説明

レーダ装置、レーダ送信信号生成方法、そのプログラムおよびプログラム記録媒体

【課題】離散帯域の送信信号を用いる場合でも近傍のターゲットの検知可能範囲を拡大し得るレーダ装置を提供する。
【解決手段】離散帯域選択部1でターゲット情報の検知のために必要とするレーダパラメータに該当する離散帯域を選択して、離散帯域合成波形生成部2で、選択した離散帯域の各信号のうち、最も長い時間を必要とする離散帯域の信号の送信時間内に各信号を送信するように、各離散帯域の中心周波数の信号を適宜時間軸上で組み合わせ、あるいは、前記送信時間に合わせて各信号を送信するように、最も長い時間を必要とする当該離散帯域の信号は中心周波数の信号を生成し、当該離散帯域以外のそれぞれの離散帯域の信号については前記送信時間の間に下限周波数から上限周波数まで掃引する信号として生成した後、各離散帯域の信号を時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として生成し、離散帯域合成波形格納部3で送信信号用バッファに格納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、レーダ送信信号生成方法、レーダ送信信号生成プログラムおよびプログラム記録媒体に関し、特に、リモートセンシング分野に好適に適用可能な、低周波数帯域における離散帯域を用いる場合のレーダ装置、レーダ送信信号生成方法、レーダ送信信号生成プログラムおよびプログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国において低周波レーダを新たに実現しようとする場合、低周波帯の無線信号として既に多く存在している無線局の周波数帯を避けた無線帯域を用いる必要があり、レーダの送信信号は、離散帯域にならざるを得ない状況にある。特許文献1の特開2002−82162号公報「パルス圧縮レーダ装置」においては、離散周波数帯域を用いる場合、ターゲットによって鮮明に表示できる周波数帯域が異なるので、鮮明に表示されない無効な周波数帯域を除外して、有効な周波数帯域のみをレーダ用の送信信号に割り当てることによって、ターゲットの表示精度を効率良く向上させるという技術が提案されている。
【特許文献1】特開2002−82162号公報(第5−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般のレーダ装置においては、例えば帯域Bの送信信号波形を生成する場合、通常、
τ=1/B
以上の送信時間内で周波数を連続的に変えていくチャープ信号が採用されている。このチャープ信号は、広帯域および高出力を同時に実現することが可能であるが、送信信号の送信を終了した後で受信が可能になるので、図7に示すように、狭帯域にして送信時間を長く取るほど、近傍のターゲットからの受信波(反射波)を受信することができなくなる。図7は、レーダの送信信号の送信時間と受信信号との関係を説明するための説明図であり、図7(A)は、帯域Bの送信信号を比較的短い時間τ(=1/B)で送信した場合の例を示し、図7(B)は、帯域Bの送信信号を比較的長い時間τa(>1/B)で送信した場合の例を示している。
【0004】
図7(A)に示すように、時間τ(=1/B)と比較的短い場合には、近傍のターゲットからの反射波が到着するまでの間に、送信動作を終了させることができるので、遠方のあるターゲットからの反射波の場合と同様に、近傍のターゲットからの反射波も、受信可能であるが、図7(B)のように、時間τa(>1/B)と比較的長い場合は、近傍のターゲットからの反射波が到着するまでの間に、送信動作を終了することができず、図7(B)の斜線を施した箇所に該当する近傍のターゲットについては検知することができない。
【0005】
これに対して、帯域B内の離散帯域b1,b2,〜,bnの送信信号波形を生成する場合、チャープ信号と同様に、周波数を連続的に掃引する方法を採用した場合は、図8(B)に示すように、
τ=τ1(=1/b1)+τ2(=1/b2)+…+τn(=1/bn)
と多くの送信時間を要し、受信不能となる近傍の領域が増大する。従って、近傍のターゲットを検知可能とするためには、離散帯域の送信信号を生成する場合においても、極力、送信時間を短くすることが必要である。図8は、離散帯域の送信信号を連続的に掃引して送信する場合の説明図であり、図8(A)は、帯域Bの周波数を連続的に変えていく場合の様子を示し、図8(B)は、帯域B内の離散信号をそれぞれの必要送信時間ごとに連続的に掃引する場合の様子を示している。
【0006】
