説明

レーダ装置

【課題】簡単な構成でデジタル変換前に雑音信号を除去して対象物を高精度に検出できるレーダ装置を提供する。
【解決手段】送信RF部110では、第1スイッチ111の動作により発生する雑音信号が信号遅延器142を通過するように信号切替スイッチ141を切り替える。また、第2スイッチ112の動作により発生する雑音信号が信号遅延器143を通過するように信号切替スイッチ141を切り替える。さらに、第1スイッチ111及び第2スイッチ112が同時に動作したときのベースバンドパルス信号が信号遅延器144を通過するように信号切替スイッチ141を切り替える。信号合成器145では、パルス信号に混入している雑音信号がキャンセルするように合成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑音信号を低減してごく近距離までの対象物の検出が可能なレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、所定の送信信号を電波としてアンテナから放射し、これが対象物で反射された反射波をアンテナで受信し、この受信信号を処理して対象物までの距離及び/または対象物の相対速度及び/または対象物の方位角、といった対象物の情報を検出するものである。アンテナから放射された電波は、対象物で反射されて再びアンテナで受信されるまでの間にその強度が低下するため、受信信号の強度は送信信号に比べて小さくなる。特に、電波の反射率が小さい対象物をより遠方で検出できるようにするためには、強度の小さい受信信号まで処理できるようにする必要がある。
【0003】
ところで、レーダ装置では、送信信号を生成してアンテナから放射するための送信側の信号処理や、受信信号から対象物の情報が得られるようにするための受信側の信号処理が行われるが、これらの信号処理に伴ってレーダ装置内では各種の雑音信号が発生する。特に、移動体等に取り付けられるレーダ装置では、小型化の要請から送信側の信号処理を行う送信回路と受信側の信号処理を行う受信回路とが近接して配置されるため、送信回路と受信回路との間で電磁結合が生じて雑音信号が伝播するおそれがある。また、複数のユニットを多端子のコネクタで接続してレーダ装置を構成する場合には、コネクタ部で各種信号を導通させる線路(端子)が近接するため、線路間で電磁結合が生じて雑音信号の影響が顕著になることがある。
【0004】
レーダ装置では、高周波信号を処理する送信回路及び受信回路が高周波用基板に搭載され、高周波回路でダウンコンバートされたベースバンド信号を信号処理する信号処理部と送信回路及び受信回路を制御する制御部とが低周波用基板に搭載されており、高周波用基板と低周波用基板とがコネクタで接続されている。このような構成の場合、ベースバンド信号の伝送線路と制御信号の伝送線路とがコネクタ内で電磁結合し、ベースバンド信号に雑音信号が混入するおそれがある。
【0005】
高周波信号を処理する送信回路及び受信回路と、高周波回路でダウンコンバートされたベースバンド信号を信号処理する信号処理部とが、同じ基板に搭載される場合もある。このような構成の場合にも、ベースバンド信号の伝送線路と制御信号の伝送線路とが接近することで電磁結合し、ベースバンド信号に雑音信号が混入するおそれがある。
【0006】
このように、様々な要因でレーダ装置内に雑音信号が発生する可能性があり、このような雑音信号が受信信号に混入するおそれがある。受信信号に雑音信号が混入すると、電波を反射させる対象物が無いにもかかわらず信号が検出され、その結果対象物を誤検出してしまう、といった問題がある。また、雑音信号によって増幅器や信号処理部が飽和するおそれがあり、その場合には受信信号の強度が正しく処理できず、対象物の情報を誤検出してしまうといった問題が生じる。
【0007】
このような雑音信号を除去する従来の技術として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の通信処理装置では、受信信号を復調したビート信号をAD変換し、これを高速フーリエ変換した信号からノイズ成分相当の信号を取り出して逆フーリエ変換し、これをメモリに記憶させている。そして、受信信号を復調したビート信号に対し、これをAD変換したのちメモリに記憶している信号を減算してノイズ成分を除去している。
【0008】
