説明

レーダ装置およびレーダ装置の性能低下判定方法

【課題】短時間で高精度な性能低下判定処理を実現することができるレーダ装置およびレーダ装置の性能低下判定方法を得る。
【解決手段】レーダ装置1の検知性能に関する性能低下判定処理を実施する性能低下判定部50は、測定部40で得られた測定結果を加工して、加工済反射物体を生成する測定結果加工部51と、相対距離の範囲と方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に、加工済反射物体の反射波レベルの代表値を計算し、エリア毎反射波レベル代表値を算出するエリア毎反射波レベル代表値計算部52と、エリア毎に、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するエリア毎性能低下度計算部53と、各エリアについて、エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力するエリア毎性能低下度組合せ判定部54とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ搭載車両(以下、「自車」と称する)の周囲に電磁波を送信し、自車の周辺に存在する車両、壁、ガードレール、看板等、電磁波を反射する物体(以下、「反射物体」と称する)を検知して、自車と反射物体との相対距離、相対速度、方位角度、反射波レベル等を測定するレーダ装置およびレーダ装置の性能低下判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載されたレーダ装置によって測定される自車と反射物体との相対距離、相対速度、方位角度、反射波レベル等の測定結果は、自車が前方の障害物に衝突した際の被害を軽減する衝突被害軽減ブレーキシステム(CMB:Collision Mitigation Brake)や、前方の車両に追従するアダプティブクルーズコントロールシステム(ACC:Adaptive Cruise Control)等、車両の安全性や快適性を向上させるための車両用アプリケーションで活用されている。
【0003】
ここで、レーダ装置は、車室内ではなく、車室外に搭載されることが多く、例えば、CMBやACC等の用途で用いられるレーダ装置は、車両のフロントグリル周辺やフォグランプ周辺に取り付けられることが多い。
【0004】
なお、レーダ装置を車室外に搭載する場合には、車両のフロントグリルやレーダ装置そのものに汚れ等が付着する可能性があるので、レーダ装置から送信される電磁波およびレーダ装置で受信される電磁波が汚れ等によって減衰・散乱され、レーダ装置の設計段階の検知性能に対して、著しく検知性能が低下する恐れがある。
【0005】
また、前方の視界が確保できないほどの豪雨や、外気温が低くレーダ装置周辺に氷の膜ができてしまった場合等には、汚れ等が付着した場合と同様に、レーダ装置の設計段階の検知性能に対して、著しく検知性能が低下する恐れがある。
【0006】
このとき、各種車両用アプリケーションは、レーダ装置の設計段階の検知性能を元に作り込まれているので、レーダ装置の検知性能が著しく低下した場合には、車両用アプリケーションの動作が不安定になり、ドライバに違和感を与える恐れがある。
【0007】
そのため、このような場合には、レーダ装置の検知性能が低下しているか否かを判定し、レーダ装置の検知性能が低下しているのであれば、検知性能の低下を引き起こしている要因の排除、例えば、汚れを拭き取る等の作業をドライバに促したり、車両用アプリケーションによる制御の一部を限定したり、車両用アプリケーションを停止したりする等、ドライバに違和感を与えないように、ドライバへの通知や車両の制御等を適宜行うことが望ましい。
【0008】
このような、レーダ装置の設計段階の検知性能に対して、著しく検知性能が低下しているか否かを判定する機能は、これら検知性能が低下した場合に、ドライバへの通知や車両の制御等を行ううえで、必要不可欠な機能である。
【0009】
これ以降において、レーダ装置の設計段階の検知性能に対して、著しく検知性能が低下した状態を、性能低下状態と呼び、それ以外の状態を正常状態と呼ぶ。また、正常状態であるか性能低下状態であるかを判定する処理を、性能低下判定処理と呼び、性能低下判定処理を実施する部位を性能低下判定部と呼ぶ。
【0010】
レーダ装置の性能低下判定処理に関する従来技術として、以下のものがある(例えば、特許文献1参照)。この従来技術では、一定時間反射物体を全く検知しなかった場合に、そのことをドライバに報知する機能を有している。また、一定時間反射物体を全く検知しなかったことを判定するための閾値は、複数用意されている。
【0011】
そのため、ドライバが実際に走行している道路環境において、そもそも反射物体が存在しないことにより、レーダ装置で反射物体を全く検知していないのか、本来反射物体が存在するにもかかわらず、レーダ装置が性能低下状態に陥ったことにより、反射物体を全く検知していないのかを、ドライバが判断することができる構成となっている。
【0012】
また、レーダ装置の性能低下判定処理に関する別の従来技術として、以下のものがある(例えば、特許文献2参照)。この従来技術では、正常状態の場合と性能低下状態の場合とで、レーダ装置で検知した反射物体の反射波レベルの分布範囲や、反射物体の検知個数が異なることを利用し、反射波レベルと基準レベルとを比較してその差分値を積算した積算値が、正常状態の場合は閾値以上となり、性能低下状態の場合は閾値未満となることを性能低下判定処理における指標としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−140696号公報
【特許文献2】特開2006−275942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
性能低下判定処理によって車両用アプリケーションを制御する場合には、性能低下状態で車両用アプリケーションが動作する時間を、可能な限り短くすることが望ましい。また、正常状態であるにもかかわらず、性能低下状態であると誤判定されて、車両用アプリケーションが性能低下状態であるかのように動作することは望ましくない。このように、性能低下状態であるか否かは、可能な限り速やかに、かつ高精度に判定されなければならない。
【0015】
これに対して、特許文献1の方法は、反射物体が存在しないことにより、レーダ装置で反射物体を全く検知していないのか、本来反射物体が存在するにもかかわらず、レーダ装置が性能低下状態に陥ったことにより、反射物体を全く検知していないのかを判定するには、非常に有効な手段である。
【0016】
しかしながら、反射物体が完全に検知されなくなってからドライバに報知することになるので、反射物体が完全に検知されなくなってからしばらくの間は、車両用アプリケーションが動作する可能性がある。すなわち、性能低下状態に陥ったとしても、必ずしも全ての反射物体が検知されないとは限らないので、反射物体が検知されている間は、性能低下状態であるか否かを判定するための別の方法が必要になる。
【0017】
一方、特許文献2の方法は、反射波レベルと基準レベルとを比較してその差分値を積算した積算値を性能低下判定処理における指標としているので、反射物体が検知されている間にも、性能低下状態であるか否かの判定が可能である。すなわち、反射物体の検知される個数の変化および反射波レベルの変化の両方を複合したものを、性能低下判定処理の指標として用いているといえる。
【0018】
一般に、汚れ等が付着したことで反射波レベルが低下した場合には、反射物体が検知される個数も減少する傾向にあるので、これらを複合したものを指標とすることにより、性能低下判定処理の精度を向上させることができる場合もある。
【0019】
しかしながら、性能低下状態でなくても、路側設置物が比較的少ない場合には、検知個数が少なくなるので、これらを複合したものを指標とすると、検知個数が少ないことが原因で差分値の積算値が閾値を下回り、性能低下状態であると誤判定される恐れがあった。
【0020】
また、特許文献2の方法では、反射物体の相対距離に依存した反射波レベルの変化が十分に考慮されていない。一例として、反射物体の相対距離に対する反射波レベルの分布を図13に示す。図13に示されるように、相対距離が近付くほど反射波レベルが指数関数的に増加し、反射波レベルの分散も、相対距離が近付くほど大きくなる。
【0021】
そのため、特許文献2の方法を用いる場合には、相対距離に依存した反射波レベルの変化があまり大きくない相対距離の範囲に限定して性能低下判定処理を実施しなければ、性能低下状態であるか否かを高精度に判定することができない。
【0022】
また、特許文献2の方法では、反射物体の方位角度に依存した反射波レベルの変化も十分に考慮されていない。ここで、近年、電子式のスキャン方式を採用したレーダ装置が盛んに検討されている。
【0023】
機械式のスキャン方式を採用したレーダ装置では、水平方向のビーム幅をある程度絞り、ビームの方向を機械的にずらすことで、反射物体の方位角度を算出している。これに対して、電子式のスキャン方式を採用したレーダ装置では、ビームの方向を機械的にずらすわけではなく、水平方向のビーム幅をある程度確保した上で、公知のモノパルス測角方式等の信号処理によって、反射物体の方位角度を算出している。
【0024】
これにより、機械式のスキャン方式を採用したレーダ装置では、ある1つの反射物体をある第1方位角度に置いた場合と、別の第2方位角度に置いた場合とで、反射物体から得られる反射波レベルがほぼ同じであることに対して、電子式のスキャン方式を採用したレーダ装置では、アンテナのビームパターンに依存して反射波レベルが異なる点が特に顕著である。
【0025】
そのため、特許文献2の方法を用いる場合には、アンテナのビームパターンがある程度一定となるような方位角度の範囲に限定して性能低下判定処理を実施しなければ、性能低下状態であるか否かを高精度に判定することができない。
