説明

レーダ装置及び干渉波除去方法

【課題】干渉波による影響を正確に除去できるレーダ装置を提供する。
【解決手段】 観測対象から反射された受信信号は、相関算出部173に入力する。参照波メモリ171は、干渉波の原因となる他局の電波情報を予め保持している。シフト部172は、参照波メモリ171が保持する情報に基づいて、干渉波を再現した参照波を生成する。シフト部172は、参照波のパルス立ち上がり点を順次ずらし、相関算出部173が算出する参照波と受信信号との相関が最も高くなるような参照波パルスの立ち上がり点が、最大値検出部174によって検出される。ホールド部175は、参照波パルスの立ち上がり点を移動させ、除去処理部176は、受信信号から、立ち上がり点が移動した参照波パルスを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置及びレーダ装置の干渉波除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば気象レーダは、雲や雨の降雨粒子によって反射されるエコーの強さを検出し、気象状況を観測あるいは予測するために用いられている。近年では、反射波のドップラー効果を利用して雨や雲の動的な変化を捉えることができるドップラーレーダが、気象レーダとして用いられるようになっている。
【0003】
気象レーダ等のレーダを用いた観測の際には、他のレーダサイト等からの信号が干渉波として受信信号に混信することがある。また、マルチパスによる干渉が生じて、受信信号に不要な信号が混信することもある。このような干渉波を除去する技術として、非特許文献1には、3つのパルスヒットに基づいて干渉波を判定する技術が記載されている。この干渉波除去では、他のパルスよりも充分に大きな電力値を有する受信パルスを干渉波であると判定して、当該電力値を他のパルスの電力値で置き換えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】気象庁,「空港気象ドップラーレーダー製作仕様書(鹿児島空港)」,平成18年5月,p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の技術では、わずか3つの電力値から干渉波を判定しているため、検出された電力値が目標からの強い受信波なのか、他局からの干渉波であるのかの判定が難しい。このため、受信波を干渉波として除去してしまったり、干渉波を受信波として処理してしまうなどの問題が生じてしまう。
【0006】
本発明は前記のような問題に鑑みなされたもので、干渉波による影響を除去することが可能なレーダ装置及び干渉波除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るレーダ装置は、観測対象から反射された受信信号を受信する受信手段と、干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリと、前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した参照波パルスを生成する参照波生成手段と、前記受信信号との相関が最も高くなるよう、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させるパルス制御手段と、前記受信信号から、前記立ち上がり点が移動した参照波パルスを除去する除去手段とを具備する。
【0008】
また、本発明の一実施形態に係る干渉波除去方法は、干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリを有するレーダ装置において用いられる干渉波除去方法であって、観測対象から反射された受信信号を受信する受信ステップと、前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した参照波パルスを生成する参照波生成ステップと、前記受信信号との相関が最も高くなるよう、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させるパルス制御ステップと、前記受信信号から、前記立ち上がり点が移動した参照波パルスを除去する除去ステップとを具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係るレーダ装置によれば、干渉波を再現する参照波を、受信信号との相関が最も高くなるように生成し、当該参照波を受信信号から除去する。このため干渉波による影響を正確に除去することができる。
【0010】
本発明の一実施形態に係る干渉波除去方法によれば、干渉波を再現する参照波を、受信信号との相関が最も高くなるように生成し、当該参照波を受信信号から除去する。このため干渉波による影響を正確に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る信号処理部の詳細構成を示すブロック図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る干渉波除去処理のフローチャート。
