説明

レーダ装置

【課題】複数個のレーダの電波干渉を抑えることのできるレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置1は、レーダ11、12、制御装置9を備え、制御装置9は、レーダ11、12の波形パターンを制御する。信号処理装置23は、制御装置9の指示を受けて、波形メモリ24からFM−CWモード3、CWモード4のVCO25の周波数変調パターンを選択してモード切換230を行い、送信アンテナ21から電波を出力する。そのとき、レーダ11、12で出力する連続波の信号の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しないよう、制御装置9は、それぞれの上記レーダの周波数変調パターンまたは当該パターンの出力タイミングを信号処理装置23に指示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレーダの電波干渉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前方または後方にレーダを備える車両(移動体)が実用化されている。レーダは、障害物を検知でき、これとの車間距離や相対速度を取得する。これによれば、車両は障害物との衝突を回避するようにしたり、運転者へ警告することができる。このようなレーダが出力する電波の波形として、例えば、周波数を三角波に沿って増減させる周波数変調パターンのFM−CWモード、複数(例えば2つ)の周波数を時分割で切り換えるCWモードが知られている(特許文献1〜5参照)。レーダ装置がCWモードを使用すれば、障害物との相対速度が0になると、車両を検出できなくなることが知られており、従来、1つのレーダで、CWモードとFM−CWモードを切り換えることがなされていた(特許文献3)。
【0003】
また、このようなレーダは、他の車両等との間での電波干渉が課題となっている(特許文献1〜5参照)。特許文献1、5には、時分割、または他の車両がレーダを出力していない時間帯に出力する旨の記載がある。特許文献2には、ランダム符号化系列でスペクトル拡散したFM−CW送信波を送信し、受信側で相関処理を行うことにより、自己が発した符号化系列と異なる場合に、電波干渉を防ぐ旨の記載がある。特許文献4には、電波干渉によりスパイク上のノイズが出力される場合には、隣接する相互の値の平均値を出力する旨の記載がある。
【特許文献1】特開2007−187632号公報
【特許文献2】特開2002−14159号公報
【特許文献3】特開2004−69693号公報
【特許文献4】特開2006−242818号公報
【特許文献5】特開2007−155551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、同じ移動体に備えられた複数のレーダについて、或るレーダ(例えば車両の前方右側に設置されたレーダ)から送信された電波と、別のレーダ(例えば車両の前方左側に設置されたレーダ)から送信された電波とが干渉する可能性があるが、このような干渉を防ぐために、特許文献1、5のように時分割でレーダの干渉を防ぐ技術を適用すると、他のレーダが電波を送信している間は、電波を送信しないので、検出周期が長くなり、障害物の検出が遅れる虞があった。
【0005】
そこで、本発明は、複数個のレーダの電波干渉を効果的に防ぐレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、以下の構成を備えることができる。
【0007】
(1)本発明は、
少なくとも2つのレーダを用いて周辺の障害物を検出するレーダ装置において、
1つ以上の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信する第1のレーダと、
1つ以上の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信する第2のレーダと、
上記第1のレーダおよび上記第2のレーダを制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、上記第1のレーダおよび前記第2のレーダから同時に出力される電磁波の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しないよう、上記第1のレーダおよび上記第2のレーダを制御することを特徴とするレーダ装置。
【0008】
この構成では、制御手段は、第1のレーダおよび第2のレーダから同時に出力される電磁波の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しない(すなわち、同じ周波数になることが一切無い、もしくは同じ周波数になるとしても一時的である)ように、第1のレーダおよび第2のレーダを制御するので、第1のレーダと第2のレーダの障害物検知範囲が重なっていたとしても、干渉を最小限に抑えることができる。
