説明

レーダ断面積の計測方法、及びレーダ断面積の計測装置

【課題】 レーダ断面積計測を実施する際に、計測目標と対比するための既知のレーダ断面積を有する基準目標のレーダ反射特性のみを計測し、校正の基準となる信号源からの放射信号を用いた校正を実施することで、高精度に計測目標のレーダ断面積を計測する。
【解決手段】 送受信アンテナから等距離となる位置に、基準目標以外の不要物が存在しないように、送受信アンテナからの距離が気球とは異なる位置で、基準目標を気球に懸吊して、そのレーダ断面積を計測するとともに、基準信号送信ユニットを気球に取り付けて、基準信号送信ユニットからの信号を用いて、レーダ断面積の計測値の校正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ断面積の測定を行う計測方法およびその計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ断面積を計測する計測目標に電波を照射し、その目標のレーダ断面積を計測する方法に関しては、既に各種の方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2000−206230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーダ断面積の計測においては、例えば導体球や金属平板のようにレーダ断面積が既知である基準目標についての計測値と、レーダ断面積を計測したい計測目標の計測値との比較を行うことにより、計測目標のレーダ断面積を算出する方法が一般的である。また、レーダ断面積を計測する際には、計測目標のレーダ断面積の計測に影響を及ぼさないようなレーダ断面積の小さな支持構造を設置し、その上に基準目標を設置して、基準目標からのレーダ断面積を計測する。
【0005】
しかし、例えば海面上の船のレーダ断面積を計測する場合、海上に安定して固定可能な低レーダ断面積の基準目標を設置することは困難なため、気球を空中に浮遊させて、基準目標を気球に取り付けて空中に吊下げることで、基準目標を支持している。図5は、基準目標を気球に吊り下げた状況を例示する図であり、(a)は側面図、(b)は上面図を示している。図5において、基準目標2は、ケーブル9によって気球3から吊り下げられ、ケーブル8によって地上から牽引されている。そして、レーダ断面積計測装置50を用いることで、基準目標と計測目標である船のレーダ断面積を計測する。なお、図5の符号10は、レーダ断面積計測装置50の送受信アンテナ1からの等距離線を示している。
【0006】
この場合、図5の等距離線10を見てわかる通り、基準目標2と気球3が送受信アンテナ1から等距離となっており、気球3のレーダ断面積と基準目標2のレーダ断面積を分離することができない。このため、基準目標2のレーダ断面積を正しく計測することが困難となるという問題があった。また、この基準目標2の計測値を取得する際に、基準目標2と基準目標2を支持する構造(ケーブル8、9)との間で不要散乱波が発生し、この不要散乱波により、基準目標2のレーダ断面積値を計測する際の計測値が変動してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるレーダ断面積の計測方法は、レーダ断面積の既知な基準目標を、複数の気球により送信アンテナから距離の異なる位置に懸吊するステップ、上記送信アンテナから上記基準目標に電波を照射して、上記基準目標のレーダ断面積を計測し、計測した基準目標のレーダ断面積と基準目標の既知のレーダ断面積を基にレーダ断面積の計測校正値を得るステップ、上記基準目標を除いた状態で上記送信アンテナから計測目標に電波を照射し、計測目標のレーダ断面積を計測して、計測したレーダ断面積を上記計測校正値で補正することで、計測目標のレーダ断面積を求めるステップ、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、レーダ断面積を計測する際に、計測目標と対比するための既知のレーダ断面積を有する基準目標のレーダ反射特性のみを計測して、レーダ断面積の計測校正値を得ることができるので、計測目標のレーダ断面積を精度良く計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明に係る実施の形態1による、レーダ断面積の計測装置を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による、レーダ断面積の計測フローを示す図である。