【図4】受信信号の一例と、干渉波除去処理において生成される参照波の例を示す図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る信号処理部の詳細構成を示すブロック図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る干渉波除去処理のフローチャート。
【図7】第2の実施形態に係る干渉波除去処理において、逆離散フーリエ変換によって得られる時間領域における電力値示すグラフ。
【図8】ピーク電力を与える時間に合わせて生成される参照波を示す図。
【図9】第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、周波数変換装置及び信号処理装置にGPS衛星基準信号が供給される例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
第1の実施形態
図1は本発明の第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図である。
【0014】
このシステムは、空中線装置(アンテナ)11、送信装置12、受信装置13、周波数変換装置16、信号処理装置17、監視制御装置18、データ変換装置19、データ表示装置20、データ蓄積装置21、データ通信装置22、遠隔監視制御装置23、遠隔表示装置24から構成される。
【0015】
このうち遠隔監視制御装置23及び遠隔表示装置24は、レーダサイトに設けられた他の装置からは遠方に設けられており、システムを遠隔監視及び遠隔制御するために用いられる。
【0016】
システムを監視又は制御するための監視制御信号は、遠隔監視制御装置23から監視制御装置18に送られる。監視制御装置18は、監視制御信号に応じて制御信号を信号処理装置17に送信する。また、監視制御装置18は、信号処理装置17からの監視信号を受信して遠隔監視制御装置23に転送する。
【0017】
信号処理装置17は、監視制御装置18からのデジタル制御信号に応じてアナログの送信IF(中間周波数)信号を周波数変換装置16に出力する。周波数変換装置16は、送信IF信号を送信RF(無線周波数)信号に変換(アップコンバート)し、送信装置12に出力する。送信装置12は、送信RF信号を遠距離での観測が可能な送信電力の送信電波に増幅し、空中線装置11に出力する。
【0018】
送信電波は空中線装置11から空中に放射され、観測対象によって反射される。一例として、気象レーダシステムにおける観測対象は、所定の有効反射面積内に存在する降雨粒子である。
【0019】
観測対象からの反射波(受信電波)は、空中線装置11によって捕捉され、受信装置13に受信される。受信装置13は、受信した受信電波を復調し、受信RF信号として周波数変換装置16に出力する。周波数変換装置16は、受信RF信号を受診IF信号に周波数変換(ダウンコンバート)して信号処理装置17に出力する。
【0020】
信号処理装置17は、周波数変換装置16から出力された受信IF信号に対して、後述する干渉波除去処理を行う。また号処理部17は、干渉波除去処理が行われた受信信号に対して、IQ検波、アナログ−デジタル(A/D)変換、受信電力算出、ドップラー速度算出等の、所要の信号処理を施す。
【0021】
信号処理装置17によってデジタル信号処理された受信データ(降水強度やドップラー速度)は、データ変換装置19に出力される。データ変換装置19は、信号処理装置17が算出した受信電力に基づいて、受信データを解析しレーダ反射因子等を検出する。データ表示装置20は、例えばLCD等の表示装置であり、データ変換装置19で解析されたデータを表示する。データ蓄積装置21は、例えばハードディスクドライブ(HDD)等の記憶装置を有し、データ変換装置19で解析されたデータを蓄積する。
【0022】
データ通信装置22は、当該解析データを、無線又は有線の通信ネットワークを介してレーダサイト外の遠隔表示装置24に転送する。遠隔表示装置24は、例えばLCD等の表示装置を有し、データ通信装置22から転送されてきたデータを表示する。
【0023】
遠隔表示装置24に表示されたデータに基づいて、遠隔地からレーダサイトを解析し、遠隔監視制御装置23によってレーダサイトを監視及び制御することができる。
【0024】
図2は、本実施形態に係る信号処理装置17の詳細な構成を示すブロック図である。図2では、干渉波除去処理に係る各部が図示されている。
【0025】
図2に示すように、信号処理装置17は、参照波メモリ171、シフト部172、相関算出部173、最大値検出部174、ホールド部175、及び除去処理部176を備えている。
【0026】
