説明

レーダ装置及びレーダ装置の信号処理方法

【課題】簡単な装置構成で、ウェザークラッタの影響を受ける領域における目標の検出率を向上させ、安定した目標追尾が行えるレーダ装置及びその信号処理方法を提供する。
【解決手段】信号処理器2は、検出処理手段21、追尾処理手段22、及びウェザー判定処理手段23から構成されている。ウェザー判定処理手段23は、ウェザークラッタの影響を受ける領域(ウェザークラッタ情報)を算出し、ウェザークラッタ情報を取得した検出処理手段21は、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対して、通常の検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用するようにした。これにより、簡単な装置構成で、ウェザークラッタの影響を受ける領域における目標の検出率が向上し、安定した目標追尾を行うことが可能なレーダ装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダによって航空機等の目標を検出し、追尾処理により目標位置を予測するレーダ装置及びその信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機等の目標を検出し、追尾を行う手段として、レーダ装置が広く用いられている。レーダ装置においては、レーダを空間に照射し、目標からの反射波を受信することにより目標位置を検出している。このため、雨雲等のウェザークラッタからの不要な反射波を受信すると、目標からの受信信号のS/N比(Signal to Noise ratio)が低下し、ウェザークラッタの影響を受ける領域では新規目標の検出率低下や目標追尾が不安定となる問題が発生していた。
【0003】
ウェザークラッタの影響を抑制する手法として、特許文献1では、レーダ受信ビデオ信号の振幅信号が一定のレベル以上であることを検出するクラッタレベル検出器と、クラッタレベル検出器により一定のレベル以上の振幅と判定された場合にデジタルフィルタを通過させるクラッタ抑圧制御器を備えたクラッタ抑圧装置が提示されている。なお、デジタルフィルタとは、レーダ受信ビデオ信号の中からクラッタのドップラ中心周波数を推定し、クラッタのドップラ中心周波数が0となるようにレーダ受信ビデオ信号を位相補正(ドップラシフト)させ、ドップラ周波数0の信号を通過阻止するフィルタである。
【0004】
また、ウェザークラッタの空中位置を計算する手法として、特許文献2では、航空管制用レーダ装置(第1の空中線)によりレーダを空間に照射し、この第1の空中線から離れた位置にウェザークラッタからの反射波を受信する第2の空中線を設置し、レーダの照射時点からの経過時間と、前記経過時間におけるウェザークラッタからの反射波の信号レベルをクラッタレベル検出手段により検出し、これをもとにウェザークラッタの空間位置を算出する気象レーダ装置が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−257911号公報
【特許文献2】特開平6−347546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デジタルフィルタを用いた従来のクラッタ抑圧装置は、クラッタの存在を前提として構成されているため、レーダ受信ビデオ信号にクラッタが存在しない場合にはクラッタトラッカで算出される位相補正値はランダムな値となっていた。このため、雨雲等の目視確認等によってクラッタ抑圧機能を手動で入、切する必要があり、操作員の負担が大きく、信頼性に問題があった。なお、特許文献1に提示されたクラッタ抑圧装置では、クラッタ抑圧機能を自動的に入、切制御することが可能であるが、装置構成が複雑であり高価になるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2による気象レーダ装置では、航空管制用レーダ装置を利用してウェザークラッタの空中位置を計算することができるが、得られた気象情報を航空機等の目標の検出率向上のために用いる手法は提示されていない。これらのことから、従来のクラッタ抑圧装置とは異なる手法で、ウェザークラッタの影響を受ける領域における目標の検出率を向上させ、安定した目標追尾が行える手法が求められていた。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、簡単な装置構成で、ウェザークラッタの影響を受ける領域における目標の検出率を向上させることが可能なレーダ装置及びその信号処理方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、簡単な装置構成で、ウェザークラッタの影響を受ける領域における安定した目標追尾が行えるレーダ装置及びその信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係るレーダ装置は、アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行し、その結果を表示器に表示するレーダ装置であって、信号処理器は、送受信器から取得した受信信号に基づいて目標の位置候補であるプロットを検出する検出処理手段と、検出処理手段から取得したプロットに基づいて追尾処理を行う追尾処理手段と、送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、その結果をウェザークラッタ情報として検出処理手段に出力するウェザー判定処理手段を備え、ウェザークラッタ情報を取得した検出処理手段は、プロットの検出処理において、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、ウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用するものである。
