説明

レーダ装置

【課題】アンテナから放射された電磁波ビームの地面反射波の受信を回避しながら、地上高さの低い物体を検知できるレーダ装置を提供すること。
【解決手段】アンテナ11〜13のそれぞれは、扇形の広がりをもつ電磁波ビームB1〜B3を放射し、被検知物3によって反射された電磁波ビームの反射波を受信するものであって、順次に縦積みされて地面4から所定高さh1〜h3にある。地面4からの被検知物3の地上高さをH(m)とし、アンテナ11〜13から被検知物3までの距離をR(m)としたとき、アンテナ11〜13の何れも、自己の放射する電磁波ビームB1〜B3の扇形最下縁が、距離Rの範囲内において、地上高さHを超えず、かつ、受信反射波に地面4で反射された反射波が含まれない仰角θ1〜θ3を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波ビームを放射して被検知物からの反射波を受信し、被検知物までの距離、又は、被検知物の存否を検知するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波帯(30〜300 GHz)の電磁波の開発と利用の動きが急速に活発になってきた。その利用面の一つはセンシングの分野であり、衝突防止用レーダ装置や、ITS(Intelligent Transport Systems :高度道路交通システム)に関連するレーダ装置、移動ロボットの位置計測や制御などのためのレーダ装置、更には鉄道踏切における障害物検知システムにおけるレーダ装置などが知られている。ミリ波を用いたレーダ装置の例としては、特許文献1に開示された測距用レーダ装置や、特許文献2に開示された踏切障害物検知用レーダ装置等が知られている。
【0003】
これらのシステムにおいてミリ波を用いたレーダ装置が有効なのは、ミリ波が、高角度分解能性、機器の小型軽量性、光では透過しない媒質中でも伝搬可能であることなどの特性を有しており、しかも、60GHz付近では酸素分子による吸収があり、少し離れた場所での干渉がなくなり、同一周波数の再利用が可能となる等の利点があるからである。
【0004】
ところが、レーダ装置の検知目標となる被検知物は様々であり、例えば、自動車、自転車、人間、構造物等のように、一般的にその形状のみならず、地上高さも区々に異なる。しかも、レーダ装置からこれらの被検知物までの距離も、様々に異なる。
【0005】
このような状況下で、地上高さの低い物を検知しようとすると、電磁波ビームがアンテナから扇形に広がって放射されるために、地面で反射される反射波が生じ、それがアンテナによって受信されてしまい、誤った検知出力を生じてしまう。このような誤検知を避けようとすると、地上高さの高い物体にあわせなければならず、必然的に低い物体を検知できなくなってしまう。
【特許文献1】特開2007−333539号公報
【特許文献2】特開2005−231461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アンテナから放射された電磁波ビームの地面反射波の受信を回避しながら、地上高さの低い物体を検知できるレーダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係るレーダ装置は、複数のアンテナを含む。前記アンテナのそれぞれは、扇形の広がりをもつ電磁波ビームを放射し、被検知物によって反射された前記電磁波ビームの反射波を受信するものであって、順次に縦積みされて地面から所定高さに位置している。上記構成において、前記地面からの前記被検知物の地上高さをH(m)とし、前記アンテナから前記被検知物までの距離をR(m)としたとき、
前記アンテナの何れも、自己の放射する前記電磁波ビームの扇形最下縁が距離Rの範囲内において地上高さHを超えず、かつ、受信される前記反射波に前記地面で反射された反射波が含まれない仰角を持つ。
【0008】
上述したように、前記アンテナの何れも、自己の放射する前記電磁波ビームの扇形最下縁が、距離Rの範囲内において地上高さHを超えないから、距離Rの範囲内において、地上高さH以上の物体を、確実に検知することができる。即ち、少なくとも、地上高さHを持つ低い物体も確実に検知することができる。距離Rは、当該レーダ装置において、安定的に物体を検知できる最大距離とする。
【0009】
しかも、アンテナの何れも、受信される前記反射波に前記地面で反射された反射波が含まれない仰角を持つから、地面で反射された反射波に起因する誤検知動作を回避することができる。
【0010】
具体的には、複数のアンテナは、縦積みにおいて下側に位置するアンテナほど、前記電磁波ビームの仰角が大きくなっている。こうすることにより、地面における反射を生じ易い下側のアンテナにおいて、地面で反射された反射波に起因する誤検知動作を、確実に回避することができる。
【0011】
本発明に係るレーダ装置において、前記電磁波ビームは、ミリ波であることが好ましい。これにより、ミリ波の利点、即ち、高角度分解能性、機器の小型軽量性、光では透過しない媒質中でも伝搬可能であることなどの特性を有し、しかも少し離れた場所での干渉がなくなり、同一周波数の再利用が可能となる等の利点を有するレーダ装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明によれば、アンテナから放射された電磁波ビームの地面反射波の受信を回避しながら、地上高さの低い物体を検知できるレーダ装置を提供することができる。
【0013】
本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施例によって更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明に係るレーダ装置のアンテナ配置を説明する図である。図示のレーダ装置は、複数nのアンテナ11〜13と、信号処理装置2を含む。アンテナ11〜13は、図示ではn=3個であるが、それ以上の個数であってもよいし、2個であってもよい。アンテナ11〜13のそれぞれは、扇形の広がりをもつ電磁波ビームB1〜B3を放射し、被検知物3によって反射された電磁波ビームB1〜B3の反射波を受信するものであって、順次に縦積みされて地面4から所定高さh1〜h3に位置している。
【0015】