参照波メモリ171は、本レーダシステム(自局;被干渉局)に対して電波干渉を与え得る他のレーダ局(他局;与干渉局)が発信する電波の情報(参照波情報)を予め記憶している。参照波メモリ171は、一例として、与干渉局が発信する電波の送信パルス幅及びパルス繰り返し周波数を予め記憶する。参照波メモリ171は、複数の与干渉局の発信電波(複数の参照波)の情報を記憶していてもよい。
【0027】
シフト部172は、参照波メモリ171に記憶された参照波情報に基づいて、与干渉局が発信する電波を再現した参照波を生成する。シフト部172は、生成した参照波の時間軸を所定時間量ずつずらしながら相関算出部173に出力する。
【0028】
相関算出部173は、周波数変換装置16から出力された受信信号と、シフト部172から出力された参照波との相互相関関数の値を算出する。
【0029】
最大値検出部174は、受信信号と参照波との間で最大の相互相関値を検出する。また最大値検出部174は、当該最大の相互相関値を与える時間軸のずらし幅を検出する。検出されたずらし幅は、ホールド部175に出力される。
【0030】
ホールド部175は、シフト部172が生成する参照波の時間軸のずらし幅が、最大値検出部174によって検出されたずらし幅となるように、ずらし幅を固定する。
【0031】
除去処理部176は、受信信号から参照波を減算する。又は、参照波にパルスが存在する時間帯の受信波を除去する。
【0032】
本実施形態に係る信号処理部17は、以下のような干渉波除去処理を実行して干渉波の影響を除去する。図3は、信号処理装置17が実行する干渉波除去処理のフローチャートである。
【0033】
干渉波除去処理では、参照波メモリ171の参照波情報から、例えば図4に示すような参照波が生成される(ステップS11)。例えば、図4の参照波PRF1は、短パルスP1と長パルスP2を、繰り返し周期T1で繰り返し発信する他局の電波を示す。
【0034】
シフト部172は、生成された参照波の時間軸を所定時間量(例えば1μ秒)だけずらす(ステップS12)。例えば図4の参照波PRF1において、短パルスP1の立ち上がり点が右へ1μ秒だけずらされる。ただし、ステップS12の処理の初期実行時には、時間軸をずらさなくともよい。
【0035】
相関算出部173は、周波数変換装置16から出力された受信信号の電力値と、参照波の電力値との相互相関関数の値を算出する(ステップS13)。算出された相関値及び対応する時間軸のずらし幅は、最大値検出部174に送られ、最大値検出部174の所定の記憶領域にバッファされる。
【0036】
最大値検出部174は、シフト部172によってずらされた時間量が、所定時間に達したか否かを判定する(ステップS14)。当該所定時間、すなわちシフト部172によってずらされる最大の時間量は、例えば参照波の繰り返し周期(1m秒程度)としてもよい。
【0037】
シフト部172によってずらされた時間量が所定時間に達していない場合(ステップS14でNo)、ステップS12に戻り、参照波の時間軸(パルスP1の立ち上がり点)を所定量ずらして、以降の処理を繰り返す。
【0038】
一方、シフト部172がずらした時間量が所定時間に達したと判定された場合(ステップS14でYes)、最大値検出部174が、バッファされた相関値のうち最大の値を検出する(ステップS15)。そして受信信号との間で最大の相関を与えるずらし幅が得られる。
【0039】
最大値検出部174は、検出した最大値が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS16)。最大値が所定の閾値より小さい場合は(ステップS16でNo)、干渉が生じていないと見なされる(ステップS17)。
【0040】
最大値が所定の閾値以上である場合は(ステップS16でYes)、ホールド部175が当該最大の相関を与えるずらし幅をホールドする(ステップS18)。当該ずらし幅の情報はシフト部172に出力され、シフト部172は、当該参照波と受信信号との間の時間軸のずらし幅を固定する。
【0041】
除去処理部176は、このホールドされた参照波に基づいて除去処理を実行する(ステップS19)。除去処理部176は、当該ホールドされた参照波を受信信号から減算する。或いは除去処理部176は、当該ホールドされた参照波にパルスが存在する時間帯の受信信号を除去する(受信電力をゼロとする)。
【0042】
その後、参照波メモリ171に記憶された全ての参照波について、処理が終了したか否かが判定される(ステップS20)。
【0043】
まだ除去処理が行なわれていない参照波があると判定されれば(ステップS20でNo)、他の参照波が生成される(ステップS11)。例えば図4の参照波PRF2は、参照波PRF1とは異なる与干渉局の電波を示す。参照波PRF2では、短パルスP1´と長パルスP2´が繰り返し周期T2で繰り返されている。新たに生成された参照波についても、ステップS12以降の処理が繰り返される。
【0044】
一方、全ての参照波について除去処理が完了している場合は(ステップS20でYes)、干渉波除去処理が終了する。
【0045】
