説明

レーダ装置、およびレーダ装置に適用される移動目標検出方法

【課題】送信波としてマルチキャリア波形を利用し、高速移動体にも対応可能であり、かつ、マルチパスや妨害波などの検出・抑圧を行う。
【解決手段】送信波形生成部と、各素子アンテナの受信信号をサブキャリア帯域毎に分波する分波部と、分波されたサブキャリア信号を同じ周波数配置にあるサブキャリア信号ごとに合成する信号合成部と、目標検出部とを備え、目標の推定速度情報に基づいてマルチキャリア送信波のサブキャリア数およびサブキャリア間隔を設定する速度推定部をさらに備え、送信波形生成部は、サブキャリア数およびサブキャリア間隔に従ってマルチキャリア送信波を生成し、分波部は、サブキャリア数およびサブキャリア間隔に従って、サブキャリアを配置した帯域のサブキャリア信号からなる第1信号群を抽出し、目標検出部は、第1信号群に関する合成処理結果から目標を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標の移動速度情報に基づき適応的に送信波形を制御し、その送信波形に関する情報を利用して受信信号に処理を施すことで、目標の検出性能および干渉抑圧性能を向上させるレーダ装置、およびレーダ装置に適用される移動目標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
捜索レーダにとって、できるだけ遠方のターゲット(目標)を検出し、捕捉することが重要である。レーダの代表的な測距方式としては、パルス圧縮方式、あるいはFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式が知られている。これらは、それぞれ時間遅延、周波数で距離を計測するという原理に基づいている。
【0003】
パルス圧縮方式は、クラッタ抑圧性能や干渉抑圧性能に優れる。しかしながら、高速の相関処理演算が必要であり、高い距離分解能を必要とする場合には、信号処理系の規模が大きくなるという課題がある。
【0004】
一方、FMCW方式は、比較的低速の信号処理で、高い距離分解能が得られる方式であり、低コスト化が必要なレーダ装置において多く採用されている。しかしながら、FMCW方式は、送信波がCWであるがゆえに、送受のアイソレーション問題、伝播損失の小さい近距離の不要反射物からの不要波(クラッタ)問題がある。
【0005】
また、近年では、地上ディジタル放送波を利用したパッシブレーダなど、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号をはじめとするマルチキャリア信号をレーダに利用することが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
マルチパス環境では、伝搬路環境に依存したマルチパスフェージングによる受信電界レベルの低下が避けられない。特に、単一周波数を前提とした上述の従来技術では、本質的に対応できないことになる。
【0007】
さらに、直接波と反射波(マルチパス)の位相関係は、目標との距離にも依存する。このため、特定の領域において探知性能が著しく劣化することになるが、このような環境において、マルチパス耐性の強いマルチキャリア信号を適用することは、有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3918735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
レーダでは、移動体への対処が必須である。しかしながら、OFDM信号のようなマルチキャリア信号は、サブキャリア間の周波数間隔の直交性を利用しており、移動速度が高速になるほど、ドップラーシフトによるサブキャリア間干渉が問題となる。したがって、マルチキャリア波形をレーダに適用するためには、高速移動する移動体(高速移動目標)への対処が重要となる。
【0010】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、送信波としてマルチキャリア波形を利用した場合に、目標が高速移動体であっても対応可能であり、かつ、マルチパスや妨害波などの検出・抑圧を行うことが同時に可能であるレーダ装置、およびレーダ装置に適用される移動目標検出方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るレーダ装置は、マルチキャリア送信波を生成し、送信アンテナを介して送信する送信波形生成部と、マルチキャリア送信波が目標に反射した信号を複数の素子アンテナからなる受信アンテナを介して受信し、各素子アンテナの受信信号をサブキャリア帯域毎にサブキャリア信号として分波する分波部と、分波部によりサブキャリア帯域毎に分波された各素子アンテナのサブキャリア信号を、同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成する信号合成部と、信号合成部で合成された信号を用いて目標を検出する目標検出部とを備えたレーダ装置であって、信号合成部で合成された信号を解析することで目標の移動速度を推定速度情報として推定するとともに、推定した推定速度情報に基づいて、観測対象とする帯域内におけるマルチキャリア送信波のサブキャリア数およびサブキャリア間隔を設定する速度推定部をさらに備え、送信波形生成部は、速度推定部で設定されたサブキャリア数およびサブキャリア間隔に従ってマルチキャリア送信波を生成し、生成したマルチキャリア送信波を、送信アンテナを介して送信し、分波部は、速度推定部で設定されたサブキャリア数およびサブキャリア間隔に従って、サブキャリアを配置した帯域のサブキャリア信号からなる第1信号群と、サブキャリアを配置していない帯域のサブキャリア信号からなる第2信号群とに弁別し、信号合成部は、第1信号群を受信し、第1信号群に関して、サブキャリア帯域毎に分波された各素子アンテナのサブキャリア信号を同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成するものである。
【0012】
また、本発明に係る移動目標検出方法は、レーダ装置に適用される移動目標検出方法であって、マルチキャリア送信波を生成し、送信アンテナを介して送信する送信波形生成ステップと、マルチキャリア送信波が目標に反射した信号を複数の素子アンテナからなる受信アンテナを介して受信し、各素子アンテナの受信信号をサブキャリア帯域毎にサブキャリア信号として分波する分波ステップと、分波ステップによりサブキャリア帯域毎に分波された各素子アンテナのサブキャリア信号を、同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成する信号合成ステップと、信号合成ステップで合成された信号を用いて目標を検出する目標検出ステップとを備え、信号合成ステップで合成された信号を解析することで目標の移動速度を推定速度情報として推定するとともに、推定した推定速度情報に基づいて、観測対象とする帯域内におけるマルチキャリア送信波のサブキャリア数およびサブキャリア間隔を設定する速度推定ステップをさらに備え、送信波形生成ステップは、速度推定ステップで設定されたサブキャリア数およびサブキャリア間隔に従ってマルチキャリア送信波を生成し、生成したマルチキャリア送信波を、送信アンテナを介して送信し、分波ステップは、速度推定ステップで設定されたサブキャリア数およびサブキャリア間隔に従って、サブキャリアを配置した帯域のサブキャリア信号からなる第1信号群と、サブキャリアを配置していない帯域のサブキャリア信号からなる第2信号群とに弁別し、信号合成ステップは、第1信号群を受信し、第1信号群に関して、サブキャリア帯域毎に分波された各素子アンテナのサブキャリア信号を同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るレーダ装置、およびレーダ装置に適用される移動目標検出方法によれば、送信側では、移動する目標の推定速度情報に基づいて、移動速度に応じたサブキャリア数に適応した送信波形を生成し、受信側では、移動速度に応じたサブキャリア数の情報を利用して受信信号の分波処理、合成処理を行い、SNRが改善された信号に基づいて目標の検出等のレーダ信号処理を実行することにより、送信波としてマルチキャリア波形を利用した場合に、目標が高速移動体であっても対応可能であり、かつ、マルチパスや妨害波などの検出・抑圧を行うことが同時に可能であるレーダ装置、およびレーダ装置に適用される移動目標検出方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1におけるレーダ装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における送信波形生成部で生成された送信波形の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における分波器の具体的な構成図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるレーダ装置の一連処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2におけるレーダ装置の構成図である。
【図6】本発明の実施の形態2における分波器の具体的な構成図である。
【図7】本発明の実施の形態2におけるレーダ装置の一連処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3における送信波形生成部で生成された送信波形の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のレーダ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるレーダ装置の構成図である。図1におけるレーダ装置は、受信アンテナ10、分波部20、信号合成部40、目標検出部50、送信アンテナ70、送信波形生成部80、および速度推定部90で構成されている。
