説明

レーダ制御装置、該装置に用いられるレーダ監視覆域設定方法及びレーダ監視覆域設定プログラム

【課題】限定された数のレーダを用いて多数の目標を探知する場合に、目標の出現が予想される地点が効率的に含まれるようにレーダの監視覆域を設定するレーダ制御装置を提供する。
【解決手段】監視覆域候補計算手段20により、目標予想点情報fcに対してレーダR1 ,R2 毎に階層的クラスタリングが行われ、クラスタリング結果のクラスタからレーダR1 ,R2 の監視覆域の組合せの候補caが算出される。監視覆域組合せ計算手段30により、監視覆域の組合せの候補caの中から、一方のレーダで探知され、かつ他方のレーダで探知されない目標予想点が探知される監視覆域から優先的に漸次決定することにより、レーダR1 ,R2 の監視覆域が算出される。最急降下法計算手段40により、監視覆域組合せ計算手段30で算出された全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、最急降下法を用いて評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータmaが算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ制御装置、該装置に用いられるレーダ監視覆域設定方法及びレーダ監視覆域設定プログラムに係り、特に、限定された数のレーダを用いて多数の目標の探知や警戒空域の監視などを行うための監視覆域を設定する場合に用いて好適なレーダ制御装置、該装置に用いられるレーダ監視覆域設定方法及びレーダ監視覆域設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
限定された数のレーダを用いて多数の目標を探知する場合、各レーダの監視覆域を、目標の出現が予想される地点が効率的に含まれるように設定する必要がある。監視覆域を設定する方法として、各レーダで、いくつかの監視覆域の候補を用意し、それらを組み合わせる方法があるが、この場合、適切な方法を用いて候補数を削減し、適切な組合せ計算のアルゴリズムを使用しないと、計算量が膨大になってしまう。また、このような方法で得られる監視覆域の解は近似解であり、より適切な監視覆域が存在する可能性が高い。このため、適切な監視覆域が設定される技術が要求されている。
【0003】
この種の関連技術としては、たとえば、特許文献1に記載されたレーダ制御装置がある。
このレーダ制御装置では、探知性能算出部により、目標物の想定航跡及びレーダ諸元に基づき、監視覆域毎かつ想定航跡毎に想定航跡上の目標物の探知性能が算出される。想定航跡とは、目標物の軌道を予想したものである。待受け組合わせ計算部により、探知性能に基づいてレーダそれぞれが設定する監視覆域が計算される。レーダは、所定の監視覆域を設定でき、レーダ制御装置が決定した監視覆域を設定して監視する。レーダ統制部により、待受け組合わせ計算部で計算された監視覆域の設定がレーダ毎に指示される。上記待受け組合わせ計算部では、探知性能に基づいて、監視覆域の組合わせ毎の評価値が計算されると共に、貪欲法(greedy method )を用いることにより、同評価値が最大である監視覆域の組合わせが、レーダそれぞれが設定する監視覆域とされる。
【0004】
また、特許文献2に記載されたセンサ群管理装置では、複数の目標管理器により、複数の目標に対応してそれぞれの目標に関する情報が出力される。複数のセンサ管理器により、複数のセンサに対応したそれぞれの情報が出力される。複数の割当て効果計算器により、各目標管理器の出力と各センサ管理器の出力とが入力され、各目標と各センサとのそれぞれの組合わせの効果が計算されて出力される。目的関数計算器により、各割当て効果計算器の出力が入力されて、与えられた仮想割当てに対応する目的関数が計算されて出力される。割当て決定器により、目的関数計算器から出力される目的関数に基づいて仮想割当てが目的関数計算器に出力されると共に、目的関数の値の収束が判定され、収束した場合に、そのときの仮想割当てが目標対センサ割当て情報として各センサに出力される。上記目的関数計算器は、適応度関数を目的関数として計算して出力する適応度関数計算器を備えている。上記割当て決定器は、適応度関数の最大値を探索する最大値探索アルゴリズム計算器を備えている。
【0005】