また、雑音信号を除去する別の従来技術として、特許文献2では、アンテナから送信波を送信するための送信信号を生成するとともに、アンテナで受信した受信波から受信信号を生成する送受信信号生成部と、送受信信号生成部と同一構成のノイズ生成部を設けて受信信号と逆相の雑音信号を生成し、この逆相の雑音信号を送受信信号生成部で生成した受信信号に加算することで、雑音信号が除去された受信信号を生成するレーダ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−139847号公報
【特許文献2】特開2008−209225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の通信処理装置では、高速フーリエ変換した信号からノイズ成分相当の信号を取り出して逆フーリエ変換し、これをメモリに記憶させるための処理に時間がかかり、高コストになるといった問題がある。また、AD変換する前の信号には雑音信号が含まれていることから、この雑音信号によって増幅器や信号処理部が飽和してしまうといった問題もある。
【0011】
さらに、特許文献2に記載のレーダ装置では、ノイズ信号を生成するために、受信信号を生成する送受信信号生成部とは別に、同じ構造のノイズ生成部を設ける必要があり、装置が大型化・複雑化して高コストになるといった問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でデジタル変換前に雑音信号を除去して対象物を高精度に検出できるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明のレーダ装置の第1の態様は、所定周波数の発信信号を生成する発振器と、前記発信信号をパルス状に切り出す第1スイッチと、前記第1スイッチで切り出された信号をさらに切り出して高周波(RF)パルス信号を生成する第2スイッチと、前記第2スイッチから前記RFパルス信号を入力して電波として空間に放射するとともに前記電波が対象物で反射された反射波を受信するアンテナと、前記アンテナから受信信号を入力してベースバンド信号にダウンコンバートするダウンコンバート部と、前記ダウンコンバート部から前記ベースバンド信号を入力して雑音信号を低減した低雑音ベースバンド信号を出力する雑音信号処理部と、前記雑音信号処理部から前記低雑音ベースバンド信号を入力して前記対象物までの距離及び/または前記対象物の相対速度及び/または前記対象物の方位角を演算する対象物情報演算部と、を備え、前記第1スイッチと前記第2スイッチは、略同時にオン状態となって前記RFパルス信号を生成し、前記雑音信号処理部は、前記第1スイッチと前記第2スイッチの少なくともいずれか一方が単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記ベースバンド信号とを、それぞれ異なる遅延時間で遅延させて前記ベースバンド信号から前記雑音信号を除去して前記低雑音ベースバンド信号を出力することを特徴する。
【0014】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記雑音信号処理部は、通過する信号にそれぞれ異なる所定の遅延時間だけ遅延させる3つの信号遅延器と、前記ダウンコンバート部から入力した前記ベースバンド信号を前記3つの信号遅延器のいずれかを選択して通過させる信号切替スイッチと、前記3つの信号遅延器を通過した信号を合成する信号合成器と、を有し、前記信号切替スイッチは、前記第1スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記第2スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記ベースバンド信号とを、前記3つの信号遅延器のそれぞれを選択して通過させ、前記3つの信号遅延器のそれぞれの遅延時間は、前記第1スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記第2スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記ベースバンド受信信号とが所定のタイミングで前記信号合成器に入力されるように調整されており、前記信号合成器は、前記ベースバンド受信信号から前記2つの雑音信号を減算することを特徴とする。
