レーダ受信機及びレーダ装置
【課題】簡単な構成で、広いダイナミックレンジを有するレーダ受信機を提供する。
【解決手段】レーダ受信機11は、信号分岐部20と、周波数変換部29と、IF信号対数増幅・検波部25と、RF信号対数増幅・検波部27と、加算部28と、を備える。信号分岐部20は、レーダアンテナ10により受信された高周波信号RF0を、第1ライン31と、第1ライン31よりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ライン32と、に分岐させる。周波数変換部29は、第1ライン31を流れる第1高周波信号RF1を、中間周波数信号IFに変換する。IF信号対数増幅・検波部25は、中間周波数信号IFを検波して第1検波信号DS1を出力する。RF信号対数増幅・検波部27は、第2ライン32を流れる第2高周波信号RF2を検波して第2検波信号DS2を出力する。加算部は、第1検波信号と第2検波信号を合成して合成出力信号DS3として出力する。
【解決手段】レーダ受信機11は、信号分岐部20と、周波数変換部29と、IF信号対数増幅・検波部25と、RF信号対数増幅・検波部27と、加算部28と、を備える。信号分岐部20は、レーダアンテナ10により受信された高周波信号RF0を、第1ライン31と、第1ライン31よりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ライン32と、に分岐させる。周波数変換部29は、第1ライン31を流れる第1高周波信号RF1を、中間周波数信号IFに変換する。IF信号対数増幅・検波部25は、中間周波数信号IFを検波して第1検波信号DS1を出力する。RF信号対数増幅・検波部27は、第2ライン32を流れる第2高周波信号RF2を検波して第2検波信号DS2を出力する。加算部は、第1検波信号と第2検波信号を合成して合成出力信号DS3として出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、レーダ装置が備える受信機の回路構成に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、アンテナから電波を送信するとともに、ターゲット等によって反射した電波をアンテナで受信して、当該ターゲットの位置等を検出するように構成されている。ここで、アンテナに近い位置で反射した信号の強度は極めて強く、アンテナから遠い位置で反射した信号の強度は極めて微弱である。従って、アンテナ近傍を含む広い範囲のターゲットをレーダ装置で検出できるようにするためには、受信した信号を増幅・検波する受信回路のダイナミックレンジが極めて広いことが要求される。ところが、信号を増幅するための増幅器等のダイナミックレンジには限界があり、制限を超えた信号が入力されると出力が飽和してしまう。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1は、受信した信号の強度を殆ど減衰させない主ラインと、減衰させる副ラインと、に分岐させたうえで、それぞれのラインで中間周波数に変換した後、両ラインの信号を合成する構成を開示している。特許文献1は、このように信号を分配することで、受信信号のレベルに応じた信号処理が可能になり、広ダイナミックレンジを実現できるとしている。
【0004】
前記特許文献1の構成は、局部発振器の局部信号を主ラインと副ラインに分配するためのミキサを、各ラインに有している。しかしこの構成では、当該ミキサを介して、主ラインの信号が副ラインに回り込んでしまい、副ラインのダイナミックレンジ拡大を阻害するおそれがある。特許文献2は、上記問題点を指摘したうえで、ミキサと局部発信器との間に減衰器及び増幅器を設けることで主ラインの信号が副ラインに回りこむことを防止した構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−137071号公報
【特許文献2】特開2008−215952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成は、中間周波数への変換を行うラインを複数(主ラインと副ライン)設けているため、それぞれのラインでミキサやローパスフィルタ等が必要となり、回路構成が複雑化して受信機が高価になるという欠点がある。特許文献2は、特許文献1の構成に対して更に減衰器及び増幅器を追加する構成であるから、回路構成が更に複雑になりコストも増大してしまう。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、簡単な構成で、広いダイナミックレンジを有するレーダ受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成のレーダ受信機が提供される。即ち、このレーダ受信機は、信号分岐部と、周波数変換部と、第1検波部と、第2検波部と、信号合成部と、を備える。前記信号分岐部は、レーダアンテナにより受信された高周波信号を、第1ラインと、前記第1ラインよりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ラインと、に分岐させる。前記周波数変換部は、前記第1ラインを流れる前記高周波信号を、中間周波数信号に変換する。前記第1検波部は、前記中間周波数信号を検波して第1検波信号を出力する。前記第2検波部は、前記第2ラインを流れる前記高周波信号を検波して第2検波信号を出力する。前記信号合成部は、前記第1検波信号と前記第2検波信号を合成して合成出力信号として出力する。
【0010】
このように、第1ラインでは、中間周波数への変換を行うことにより感度及び安定性を向上させることができるので、信号レベルの小さい信号でも安定して検波することができる。一方、第2ラインには、第1ラインに比べて減衰された信号が流れるので、第1ラインでは飽和してしまうような大レベルの信号を第2ラインで検波することができる。そして、第2ラインでは大レベルの信号を検波できればよいので、感度や安定性を厳しく要求されないため、上記のように中間周波数への変換を省略することができる。以上のように、第2ラインにおいて中間周波数への変換を省略することができるので、当該第2ラインではミキサやローパスフィルタ等を省略できる。これにより、特許文献1に比べて回路を単純化してコストを削減することができる。更に、第2ラインに上記ミキサ等が必要なくなる結果、第1ラインの信号がミキサを介して第2ラインへ回りこんでしまうという特許文献1が有していた問題が発生することはない。これにより、受信感度の増大とNF特性の向上が実現可能になる。しかも、信号の回り込みを防止するために特許文献2が追加していた減衰器及び増幅器が不要となるため、更にコストを削減することができる。
