027】
例えば、SMI処理部561は、レーダ信号処理装置に4機の補助アンテナ30−1〜30−4が設置され、信号処理部50に4系統の補助チャンネルのデジタル信号が供給される場合、4系統の補助チャンネルにおけるそれぞれ例えば4個のデータ列Vと、主チャンネルにおけるN個のデータ列Vmとから以下に示す共分散行列M及び相互相関ベクトルRを算出し、これらの値から適応ウェイトWiを算出する。
【数1】

【0028】
【数2】

【0029】
【数3】

【0030】
【数4】

【0031】
なお、E[]はアンサンブル平均を示し、*は複素共役を示す。ここで、
【数5】

【0032】
とした場合、適応ウェイトベクトルWiは、
【数6】

【0033】
と算出される。なお、Tは転置を示し、μは任意定数を示す。
【0034】
LMS処理部562は、MTI55から出力される主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号を受け取る。LMS処理部562は、SMI処理部561で算出された適応ウェイトWiを初期ウェイトとし、LMSアルゴリズムを用いて、受け取った主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号における全てのデータに基づいてウェイトの算出を行う。そして、算出したウェイトを補助チャンネルのデジタル信号に乗算し、主チャンネルのデジタル信号から減算することで、主アンテナ10で受信されたレーダ反射信号に含まれる不要波を抑圧する。
【0035】
図4は、図2に示すLMS処理部562の機能構成を示すブロック図である。LMS処理部562は、LMSアルゴリズムを用いることにより、ウェイト処理部5621−1〜5621−nを実現する。ウェイト処理部5621−1〜5621−nは、各補助チャンネルのデジタル信号に対するウェイトをフィードバック逐次処理により算出し、算出したウェイトを各補助チャンネルのデジタル信号に乗算する。図5は、図4に示すウェイト処理部5621−1の機能構成を示すブロック図である。ここで、入力される補助チャンネルのデジタル信号をa(t)、フィードバック信号をc(t)とすると、ウェイトw(t)に対する微分方程式は、
【数7】

【0036】
となる。なお、kはループゲインを示し、*は複素共役を示す。また、入力される主チャンネルのデジタル信号をb(t)とすると、フィードバック信号c(t)は、
【数8】