【図3】この発明に係る実施の形態1による、背景の計測状況を示す図である。
【図4】この発明に係る実施の形態1による、計測目標の計測状況を示す図
【図5】従来の基準目標のレーダ断面積の計測方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る実施の形態1によるレーダ断面積の計測装置を示す図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。図において、レーダ断面積の計測装置100は、送受信アンテナ1と、送受信機4と、計算機5と、基準信号送信ユニット6と、GPSシステム7と、基準目標2と、気球3から構成される。
【0011】
送受信アンテナ1は、計測目標に電波を照射する送信アンテナと、その電波が計測目標によって反射し、その反射電波を受信する受信アンテナとから構成される。基準目標2は、レーダ断面積の既知な目標であり、例えばレーダ断面積が下記の数1式より算出できる導体球のような物体である。
【0012】
【数1】

【0013】
気球3は空中を浮遊し、基準目標2を懸吊する。基準目標2は、2つ以上の複数の気球3から、低レーダ断面積の誘電体ワイヤ9によってそれぞれ吊り下げられる。図の例では、一方の気球3と基準目標2とを結ぶ誘電体ワイヤ9と、他方の気球3と基準目標2とを結ぶ誘電体ワイヤ9とのなす角度は、所定の角度(例えば鈍角)となっている。なお、気球3の個数についての制約は無く、基準目標2を、複数の気球から空中の一点に固定することができればよい。
【0014】
また、気球3は、ワイヤ8によって地上に接続されている。ワイヤ8は、気球3を空中に固定するためのであり、1本のワイヤの一端は気球3に固定され、1本のワイヤの他端は地面の任意の場所に固定することが可能な、例えばフックのような係留機構を有する。また、このワイヤ8の本数についての制約は無く、気球を空中の一点に固定することができ、かつ基準目標2と等距離に存在しないような配置を得ることができれば良い。さらに、ワイヤ以外に鉄柱を使用して気球3を固定するような他の代替手段を用いてもよい。
【0015】
送受信機4は、例えばベクトルネットワークアナライザのS21法を用いて、計測結果を出力可能な装置である。計算機5は、送受信機4の出力を用いて、計測目標のレーダ断面積を算出するためのソフトウェアを備えている。GPSシステム7は、GPS信号を受信し、受信時刻と自己位置を正確に計測し、その計測した時刻と位置を記録装置に保存する。GPSシステム7を用いることによって、送受信アンテナ1の位置を正確に計測することができる。
【0016】
基準信号送信ユニット6は、気球3の下部に取り付けられる。基準信号送信ユニット6は、基準信号の送信出力を可変することのできる信号源と、送信アンテナと、外部制御を行うための通信機能と、GPSユニットと、記録装置を備えている。基準信号送信ユニット6は、外部制御によって、基準信号の送信開始、基準信号の送信中止、基準信号出力の大きさの可変などの各種制御を行うことが可能である。また、基準信号送信ユニット6は、そのGPSユニットによってGPS信号を受信し、受信時刻と自己位置を正確に計測するとともに、その計測した時刻と位置を記録装置に保存する。基準信号送信ユニット6は、GPSユニットを有することにより、自己位置を正確に計測することができる。
【0017】
図1(a)の側面図と、図1(b)の上面図から明らかな通り、送受信アンテナ1と基準目標2の間には遮蔽物が無く、送受信アンテナ1から送信される電波を、基準目標2に確実に照射することができる。また、基準目標2と等距離となる位置には気球3のような不要物が介在しないような配置となっている。このため、基準目標2を支持する構造物の影響を受けることなく、基準目標2のみのレーダ断面積を計測することができるので、基準目標2を用いたレーダ断面積の計測精度が向上する。
【0018】
図2は、実施の形態1によるレーダ断面積の計測フローを示す図である。図3は、実施の形態1による、背景計測の状況を示す図であり、図3(a)は側面図、図3(b)は上面図である。図4は、実施の形態1による、計測目標7の計測状況を示す図であり、図4(a)は側面図、図4(b)は上面図である。以下、図1乃至4を用いて、実施の形態1によるレーダ断面積の計測方法について説明する。
【0019】