【0011】
また、本発明の請求項2に係るレーダ装置は、アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行し、その結果を表示器に表示するレーダ装置であって、信号処理器は、送受信器から取得した受信信号に基づいて目標の位置候補であるプロットを検出する検出処理手段と、検出処理手段から取得したプロットに基づいて追尾処理を行う追尾処理手段と、送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、その結果をウェザークラッタ情報として追尾処理手段に出力するウェザー判定処理手段を備え、ウェザークラッタ情報を取得した追尾処理手段は、ウェザークラッタの影響を受ける領域内で検出されたプロットを追尾処理に使用しないようにしたものである。
【0012】
また、本発明の請求項6に係るレーダ装置の信号処理方法は、アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行するレーダ装置の信号処理方法であって、送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に、該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出する第1のステップと、第1のステップで算出したウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、ウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用して目標の位置候補であるプロットを検出する第2のステップを含むものである。
【0013】
また、本発明の請求項7に係るレーダ装置の信号処理方法は、アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行するレーダ装置の信号処理方法であって、送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に、該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出する第1のステップと、第1のステップで算出したウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、該領域内で検出された目標の位置候補であるプロットを使用せずに、メモリトラックにより追尾処理を行う第2のステップを含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係るレーダ装置によれば、信号処理器にウェザークラッタの影響を受ける領域(ウェザークラッタ情報)を算出するウェザー判定処理手段を設け、ウェザークラッタ情報を取得した検出処理手段は、プロットの検出処理において、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、ウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用するようにしたので、ウェザークラッタの影響を受ける領域における目標の検出率が向上し、安定した目標追尾を行うことが可能である。
【0015】
本発明の請求項2に係るレーダ装置によれば、信号処理器にウェザークラッタの影響を受ける領域(ウェザークラッタ情報)を算出するウェザー判定処理手段を設け、ウェザークラッタ情報を取得した追尾処理手段は、ウェザークラッタの影響を受ける領域内で検出されたプロットを追尾処理に使用しないようにしたので、ウェザークラッタの影響を受ける領域を通過する目標の誤検出によって追尾結果が不安定となることを防止でき、安定した目標追尾を行うことが可能である。
【0016】
本発明の請求項6に係るレーダ装置の信号処理方法によれば、ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、該領域に対しウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用して目標の位置候補であるプロットを検出するようにしたので、ウェザークラッタの影響を受ける領域における目標の検出率が向上し、安定した目標追尾を行うことが可能である。
【0017】
本発明の請求項7に係るレーダ装置の信号処理方法によれば、ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、該領域内で検出された目標の位置候補であるプロットを使用せずに、メモリトラックにより追尾処理を行うようにしたので、ウェザークラッタの影響を受ける領域を通過する目標の誤検出によって追尾結果が不安定となることを防止でき、安定した目標追尾を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るレーダ装置の信号処理器の構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るレーダ装置のウェザー判定処理手段により算出されるウェザークラッタの影響を受ける領域を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るレーダ装置の検出処理手段による信号処理方法を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係るレーダ装置の信号処理器の構成を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係るレーダ装置のウェザー判定処理手段により算出されるウェザークラッタの影響を受ける領域を通過する目標の追尾結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態1に係るレーダ装置及びその信号処理方法について、図面に基づいて説明する。本実施の形態1に係るレーダ装置は、航空機等を目標として検出、追尾するもので、図1に示すように、送受信器1、信号処理器2及び表示器3から構成されている。アンテナを有する送受信器1は、レーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを次段の信号処理器2へ入力する。信号処理器2は、送受信器1から受信信号を取得し、目標の検出及び追尾を実行し、その結果として目標情報を算出する。表示器3は、信号処理器2から出力された目標情報を表示する。