【0017】
ここで、受信アンテナ10は、K個の素子アンテナ11(1)〜11(K)からなるアレーアンテナである。また、分波部20は、その個別構成品であるK個の分波器21(1)〜21(K)で構成されている。
【0018】
なお、この図1では、受信アンテナ10と送信アンテナ70を別個に記載しているが、本発明は、このような構成に限定されない。送受信アンテナとして、素子アンテナ11を共用する構成も可能である。また、送信アンテナ70は、単素子として図示されているが、もちろんアレーアンテナとしてもよい。
【0019】
また、実際の装置においては、受信した高周波信号を周波数変換し、ベースバンドのディジタルデータに変換するための各種デバイス・回路が必要であるが、図1においては、これらは省略している。さらに、送信系についても、ディジタル信号を高周波信号に変換する各機能ブロックを、同様に省略している。すなわち、この図1に示す構成品は、本発明において主要な機能に限定して記載したものである。
【0020】
本実施の形態1では、レーダ装置が自ら信号を送出して、目標からの反射波を検出するアクティブレーダ方式を想定している。したがって、送信波については、任意に生成することができる。より具体的には、本実施の形態1におけるレーダ装置は、目標の移動速度に応じて、目標の検出および追尾に適した送信波形を生成することができる。この考えを実現するために、本実施の形態1では、送信波としてマルチキャリア信号(波形)を適用する。
【0021】
次に、図1の構成を備えた本実施の形態1におけるレーダ装置の動作について、詳細に説明する。まず始めに、送信処理手順について説明する。送信側は、送信波形であるマルチキャリア信号を生成する際に、目標の移動速度に応じてどの周波数(帯域)にサブキャリアを配置するかを考慮して、マルチキャリア送信波を生成する。
【0022】
具体的には、まず、速度推定部90は、図1に示すように、受信処理の過程で得られた、信号合成部40からの出力信号を解析することで、目標である移動体の推定速度情報を求める。さらに、速度推定部90は、推定した推定速度情報に基づいて、観測対象とする帯域内におけるマルチキャリア送信波のサブキャリア数およびサブキャリア間隔を設定する。
【0023】
次に、送信波形生成部80は、目標の推定速度情報に応じたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔を速度推定部90から受信し、これらサブキャリア数、およびサブキャリア間隔に基づいて、所望のマルチキャリア送信波を生成する。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態1における送信波形生成部80で生成された送信波形の一例を示す説明図である。上段の図2(a)は、基本となる設定モードを示した説明図であり、以下では、通常対応モードと呼ぶこととする。また、下段の図2(b)は、速度推定部90により検出された高速移動目標の推定速度情報に応じて設定されたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔に基づく設定モードを示した説明図であり、以下では、高速対応モードと呼ぶこととする。
【0025】
図2(a)の通常対応モード、および図2(b)の高速対応モードのそれぞれにおける左側に示した図は、サブキャリアの周波数配置を示したものであり、横軸が周波数、矢印で示された各線がサブキャリア100を表している。また、図2(a)の通常対応モード、および図2(b)の高速対応モードのそれぞれにおける右側に示した図は、横軸を時間としてパルス長およびデータ構成の関係を示したものである。
【0026】
図2(a)に示した通常対応モードでは、基本的に観測帯域内すべてにサブキャリア(N本)を配置する。サブキャリア間隔は、任意であるが、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)信号であれば、互いに直交関係を満たす間隔となる。
【0027】
左側に示した周波数配置の信号を逆フーリエ変換により時間波形に変換したものが、右側に示した図である。耐マルチパスのため、後半部分の波形の一部がCyclic Prefix(CP)として前段に付加(コピー)されている。この部分は、ガードインターバルとも呼ばれる。
【0028】
このようにして、通常対応モードにおいては、図2(a)の右側のようなパルス長を有する送信波形が、送信波形生成部80によって生成される。なお、CP長については、マルチパス遅延分散などの伝搬路特性に応じて適切な値が設定され、場合によっては付加しないこともあり得る。
【0029】
OFDM信号をはじめとするマルチキャリア波形は、一般的に、サブキャリアが密に配置されており、目標の移動に伴うドップラーシフトに弱い。なぜならば、周波数シフトによる隣接キャリア間の干渉が生じるためである。