つまり、図8(A)のように、連続した帯域Bの送信信号を送信する場合には、必要とする最短の送信時間は、図7にて説明したように、時間τ(=1/B)であり、チャープ信号として、この最短時間τ以上の時間τa(>1/B)が経過するまで周波数を連続的に変えて送信している。一方、帯域B内の離散帯域の送信信号についても、チャープ信号の場合と同様に、送信信号を離散帯域ごとに連続的に送信する場合は、図8(B)に示すように(図8(B)の場合、帯域B内のb1,b2,…,b5の5個の離散帯域を用いている例を示している)、それぞれの離散帯域の送信に必要とする最短の送信時間の総和(図8(B)の場合、τi=1/bi(i=1〜5)の総和)以上の送信時間をかけて送信することが必要となる。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、狭帯域の離散帯域の送信信号を用いる場合であっても、送信時間をできる限り短縮して、近傍のターゲットの検知可能範囲を拡大することができるレーダ装置、レーダ送信信号生成方法、レーダ送信信号生成プログラムおよびプログラム記録媒体を提供することを、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するため、本発明によるレーダ装置、レーダ送信信号生成方法、レーダ送信信号生成プログラムおよびプログラム記録媒体は、次のような特徴的な構成を採用している。
【0009】
(1)レーダ送信信号の周波数として離散帯域を用いるレーダ装置において、離散帯域の各信号のうち、送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間以内に、他の離散帯域の信号を送信するように、離散帯域の各信号を適宜時間軸上で組み合わせた離散帯域合成波形を生成することにより、離散帯域の各信号すべてを前記送信時間以内に送信するレーダ装置。
(2)レーダ送信信号用として使用可能な離散帯域が多数存在している場合、ターゲット情報を取得する上で必要とするレーダパラメータを指定することにより、該レーダパラメータの条件を満たす離散帯域を、使用可能な離散帯域の中からレーダ送信信号用の離散帯域として1ないし複数選択して出力する離散帯域選択手段を備えている上記(1)のレーダ装置。
(3)前記離散帯域選択手段により選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間内にそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、それぞれの離散帯域の中心周波数の信号を適宜時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として生成して出力する離散帯域合成波形生成手段を備えている上記(2)のレーダ装置。
(4)前記離散帯域選択手段により選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間に合わせてそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域の信号については中心周波数の信号を生成し、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域以外のそれぞれの離散帯域の信号については前記送信時間の間に下限周波数から上限周波数までに順次変化させる信号として生成した後、それぞれの離散帯域の信号を時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として生成して出力する離散帯域合成波形生成手段を備えている上記(2)のレーダ装置。
(5)前記離散帯域合成波形生成手段により生成された離散帯域合成波形を送信信号用バッファに格納する離散帯域合成波形格納手段を備えている上記(3)または(4)のレーダ装置。
(6)前記離散帯域合成波形格納手段は、前記離散帯域選択手段により複数の離散帯域が選択されて、前記離散帯域合成波形生成手段により複数の離散帯域それぞれについて前記離散帯域合成波形が生成されている場合、前記送信信号用バッファにアドレス情報を付して格納する上記(5)のレーダ装置。
(7)前記離散帯域合成波形格納手段により前記送信信号用バッファに格納された離散帯域合成波形を、レーダ用の送信信号として生成して出力する送信信号生成手段を備えている上記(5)または(6)のレーダ装置。
(8)前記送信信号生成手段は、前記送信信号用バッファに複数の離散帯域合成波形が格納されていた場合、送信環境に応じて、複数の離散帯域合成波形のデジタルデータのうち、該送信環境に適合するいずれかの離散帯域合成波形を選択して、レーダ用の送信信号として生成して出力する上記(7)のレーダ装置。
(9)レーダ送信信号の周波数として離散帯域を用いるレーダ装置のレーダ送信信号生成方法において、離散帯域の各信号のうち、送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間以内に、他の離散帯域の信号を送信するように、離散帯域の各信号を適宜時間軸上で組み合わせた離散帯域合成波形を生成することにより、離散帯域の各信号すべてを前記送信時間以内に送信することを可能とするレーダ送信信号生成方法。