【0015】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記信号遅延器を通過させる前記雑音信号は、前記第1スイッチと前記第2スイッチが略同時にオン状態になった時点の直前に前記第1スイッチ及び前記第2スイッチがそれぞれ単独でオン状態になったときの雑音信号であることを特徴とする。
【0016】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記雑音信号処理部は、前記ダウンコンバート部から入力した前記ベースバンド信号を2つの信号に分配する信号分配器と、前記信号分配器から出力される前記2つの信号のそれぞれを通過させて異なる所定の遅延時間だけ遅延させる2つの信号遅延器と、前記2つの信号遅延器を通過した信号を合成する信号合成器と、前記信号合成器からの信号を入力して前記低雑音ベースバンド信号の帯域を通過させる高域通過フィルタと、を有し、前記第1、第2スイッチの一方は、前記RFパルス信号の繰返し周期の1/2周期だけオン状態となり続く1/2周期だけオフ状態となる周期を繰り返す一方、前記第1、第2スイッチの他方は、前記繰返し周期の1/2の周期で前記RFパルス信号と略等しい時間幅だけオン状態となり、前記2つの信号遅延器は、前記信号分配器で分配された2つの信号のそれぞれを通過させてそれぞれの遅延時間の差が前記繰返し周期の1/2に等しくなるように調整されており、前記信号合成器は、前記2つの信号遅延器の一方を通過した信号から他方を通過した信号を減算させることを特徴とする。
【0017】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記発振器と、前記第1スイッチと、前記第2スイッチと、前記アンテナと、前記ダウンコンバート部と、前記雑音信号処理部と、が高周波用基板上に配置され、前記対象物情報演算部が低周波用基板に配置されていることを特徴とする。
【0018】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記発振器と、前記第1スイッチと、前記第2スイッチと、前記アンテナと、前記ダウンコンバート部と、が高周波用基板上に配置され、前記対象物情報演算部と、前記雑音信号処理部と、が低周波用基板に配置されていることを特徴とする。
【0019】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記発振器と、前記第1スイッチと、前記第2スイッチと、前記アンテナと、前記ダウンコンバート部と、が高周波用基板上に配置され、前記対象物情報演算部と、前記雑音信号処理部と、前記信号切替スイッチを制御する制御部と、が低周波用基板に配置されていることを特徴とする。
【0020】
本発明のレーダ装置の他の態様は、前記RFパルス信号のパルス幅が0.1乃至10ナノ秒であり、前記RFパルス信号のオン・オフ比時間率が1パーセント以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡単な構成でデジタル変換前に雑音信号を除去して対象物を高精度に検出できるレーダ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態における第1スイッチ及び第2スイッチの動作を説明する図である。
【図3】第1実施形態における第1スイッチ及び第2スイッチの動作により発生する雑音信号を模式的に示す図である。
【図4】第1実施形態の雑音信号処理部での処理を説明する図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図7】第3実施形態における第1スイッチ及び第2スイッチの動作を説明する図である。
【図8】第3実施形態における第1スイッチ及び第2スイッチの動作により発生する雑音信号を模式的に示す図である。
【図9】第3実施形態の雑音信号処理部での処理を説明する図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施の形態におけるレーダ装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施の形態に係るレーダ装置を、図1を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態のレーダ装置100の構成を示すブロック図である。本実施形態のレーダ装置100は、送信アンテナ101、受信アンテナ102、高周波部(RF部)103、及び信号処理部104で構成される。また、RF部103は、送信RF部110と受信RF部120と局部発振器130とを有している。局部発振器130は、所定の周波数の発振信号を出力する。