【0011】
上記のレーダ受信機においては、前記第1ラインで検波できる信号レベルの範囲と、前記第2ラインで検波できる信号レベルの範囲と、を連続的に接続するように、前記信号分岐部が出力する前記高周波信号の信号レベルを調整するレベル調整回路を、前記第2ラインに備えることが好ましい。
【0012】
このようにレベル調整回路によって信号レベルを適切に調整することにより、2つのラインに分岐させた信号をそれぞれ検波した後、再び適切に合成することができる。
【0013】
本発明の別の観点によれば、上記のレーダ受信機と、レーダアンテナと、前記レーダ受信機が出力した合成出力信号に基づいて目標位置を表示する表示部を、を備えたレーダ装置が提供される。
【0014】
このレーダ装置によれば、広いダイナミックレンジで信号の検出が可能であるから、近くの物標も遠くの物標も安定して検出し、その位置を表示部に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図2】レーダ受信機の各部を流れる信号の波形を模式的に示す図。
【図3】対数増幅・検波部の入出力特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1に示すように、本実施形態に係るレーダ装置1は、レーダアンテナ10と、レーダ受信機11と、図略の送信機と、信号処理部12と、表示部13と、を備えている。
【0017】
レーダアンテナ10は、一定の角速度で回転しながら電波の送信と受信を繰り返す公知の構成である。図略の送信機は、レーダアンテナ10から所定間隔でパルス信号を送信させるように構成されている。レーダ受信機11は、レーダアンテナ10が受信した受信信号を増幅・検波して信号処理部12に出力するように構成されている。信号処理部12は、レーダ受信機11から入力された信号にフィルタリング・閾値処理の適宜の処理を施して、目標の位置などを取得するように構成されている。表示部13は、信号処理部12が取得した情報(周囲の目標の位置など)を、例えばカラー液晶ディスプレイに表示するように構成されている。
【0018】
次に、レーダ受信機11の構成について説明する。レーダ受信機11は、信号の検波を行う検波部16と、検波の前処理として信号の増幅等を行うフロントエンド部15と、から構成されている。
【0019】
フロントエンド部15は、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0(例えば9410MHz)を、第1ライン31を流れる第1高周波信号RF1と、第2ライン32を流れる第2高周波信号RF2と、に分岐させる信号分岐部20を備えている。本実施形態において、信号分岐部20は方向性結合器(例えば結合度3dB)として構成されている。これにより、信号分岐部20は、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0を、信号レベルを殆ど減衰させない第1高周波信号RF1と、大きく減衰させた第2高周波信号RF2と、に分岐させるようになっている。
【0020】
フロントエンド部15の第1ライン31には、低雑音増幅器22と、周波数変換部29が配置されている。
【0021】
低雑音増幅器22は、信号分岐部20から出力された第1高周波信号RF1を増幅して出力する。低雑音増幅器22が出力する信号を、増幅済高周波信号RF3とする。低雑音増幅器22のダイナミックレンジには限界があり、第1高周波信号RF1の信号レベルがある信号レベルを超えると、低雑音増幅器22から出力される増幅済高周波信号RF3の信号レベルが飽和してしまう(図2のRF3のグラフを参照)。低雑音増幅器22の出力が飽和するときの第1高周波信号RF1の信号レベルを、「飽和入力レベル」と呼ぶ。
【0022】
周波数変換部29は、増幅済高周波信号RF3を中間周波数信号IFに変換して出力する。周波数変換部29は、局部発振器信号(例えば9470MHz)を出力する局部発振器24と、ミキサ23と、ローパスフィルタ30と、を備えている。増幅済高周波信号RF3は、ミキサ23において、局部発振器信号とミキシングされる。当該ミキサ23の出力信号は、ローパスフィルタ30においてイメージ周波数信号が除去され、中間周波数信号IF(例えば60MHz)に変換される。この中間周波数信号IFは、検波部16に出力される。
【0023】
一方、フロントエンド部15の第2ライン32には、レベル調整回路26が配置されている。レベル調整回路26は、信号分岐部20において減衰された第2高周波信号RF2の信号レベルを調整して出力する。レベル調整回路26が出力する信号を、レベル調整済高周波信号RF4とする。レベル調整済高周波信号RF4は、検波部16に出力される。
【0024】
検波部16において、第1ライン31にはIF信号対数増幅・検波部(第1検波部)25が、第2ライン32にはRF信号対数増幅・検波部(第2検波部)27が、それぞれ配置されている。また、検波部16は、第1ライン31と第2ライン32の信号を合成する加算部(信号合成部)28を備えている。
【0025】
IF信号対数増幅・検波部25は、第1ライン31の中間周波数信号IFを増幅するとともにエンベロープ検波して、当該エンベロープの波形信号(図2のDS1のグラフを参照)を出力する。当該IF信号対数増幅・検波部25が出力する信号を、第1検波信号DS1とする。一方、RF信号対数増幅・検波部27は、第2ライン32のレベル調整済高周波信号RF4を増幅するとともにエンベロープ検波して、当該エンベロープの波形信号(図2のDS2のグラフを参照)を出力する。当該RF信号対数増幅・検波部27が出力する信号を、第2検波信号DS2とする。
【0026】