(10)レーダ送信信号用として使用可能な離散帯域が多数存在している場合、ターゲット情報を取得する上で必要とするレーダパラメータを指定することにより、該レーダパラメータの条件を満たす離散帯域を、使用可能な離散帯域の中からレーダ送信信号用の離散帯域として1ないし複数選択して出力する離散帯域選択ステップを有している上記(9)のレーダ送信信号生成方法。
(11)前記離散帯域選択ステップにより選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間内にそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、それぞれの離散帯域の中心周波数の信号を適宜時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として生成して出力する離散帯域合成波形生成ステップを有している上記(10)のレーダ送信信号生成方法。
(12)前記離散帯域選択ステップにより選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間に合わせてそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域の信号については中心周波数の信号を生成し、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域以外のそれぞれの離散帯域の信号については前記送信時間の間に下限周波数から上限周波数までに順次変化させる信号として生成した後、それぞれの離散帯域の信号を時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として出力する離散帯域合成波形生成ステップを有している上記(10)のレーダ送信信号生成方法。
(13)上記(9)ないし(12)のいずれかのレーダ送信信号生成方法を、コンピュータにより実行可能なプログラムとして実施しているレーダ送信信号生成プログラム。
(14)上記(13)のレーダ送信信号生成プログラムを、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録しているプログラム記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレーダ装置、レーダ送信信号生成方法、レーダ送信信号生成プログラムおよびプログラム記録媒体によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0011】
レーダ用の送信信号として、離散的な狭帯域しか使用することができない場合においても、複数の離散帯域の信号を適宜組み合わせて同時に送信することにより、送信時間を極力短くすることができるので、受信不能となる近傍領域を確実に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明によるレーダ装置、レーダ送信信号生成方法、レーダ送信信号生成プログラムおよびプログラム記録媒体の好適な実施例について添付図を参照して説明する。なお、本発明は、以下に説明するような処理をファームウェアとしてコンピュータに実行させるためのプログラムやそれを格納した記憶媒体を包含することは言うまでもない。
【0013】
(本発明の特徴)
本発明は、レーダ装置において、狭帯域の離散帯域を用いて送信信号を送信する場合であっても、送信時間を短縮して、近傍のターゲットからの反射波も受信することを可能としている。つまり、図8(B)にて説明したように、例えば帯域B内の離散帯域b1,b2,…,b5の5つの帯域を用いて送信する場合、図1に示すように、各離散帯域bi(i=1〜5)についてそれぞれで最低限必要とする送信時間τi(=1/bi)のうち、最も長い時間を要する離散帯域例えばb1の送信時間τ1(=1/b1)の時間内に、他の離散帯域例えばb2〜b5を平行して送信することを可能とするものである。ここで、図1は、本発明によるレーダ送信信号の送信方法の一例を説明するための説明図であり、図1(A)として従来技術の送信方法つまり図8(B)に示す送信方法を、比較のために示している。
【0014】
図1(A)に示すように、離散帯域の送信信号を送信する場合、図8(B)にて説明したように、従来は、離散帯域b1,b2,…,b5の各信号の必要最小限の送信時間τ1(=1/b1),τ2(=1/b2),…,τ5(=1/b5)の総和である
τ=τ1+τ2+…+τ5
の送信時間を必要としている。
【0015】
これに対して、本発明の場合、図1(B)に示すように、離散帯域b1,b2,…,b5の各信号の必要最小限の送信時間τ1,τ2,…,τ5のうち、最も長い送信時間に相当する送信時間は最低限必要であるので、この最長の送信時間を要する離散帯域の送信信号を送信している間に、残りの離散帯域の送信信号も同時に送信してしまうように動作する。