【0009】
(2)上記制御手段は、上記第1のレーダにおいて利用される周波数変調パターンと、上記第2のレーダにおいて利用される周波数変調パターンを異ならせてもよい。
【0010】
この構成では、第1のレーダが利用する周波数変調パターンと第2のレーダが利用する周波数変調パターンが異なるので、干渉を抑えることができる。
【0011】
(3)上記第1のレーダおよび前記第2のレーダは、いずれも、第1の周波数変調パターンと、当該第1の周波数変調パターンとは異なる第2の周波数変調パターンとを交互に切り替えながら電磁波を送信するものであり、
上記制御手段は、上記第1のレーダおよび上記第2のレーダのうち、一方のレーダが上記第1の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信している間は、他方のレーダは上記第2の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信するように、上記第1のレーダおよび上記第2のレーダを制御してもよい。
【0012】
この構成では、各レーダにおいて、第1の周波数変調パターンと第2の周波数変調パターンを交互に切り替える場合においても、一方のレーダが第1の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信している間は、他方のレーダは第2の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信するので、干渉を抑えることができる。
【0013】
(4)上記第1の周波数変調パターンはCWモードであり、上記第2の周波数変調パターンはFM−CWモードであってもよい。
【0014】
この構成では、第1のレーダおよび第2のレーダで利用される周波数変調パターンの一方をFM−CWモード、他方をCWモードとすることで、干渉を抑えることができる。また、各レーダにおいてFM−CWモードとCWモードを交互に切り替えることで、障害物までの距離および障害物の相対速度を検出することができる。
【0015】
(5)上記第1の周波数変調パターンであるCWモードの送信周波数が、上記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードの送信周波数帯域に含まれないように、上記第1の周波数変調パターンおよび上記第2の周波数変調パターンが設定されていてもよい。
【0016】
この構成では、第1のレーダおよび第2のレーダから同時に出力される電磁波の周波数が、互いに同じ周波数になることが無いので、干渉を抑えることができる。
【0017】
(6)上記第1の周波数変調パターンであるCWモードの送信周波数が、上記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードの周波数帯域の上限または下限に一致するように、上記第1の周波数変調パターンおよび上記第2の周波数変調パターンが設定されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、第1のレーダおよび第2のレーダから同時に出力される電磁波の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しないので、干渉を最小限にすることができる。また、この構成によれば、上記(5)の構成と比較して、必要な周波数帯域を狭くすることができる。また、利用可能な周波数帯域が限られている場合には、その限られた周波数帯域の中で、FM−CWモードで利用できる周波数帯域を広く確保することができる。FM−CWモードの周波数帯域を大きくとることができれば、レーダ装置の距離の解像度を高くすることができる。
【0019】
なお、電磁波の送信開始タイミングと送信終了タイミングにおいては、干渉による悪影響(障害物の検知精度への悪影響)は比較的少ない。したがって、上記構成において、第1のレーダから出力される電磁波の周波数と、第2のレーダから出力される電磁波の周波数とが一致するタイミングを、各レーダからの電磁波の送信開始タイミングまたは送信終了タイミングと一致させるようにすれば、干渉による悪影響を減らすことができるので、好ましい。
【0020】
(7)上記第1の周波数変調パターンは、2つの送信周波数を交互に使用する2周波CWモードであり、
上記制御手段は、上記第1の周波数変調パターンであるCWモードの送信周波数と、上記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードの送信周波数とが一致するタイミングを、上記2周波CWモードの送信周波数の切り替えタイミングに一致させてもよい。
【0021】
