説明

レーダ装置

【課題】レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出することができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置1は、レーダ2と、このレーダ2と接続されたECU3とを備えている。ECU3は、レーダ2によって検出されたデータに基づいて、自車両と同一のレーンの直線路において前方正面を走行する先行車両を抽出する。そして、ECU3は、その先行車両について自車両に対する先行車両の距離及び上下左右方向がレーダ2によって所定回数検出された場合に、その所定回数検出されたデータに基づいてレーダビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθy(軸ずれ量)を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のレーダ装置は、複数の素子アンテナが上下左右に配置されたアレーアンテナを有する受信アンテナにおいて、素子アンテナの一部を上下方向にずらして配置することにより、目標物の上下左右の2次元方位をモノパルス方式で検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−287857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のレーダ装置では、経年劣化等に伴いレーダビームの中心軸にずれ(軸ずれ)が生じることがある。軸ずれは、レーダ装置における検出精度の低下に繋がるため補正や学習が必要となる。この軸ずれの補正や学習を行うためには、レーダビームの軸ずれ量を算出しなければならない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出することができるレーダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自車両の前方に存在する移動物標の上下左右の方位を検出可能なレーダ装置において、自車両の前方に向けてレーダビームを照射し、自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向を検出する検出手段と、検出手段が同一の移動物標について自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向を所定回数検出したか否かを判断する検出回数判断手段と、検出回数判断手段によって検出手段が同一の移動物標について自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向を所定回数検出したと判断された場合に、同一の移動物標について所定回数検出されたデータに基づいて、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出するずれ量算出手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るレーダ装置においては、自車両の前方に向けてレーダビームを照射することで、同一の移動物標について自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向(角度)が所定回数検出されたときに、それらの検出データに基づいてレーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出する。そのため、例えば自車両の前方を走行する先行車両等といった同一の移動物標について自車両に対する距離及び上下左右方向を所定回数検出(長時間観測)することにより、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出することが可能となる。
【0008】
好ましくは、自車両に対する移動物標の高さ、横位置及び距離が各々所定の範囲内にあるか否かを判断する物標存在範囲判断手段を更に備え、ずれ量算出手段は、物標存在範囲判断手段によって自車両に対する移動物標の高さ、横位置及び距離が各々所定の範囲内にあると判断された場合に、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出する。この場合には、自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向の適切な検出データが得られるため、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量をより精度良く算出することが可能となる。
【0009】