【0026】
以上のように、特許文献2の方法では、あらゆる相対距離・方位角度で検知した反射物体を対象として性能低下判定処理を実施するわけではなく、特定の相対距離の範囲・方位角度の範囲で検知した反射物体に限定して性能低下判定処理を実施する必要がある。そのため、その特定の相対距離・方位角度の範囲内に反射物体を十分に検知するまでは、性能低下状態であるか否かを高精度に判定することができず、性能低下状態であるか否かを高精度に判定するには、長い時間を要するという問題がある。
【0027】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、反射物体の相対距離(検知距離)や反射物体の方位角度(検知角度)に依存した反射波レベルの変化を十分に考慮することで、あらゆる相対距離・方位角度で検知した反射物体を対象として性能低下判定処理を実施し、従来よりも短時間で高精度な性能低下判定処理を実現することができるレーダ装置およびレーダ装置の性能低下判定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この発明に係るレーダ装置は、車両に搭載され、周囲に電磁波を送信し、周辺に存在する反射物体で反射した電磁波を受信して、反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを出力するレーダ装置であって、一定の時間周期で反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを測定する測定部と、レーダ装置の検知性能に関する性能低下判定処理を実施する性能低下判定部と、を備え、性能低下判定部は、測定部で得られた測定結果を加工して、加工済反射物体を生成する測定結果加工部と、相対距離の範囲と方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に、加工済反射物体の反射波レベルの代表値を計算し、エリア毎反射波レベル代表値を算出するエリア毎反射波レベル代表値計算部と、エリア毎に、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するエリア毎性能低下度計算部と、各エリアについて、エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力するエリア毎性能低下度組合せ判定部と、を有するものである。
【0029】
この発明に係るレーダ装置の性能低下判定方法は、車両に搭載され、周囲に電磁波を送信し、周辺に存在する反射物体で反射した電磁波を受信して、反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを出力するレーダ装置の性能低下判定方法であって、一定の時間周期で反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを測定する測定ステップと、レーダ装置の検知性能に関する性能低下判定処理を実施する性能低下判定ステップと、を備え、性能低下判定ステップは、測定ステップで得られた測定結果を加工して、加工済反射物体を生成する測定結果加工ステップと、相対距離の範囲と方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に、加工済反射物体の反射波レベルの代表値を計算し、エリア毎反射波レベル代表値を算出するエリア毎反射波レベル代表値計算ステップと、エリア毎に、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するエリア毎性能低下度計算ステップと、各エリアについて、エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力するエリア毎性能低下度組合せ判定ステップと、を有するものである。
【発明の効果】
【0030】
この発明に係るレーダ装置およびレーダ装置の性能低下判定方法によれば、レーダ装置の検知性能に関する性能低下判定処理を実施する性能低下判定部(ステップ)は、測定部(ステップ)で得られた測定結果を加工して、加工済反射物体を生成する測定結果加工部(ステップ)と、相対距離の範囲と方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に、加工済反射物体の反射波レベルの代表値を計算し、エリア毎反射波レベル代表値を算出するエリア毎反射波レベル代表値計算部(ステップ)と、エリア毎に、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するエリア毎性能低下度計算部(ステップ)と、各エリアについて、エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力するエリア毎性能低下度組合せ判定部(ステップ)とを有する。
これにより、あらゆる相対距離・方位角度で検知した反射物体を対象として性能低下判定処理を実施することができ、従来よりも短時間で高精度な性能低下判定処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の性能低下判定部の処理内容を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のエリア毎反射波レベル代表値計算部の処理内容を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のエリア毎性能低下度計算部において、エリア毎反射波レベル代表値閾値を1つとした場合の処理内容を示す概念図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のエリア毎性能低下度計算部におけるエリア毎反射波レベル代表値閾値を例示する説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のエリア毎性能低下度計算部におけるエリア毎性能低下度を例示する説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のエリア毎性能低下度計算部において、エリア毎反射波レベル代表値閾値を3つとした場合の処理内容を示す概念図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のエリア毎性能低下度計算部において、エリア毎反射波レベル代表値閾値を3つとした場合のエリア毎反射波レベル代表値閾値を例示する説明図である。
【図9】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置のエリア毎性能低下度組合せ判定部の処理内容を示すフローチャートである。
【図10】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置において、性能低下判定結果を状態A、状態Bおよび状態Cの3種類に分類した場合の処理内容を示す概念図である。
【図11】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の性能低下判定部の処理内容を示すフローチャートである。
【図12】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置のエリア毎反射波レベル代表値計算部の処理内容を示すフローチャートである。
【図13】レーダ装置で検知される反射物体の相対距離と反射波レベルとの関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず始めに、この発明の概念について、従来技術の問題点を踏まえて説明する。
この発明では、エリア毎反射波レベル代表値やエリア毎性能低下度の算出時に、検知個数によって適宜平均化等を実施する構成とした。
【0033】
これにより、特許文献2の方法では、検知個数が少なければ少ないほど、積算値が小さい値になっていたのに対して、この発明における指標であるエリア毎反射波レベル代表値やエリア毎性能低下度は、検知個数が少なくても必ずしも小さい値になるとは限らない。そのため、特許文献2の方法と比較して、検知個数が少ないことで性能低下状態であると誤判定される確率を低減することができる。
【0034】
また、この発明では、統計的にレーダ反射断面積(RCS:Radar Cross Section)の平均や分散が、走行経路によらずある程度一定の値に収束する点、およびレーダ装置で検知された反射物体の反射波レベルの分布が相対距離・方位角度毎に異なる点を考慮して、性能低下判定処理を実現する。
【0035】
一般に、レーダ装置で検知される反射物体には、車両、壁、ガードレール、看板等、非常に多様な素材で構成された様々な大きさや形状の物体が含まれており、それぞれ異なるRCSを持つので、レーダ装置で検知される瞬時的な反射波レベルは、図13に示されるように、非常に幅広い分布となる。
【0036】
そこで、この発明では、相対距離の範囲と方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に分類し、相対距離による反射波レベルの変化やアンテナのビームパターンによる反射波レベルの変化によって、予め反射波レベルがある程度強いことが既知の反射物体と、予め反射波レベルがある程度弱いことが既知の反射物体とを分ける。
【0037】
また、各エリアで検知された反射物体の反射波レベルからエリア毎に反射波レベル代表値を算出し、それぞれのエリア毎に異なる閾値と比較してエリア毎性能低下度を算出し、各エリアについて、エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力する構成としている。
【0038】