【0030】
そこで、本発明では、速度推定部90により高速移動目標の推定速度情報に応じたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔を設定することで、図2(b)のような高速対応モードに移行させている。すなわち、送信波形生成部80は、速度推定部90により検出された推定速度情報に基づいて特定されたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔に基づいて、通常対応モードから高速対応モードに移行することで、通常対応モードでのサブキャリア数Nを削減して、隣接サブキャリア間隔を広くした送信信号(マルチキャリア送信波)を生成している。
【0031】
これは、サンプリング周波数を一定とした場合、時間波形として捉えると、シンボル長が短くなることを意味している。これにより、ドップラーシフトの影響を低減できる。レーダとしての距離分解能が一定であることが望ましい場合には、パルス長を揃えるために、複数のOFDMシンボルを連接する。
【0032】
図2(b)に示した高速対応モードの場合には、4シンボルを連接して1パルスとしている。なお、ドップラーシフト量がキャリア間隔の2.5%を超えると、キャリア間干渉が無視できなくなると一般的に言われている。そこで、速度推定部90は、この2.5%を超えないようなキャリア間隔となるように、サブキャリア数Nを決めることが可能である。一例として、速度推定部90は、2.5%を超えない範囲で、目標の移動速度に反比例したサブキャリア数Nを設定することができる。
【0033】
あるいは、速度推定部は、移動速度とサブキャリア数の対応テーブルをあらかじめ記憶部(図示せず)に用意しておき、推定速度情報に対応したサブキャリア数Nを読み出して設定することも有効である。このようにして、速度推定部90により、送信波形のサブキャリア数、およびサブキャリア間隔の設定が決まると、送信波形生成部80にて送信信号が生成され、送信アンテナ70から空間に放射される。
【0034】
次に、目標を検出するための受信処理手順について説明する。上記のようにして生成された送信信号が、送信アンテナ70より発射されると、受信アンテナ10の各素子アンテナ11(1)〜11(K)は、この送信信号による目標からの反射波を含む入射信号を受信する。
【0035】
受信された入射信号は、分波部20に入力され、それぞれ分波器21(1)〜21(K)において、サブキャリア単位に周波数分離される。この分離処理を行うに当たって、分波器21(1)〜21(K)のそれぞれは、速度推定部90からの送信処理手順にて設定したサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔の情報に基づき、内部の動作を設定する。この具体的な動作を、図3を用いて説明する。
【0036】
図3は、本発明の実施の形態1における分波器21(k)の具体的な構成図であり、送信波形がOFDM信号である場合の例を示している。K個のそれぞれの分波器21(k)(k=1〜K)は、直並列変換部22、FFT部23、および弁別回路24で構成されている。
【0037】
直並列変換部22は、素子アンテナ11(k)からの出力信号を、N個単位の信号群に並び替える。次に、FFT(Fast Fourier Transform)部23は、N個の信号群を各サブキャリアに分離する。
【0038】
ここで、Nは、サブキャリア数(あるいは、FFTサイズ、FFTポイント数とも言う)を表し、前述した速度推定部90により、推定速度情報を基に動的に制御され、直並列変換部22に与えられる。また、弁別回路24は、N個の信号群から分離されたサブキャリアのうち、サブキャリア間隔に対応して、実際に信号成分(変調波、CW波など)が配置されたサブキャリアのみを抽出して、信号合成部40に出力する。
【0039】
信号合成部40は、各分波器21(1)〜21(K)で抽出されたそれぞれのサブキャリアを受信し、同じ周波数配置にある各素子アンテナ11(1)〜11(K)のサブキャリア信号を合成して出力する。この結果、SNR(Signal-to-Noise Ratio:信号対雑音電力比)を改善し、目標の検出性能を向上させることができる。
【0040】
具体的には、信号合成部40は、各素子アンテナ11(1)〜11(K)の出力の振幅に応じた重みで同相合成する、いわゆる最大比合成ダイバーシチとして動作すればよい。このようにして、SNRが改善された信号に基づいて、目標検出部50は、目標の検出・捕捉・追尾等のレーダ信号処理を行う。
【0041】
次に、上述した一連処理を、フローチャートを用いて説明する。図4は、本発明の実施の形態1におけるレーダ装置の一連処理を示すフローチャートである。まず始めに、ステップS401において、速度推定部90は、移動する目標に対して推定した推定速度情報に応じて、サブキャリア数N、およびサブキャリア間隔を動的に設定する。なお、初期値としては、先の図2(a)に示した通常対応モードにおいてあらかじめ設定されているサブキャリア数Nを用いることができる。