図4は、受信信号の一例と、干渉波除去処理において生成される参照波の例を示す図である。
【0046】
図4では、受信信号の電力値に参照波PRF1に相当する干渉波が生じている。このため、参照波PRF1と受信信号との相互相関値は、参照波PRF2と受信信号との相互相関値よりも大きい。
【0047】
参照波PRF1の時間軸(短パルスP1の開始点)をt=0からずらしていって、図4のように、受信信号に生じる干渉波の周期と参照波PRF1の繰り返し周期T1が同期した場合に、参照波PRF1と受信信号との相互相関の値が最大になる。この最大値が所定の閾値よりも大きければ干渉が生じていると判断され、ステップS19の除去処理が行われる。
【0048】
除去処理では、参照波PRF1の電力値が受信信号の電力値から減算される。或いは、参照波PRF1において短パルスP1及び長パルスP2が存在する時間帯の受信の電力値がゼロとされる。
【0049】
このように、受信信号に混入している干渉波と参照波との相互相関が高いほど、当該参照波に対応する与干渉局の電波による干渉が生じている可能性が高い。本実施形態のレーダシステムによれば、受信信号との相関の高い参照波を検出することができる。このため、受信信号に混入している干渉波が、他局から発信された信号であるかを判断することができる。
【0050】
また、最大の相互相関に対応する時間のずれを検出することは、受信信号と最も同期の良い参照波パルスの立ち上がり点を検出することに相当する。従って、受信信号との相関が最も高くなるように、参照波と受信信号の同期を取ることができる。このため、受信信号に及ぼされる干渉波の影響を正確に除去することができるようになる。
【0051】
上述の除去処理(ステップS19)によって、参照波にパルスが存在する時間内の受信信号の情報が削除されてしまうと、エコーが正確に生成できない恐れがある。このような場合、当該参照波のパルス繰り返し周波数に対して、自局のパルス繰り返し周波数をずらしてもよい。レーダは、複数の送信パルスに対する反射波を受信して、ターゲットからの反射強度や速度を検出するため、少数の受信データが除去されたとしても検出に大きな支障は生じない。すなわち、レーダによる検出は距離毎に行われるため、同じ距離に集中して干渉波が混入しなければ、検出が行えることになる。しかしながら、自局のパルス繰り返し周波数と他局のパルス繰り返し周波数とが同じ、あるいは近い場合、同じ距離のデータに集中して干渉波が混入するため、多くの受信データが除去されてしまい有効な検出が行えない。このような場合、当該他局による参照波のパルス繰り返し周波数に対して、自局のパルス繰り返し周波数をずらしてもよい。参照波のパルス繰り返し周波数と、自局のパルス繰り返し周波数をずらすことで、干渉波との同期を防止し、受信信号の情報が削除されることを防止できる。
【0052】
特に周波数配置が密な場合等には、観測対象からの反射波ではなく他のレーダ局が発信する電波(干渉波)を、空中線装置11が捕捉してしまうことがある。このような場合に正確に干渉波の影響を除去できるようにすることで、周波数を有効に利用できるようになる。
【0053】
以下、本発明によるレーダシステムの他の実施形態を説明する。他の実施形態の説明において第1の実施の形態と同一部分は同一参照数字を付してその詳細な説明は省略する。
【0054】
第2の実施形態
第2の実施形態に係るレーダシステムのブロック図は第1の実施形態のブロック図と同一であるので、図示を省略する。
【0055】
図5は、本実施形態に係る信号処理装置17の詳細な構成を示すブロック図である。図5では、干渉波除去処理に係る各部が図示されている。
【0056】
図5に示すように、信号処理装置17は、参照波メモリ171、DFT部271と272、複素共役検出部273、IDFT部274、ピーク検出部275、閾値判定部276及び除去処理部277を備えている。
【0057】
参照波メモリ171は、本レーダシステム(自局;被干渉局)に対して電波干渉を与え得る他のレーダ局(他局;与干渉局)が発信する電波の情報(参照波情報)を予め記憶している。参照波メモリ171は、一例として、与干渉局が発信する電波の送信パルス幅及びパルス繰り返し周波数を予め記憶する。参照波メモリ171は、複数の与干渉局の発信電波(複数の参照波)の情報を記憶していてもよい。
【0058】
DFT部271は、デジタル化された受信信号に対して離散フーリエ変換(DFTあるいはFFT)を施す。離散フーリエ変換によって、受信信号の周波数成分が得られる。
【0059】
同様にDFT部272は、参照波メモリ171に記憶された参照波情報に基づいて、与干渉局が発信する電波を再現した参照波を生成し、当該参照波に対して離散フーリエ変換(FFT)を施す。離散フーリエ変換によって、参照波の周波数成分が得られる。
【0060】
複素共役検出部273は、受信信号の周波数成分に対して複素共役となる参照波の周波数成分を検出する。検出された周波数成分は、IDFT部274に出力される。
【0061】