また、好ましくは、自車両及び移動物標が何れも直線路を走行しているか否かを判断する走行路判断手段を更に備え、ずれ量算出手段は、走行路判断手段によって自車両及び移動物標が何れも直線路を走行していると判断された場合に、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出する。この場合には、移動物標が自車両の正面に存在することになるので、自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向の適切な検出が行われる。従って、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量をより精度良く算出することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出することができる。これにより、上下左右の方位を検出可能なレーダ装置による物標検出の信頼性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係わるレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】ECUによって実行される角度ずれ量算出の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【図3】自車両と先行車両との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係わるレーダ装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係わるレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、レーダ装置1は、車両に搭載されるものである。レーダ装置1は、車両の上下左右の方位を検出可能であると共に、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出可能な装置である。
【0014】
レーダ装置1は、レーダ2と、このレーダ2と接続されたECU(ElectronicControl Unit)3とを備えている。
【0015】
レーダ2は、自車両の前部に配置されている。レーダ2は、レーダビームを左右及び上下方向に2次元的に照射し、物標(例えば、他車両、路側物、歩行者等)の表面で反射された反射波を受信して、自車両と物標との距離、自車両に対する物標の方向(角度)及び自車両と物標との相対速度を検出する。物標との距離はレーダビームを照射してから反射波が返ってくるまでの時間を利用して検出し、物標の方向は反射波の角度を利用して検出し、物標との相対速度は反射波の周波数変化(ドップラー効果)を利用して検出する。レーダ2の検出信号はECU3に送出される。なお、レーダ2としては、レーザレーダや電波レーダ等が用いられる。
【0016】
ECU3は、レーダ2から送出された検出信号に基づいて所定の処理を行い、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出する。具体的に、ECU3は、検出信号に基づいて、自車両と同一のレーン上において前方を走行する先行車両(移動物標)を抽出する。そして、ECU3は、抽出した先行車両について自車両に対する距離及び上下左右方向が所定回数検出されたと判断した場合に、先行車両についてレーダ2によって所定回数検出されたデータに基づいて、レーダビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθy(軸ずれ量)を算出する。ECU3によって算出されたレーダビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθyを示すデータは、軸ずれの補正や学習に用いられる。また、ECU3は、例えば角度ずれ量Δθx,Δθyの何れかが所定角度(例えば10°)よりも大きい場合には、その旨を教示手段により運転者に教示させるようにしてもよい。
【0017】
図2は、ECU3によって実行される角度ずれ量算出の処理手順の詳細を示すフローチャートである。
【0018】
図2において、まずレーダ2によってレーダビームが自車両の前方に照射される(手順S01)。次に、照射されたレーダビームの反射波がレーダ2によって受信され、自車両の前方の物標との距離及び物標の上下左右方向が検出される(手順S02)。
【0019】
続いて、照射されたレーダビームの反射波の反射レベルが所定値以上の移動物標(先行車両)が選択される(手順S03)。この所定値は、自車両の正面前方を走行する移動物標から4輪車両以外の移動物標(例えばバイク等)が除外されるように設定されている値である。図3(a)に示すように、例えば自車両M1の前方を走行するバイクBは、自車線(レーン)内の端を走行する場合がある。そのため、バイクBを先行車両として選択するとレーダビームの左右方向を誤学習する可能性があるので、バイクBを先行車両から除外することが好ましい。従って、上記所定値以上の反射レベルを有する移動物標を選択することで、自車両M1の前方正面を走行するバイク以外の先行車両が選択されることになる。
【0020】
次に、自車両M1が走行する自レーン上の先行車両が抽出される(手順S04)。具体的には、自車両M1の進行方向の中心から所定の範囲内に先行車両が存在する割合を統計的に演算することによって、図3(b)に示すように、自車両M1が走行する自レーンと同じレーンを走行する先行車両M2が抽出される。
【0021】
自車両M1が走行する自レーン上の先行車両M2が抽出されると、自車両M1及び先行車両M2が直線(直線路)を走行中であるか否かが判断される(手順S05)。具体的に、自車両M1が直線を走行中であるか否かの判断は、自車両M1に搭載されたセンサから送出されるハンドルの操舵角やヨーレート等の平均値、或いは統計処理結果により判断される。一方、先行車両M2が直線を走行中であるか否かの判断は、自車両M1に搭載された画像センサやレーダ2などにより進行方向前方の道路形状(直線路又はカーブ)が推定されることにより判断される。例えば、図3(c)に示すように、自車両M1及び先行車両M2が同一のレーンを走行している場合であっても、自車両M1が直線を走行しており、先行車両M2がカーブを走行している場合には、先行車両M2の検出データが角度ずれ量Δθx,Δθy算出のための学習データから除外される。自車両M1及び先行車両M2が直線を走行中であると判断された場合には、手順S06に進む。一方、自車両M1及び先行車両M2の何れか一方又は両方が直線を走行中でないと判断された場合には、処理が終了する。