【0042】
次に、ステップS402において、送信波形生成部80は、速度推定部90により設定されたサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔に応じて、送信パルス信号を生成する(図2(b)参照)。次に、ステップS403において、送信アンテナ70は、送信波形生成部80で生成された送信パルス信号を送信する。
【0043】
次に、ステップS404において、受信アンテナ10は、目標からの反射波を受信する。また、分波部20は、送信処理手順にて設定したサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔の情報を速度推定部90から受信し、このサブキャリア数Nに基づき、FFTポイント数を制御して、受信アンテナ10による受信信号をサブキャリア単位に分波する。さらに、分波部20は、サブキャリア間隔に応じて、信号成分が割り当てられているサブキャリア信号を抽出する。
【0044】
次に、ステップS405において、信号合成部40は、サブキャリア単位に分波された受信信号の中から、分波部20内の弁別回路24により抽出された、信号成分が割り当てられているサブキャリア信号を用いて、目標信号の最大比合成を実施する。
【0045】
次に、ステップS406において、目標検出部50は、信号合成部40によりSNRが改善された最終的な出力信号を用いて、目標の検出等のレーダ信号処理を実行する。一方、ステップS407において、速度推定部90は、信号合成部40によりSNRが改善された最終的な出力信号を用いて、移動体の速度推定を行う。
【0046】
速度推定部90は、この速度推定を逐次実行し、推定速度情報を生成する。さらに、先のステップS401に戻り、速度推定部90は、ステップS407で生成した推定速度情報に応じて、サブキャリア数N、およびサブキャリア間隔を動的に設定することとなる。
【0047】
このような一連処理により、送信側では、推定速度情報に応じたサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔をフィードバックして送信波形を生成することで、順次、次の送信パルスを発射している。一方、受信側では、移動速度に応じたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔の情報を利用して受信信号の分波処理、合成処理を行い、SNRが改善された信号を生成している。本実施の形態1におけるレーダ装置は、このような一連処理を、定期的あるいは必要なタイミングで繰り返しながら、実行することになる。
【0048】
以上のように、実施の形態1によれば、送信側では、移動する目標の推定速度情報に基づいて、移動速度に応じたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔に適応した送信波形を生成している。さらに、受信側では、移動速度に応じたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔の情報を利用して受信信号の分波処理、合成処理を行い、SNRが改善された信号に基づいて目標の検出等のレーダ信号処理を実行している。この結果、高速移動目標に対しても、安定的な追尾・捕捉を実現できるレーダ装置を得ることができる。
【0049】
実施の形態2.
本実施の形態2では、妨害波あるいはマルチパス波を除去する構成をさらに備えたレーダ装置について説明する。図5は、本発明の実施の形態2におけるレーダ装置の構成図である。図5におけるレーダ装置は、受信アンテナ10、分波部20、干渉除去部30、信号合成部40、目標検出部50、干渉検出部60、送信アンテナ70、送信波形生成部80、および速度推定部90で構成されている。
【0050】
先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態2におけるレーダ装置は、干渉除去部30および干渉検出部60をさらに備えている点が異なっている。図5において、先の図1と同一の構成要素は、同一の符号を付し、異なる構成である干渉除去部30および干渉検出部60を中心に、以下に説明する。
【0051】
送信処理手順については、先の実施の形態1と同様である。主に異なるのは、目標を検出するための受信処理手順であり、詳細を以下に示す。分波器21(1)〜21(K)においてサブキャリア単位に周波数分離された信号は、送信処理手順でのサブキャリア配置に基づき、使用している帯域のサブキャリア信号については干渉除去部30に、使用していない帯域のサブキャリア信号については干渉検出部60にそれぞれ出力される。この具体的な動作を、図6を用いて説明する。
【0052】
図6は、本発明の実施の形態2における分波器21(k)の具体的な構成図であり、送信波形がOFDM信号である場合の例を示している。K個のそれぞれの分波器21(k)(k=1〜K)は、直並列変換部22、FFT部23、および弁別回路24で構成されている。