まず、背景計測を行うステップS1について説明する。S1では、図3に示すように、空間上に基準目標2、計測目標7等を配置しない状態で、送受信アンテナ1から電波を放射し、背景によって反射した反射波を、送受信アンテナ1で受信し、レーダ断面積計測時の背景計測値を得る。
【0020】
次に、基準信号の計測を行うステップS2について説明する。図1において、S2では、基準信号送信ユニット6から、所望の大きさの出力で信号を放射し、それを送受信アンテナ1で受信する。このとき、送受信アンテナ1からは信号を出力せず、送受信アンテナ1は基準信号送信ユニット6からの送信信号のみを受信する。このとき、基準信号送信ユニット6に備えたGPSユニットで得られた基準信号送信ユニット6の位置情報(位置座標)と、GPSシステム7で得られた送受信アンテナ1の位置情報(位置座標)とから、基準信号送信ユニット6と送受信アンテナ1の間の距離Rを算出する。また、このとき、送受信アンテナ1での受信電力の理論値は、基準信号送信ユニット6の送信電力をP、アンテナゲインをG、送受信アンテナ1の有効開口面積をAとすると、下記の数2式で表現される。
【0021】
【数2】

【0022】
この受信電力の理論値と、実際に送受信アンテナ1で計測した計測値とを比較し、一致した場合には、計測系は正しく動作しているため、計測を次のステップに進める。また、一致しない場合には、気球3の位置や高さを変更することにより、基準信号送信ユニット6の位置を変え、再度背景計測値の取得からやり直す。
【0023】
次に、基準目標の計測を行うステップS3について説明する。図1において、S3では、基準目標2の計測値を取得する。基準目標2の計測時には、基準信号送信ユニット6からは信号を出さず、送受信アンテナ1から電波を放射し、基準目標2によって反射した反射波を送受信アンテナ1で受信し、基準目標2の計測値を得る。
【0024】
次に、計算機5により、基準目標2の計測値から、背景計測値を、振幅及び位相を考慮したベクトルで減算する。この減算により得られた生データXから、図1の形態で設置される基準目標2について、理論式1より算出したレーダ断面積を減算し、レーダ断面積計測用補正値Y(計測校正値)を算出する。これら算出式は、例えば次の数3式のように表現される。
【0025】
【数3】

【0026】
次に、計測目標7のレーダ断面積の計測を行うステップS4について説明する。S4にて、図4に示すように、基準目標2及び気球3が除かれた状況で、計測目標7のレーダ断面積計測値を取得する。このとき、計測目標7は、基準目標2が存在していた位置を通過したときに、レーダ断面積の計測値を得る。
【0027】
最後に、ステップS5にて、計算機5により、計測目標7のレーダ断面積計測値からレーダ断面積計測用補正値Y(計測校正値)を減算することにより、次の数4式に示すように計測目標7のレーダ断面積Zを得る。
【0028】
【数4】

【0029】
以上説明した通り、実施の形態1によるレーダ断面積計測方法は、レーダ断面積の既知な基準目標を、複数の気球により送信アンテナから距離の異なる位置に懸吊するステップと、上記送信アンテナから上記基準目標に電波を照射して、上記基準目標のレーダ断面積を計測し、計測した基準目標のレーダ断面積と基準目標の既知のレーダ断面積を基にレーダ断面積の計測校正値を得るステップと、上記基準目標を除いた状態で上記送信アンテナから計測目標に電波を照射し、計測目標のレーダ断面積を計測して、計測したレーダ断面積を上記計測校正値で補正することで、計測目標のレーダ断面積を求めるステップと、を備えたものである。
【0030】
また、実施の形態1によるレーダ断面積計測装置は、電波を照射する送信アンテナと、上記送信アンテナから照射した電波が目標で反射した反射電波を受信する受信アンテナと、上記受信アンテナの位置を計測するGPSシステムと、レーダ断面積の既知な基準目標と、上記基準目標を、上記送信アンテナからの距離の異なる位置からそれぞれ懸吊する複数の気球と、上記気球に取り付けられ、自己位置を計測するGPSユニット及び基準信号を送信する送信アンテナを有した基準信号送信ユニットと、上記基準信号送信ユニットで計測した自己位置と上記GPSシステムで計測した受信アンテナの位置、及び上記基準信号送信ユニットからの基準信号を受信した上記受信アンテナの受信信号に基づいて上記気球の位置を調整した後、上記送信アンテナから上記基準目標に電波を照射して上記基準目標のレーダ断面積を計測し、計測した基準目標のレーダ断面積と基準目標の既知のレーダ断面積を基にレーダ断面積の計測校正値を得てから、上記基準目標を除いた状態で上記送信アンテナから計測目標に電波を照射し、計測目標のレーダ断面積を計測して、計測したレーダ断面積を上記計測校正値で補正する処理を行う計算機と、を備えたことを特徴とする。