【0020】
本実施の形態1に係るレーダ装置の信号処理器2の構成及びその信号処理方法について、図2〜図4を用いて説明する。信号処理器2は、図2に示すように、検出処理手段21、追尾処理手段22、及びウェザー判定処理手段23から構成されている。検出処理手段21は、送受信器1から取得した受信信号に基づいて、目標の位置候補であるプロットを検出する。追尾処理手段22は、検出処理手段21から取得したプロットに基づいて追尾処理を行い、その結果である目標情報を出力する。
【0021】
また、ウェザー判定処理手段23は、送受信器1が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に、該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、その結果をウェザークラッタ情報として検出処理手段21に出力する。ウェザークラッタ情報を取得した検出処理手段21は、プロットの検出処理において、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、ウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用する。
【0022】
なお、ウェザークラッタの位置を特定する手法としては、従来と同様の手法を用いることができ、特に限定するものではない。一般的には、レーダの照射時点からの経過時間と、その経過時間におけるウェザークラッタからの反射波の受信信号レベルから、該ウェザークラッタの位置を特定する。また、ウェザー判定処理手段23は、送受信器1におけるレーダ中心から見てウェザークラッタにより遮蔽される領域を、該ウェザークラッタの影響を受ける領域として算出する。
【0023】
ウェザー判定処理手段23により算出されるウェザークラッタの影響を受ける領域(ウェザークラッタ情報)について、図3を用いて説明する。図3において、t1、t2・・t8は航空機等の目標の位置候補を示すプロットである。送受信器1のレーダ中心4から見てウェザークラッタ5により遮蔽される領域にあるt3〜t6(図3中、点線で示す丸)は、ウェザークラッタの影響を受ける領域6に入っており、プロットを検出する際にウェザークラッタ5からの反射波の影響を受けることが予測される。
【0024】
そこで、本実施の形態1では、ウェザークラッタの影響を受ける領域6に入っている目標t3〜t6について、検出処理手段21において、予め受信信号のS/N比が低いことを前提とした信号処理を行うようにし、ウェザークラッタの影響を受ける領域6に入っていない目標t1、t2、t7、t8に対する信号処理とは区別するようにした。
【0025】
信号処理器2における信号処理方法について、図4を用いて説明する。図4において、横軸はレーダ中心からの距離、縦軸は受信信号レベルを示している。また、図中、A、B、Cはそれぞれ目標1、ウェザークラッタ、目標2からの受信信号を示し、横軸に平行な矢印Dは、ウェザークラッタの影響を受ける領域を示している。さらに、aで示す点線はウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される通常の検出判定用スレッショルドを示し、bで示す点線はウェザークラッタの影響を受ける領域に適用されるウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを示している。
【0026】
送受信器1が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合、まず、該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出する(第1のステップ)。図4では、ウェザークラッタからの受信信号Bから、ウェザークラッタの影響を受ける領域(矢印Dで示す)を算出している。
【0027】
プロットを検出する際、ウェザークラッタの影響を受けない領域に対しては、通常の検出判定用スレッショルドaを適用し、これを超えた受信信号を目標のプロットとして検出する。図4では、目標1は、送受信器1のレーダ中心から見てウェザークラッタよりも前方に存在し、目標1からの受信信号Aは、ウェザークラッタからの受信信号Bの影響を受けていない。目標1からの受信信号Aのレベルは、通常の検出判定用スレッショルドaを超えているため、目標1のプロットとして検出される。
【0028】
一方、第1のステップで算出したウェザークラッタの影響を受ける領域に対しては、ウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドaよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドbを適用して目標のプロットを検出する(第2のステップ)。図4では、目標2は、レーダ中心から見てウェザークラッタよりも後方に存在し、目標2からの受信信号Cは、ウェザークラッタからの受信信号Bの影響を受けている。