【0053】
図6における直並列変換部22およびFFT部23の動作は、先の図3に示した実施の形態1と同様である。一方、最終段の弁別回路24は、サブキャリア間隔に対応して、サブキャリア単位に周波数分離されたN個の信号を、干渉除去部30への出力信号(M個からなる第1信号群に相当)と干渉検出部60への出力信号(L個からなる第2信号群に相当)とに弁別する。ここで、N、M、Lについては、N≧M+Lの関係が成り立つ。また、M本の配置(位置)とその数については、伝搬路特性などを鑑みて決定され、帯域内に均一(等間隔)であったり、ランダムであったり、特定箇所に集中配置であったりしてよい。
【0054】
次に、干渉検出部60は、分波部20内の弁別回路24から受信したL個のサブキャリア信号に基づいて、妨害となる干渉波の有無を調べる。干渉検出部60に入力されるL個のサブキャリア信号は、送信波形生成部80において信号成分を配置しない、すなわち、送信波に使用していない周波数に該当する。したがって、入力されたサブキャリア信号の受信レベルを判定するだけで、干渉波(妨害波)の有無が識別可能となる。
【0055】
なお、素子アンテナ毎に複数のサブキャリア信号が得られるため、干渉検出部60は、これらの受信レベルを平均化することで、識別精度を向上させることが容易にできる。
【0056】
このようにして、干渉検出部60において干渉波の存在が検出された場合には、干渉除去部30は、受信信号から干渉波成分を除去する処理を施す。すでに、素子アンテナ毎に干渉波成分のみを含むL個のサブキャリア信号が分波されている。したがって、干渉除去部30は、これらL個のサブキャリア信号を用いて干渉波方向にヌル(受信感度の低い点)を形成する重み係数を算出して、M個のサブキャリア信号のそれぞれに作用させることで、干渉波を除去することができる。
【0057】
こうして、干渉波成分が除去された複数のサブキャリア信号が、干渉除去部30から信号合成部40に出力される。そして、信号合成部40は、同じ周波数配置にあるサブキャリア同士を合成して、SNR(Signal-to-Noise Ratio:信号対雑音電力比)をさらに改善することで、後段の目標検出部50による目標の検出性能を向上させる。
【0058】
すでに、干渉波成分は除去されているので、信号合成部40は、各出力の振幅に応じた重みで同相合成する、いわゆる最大比合成ダイバーシチとして動作すればよい。このようにして、干渉波が除去され、SNRが改善された信号に基づいて、目標検出部50は、目標の検出・捕捉・追尾等のレーダ信号処理を行う。
【0059】
次に、上述した一連処理を、フローチャートを用いて説明する。図7は、本発明の実施の形態2におけるレーダ装置の一連処理を示すフローチャートである。まず始めに、ステップS701において、速度推定部90は、移動する目標に対して推定した推定速度情報に応じて、サブキャリア数N、およびサブキャリア間隔を動的に設定する。なお、初期値としては、先の図2(a)に示した通常対応モードにおいてあらかじめ設定されているサブキャリア数Nを用いることができる。
【0060】
次に、ステップS702において、送信波形生成部80は、速度推定部90により設定されたサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔に応じて、送信パルス信号を生成する(図2(b)参照)。次に、ステップS703において、送信アンテナ70は、送信波形生成部80で生成された送信パルス信号を送信する。
【0061】
次に、ステップS704において、受信アンテナ10は、目標からの反射波を受信する。さらに、分波部20は、送信処理手順にて設定したサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔の情報を速度推定部90から受信し、このサブキャリア数Nに基づき、FFTポイント数を制御して、受信アンテナ10による受信信号をサブキャリア単位に分波する。そして、分波部20は、サブキャリア間隔に応じて、サブキャリア単位に周波数分離されたN個の信号を、干渉除去部30への出力信号(M個)と干渉検出部60への出力信号(L個)とに弁別する。
【0062】
次に、ステップS705において、干渉検出部60は、分波されたサブキャリアのうち、信号成分を配置していないサブキャリア(L本)を用いて、干渉波の検出を行う。そして、干渉検出部60により干渉波が検出された場合には、干渉除去部30は、干渉波のサブキャリア信号群を使って、目標からの反射波を含むサブキャリア(M本)から干渉波成分を除去する。
【0063】
その後、ステップS706において、信号合成部40は、素子アンテナ間で目標信号成分の最大比合成処理を実施する。次に、ステップS707において、目標検出部50は、信号合成部40により出力された、干渉波が除去され、SNRが改善された最終的な信号を用いて、目標の検出等のレーダ信号処理を実行する。