そのため、検知距離や検知角度によらず、レーダ装置で検知した全ての反射物体の反射波レベルを対象として性能低下判定処理を実現することができるので、この発明は、特許文献2の方法と比較して、短時間で高精度な性能低下判定処理を実現することができる。
【0039】
そこで、以下、この発明に係るレーダ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。また、以下の実施の形態では、レーダ装置が車両に搭載されている場合を例に挙げて説明する。
【0040】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1を、車両制御部2および走行速度センサ3とともに示すブロック構成図である。図1において、レーダ装置1は、制御部10、送受信部20、アンテナ部30、測定部40および性能低下判定部50を備えている。また、性能低下判定部50は、測定結果加工部51、エリア毎反射波レベル代表値計算部52、エリア毎性能低下度計算部53およびエリア毎性能低下度組合せ判定部54を有している。
【0041】
制御部10は、例えば、専用のロジック回路や、汎用のCPU(Central Processing Unit)内のプログラム、または両者の組み合わせで構成され、以下に述べるレーダ装置1の各構成要素の動作タイミング等を制御する。
【0042】
送受信部20およびアンテナ部30では、制御部10の制御により、送受信部20で生成された送信信号が、アンテナ部30で送信電磁波として空間に放射され、反射物体等で反射した電磁波がアンテナ部30で受信され、送受信部20で受信信号に変換される。
【0043】
測定部40は、例えば、専用のロジック回路や、汎用のCPU、DSP(Digital Signal Processor)内のプログラム、またはこれらの組み合わせで構成され、受信信号の入力タイミングや測定結果の出力タイミングが制御部10で制御される。また、測定部40は、使用するレーダ方式や測角方式に対応する信号処理を実施して、各々の反射物体について、相対距離、相対速度、方位角度および反射波レベルを測定する。
【0044】
なお、送受信部20は、相対距離、相対速度および反射波レベルを測定するために、レーダ方式として公知であるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式や、パルスドップラー方式等を実現できるように構成され、送受信のタイミングは、制御部10により制御される。
【0045】
また、アンテナ部30は、方位角度を測定するために、公知であるモノパルス測角方式用に方位角度方向に送受電磁波の向きを変えられる機構や、公知であるアレー信号処理測角方式用に電磁波を送受信するための複数の素子を含み、送受電磁波の向きや、複数素子での電磁波の送信や受信のタイミング等は、制御部10により制御される。
【0046】
また、制御部10は、測定部40での処理を終えた後、性能低下判定部50内の測定結果加工部51、エリア毎反射波レベル代表値計算部52、エリア毎性能低下度計算部53およびエリア毎性能低下度組合せ判定部54を順に制御し、性能低下判定処理を実施する。
【0047】
ここで、図2のフローチャートを参照しながら、性能低下判定部50の動作の全体像について説明する。図2は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1の性能低下判定部50の処理内容を示すフローチャートである。
【0048】
まず、性能低下判定処理実行中フラグがONに設定される(ステップS11)。以降では、この性能低下判定処理実行中フラグがONになってからどの程度時間が経過したか、どの程度の距離を自車が移動したか等を、各種処理の指標として使用する。
【0049】
続いて、測定結果加工部51が制御され、測定結果加工部51は、性能低下判定処理の精度を向上させるために、レーダ装置1で検知した全ての反射物体の測定結果を入力として、レーダ装置1で検知した反射物体の測定結果の中から一部を抽出したり、複数の反射物体の測定結果をひとまとめにしたりして、加工済反射物体を生成する(ステップS12)。加工済反射物体の生成方法については、後述する。
【0050】
次に、エリア毎反射波レベル代表値計算部52が制御され、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、加工済反射物体の反射波レベルから、エリア毎に反射波レベル代表値を算出する(エリア毎反射波レベル代表値計算処理)(ステップS13)。エリア毎反射波レベル代表値の算出方法については、後述する。
【0051】
続いて、エリア毎性能低下度計算部53が制御され、エリア毎性能低下度計算部53は、エリア毎に、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出する(エリア毎性能低下度計算処理)(ステップS14)。エリア毎性能低下度の算出方法については、後述する。
【0052】
次に、エリア毎性能低下度組合せ判定部54が制御され、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、各エリアについて、エリア毎性能低下度を組み合わせて(エリア毎性能低下度組合せ判定処理)性能低下判定結果を出力する(ステップS15)。なお、性能低下判定結果は、必ずしも毎回の信号処理周期で出力されるわけではなく、ある程度時間が経過するごとに出力される構成となっている。エリア毎性能低下度の組み合わせの詳細な方法については、後述する。
【0053】
続いて、ステップS15で出力された性能低下判定結果に基づいて、性能低下判定処理が完了したか否かが判定される(ステップS16)。
ステップS16において、性能低下判定処理が完了していない(すなわち、No)と判定された場合には、そのまま図2の処理を終了する。
【0054】
一方、ステップS16において、性能低下判定処理が完了した(すなわち、Yes)と判定された場合には、性能低下判定処理実行中フラグがOFFに設定され、各処理で平均値や和等を計算するために用いられた変数が適宜初期化されて(ステップS17)、図2の処理を終了する。
【0055】
以下、性能低下判定部50の各部の処理について詳細に説明する。
測定結果加工部51は、各信号処理周期で検知された全ての反射物体から、加工済反射物体を生成する。ここで、生成された加工済反射物体には、それぞれ添え字[m](m=1〜加工済反射物体の総数)を付加して表記することとする。なお、添え字[m]を付加しなくても、各信号処理周期で生成された加工済反射物体であることが自明な場合には、添え字[m]を省略する。
【0056】
測定結果加工部51の具体的な処理例を以下に6つ示す。
まず、1つ目の処理例は、時系列相関処理である。
時系列相関処理では、今回信号処理周期の各々の反射物体の相対距離、相対速度、方位角度等の測定結果から、次回信号処理周期の相対距離、相対速度、方位角度等を予測した予測値を算出する。
【0057】
また、次回信号処理周期では、測定部40で得られた各々の反射物体の測定結果と、予測値とを比較し、予測値に最も近い反射物体を同一の反射物体であると判断し、同一の反射物体であると判断されたものには、毎回の信号処理周期で同じ反射物体番号を割り当てる。
【0058】
また、それ以降の信号処理周期でも、継続して同じ反射物体番号が割り当てられるようにすることで、前回信号処理周期と今回信号処理周期とで同じ反射物体であると考えられるものを同定し、時系列で相関のある反射物体のみを継続して検知し、それを加工済反射物体として用いる。
【0059】
一般に、レーダ装置の測定結果には、本来存在しないはずの物体を検知してしまう誤検知が含まれているので、上述した時系列相関処理を実施することで、レーダ装置の測定結果の信頼性が高くなり、その結果として、性能低下判定結果の信頼性も向上する。
【0060】
続いて、2つ目の処理例は、静止物抽出処理である。
静止物抽出処理では、走行速度センサ3で得られた自車の走行速度とレーダ装置1で得られた相対速度等から、反射物体の対地速度を算出し、反射物体の対地速度の絶対値が閾値以下の物体を地面に対して静止している物体、すなわち静止物とし、それ以外の物体を地面に対して移動している物体、すなわち移動物として分類し、特に静止物のみを抽出して加工済反射物体として用いる。
【0061】
一般に、レーダ装置で検知される反射物体のうち、移動物の多くは車両であり、それらは、自車とほぼ等速度で移動している可能性が高い。そのため、レーダ装置では、連続する信号処理周期にわたって同一の移動物を検知する可能性が高く、一定期間にレーダ装置で検知した反射物体のRCSの統計的な分布範囲が、自車の周辺に存在する移動物のRCSに偏ってしまう恐れがある。
【0062】
移動物の中には、トラック等のRCSの大きい反射物体や、バイク等のRCSの小さい反射物体が存在しているが、レーダ装置の測定結果からは、その反射物体がトラックであるか、バイクであるかを識別することは困難である。そのため、偶然にもバイク等のRCSが小さい反射物体が自車の前方を走行し続けているような状況では、後述の処理によって、性能低下状態ではないにもかかわらず、性能低下状態であると誤判定される恐れがある。そこで、静止物抽出処理を実施し、移動物と判定された反射物体を加工済反射物体としないことで、上述したバイクの事例のような誤判定を防止することができる。
【0063】
次に、3つ目の処理例は、近距離反射物体除外処理である。
特に、CMBやACC等の車両用アプリケーションにおいて、車両の前方にレーダ装置を搭載する場合には、数m程度の近距離で検知される反射物体の反射波レベルと、他の相対距離の反射物体の反射波レベルとは、異なる分布となる可能性が高い。
【0064】
これは、数m程度の近距離では、ガードレール等の道路上構造物があまり検知されないのに対して、車両等は、自車の前方を走行する先行車両や、信号待ちや渋滞等による停車車両として近距離に検知されやすいためである。そこで、近距離反射物体除外処理では、ある程度近距離で検知された反射物体は、加工済反射物体として生成しないこととする。