また、特許文献3に記載された複数センサの制御装置では、複数の観測対象領域決定器により、複数のセンサからなるセンサ群からの管理情報が入力され、センサを所定のグループ毎にまとめたクラスタ毎に、観測対象とすべき領域が算出され、その算出結果を観測対象領域として、センサ群からの管理情報と共に出力される。複数のクラスタ仮制御器により、観測対象領域決定器から出力された観測対象領域とセンサ群からの管理情報とが入力され、それぞれのクラスタ毎に、センサ群を制御するための暫定クラスタ制御情報と暫定観測領域情報とが算出されて出力される。複数の観測割当て調整器により、暫定クラスタ制御情報と暫定観測領域情報とが入力され、複数のセンサクラスタ間での観測情報が調整され、調整された観測領域情報とクラスタ制御情報とが出力される。
【0006】
また、特許文献4に記載された問題集合の最適化装置では、最適化処理部により、複数の被験者によって問題集合に含まれる問題を解いた結果と、複数の被験者の評価尺度による評価値との間の相関を反映するように、問題集合中の各問題に割当てられる重みの関数としてあらかじめ評価関数が定式化され、当該評価関数の値が所定の条件を充足するように、最急降下法により、重みの値が最適化される。選択部により、最適化処理部により最適化された重みの値を用いて問題集合に含まれる問題の採用及び棄却が定められることにより、問題集合中の問題数が削減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−058269号公報
【特許文献2】特開2000−241540号公報
【特許文献3】特開2002−341023号公報
【特許文献4】特開2005−309631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記関連技術では、次のような課題があった。
すなわち、特許文献1に記載されたレーダ制御装置では、待受け組合わせ計算部で監視覆域の組合わせを求める場合、貪欲法を用いることで、計算量が削減されるようになっている。また、同レーダ制御装置は、貪欲法により監視覆域が決定された後に近似解を変化させて、より適切な解が求められるものであり、この発明とは構成が異なる。
【0009】
特許文献2に記載されたセンサ群管理装置では、各割当て効果計算器により、各目標と各センサとのそれぞれの組合わせの効果が計算され、割当て決定器により、適応度関数の最大値が探索されて目標対センサの割当てが決定されるので、特許文献1と同様に、貪欲法が用いられるものであり、この発明とは構成が異なる。
【0010】
また、特許文献3に記載された複数センサの制御装置では、センサを所定のグループ毎にまとめたクラスタ毎に、観測対象領域が算出されて調整されるが、この発明とは構成が異なる。
【0011】
また、特許文献4に記載された最適化装置では、最急降下法を用いて問題集合が最適化され、少ない問題数で被験者の能力が高精度に測定されるが、この発明とは構成が異なる。
【0012】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、限定された数のレーダを用いて多数の目標を探知する場合に、目標の出現が予想される地点(目標予想点)が効率的に含まれるようにレーダの監視覆域を設定するレーダ制御装置、該装置に用いられるレーダ監視覆域設定方法及びレーダ監視覆域設定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明の第1の構成は、複数の目標の出現が予想される地点である目標予想点を表す目標予想点情報、又は前記目標予想点が含まれる領域を表す目標予想領域情報が入力され、複数のレーダに対して、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各目標を探知するための監視覆域を設定する制御を行うレーダ制御装置に係り、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各レーダ毎に前記監視覆域の組合せの候補を求め、前記候補の中から、当該レーダで探知され、かつ他のレーダで探知されない目標予想点又は領域が探知される監視覆域から優先的に決定することにより全てのレーダの監視覆域を決定し、前記全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出することにより、より適切な監視覆域を求めるレーダ監視覆域設定手段が設けられていることを特徴としている。
【0014】