【0031】
このように、レーダ断面積を計測する際に、計測目標と対比するための既知のレーダ断面積を有する基準目標のレーダ反射特性のみを計測して、レーダ断面積の計測校正値を得ることができるので、計測目標のレーダ断面積を精度良く計測することが可能となる。
【0032】
実施の形態1によるレーダ断面積計測方法は、車輌、船舶、航空機等、一般的な計測目標のレーダ断面積計測にも使用可能であり、汎用性が高い。
【符号の説明】
【0033】
1 送受信アンテナ、 2 基準目標、 3 気球、 4 送受信機、 5 計算機、 6 基準信号送信ユニット、 7 GPSシステム、 8 ワイヤ、 9 ワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ断面積の既知な基準目標を、複数の気球により送信アンテナから距離の異なる位置に懸吊するステップ、
上記送信アンテナから上記基準目標に電波を照射して、上記基準目標のレーダ断面積を計測し、計測した基準目標のレーダ断面積と基準目標の既知のレーダ断面積を基にレーダ断面積の計測校正値を得るステップ、
上記基準目標を除いた状態で上記送信アンテナから計測目標に電波を照射し、計測目標のレーダ断面積を計測して、計測したレーダ断面積を上記計測校正値で補正することで、計測目標のレーダ断面積を求めるステップ、
を備えたレーダ断面積の計測方法。
【請求項2】
レーダ断面積の既知な基準目標を、複数の気球により送信アンテナから距離の異なる位置に懸吊するステップ、
上記気球に取り付けられた位置が既知の基準信号送信ユニットからの送信信号を、位置が既知の受信アンテナで受信して、既知の距離と受信アンテナの受信信号から計測した距離とを基に、上記気球の位置を調整するステップ、
上記送信アンテナから上記基準目標に電波を照射して、上記基準目標のレーダ断面積を計測し、計測した基準目標のレーダ断面積と基準目標の既知のレーダ断面積を基にレーダ断面積の計測校正値を得るステップ、
上記基準目標を除いた状態で上記送信アンテナから計測目標に電波を照射し、計測目標のレーダ断面積を計測して、計測したレーダ断面積を上記計測校正値で補正することで、計測目標のレーダ断面積を求めるステップ、
を備えたレーダ断面積の計測方法。
【請求項3】
電波を照射する送信アンテナと、
上記送信アンテナから照射した電波が目標で反射した反射電波を受信する受信アンテナと、
レーダ断面積の既知な基準目標と、
上記基準目標を、上記送信アンテナからの距離の異なる位置からそれぞれ懸吊する複数の気球と、
上記送信アンテナから上記基準目標に電波を照射して上記基準目標のレーダ断面積を計測し、計測した基準目標のレーダ断面積と基準目標の既知のレーダ断面積を基にレーダ断面積の計測校正値を得た後、上記基準目標を除いた状態で上記送信アンテナから計測目標に電波を照射し、計測目標のレーダ断面積を計測して、計測したレーダ断面積を上記計測校正値で補正する処理を行う計算機と、
を備えたレーダ断面積計測装置。
【請求項4】
電波を照射する送信アンテナと、
上記送信アンテナから照射した電波が目標で反射した反射電波を受信する受信アンテナと、
上記受信アンテナの位置を計測するGPSシステムと、
レーダ断面積の既知な基準目標と、
上記基準目標を、上記送信アンテナからの距離の異なる位置からそれぞれ懸吊する複数の気球と、
上記気球に取り付けられ、自己位置を計測するGPSユニット及び基準信号を送信する送信アンテナを有した基準信号送信ユニットと、
上記基準信号送信ユニットで計測した自己位置と上記GPSシステムで計測した受信アンテナの位置、及び上記基準信号送信ユニットからの基準信号を受信した上記受信アンテナの受信信号に基づいて上記気球の位置を調整した後、上記送信アンテナから上記基準目標に電波を照射して上記基準目標のレーダ断面積を計測し、計測した基準目標のレーダ断面積と基準目標の既知のレーダ断面積を基にレーダ断面積の計測校正値を得てから、上記基準目標を除いた状態で上記送信アンテナから計測目標に電波を照射し、計測目標のレーダ断面積を計測して、計測したレーダ断面積を上記計測校正値で補正する処理を行う計算機と、
を備えたレーダ断面積計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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