説明

レーダ反射体

【課題】通常であればRCSが小さい物標、例えば人間、自転車、乳母車等に取付けるだけで簡単に実質的なRCSを大きくすることができ、車載レーダにより検知しやすくでき、ひいては事故の低減が図れるレーダ反射体を提供する。
【解決手段】本発明のレーダ反射体1は、二等辺直角三角形板を3枚、それぞれの直角な頂点部を隙間なく突合わせたような形状で、各面を電磁波反射面にした三角コーナリフレクタ2の複数個を基材3の表面に配置したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載レーダに検知されやすいレーダ反射体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車には「事故をできる限り起こさない」という安全性能(アクティブセーフティ)が求められており、車両や人を交通事故から守ることが重要な課題となっている。この課題解決の手段の1つとして車載レーダがある。この車載レーダは、道路前方の自動車や歩行者、自転車等の物標を検知し、それらの物標までの距離を測定し、車両の速度を制御することで自動車の安全性を高める装置である。
【0003】
高級乗用車には70GHz帯の衝突防止レーダが搭載されたものがあるが、高価であり、また遠距離にいる人間を検出することは困難である。これに対して、UWB(超広帯域)技術を用いた車載レーダが実用化に向けて活発に研究開発されるようになっている。これは、従来の低い周波数帯域を利用する車載レーダと比較して、高分解能化や低コスト化が可能な方式であり、その実用化が期待されている。
【0004】
「高橋、吉川、角田、天野、小林、”準ミリ波UWBにおける乗用車レーダ断面積の測定”、第482回URSI−F分科会、2004年」(非特許文献1)、また、「高橋、吉川、角田、天野、小林、”人間および軽車両のKa帯UWBレーダ断面積の測定”、信学ソ大AS−4−4、2004年」(非特許文献2)には、このUWBを用いた車載レーダの開発のために車両や人などの物標のレーダ断面積が測定され、報告されている。
【0005】
レーダ断面積(RCS)とは、物体から電磁波を散乱する度合いを表す量であり、この値が大きいとレーダに検出されやすくなり、逆にこの値が小さいと検出されにくくなる。26GHz帯UWBレーダでの各物標のRCSの代表値を比較すると、乗用車は10[dBsm]、人間単体では0[dBsm]であり、乗用車と人間とを比較すると10dBの差がある。このことは、最大探知距離が乗用車に比べて人間の方が短いことを示している。そのため、UWBを用いた車載レーダでも、物標として前方の人や自転車、乳母車等を検出することは容易ではないことを意味する。
【非特許文献1】高橋、吉川、角田、天野、小林著、”準ミリ波UWBにおける乗用車レーダ断面積の測定”、第482回URSI−F分科会、2004年」
【非特許文献2】高橋、吉川、角田、天野、小林著、”人間および軽車両のKa帯UWBレーダ断面積の測定”、信学ソ大AS−4−4、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の技術的課題に鑑みてなされたものであり、通常であればRCSが小さい物標、例えば人間、自転車、乳母車等に取付けるだけで簡単に実質的なRCSを大きくすることができ、車載レーダにより検知しやすくでき、ひいては事故の低減が図れるレーダ反射体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明のレーダ反射体は、二等辺直角三角形板を3枚、それぞれの直角な頂点部を隙間なく突合わせて成る立体形状で、各面を電磁波反射面にした三角コーナリフレクタの複数個を基材の表面に配置したものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1のレーダ反射体において、前記三角コーナリフレクタは、前記基材の表面に隙間なく密集するように配置したことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1のレーダ反射体において、前記三角コーナリフレクタは、前記基材の表面に疎らに配置したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のレーダ反射体において、前記三角コーナリフレクタは、金属製であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜3のレーダ反射体において、前記三角コーナリフレクタは、前記基材の表面に形成された四面体状の凹部内面に電磁波反射体膜を形成したものであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