【0065】
続いて、4つ目の処理例は、自車線内反射物体除外処理である。
特に、CMBやACC等の車両用アプリケーションにおいて、車両の前方にレーダ装置を搭載する場合には、自車線内で検知される反射物体の反射波レベルと、それ以外で検知される反射物体の反射波レベルとは、異なる分布となる可能性が高い。
【0066】
これは、自車線内では、ガードレール等の道路上構造物があまり検知されないのに対して、車両等は、自車の前方を走行する先行車両や、信号待ちや渋滞等による停車車両として自車線内で多く検知されるためである。そこで、自車線内反射物体除外処理では、自車線内で検知された反射物体は、加工済反射物体として生成しないこととする。
【0067】
なお、自車線内で検知された反射物体を、加工済反射物体として生成しないようにする場合には、図1に示した構成に、ヨーレートセンサやハンドル角センサ等の自車の運動状態を観測するセンサや、レーダ装置1の検知結果等によって自車線の位置を推定する自車線位置推定部を別途設ける必要がある。
【0068】
次に、5つ目の処理例は、マルチパス反射物体除外処理である。
レーダ装置では、路面によるマルチパス等の影響により、同一の反射物体をレーダ装置で検知し続けていたとしても、反射波レベルは、時間とともに大きく変動する場合がある。そこで、マルチパス反射物体除外処理では、上述した時系列相関処理と組み合わせて、同じ反射物体番号の割り当てられた反射物体の反射波レベルの時間的な変化を観測し、反射波レベルの時間的な変動が閾値以上である場合には、それを加工済反射物体として生成しないこととする。
【0069】
続いて、6つ目の処理例は、自車の走行速度が閾値以下の場合に、反射物体を加工済反射物体として生成しない処理である。
これは、自車が完全に同じ場所に停止した状態や、自車が低速で走行している状態では、レーダ装置で検知される反射物体がほとんど変化しないことにより、レーダ装置で検知した反射物体のRCSの統計的な分布範囲が、自車が完全に同じ場所に停止した状態や、自車が低速で走行している状態で検知した反射物体のRCSに偏ってしまい、性能低下判定結果を誤る恐れがあるためである。
【0070】
以上、測定結果加工部51の具体的な処理例を6つ挙げた。なお、レーダ装置を構成するCPUへの負荷と、性能低下状態の判定精度への車両制御部2からの要求等とを加味して、これらの処理は、1つも実施しなくてもよいし、それぞれを組み合わせて実施してもよい。
【0071】
ここで、以降のエリア毎反射波レベル代表値計算部52、エリア毎性能低下度計算部53およびエリア毎性能低下度組合せ判定部54の処理内容を説明する前に、それぞれの処理で必要になる「エリア」について定義する。
【0072】
この発明では、相対距離の範囲と方位角度の範囲とによって形成される領域のことを「エリア」と呼び、各エリアには、エリア番号i(i=1〜分割したエリアの総数)が割り振られている。例えば、相対距離10m毎、方位角度5deg毎といったように分割し、分割したエリアの大きさや形状をレーダ装置1で記憶している。なお、個々のエリアの大きさは、必ずしも相対距離10m毎、方位角度5deg毎である必要はなく、また、個々のエリアの大きさが互いに等しい必要もない。
【0073】
また、相対距離および方位角度は、反射物体の位置を極座標系で表したものであるが、これを直交座標系に変換して、横位置=相対距離×sin(方位角度)、縦位置=相対距離×cos(方位角度)というように、反射物体の位置を直交座標系で表し、エリアを直交座標系で分割してもよい。さらに言えば、相対距離による反射波レベルの変化やアンテナのビームパターン等を考慮し、後述する各種閾値を適切に設定すれば、個々のエリアは任意の大きさ、形状としてよい。
【0074】
また、相対距離による反射波レベルの変化やアンテナのビームパターン等を考慮し、例えば、相対距離が長すぎるエリアや、アンテナのビームパターンのヌル点付近のように、反射物体が存在したとしても反射波レベルが低くなりすぎるエリアでは、ノイズ等の影響を受けやすく、性能低下判定処理を誤る可能性が高い。そのため、分割したエリアの一部を、性能低下判定処理の対象外とする無効なエリアとしてもよい。
【0075】
以降の各処理では、エリア毎に計算用の変数や閾値を用いる。特に、各エリア番号iにおける計算用の変数や閾値であることを明言する場合には、それぞれ添え字[i](i=1〜分割したエリアの総数)を付加して表記することとする。なお、添え字[i]を付加しなくても、各エリア番号iにおける計算用の変数や閾値であることが自明な場合には、添え字[i]を省略する。
【0076】
続いて、図3のフローチャートを参照しながら、性能低下判定部50のエリア毎反射波レベル代表値計算部52の動作について説明する。図3は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1のエリア毎反射波レベル代表値計算部52の処理内容を示すフローチャートである。
【0077】
まず、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、全ての加工済反射物体の相対距離および方位角度から、各加工済反射物体が属しているエリアのエリア番号を取得するとともに、後述するステップS24において、エリア毎反射波レベル平均値を算出するために、各エリアに属していると判定された加工済反射物体の反射波レベルの和であるエリア毎反射波レベル和、および各エリアに属していると判定された加工済反射物体の個数であるエリア毎データ数を計算する(ステップS21)。
【0078】
続いて、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、性能低下判定処理実行中フラグがONになってからの経過時間が、閾値以上であるか否かを判定する(ステップS22)。また、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、性能低下判定処理実行中フラグがONになってからの自車の移動距離が、閾値以上であるか否かを判定する(ステップS23)。
【0079】
ステップS22、またはステップS23において、閾値未満である(すなわち、No)と判定された場合には、図3の処理を終了する。つまり、エリア毎反射波レベル和およびエリア毎データ数は、ステップS22およびステップS23の条件を満たすまで、すなわち、性能低下判定処理実行中フラグがONになってからの経過時間が閾値以上であり、かつ自車の移動距離が閾値以上であるという条件を満たすまで計算され続ける。
【0080】
一方、ステップS22およびステップS23において、閾値以上である(すなわち、Yes)と判定された場合には、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、エリア毎データ数がエリア毎データ数閾値以上のエリアについてのみ、エリア毎反射波レベル和をエリア毎データ数で割ってエリア毎反射波レベル平均値を算出し、それぞれのエリアでのエリア毎反射波レベル平均値を、エリア毎反射波レベル代表値とする(ステップS24)。
【0081】
RCSの平均が走行経路によらずある程度一定の値に収束すること、および相対距離や方位角度に依存して反射波レベルが変化することを考慮すると、レーダ装置が正常状態であるか性能低下状態であるかによって、エリア毎反射波レベル平均値は、エリア毎に異なる値に収束することとなる。
【0082】
このことを利用すると、エリア毎反射波レベル平均値をエリア毎反射波レベル代表値として算出し、後述する処理でエリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較することで、性能低下状態であるか否かを判定することができる。
【0083】
なお、ステップS22において、性能低下判定処理実行中フラグがONになってからの経過時間が閾値以上になるまで、エリア毎反射波レベル平均値を算出しないようにしているのは、あまりにも短時間での検知結果のみを用いてエリア毎反射波レベル平均値を算出してしまうと、レーダ装置で検知した反射物体のRCSの統計的な分布範囲に極端な偏りが生じ、性能低下判定結果を誤る恐れがあるためである。
【0084】
また、自車が高速で走行している場合、ステップS22の条件のみでは、自車が低速で走行している場合と比較して、自車の移動距離が短くなってしまう。レーダ装置で検知した反射物体のRCSの統計的な分布範囲は、自車の移動距離が長ければ長いほど安定する。そのため、このことを加味して、ステップS23では、自車の移動距離が閾値以上となるまで、エリア毎反射波レベル平均値を算出しないようにしている。
【0085】
また、ステップS24において、エリア毎データ数がエリア毎データ数閾値以上のエリアについてのみ、エリア毎反射波レベル平均値を算出しているのは、平均値の算出に用いたサンプル数が十分であるか否かを判断するための指標である。
【0086】
一般に、平均値を算出するためには、十分に多くのサンプル数が必要となるが、後述するエリア毎性能低下度組合せ判定部54において、それぞれのエリア毎反射波レベル代表値から算出されたエリア毎性能低下度を複合して性能低下最終判定処理を実施する。そのため、性能低下判定結果の判定精度に大きな影響を与えない程度に、個々のエリアのエリア毎データ数閾値を小さく設定してもよい。
【0087】
なお、ステップS22、ステップS23およびステップS24の各条件の閾値は、レーダ装置の設計値や実際の屋外走行で得られた反射波レベルの分布等をもとに設定されるものである。
【0088】
次に、図4〜8を参照しながら、性能低下判定部50のエリア毎性能低下度計算部53の動作について説明する。図4は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1のエリア毎性能低下度計算部53において、エリア毎反射波レベル代表値閾値を1つとした場合の処理内容を示す概念図である。