ここで、対数増幅・検波部25,27の入力特性は、図3に示すようなものである。検波下限レベル未満の信号は、対数増幅・検波部25,27に入力されても検波することができない。また、検波上限レベル以上の信号が対数増幅・検波部25,27に入力されると、当該対数増幅・検波部25,27から出力される検波信号は飽和する。即ち、対数増幅・検波部25,27は、入力された信号の信号レベルが検波下限レベルと検波上限レベルの間にあるときのみ、正常な検波が可能である。
【0027】
レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0は、信号分岐部20において第1ライン31に分岐させたときに信号レベルを殆ど減衰されず、更に第1ライン31が備える低雑音増幅器22において信号レベルを増幅されている。このように、第1ラインでは信号レベルを増幅しているので、第1ライン31に配置されたIF信号対数増幅・検波部25は、レーダアンテナで受信された高周波信号RF0の信号レベルが微弱な場合であっても検波することが可能である。しかしながら、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0の信号レベルが大きい場合、第1高周波信号RF1の信号レベルが飽和入力レベルを超えてしまい、低雑音増幅器22の出力が飽和してしまう。なお、IF信号対数増幅・検波部25の検波上限レベルは、低雑音増幅器22の出力が飽和したときにIF信号対数増幅・検波部25に入力される中間周波数信号IFの信号レベルよりも高く設定されている(図2のIFのグラフを参照)。従って、第1ライン31においては、低雑音増幅器22の飽和入力レベルが、検波できる信号レベルの上限となる。
【0028】
一方、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0は、信号分岐部20において第2ライン32に分岐させたときに信号レベルを大きく減衰されているので、第2ライン32に配置されたRF信号対数増幅・検波部27は、第1ライン31では飽和してしまうような大レベルの信号であっても検波することができる。
【0029】
そして加算部28は、第1検波信号DS1と第2検波信号DS2とを加算して合成出力信号DS3を出力する。前述のように、第1ライン31では微弱な信号を検波可能であり、第2ライン32では大レベルの信号を検波可能であるから、第1ライン31からの第1検波信号DS1と、第2ライン32からの第2検波信号DS2と、が合成された合成出力信号DS3は、信号レベルが微弱な信号から大レベルの信号までを、広いダイナミックレンジで検波した信号となる。以上のように、信号を減衰させずに検波する第1ライン31と、信号を減衰させて検波する第2ライン32と、を設け、両者の出力を合成することで、レーダ受信機11のダイナミックレンジを拡大することができる。
【0030】
ここで、第1検波信号DS1と第2検波信号DS2とを合成して正しい合成出力信号DS3を得るために、レベル調整回路26は、第1ライン31で検波できる信号レベルの範囲と、第2ライン32で検波できる信号レベルの範囲と、が連続的に接続されるように、第2高周波信号RF2の信号レベルを調整するように構成されている。より具体的には、前記レベル調整回路26は、第1ライン31の検波上限レベル(飽和入力レベル)に対応した第2高周波信号RF2の信号レベルが、第2ライン32の検波下限レベル(RF信号対数増幅・検波部27の検波下限レベル)に一致するように、第2高周波信号RF2の信号レベルを調整して、RF信号対数増幅・検波部27に出力するように構成されている。
【0031】
これによれば、図2に示すように、第1検波信号DS1と第2検波信号DS2とを合成することで得られる合成出力信号DS3の波形は、レーダアンテナで受信された高周波信号RF0のエンベロープ波形に一致する。このように、レベル調整回路26によって適切に信号レベルを調整することで、2つのルートに分岐させた信号を、それぞれ検波した後、再び適切に合成することができる。このようにして得られた合成出力信号DS3が、本実施形態のレーダ受信機11による検波結果として出力される。
【0032】
ところで、上記の第1ライン31は、受信した信号を中間周波数に変換する方式である。周知のように、中間周波数への変換を用いた受信方式は、感度及び安定性が優れており、広く用いられている。一方、中間周波数への変換を行わない受信方式も知られているが、感度や安定性の面では中間周波数への変換を用いる方式に劣る。
【0033】
レーダ装置においては、遠方からの微弱なエコー信号をも検出できるような感度及び安定性が要求されるため、受信信号を中間周波数に変換することが必須と考えられていた。ところが、中間周波数への変換を行うためには、ミキサやローパスフィルタなどが必要となり、回路構成が複雑になりがちである。特許文献1や特許文献2の構成は、受信した信号を主ライン(小信号ライン)と副ライン(大信号ライン)に分岐させているので、ミキサやローパスフィルタも各ルートに必要となり、コストがかさんでいたのである。
【0034】
ところで、特許文献1の構成において、副ラインは、大レベルの信号を検波することを目的としている。大レベルの信号においてはノイズの影響が相対的に小さいため、受信回路の感度や安定性が多少劣っていても問題なく検波することができる。本願発明者らはこの点に着目し、特許文献1の副ラインにおいて中間周波数への変換を省略した場合であっても、レーダ受信機の感度、安定性を確保できることを見いだして、本願発明を完成させた。
【0035】
即ち、本実施形態のレーダ受信機11において、第2ライン32では、レーダアンテナ10が受信した信号を中間周波数へ変換せずに、高周波数のままで直接検波している。このように中間周波数への変換を省略した第2ライン32での検波は、中間周波数への変換を行う第1ライン31での検波に比べて、感度、安定性の面で劣る。しかしながら、第2ライン32においては、大レベルの信号のみを検波できれば良いので、小レベルの信号の検波を目的とした第1ライン31ほどの感度や安定性は必要ない。従って、第2ライン32では中間周波数への変換を省略することができるのである。
【0036】