2周波CWモードの送信周波数の切り替えタイミングにおいては、干渉による悪影響(障害物の検知精度への悪影響)は比較的少ない。したがって、この構成では、第1のレーダから出力される電磁波の周波数と、第2のレーダから出力される電磁波の周波数とが一致するタイミングを、2周波CWモードの送信周波数の切り替えタイミングと一致させることにより、干渉による悪影響を減らすことができる。
【0022】
(8)上記第1の周波数変調パターンであるCWモードにおける電磁波の連続送信時間を、上記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードにおける電磁波の連続送信時間よりも短くすることによって、当該CWモードの送信周波数が当該FM−CWモードの送信周波数と一致することの無いように、上記第1の周波数変調パターンおよび上記第2の周波数変調パターンが設定されていてもよい。
【0023】
この構成では、上記(6)の構成と同様の効果が得られ、なおかつ、CWモードの送信周波数がFM−CWモードの送信周波数と一致することの無いように、CWモードにおける電磁波の連続送信時間がFM−CWモードにおける電磁波の連続送信時間よりも短く設定されるので、干渉を抑えることができる。
【0024】
(9)上記第1のレーダにおいて利用される周波数変調パターンと、上記第2のレーダにおいて利用される周波数変調パターンとが、同一の周波数変調パターンであり、
上記制御手段は、上記第1のレーダおよび上記第2のレーダから上記同一の周波数変調パターンにしたがってそれぞれ送信される電磁波の位相を互いに異ならせてもよい。
【0025】
この構成によれば、第1のレーダが利用する周波数変調パターンと第2のレーダが利用する周波数変調パターンの位相が異なるので、干渉を抑えることができる。
【0026】
(10)上記同一の周波数変調パターンがFM−CWモードであってもよい。
【0027】
この構成によれば、各レーダによって障害物の相対速度を検出することができるとともに、各レーダから送信される電磁波の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しないようにすることができ、干渉を抑えることができる。
【0028】
(11)上記制御手段は、上記第1のレーダおよび上記第2のレーダのうち、一方のレーダから送信される電磁波の周波数が単調増加している間は、他方のレーダから送信される電磁波の周波数が単調減少するように、上記第1のレーダおよび上記第2のレーダを制御してもよい。
【0029】
この構成によれば、各レーダから送信される電磁波の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しないようにすることができ、干渉を抑えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、複数個のレーダの電波干渉を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明に係るレーダ装置の第1実施形態について説明する。
【0032】
図1は、本発明の1実施形態に係るレーダの外観図を表している。図1(A)は、車両101前方から見たレーダの配置を示している。図1(B)は、車両101の上方から見たレーダ11、12の検出範囲111、112を表している。
【0033】
図1(A)に示すように、車両101は、複数のレーダ11、12(本願で、単にレーダという時は、レーダ装置全体でなく、レーダ装置が備えるレーダのユニットのことを指す。)を含むレーダ装置(図2のレーダ装置1に相当する。)を備える。レーダ11、レーダ12は、前方の物体との距離、相対速度を外部の構成に対し出力する。レーダ11、12は、例えば、車両101前方の両端に設けられている。レーダ11、12が複数設けられていることにより、検出範囲を広くすることができる。
【0034】
図1(B)に示すように、レーダ装置1は、車両101内部に制御装置9を備え、レーダ11、12を統合して制御を行う。ここで、レーダ11、12の検出範囲111、112は、互いに重なっている(重複範囲13参照)。したがって、レーダ11、12の送信アンテナから、重複範囲13に送信された電波が、互いに逆のレーダ11、12の受信アンテナによって受信されるおそれがある。そこで、制御装置9は、レーダ11、レーダ12間で干渉が生じにくいようにレーダ11、12の周波数、位相等を同時に制御する。
【0035】
図2は、本発明の1実施形態に係るレーダ装置の構成図である。図2に示すように、レーダ装置1は、レーダ11、12、制御装置9を備える。レーダ11、レーダ12は、互いに同じ構成とすることができる。以下のレーダ12の説明において、レーダ11の構成の符号を参照する。
【0036】
レーダ11は、送信アンテナ21、受信アンテナ22、信号処理装置23、波形メモリ24、VCO25、方向性結合器26、ミキサ27、LPF28、CW用LPF280、AD変換器29を備える。
【0037】