【0089】
エリア毎性能低下度計算部53は、エリア毎反射波レベル代表値計算部52で算出されたエリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較する。その結果、エリア毎反射波レベル代表値≧エリア毎反射波レベル代表値閾値であれば、エリア毎性能低下度に+1を割り当て、エリア毎反射波レベル代表値<エリア毎反射波レベル代表値閾値であれば、エリア毎性能低下度に−1を割り当てる。
【0090】
ここで、割り当てた数字は、性能低下の度合いを表すものであり、エリア毎性能低下度組合せ判定部54で使用される。また、エリア毎性能低下度計算部53は、この処理を全てのエリアについて実施し、全てのエリアでのエリア毎性能低下度を得る。
【0091】
図5は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1のエリア毎性能低下度計算部53におけるエリア毎反射波レベル代表値閾値を例示する説明図である。図5に示されるように、エリア毎反射波レベル代表値閾値は、相対距離方向および方位角度方向に異なる閾値とする。
【0092】
なお、エリア毎反射波レベル代表値閾値の算出方法としては、エリア毎に一定時間または一定個数の反射物体の反射波レベルを平均化したものとしたり、各々のエリアの反射波レベルの分布の中央値(50%値)としたりする等、全てのエリアについて、同じ基準で算出しなければならない。
【0093】
これは、エリア毎性能低下度組合せ判定部54において、全てのエリアのエリア毎性能低下度を組み合わせて、性能低下判定結果を算出するためであり、エリア毎反射波レベル代表値閾値がエリア毎に異なる基準で算出されていては、性能低下判定結果の精度が劣化してしまう恐れがあるためである。
【0094】
なお、エリア毎反射波レベル代表値閾値は、レーダ装置の設計値や実際の屋外走行で得られた反射波レベルの分布等をもとに、レーダ装置に予め設定されていてもよい。また、レーダ装置を車両に搭載して実際に車両用アプリケーションを運用している間に検知した各反射物体の反射波レベルを用いて、全てのエリアで同じ基準で算出することを条件に、車両用アプリケーション運用中にエリア毎反射波レベル代表値閾値が更新されるようにしてもよい。
【0095】
また、当然であるが、アンテナのビームパターンや最大検知距離等のレーダ装置の設計値によって、エリア毎反射波レベル代表値閾値は、適宜変更しなければならない。また、エリア毎反射波レベル代表値閾値は、エリア毎に割り当てられる離散的な値であるが、各エリアは、相対距離方向および方位角度方向にある程度幅を持っているので、加工済反射物体の相対距離や方位角度に応じて、エリア間閾値補間処理を実施してもよい。
【0096】
エリア間閾値補間処理を実施しない場合には、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するが、エリア間閾値補間処理を実施する場合には、エリア毎反射波レベル代表値を算出したときの加工済反射物体の相対距離および方位角度が既知であることを利用して、エリア毎反射波レベル代表値閾値の代わりに、エリア毎反射波レベル代表値閾値補間値を別途算出した後、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値補間値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出する。
【0097】
ここで、エリア毎反射波レベル代表値閾値補間値とは、相対距離方向または方位角度方向に隣接するエリアに割り当てられたエリア毎反射波レベル代表値閾値を用いて、あらゆる相対距離・方位角度での反射波レベルの変化を考慮して補間された閾値である。
【0098】
なお、同一のエリアで同一のRCSの反射物体を検知したとしても、反射物体の相対距離や方位角度に依存して反射波レベルは若干異なる。しかしながら、エリア毎反射波レベル代表値閾値補間値を用いることで、このようなエリア内での反射物体の相対距離や方位角度に依存した反射波レベルの変化にも対応できるようになる。そのため、エリア間閾値補間処理を実施しない場合と比較して、エリア間閾値補間処理を実施する場合には、性能低下判定結果の誤判定を抑えることができる。
【0099】
図6は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1のエリア毎性能低下度計算部53におけるエリア毎性能低下度を例示する説明図である。図6において、各エリアは、エリア毎性能低下度が+1のエリア、エリア毎性能低下度が−1のエリア、およびエリア毎性能低下度が算出されていないエリアの3つに分類される。
【0100】
ここで、エリア毎性能低下度が算出されていないエリアを性能低下度未算出エリア、それ以外のエリアを性能低下度算出済エリアと呼ぶこととする。性能低下度未算出エリアは、エリア毎反射波レベル代表値が得られていないエリアに相当し、これらのエリアは、以降の処理において、処理の対象外とする。
【0101】
なお、ここでは、エリア毎性能低下度として数字+1や−1を割り当てたが、エリア毎の性能低下の度合いが分かる値であれば他の数字であってもよい。さらに言えば、エリア毎性能低下度は、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値との差分値に、エリア毎の反射波レベルの分散を考慮した重みを掛けた値としてもよい。
【0102】
エリア毎性能低下度は、エリア毎性能低下度組合せ判定部54において、性能低下判定結果を出力するために用いられ、エリア毎性能低下度組合せ判定部54における判定精度を向上させるためには、エリア毎性能低下度の分散がエリア毎に異なることは望ましくない。
【0103】
そのため、相対距離や方位角度によって反射波レベルの分散が異なることを考慮して、重みを掛ける必要がある。例えば、図13に示されるように、相対距離が近ければ近いほど、反射波レベルの分散が大きくなるので、相対距離が近いエリアほど、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値との差分値に掛ける重みを小さくする。
【0104】
また、エリア毎性能低下度も、数字+1や−1を割り当てる場合と比較して、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値との差分値に、エリア毎の反射波レベルの分散を考慮した重みを掛けた値を割り当てる場合には、閾値以上であるか閾値以下であるかという情報だけでなく、閾値からどの程度離れているかの情報までを含めてエリア毎性能低下度が得られる。
【0105】
そのため、後述するエリア毎性能低下度組合せ判定部54において性能低下度平均値を算出する際、レーダ装置が正常状態である場合の性能低下度平均値と、レーダ装置が性能低下状態である場合の性能低下度平均値の差がより明確になり、性能低下判定結果の精度を向上させることができる。
【0106】
また、別の方法として、エリア毎反射波レベル代表値閾値を複数用意し、この閾値からどの程度離れているかを段階的に表すようにしてもよい。図7は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1のエリア毎性能低下度計算部53において、エリア毎反射波レベル代表値閾値を3つとした場合の処理内容を示す概念図である。
【0107】
図7において、エリア毎性能低下度計算部53は、エリア毎反射波レベル代表値≧エリア毎反射波レベル代表値閾値1であれば、エリア毎性能低下度に+2を割り当て、エリア毎反射波レベル代表値閾値1>エリア毎反射波レベル代表値≧エリア毎反射波レベル代表値閾値2であれば、エリア毎性能低下度に+1を割り当て、エリア毎反射波レベル代表値閾値2>エリア毎反射波レベル代表値≧エリア毎反射波レベル代表値閾値3であれば、エリア毎性能低下度に−1を割り当て、エリア毎反射波レベル代表値<エリア毎反射波レベル代表値閾値3であれば、エリア毎性能低下度に−2を割り当てている。
【0108】
図8は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1のエリア毎性能低下度計算部53において、エリア毎反射波レベル代表値閾値を3つとした場合のエリア毎反射波レベル代表値閾値を例示する説明図である。
【0109】
図8では、エリア毎反射波レベルの相対距離方向の変化のみについて、エリア毎反射波レベル代表値閾値1として各々のエリアの反射波レベルの分布の70%値、エリア毎反射波レベル代表値閾値2として各々のエリアの反射波レベルの分布の50%値、エリア毎反射波レベル代表値閾値3として各々のエリアの反射波レベルの分布の30%値というように、反射波レベルの分布を考慮して、段階的に割り当てた場合の閾値を示している。
【0110】
このように、エリア毎反射波レベル代表値閾値を複数用意し、閾値からどの程度離れているかを段階的に表すようにすることで、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値との差分値に、エリア毎の反射波レベルの分散を考慮した重みを掛ける場合と類似した効果を得ることができる。
【0111】
なお、エリア毎性能低下度の計算方法を変更した場合には、エリア毎性能低下度組合せ判定部54における性能低下度平均値閾値等の関連する閾値を変更する必要がある。以降では、説明の簡単化のため、エリア毎性能低下度として、数字+1と−1を割り当てた場合について説明する。
【0112】
続いて、図9のフローチャートを参照しながら、性能低下判定部50のエリア毎性能低下度組合せ判定部54の動作について説明する。図9は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置1のエリア毎性能低下度組合せ判定部54の処理内容を示すフローチャートである。