【0025】
送信RF部110は、第1スイッチ(SW1)111、第2スイッチ(SW2)112、及び増幅器113を有している。送信RF部110では、局部発振器130から発振信号が入力され、これから第1スイッチ111及び第2スイッチ112で切り出されたRFパルス信号が生成される。このRFパルス信号は、増幅器113で必要な強度まで増幅される。なお、第2スイッチから出力されるRFパルス信号が十分な強度を有しているときは、増幅器113を省略することができる。また、送信RF部110の構成上、増幅器113は第1スイッチ111、第2スイッチの間に設置しても、局部発振器130、第一スイッチ111の間に設置しても良い。増幅されたRFパルス信号が送信アンテナ101に伝送され、電波として空間に放射される。
【0026】
送信アンテナ101から放射された電波は、対象物で反射されて受信アンテナ102で受信され、受信アンテナ102から受信RF部120に伝送される。なお、送信アンテナ101及び受信アンテナ102を1つのアンテナとし、これを送信時と受信時で切り替えて用いるようにしてもよい。受信RF部120は、増幅器121、122、ミキサ123、及び雑音信号処理部140を有している。受信RF部120では、受信されたRFパルス信号が増幅器121、122で適切な強度まで増幅されてミキサ123に入力される。なお、増幅器121、122は、必ずしも2段に限定されず、受信されるRFパルス信号の強度によって必要な個数を決定すればよく、十分な強度が得られる場合にはこれを省略してもよい。
【0027】
ミキサ123では、受信されたRFパルス信号を局部発振器130から入力した発振信号とミキシングすることで、ベースバンドパルス信号に変換する。なお、ベースバンドパルス信号への変換を行うダウンコンバート部として、ミキサ123に代えて包絡線検波器などを用いてもよい。ミキサ123でダウンコンバートされたベースバンドパルス信号は、雑音信号処理部140を経由して信号処理部104に入力される。
【0028】
信号処理部104は、制御部151と対象物情報演算部152を有している。受信RF部120の雑音信号処理部140から入力するベースバンドパルス信号は、対象物情報演算部152に入力され、ここでデジタル信号に変換される。そして、デジタル信号に対し所定のデジタル演算処理を行うことで、目標物までの距離、相対速度、方位角等の情報を算出する。
【0029】
図1に示す構成の本実施形態のレーダ装置100は、1枚の基板上に搭載することが可能である。あるいは、RF部103を高周波用基板上に配置し、信号処理部104を低周波用基板に配置するように構成してもよい。
【0030】
本実施形態では、第1スイッチ111と第2スイッチ112がほぼ同時にオンになったときに送信RF部110からRFパルス信号が出力されるように構成されており、いずれか一方だけがオンになってもRFパルス信号は出力されない。このような構成とすることで、送信RF部110からRFパルス信号が出力されないときに、受信RF部120が、受信アンテナ102から受信信号を入力することなく、第1スイッチ111及び第2スイッチ112のいずれか一方をオンにしたときの雑音信号だけを取り込む(混入させる)ことができる。本実施形態では、この雑音信号を用いて受信アンテナ102から受信信号を入力したときの第1スイッチ111及び第2スイッチ112からの雑音信号をキャンセルさせるようにしている。
【0031】
送信RF部110において、第1スイッチ111、第2スイッチ112を用いて送信用のRFパルス信号を生成する方法を図2を用いて説明する。図2は、本実施形態のレーダ装置100の第1スイッチ111及び第2スイッチ112の動作を説明する図である。横軸を時間として、(a)、(b)にそれぞれ第1スイッチ111、第2スイッチ112のオン/オフ状態を示し、(c)に生成されるRFパルス信号を示している。同図に示すように、第1スイッチ111は、パルス11a、パルス11bで示すタイミングでオンとなり、第2スイッチ112は、パルス12a、パルス12bで示すタイミングでオンとなる。
【0032】