送信アンテナ21、受信アンテナ22は、図1(A)の車両101の車両の表面部分に位置している。送信アンテナ21は、電波を外部に送信する。受信アンテナ22は、物体に反射して帰ってきた電波を受信する。
【0038】
信号処理装置23は、VCO25に入力する駆動信号を生成する(以下、単に駆動信号というときは、VCO25に入力する信号をいうことにする。)。波形メモリ24は、FM−CWモード3、CWモード4の波形(周波数変調パターン)の信号を記憶する。信号処理装置23は、波形メモリ24から呼び出した各モード3、4の選択を行い、VCO25に三角波、または矩形波の駆動信号を、図示しないDA変換器を通して、電圧VCO25に出力する。
【0039】
VCO(voltage controlled oscillator)25は、電圧制御発振器であり、VCO25に印加された駆動電圧により、発振周波数を制御する。即ち、駆動電圧によって、VCO25が出力する周波数を変えることができる。VCO25は、FM−CWモード3、CWモード4の電圧波形を入力することにより、VCO25は、送信アンテナ21が電磁波を出力するための連続波の信号を生成する。例えば、VCO25は、FM−CWモード3の三角波を入力すると、周波数が時間と共に増大、減少するような、変調波の信号を出力する。図2のFM−CWモードにおける縦軸は、そのような変動する周波数を示している。また、VCO25は、CWモード4の矩形波を入力すると、周波数が、複数の周波数のいずれかに、時分割で切り換わる信号を出力する。図2のCWモード4における縦軸は、そのような切り換わる2つの周波数の値を示している。
【0040】
なお、図2では、2つの送信周波数を交互に切り替えて使用する2周波CWモードを表しているが、本発明はこれに限らず、送信周波数が常に一定のCWモードであってもよいし、3つ以上の送信周波数を順次切り替えて使用するCWモードであってもよい。
【0041】
信号処理装置23は、制御装置9の指示に従い、波形メモリ24から入力するFM−CWモード3、CWモード4の波形を切り換える。これにより、FM−CWモード3、CWモード4のモード切換230を行う。
【0042】
方向性結合器26は、VCO25、送信アンテナ21間の伝送線路上に挿入され、この伝送線路上を伝搬する電力の一部をミキサ27に出力する。
【0043】
前述のとおり、物体に反射した電波は、受信アンテナ22に受信される。また、ミキサ27は、送信アンテナ21に出力される送信波の信号と受信アンテナ22で受信した受信波の信号との差分信号(ビート信号)を合成し、出力する。LPF28(ローパスフィルタ)は、ビート信号からノイズを取り除き、AD変換の精度がよくなるよう、必要帯域だけを抽出する。CW用LPF280は、FM−CWモード3で電波を出力している時に用いるフィルタである。CW用LPF280は、必ずしも必要がないが、CWモード4の場合には、複数の周波数帯域しか必要なく狭帯域であることから、CW用LPF280を設けるのが好ましい。
【0044】
AD変換器29は、LPF28、CW用LPF280から入力されたアナログ形式のビート信号をデジタル形式のビート信号に変換する。
【0045】
信号処理装置23は、上記の駆動信号を生成するほかに、AD変換器29で変換されたビート信号についてフーリエ変換を行う。信号処理装置23は、フーリエ変換によってゲインと位相を生成する。信号処理装置23は、特許文献1〜5等に記載の周知の方法により、このゲインと位相に基づいて、物体の速度と相対距離を制御装置9に出力する。なお、信号処理装置23がフーリエ変換する時は、窓関数(Window Function)を畳み込んでもよい。
【0046】
制御装置9は、レーダ11、12から、どのタイミングで、どのモード(FM−CWモード3、CWモード4)を出力するか、また、各モードの周期、周波数を決定し、レーダ11、12に指示する。波形メモリ24内のFM−CWモード3、CWモード4の波形データは、それぞれ必要に応じて複数備えるか、または、パラメータ化されている。これにより、レーダ11、12の各信号処理装置23は、制御装置9のこのような指示に対応して、必要な駆動信号を生成する。この指示の伝達は、例えば、制御装置9がパラメータを信号処理装置23に設定してもよい。これにより、レーダ11、12が出力する電波の周波数は、制御装置9により制御される。
【0047】
次に、図3〜図6を用いて、本発明の実施形態に係るレーダ装置の電波の周波数変調パターンの実施例1〜実施例10について説明する。以下の実施例は、いずれも、連続波の信号の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しないようにする例である。図3〜図6に示す波形31〜40、41〜50は、それぞれ、レーダ11、レーダ12で使用する周波数の時間変化を示している。この時間変化は、実装上は、信号処理装置23がVCO25に印加する駆動信号の電圧の時間変化と対応する。