この発明の第2の構成は、複数の目標の出現が予想される地点である目標予想点を表す目標予想点情報、又は前記目標予想点が含まれる領域を表す目標予想領域情報が入力され、複数のレーダに対して、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各目標を探知するための監視覆域を設定する制御を行うレーダ制御装置に用いられるレーダ監視覆域設定方法に係り、レーダ監視覆域設定手段が、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各レーダ毎に前記監視覆域の組合せの候補を求め、前記候補の中から、当該レーダで探知され、かつ他のレーダで探知されない目標予想点又は領域が探知される監視覆域から優先的に決定することにより全てのレーダの監視覆域を決定し、前記全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出することにより、より適切な監視覆域を求めるレーダ監視覆域設定処理を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
この発明の構成によれば、複数レーダの監視覆域計算での計算量が削減されると共に最適な解が高速に得られるレーダ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施形態であるレーダ制御装置の要部の構成を示すブロック図である。
【図2】監視覆域候補計算手段20の動作を説明するフローチャートである。
【図3】監視覆域候補計算手段20による階層的クラスタリングの結果の例を示す図である。
【図4】監視覆域組合せ計算手段30の動作を説明するフローチャートである。
【図5】監視覆域組合せ計算手段30による監視覆域の決定の経過の例を示す図である。
【図6】最急降下法計算手段40の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記レーダ監視覆域設定手段が、上記目標予想点情報又は目標予想領域情報に対して上記各レーダ毎に階層的クラスタリングを行い、クラスタリング結果のクラスタから上記各レーダの監視覆域の組合せの候補を算出する監視覆域候補計算手段と、同監視覆域候補計算手段で算出された上記各レーダの監視覆域の組合せの候補の中から、当該レーダで探知され、かつ他のレーダで探知されない目標予想点又は領域が探知される監視覆域から優先的に漸次決定することにより、全てのレーダの監視覆域を算出する監視覆域組合せ計算手段と、同監視覆域組合せ計算手段で算出された全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出する監視覆域パラメータ計算手段と、同監視覆域パラメータ計算手段で算出された上記監視覆域のパラメータに基づいて、上記各レーダを制御するレーダ制御手段とから構成されているレーダ制御装置を提供する。
【0018】
また、この発明の好適な形態では、上記監視覆域候補計算手段は、上記階層的クラスタリングを行うとき、全ての上記目標予想点又は領域を上記監視覆域に入る大きさのクラスタに分割する構成とされている。また、上記監視覆域パラメータ計算手段は、最急降下法を用いて上記評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出する構成とされている。
【0019】
また、この発明の好適な形態では、上記各レーダの監視覆域のパラメータは、固定パラメータと可変パラメータとから構成され、上記固定パラメータは、上記各レーダの位置、上記各レーダが上記監視覆域を張ることのできる距離の幅、方位角の幅及び仰角の幅、及び上記監視覆域の中心の仰角に対応し、上記可変パラメータは、上記各レーダを中心とする座標系における上記監視覆域の中心の距離のパラメータ、及び上記監視覆域の中心の方位角のパラメータに対応し、上記レーダ監視覆域設定手段は、上記固定パラメータを保持するデータベースを有し、上記データベースに保持されている上記固定パラメータに基づいて、上記監視覆域の組合せの候補を求めると共に、全てのレーダの監視覆域を決定する構成とされている。
【実施形態】
【0020】
図1は、この発明の一実施形態であるレーダ制御装置の要部の構成を示すブロック図である。
この形態のレーダ制御装置は、同図に示すように、入力手段10と、監視覆域候補計算手段20と、監視覆域組合せ計算手段30と、最急降下法計算手段40と、レーダ諸元データベース50と、レーダ制御手段61,62とから構成されている。レーダ制御手段61,62には、図示しないレーダR1 ,R2 が接続されている。レーダ諸元データベース50は、各レーダの目標を探知するための監視覆域の固定パラメータを保持し、同固定パラメータは、各レーダR1 ,R2 の位置、各レーダR1 ,R2 が監視覆域を張ることのできる距離の幅、方位角の幅及び仰角の幅、及び監視覆域の中心の仰角に対応している。入力手段10は、たとえばオペレータの操作などにより、複数の目標の出現が予想される地点である目標予想点を表す目標予想点情報fcを入力する。