図2(a)では、パルス11aとパルス11bとを一組とするパルス列11が所定の周期T1で繰返しており、図2(b)では、パルス12aとパルス12bとを一組とするパルス列12が周期T1で繰返している。そして、パルス11aとパルス12bのタイミングがほぼ一致するように、パルス列11とパルス列12のタイミングが調整されている。第1スイッチ111と第2スイッチ112は、図1に示すように直列に接続されていることから、両者が略同時にオンになるパルス11aとパルス12bのタイミングのときに、図2(c)に示すRFパルス信号13が第2スイッチ112から出力される。RFパルス信号13も、周期T1で出力される。RFパルス信号13のパルス幅は、0.1乃至10ナノ秒であり、RFパルス信号13のオン・オフ比時間率は1パーセント以下である。
【0033】
なお、図2では、パルス列11、12がそれぞれ2つのパルスからなるとしているが、これに限定されず、それぞれのパルス列11、12が2以上のパルスを有しており、そのうちのいずれか1つずつが略同時に出力されていればよい。また、パルス11aと11bの間隔と、パルス12aと12bの間隔とが必ずしも一致している必要はない。
【0034】
第1スイッチ111及び第2スイッチ112を動作させることにより、レーダ装置100内に雑音信号が発生し、これが受信RF部120に伝播してベースバンドパルス信号に影響する。送信アンテナ101からRFパルス信号が送信されるのは第1スイッチ111と第2スイッチ112とが同時にオンに制御されたときであるが、いずれか一方だけが動作したときでも、発生する雑音信号が受信RF部120に伝播してしまう。例えば、第1スイッチ111がオフで第2スイッチ112のみがオンに動作したときでも、第2スイッチ112の動作により発生した雑音信号が、第1スイッチ111での電磁結合によりこれを通過して受信RF部120に伝播する。
【0035】
また、別の雑音源として、第1スイッチ111及び第2スイッチ112を動作させるための制御信号によるものがある。第1スイッチ111及び第2スイッチ112を動作させるための制御信号は、図1に示す制御部151からRF部103内の送信RF部110に出力される。この制御信号の出力により、レーダ装置100内で雑音信号が発生し、この雑音信号が対象物情報演算部152に出力されるベースバンドパルス信号に影響を与えてしまう。RF部103と信号処理部104とは、図示しない所定の接続手段(例えば多ピンのコネクタ)を用いて接続されていることから、特にこの接続手段において上記の雑音信号がベースバンドパルス信号に混入するおそれがある。
【0036】
すなわち、第1スイッチ111及び第2スイッチ112に出力される制御信号は、この接続手段を経由して制御部151から送信RF部110に出力される。一方、受信RF部120から対象物情報演算部152に出力されるベースバンドパルス信号も、上記の接続手段を経由して伝送される。そのため、制御信号を伝送する制御用伝送線路とベースバンドパルス信号を伝送する信号用伝送線路とが近接し、制御用伝送線路を伝送する制御信号が信号用伝送線路と電磁結合して混入し、上記の雑音信号となる。
【0037】
第1スイッチ111及び第2スイッチ112の動作により発生する雑音信号を、模式的に図3に示す。図3において、(a)、(b)、(c)はそれぞれ、第1スイッチ111の動作による雑音信号21、第2スイッチ111の動作による雑音信号22、及びミキサ123でダウンコンバートされたベースバンドパルス信号23を示している。ベースバンドパルス信号23には、RFパルス信号13の反射波から得られるパルス信号23a以外に、第1スイッチ111及び第2スイッチ112の動作による雑音信号21a、22bも混入している。
【0038】
本実施形態のレーダ装置100では、上記のような第1スイッチ111と第2スイッチ112の動作に伴って発生する雑音信号を除去するために、図1に示す雑音信号処理部140を設けている。雑音信号処理部140は、信号切替スイッチ141、信号遅延器142、143、144、及び信号合成器145を有している。信号遅延器142、143、144は、信号切替スイッチ141から入力される信号を、それぞれ遅延時間τ1、τ2、τ3だけ遅延させて信号合成器145に入力する。
【0039】