しかもこのように構成すれば、局部発振器信号を第2ライン32にミキシングするためのミキサが必要なくなるので、第1ライン(主ライン)の信号が、ミキサを介して第2ライン(副ライン)へと回り込んでしまうという特許文献1の問題は発生しない。従って、信号の回り込みを回避するために特許文献2において設けられていた減衰器と増幅器も必要無くなる。また、第2ライン32への信号の回り込みが無くなる結果、当該第2ライン32のNF特性を向上させることが可能となる。
【0037】
また、特許文献1や特許文献2の構成では、第1ライン(主ライン、小信号ルート)で信号を増幅し過ぎると、第2ライン(副ライン、大信号ルート)へ信号が回り込みが大きくなるため、第1ラインにおいて低雑音増幅器の利得を高くするにも限界があった。従って、受信機全体のダイナミックレンジを拡大するにも限界があった。この点、本実施形態のレーダ受信機11においては、信号の回り込みの心配が無くなった結果、第1ライン31に流れる信号のレベルをより一層大きくすることができる(即ち、より利得の高い低雑音増幅器22を用いることができる)。これにより、レーダ受信機11全体の受信感度増大とダイナミックレンジの拡大を実現でき、NF特性を向上させることが可能となる。
【0038】
以上で説明したように、本実施形態のレーダ受信機11は、信号分岐部20と、周波数変換部29と、IF信号対数増幅・検波部25と、RF信号対数増幅・検波部27と、加算部28と、を備える。信号分岐部20は、レーダアンテナ10により受信された高周波信号RF0を、第1ライン31と、第1ライン31よりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ライン32と、に分岐させる。周波数変換部29は、第1ライン31を流れる第1高周波信号RF1を、中間周波数信号IFに変換する。IF信号対数増幅・検波部25は、中間周波数信号IFを検波して第1検波信号を出力する。RF信号対数増幅・検波部27は、第2ライン32を流れる第2高周波信号RF2を検波して第2検波信号を出力する。加算部は、第1検波信号と第2検波信号を合成して合成出力信号として出力する。
【0039】
このように、第1ライン31では中間周波数への変換を行うことにより、感度及び安定性を向上させることができるので、信号レベルの小さい信号でも安定して検波することができる。一方、第2ライン32には、第1ライン31に比べて減衰された信号が流れるので、第1ライン31では飽和してしまうような大レベルの信号を第2ライン32で検波することができる。そして、第2ライン32では大レベルの信号を検波できればよいので、感度や安定性を厳しく要求されないため、上記のように中間周波数への変換を省略することができる。以上のように、第2ライン32において中間周波数への変換を省略することにより、当該第2ライン32ではミキサやローパスフィルタ等を省略できる。これにより、特許文献1に比べて回路を単純化してコストを削減することができる。更に、第2ライン32には上記ミキサ等が必要なくなる結果、第1ライン31の信号がミキサを介して第2ライン32へ回りこんでしまうという特許文献1が有していた問題が発生することはない。これにより、受信感度の増大とNF特性の向上が実現可能になる。しかも、信号の回り込みを防止するために特許文献2が追加していた減衰器及び増幅器が不要となるため、更にコストを削減することができる。
【0040】
また本実施形態のレーダ受信機11は、第1ライン31で検波できる信号レベルの範囲と、第2ライン32で検波できる信号レベルの範囲と、を連続的に接続するように、第2高周波信号RF2の信号レベルを調整するレベル調整回路26を、第2ライン32に備えている。
【0041】
このようにレベル調整回路26によって信号レベルを適切に調整することにより、2つのラインに分岐させた信号をそれぞれ検波した後、再び適切に合成することができる。
【0042】
また、本実施形態のレーダ装置1は、レーダ受信機11と、レーダアンテナ10と、レーダ受信機11が出力した合成出力信号に基づいて目標位置を表示する表示部13を、を備えている。
【0043】
このレーダ装置1によれば、広いダイナミックレンジで信号の検出が可能であるから、近くの物標も、遠くの物標も安定して検出し、その位置を表示部13に表示することができる。
【0044】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0045】
信号レベルの調整を行わなくても第1検波信号DS1と第2検波信号DS2を合成して適切な検波結果が得られる場合は、レベル調整回路26を省略することができる。
【0046】
方向性結合器による信号レベルの減衰が十分でない場合には、第2ライン32に更に減衰器を設けても良い。
【0047】
特許文献1は、副ラインに対して更に方向性結合器を従属接続させて第3のラインに信号を分岐させる構成を開示しているが、本発明の場合も、例えば第2ライン32に対して方向性結合器を従属接続させて、第2高周波信号RF2を第3のラインに分岐させるように構成することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 レーダ装置
10 レーダアンテナ
11 レーダ受信機
12 信号処理部
13 表示部
20 信号分岐部
22 低雑音増幅器
25 IF信号対数増幅・検波部(第1検波部)
26 レベル調整回路
27 RF信号対数増幅・検波部(第2検波部)
28 加算部(信号合成部)
29 周波数変換部
31 第1ライン
32 第2ライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、レーダ装置が備える受信機の回路構成に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、アンテナから電波を送信するとともに、ターゲット等によって反射した電波をアンテナで受信して、当該ターゲットの位置等を検出するように構成されている。ここで、アンテナに近い位置で反射した信号の強度は極めて強く、アンテナから遠い位置で反射した信号の強度は極めて微弱である。従って、アンテナ近傍を含む広い範囲のターゲットをレーダ装置で検出できるようにするためには、受信した信号を増幅・検波する受信回路のダイナミックレンジが極めて広いことが要求される。ところが、信号を増幅するための増幅器等のダイナミックレンジには限界があり、制限を超えた信号が入力されると出力が飽和してしまう。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1は、受信した信号の強度を殆ど減衰させない主ラインと、減衰させる副ラインと、に分岐させたうえで、それぞれのラインで中間周波数に変換した後、両ラインの信号を合成する構成を開示している。特許文献1は、このように信号を分配することで、受信信号のレベルに応じた信号処理が可能になり、広ダイナミックレンジを実現できるとしている。