【0021】
監視覆域候補計算手段20は、レーダR1 の監視覆域候補計算手段21及びレーダR2 の監視覆域候補計算手段22を有し、目標予想点情報fcに基づいて、レーダR1 ,R2 毎に監視覆域の組合せの候補を求める。特に、この実施形態では、監視覆域候補計算手段21,22は、目標予想点情報fcに対して、レーダ諸元データベース50に保持されている固定パラメータpmに基づいてレーダR1 ,R2 毎に階層的クラスタリングを行い、クラスタリング結果のクラスタからレーダR1 ,R2 の監視覆域の組合せの候補caを算出する。この場合、監視覆域候補計算手段21,22は、上記階層的クラスタリングを行うとき、全ての目標予想点を監視覆域に入る大きさのクラスタに分割し、同監視覆域候補計算手段21では監視覆域A1 ,A2 、及び監視覆域候補計算手段22では監視覆域A3 が候補caとなる。監視覆域組合せ計算手段30は、監視覆域候補計算手段20で算出されたレーダR1 ,R2 の監視覆域の組合せの候補caの中から、レーダ諸元データベース50に保持されている固定パラメータpmに基づいて、一方のレーダで探知され、かつ他方のレーダで探知されない目標予想点が探知される監視覆域から優先的に漸次決定することにより、全てのレーダの監視覆域を算出する。
【0022】
最急降下法計算手段40は、監視覆域組合せ計算手段30で算出された全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、たとえば最急降下法を用いて評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出することで、より適切な監視覆域のパラメータmaを求める。この場合、上記パラメータは、可変パラメータであり、各レーダR1 ,R2 を中心とする座標系における監視覆域の中心の距離のパラメータ、及び監視覆域の中心の方位角のパラメータに対応している。レーダ制御手段61,62は、最急降下法計算手段40で算出された監視覆域のパラメータmaに基づいて、各レーダR1 ,R2 を制御する。上記監視覆域候補計算手段20、監視覆域組合せ計算手段30、最急降下法計算手段40、レーダ諸元データベース50及びレーダ制御手段61,62で、レーダ監視覆域設定手段が構成されている。このレーダ制御装置は、コンピュータで構成され、レーダ監視覆域設定プログラムに基づいて制御される。
【0023】
図2は、監視覆域候補計算手段20の動作を説明するフローチャート、図3は、監視覆域候補計算手段20による階層的クラスタリングの結果の例を示す図、図4は、監視覆域組合せ計算手段30の動作を説明するフローチャート、図5は、監視覆域組合せ計算手段30による監視覆域の決定の経過の例を示す図、及び図6が、最急降下法計算手段40の動作を説明するフローチャートである。
これらの図を参照して、この形態のレーダ制御装置に用いられるレーダ監視覆域設定方法の処理内容について説明する。
このレーダ制御装置では、監視覆域候補計算手段20、監視覆域組合せ計算手段30、最急降下法計算手段40、レーダ諸元データベース50及びレーダ制御手段61,62で構成されるレーダ監視覆域設定手段により、レーダ監視覆域設定処理が行われる。このレーダ監視覆域設定処理では、監視覆域候補計算手段20により、レーダ諸元データベース50に保持されている固定パラメータに基づいて、目標予想点情報fcに対してレーダR1 ,R2 毎に階層的クラスタリングが行われ、クラスタリング結果のクラスタからレーダR1 ,R2 の監視覆域の組合せの候補caが算出される(監視覆域候補計算処理)。この監視覆域候補計算処理では、監視覆域候補計算手段20により、階層的クラスタリングを行うとき、全ての目標予想点が監視覆域に入る大きさのクラスタに分割される。
【0024】
監視覆域組合せ計算手段30により、上記監視覆域候補計算処理で算出されたレーダR1 ,R2 の監視覆域の組合せの候補caの中から、レーダ諸元データベース50に保持されている固定パラメータpmに基づいて、一方のレーダで探知され、かつ他方のレーダで探知されない目標予想点が探知される監視覆域から優先的に漸次決定することにより、レーダR1 ,R2 の監視覆域が算出される(監視覆域組合せ計算処理)。最急降下法計算手段40により、監視覆域組合せ計算手段30で算出された全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、最急降下法を用いて評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータmaが算出される(監視覆域パラメータ計算処理)。レーダ制御手段61,62により、監視覆域パラメータ計算処理で算出された監視覆域のパラメータmaに基づいて、レーダR1 ,R2 が制御される(レーダ制御処理)。