IDFT部274は、検出された周波数成分に対して逆離散フーリエ変換(IDFT或いはIFFT)を施す。逆フーリエ変換の結果は、ピーク検出部275に出力される。
【0062】
ピーク検出部275は、逆フーリエ変換の結果から、時間領域におけるピーク電力値を検出する。このピークを与える時間が、受信信号と参照波の相関が最大となる場合の時間軸のずれを与える。
【0063】
閾値判定部276は、ピーク検出部275が検出したピーク電力値が所定の閾値以上であるか否かを判定する。ピーク電力値が所定の閾値以上である場合、干渉が生じていると判定される。
【0064】
このため、除去処理部277によって除去処理が行われる。除去処理部277は、第1の実施形態と同様、当該ピークを与える時間を受信信号と参照波の時間軸のずれとして固定して、受信信号から当該参照波を減算する。あるいは、参照波にパルスが存在する時間帯の受信波を除去する。
【0065】
本実施形態に係る信号処理部17は、以下のような干渉波除去処理を実行して干渉波の影響を除去する。図6は、信号処理装置17が実行する干渉波除去処理のフローチャートである。
【0066】
干渉波除去処理では、参照波メモリ171の参照波情報から参照波が生成される(ステップS21)。DFT部271及び272は、受信信号及び参照波に対して離散フーリエ変換を行なう(ステップS22)。
【0067】
複素共役検出部273は、受信信号の周波数成分に対して複素共役となる参照波の周波数成分を検出する(ステップS23)。IDFT部274は、検出された周波数成分に対して逆離散フーリエ変換を施す(ステップS24)。
【0068】
ピーク検出部275は、逆離散フーリエ変換の結果から時間領域におけるピークを検出する(ステップS25)。例えば図7に示すように、ピーク電力値を与える時間Tが検出される。
【0069】
ピーク電力値に対応する時間Tは、第1の実施形態において図3のステップS15で検出された参照波と受信信号の相互相関を最大とする時間ずれに相当する。すなわち、参照波の時間軸(パルスの立ち上がり点)をt=0から時間Tだけずらすと、受信信号と参照波の相関が最大となる。
【0070】
閾値判定部276は、ピーク検出部275が検出したピーク電力値が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS26)。当該ピーク電力値が所定の閾値より小さい場合は(ステップS26でNo)、干渉が生じていないとされる(ステップS27)。
【0071】
ピーク電力値が所定の閾値以上である場合は(ステップS26でYes)、干渉が生じているとされ、除去処理部277によって除去処理が行われる(ステップS27)。例えば図7に示す例では、時間Tにおけるピーク電力値が所定の閾値以上であり、干渉が生じているとされる。
【0072】
除去処理部277は、参照波の時間軸(パルスの立ち上がり点)を時間Tだけずらし、この参照波に基づいた除去処理を実行する(ステップS28)。すなわち、図8に示すような時間Tだけずれた参照波に基づく除去処理が行われる。除去処理では、除去処理部277は、当該時参照波を受信信号から減算する。或いは、当該参照波にパルスが存在する時間帯の受信信号を除去する(受信電力をゼロとする)。
【0073】
その後、参照波メモリ171に記憶された全ての参照波について、処理が終了したか否かが判定される(ステップS29)。
【0074】
まだ除去処理が行なわれていない参照波があると判定されれば(ステップS29でNo)、他の参照波が生成される(ステップS21)。一方、全ての参照波について除去処理が完了している場合は(ステップS29でYes)、干渉波除去処理を終了する。
【0075】
受信信号に混入している干渉波と参照波との相互相関が高いほど、当該参照波に対応する与干渉局の電波による干渉が生じている可能性が高い。本実施形態のレーダシステムによれば、受信信号との相関の高い参照波を検出することができる。このため、受信信号に混入している干渉波が、他局から発信された信号であるかを判断することができる。
【0076】
また、ステップS24における逆DFTの結果得られる電力値(振幅)の値が大きいほど、受信信号との相関が高い参照波であることに相当する。したがって、ピーク電力値を検出することは、第1の実施形態において最大の相互相関に対応する時間のずれを検出したことと同様に、受信信号と最も良く同期した参照波を検出することに相当する。このため、受信信号に及ぼされる干渉波の影響を正確に除去することができるようになる。
【0077】
また、本実施形態のレーダシステムでは、受信信号との相関が最も強くなるパルスの立ち上がり点を、離散フーリエ変換によって、周波数軸上で算出している。このため、処理に要する計算量を削減することができる。
【0078】