【0016】
例えば、図1(B)の示すように、最長の送信時間を要する離散帯域が仮に帯域b1であり、その最短の送信時間が時間τ1に相当している場合、b1=1/τ1の帯域の信号をτ1時間かけて送信する間に、残りの帯域b2〜b5の信号を、適当に配分して同時に送信する。図1(B)の例では、最初に、帯域b1の送信開始に合わせて帯域b2,b3を同時送信し、しかる後、帯域b4,b5を同時送信し、帯域b1の送信終了時間内に送信動作を終了するように制御している。
【0017】
(実施例の構成)
次に、本発明のレーダ装置の構成例について図2を用いて説明する。図2は、本発明によるレーダ装置の構成例を示すブロック構成図である。図2に示すレーダ装置10は、離散帯域選択部1、離散帯域合成波形生成部2、離散帯域合成波形格納部3、送信信号生成部4を少なくとも含んで構成されている。
【0018】
離散帯域選択部1は、使用可能な離散帯域が多数存在している場合に、ターゲット情報を取得する上で必要とするレーダパラメータ(帯域B、送信時間τ等)を、ユーザなどが外部から指示することによって、該レーダパラメータを満足する離散帯域の信号の組み合わせを自動的に選択する機能を有する。離散帯域合成波形生成部2は、離散帯域選択部1において選択された各離散帯域信号を時間軸上で足し合わせた離散帯域波形を生成した後、該離散帯域波形をデジタルデータとして出力する機能を有する。
【0019】
また、離散帯域合成波形格納部3は、離散帯域合成波形生成部2から出力される離散帯域波形のデジタルデータにアドレス情報を添付して送信信号用バッファに格納する機能を有する。送信信号生成部4は、離散帯域合成波形格納部3から出力されて送信信号用バッファに格納されている離散帯域波形のデジタルデータをアナログ波形に変換し、レーダ用の送信信号として生成して出力する機能を有する。
【0020】
(実施例の動作の説明)
次に、本発明の一実施例として図2に示すレーダ装置10の動作について具体的に説明する。まず、当該レーダ装置10として使用可能な離散帯域が、b1,b2,…b7の7種類の帯域が存在しているものと仮定し、また、近傍に存在するターゲット情報を得る上で必要とする帯域幅閾値をB以上、送信時間閾値をτ以下と仮定する。
【0021】
これらの条件をレーダパラメータとして離散帯域選択部1に入力すると、離散帯域選択部1では、該レーダパラメータの条件を満足するすべての離散帯域の組み合わせを選択して、出力する。
【0022】
例えば、図2の離散帯域選択部1における離散帯域の選択動作を、図3に示す。図3は、図2の離散帯域選択部1における離散帯域の選択動作の一例を示す説明図である。図3(A)は、使用可能な離散帯域b1,b2,…b7それぞれと必要とする帯域幅Bとの関係および送信時間τとの関係を説明するための説明図であり、図3(B)は、離散帯域の選択結果の一例をケース1として示す説明図であり、図3(C)は、離散帯域の選択結果の異なる例をケース2として示す説明図である。
【0023】
図3(A)に示すように、使用可能な7種類の離散帯域b1,b2,…b7のすべてが、必要とする送信時間閾値τ以内という条件を満たしており、かつ、それぞれの周波数帯域は、離散帯域b1がfb11〜fb12、離散帯域b2がfb21〜fb22、…、離散帯域b7がfb71〜fb72であって、必要とする帯域幅閾値Bが、ケース1として離散帯域b1〜b5の周波数範囲であるfb11〜fb52、ケース2として離散帯域b4〜b7の周波数範囲であるfb41〜fb72において、以下のように、満たされているものとする。
(ケース1):fb52−fb11≧B
(ケース2):fb72−fb41≧B
【0024】
したがって、離散帯域選択部1においては、図3(B)のように、離散帯域b1〜b5の周波数範囲のケース1を選択するか、または、図3(C)のように、離散帯域b4〜b7の周波数範囲のケース2を選択するか、のいずれか一方または双方を選択して出力する。
【0025】
ここで、必要最小限の送信時間は、ケース1の場合には、離散帯域b1〜b5のうち、離散帯域b1のτ1(=1/b1)であり、この離散帯域b1の信号を送信時間τ1だけかけて送信している間に、残りの離散帯域b2〜b5を適宜平行させて送信することになる。一方、ケース2の場合には、離散帯域b4〜b6のうち、離散帯域b6のτ6(=1/b6)であり、この離散帯域b6の信号を送信時間τ6だけかけて送信している間に、残りの離散帯域b4,b5,b7を適宜平行させて送信することになる。
【0026】
なお、図3(B)、図3(C)に示すように、離散帯域b1の必要送信時間τ1は、送信時間閾値τと等しい時間(τ1=τ)であり、一方、離散帯域b6の必要送信時間τ6は、送信時間閾値τよりも短い時間(τ6<τ)であるので、より近傍のターゲットまで検知したいという場合には、例えば、ケース2を優先して選択するようにしても良い。
【0027】