【0113】
まず、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、全てのエリアのエリア毎データ数を加算した全エリアのデータ数合計が、データ数合計閾値以上であるか否かを判定する(ステップS31)。これは、全エリアのデータ数合計が多いほど、性能低下判定結果の精度が向上されるためである。
【0114】
ステップS31において、データ数合計がデータ数合計閾値以上である(すなわち、Yes)と判定された場合には、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、エリア毎性能低下度計算部53において、エリア毎性能低下度が算出済のエリアの数である性能低下度算出済エリア総数が、性能低下度算出済エリア総数閾値以上であるか否かを判定する(ステップS32)。これは、複数のエリアでのエリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を算出する際に、性能低下度算出済エリア総数が多いほど、性能低下判定結果の精度が向上されるためである。
【0115】
ステップS32において、性能低下度算出済エリア総数が性能低下度算出済エリア総数閾値以上である(すなわち、Yes)と判定された場合には、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、性能低下判定処理実行中フラグがONになってからの経過時間が、閾値以上であるか否かを判定し(ステップS33)、性能低下判定処理実行中フラグがONになってからの自車の移動距離が、閾値以上であるか否かを判定する(ステップS34)。
【0116】
ステップS33およびステップS34は、図3に示したステップS22およびステップS23と同じ条件であり、図3でステップS22およびステップS23が実施されている場合には、これらのステップは、不要である。なお、ステップS31からステップS34において、閾値未満である(すなわち、No)と判定された場合には、図9の処理を終了する。
【0117】
すなわち、ステップS31からステップS34の各条件が満たされるまでは、性能低下判定結果は計算されず、エリア毎反射波レベル代表値計算部52およびエリア毎性能低下度計算部53の処理が継続されることとなる。
【0118】
続いて、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、性能低下度平均値を算出する(ステップS35)。性能低下度平均値は、後述する性能低下判定最終判定処理にて使用されるもので、性能低下度算出済エリアのエリア毎性能低下度を全て加算して、性能低下度算出済エリア総数で割ることで算出される。
【0119】
次に、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、性能低下最終判定処理を実施する(ステップS36)。性能低下最終判定処理において、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、性能低下度平均値≧性能低下度平均値閾値の場合には、性能低下判定結果を状態Aに設定し、性能低下度平均値<性能低下度平均値閾値の場合には、性能低下判定結果を状態Bに設定するというように、性能低下度平均値が閾値以上であるか閾値未満であるかによって、性能低下判定結果を算出する。
【0120】
なお、状態Aは、レーダ装置1が正常状態にあることを意味し、状態Bは、レーダ装置1が性能低下状態にあることを意味する。性能低下度平均値閾値は、レーダ装置の設計値や実際の屋外走行で得られた反射波レベルの分布等をもとに、予め設定される値である。
【0121】
状態Aと状態Bとを割り当てる方法としては、エリア毎性能低下度計算部53において、エリア毎反射波レベル代表値閾値をエリア毎に2種類用意し、エリア毎性能低下度をエリア毎反射波レベル代表値閾値毎に2種類算出し、エリア毎性能低下度組合せ判定部54が、2種類のエリア毎性能低下度の絶対値を比較して、2種類の性能低下判定結果を出力する方法によって割り当てるものがある。
【0122】
具体的には、エリア毎反射波レベル代表値閾値A用およびエリア毎反射波レベル代表値閾値B用の2種類のエリア毎反射波レベル代表値閾値を用意し、これら2種類のエリア毎反射波レベル代表値閾値と、実際の計測結果であるエリア毎反射波レベル代表値とをそれぞれ比較して、エリア毎性能低下度A用、エリア毎性能低下度B用をそれぞれ別々に算出する。さらに、エリア毎性能低下度組合せ判定部54において、性能低下度平均値A用、性能低下度平均値B用をそれぞれ別々に算出し、性能低下度平均値A用と性能低下度平均値B用とを比較して、状態Aおよび状態Bの何れか1つを割り当てる方法である。
【0123】
性能低下度平均値A用および性能低下度平均値B用の絶対値は、それぞれエリア毎反射波レベル代表値閾値A用およびエリア毎反射波レベル代表値閾値B用に近ければ近いほど小さい値となる。このことを利用すれば、性能低下度平均値A用の絶対値<性能低下度平均値B用の絶対値の場合は状態Aを、性能低下度平均値B用の絶対値≧性能低下度平均値B用の絶対値の場合は状態Bを割り当てればよいといえる。
【0124】
また、エリア毎反射波レベル代表値閾値A用およびエリア毎反射波レベル代表値閾値B用は、それぞれエリア毎反射波レベル代表値閾値A用が、最大検知距離200m以下となるまで汚れ等により反射波レベルが減衰している状態での各エリアでの閾値、エリア毎反射波レベル代表値閾値B用が、最大検知距離50m以下となるまで汚れ等により反射波レベルが減衰している状態での各エリアでの閾値といったように設定されるもので、レーダ装置の設計値や実際の屋外走行で得られた反射波レベルの分布や車両制御部2の要求等を加味して設定されるものである。
【0125】
何れの方法で性能低下判定結果を算出する場合であっても、性能低下判定結果を算出するたびに性能低下判定結果が状態Aと状態Bとの間で振動するような場合には、フィルタを掛ける等して安定化することが望ましい。
【0126】
以上の方法で算出した性能低下判定結果は、車両制御部2へ送信され、車両制御部2では、性能低下判定結果に応じた処理が行われる。例えば、汚れが付着していることをドライバに警報してもよいし、性能低下判定結果に応じて、車両用アプリケーションの制御を止めたり、限定したりするようにするようにしてもよい。
【0127】
なお、ここまで性能低下判定結果として、状態Aおよび状態Bの2種類の性能低下判定結果を算出したが、この発明では、性能低下判定結果を3種類以上用意して、段階的に判定することもできる。
【0128】
性能低下判定結果を状態A、状態Bおよび状態Cといったように段階的に評価できると、例えば、車両制御部2で性能低下判定結果に応じて、状態Aの場合は、CMBもACCも共に動作させる、状態Bの場合は、CMBの動作は停止しないがACCの動作は停止する、状態Cの場合は、レーダ装置に係るあらゆる車両用アプリケーションの動作を停止する等、性能低下判定結果に応じてより細やかな制御が可能となる。
【0129】
ここで、この発明において、性能低下判定結果を段階的に評価する方法を2つ挙げる。以降では、状態A、状態Bおよび状態Cの3種類の性能低下判定結果を算出する場合を例に説明する。
【0130】
1つ目の方法は、エリア毎性能低下度組合せ判定部54において、性能低下度平均値閾値の代わりに、性能低下度平均値閾値AB間用と性能低下度平均値閾値BC間用の2種類を用意するものである。この方法について、図10を参照しながら説明する。図10は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置において、性能低下判定結果を状態A、状態Bおよび状態Cの3種類に分類した場合の処理内容を示す概念図である。
【0131】
この方法では、図10に示されるように、性能低下度平均値≧性能低下度平均値閾値AB間用の場合には、性能低下判定結果を状態Aに設定し、性能低下度平均値閾値AB間用>性能低下度平均値≧性能低下度平均値閾値BC間用の場合には、性能低下判定結果を状態Bに設定し、性能低下度平均値閾値BC間用>性能低下度平均値の場合には、性能低下判定結果を状態Cに設定する。
【0132】
2つ目の方法は、エリア毎性能低下度計算部53において、エリア毎反射波レベル代表値閾値をエリア毎に3種類以上用意し、エリア毎性能低下度をエリア毎反射波レベル代表値閾値毎に3種類以上算出し、エリア毎性能低下度組合せ判定部54が、3種類以上のエリア毎性能低下度の絶対値を比較して、3種類以上の性能低下判定結果を出力する方法によって割り当てるものである。
【0133】
具体的には、エリア毎反射波レベル代表値閾値A用、エリア毎反射波レベル代表値閾値B用およびエリア毎反射波レベル代表値閾値C用といったように、3種類のエリア毎反射波レベル代表値閾値を用意し、これら3種類のエリア毎反射波レベル代表値閾値と、実際の計測結果であるエリア毎反射波レベル代表値とをそれぞれ比較して、エリア毎性能低下度A用、エリア毎性能低下度B用およびエリア毎性能低下度C用をそれぞれ別々に算出する。さらに、エリア毎性能低下度組合せ判定部54において、性能低下度平均値A用、性能低下度平均値B用および性能低下度平均値C用をそれぞれ別々に算出し、性能低下度平均値A用と性能低下度平均値B用と性能低下度平均値C用とを比較して、状態A、状態Bおよび状態Cの何れか1つを割り当てる方法である。
【0134】
性能低下度平均値A用、性能低下度平均値B用および性能低下度平均値C用の絶対値は、それぞれエリア毎反射波レベル代表値閾値A用、エリア毎反射波レベル代表値閾値B用およびエリア毎反射波レベル代表値閾値C用に近ければ近いほど小さい値となる。このことを利用すれば、性能低下度平均値A用の絶対値が最も小さい場合は状態Aを、性能低下度平均値B用の絶対値が最も小さい場合は状態Bを、性能低下度平均値C用の絶対値が最も小さい場合は状態Cを割り当てればよいといえる。