【0037】
と表せるため、(7)式は、
【数9】

【0038】
となり、ウェイトw(t)の定常解w(∞)は、
【数10】

【0039】
と算出される。このとき、ウェイトw(t)のトランジット解及び時定数は、
【数11】

【0040】
【数12】

【0041】
と表される。なお、w(0)はウェイトw(t)の初期値である。ウェイト処理部5621−1は、このw(0)にSMI処理部561で算出されたWiの1成分であるwi1を代入することで、ウェイトw(t)の収束時間を短縮する。
【0042】
次に、上記構成における動作を説明する。図6は、本発明の第1の実施形態に係るSLC56の処理を示すフローチャートである。また、図7は、SMI処理部561及びLMS処理部562における処理を模式的に示した図である。
【0043】
SLC56は、MTI55でクラッタの抑圧が行われると、SMI処理部561により、クラッタ抑圧が施された主チャンネル及び補助チャンネルの信号それぞれから例えば4個の連続したデータを抽出し、抽出したデータに基づいて適応ウェイトWiの算出を行う(ステップ61)。続いて、SLC56は、LMS処理部562により、SMI処理部561で算出された適応ウェイトWiを初期ウェイトとしてウェイト制御を行い、妨害信号の抑圧を行う(ステップ62)。
【0044】
以上のように、上記第1の実施形態に係るレーダ信号処理装置では、SMIアルゴリズムを用いて、主チャンネル及び補助チャンネルの信号からそれぞれ抽出した例えば4個のデータに基づいて適応ウェイトを算出する。そして、レーダ信号処理装置は、LMSアルゴリズムを用いて、SMIアルゴリズムにより算出された適応ウェイトを初期ウェイトとして、補助チャンネルの信号に対するウェイト制御を行い、主アンテナで受信したレーダ反射信号に含まれる不要波を抑圧するようにしている。
【0045】
ここで、SMIアルゴリズムにより適応ウェイトを算出する際に抽出される連続したそれぞれ例えば4個のデータは、主アンテナ10が高速で1回転する間に取得されるデータの数と比較してはるかに小さな個数である。つまり、レーダ信号処理装置は、主チャンネル及び補助チャンネルそれぞれにおける例えば4個のデータに基づいて適応ウェイトを算出することにより、レーダ反射信号が固定方向から到来するとみなして適応ウェイトを算出することが可能となる。また、レーダ信号処理装置は、主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号における連続した例えば4個のデータに基づいてSMIアルゴリズムによる逆行列演算を行うため、計算量を抑えることが可能となる。また、レーダ信号処理装置は、SMIアルゴリズムにより算出された適応ウェイトを初期ウェイトとして利用するため、LMSアルゴリズムを行う際に必ず生じていたブラインド時間の発生を無くすことが可能となる。これらのことから、主アンテナ10が高速に回転する場合であっても、逐次処理によるウェイト更新により適応ウェイトのトラッキングによる不要波抑圧性能劣化を回避すると共に、ウェイトが収束するまでのブラインド時間を無くすことが可能となる。
【0046】
したがって、本発明に係るレーダ信号処理装置は、ソフトウェア実装されたSLCにより、時変システムでの適応ウェイトのトラッキングによる不要波抑圧性能劣化を抑えて、高速回転するレーダアンテナにより受信されたレーダ反射信号に含まれる不要波を抑圧することができる。
【0047】
また、上記第1の実施形態に係るレーダ信号処理装置では、主チャンネルのデジタル信号と補助チャンネルのデジタル信号との等化処理を信号処理部50におけるソフトウェア処理により実現している。このため、信号処理部50と独立して等化器を設置する必要がないため、ハード規模を抑えることが可能であり、レーダ信号処理装置の小型化及び低コスト化が図れる。
【0048】
さらに、上記第1の実施形態に係るレーダ信号処理装置では、主アンテナ10及び補助アンテナ30−1〜30−nに雑音信号を吹き付けることで、等化係数演算部54で等化部53−2〜53−nにおける等化係数を算出するようにしている。なお、従来では、主チャンネルと補助チャンネルの相関を高めるために、周波数特性(群遅延を含む)をタップ付き遅延線路(TDL)による等化器で整合する方策を実施している。具体的には、レーダ装置に対してコヒーレントなCW信号(周波数一定のsin波)の周波数を一定間隔でステップさせながら、周波数毎に信号をサンプリングしてデータ列を取得し、このように取得したデータ列に基づいて等化係数を算出していた。ただし、このような周波数サンプリング法では、等化係数を求めるためのデータ取得に時間がかかるといった問題がある。これに対し、本発明に係るレーダ信号処理装置では、雑音信号を吹き付けるだけで等化係数を算出することが可能であるため、等化部の等化係数を算出する際にかかる時間を削減することができる。
【0049】
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態に係る信号処理部60の機能構成を示すブロック図である。図8において図2と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。なお、本実施形態においては、主アンテナ10及び補助アンテナ30−1〜30−nはパルス変調されたレーダ反射信号である反射パルスを受信し、主受信器20及び補助受信器40−1〜40−nは受信した反射パルスの受信検波を行う。
【0050】