上述の除去処理(ステップS28)によって、参照波にパルスが存在する時間内の受信信号の情報が削除されてしまうと、エコーが正確に生成できない恐れがある。このような場合、当該参照波のパルス繰り返し周波数に対して、自局のパルス繰り返し周波数をずらしてもよい。レーダは、複数の送信パルスに対する反射波を受信して、ターゲットからの反射強度や速度を検出するため、少数の受信データが除去されたとしても検出に大きな支障は生じない。すなわち、レーダによる検出は距離毎に行われるため、同じ距離に集中して干渉波が混入しなければ、検出が行えることになる。しかしながら、自局のパルス繰り返し周波数と他局のパルス繰り返し周波数とが同じ、あるいは近い場合、同じ距離のデータに集中して干渉波が混入するため、多くの受信データが除去されてしまい有効な検出が行えない。このような場合、当該他局による参照波のパルス繰り返し周波数に対して、自局のパルス繰り返し周波数をずらしてもよい。参照波のパルス繰り返し周波数と、自局のパルス繰り返し周波数をずらすことで、干渉波との同期を防止し、受信信号の情報が削除されることを防止できる。
【0079】
ステップS22のDFT処理では、DFT部272が参照波にDFT処理を施すとして説明したが、参照波のDFT結果を予め算出しておき、参照波メモリ171に保持しておいてもよい。これによって、干渉波除去処理に要する計算量を削減することができる。
【0080】
図9は、第2の実施形態に係るレーダシステムにおいて、周波数変換装置及び信号処理装置にGPS衛星基準信号が供給される例を示した図である。
【0081】
このレーダシステムは、図1に示す各部に加えて、GPS基準信号発生器30及びGPSアンテナ31を有する。
【0082】
GPSアンテナ31は、GPS衛星32からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号をGPS基準信号発生器30に出力する。
【0083】
GPS基準信号発生器30は、GPS信号からGPS基準信号(例えば10MHzのクロック信号)を生成し、この基準信号を周波数変換装置16及び信号処理装置17に供給する。
【0084】
このため、周波数変換装置161に備えられた発振器(PLL)163は、基準信号に同期して発振する。発振器163の供給する信号はミキサー161及び162に送られ、周波数変換装置16の動作周期を決定する。
【0085】
また、信号処理装置17のクロック372もこの基準信号に同期したクロック信号を生成する。信号処理装置17に設けられたA/D変換器371とD/A変換器374は、このクロック信号に同期して動作する。図5に示す干渉波除去処理に係る各部は、信号処理装置17に備えられた演算器373内に備えられている。
【0086】
このレーダシステムに干渉を与える可能性のある与干渉局のレーダ装置も、同様の構成を有するものとする。
【0087】
このような周波数変換装置16及び信号処理装置17によれば、ミキサー162から出力されA/D変換器372によってデジタル化される受信信号(S=Is+jQs;jは虚数単位)と信号処理装置17内で生成される参照波信号(R=Ir+jQr)の位相を同期させることができる。
【0088】
このため、除去処理(ステップS28)において受信信号から参照波を減算する際に、複素数平面上で減算(S−R)することができる。
【0089】
このように、GPS信号に基づいてフェーズロックすることで、干渉を与える与干渉局と自局のコヒーレンシーを保つことができ、受信信号から干渉波のみを複素平面上で減算できる。
【0090】
上述の実施形態では、一例として、降雨量等を観測するための気象レーダにおける干渉波除去について説明した。しかしながら、上述の実施形態は、航空機を検出する空港監視レーダ等、他の1次レーダにも適用可能である。
【0091】
上述のように、信号処理によって電波干渉の影響を除去することで、密な周波数配置や同一周波数の再利用等による周波数の有効利用を進展させることができるようになる。
【0092】
本願発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、前記各実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、1つの実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されたり、幾つかの実施形態に示される構成要件が組み合わされても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除されたり組み合わされた構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0093】
11…空中線装置(アンテナ)、12…送信装置、13…受信装置、16…周波数変換装置、17…信号処理装置、18…監視制御装置、19…データ変換装置、20…データ表示装置、21…データ蓄積装置、22…データ通信装置、23…遠隔監視制御装置、24…遠隔表示装置、171…参照波メモリ、172…シフト部、173…相関算出部、174…最大値検出部、175…ホールド部、176…除去処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象から反射された受信信号を受信する受信手段と、