【0004】
前記特許文献1の構成は、局部発振器の局部信号を主ラインと副ラインに分配するためのミキサを、各ラインに有している。しかしこの構成では、当該ミキサを介して、主ラインの信号が副ラインに回り込んでしまい、副ラインのダイナミックレンジ拡大を阻害するおそれがある。特許文献2は、上記問題点を指摘したうえで、ミキサと局部発信器との間に減衰器及び増幅器を設けることで主ラインの信号が副ラインに回りこむことを防止した構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−137071号公報
【特許文献2】特開2008−215952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成は、中間周波数への変換を行うラインを複数(主ラインと副ライン)設けているため、それぞれのラインでミキサやローパスフィルタ等が必要となり、回路構成が複雑化して受信機が高価になるという欠点がある。特許文献2は、特許文献1の構成に対して更に減衰器及び増幅器を追加する構成であるから、回路構成が更に複雑になりコストも増大してしまう。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、簡単な構成で、広いダイナミックレンジを有するレーダ受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成のレーダ受信機が提供される。即ち、このレーダ受信機は、信号分岐部と、周波数変換部と、第1検波部と、第2検波部と、信号合成部と、を備える。前記信号分岐部は、レーダアンテナにより受信された高周波信号を、第1ラインと、前記第1ラインよりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ラインと、に分岐させる。前記周波数変換部は、前記第1ラインを流れる前記高周波信号を、中間周波数信号に変換する。前記第1検波部は、前記中間周波数信号を検波して第1検波信号を出力する。前記第2検波部は、前記第2ラインを流れる前記高周波信号を検波して第2検波信号を出力する。前記信号合成部は、前記第1検波信号と前記第2検波信号を合成して合成出力信号として出力する。
【0010】
このように、第1ラインでは、中間周波数への変換を行うことにより感度及び安定性を向上させることができるので、信号レベルの小さい信号でも安定して検波することができる。一方、第2ラインには、第1ラインに比べて減衰された信号が流れるので、第1ラインでは飽和してしまうような大レベルの信号を第2ラインで検波することができる。そして、第2ラインでは大レベルの信号を検波できればよいので、感度や安定性を厳しく要求されないため、上記のように中間周波数への変換を省略することができる。以上のように、第2ラインにおいて中間周波数への変換を省略することができるので、当該第2ラインではミキサやローパスフィルタ等を省略できる。これにより、特許文献1に比べて回路を単純化してコストを削減することができる。更に、第2ラインに上記ミキサ等が必要なくなる結果、第1ラインの信号がミキサを介して第2ラインへ回りこんでしまうという特許文献1が有していた問題が発生することはない。これにより、受信感度の増大とNF特性の向上が実現可能になる。しかも、信号の回り込みを防止するために特許文献2が追加していた減衰器及び増幅器が不要となるため、更にコストを削減することができる。
【0011】
上記のレーダ受信機においては、前記第1ラインで検波できる信号レベルの範囲と、前記第2ラインで検波できる信号レベルの範囲と、を連続的に接続するように、前記信号分岐部が出力する前記高周波信号の信号レベルを調整するレベル調整回路を、前記第2ラインに備えることが好ましい。
【0012】
このようにレベル調整回路によって信号レベルを適切に調整することにより、2つのラインに分岐させた信号をそれぞれ検波した後、再び適切に合成することができる。
【0013】
本発明の別の観点によれば、上記のレーダ受信機と、レーダアンテナと、前記レーダ受信機が出力した合成出力信号に基づいて目標位置を表示する表示部を、を備えたレーダ装置が提供される。
【0014】
このレーダ装置によれば、広いダイナミックレンジで信号の検出が可能であるから、近くの物標も遠くの物標も安定して検出し、その位置を表示部に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図2】レーダ受信機の各部を流れる信号の波形を模式的に示す図。
【図3】対数増幅・検波部の入出力特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1に示すように、本実施形態に係るレーダ装置1は、レーダアンテナ10と、レーダ受信機11と、図略の送信機と、信号処理部12と、表示部13と、を備えている。
【0017】
レーダアンテナ10は、一定の角速度で回転しながら電波の送信と受信を繰り返す公知の構成である。図略の送信機は、レーダアンテナ10から所定間隔でパルス信号を送信させるように構成されている。レーダ受信機11は、レーダアンテナ10が受信した受信信号を増幅・検波して信号処理部12に出力するように構成されている。信号処理部12は、レーダ受信機11から入力された信号にフィルタリング・閾値処理の適宜の処理を施して、目標の位置などを取得するように構成されている。表示部13は、信号処理部12が取得した情報(周囲の目標の位置など)を、例えばカラー液晶ディスプレイに表示するように構成されている。