【0064】
一方、ステップS708において、速度推定部90は、信号合成部40により出力された、干渉波が除去され、SNRが改善された最終的な信号を用いて、移動体の速度推定を行う。速度推定部90は、この速度推定を逐次実行し、推定速度情報を生成する。さらに、先のステップS701に戻り、速度推定部90は、ステップS708で生成された推定速度情報に応じて、サブキャリア数N、およびサブキャリア間隔を動的に設定することとなる。
【0065】
このような一連処理により、送信側では、推定速度情報に応じたサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔をフィードバックして送信波形を生成することで、順次、次の送信パルスを発射している。一方、受信側では、移動速度に応じたサブキャリア数、およびサブキャリア間隔の情報を利用して受信信号の分波処理、干渉除去処理、および合成処理を行い、SNRが改善された信号を生成している。本実施の形態2におけるレーダ装置は、このような一連処理を、定期的あるいは必要なタイミングで繰り返しながら、実行することになる。
【0066】
以上のように、実施の形態2によれば、先の実施の形態1の効果に加え、さらに、妨害波やマルチパス波などの干渉成分に対して耐性を有することができる。すなわち、より厳しい環境においても、安定的に目標の追尾・捕捉が可能となる。
【0067】
実施の形態3.
本実施の形態3では、上述した実施の形態1、2の変形例について説明する。
(1)目標の速度推定について
目標検出部50は、一般的なレーダ信号処理を想定しており、この中で対象のドップラー周波数を含めた速度情報を解析する機能を含む場合もある。したがって、このような場合には、目標検出部50で得た速度情報を、速度推定部90にフィードバックしてもよい。また、速度推定部90は、その他の手段により得た速度情報を、外部から参照して利用しても、もちろんよい。
【0068】
(2)送信波形について
図8は、本発明の実施の形態3における送信波形生成部で生成された送信波形の一例を示す説明図である。高速対応モードにおける送信パルスの生成については、図8に示すように、通常対応モードとサブキャリア数Nは同じとして(すなわち、FFTポイント数は固定として)、実際に信号成分を配置するサブキャリア以外には信号成分を配置しないゼロキャリア103を割り当てることも可能である。
【0069】
この場合も、隣接キャリア間の間隔は、先の図2の場合と同様に広がるので、耐ドップラーシフト特性を得ることが期待できる。なお、図8の右側に示すように、この場合の時間領域でのシンボル長は、通常対応モードと同じである。
【0070】
(3)目標の速度推定が困難な場合の対応について
なお、目標の速度推定が困難なため、移動速度に応じた1つのサブキャリア数Nを特定することが困難な場合には、次の方法を採ることができる。この場合には、複数のサブキャリア数N、およびサブキャリア間隔を設定し、それに対応した送信パルスをそれぞれ生成して順次送信し、それぞれの受信パルス信号を処理して、最も特性のよいパラメータを選択するなどのフィードバック制御を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 受信アンテナ、11、11(1)〜11(K) 各素子アンテナ、20 分波部、21、21(1)〜21(K) 分波器、22 直並列変換部、23 FFT部、24 弁別回路、30 干渉除去部、40 信号合成部、50 目標検出部、60 干渉検出部、70 送信アンテナ、80 送信波形生成部、90 速度推定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャリア送信波を生成し、送信アンテナを介して送信する送信波形生成部と、
前記マルチキャリア送信波が目標に反射した信号を複数の素子アンテナからなる受信アンテナを介して受信し、各素子アンテナの受信信号をサブキャリア帯域毎にサブキャリア信号として分波する分波部と、
前記分波部により前記サブキャリア帯域毎に分波された前記各素子アンテナのサブキャリア信号を、同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成する信号合成部と、
前記信号合成部で合成された信号を用いて前記目標を検出する目標検出部と
を備えたレーダ装置であって、
前記信号合成部で合成された信号を解析することで前記目標の移動速度を推定速度情報として推定するとともに、推定した前記推定速度情報に基づいて、観測対象とする帯域内におけるマルチキャリア送信波のサブキャリア数およびサブキャリア間隔を設定する速度推定部をさらに備え、
前記送信波形生成部は、前記速度推定部で設定された前記サブキャリア数および前記サブキャリア間隔に従ってマルチキャリア送信波を生成し、生成した前記マルチキャリア送信波を、前記送信アンテナを介して送信し、