【0029】
ウェザークラッタの影響を受ける領域においては、目標からの受信信号のS/N比が低下し、受信信号レベルが下がる。従って、通常の検出判定用スレッショルドaを適用した場合には、目標2からの受信信号Cは検出されず、目標2のプロットは検出されないことになる。このため、本実施の形態1では、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、ウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドbを適用する。これにより、目標2からの受信信号Cのレベルは、ウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドbを超えるため、目標2のプロットとして検出される。
【0030】
これを図3に示す例で説明すると、t1、t2、t7、t8のプロット検出には通常の検出判定用スレッショルドaが適用され、ウェザークラッタの影響を受ける領域6内のt3〜t6のプロット検出にはウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドbが適用される。
【0031】
本実施の形態1によれば、信号処理器2にウェザークラッタの影響を受ける領域(ウェザークラッタ情報)を算出するウェザー判定処理手段23を設け、ウェザークラッタ情報を取得した検出処理手段21は、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対して、通常の検出判定用スレッショルドaよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドbを適用するようにしたので、ウェザークラッタの影響を受ける領域における目標の検出率が向上し、安定した目標追尾を行うことが可能なレーダ装置が得られる。これにより、簡単な装置構成で、従来の課題であったウェザークラッタの影響を受ける領域における新規目標の検出遅れや目標追尾の不安定が改善される。
【0032】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係るレーダ装置は、上記実施の形態1と同様に、送受信器、信号処理器及び表示器から構成されている(図1参照)。上記実施の形態1との違いは、上記実施の形態1では、ウェザー判定処理手段23により算出されたウェザークラッタ情報を検出処理手段21に出力したが、本実施の形態2では、追尾処理手段22に出力することである。
【0033】
本実施の形態2に係るレーダ装置の信号処理器の構成及びその信号処理方法について、図5及び図6を用いて説明する。信号処理器2aは、図5に示すように、検出処理手段21、追尾処理手段22、及びウェザー判定処理手段23から構成されている。検出処理手段21は、送受信器1から取得した受信信号に基づいて、目標の位置候補であるプロットを検出する。追尾処理手段22は、検出処理手段21から取得したプロットに基づいて追尾処理を行い、その結果である目標情報を出力する。
【0034】
また、ウェザー判定処理手段23は、送受信器1が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に、該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、その結果をウェザークラッタ情報として追尾処理手段22に出力する。ウェザークラッタ情報を取得した追尾処理手段22は、ウェザークラッタの影響を受ける領域内で検出されたプロットを追尾処理に使用しないようにしたものである。
【0035】
信号処理器2aにおける信号処理方法について、図6を用いて説明する。まず、送受信器1が取得した受信信号にウェザークラッタ5からの反射波が含まれていた場合に、ウェザー判定処理手段23は、該ウェザークラッタ5の位置を特定してウェザークラッタの影響を受ける領域6を算出し、追尾処理手段22に出力する(第1のステップ)。
【0036】
追尾処理手段22は、第1のステップで算出されたウェザークラッタの影響を受ける領域6に対し、該領域内で検出された目標のプロットを使用せずに、メモリトラックにより追尾処理を行う(第2のステップ)。これは、ウェザークラッタの影響を受ける領域6では、目標からの受信信号のS/N比が低下し誤検出の確率が高くなることから、誤検出によるプロットを使用することを回避するためである。なお、メモリトラックにより追尾処理とは、プロットを使わず予測によって追尾結果を更新するもので、例えば追尾結果に目標の位置と速度を含む場合、速度を用いて外挿するものである。
【0037】
図6において、t1、t2・・t8は、ウェザークラッタ5がない場合に順番に検出されるべき目標のプロットである。ただし、レーダ中心4から見てウェザークラッタ5より後方にあるt3〜t6(図6中、点線で示す丸)は、ウェザークラッタの影響を受ける領域6に入っているため、正常に検出されないことがある。この領域6では、w1、w2、w3(図6中、黒い丸)のような誤検出によるプロットが検出される確率が高くなる。このため、ウェザー判定処理手段23からウェザークラッタ情報を取得した追尾処理手段22は、ウェザークラッタの影響を受ける領域6内のプロット(図6中のt3〜t6及びw1〜w3)を使用せず、メモリトラックにより追尾処理を実行し、目標情報を算出する。
【0038】
本実施の形態2によれば、信号処理器2aにウェザークラッタの影響を受ける領域(ウェザークラッタ情報)を算出するウェザー判定処理手段23を設け、ウェザークラッタ情報を取得した追尾処理手段22は、ウェザークラッタの影響を受ける領域内のプロットを使用せず、メモリトラックにより追尾処理を実行するようにしたので、ウェザークラッタの影響を受ける領域を通過する目標の誤検出によって追尾結果が不安定となることを防止でき、安定した目標追尾が行えるレーダ装置が得られる。これにより、簡単な装置構成で、従来の課題であったウェザークラッタの影響を受ける領域における目標追尾の不安定が改善される。