次の離散帯域合成波形生成部2においては、離散帯域選択部1にて選択されたケース1またはケース2のいずれか一方のまたは双方のそれぞれの離散帯域の各信号の組み合わせについて、各離散帯域ごとの信号を生成し、時間軸上で足し合わせる。例えば、離散帯域選択部1において図3のケース1を選択した場合の離散帯域の合成波形を生成する場合を例にとって、図4を用いて説明する。図4は、図2の離散帯域合成波形生成部2において離散帯域の合成波形を生成する動作の一例を示す説明図であり、図3のケース1として示した離散帯域b1〜b5を組み合わせて合成する場合の動作の一例を示している。図4(A)は、離散帯域選択部1における離散帯域選択結果を示す説明図であり、図4(B)は、離散帯域の合成波形の一例をケースAとして示す説明図であり、図4(C)は、離散帯域の合成波形の異なる例をケースBとして示す説明図である。
【0028】
図4(A)に示すように、図3(B)のケース1として選択された離散帯域b1〜b5の各帯域信号の最低限必要な送信時間は最も狭帯域である離散帯域b1のτ1(=τ)であるが、この送信時間τ1内に離散帯域b1〜b5それぞれが送信する送信信号の表現方法として、つまり、離散帯域の合成波形として、図4(B)に示すケースAの方法と図4(C)に示すケースBの方法とがある。
【0029】
図4(B)に示すケースAの方法は、各離散帯域の中心周波数をそれぞれの離散帯域の送信に必要とする時間だけ送信するという方法である。つまり、離散帯域bi(ここで、i=1,2,…,5)の中心周波数は{(fi2−fi1)/2}(ここで、i=1,2,…,5)であり、この中心周波数{(fi2−fi1)/2}の送信信号を、それぞれの必要送信時間τi(ここで、i=1,2,…,5)だけ、適宜時間軸上で組み合わせて送信する。図4(B)の例においては、離散帯域b2,b3は、離散帯域b1の送信開始と同時に送信を開始し、離散帯域b3,b4は、しかる後の適当なタイミングで送信を開始し、離散帯域b1の送信が終了する時間までにそれぞれの送信を終了させるように、組み合わされた合成波形が生成される。
【0030】
一方、図4(C)に示すケースBの方法は、離散帯域b1〜b5の各帯域信号のうち、最も長い送信時間τ1(=τ)を必要とする離散帯域b1については、その中心周波数{(f12−f11)/2}の送信信号を、必要送信時間τ1だけ送信するが、その他の離散帯域bj(ここで、j=2〜5)については、帯域b1の送信時間τ1の間に、それぞれ、下限周波数fj1(ここで、j=2〜5)から上限周波数fj2までを順次掃引するように送信する。図4(C)の例においては、離散帯域b2〜b5のそれぞれは、離散帯域b1の送信開始時点で下限周波数f21〜f51の送信を開始し、しかる後、時間の経過とともに、順次、周波数を上昇させ、離散帯域b1の送信が終了する時点で上限周波数f22〜f52の送信を行うように、時間軸上で組み合わされた合成波形が生成される。
【0031】
離散帯域合成波形生成部2においては、図4(B)のケースA、図4(C)のケースBのいずれの方法についても、離散帯域b1〜b5に相当する送信信号を時間軸上でそれぞれ足し合わせ、離散帯域合成波形として生成し、生成した離散帯域合成波形をデジタルデータとして出力する。なお、離散帯域合成波形生成部2においては、図4(B)のケースA、図4(C)のケースBのいずれか一方のみを選択して出力することも可能であるし、双方とも出力することも可能である。
【0032】
次の離散帯域合成波形格納部3においては、離散帯域合成波形生成部2にて生成された離散帯域合成波形のデジタルデータに対して送信信号用バッファにアドレス情報を添付して格納する。例えば、図4の離散帯域合成波形生成部2にてケースAの方法(つまり、各離散帯域b1〜b5の中心周波数をそれぞれの離散帯域の送信に必要とする時間だけ送信する方法)によって合成された離散帯域合成波形を格納する例を図5に示している。図5は、図2の離散帯域合成波形格納部3における離散帯域合成波形の格納動作の一例を示す説明図である。
【0033】
図5(A)に示すように、図3(B)のケース1として選択された離散帯域b1〜b5を図4(B)のケースAの方法で合成した合成波形のデジタルデータは、送信信号用バッファのアドレス1に格納され、図5(B)に示すように、図3(C)のケース2として選択された離散帯域b4〜b7を図4(B)のケースAの方法で合成した合成波形のデジタルデータは、送信信号用バッファのアドレス2に格納される。なお、レーダ送信信号用として1つの離散帯域合成波形のみが格納される場合には、アドレス情報を付することなく、例えば、送信信号用バッファのアドレス1側に常に固定して格納するようにしても良い。
【0034】