【0022】
手順S06では、先行車両M2の横位置及び高さが所定値内にあるか否かが判断される。具体的には、先行車両M2の自車両M1に対する横位置XがXmax>X>Xminの範囲内にあり、及び先行車両M2の自車両M1に対する高さHがHmax>H>Hminの範囲内にあるか否かが判断される。先行車両M2の横位置XがXmax>X>Xminの範囲内にない場合には、例えば自車両M1の正面からずれている先行車両や隣接レーンを走行する先行車両等であるとして学習データから除外される。また、先行車両M2の高さHがHmax>H>Hminの範囲内にない場合には、例えば高さの大きいトラックや、路面反射などにより見かけ上路面より下から反射してくるように見える、いわゆるゴースト(高さの負が大きい値)等であるとして学習データから除外される。先行車両M2の横位置X及び高さHが所定値内にあると判断された場合には、手順S07に進む。一方、先行車両M2の横位置X及び高さHの何れか一方又は両方が所定値内にないと判断された場合には、処理が終了する。
【0023】
手順S07では、自車両M1と先行車両M2との車間距離が所定の範囲内にあるか否かが判断される。具体的には、自車両M1と先行車両M2との車間距離LがLmax>L>Lminの範囲内にあるか否かが判断される。自車両M1との車間距離Lが近すぎる先行車両M2は、レーダビームの反射位置(ポイント)の上下左右角度の変化が大きいため学習データから除外される。一方、自車両M1との車間距離Lが遠すぎる先行車両M2は、隣接レーンの車両である可能性が高くなると共に、上下左右角度の変化が小さいため学習データから除外される。自車両M1と先行車両M2との車間距離Lが所定の範囲内にあると判断された場合には、手順S08に進む。一方、自車両M1と先行車両M2との車間距離Lが所定の範囲内にないと判断された場合には、処理が終了する。
【0024】
手順S08では、同じ先行車両M2を所定回数以上検出したか否かが判断される。具体的には、トラッキング(追跡)を行うことにより、同じ先行車両M2を所定回数以上検出したか否かが判断される。なお、同じ先行車両M2について検出された検出データは、学習データとしてECU3のメモリ(図示しない)に一時的に記憶される。同じ先行車両M2を所定回数以上検出した場合には、手順S09に進む。一方、同じ先行車両M2を所定回数以上検出していない場合には、処理が終了する。
【0025】
手順S09では、レーザビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθyが算出される。具体的には、同じ先行車両M2について所定回数以上検出されてECU3のメモリに一時的に格納されている学習データについて、平均値処理や統計処理が実施される。そして、その平均値処理や統計処理が実施されたデータが示すレーダビームの上下左右方向の角度と、予め設定されたレーダビームの基準角度との差分が演算されることにより、レーザビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθyが算出される。基準角度は、車両に搭載されるレーダ2毎に予め設定されている角度である。以上のようにして、レーダビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθy(軸ずれ量)が算出される。
【0026】
以上において、レーダ2及びECU3の上記手順S01〜S03は、自車両の前方に向けてレーダビームを照射し、自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向を検出する検出手段を構成する。ECU3の上記手順S04,S05は、自車両及び移動物標が何れも直線路を走行しているか否かを判断する走行路判断手段を構成する。ECU3の上記手順S06,S07は、自車両に対する移動物標の高さ、横位置及び距離が各々所定の範囲内にあるか否かを判断する物標存在範囲判断手段を構成する。ECU3の上記手順S08は、検出手段が同一の移動物標について自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向を所定回数検出したか否かを判断する検出回数判断手段を構成する。ECU3の上記手順S09は、検出回数判断手段によって検出手段が同一の移動物標について自車両に対する移動物標の距離及び上下左右方向を所定回数検出したと判断された場合に、同一の移動物標について所定回数検出されたデータに基づいて、レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出するずれ量算出手段を構成する。
【0027】