電磁波ビームB1〜B3は、アンテナ11〜13の放射面から前方に向かって、ある立体角で扇状に広がるメインローブを持つ。図では、そのような特性をもつ電磁波ビームB1〜B3において、検知有効領域として、半値角(3.0dB低下点)の領域で区切った電磁波ビームとして示してある。
【0016】
縦積みされたアンテナ11〜13は、地面4を基準にして、最上部に位置するアンテナ11が、高さh1、最下部に位置するアンテナ13が高さh3、中間部に位置するアンテナ12が高さh2の位置にある。アンテナ11〜13は、地面4の上に備えられた固定構造物の上に設置されていてもよいし、或いは、自動車のような移動体の上に搭載されたものであってもよい。
【0017】
アンテナ11〜13としては、種々のタイプのものが提案されている。そのうちでも、多数のアンテナ素子を整列したスロット・アレイ・アンテナと称されるものが、好適である。
【0018】
被検知物3は、移動する物体であってもよいし、或いは固定された反射体であってもよい。移動する物体は、例えば、自動車、自転車、人間、移動構造物等である。反射体は、例えば鉄道踏切における障害物検知装置を構成する場合に、アンテナ11〜13の電磁波放射を監視するモニタとして用いられることもある。
【0019】
信号処理部2は、アンテナ11〜13から供給される信号を解読し、被検知物体3の距離、存在などを算出し、出力する。
【0020】
上記構成において、地面4からの被検知物3の地上高さをH(m)とし、アンテナ11〜13から被検知物3までの距離をR(m)としたとき、アンテナ11〜13の何れも、自己の放射する電磁波ビームB1〜B3の扇形最下縁が、距離Rの範囲内において地上高さHを超えず、かつ、受信反射波に地面4で反射された反射波が含まれない仰角θ1〜θ3を持つ。距離Rは、当該レーダ装置において、安定的に物体を検知できる最大距離である。
【0021】
上述したように、アンテナ11〜13の何れも、自己の放射する電磁波ビームB1〜B3の扇形最下縁が、距離Rの範囲内において地上高さHを超えないから、距離Rの範囲内において、地上高さH以上の物体を、確実に検知することができる。即ち、少なくとも、地上高さHを持つ低い被検知物3を、確実に検知することができる。
【0022】
しかも、アンテナ11〜13の何れも、受信反射波に地面4で反射された反射波が含まれない仰角θ1〜θ3を持つから、地面4で反射された反射波に起因する誤検知を回避することができる。
【0023】
具体的には、複数のアンテナ11〜13は、縦積みにおいて下側に位置するアンテナ11〜13ほど、電磁波ビームB1〜B3の仰角が大きくなっている。即ち、θ1<θ2<θ3である。こうすることにより、地面4からの反射波を受信し易い下側のアンテナ11〜13において、地面4で反射された反射波に起因する誤検知動作を、確実に回避することができる。
【0024】
具体例として、R=25m、H=0.60mとした場合、
θ1=0.0°
θ2=0.344°
θ3=0.688°
のように設定する。図示実施例では、最上部に位置するアンテナ11の高さh1(ビーム放射中心位置で見た高さ)を、被検知物3の地上高さHに一致させてあり、中間部のアンテナ12の高さh2、最下部のアンテナ13の高さh3となっているので、
θ1=Tan(H-h1)/R=0.0°
θ2=Tan(H-h2)/R=0.344°
θ3=Tan(H-h3)/R=0.688°
となる。
【0025】
このような距離R、高さH、h1〜h3及び仰角θ1〜θ3の関係は、踏切障害物検知システムにおいて有用である。アンテナ11〜13から放射された電磁波ビームB1〜B3の地面反射波受信を回避しながら、地上高さH0.6mの低い踏切障害物(被検知物3)を検知することができるからである。もっとも、距離R、高さH、h1〜h3及び仰角θ1〜θ3は、レーダシステムの用途に応じて変化するものであり、固定された値ではない。
【0026】
本発明に係るレーダ装置において、電磁波ビームB1〜B3は、ミリ波であることが好ましい。これにより、ミリ波の利点、即ち、高角度分解能性、機器の小型軽量性、光では透過しない媒質中でも伝搬可能であることなどの特性を有するレーダ装置を実現することができる。また、電磁波ビームB1〜B3として、60GHz付近のミリ波を用いた場合には、60GHz付近では酸素分子による吸収があり、少し離れた場所での干渉がなくなり、同一周波数の再利用が可能となる。
【0027】
以上、実施の形態を参照して説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々の変形、変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るレーダ装置のアンテナ配置を説明する図である。
【符号の説明】
【0029】
11〜13 アンテナ
2 信号処理部
3 被検知物
4 地面
B1〜B3 電磁波ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを含むレーダ装置であって、
前記アンテナのそれぞれは、扇形の広がりをもつ電磁波ビームを放射し、被検知物によって反射された前記電磁波ビームの反射波を受信するものであって、順次に縦積みされて地面から所定高さにあり、
前記地面からの前記被検知物の地上高さをH(m)とし、前記アンテナから前記被検知物までの距離をR(m)としたとき、
前記アンテナの何れも、自己の放射する前記電磁波ビームの扇形最下縁が、距離Rの範囲内において、地上高さHを超えず、かつ、受信される前記反射波に前記地面で反射された反射波が含まれない仰角を持つ、
レーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたレーダ装置であって、前記複数のアンテナは、縦積みにおいて下側に位置するアンテナほど、前記電磁波ビームの仰角が大きくなっている、レーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたレーダ装置であって、前記複数のアンテナのうち、縦積みにおいて最上部にあるアンテナは、自己の放射する前記電磁波ビームの扇形最下縁が、地上高さHに一致する、レーダ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載されたレーダ装置であって、前記電磁波ビームは、ミリ波である、レーダ装置。

【図1】
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