次の送信信号生成部4においては、離散帯域合成波形格納部3にて送信信号用バッファに格納されている、それぞれの合成波形のデジタルデータの中から、送信状況に応じて、適宜、送信環境に合致する適切な合成波形のデジタルデータを選択して取り出し、アナログ波形に変換し、レーダ用の送信信号として出力する。図6は、図2の送信信号生成部4における送信信号の生成動作の一例を示す説明図であり、図5の離散帯域合成波形格納部3にて送信信号用バッファのアドレス1に格納されている離散帯域合成波形のデジタルデータを選択して、レーダ用の送信信号として生成して出力している場合を示している。例えば、図6に示すように、より低周波数帯域の帯域Bの送信信号が必要な場合は、離散帯域合成波形格納部3にてアドレス1に格納されている合成波形のデジタルデータを読み出し、一方、より高周波数帯域における帯域Bの送信信号が必要な場合には、離散帯域合成波形格納部3にてアドレス2に格納されている合成波形を読み出して、いずれの場合もデジタル−アナログ変換を実施して、レーダ用の送信信号を生成して出力する。
【0035】
(本実施例の効果の説明)
レーダ用の送信信号として、離散的な狭帯域しか使用することができない場合においても、複数の離散帯域の信号を適宜組み合わせて同時に送信することにより、送信時間を極力短くすることができるので、受信不能となる近傍領域を確実に低減させることができる。
【0036】
以上、本発明の好適実施例の構成を説明した。しかし、斯かる実施例は、本発明の単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の要旨を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であることが、当業者には容易に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明によるレーダ送信信号の送信方法の一例を説明するための説明図である。
【図2】本発明によるレーダ装置の構成例を示すブロック構成図である。
【図3】図2の離散帯域選択部における離散帯域の選択動作の一例を示す説明図である。
【図4】図2の離散帯域合成波形生成部において離散帯域の合成波形を生成する動作の一例を示す説明図である。
【図5】図2の離散帯域合成波形格納部における離散帯域合成波形の格納動作の一例を示す説明図である。
【図6】図2の送信信号生成部における送信信号の生成動作の一例を示す説明図である。
【図7】レーダの送信信号の送信時間と受信信号との関係を説明するための説明図である。
【図8】離散帯域の送信信号を連続的に掃引して送信する場合の説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 離散帯域選択部
2 離散帯域合成波形生成部
3 離散帯域合成波形格納部
4 送信信号生成部
10 レーダ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ送信信号の周波数として離散帯域を用いるレーダ装置において、離散帯域の各信号のうち、送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間以内に、他の離散帯域の信号を送信するように、離散帯域の各信号を適宜時間軸上で組み合わせた離散帯域合成波形を生成することにより、離散帯域の各信号すべてを前記送信時間以内に送信することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
レーダ送信信号用として使用可能な離散帯域が多数存在している場合、ターゲット情報を取得する上で必要とするレーダパラメータを指定することにより、該レーダパラメータの条件を満たす離散帯域を、使用可能な離散帯域の中からレーダ送信信号用の離散帯域として1ないし複数選択して出力する離散帯域選択手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記離散帯域選択手段により選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間内にそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、それぞれの離散帯域の中心周波数の信号を適宜時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として生成して出力する離散帯域合成波形生成手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記離散帯域選択手段により選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間に合わせてそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域の信号については中心周波数の信号を生成し、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域以外のそれぞれの離散帯域の信号については前記送信時間の間に下限周波数から上限周波数までに順次変化させる信