【0018】
次に、レーダ受信機11の構成について説明する。レーダ受信機11は、信号の検波を行う検波部16と、検波の前処理として信号の増幅等を行うフロントエンド部15と、から構成されている。
【0019】
フロントエンド部15は、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0(例えば9410MHz)を、第1ライン31を流れる第1高周波信号RF1と、第2ライン32を流れる第2高周波信号RF2と、に分岐させる信号分岐部20を備えている。本実施形態において、信号分岐部20は方向性結合器(例えば結合度3dB)として構成されている。これにより、信号分岐部20は、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0を、信号レベルを殆ど減衰させない第1高周波信号RF1と、大きく減衰させた第2高周波信号RF2と、に分岐させるようになっている。
【0020】
フロントエンド部15の第1ライン31には、低雑音増幅器22と、周波数変換部29が配置されている。
【0021】
低雑音増幅器22は、信号分岐部20から出力された第1高周波信号RF1を増幅して出力する。低雑音増幅器22が出力する信号を、増幅済高周波信号RF3とする。低雑音増幅器22のダイナミックレンジには限界があり、第1高周波信号RF1の信号レベルがある信号レベルを超えると、低雑音増幅器22から出力される増幅済高周波信号RF3の信号レベルが飽和してしまう(図2のRF3のグラフを参照)。低雑音増幅器22の出力が飽和するときの第1高周波信号RF1の信号レベルを、「飽和入力レベル」と呼ぶ。
【0022】
周波数変換部29は、増幅済高周波信号RF3を中間周波数信号IFに変換して出力する。周波数変換部29は、局部発振器信号(例えば9470MHz)を出力する局部発振器24と、ミキサ23と、ローパスフィルタ30と、を備えている。増幅済高周波信号RF3は、ミキサ23において、局部発振器信号とミキシングされる。当該ミキサ23の出力信号は、ローパスフィルタ30においてイメージ周波数信号が除去され、中間周波数信号IF(例えば60MHz)に変換される。この中間周波数信号IFは、検波部16に出力される。
【0023】
一方、フロントエンド部15の第2ライン32には、レベル調整回路26が配置されている。レベル調整回路26は、信号分岐部20において減衰された第2高周波信号RF2の信号レベルを調整して出力する。レベル調整回路26が出力する信号を、レベル調整済高周波信号RF4とする。レベル調整済高周波信号RF4は、検波部16に出力される。
【0024】
検波部16において、第1ライン31にはIF信号対数増幅・検波部(第1検波部)25が、第2ライン32にはRF信号対数増幅・検波部(第2検波部)27が、それぞれ配置されている。また、検波部16は、第1ライン31と第2ライン32の信号を合成する加算部(信号合成部)28を備えている。
【0025】
IF信号対数増幅・検波部25は、第1ライン31の中間周波数信号IFを増幅するとともにエンベロープ検波して、当該エンベロープの波形信号(図2のDS1のグラフを参照)を出力する。当該IF信号対数増幅・検波部25が出力する信号を、第1検波信号DS1とする。一方、RF信号対数増幅・検波部27は、第2ライン32のレベル調整済高周波信号RF4を増幅するとともにエンベロープ検波して、当該エンベロープの波形信号(図2のDS2のグラフを参照)を出力する。当該RF信号対数増幅・検波部27が出力する信号を、第2検波信号DS2とする。
【0026】
ここで、対数増幅・検波部25,27の入力特性は、図3に示すようなものである。検波下限レベル未満の信号は、対数増幅・検波部25,27に入力されても検波することができない。また、検波上限レベル以上の信号が対数増幅・検波部25,27に入力されると、当該対数増幅・検波部25,27から出力される検波信号は飽和する。即ち、対数増幅・検波部25,27は、入力された信号の信号レベルが検波下限レベルと検波上限レベルの間にあるときのみ、正常な検波が可能である。
【0027】
レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0は、信号分岐部20において第1ライン31に分岐させたときに信号レベルを殆ど減衰されず、更に第1ライン31が備える低雑音増幅器22において信号レベルを増幅されている。このように、第1ラインでは信号レベルを増幅しているので、第1ライン31に配置されたIF信号対数増幅・検波部25は、レーダアンテナで受信された高周波信号RF0の信号レベルが微弱な場合であっても検波することが可能である。しかしながら、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0の信号レベルが大きい場合、第1高周波信号RF1の信号レベルが飽和入力レベルを超えてしまい、低雑音増幅器22の出力が飽和してしまう。なお、IF信号対数増幅・検波部25の検波上限レベルは、低雑音増幅器22の出力が飽和したときにIF信号対数増幅・検波部25に入力される中間周波数信号IFの信号レベルよりも高く設定されている(図2のIFのグラフを参照)。従って、第1ライン31においては、低雑音増幅器22の飽和入力レベルが、検波できる信号レベルの上限となる。
【0028】
一方、レーダアンテナ10で受信された高周波信号RF0は、信号分岐部20において第2ライン32に分岐させたときに信号レベルを大きく減衰されているので、第2ライン32に配置されたRF信号対数増幅・検波部27は、第1ライン31では飽和してしまうような大レベルの信号であっても検波することができる。
【0029】
そして加算部28は、第1検波信号DS1と第2検波信号DS2とを加算して合成出力信号DS3を出力する。前述のように、第1ライン31では微弱な信号を検波可能であり、第2ライン32では大レベルの信号を検波可能であるから、第1ライン31からの第1検波信号DS1と、第2ライン32からの第2検波信号DS2と、が合成された合成出力信号DS3は、信号レベルが微弱な信号から大レベルの信号までを、広いダイナミックレンジで検波した信号となる。以上のように、信号を減衰させずに検波する第1ライン31と、信号を減衰させて検波する第2ライン32と、を設け、両者の出力を合成することで、レーダ受信機11のダイナミックレンジを拡大することができる。