図8に示す信号処理部60は、受信データ一時記憶部51、切替部52−1〜52−(n+1)、パルス圧縮部57、等化係数演算部54、MTI55及びSLC56の機能を実現する。パルス圧縮部57は、切替部52−1〜52−(n+1)から導出される主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号に対してパルス圧縮すると共に、等化係数演算部54で算出された等化係数に基づいて主チャンネルのデジタル信号と補助チャンネルのデジタル信号との周波数特性の整合を取る。図9は、図8のパルス圧縮部57における処理を模式的に示すブロック図である。パルス圧縮部57は、受け取った主チャンネルのデジタル信号に対してFFT処理571−1を施し、このデジタル信号を予め設定した大きさの容量のデータ単位でブロック化する。パルス圧縮部57は、FFT処理571−1でブロック化したデータブロックに対して、主アンテナ10で受信した反射パルスのパルス変調に対応したパルス圧縮係数にFFT処理を施した係数を乗算し、IFFT処理572−1を施したのち、MTI55へ出力する。また、パルス圧縮部57は、受け取った補助チャンネルのデジタル信号に対してFFT処理571−2〜571−(n+1)を施し、これらのデジタル信号を予め設定した大きさの容量のデータ単位でブロック化する。パルス圧縮部57は、FFT処理571−2〜571−(n+1)でブロック化したデータブロックに対して、補助アンテナ30−1〜30−nで受信した反射パルスのパルス変調に対応したパルス圧縮係数にFFT処理を施した係数と、等化係数演算部54で算出された等化係数にFFT処理を施した係数とを乗算し、IFFT処理572−2〜572−(n+1)を施したのち、MTI55へ出力する。
【0051】
以上のように、上記第2の実施形態に係るレーダ信号処理装置では、パルス圧縮部57の処理と同時に補助チャンネルのデジタル信号に対して等化処理を行うようにしている。これにより、パルス圧縮部57でのFFT処理及びIFFT処理を等化処理にも利用することが可能であるため、等化処理用にFFT処理及びIFFT処理を行う必要がなくなる。したがって、信号処理部60における計算負荷を抑えることが可能となる。
【0052】
[その他の実施形態]
なお、この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば上記各実施形態では、SMI処理部561は、主チャンネル及び補助チャンネルのデジタル信号のうち先頭データから連続して入力されるそれぞれ例えば4個のデータに基づいて適応ウェイトWiを算出する場合について説明したが、データ数は先頭データから4個に限定される訳ではない。例えば、このデータ数は、高速回転中の主アンテナで受信される到来信号が固定方向からのものであるとみなすことができる数であれば、4個以上であってもかまわない。
【0053】
また、上記各実施形態では、SLC56がLMS処理部562を備える場合について説明したが、RLSアルゴリズムによるフィードバック逐次処理によりウェイト制御を行うRLS処理部であっても同様に実施可能である。また、LMS処理部562は、グラムシュミット方式により不要波を抑圧する場合であっても同様に実施可能である。
【0054】
さらに、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…主アンテナ
11−1〜11−n…アンテナ素子
12−1〜12−n…受信モジュール
13…給電回路
20…主受信器
30−1〜30−n…補助アンテナ
31−11〜31−1n,…,31−n1〜31−nn…アンテナ素子
32−11〜32−1n,…,32−n1〜32−nn…受信モジュール
33−1〜33−n…給電回路
40−1〜40−n…補助受信器
50,60…信号処理部
51…受信データ一時記憶部
52−1〜52−(n+1)…切替部
53−2〜53−(n+1)…等化部
54…等化係数演算部
55…MTI
56…SLC
561…SMI処理部
562…LMS処理部
5621−1〜5621−n…ウェイト処理部
57…パルス圧縮部
571−1〜571−(n+1)…FFT処理
572−1〜572−(n+1)…IFFT処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ反射信号を互いに独立して受信する複数のアンテナと、
前記複数のアンテナで受信された複数系統のレーダ反射信号それぞれを受信検波する複数の受信処理部と、
前記複数の受信処理部で受信検波された前記複数系統の受信検波信号のうち一つの特定の系統の受信検波信号から、ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算することで、前記特定系統の受信検波信号に含まれる不要波成分を抑圧する信号処理部と
を具備し、
前記信号処理部は、
SMI(Sample Matrix Inversion)アルゴリズムを利用して、前記複数系統の受信検波信号それぞれの予め設定された先頭領域のデータに基づき、前記特定系統以外の受信検波信号のウェイトを算出するウェイト算出手段と、
前記ウェイト算出手段で算出されたウェイトを初期ウェイトとして、フィードバック逐次処理により前記特定系統以外の受信検波信号のウェイト制御を行い、前記特定系統の受信検波信号から前記ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算する不要波抑圧手段と