前記分波部は、前記速度推定部で設定された前記サブキャリア数および前記サブキャリア間隔に従って、サブキャリアを配置した帯域のサブキャリア信号からなる第1信号群と、サブキャリアを配置していない帯域のサブキャリア信号からなる第2信号群とに弁別し、
前記信号合成部は、前記第1信号群を受信し、前記第1信号群に関して、前記サブキャリア帯域毎に分波された前記各素子アンテナのサブキャリア信号を同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置において、
前記分波部から前記第2信号群を受信し、前記第2信号群に基づいて干渉波の検出を行う干渉検出部と、
前記分波部と前記信号合成部との間に配置され、前記分波部から前記第1信号群を受信し、前記干渉検出部において干渉波が検出された場合には、前記第1信号群に対して前記干渉波の抑圧を行う干渉除去部と
をさらに備え、
前記信号合成部は、干渉波の抑圧を行った後の第1信号群を前記干渉除去部から受信し、前記第1信号群に関して、前記サブキャリア帯域毎に分波された前記各素子アンテナのサブキャリア信号を同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーダ装置において、
前記速度推定部は、推定した前記推定速度情報に反比例するように、前記サブキャリア数を設定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のレーダ装置において、
前記速度推定部は、推定速度情報とサブキャリア数との対応関係があらかじめ設定されている対応テーブルを記憶部に有し、推定した前記推定速度情報に応じたサブキャリア数を前記対応テーブルから取り出すことで、前記推定速度情報に応じたサブキャリア数を設定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーダ装置において、
前記速度推定部は、観測対象とする帯域内におけるマルチキャリア送信波のサブキャリア数は固定値として設定し、推定した前記推定速度情報に基づいて、実際に信号成分を配置するサブキャリア以外には信号成分を配置しないゼロキャリアを割り当てるようにして前記サブキャリア間隔を設定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーダ装置において、
前記目標検出部は、前記目標のドップラー周波数から前記目標の移動速度を推定し、
前記速度推定部は、前記信号合成部で合成された信号を解析することで前記推定速度情報を推定する代わりに、前記目標検出部から受信した前記目標の移動速度を推定速度情報とすることを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーダ装置に適用される移動目標検出方法であって、
マルチキャリア送信波を生成し、送信アンテナを介して送信する送信波形生成ステップと、
前記マルチキャリア送信波が目標に反射した信号を複数の素子アンテナからなる受信アンテナを介して受信し、各素子アンテナの受信信号をサブキャリア帯域毎にサブキャリア信号として分波する分波ステップと、
前記分波ステップにより前記サブキャリア帯域毎に分波された前記各素子アンテナのサブキャリア信号を、同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成する信号合成ステップと、
前記信号合成ステップで合成された信号を用いて前記目標を検出する目標検出ステップと
を備え、
前記信号合成ステップで合成された信号を解析することで前記目標の移動速度を推定速度情報として推定するとともに、推定した前記推定速度情報に基づいて、観測対象とする帯域内におけるマルチキャリア送信波のサブキャリア数およびサブキャリア間隔を設定する速度推定ステップをさらに備え、
前記送信波形生成ステップは、前記速度推定ステップで設定された前記サブキャリア数および前記サブキャリア間隔に従ってマルチキャリア送信波を生成し、生成した前記マルチキャリア送信波を、前記送信アンテナを介して送信し、
前記分波ステップは、前記速度推定ステップで設定された前記サブキャリア数および前記サブキャリア間隔に従って、サブキャリアを配置した帯域のサブキャリア信号からなる第1信号群と、サブキャリアを配置していない帯域のサブキャリア信号からなる第2信号群とに弁別し、
前記信号合成ステップは、前記第1信号群を受信し、前記第1信号群に関して、前記サブキャリア帯域毎に分波された前記各素子アンテナのサブキャリア信号を同じ周波数配置にある各素子アンテナのサブキャリア信号ごとに合成する
ことを特徴とする移動目標検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−88279(P2012−88279A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237515(P2010−237515)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】