【0048】
図3(A)は、電波の周波数変調パターンの実施例1を示す。レーダ11、12が送信アンテナから出力する電波が同じ周波数になると、重複範囲13の範囲で電波干渉が生じることになる。そこで、実施例1の波形31、32に示すように、そのような電波干渉を最小限にするために、レーダ11、レーダ12は、それぞれFM−CWモード3、CWモード4を用い、互いに周波数帯域を異らせている(FM−CWモード3の周波数帯域FFL、FFH>CWモード4の周波数帯域FCU、FCL)。これにより、レーダ装置1は、レーダ11、12間の干渉を防ぐことができる。ここで、VCO25の出力できる周波数帯域の物理的制限や法律の制限により、VCO25の出力する周波数の帯域に制限がある場合がある。この場合でも、CWモード4に必要な周波数帯域は、FM−CWモード3の約1/10で済むことから、周波数帯域を広く取る必要がない。
【0049】
なお、実施例1において、レーダ11、12ともFM−CWモード3を用いたり、また、レーダ11、12ともCWモード4を用いて、帯域を分離することは可能である。図1(A)において、レーダ11の周波数帯域をレーダ12の周波数帯域より上に描いているが、実施例1においては、帯域が分離していればよく、レーダ11、12のいずれが高周波帯域であってもよい。また、実施例1では、FM−CWモード3における、最低周波数FFLから最大周波数FFHにいたるまでの時間Tf1、最大周波数FFHから最低周波数FFLにいたるまでの時間Tf2と、実施例1のCWモード4における、各周波数の時間Tc1、Tc2は、すべてばらばらでもよい(この点、実施例2、3も同様である)。
【0050】
図3(B)は、電波の周波数変調パターンの実施例2を示す。波形32、42に示すように、実施例2では、制御装置9は、レーダ12の周波数帯域(FCU〜FCL)をレーダ11の周波数帯域(FFL〜FFH)に含まれるようにこれらの周波数帯域を調整する。実施例2によれば、レーダ11、レーダ12が使用する周波数帯域を完全には分離できないが、VCO25から出力された連続波の信号の周波数が、レーダ間で互いに同じ周波数になる時間が連続しないようにすることができる。したがって、実施例1によれば、レーダ装置1は、干渉を最小限に抑えることができる。また、レーダ装置1は、電波の周波数帯域の増加を抑えることができる。
【0051】
図3(C)は、電波の周波数変調パターンの実施例3を示す。実施例3では、制御装置9は、レーダ11で使用するFM−CWモード3の最小周波数FFLと、レーダ12で使用するCWモード4の最小周波数FCLを一致させている。最小周波数において、周波数が瞬間的に一致するものの、フーリエ変換時に上記窓関数を畳み込んだ場合には、FM−CWモード3の最小周波数、最大周波数においては、干渉の影響があまり生じない。そこで、このようにCWモード4のうちいずれかの周波数を、FM−CWモード3のうち端の周波数(最大周波数または最小周波数)に一致させるのが好ましい。
【0052】
なお、実施例3と同様に、レーダ11で使用するFM−CWモード3の最大周波数FFLと、レーダ12で使用するCWモード4の最大周波数を一致させるようにしてもよい。このようにしても、実施例3と同様の効果を得ることができる。また、レーダ11で使用するFM−CWモード3、レーダ12で使用するCWモード4について、最大周波数、最小周波数をいずれも一致させるようにしてもよい。
【0053】
図3(D)は、電波の周波数変調パターンの実施例4を示す。この実施例4では、実施例3で説明したのと同様の理由から、制御装置9は、実施例1において、レーダ11、12で使用するモードの周波数帯域の最小値と、最大値を一致させている。このようにすれば、レーダ装置1が使用する周波数帯域を小さくすることができる。また、FM−CWモード3を用いる場合には、周波数帯域が大きい方が距離の解像度が高くなる。したがって、許容された周波数帯域内でFM−CWモード3の周波数帯域を、実施例1よりも大きくとることができ、距離の解像度を高くすることができる。
【0054】
図4(A)は、電波の周波数変調パターンの実施例5を示す。この実施例4では、波形35、45に示すように、制御装置9は、FM−CWモード3とCWモード4の周期、位相を一致するようにする。また、同時に制御装置9は、CWモード4での電波の出力を断続的に行わせるようにし、制御装置9は、CWモード4での電波の出力を期間(Tc1+Tc2)をFM−CWモード3(Tf1+Tf2)の周期よりも短く設定する(なお、実施例4でいうCWモード4の周期には、電波を出力しない時間を含めるものとする。)。これにより、FM−CWモード3の三角波の三角形の中にCWモード4の周波数帯域を収めることができる。したがって、レーダ装置1は、FM−CWモード3、CWモード4で周波数が一致する時間がないようにすることができ、かつ、レーダ11、12で使用する周波数帯域の幅を小さくすることができる。