【0025】
すなわち、監視覆域候補計算手段20では、図2に示すように、ステップA1で、入力手段10から入力された目標予想点情報fcで表される目標予想点のうち、レーダがその性能上監視覆域を張ることができない覆域外の目標(目標予想点)の情報が廃棄され、処理の対象から除外される。ステップA2では、ステップA1で残った全ての目標に対し、一対一でクラスタが作成される。ステップA3では、最も距離が近いクラスタ同士が1つのクラスタとしてまとめられ、まとめられたクラスタが後入れ先出し方式(FILO、First In Last Out 、ファイロ)で記録される。クラスタ間の距離は、クラスタ間の最も遠い目標予想点同士のユークリッド距離で定義される。
【0026】
ステップA4では、全ての目標予想点を含むクラスタが存在するか否かが調べられ、全ての目標予想点が1つのクラスタにまとまっていない場合はステップA3へ戻る一方、まとまっている場合にはステップA5へ進む。ステップA5では、ステップA3での記録から、後入れ先出し方式で1つのクラスタが取り出され、以降のステップA6,A7,A8の処理の対象とされる。ステップA6では、ステップA5で取り出されたクラスタに含まれる目標予想点が、既に監視覆域の計算対象のクラスタに含まれるか否かが調べられ、含まれる場合はステップA5へ戻る一方、含まれない場合はステップA7へ進む。なお、クラスタは、大きな単位から監視覆域計算対象になるか否かを調べていくので、クラスタ内の一つの目標予想点が監視覆域計算対象のクラスタに含まれているか否かを調べるだけで十分である。
【0027】
ステップA7では、ステップA5で取り出されたクラスタが監視覆域に入る大きさか否かが調べられ、入らない場合はステップA5へ戻る一方、入る場合はステップA8へ進む。この場合、レーダを中心とした極座標系において、クラスタ内の目標予想点が、次の条件を満たす場合に、クラスタが監視覆域に入る大きさとして判断される。
[目標予想点の最大距離−目標予想点の最小距離≦監視覆域距離幅]AND[目標
予想点の最大方位角−目標予想点の最小方位角≦監視覆域方位角幅]AND[目
標予想点の最大仰角−目標予想点の最小仰角≦監視覆域仰角幅]
ステップA8では、ステップA5で取り出されたクラスタが監視覆域計算対象のクラスタとして記録される。ステップA9では、全ての目標予想点が監視覆域計算対象のクラスタに含まれているか否かが調べられ、含まれていない場合は、ステップA5へ戻る一方、含まれている場合は、ステップA10へ進む。
【0028】
ステップA10では、監視覆域計算対象のクラスタ毎に、監視覆域のパラメータが次式を用いて計算され、監視覆域の組み合わせの候補とされる。
監視覆域の中心距離=(クラスタ内の目標予想点の最大距離−クラスタ内の目標予
想点の最小距離)/2
監視覆域の中心方位角=(クラスタ内の目標予想点の最大方位角−クラスタ内の目
標予想点の最小方位角)/2
監視覆域の中心仰角=(クラスタ内の目標予想点の最大仰角−クラスタ内の目標予
想点の最小仰角)/2
【0029】
監視覆域候補計算手段20による階層的クラスタリングの結果は、図3に示すように、目標予想点TG1 ,TG2 ,TG3 ,TG4 ,TG5 に対してクラスタリングが行われてクラスタCL1 ,CL2 ,CL3 ,CL4 ,CL5 が作成される。これらのクラスタCL1 ,CL2 ,CL3 ,CL4 ,CL5 に対してクラスタリングが行われ、クラスタCL1 ,CL2 からクラスタCL7 が作成され、クラスタCL3 ,CL4 からクラスタCL8 が作成される。さらに、クラスタCL7 ,CL8 からクラスタCL9 が作成され、クラスタCL9 ,CL5 からクラスタCL10が作成される。同図3中のクラスタCL5 ,CL9 は、監視覆域の計算対象に選ばれたクラスタであるとする。
【0030】
監視覆域組合せ計算手段30では、図4に示すように、ステップB1で、全ての監視覆域候補において、当該レーダの監視覆域候補に含まれ、かつ、他のレーダの監視覆域候補に含まれない目標予想点の数が計算される。ステップB2では、監視覆域が決定していないレーダの中で、ステップB1で計算された他のレーダの監視覆域候補に含まれない目標予想点の数が最大となる監視覆域候補が、そのレーダの監視覆域として決定される。また、他のレーダの監視覆域候補に含まれない目標予想点の数が等しい監視覆域候補が複数存在する場合は、監視覆域候補に含まれる目標予想点の数が最大となる監視覆域候補が選択される。ステップB3では、ステップB2で監視覆域が決定したレーダにおいて、監視覆域とされなかった監視覆域候補が計算対象から取り除かれる。ステップB4では、全てのレーダの監視覆域が決定している否かが調べられ、決定している場合は計算終了となる一方、決定していない場合はステップB1へ戻る。なお、監視覆域組合せ計算手段30では、レーダの監視覆域候補が1つになった時点で、同レーダの監視覆域が決定されたとみなし、監視覆域候補が1つも存在しないレーダは、計算対象から外す。