【0030】
ここで、第1検波信号DS1と第2検波信号DS2とを合成して正しい合成出力信号DS3を得るために、レベル調整回路26は、第1ライン31で検波できる信号レベルの範囲と、第2ライン32で検波できる信号レベルの範囲と、が連続的に接続されるように、第2高周波信号RF2の信号レベルを調整するように構成されている。より具体的には、前記レベル調整回路26は、第1ライン31の検波上限レベル(飽和入力レベル)に対応した第2高周波信号RF2の信号レベルが、第2ライン32の検波下限レベル(RF信号対数増幅・検波部27の検波下限レベル)に一致するように、第2高周波信号RF2の信号レベルを調整して、RF信号対数増幅・検波部27に出力するように構成されている。
【0031】
これによれば、図2に示すように、第1検波信号DS1と第2検波信号DS2とを合成することで得られる合成出力信号DS3の波形は、レーダアンテナで受信された高周波信号RF0のエンベロープ波形に一致する。このように、レベル調整回路26によって適切に信号レベルを調整することで、2つのルートに分岐させた信号を、それぞれ検波した後、再び適切に合成することができる。このようにして得られた合成出力信号DS3が、本実施形態のレーダ受信機11による検波結果として出力される。
【0032】
ところで、上記の第1ライン31は、受信した信号を中間周波数に変換する方式である。周知のように、中間周波数への変換を用いた受信方式は、感度及び安定性が優れており、広く用いられている。一方、中間周波数への変換を行わない受信方式も知られているが、感度や安定性の面では中間周波数への変換を用いる方式に劣る。
【0033】
レーダ装置においては、遠方からの微弱なエコー信号をも検出できるような感度及び安定性が要求されるため、受信信号を中間周波数に変換することが必須と考えられていた。ところが、中間周波数への変換を行うためには、ミキサやローパスフィルタなどが必要となり、回路構成が複雑になりがちである。特許文献1や特許文献2の構成は、受信した信号を主ライン(小信号ライン)と副ライン(大信号ライン)に分岐させているので、ミキサやローパスフィルタも各ルートに必要となり、コストがかさんでいたのである。
【0034】
ところで、特許文献1の構成において、副ラインは、大レベルの信号を検波することを目的としている。大レベルの信号においてはノイズの影響が相対的に小さいため、受信回路の感度や安定性が多少劣っていても問題なく検波することができる。本願発明者らはこの点に着目し、特許文献1の副ラインにおいて中間周波数への変換を省略した場合であっても、レーダ受信機の感度、安定性を確保できることを見いだして、本願発明を完成させた。
【0035】
即ち、本実施形態のレーダ受信機11において、第2ライン32では、レーダアンテナ10が受信した信号を中間周波数へ変換せずに、高周波数のままで直接検波している。このように中間周波数への変換を省略した第2ライン32での検波は、中間周波数への変換を行う第1ライン31での検波に比べて、感度、安定性の面で劣る。しかしながら、第2ライン32においては、大レベルの信号のみを検波できれば良いので、小レベルの信号の検波を目的とした第1ライン31ほどの感度や安定性は必要ない。従って、第2ライン32では中間周波数への変換を省略することができるのである。
【0036】
しかもこのように構成すれば、局部発振器信号を第2ライン32にミキシングするためのミキサが必要なくなるので、第1ライン(主ライン)の信号が、ミキサを介して第2ライン(副ライン)へと回り込んでしまうという特許文献1の問題は発生しない。従って、信号の回り込みを回避するために特許文献2において設けられていた減衰器と増幅器も必要無くなる。また、第2ライン32への信号の回り込みが無くなる結果、当該第2ライン32のNF特性を向上させることが可能となる。
【0037】
また、特許文献1や特許文献2の構成では、第1ライン(主ライン、小信号ルート)で信号を増幅し過ぎると、第2ライン(副ライン、大信号ルート)へ信号が回り込みが大きくなるため、第1ラインにおいて低雑音増幅器の利得を高くするにも限界があった。従って、受信機全体のダイナミックレンジを拡大するにも限界があった。この点、本実施形態のレーダ受信機11においては、信号の回り込みの心配が無くなった結果、第1ライン31に流れる信号のレベルをより一層大きくすることができる(即ち、より利得の高い低雑音増幅器22を用いることができる)。これにより、レーダ受信機11全体の受信感度増大とダイナミックレンジの拡大を実現でき、NF特性を向上させることが可能となる。
【0038】
以上で説明したように、本実施形態のレーダ受信機11は、信号分岐部20と、周波数変換部29と、IF信号対数増幅・検波部25と、RF信号対数増幅・検波部27と、加算部28と、を備える。信号分岐部20は、レーダアンテナ10により受信された高周波信号RF0を、第1ライン31と、第1ライン31よりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ライン32と、に分岐させる。周波数変換部29は、第1ライン31を流れる第1高周波信号RF1を、中間周波数信号IFに変換する。IF信号対数増幅・検波部25は、中間周波数信号IFを検波して第1検波信号を出力する。RF信号対数増幅・検波部27は、第2ライン32を流れる第2高周波信号RF2を検波して第2検波信号を出力する。加算部は、第1検波信号と第2検波信号を合成して合成出力信号として出力する。
【0039】