【0039】
なお、ウェザー判定処理手段23により算出されたウェザークラッタ情報を、検出処理手段21と追尾処理手段22の両方に出力するようにし、ウェザークラッタの影響を受ける領域を通過する目標の検出率を上げたい場合には上記実施の形態1による信号処理方法を適用し、目標の誤検出による追尾結果の不安定を避けたい場合には上記実施の形態2による信号処理方法を適用するように、適宜切り替えるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、レーダにより航空機等の目標を検出し、追尾処理により目標位置を予測するレーダ装置の信号処理方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 送受信器、2、2a 信号処理器、3 表示器、4 レーダ中心、
5 ウェザークラッタ、6 ウェザークラッタの影響を受ける領域、
21 検出処理手段、22 追尾処理手段、23 ウェザー判定処理手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行し、その結果を表示器に表示するレーダ装置であって、
前記信号処理器は、前記送受信器から取得した受信信号に基づいて目標の位置候補であるプロットを検出する検出処理手段と、前記検出処理手段から取得したプロットに基づいて追尾処理を行う追尾処理手段と、前記送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、その結果をウェザークラッタ情報として前記検出処理手段に出力するウェザー判定処理手段を備え、
前記ウェザークラッタ情報を取得した前記検出処理手段は、プロットの検出処理において、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、ウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行し、その結果を表示器に表示するレーダ装置であって、
前記信号処理器は、前記送受信器から取得した受信信号に基づいて目標の位置候補であるプロットを検出する検出処理手段と、前記検出処理手段から取得したプロットに基づいて追尾処理を行う追尾処理手段と、前記送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出し、その結果をウェザークラッタ情報として前記追尾処理手段に出力するウェザー判定処理手段を備え、
前記ウェザークラッタ情報を取得した前記追尾処理手段は、ウェザークラッタの影響を受ける領域内で検出されたプロットを追尾処理に使用しないようにしたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置であって、前記ウェザークラッタ情報を取得した前記追尾処理手段は、ウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、メモリトラックにより追尾処理を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のレーダ装置であって、前記ウェザー判定処理手段は、レーダの照射時点からの経過時間と、その経過時間におけるウェザークラッタからの反射波の受信信号レベルから該ウェザークラッタの位置を特定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のレーダ装置であって、前記ウェザー判定処理手段は、前記送受信器におけるレーダ中心から見てウェザークラッタにより遮蔽される領域を該ウェザークラッタの影響を受ける領域として算出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行するレーダ装置の信号処理方法であって、
前記送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に、該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出する第1のステップ、
前記第1のステップで算出したウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、ウェザークラッタの影響を受けない領域に適用される検出判定用スレッショルドよりも低く設定されたウェザークラッタ領域検出判定用スレッショルドを適用して目標の位置候補であるプロットを検出する第2のステップ、を含むことを特徴とするレーダ装置の信号処理方法。
【請求項7】
アンテナを有する送受信器によりレーダを空間に照射すると共に目標からの反射波を受信信号として取得し、これを信号処理器に入力して目標の検出及び追尾を実行するレーダ装置の信号処理方法であって、
前記送受信器が取得した受信信号にウェザークラッタからの反射波が含まれていた場合に、該ウェザークラッタの位置を特定して該ウェザークラッタの影響を受ける領域を算出する第1のステップ、
前記第1のステップで算出したウェザークラッタの影響を受ける領域に対し、該領域内で検出された目標の位置候補であるプロットを使用せずに、メモリトラックにより追尾処理を行う第2のステップ、を含むことを特徴とするレーダ装置の信号処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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