【0031】
監視覆域組合せ計算手段30により決定される監視覆域は、図5に示すように、計算される。すなわち、初期状態では、レーダR1 の覆域候補は、たとえば、目標予想点TG1 が含まれる覆域候補[TG1 ]、及び、目標予想点TG3 ,TG4 ,TG5 が含まれる覆域候補[TG3 ,TG4 ,TG5 ]となっている。また、レーダR2 の覆域候補は、目標予想点TG2 ,TG3 が含まれる覆域候補[TG2 ,TG3 ]、及び、目標予想点TG4 ,TG5 が含まれる覆域候補[TG4 ,TG5 ]となっている。図示しないレーダR3 の覆域候補は、目標予想点TG4 ,TG5 が含まれる覆域候補[TG4 ,TG5 ]となっている。
【0032】
1回目の計算では、レーダR1 の覆域候補[TG1 ]及びレーダR2 の覆域候補[TG2 ,TG3 ]が、他のレーダでは探知できない目標予想点の数が“1”となり、他の覆域候補は、他のレーダでは探知できない目標予想点の数が“0”となる。レーダR1 の覆域候補[TG1 ]よりもレーダR2 の覆域候補[TG2 ,TG3 ]のほうが、含まれている目標予想点が多いため、この1回目の計算では、この覆域候補[TG2 ,TG3 ]がレーダR2 の監視覆域として決定される。2回目の計算では、レーダR1 の覆域候補[TG1 ]が、他のレーダでは探知できない目標予想点の数が“1”となり、覆域候補[TG3 ,TG4 ,TG5 ]が他のレーダでは探知できない目標予想点の数が“0”となるので、覆域候補[TG1 ]がレーダR1 の監視覆域として決定される(終了状態)。また、他の覆域候補は、他のレーダでは探知できない目標予想点の数が“0”となる。
【0033】
最急降下法計算手段40では、図6に示すように、監視覆域を表すパラメータ毎に次の処理(ステップC1,C2,C3)を実行する。この場合、パラメータと、全レーダの監視覆域を表現する可変パラメータである。すなわち、ステップC1では、現在のパラメータの値における評価関数の該当パラメータの偏微分係数が計算される。ステップC2では、ステップC1で求められた偏微分係数に正の定数αをかけた値が該当パラメータに加算されることで、該当パラメータが更新される。ステップC3では、該当パラメータがパラメータの最大値を超えた場合、又は最小値を下回った場合、更新前の値に戻す。ステップC4では、更新したパラメータでの評価関数の値が、更新前のパラメータでの評価関数の値よりも正の定数ε以上大きくなっているか否かが判定され、大きくなっている場合はパラメータの更新が再び行われ、大きくなっていない場合は、ステップC5へ進む。ステップC5では、上記更新の一つ前のパラメータが最適な監視覆域のパラメータmaとして決定される。
【0034】
以上のように、この実施形態では、監視覆域候補計算手段20により、目標予想点情報fcに対してレーダR1 ,R2 毎に階層的クラスタリングが行われ、クラスタリング結果のクラスタからレーダR1 ,R2 の監視覆域の組合せの候補caが算出されるので、監視覆域の組合せの数が削減される。また、監視覆域組合せ計算手段30により、監視覆域候補計算手段20で算出されたレーダR1 ,R2 の監視覆域の組合せの候補caの中から、一方のレーダで探知され、かつ他方のレーダで探知されない目標予想点が探知される監視覆域から優先的に漸次決定することにより、レーダR1 ,R2 の監視覆域が算出されるので、計算量が削減される。さらに、最急降下法計算手段40により、監視覆域組合せ計算手段30で算出された全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、最急降下法を用いて評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータmaが算出されるので、より適切な監視覆域のパラメータが高速に求められる。これにより、複数レーダの監視覆域計算での計算量を削減させつつ最適な解が得られる。
【0035】