このように、第1ライン31では中間周波数への変換を行うことにより、感度及び安定性を向上させることができるので、信号レベルの小さい信号でも安定して検波することができる。一方、第2ライン32には、第1ライン31に比べて減衰された信号が流れるので、第1ライン31では飽和してしまうような大レベルの信号を第2ライン32で検波することができる。そして、第2ライン32では大レベルの信号を検波できればよいので、感度や安定性を厳しく要求されないため、上記のように中間周波数への変換を省略することができる。以上のように、第2ライン32において中間周波数への変換を省略することにより、当該第2ライン32ではミキサやローパスフィルタ等を省略できる。これにより、特許文献1に比べて回路を単純化してコストを削減することができる。更に、第2ライン32には上記ミキサ等が必要なくなる結果、第1ライン31の信号がミキサを介して第2ライン32へ回りこんでしまうという特許文献1が有していた問題が発生することはない。これにより、受信感度の増大とNF特性の向上が実現可能になる。しかも、信号の回り込みを防止するために特許文献2が追加していた減衰器及び増幅器が不要となるため、更にコストを削減することができる。
【0040】
また本実施形態のレーダ受信機11は、第1ライン31で検波できる信号レベルの範囲と、第2ライン32で検波できる信号レベルの範囲と、を連続的に接続するように、第2高周波信号RF2の信号レベルを調整するレベル調整回路26を、第2ライン32に備えている。
【0041】
このようにレベル調整回路26によって信号レベルを適切に調整することにより、2つのラインに分岐させた信号をそれぞれ検波した後、再び適切に合成することができる。
【0042】
また、本実施形態のレーダ装置1は、レーダ受信機11と、レーダアンテナ10と、レーダ受信機11が出力した合成出力信号に基づいて目標位置を表示する表示部13を、を備えている。
【0043】
このレーダ装置1によれば、広いダイナミックレンジで信号の検出が可能であるから、近くの物標も、遠くの物標も安定して検出し、その位置を表示部13に表示することができる。
【0044】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0045】
信号レベルの調整を行わなくても第1検波信号DS1と第2検波信号DS2を合成して適切な検波結果が得られる場合は、レベル調整回路26を省略することができる。
【0046】
方向性結合器による信号レベルの減衰が十分でない場合には、第2ライン32に更に減衰器を設けても良い。
【0047】
特許文献1は、副ラインに対して更に方向性結合器を従属接続させて第3のラインに信号を分岐させる構成を開示しているが、本発明の場合も、例えば第2ライン32に対して方向性結合器を従属接続させて、第2高周波信号RF2を第3のラインに分岐させるように構成することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 レーダ装置
10 レーダアンテナ
11 レーダ受信機
12 信号処理部
13 表示部
20 信号分岐部
22 低雑音増幅器
25 IF信号対数増幅・検波部(第1検波部)
26 レベル調整回路
27 RF信号対数増幅・検波部(第2検波部)
28 加算部(信号合成部)
29 周波数変換部
31 第1ライン
32 第2ライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダアンテナにより受信された高周波信号を、第1ラインと、前記第1ラインよりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ラインと、に分岐させる信号分岐部と、
前記第1ラインを流れる前記高周波信号を、中間周波数信号に変換する周波数変換部と、
前記中間周波数信号を検波して第1検波信号を出力する第1検波部と、
前記第2ラインを流れる前記高周波信号を検波して第2検波信号を出力する第2検波部と、
前記第1検波信号と前記第2検波信号を合成して合成出力信号として出力する信号合成部と、
を備えることを特徴とするレーダ受信機。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ受信機であって、
前記第1ラインで検波できる信号レベルの範囲と、前記第2ラインで検波できる信号レベルの範囲と、を連続的に接続するように、前記信号分岐部が出力する前記高周波信号の信号レベルを調整するレベル調整回路を、前記第2ラインに備えることを特徴とするレーダ受信機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーダ受信機と、
レーダアンテナと、
前記レーダ受信機が出力した前記合成出力信号に基づいて目標位置を表示する表示部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項1】
レーダアンテナにより受信された高周波信号を、第1ラインと、前記第1ラインよりも信号レベルを減衰させた信号が流れる第2ラインと、に分岐させる信号分岐部と、
前記第1ラインを流れる前記高周波信号を、中間周波数信号に変換する周波数変換部と、
前記中間周波数信号を検波して第1検波信号を出力する第1検波部と、
前記第2ラインを流れる前記高周波信号を検波して第2検波信号を出力する第2検波部と、
前記第1検波信号と前記第2検波信号を合成して合成出力信号として出力する信号合成部と、
を備えることを特徴とするレーダ受信機。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ受信機であって、
前記第1ラインで検波できる信号レベルの範囲と、前記第2ラインで検波できる信号レベルの範囲と、を連続的に接続するように、前記信号分岐部が出力する前記高周波信号の信号レベルを調整するレベル調整回路を、前記第2ラインに備えることを特徴とするレーダ受信機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーダ受信機と、
レーダアンテナと、
前記レーダ受信機が出力した前記合成出力信号に基づいて目標位置を表示する表示部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2012−167960(P2012−167960A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27723(P2011−27723)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】
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