1〜5のレーダ反射体において、前記基材は、シート材であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1〜5のレーダ反射体において、前記基材は、帯状材であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通常であればRCSが小さい物標、例えば人間、自転車、乳母車等に取付けるだけで簡単に実質的なRCSを大きくすることができ、車載レーダにより検知しやすくでき、ひいては事故の低減が図れるレーダ反射体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。図1、図2は本発明の1つの実施の形態のレーダ反射体1を示し、図3、図4はこのレーダ反射体1に配置した三角コーナリフレクタ2を示している。本実施の形態のレーダ反射体1は、図3、図4に示した三角コーナリフレクタ2を基材3の表面に多数、隙間なく敷き詰めた構成である。この三角コーナリフレクタ2は電磁波を反射する鏡面に近い反射面を持つ鉄、銅、ステンレス鋼等の金属製である。
【0016】
車載レーダから発信され、前方に存在する物標に当たりそれから後方に散乱され、車載レーダに受信される電磁波の受信電力は、式(1)に示すレーダ方程式によって算出できる。
【数1】

【0017】
ただし、Pは送信出力[dBm]、Pは受信電力[dBm]、Gは送受信アンテナの利得[dBi]、λは波長[m]、Rは物標とアンテナとの距離[m]、σは三角コーナリフレクタ2の1個当りのRCSである。
【0018】
このときの物標が電磁波を散乱する度合いを示す量、すなわちRCSは三面コーナリフレクタ2の場合、式(2)のσで表わされる。
【数2】

【0019】
このとき、RCSは三角コーナリフレクタ2の1辺長さaが1波長程度であっても大幅に減少することはなく、方向依存による変化は正面から±20°まで3[dB]程度である。したがって、三角コーナリフレクタ3としては、底辺1辺長を車載レーダ70GHz帯用には約1cm以上、26GHz帯用には約3cm以上にするのが好ましい。
【0020】
コーナリフレクタが二面コーナリフレクタであれば、入射波と反射波の方向を一致させるために入射波の方向を2つの面の法線方向に正確に向かわせなくてはならない。これに対して、本実施の形態のように三面コーナリフレクタ2の場合、3回の反射によって反射波は入射波の方向に戻るために方向依存性が少ない。
【0021】
よって、本実施の形態のレーダ反射体1では、通常であればRCSが小さい人間、自転車、乳母車等の物標に取付けるだけで簡単にその実質的なRCSを大きくすることができ、車載レーダにより検知しやすくでき、ひいては事故の低減が図れる効果がある。
【0022】
次に、本発明の第2の実施の形態のレーダ反射体1について、図5を用いて説明する。レーダ反射体1の形状は第1の実施の形態のようにシート状であっても良いが、用途に応じて図5に示す帯状にすることも可能である。また、基材3をフレキシブル材にして、柔軟性を持たせることも可能である。
【0023】
次に、本発明の第3の実施の形態のレーダ反射体1について、図6を用いて説明する。第1の実施の形態では、基材3に対して三角コーナリフレクタ2を密集するように配置したが、これに限らず、用途に応じて、図6に示すように基材3により粗い配置にすることも可能である。
【0024】
次に、本発明の第4の実施の形態のレーダ反射体1について、図7、図8を用いて説明する。第1の実施の形態では三角コーナリフレクタ2の正三角形の底面の各頂部が鋭く尖らせたものを使用したが、これに限らず、図7、図8に示すように底面頂部を切り落とした形にすることが可能である。これにより、尖った頂部で使用者が傷つくのを防止できる。
【0025】
尚、本発明のレーダ反射体の製造方法であるが、図3、図4に示した三角コーナリフレクタ2の多数を規則正しく配列し、その背面側を接着剤にて一体的に固定する方法を採用することができる。また、プラスチック板、ゴム板などの柔軟な基材3の表面に予め三角コーナリフレクタ2の背面側が嵌り込む凹部を多数形成しておき、その各凹部に三角コーナリフレクタ2を挿入し、接着固定する方法を採用することもできる。また、プラスチック板、ゴム板などの基材3の表面に予め三角コーナリフレクタ形状をした凹部を多数形成しておき、各凹部の内面にメッキあるいは蒸着によって電磁波反射面を形成する方法も採ることができる。またさらに、金属板を凹凸加工して多数の三角コーナリフレクタが連続するように同時成形し、この背面に接着剤、プラスチック硬化剤にて補強することでレーダ反射体を得る方法も採用できる。
【実施例】
【0026】