【0055】
なお、FM−CWモード3で出力するレーダ11の方のレーダの出力を断続的にし、FM−CWモード3での電波の出力を期間(Tf1+Tf2)をCWモード4(Tc1+Tc2)の周期よりも短く設定する実施例4’も可能である。この場合には、FM−CWモード3の周波数帯域が犠牲になるので距離の解像度が落ちる一方、CWモード4の出力時間が長くなるので、レーダ12の速度の解像度を上げることができる。ここで、距離の解像度、速度の解像度を考えると、距離の解像度を上げる方を優先した方がよい。したがって、実施例4の方が、実施例4’よりも好ましい。
【0056】
図4(B)は、電波の周波数変調パターンの実施例6を示す。この実施例では、図4(A)の実施例5と異なり、FM−CWモード3を使用する。レーダ12は、常時、電波を送信する。波形36、46に示すように、制御装置9は、以下の条件にしたがって、電波を出力する。
【0057】
レーダ11がFM−CWモード3で出力する周波数(FFL〜FFU)が、この周波数の中間の所定の周波数FMより高い時間帯においては、レーダ12は、FMより低い一定周波数FCL(FFL〜FMの間)を出力する(これを条件1とする)。
【0058】
レーダ11がFM−CWモード3で出力する周波数(FFL〜FFU)が、周波数FMより低い時間帯においては、レーダ12は、FMより高い一定周波数FCH(FM〜FCHの間)を出力する(これを条件2とする)。
【0059】
このようにすれば、FM−CWモード3、CWモード4で周波数が一致する時間がないようにすることができる。即ち、レーダ11、12は、同一の周波数の電波を連続して送信することがない。また、レーダ11、12で使用する周波数帯域の幅を小さくすることができる。
【0060】
なお、実施例6では、2周波CWモードについて説明したが、実施例6で示した条件1、条件2に従う限り、制御装置9は、3以上の周波数を設定することができる。また、同様にして、3以上のレーダ(11、12に相当)を用いる場合に、1つのFM−CWモード3と、複数のCWモード4を併用することができる。
【0061】
図5(A)は、電波の周波数変調パターンの実施例7を示している。レーダ11、12両方とも、FM−CWモード3を用いる。波形37、波形47に示すように、制御装置9は、レーダ11、12の周波数変調パターンの周期を一致させ、位相を180度ずらす。また、FM−CWモード3の最大周波数、最小周波数を一致させる。このようにすれば、レーダ11、12は、同一の周波数の電波を連続して送信することがなく、レーダ装置1は、レーダ11の周波数の上昇時に、レーダ12の周波数を降下させることができ、レーダ11の周波数の降下時に、レーダ12の周波数を上昇させることができる。したがって、レーダ11、12の干渉を抑えることができる。また、レーダ11、12で使用する周波数帯域の幅を小さくすることができる。
【0062】
図5(B)は、電波の周波数変調パターンの実施例8を示している。レーダ11、12両方とも、FM−CWモード3を用いる。波形38、波形48に示すように、制御装置9は、周波数変調パターンの周期をレーダ11、12間で一致させ、互いに位相を180度ずらす。このようにすれば、レーダ11、12は、同一の周波数の電波を連続して送信することがない。
【0063】
図5(C)は、電波の周波数変調パターンの実施例9を示している。レーダ11、12両方とも、FM−CWモード3を用いる。波形39、波形49に示すように、制御装置9は、周波数変調パターンの周期をレーダ11、12間で一致させる。このようにすれば、レーダ11、12は、同一の周波数の電波を連続して送信することがない。
【0064】
図6は、電波の周波数変調パターンの実施例10を示している。レーダ11、12両方とも、CWモード4を用いる。波形40、波形50に示すように、制御装置9は、周波数変調パターンの周期Tcをレーダ11、12間で一致させ、互いに位相を180度ずらす。即ち、レーダ11、12のうち一方のレーダ(11/12)が所定の周波数(FCL/FCH)を出力している時は、制御装置9は、他方のレーダ(12/11)が、他方の周波数(FCH/FCL)を出力するように調整することにより、使用する周波数を交換する。このようにすれば、レーダ11、12は、同一の周波数の電波を連続して送信することがなく、かつ、レーダ11、12で使用する周波数帯域の幅を小さくすることができる。
【0065】
なお、実施例10を応用して、レーダ装置1が、3つ以上の周波数帯域で、交互に周波数を交換すれば、3つ以上のレーダで、干渉が生じないようにすることができる。
【0066】
以上の実施形態について、以下に補足する。
【0067】
なお、以上の図1の説明では、機能ごとに分離したブロックで説明したが、実装上は、これらの機能のうち、いずれかが複数の機能が一体として構成してもよいし、一つのブロックを複数に分離して構成してもよい。例えば、制御装置9と複数のレーダ(11、12に相当する)の信号処理装置23を一体としてもよい。