以上のように本実施形態のレーダ装置1にあっては、自車両M1の前方に向けてレーダビームを照射することで、自車両M1と同一のレーンの直線路において前方正面を走行する先行車両M2を抽出する。そして、その抽出された先行車両M2について自車両M1に対する先行車両M2の距離及び上下左右方向が所定回数検出されたときに、その検出データに基づいてレーダビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθy(軸ずれ量)を算出する。そのため、例えば自車両M1が先行車両M2に追従して走行することで、自車両M1に対する先行車両M2の距離及び上下左右方向を所定回数検出(長時間観測)し、レーダビームの上下方向及び左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθyを同時に算出することができる。これにより、上下左右の方位を検出可能なレーダ装置1による物標検出の信頼性を維持できる。
【0028】
また、本実施形態のレーダ装置1は、自車両M1に対する先行車両M2の高さH、横位置X及び車間距離Lが各々所定の範囲内にあるか否かを判断する。これにより、バイクBやトラック等が先行車両M2から除外されると共に、先行車両M2におけるレーダビームの反射位置の上下左右角度の適切な変化が得られる。そして、自車両Mに対する先行車両M2の高さH、横位置X及び車間距離Lが各々所定の範囲内にあると判断された場合に、レーダビームの上下左右方向の角度ずれ量Δθx,Δθyを算出するため、角度ずれ量Δθx,Δθyをより精度良く算出することが可能となる。
【0029】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、自車両M1が走行する自レーン上の先行車両M2の抽出方法として、自車両M1の進行方向の中心から所定の範囲内に先行車両M2が存在する割合を統計的に演算しているが、その他の方法によって抽出されてもよい。例えば、先行車両M2の動きからベクトル(相対的ベクトル)を演算し、ベクトルの向きが自車両M1の中心方向へ向かっているか外れているかによって自車両M1が走行する自レーン上の先行車両M2が抽出されてもよい。
【0030】
また、上記実施形態では、自車両M1のヨーレートや先行車両M2が走行する道路形状に基づいて、自車両M1及び先行車両M2が直線を走行中であるか否かの判断を行い、カーブを走行している先行車両M2の検出データを学習データから除外しているが、その他の方法によって検出データが学習データから除外されてもよい。例えば、角度ずれ量Δθx,Δθyを算出するために一時的にECU3のメモリに記憶されている学習データにおいて、自車両M1がカーブを走行していた時間から所定時間遡って先行車両M2の検出データを学習データから除外してもよい。より具体的には、メモリに一時的に記憶されたデータの内、t=T1において自車両M1がカーブを走行していた場合には、t=T1−(L/V)(L:自車両Mと先行車両M2との車間距離、V:そのときの自車両M1の時速)に該当する時間の検出データを統計処理から除外する。
【符号の説明】
【0031】
1…レーダ装置、2…レーダ(検出手段)、3…ECU(検出手段、検出回数判断手段、ずれ量算出手段、物標存在範囲判断手段、走行路判断手段)、Δθx,Δθy…角度ずれ量(軸ずれ量)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方に存在する移動物標の上下左右の方位を検出可能なレーダ装置において、
前記自車両の前方に向けてレーダビームを照射し、前記自車両に対する前記移動物標の距離及び上下左右方向を検出する検出手段と、
前記検出手段が同一の移動物標について前記自車両に対する前記移動物標の距離及び上下左右方向を所定回数検出したか否かを判断する検出回数判断手段と、
前記検出回数判断手段によって前記検出手段が前記同一の移動物標について前記自車両に対する前記移動物標の距離及び上下左右方向を所定回数検出したと判断された場合に、前記同一の移動物標について前記所定回数検出されたデータに基づいて、前記レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出するずれ量算出手段とを備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記自車両に対する前記移動物標の高さ、横位置及び距離が各々所定の範囲内にあるか否かを判断する物標存在範囲判断手段を更に備え、
前記ずれ量算出手段は、前記物標存在範囲判断手段によって前記自車両に対する前記移動物標の高さ、横位置及び距離が各々所定の範囲内にあると判断された場合に、前記レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記自車両及び前記移動物標が何れも直線路を走行しているか否かを判断する走行路判断手段を更に備え、
前記ずれ量算出手段は、前記走行路判断手段によって前記自車両及び前記移動物標が何れも直線路を走行していると判断された場合に、前記レーダビームの上下左右方向の軸ずれ量を算出することを特徴とする請求項1又は2記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−197215(P2010−197215A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42338(P2009−42338)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】