26GHz帯、70GHz帯で計算した1辺長a=3cmの銅製の三角コーナリフレクタ2のRCSと非特許文献1、非特許文献2にて報告されている人、乗用車のRCS測定値とを図9の表1に示す。1[m]を10倍のlogで表わした値が0[dBsm]である。
【0027】
標準体型の人体において、肩から腰までの前面に装着可能なシート面積を0.24[m](=45.6cm×54cm)とした場合、底辺1辺長a=3[cm]、高さ約2.4cmの三面コーナリフレクタ2を基材3の表面に342個敷き詰めることができる。1個の三角コーナリフレクタ2のRCSはそれぞれ−16[dBsm]、−7[dBsm]である。342倍になるときのRCSはデシベルに換算して25[dB]増加し、26GHz帯では9[dBsm]、70GHz帯では18[dBsm]となる。
【0028】
非特許文献1、2によると通常の人のRCSは26GHz帯に対して0[dBsm]であるのに対して、本実施例の反射体を装着させることで26GHz帯の車載レーダに対してそのRCSが9[dBsm]、また70GHz帯の車載レーダに対してそのRCSが18[dBsm]となり、8[dBsm]程度大きくすることができる。また、本実施例のレーダ反射体では、三面コータリフレクタ2の集合体であるためにそのRCSの方向依存が小さい。そのため、本実施例のレーダ反射体1は、車載レーダから安定して早期に検出することができる。これにより、歩行者、自転車の運転者、また乳母車に当該レーダ反射体1を取付けることで、実質的なRCSを広くすることができ、車載レーダにより検知しやすくして事故防止に役立てることができるが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の1つの実施の形態のレーダ反射体の平面図。
【図2】本発明の1つの実施の形態のレーダ反射体の斜視図。
【図3】上記実施の形態のレーダ反射体に使用する三角コーナリフレクタの背面側から見た斜視図。
【図4】上記実施の形態のレーダ反射体に使用する三角コーナリフレクタの反射面側から見た斜視図。
【図5】本発明の第2の実施の形態の、帯形のレーダ反射体の斜視図。
【図6】本発明の第3の実施の形態の、三角コーナリフレクタを疎らな配列にしたレーダ反射体の平面図。
【図7】本発明の第4の実施の形態のレーダ反射体に使用する三角コーナリフレクタの背面側から見た斜視図。
【図8】上記実施の形態のレーダ反射体に使用する三角コーナリフレクタの反射面側から見た斜視図。
【図9】26GHz帯、70GHz帯の車載レーダに対する種々の物標のレーダ断面積(RCS)の測定値の表。
【符号の説明】
【0030】
1 反射体
2 三角コーナリフレクタ
3 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二等辺直角三角形板を3枚、それぞれの直角な頂点部を隙間なく突合わせて成る立体形状で、各面を電磁波反射面にした三角コーナリフレクタの複数個を基材の表面に配置したことを特徴とするレーダ反射体。
【請求項2】
前記三角コーナリフレクタは、前記基材の表面に隙間なく密集するように配置したことを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射体。
【請求項3】
前記三角コーナリフレクタは、前記基材の表面に疎らに配置したことを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射体。
【請求項4】
前記三角コーナリフレクタは、金属製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーダ反射体。
【請求項5】
前記三角コーナリフレクタは、前記基材の表面に形成された四面体状の凹部内面に電磁波反射体膜を形成したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーダ反射体。
【請求項6】
前記基材は、シート材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーダ反射体。
【請求項7】
前記基材は、帯状材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーダ反射体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−129420(P2007−129420A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319515(P2005−319515)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(800000068)学校法人東京電機大学 (112)
【Fターム(参考)】