以上、この発明の実施形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成は同実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、この発明に含まれる。
たとえば、上記実施形態では、監視覆域候補計算手段20に目標予想点情報fcが入力されるが、目標予想点が含まれる領域を表す目標予想領域情報が入力されるようにしても、上記実施形態とほぼ同様の作用、効果が得られる(請求項1に対応)。目標予想点が含まれる領域は、たとえば警戒空域のように、空間的に広がりを有するものである。また、目標予想点情報fcは、オペレータが操作する入力手段10により入力されるものに限らず、たとえば外部メモリなどに記憶されているものでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明は、限定された数のレーダやセンサを用いて多数の目標の探知や警戒空域の監視などを行うための監視覆域を設定する用途全般に適用できる。
【符号の説明】
【0037】
10 入力手段(レーダ制御装置の一部)
20 監視覆域候補計算手段(レーダ監視覆域設定手段の一部)
30 監視覆域組合せ計算手段(レーダ監視覆域設定手段の一部)
40 最急降下法計算手段(レーダ監視覆域設定手段の一部)
50 レーダ諸元データベース(レーダ監視覆域設定手段の一部)
61,62 レーダ制御手段(レーダ監視覆域設定手段の一部)
TG1 ,TG2 ,TG3 ,TG4 ,TG5 目標予想点
CL1 ,CL2 ,CL3 ,CL4 ,CL5 ,CL7 ,CL8 ,CL9 ,CL10 クラスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の目標の出現が予想される地点である目標予想点を表す目標予想点情報、又は前記目標予想点が含まれる領域を表す目標予想領域情報が入力され、複数のレーダに対して、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各目標を探知するための監視覆域を設定する制御を行うレーダ制御装置であって、
前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各レーダ毎に前記監視覆域の組合せの候補を求め、前記候補の中から、当該レーダで探知され、かつ他のレーダで探知されない目標予想点又は領域が探知される監視覆域から優先的に決定することにより全てのレーダの監視覆域を決定し、前記全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出することにより、より適切な監視覆域を求めるレーダ監視覆域設定手段が設けられていることを特徴とするレーダ制御装置。
【請求項2】
前記レーダ監視覆域設定手段は、
前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に対して前記各レーダ毎に階層的クラスタリングを行い、クラスタリング結果のクラスタから前記各レーダの監視覆域の組合せの候補を算出する監視覆域候補計算手段と、
該監視覆域候補計算手段で算出された前記各レーダの監視覆域の組合せの候補の中から、当該レーダで探知され、かつ他のレーダで探知されない目標予想点又は領域が探知される監視覆域から優先的に漸次決定することにより、全てのレーダの監視覆域を算出する監視覆域組合せ計算手段と、
該監視覆域組合せ計算手段で算出された全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出する監視覆域パラメータ計算手段と、
該監視覆域パラメータ計算手段で算出された前記監視覆域のパラメータに基づいて、前記各レーダを制御するレーダ制御手段とから構成されていることを特徴とする請求項1記載のレーダ制御装置。
【請求項3】
前記監視覆域候補計算手段は、
前記階層的クラスタリングを行うとき、全ての前記目標予想点又は領域を前記監視覆域に入る大きさのクラスタに分割する構成とされていることを特徴とする請求項2記載のレーダ制御装置。
【請求項4】
前記監視覆域パラメータ計算手段は、
最急降下法を用いて前記評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出する構成とされていることを特徴とする請求項2又は3記載のレーダ制御装置。
【請求項5】
前記各レーダの監視覆域のパラメータは、
固定パラメータと可変パラメータとから構成され、
前記固定パラメータは、
前記各レーダの位置、前記各レーダが前記監視覆域を張ることのできる距離の幅、方位角の幅及び仰角の幅、及び前記監視覆域の中心の仰角に対応し、