送信RF部110では、送信アンテナ101から送信するRFパルス信号13を生成するタイミング以外に、第1スイッチ111を図2に示す11bのタイミングでも動作させ、第2スイッチ112を12aのタイミングでも動作させている。そこで、11bのタイミングで第1スイッチ111の動作により発生する雑音信号21bが信号遅延器142を通過するように信号切替スイッチ141を切り替える。また、12aのタイミングで第2スイッチ112の動作により発生する雑音信号22aが信号遅延器143を通過するように信号切替スイッチ141を切り替える。
【0040】
さらに、第1スイッチ111及び第2スイッチ112が同時に動作したときの受信信号から得られるベースバンドパルス信号23が信号遅延器144を通過するように信号切替スイッチ141を切り替える。信号切替スイッチ141の切り替えは、制御部151から制御信号を出力して行わせるようにすることができるが、この制御信号が別の雑音源となる可能性がある。その場合には、第1スイッチ111及び第2スイッチ112を動作させるための制御信号を分岐して用いることができる。
【0041】
雑音信号21、22、及びベースバンドパルス信号23が、信号遅延器142、143、144を通過して信号合成器145で処理される方法を、図4を用いて説明する。ベースバンドパルス信号23には雑音信号21、22が混入しており、特にパルス信号23aに雑音信号21aと22bが混入している。信号合成器145において、信号遅延器144を通過したベースバンドパルス信号23のパルス信号23aに混入している雑音信号21a、22bが、信号遅延器142を通過した雑音信号21b、及び信号遅延器143を通過した雑音信号22aとそれぞれ同じタイミングとなるように、遅延時間τ1、τ2、及びτ3が調整されている。そして、信号合成器145では、パルス信号23aに混入している雑音信号21a、22bがそれぞれ雑音信号21b、22aとキャンセルするように合成される。これにより、信号合成器145からパルス信号23aのみが出力される。
【0042】
上記説明のように、本実施形態のレーダ装置100では、RF部103内で発生する雑音信号を、雑音信号処理部140で除去できるように構成されており、簡単な構成でデジタル変換前に雑音信号を除去して対象物を高精度に検出することが可能となる。
【0043】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置を、図5を用いて以下に説明する。図5は、本実施形態のレーダ装置200の構成を示すブロック図である。本実施形態のレーダ装置200は、第1の実施形態の雑音信号処理部140と同様の構成の雑音信号処理部240が、信号処理部204に設けられている。このように、雑音信号処理部240を信号処理部204に設けることにより、信号切替スイッチ141の切り替え行うための制御信号が、ベースバンドパルス信号への雑音源となるのを防止することができる。すなわち、信号切替スイッチ141の切り替え行うための制御信号を、ベースバンドパルス信号への雑音源とならないように制御部151から出力させるのが容易となる。本実施形態によれば、さらに簡単な構成で雑音信号を除去して対象物を高精度に検出することが可能となる。
【0044】
本実施形態では、図5に示す構成の本実施形態のレーダ装置200を1枚の基板上に搭載することができ、あるいはRF部103を高周波用基板上に配置し、雑音信号処理部240を有する信号処理部204を低周波用基板に配置するように構成してもよい。
【0045】
(第3実施形態)
本発明の第3の実施の形態に係るレーダ装置を、図6を用いて以下に説明する。図6は、本実施形態のレーダ装置300の構成を示すブロック図である。本実施形態のレーダ装置300では、RF部303内のRF受信部320に設けられている雑音信号処理部340の構成が、第1実施形態のレーダ装置100の雑音信号処理部140と異なっている。本実施形態の雑音信号処理部340は、信号分配器341、信号遅延器342、343、信号合成器344、及び高域通過フィルタ345を有している。本実施形態では、雑音信号処理部340の各構成部を動作させるための制御信号が不要となり、新たな雑音源を取り込むことなく、簡単な構成で雑音信号を除去することが可能となっている。
【0046】
本実施形態では、図6に示す構成の本実施形態のレーダ装置300を1枚の基板上に搭載することができ、あるいは雑音信号処理部340を有するRF部303を高周波用基板上に配置し、信号処理部104を低周波用基板に配置するように構成してもよい。
【0047】