干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリと、
前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した参照波パルスを生成する参照波生成手段と、
前記受信信号との相関が最も高くなるよう、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させるパルス制御手段と、
前記受信信号から、前記立ち上がり点が移動した参照波パルスを除去する除去手段と、
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記除去手段は、前記参照波パルスにおいてパルスが存在する時間帯は前記受信信号の値をゼロにすることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記除去手段は、前記受信信号から前記参照波パルスを減算することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記参照波パルスの立ち上がり点を順次移動させながら、前記受信信号との相互相関値を算出する相関算出手段を更に具備し、
前記パルス制御手段は、前記相関算出手段が算出する相互相関値が最大となる点に、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記パルス制御手段は、前記相関算出手段が算出する最大の相互相関値が所定の閾値以上である場合に、前記相互相関値が最大となる点に前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させることを特徴とする請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記受信信号と前記参照波パルスの相互相関が最も高くなる前記参照波パルスの立ち上がり点を複素数領域において検出する検出手段を更に具備し、
前記パルス制御手段は、前記検出手段が検出した点に、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
干渉波の原因となる与干渉局の電波情報を保持する参照波メモリを有するレーダ装置において用いられる干渉波除去方法であって、
観測対象から反射された受信信号を受信する受信ステップと、
前記電波情報に基づいて、前記干渉波を再現した参照波パルスを生成する参照波生成ステップと、
前記受信信号との相関が最も高くなるよう、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させるパルス制御ステップと、
前記受信信号から、前記立ち上がり点が移動した参照波パルスを除去する除去ステップと、
を具備することを特徴とする干渉波除去方法。
【請求項8】
前記除去ステップは、前記参照波パルスにおいてパルスが存在する時間帯は前記受信信号の値をゼロにすることを特徴とする請求項7に記載の干渉波除去方法。
【請求項9】
前記除去ステップは、前記受信信号から前記参照波パルスを減算することを特徴とする請求項7に記載の干渉波除去方法。
【請求項10】
前記参照波パルスの立ち上がり点を順次移動させながら、前記受信信号との相互相関値を算出する相関算出ステップを更に具備し、
前記パルス制御ステップは、前記相関算出ステップによって算出される相互相関値が最大となる点に、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させることを特徴とする請求項7に記載の干渉波除去。
【請求項11】
前記パルス制御ステップは、前記相関算出ステップによって算出される最大の相互相関値が所定の閾値以上である場合に、前記相互相関値が最大となる点に前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させることを特徴とする請求項10に記載の干渉波除去方法。
【請求項12】
前記受信信号と前記参照波パルスの相互相関が最も高くなる前記参照波パルスの立ち上がり点を複素数領域において検出する検出ステップを更に具備し、
前記パルス制御ステップは、前記検出ステップによって検出された点に、前記参照波パルスの立ち上がり点を移動させることを特徴とする請求項7に記載の干渉波除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−53034(P2011−53034A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201020(P2009−201020)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】