【0135】
また、エリア毎反射波レベル代表値閾値A用、エリア毎反射波レベル代表値閾値B用およびエリア毎反射波レベル代表値閾値C用は、それぞれエリア毎反射波レベル代表値閾値A用が、最大検知距離200m以下となるまで汚れ等により反射波レベルが減衰している状態での各エリアでの閾値、エリア毎反射波レベル代表値閾値B用が、最大検知距離100m以下となるまで汚れ等により反射波レベルが減衰している状態での各エリアでの閾値、エリア毎反射波レベル代表値閾値C用が、最大検知距離50m以下となるまで汚れ等により反射波レベルが減衰している状態での各エリアでの閾値といったように段階的に設定されるもので、レーダ装置の設計値や実際の屋外走行で得られた反射波レベルの分布や車両制御部2の要求等を加味して設定されるものである。
【0136】
なお、性能低下判定結果を3種類以上用意して段階的に判定する1つ目の方法と2つ目の方法とは、適宜組み合わせてもよい。すなわち、2つ目の方法におけるエリア毎性能低下度組合せ判定部54において、性能低下度平均値A用の絶対値が最も小さく、かつ性能低下度平均値A用>性能低下度平均値閾値の場合には、状態AAを割り当て、性能低下度平均値A用の絶対値が最も小さく、かつ性能低下度平均値A用≦性能低下度平均値閾値の場合には、状態ABを割り当てるといったように、性能低下判定結果を算出することも可能である。
【0137】
この場合、エリア毎反射波レベル代表値閾値をエリア毎に2種類以上用意し、性能低下度平均値閾値を2種類以上用意すれば、3種類以上の性能低下判定結果を得ることができることになる。なお、性能低下判定結果の種類の数は、車両制御部2での制御で必要とする性能低下判定結果の種類の数に応じて、適宜設定されるものである。
【0138】
以上のように、実施の形態1によれば、レーダ装置の検知性能に関する性能低下判定処理を実施する性能低下判定部は、測定部で得られた測定結果を加工して、加工済反射物体を生成する測定結果加工部と、相対距離の範囲と方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に、加工済反射物体の反射波レベルの代表値を計算し、エリア毎反射波レベル代表値を算出するエリア毎反射波レベル代表値計算部と、エリア毎に、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するエリア毎性能低下度計算部と、各エリアについて、エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力するエリア毎性能低下度組合せ判定部とを有する。
これにより、あらゆる相対距離・方位角度で検知した反射物体を対象として性能低下判定処理を実施することができ、従来よりも短時間で高精度な性能低下判定処理を実現することができる。
【0139】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、エリア毎にエリア毎性能低下度を算出していたが、この実施の形態2では、加工済反射物体毎にエリア毎性能低下度を算出する。
この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成は、図1に示したものと同様なので、説明を省略する。
【0140】
ここで、図11のフローチャートを参照しながら、性能低下判定部50の動作の全体像について説明する。図11は、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置1の性能低下判定部50の処理内容を示すフローチャートである。
【0141】
まず、ステップS41およびステップS42は、図2に示したステップS11およびステップS12と同様なので、説明を省略する。
ステップS42の後、エリア毎反射波レベル代表値計算部52が制御され、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、加工済反射物体の反射波レベルから、反射波レベル代表値を算出する(エリア毎反射波レベル代表値計算処理)(ステップS43)。
【0142】
ここで、図12のフローチャートを参照しながら、性能低下判定部50のエリア毎反射波レベル代表値計算部52の動作について説明する。図12は、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置1のエリア毎反射波レベル代表値計算部52の処理内容を示すフローチャートである。
【0143】
まず、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、加工済反射物体の相対距離と方位角度とから、各加工済反射物体が属しているエリアのエリア番号を取得する(ステップS51)。また、エリア毎反射波レベル代表値計算部52は、加工済反射物体の反射波レベルを、そのままエリア毎反射波レベル代表値とする(ステップS52)。
【0144】
図11に戻って、続いて、エリア毎性能低下度計算部53が制御され、エリア毎性能低下度計算部53は、図2に示したステップS14と同様にして、エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出する(エリア毎性能低下度計算処理)(ステップS44)。
【0145】
次に、エリア毎性能低下度計算部53は、ステップS44で算出したエリア毎性能低下度を、全ての加工済反射物体に対して加算した組合せ性能低下度和を算出するとともに、全エリアのデータ数合計を1個加算する(ステップS45)。なお、ステップS42の後、ステップS43からステップS45までの処理が、全ての加工済反射物体に対して順に実施される。
【0146】
続いて、エリア毎性能低下度組合せ判定部54が制御され、エリア毎性能低下度組合せ判定部54は、エリア毎性能低下度組合せ判定処理を実施する(ステップS46)。このエリア毎性能低下度組合せ判定処理は、性能低下度平均値の算出方法を除き、図9に示したフローチャートに従って実施され、性能低下判定結果を得る。なお、この実施の形態2において、性能低下度平均値は、図11に示したステップS45で算出された組合せ性能低下度和を、全エリアのデータ数合計で割ることで算出される。
【0147】
また、ステップS47およびステップS48は、図2に示したステップS16およびステップS17と同様なので、説明を省略する。
以上の方法で算出した性能低下判定結果は、実施の形態1の場合と同様に、車両制御部2へ送信され、車両制御部2では、性能低下判定結果に応じた処理が行われる。
【0148】
なお、この実施の形態2においても、エリア毎性能低下度に割り当てる数字を変更したり、エリア間閾値補間処理を実施したり、性能低下判定結果を段階的に判定したりする等、実施の形態1で示した各種設計変更を、その趣旨を逸脱しない範囲で適用可能である。
【0149】
以上示した実施の形態2の特徴は、実施の形態1がエリア毎反射波レベル代表値としてエリア毎反射波レベル平均値を用いていることに対し、実施の形態2がエリア毎反射波レベル代表値として加工済反射物体の反射波レベルそのものを用いている点にある。
【0150】
実施の形態1のように、エリア毎反射波レベル平均値を用いる場合の方が、エリア毎性能低下度計算部53において、エリア毎性能低下度の判定精度を向上させることができる。これに対して、実施の形態2では、エリア毎反射波レベル代表値計算部52の演算負荷を低減することができ、全エリアの反射波レベル和や全エリアの反射波レベル平均値を記憶する領域を確保する必要もなくなるので、記憶領域を節約することができる。
【0151】
また、実施の形態2では、最終的な性能低下判定結果を算出する際に、改めて性能低下度平均値を算出するようにしたので、実施の形態2の方法でも、実施の形態1とほぼ同等の性能低下判定結果を得ることができる。
【符号の説明】
【0152】
1 レーダ装置、2 車両制御部、3 走行速度センサ、10 制御部、20 送受信部、30 アンテナ部、40 測定部、50 性能低下判定部、51 測定結果加工部、52 エリア毎反射波レベル代表値計算部、53 エリア毎性能低下度計算部、54 エリア毎性能低下度組合せ判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、周囲に電磁波を送信し、周辺に存在する反射物体で反射した電磁波を受信して、前記反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを出力するレーダ装置であって、
一定の時間周期で前記反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを測定する測定部と、
前記レーダ装置の検知性能に関する性能低下判定処理を実施する性能低下判定部と、を備え、
前記性能低下判定部は、
前記測定部で得られた測定結果を加工して、加工済反射物体を生成する測定結果加工部と、
前記相対距離の範囲と前記方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に、前記加工済反射物体の反射波レベルの代表値を計算し、エリア毎反射波レベル代表値を算出するエリア毎反射波レベル代表値計算部と、
前記エリア毎に、前記エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するエリア毎性能低下度計算部と、
各前記エリアについて、前記エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力するエリア毎性能低下度組合せ判定部と、を有する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記エリア毎性能低下度計算部は、