【0068】
図2で説明したレーダ装置1は例示に過ぎず、レーダ装置1が他の手段により周波数を変調できるのであれば、VCO25を必ずしも用いることを要しない。レーダ装置1が駆動電圧によって、周波数を制御することも必須ではない。
【0069】
以上の実施例1〜10において、時間Tf1、Tf2、Tc1、Tc2、周波数FFL、FFH、FCH等を共通にしているが、それらは、FM−CWモード3、CWモード4の周波数帯域、周期等の概念を表すだけであり、必ずしも実施例1〜10間で値を同じにする必要はない。
【0070】
また、以上の実施例1〜6では、レーダ11をFM−CWモード3、レーダ12をCWモード4としたが、逆に、レーダ12をFM−CWモード3、レーダ11をCWモード4としてもよい。また、制御装置9は、レーダ11、12で使用するモードを、所定時間ごと、または周期ごとに、FM−CWモード3とCWモード4とで交換してもよい。これにより、レーダ11、12のそれぞれにおいて、障害物までの距離と障害物の相対速度を検知することができる。以上の実施例1〜3では、レーダ11、12間で変調周波数の周期を一致させる必要がないとしたが、このように周期の交換をする場合には、レーダ11、12で出力する周波数パターンの周期、位相を同じにするのが好ましい。周期が同じであれば、上記の周期の交換の時に他方の周期の終了を待つ必要がない。
【0071】
また、レーダ11、12のうち一方について単一のモード、例えば、FM−CWモード3しか用いないのであれば、波形メモリ24は、そのモード(例えばFM−CWモード3)のデータのみを記憶すればよく、モード切換230は必要がない。
【0072】
また、実施例1〜6を、1つのFM−CWモード3と、送信周波数が異ならせた複数のCWモード4へ容易に拡張できる。また、この拡張において、上記で実施例6の応用として説明したように、3つ以上の周波数帯域で、時分割で、交互に電波の周波数を交換するようにしてもよい。さらに、実施例7〜9を、3つ以上のレーダ(11、12に相当)に応用する場合には、周波数帯域を一致しないように重ねてもよいし、周期が同じで、位相を互いにずらして同じ周波数帯域で出力してもよい。このようにすれば、複数のレーダが同じ周波数を連続して出力することがないようにすることができる。
【0073】
さらに、以上では、連続的に電波を出力する構成を示したが、他の車両との電波干渉がある場合には、それを避けるように、周波数を調整してもよいし、時間をずらすようにしてもよい。また、レーダ装置1は、電波の代わりに、光等の電磁波を送信してもよい。
【0074】
さらに、本実施形態では、レーダ装置1が車両等の移動体に搭載される例を説明したが、本発明のレーダ装置1は必ずしも移動体に搭載される必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば、車両等の移動体に備えるレーダ装置に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態に係るレーダの外観図
【図2】本発明の実施形態に係るレーダ装置の構成図
【図3】本発明の実施形態に係るレーダ装置の各レーダの電波の周波数変調パターンの実施例
【図4】本発明の実施形態に係るレーダ装置の各レーダの電波の周波数変調パターンの実施例
【図5】本発明の実施形態に係るレーダ装置の各レーダの電波の周波数変調パターンの実施例
【図6】本発明の実施形態に係るレーダ装置の各レーダの電波の周波数変調パターンの実施例
【符号の説明】
【0077】
101…車両
11、12…レーダ
111、112…検出範囲
13…重複範囲
21…送信アンテナ
22…受信アンテナ
23…信号処理装置
230…モード切換
24…波形メモリ
25…VCO
26…方向性結合器
27…ミキサ
28…LPF
280…CW用LPF
29…AD変換器
3…FM−CWモード
31…波形
4…CWモード
41…波形
9…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのレーダを用いて周辺の障害物を検出するレーダ装置において、
1つ以上の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信する第1のレーダと、
1つ以上の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信する第2のレーダと、