前記可変パラメータは、
前記各レーダを中心とする座標系における前記監視覆域の中心の距離のパラメータ、及び前記監視覆域の中心の方位角のパラメータに対応し、
前記レーダ監視覆域設定手段は、
前記固定パラメータを保持するデータベースを有し、前記データベースに保持されている前記固定パラメータに基づいて、前記監視覆域の組合せの候補を求めると共に、全てのレーダの監視覆域を決定する構成とされていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のレーダ制御装置。
【請求項6】
複数の目標の出現が予想される地点である目標予想点を表す目標予想点情報、又は前記目標予想点が含まれる領域を表す目標予想領域情報が入力され、複数のレーダに対して、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各目標を探知するための監視覆域を設定する制御を行うレーダ制御装置に用いられるレーダ監視覆域設定方法であって、
レーダ監視覆域設定手段が、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に基づいて前記各レーダ毎に前記監視覆域の組合せの候補を求め、前記候補の中から、当該レーダで探知され、かつ他のレーダで探知されない目標予想点又は領域が探知される監視覆域から優先的に決定することにより全てのレーダの監視覆域を決定し、前記全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出することにより、より適切な監視覆域を求めるレーダ監視覆域設定処理を行うことを特徴とするレーダ監視覆域設定方法。
【請求項7】
前記レーダ監視覆域設定処理では、
監視覆域候補計算手段が、前記目標予想点情報又は目標予想領域情報に対して前記各レーダ毎に階層的クラスタリングを行い、クラスタリング結果のクラスタから前記各レーダの監視覆域の組合せの候補を算出する監視覆域候補計算処理と、
監視覆域組合せ計算手段が、前記監視覆域候補計算処理で算出された前記各レーダの監視覆域の組合せの候補の中から、当該レーダで探知され、かつ他のレーダで探知されない目標予想点又は領域が探知される監視覆域から優先的に漸次決定することにより、全てのレーダの監視覆域を算出する監視覆域組合せ計算処理と、
監視覆域パラメータ計算手段が、前記監視覆域組合せ計算手段で算出された全てのレーダの監視覆域に対応するパラメータを初期値として、評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出する監視覆域パラメータ計算処理と、
レーダ制御手段が、前記監視覆域パラメータ計算処理で算出された前記監視覆域のパラメータに基づいて、前記各レーダを制御するレーダ制御処理とを行うことを特徴とする請求項6記載のレーダ監視覆域設定方法。
【請求項8】
前記監視覆域候補計算処理では、
前記監視覆域候補計算手段が、前記階層的クラスタリングを行うとき、全ての前記目標予想点又は領域を前記監視覆域に入る大きさのクラスタに分割することを特徴とする請求項7記載のレーダ監視覆域設定方法。
【請求項9】
前記監視覆域パラメータ計算処理では、
前記監視覆域パラメータ計算手段が、最急降下法を用いて前記評価関数の値が最大となる監視覆域のパラメータを算出することを特徴とする請求項7又は8記載のレーダ監視覆域設定方法。
【請求項10】
前記各レーダの監視覆域のパラメータは、
固定パラメータと可変パラメータとから構成され、
前記固定パラメータは、
前記各レーダの位置、前記各レーダが前記監視覆域を張ることのできる距離の幅、方位角の幅及び仰角の幅、及び前記監視覆域の中心の仰角に対応し、
前記可変パラメータは、
前記各レーダを中心とする座標系における前記監視覆域の中心の距離のパラメータ、及び前記監視覆域の中心の方位角のパラメータに対応し、
前記レーダ監視覆域設定手段は、前記固定パラメータを保持するデータベースを有し、
前記レーダ監視覆域設定処理では、
前記レーダ監視覆域設定手段が、前記データベースに保持されている前記固定パラメータに基づいて、前記監視覆域の組合せの候補を求めると共に、全てのレーダの監視覆域を決定することを特徴とする請求項6、7、8又は9記載のレーダ監視覆域設定方法。
【請求項11】
コンピュータに請求項1乃至5のいずれか一に記載のレーダ制御装置を制御させるためのレーダ監視覆域設定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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