号として生成した後、それぞれの離散帯域の信号を時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として生成して出力する離散帯域合成波形生成手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記離散帯域合成波形生成手段により生成された離散帯域合成波形を送信信号用バッファに格納する離散帯域合成波形格納手段を備えていることを特徴とする請求項3または4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記離散帯域合成波形格納手段は、前記離散帯域選択手段により複数の離散帯域が選択されて、前記離散帯域合成波形生成手段により複数の離散帯域それぞれについて前記離散帯域合成波形が生成されている場合、前記送信信号用バッファにアドレス情報を付して格納することを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記離散帯域合成波形格納手段により前記送信信号用バッファに格納された離散帯域合成波形を、レーダ用の送信信号として生成して出力する送信信号生成手段を備えていることを特徴とする請求項5または6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記送信信号生成手段は、前記送信信号用バッファに複数の離散帯域合成波形が格納されていた場合、送信環境に応じて、複数の離散帯域合成波形のデジタルデータのうち、該送信環境に適合するいずれかの離散帯域合成波形を選択して、レーダ用の送信信号として生成して出力することを特徴とする請求項7に記載のレーダ装置。
【請求項9】
レーダ送信信号の周波数として離散帯域を用いるレーダ装置のレーダ送信信号生成方法において、離散帯域の各信号のうち、送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間以内に、他の離散帯域の信号を送信するように、離散帯域の各信号を適宜時間軸上で組み合わせた離散帯域合成波形を生成することにより、離散帯域の各信号すべてを前記送信時間以内に送信することを可能とすることを特徴とするレーダ送信信号生成方法。
【請求項10】
レーダ送信信号用として使用可能な離散帯域が多数存在している場合、ターゲット情報を取得する上で必要とするレーダパラメータを指定することにより、該レーダパラメータの条件を満たす離散帯域を、使用可能な離散帯域の中からレーダ送信信号用の離散帯域として1ないし複数選択して出力する離散帯域選択ステップを有していることを特徴とする請求項9に記載のレーダ送信信号生成方法。
【請求項11】
前記離散帯域選択ステップにより選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間内にそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、それぞれの離散帯域の中心周波数の信号を適宜時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として生成して出力する離散帯域合成波形生成ステップを有していることを特徴とする請求項10に記載のレーダ送信信号生成方法。
【請求項12】
前記離散帯域選択ステップにより選択された離散帯域の各信号のうち、いずれか送信時間を最も長く必要とする離散帯域の信号の送信時間に合わせてそれぞれの離散帯域の信号を送信するように、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域の信号については中心周波数の信号を生成し、送信時間を最も長く必要とする当該離散帯域以外のそれぞれの離散帯域の信号については前記送信時間の間に下限周波数から上限周波数までに順次変化させる信号として生成した後、それぞれの離散帯域の信号を時間軸上で組み合わせて、離散帯域合成波形として出力する離散帯域合成波形生成ステップを有していることを特徴とする請求項10に記載のレーダ送信信号生成方法。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれかに記載のレーダ送信信号生成方法を、コンピュータにより実行可能なプログラムとして実施していることを特徴とするレーダ送信信号生成プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のレーダ送信信号生成プログラムを、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録していることを特徴とするプログラム記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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