前記第1のレーダおよび前記第2のレーダを制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記第1のレーダおよび前記第2のレーダから同時に出力される電磁波の周波数が、互いに同じ周波数になる時間が連続しないよう、前記第1のレーダおよび前記第2のレーダを制御することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1のレーダにおいて利用される周波数変調パターンと、前記第2のレーダにおいて利用される周波数変調パターンを異ならせることを特徴とする、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記第1のレーダおよび前記第2のレーダは、いずれも、第1の周波数変調パターンと、当該第1の周波数変調パターンとは異なる第2の周波数変調パターンとを交互に切り替えながら電磁波を送信するものであり、
前記制御手段は、前記第1のレーダおよび前記第2のレーダのうち、一方のレーダが前記第1の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信している間は、他方のレーダは前記第2の周波数変調パターンにしたがって電磁波を送信するように、前記第1のレーダおよび前記第2のレーダを制御することを特徴とする、請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記第1の周波数変調パターンはCWモードであり、前記第2の周波数変調パターンはFM−CWモードであることを特徴とする、請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記第1の周波数変調パターンであるCWモードの送信周波数が、前記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードの送信周波数帯域に含まれないように、前記第1の周波数変調パターンおよび前記第2の周波数変調パターンが設定されていることを特徴とする、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記第1の周波数変調パターンであるCWモードの送信周波数が、前記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードの周波数帯域の上限または下限に一致するように、前記第1の周波数変調パターンおよび前記第2の周波数変調パターンが設定されていることを特徴とする、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記第1の周波数変調パターンは、2つの送信周波数を交互に使用する2周波CWモードであり、
前記制御手段は、前記第1の周波数変調パターンであるCWモードの送信周波数と、前記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードの送信周波数とが一致するタイミングを、前記2周波CWモードの送信周波数の切り替えタイミングに一致させることを特徴とする、請求項4乃至6のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記第1の周波数変調パターンであるCWモードにおける電磁波の連続送信時間を、前記第2の周波数変調パターンであるFM−CWモードにおける電磁波の連続送信時間よりも短くすることによって、当該CWモードの送信周波数が当該FM−CWモードの送信周波数と一致することの無いように、前記第1の周波数変調パターンおよび前記第2の周波数変調パターンが設定されていることを特徴とする、請求項6乃至7のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記第1のレーダにおいて利用される周波数変調パターンと、前記第2のレーダにおいて利用される周波数変調パターンとが、同一の周波数変調パターンであり、
前記制御手段は、前記第1のレーダおよび前記第2のレーダから前記同一の周波数変調パターンにしたがってそれぞれ送信される電磁波の位相を互いに異ならせることを特徴とする、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記同一の周波数変調パターンがFM−CWモードであることを特徴とする、請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記第1のレーダおよび前記第2のレーダのうち、一方のレーダから送信される電磁波の周波数が単調増加している間は、他方のレーダから送信される電磁波の周波数が単調減少するように、前記第1のレーダおよび前記第2のレーダを制御することを特徴とする、請求項10に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−107225(P2010−107225A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276867(P2008−276867)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】