前記エリア毎性能低下度を判定するための前記エリア毎反射波レベル代表値閾値を、前記エリア毎に1種類以上用意し、
前記エリア毎反射波レベル代表値が前記エリア毎反射波レベル代表値閾値以上であるか否かによって、前記エリア毎に、2種類以上のエリア毎性能低下度を割り当てる
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記エリア毎性能低下度計算部は、
前記エリア毎性能低下度を判定するための前記エリア毎反射波レベル代表値閾値を、前記エリア毎に1種類用意し、
前記エリア毎反射波レベル代表値と前記エリア毎反射波レベル代表値閾値との差分値に、前記相対距離による反射波レベルの変化量および前記方位角度による反射波レベルの変化量とを加味した重みをかけたものを、前記エリア毎性能低下度として割り当てる
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記エリア毎反射波レベル代表値計算部は、
複数の信号処理周期にわたって観測された加工済反射物体を、前記エリア毎に分類し、各エリアに属する加工済反射物体の数と、各エリアに属する加工済反射物体の反射波レベルとから、エリア毎の反射波レベルの平均値を算出して、この平均値をエリア毎反射波レベル代表値とし、
前記エリア毎性能低下度組合せ判定部は、
前記エリア毎性能低下度計算部で算出された全てのエリア毎性能低下度の和を、エリア毎性能低下度の算出されたエリアの数で割った平均値を、性能低下度平均値として算出とする
ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記エリア毎反射波レベル代表値計算部は、
複数の信号処理周期にわたって観測された加工済反射物体を、前記エリア毎に分類し、エリア毎の加工済反射物体の反射波レベルをそのままエリア毎反射波レベル代表値とし、
前記エリア毎性能低下度組合せ判定部は、
加工済反射物体毎に得られたエリア毎性能低下度を複数の信号処理周期にわたって加算したエリア毎性能低下度和と、複数の信号処理周期にわたってエリア毎性能低下度和に加算した加工済反射物体の個数とから平均値を算出し、この平均値を性能低下度平均値とする
ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記エリア毎性能低下度組合せ判定部は、
前記性能低下判定結果を得るための1種類以上の閾値を用意し、
前記性能低下度平均値が前記閾値以上であるか否かによって、2種類以上の性能低下判定結果を出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項5までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記エリア毎性能低下度計算部は、
前記エリア毎性能低下度を判定するための前記エリア毎反射波レベル代表値閾値を、前記エリア毎に2種類以上用意し、
前記エリア毎性能低下度を、前記エリア毎性能低下度を判定するための閾値毎に2種類以上算出し、
前記エリア毎性能低下度組合せ判定部は、
2種類以上の前記エリア毎性能低下度の絶対値を比較して、2種類以上の性能低下判定結果を出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項6までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記エリア毎性能低下度計算部は、
同一エリア内のあらゆる相対距離および方位角度におけるエリア毎性能低下度を判定するための閾値を、前記相対距離方向または前記方位角度方向に隣接するエリアに割り当てられたエリア毎性能低下度を判定するための閾値を用いて、補間して生成する
ことを特徴とする請求項1から請求項7までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記測定結果加工部は、
時系列で相関がある反射物体を同一の物体であるとみなす時系列相関処理を実施し、時系列で相関がある反射物体のみを、前記加工済反射物体とする
ことを特徴とする請求項1から請求項8までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記測定部は、前記反射物体に関する相対速度を測定し、
前記測定結果加工部は、
前記レーダ装置が搭載された車両の走行速度を測定する走行速度測定部で測定された走行速度に基づいて、前記レーダ装置が搭載された車両の走行速度と前記反射物体に関する相対速度とから対地速度を算出し、前記対地速度に基づいて前記反射物体が移動物であるか静止物であるかを判定する静止物判定処理を実施し、前記静止物のみを前記加工済反射物体とする
ことを特徴とする請求項1から請求項9までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記測定結果加工部は、
前記レーダ装置で検知された反射物体のうち、相対距離が閾値以上の反射物体のみを前記加工済反射物体とする
ことを特徴とする請求項1から請求項10までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記測定結果加工部は、
前記レーダ装置が搭載された車両の存在する車線の位置を推定する自車線位置推定部で推定された車線内に存在する反射物体を前記加工済反射物体としない
ことを特徴とする請求項1から請求項11までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記測定結果加工部は、
時系列で相関がある反射物体を同一の物体であるとみなす時系列相関処理を実施し、時系列で相関がある反射物体の反射波レベルの時間的な変動の大きさが閾値以上である場合に、その反射物体を前記加工済反射物体としない
ことを特徴とする請求項1から請求項12までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記測定結果加工部は、
前記レーダ装置が搭載された車両の走行速度を測定する走行速度測定部で測定された走行速度が閾値未満の場合には、前記加工済反射物体を生成しない
ことを特徴とする請求項1から請求項13までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記性能低下判定部は、
前記レーダ装置が搭載された車両の走行速度を測定する走行速度測定部で測定された走行速度と、前記レーダ装置が搭載された車両の移動した時間とから、前記レーダ装置が搭載された車両の移動距離を算出し、前記レーダ装置が搭載された車両が一定距離以上移動する毎に、前記性能低下判定結果を出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項14までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記性能低下判定部は、
一定時間以上が経過する毎に、前記性能低下判定結果を出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項15までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記性能低下判定部は、
複数の信号処理周期にわたってエリア毎性能低下度の算出に用いられた加工済反射物体の総数を、全エリアのデータ数合計として記憶し、前記全エリアのデータ数合計が閾値以上となる毎に、前記性能低下判定結果を出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項16までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項18】
前記性能低下判定部は、
前記エリア毎性能低下度の算出されたエリアの数が閾値以上となる毎に、前記性能低下判定結果を出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項17までの何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項19】
車両に搭載され、周囲に電磁波を送信し、周辺に存在する反射物体で反射した電磁波を受信して、前記反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを出力するレーダ装置の性能低下判定方法であって、
一定の時間周期で前記反射物体に関する相対距離、方位角度および反射波レベルを測定する測定ステップと、
前記レーダ装置の検知性能に関する性能低下判定処理を実施する性能低下判定ステップと、を備え、
前記性能低下判定ステップは、
前記測定ステップで得られた測定結果を加工して、加工済反射物体を生成する測定結果加工ステップと、
前記相対距離の範囲と前記方位角度の範囲とによって形成されるエリア毎に、前記加工済反射物体の反射波レベルの代表値を計算し、エリア毎反射波レベル代表値を算出するエリア毎反射波レベル代表値計算ステップと、
前記エリア毎に、前記エリア毎反射波レベル代表値とエリア毎反射波レベル代表値閾値とを比較して、エリア毎性能低下度を算出するエリア毎性能低下度計算ステップと、
各前記エリアについて、前記エリア毎性能低下度を組み合わせて性能低下判定結果を出力するエリア毎性能低下度組合せ判定ステップと、を有する
ことを特徴とするレーダ装置の性能低下判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−68571(P2013−68571A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208915(P2011−208915)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】