を備えることを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記受信検波信号における予め設定された先頭領域のデータは、前記受信検波信号の先頭データから予め設定された個数のデータであることを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項3】
前記不要波抑圧手段は、LMS(Least Mean Squares)アルゴリズムを利用して前記ウェイト制御を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記不要波抑圧手段は、RLS(Recursive Least Squares)アルゴリズムを利用して前記ウェイト制御を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記複数の受信処理部からの複数系統の受信検波信号の周波数特性を整合させる等化手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項6】
前記等化手段は、
前記複数の受信処理部からの複数系統の受信検波信号のうち前記特定系統以外の受信検波信号に対してFFT(Fast Fourier Transform)処理を行って予め設定された大きさのデータ単位でブロック化し、
前記ブロック化されたデータ毎に、予め算出された等化係数にFFT処理を施した係数を掛け合わせ、
前記等化係数が掛け合わされた複数系統のデータブロックに対してIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理を行うことで、前記複数の受信処理部からの複数系統の受信検波信号の周波数特性を整合させることを特徴とする請求項5記載のレーダ信号処理装置。
【請求項7】
前記複数のアンテナで捕捉されるレーダ反射信号が反射パルスである場合、
前記信号処理部は、前記複数の受信処理部からの複数系統の受信検波信号に対してパルス圧縮をすると共に、前記複数系統の受信検波信号の周波数特性を整合させるパルス圧縮手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項8】
前記パルス圧縮手段は、
前記複数の受信処理部からの複数系統の受信検波信号に対してFFT(Fast Fourier Transform)処理を行って予め設定された大きさのデータ単位でブロック化し、
前記複数系統の受信検波信号のデータブロックのうち、前記特定系統の受信検波信号のデータブロックに、系統毎に予め設定されたパルス圧縮係数にFFT処理が施された係数を掛け合わせ、
前記複数系統の受信検波信号のデータブロックのうち、前記特定系統以外の受信検波信号のデータブロックに、系統毎に予め設定されたパルス圧縮係数にFFT処理が施された係数及び予め算出された等化係数にFFT処理を施した係数を掛け合わせ、
前記パルス圧縮係数及び前記等化係数のうち少なくともいずれか一方が掛け合わされた複数系統のデータブロックに対してIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理を行うことで、前記複数の受信処理部からの複数系統の受信検波信号の周波数特性を整合させることを特徴とする請求項7記載のレーダ信号処理装置。
【請求項9】
前記複数のアンテナが受信帯域よりも広い帯域幅の雑音信号を受信した場合、
前記信号処理部は、前記複数のアンテナで受信された雑音信号に基づいて前記等化係数を算出する等化係数演算手段をさらに備えることを特徴とする請求項6又は8記載のレーダ信号処理装置。
【請求項10】
レーダ反射信号を互いに独立して受信する複数のアンテナと、前記複数のアンテナで受信された複数系統のレーダ反射信号それぞれを受信検波する複数の受信処理部と、前記複数の受信処理部で受信検波された前記複数系統の受信検波信号のうち一つの特定の系統の受信検波信号から、ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算することで、前記特定系統の受信検波信号に含まれる不要波成分を抑圧する信号処理部とを具備するレーダ信号処理装置に用いられる不要波抑圧方法であって、
SMI(Sample Matrix Inversion)アルゴリズムを利用して、前記複数の受信処理部で受信検波された前記複数系統の受信検波信号それぞれの予め設定された先頭領域のデータに基づき、前記特定系統以外の受信検波信号のウェイトを算出し、
前記算出されたウェイトを初期ウェイトとして、フィードバック逐次処理により前記特定系統以外の受信検波信号のウェイト制御を行い、前記特定系統の受信検波信号から前記ウェイト制御が施された前記特定系統以外の受信検波信号を減算することを特徴とする不要波抑圧方法。
【請求項11】
前記受信検波信号における予め設定された先頭領域のデータは、前記受信検波信号の先頭データから予め設定された個数のデータであることを特徴とする請求項10記載の不要波抑圧方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−276474(P2010−276474A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129257(P2009−129257)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】