本実施形態における第1スイッチ311及び第2スイッチ312の動作を、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態のレーダ装置300における第1スイッチ311及び第2スイッチ312の動作を説明する図である。横軸を時間として、(a)、(b)にそれぞれ第1スイッチ311、第2スイッチ312のオン/オフ状態を示し、(c)に生成されるRFパルス信号を示している。第1スイッチ311は、同図(a)に示すように、繰返し信号31に従ってオン/オフを繰り返す動作をする。繰り返し信号31は、送信用のRFパルス信号33が出力されるのと同じ周期T1を有している。これに対し、第2スイッチ312は、周期T1の半分の周期T2(=T1/2)で生成されるパルス32のタイミングだけオンとなる。
【0048】
同図(c)に示す送信用のRFパルス信号33は、第1スイッチ311と第2スイッチ312がともにオンになるタイミングだけ出力される。また、RFパルス信号33が出力されないタイミングでも、第1スイッチ311のみがオンとなるタイミング、あるいは第2スイッチ312のみがオンになるタイミングがある。このように、第1スイッチ311及び第2スイッチ312がオンになることにより、図8に示すような雑音信号が発生する。図8において、(a)、(b)、(c)はそれぞれ、第1スイッチ311の動作による雑音信号41、第2スイッチ312の動作による雑音信号42、及びミキサ123でダウンコンバートされたベースバンドパルス信号43を示している。
【0049】
第1スイッチ311の動作による雑音信号41は、低周波成分が主体であるのに対し、第2スイッチ312の動作による雑音信号42は、パルス32に対応して高周波成分が主体となっている。ベースバンドパルス信号43には、RFパルス信号33の反射波から得られるパルス信号43a以外に、第1スイッチ311及び第2スイッチ312の動作による雑音信号41、42も混入している。
【0050】
本実施形態のレーダ装置300では、上記のような第1スイッチ311と第2スイッチ312の動作に伴って発生する雑音信号を除去するために、図6に示す雑音信号処理部340が設けられている。ミキサ123でダウンコンバートされたベースバンドパルス信号は、信号分配器341で分配され、それぞれ信号遅延器342、343を通過して信号合成器344に入力される。信号遅延器342、343では、信号分配器341から入力される信号を、それぞれ遅延時間τa、τbだけ遅延させて信号合成器344に入力する。信号合成器344で合成された信号は、さらに高域通過フィルタ345を経由して対象物情報演算部152に入力される。
【0051】
雑音信号処理部340における信号処理方法を、図9を用いて以下に説明する。信号遅延器342の遅延時間τaと信号遅延器343の遅延時間τbは、その差がRFパルス信号33の繰返し周期T1の1/2となるように調整されている。信号合成器344では、ベースバンドパルス信号43が信号遅延器342を通過した第1の信号44と、信号遅延器343を通過した第2の信号45との差を演算する。すなわち、第1の信号44から第2の信号45を減算する。このように信号合成器344で演算された信号は、第2スイッチ312の動作に起因する雑音信号42が除去された信号となる。この信号を高域通過フィルタ345に入力して通過させることで、第1スイッチ111の動作に起因する低周波成分が主体の雑音信号41が除去される。これにより、対象物で反射された受信信号とその反転信号からなる信号46が信号処理部104に出力される。信号46のうち非反転信号のみを用いることで、対象物で反射された受信信号を得ることができる。なお、反転信号をデジタル変換後に反転するなどにより、非反転信号、反転信号ともに受信信号としても良い。
【0052】
上記説明のように、本実施形態のレーダ装置300では、RF部303内で発生する雑音信号を、雑音信号処理部340で除去できるように構成されており、簡単な構成でデジタル変換前に雑音信号を除去して対象物を高精度に検出することが可能となる。また、本実施形態では、雑音信号処理部340が制御信号を不要とする構成となっていることから、第1実施形態よりさらに簡単な構成で雑音信号を除去することが可能となっている。
【0053】
(第4実施形態)
本発明の第4の実施の形態に係るレーダ装置を、図10を用いて以下に説明する。図10は、本実施形態のレーダ装置400の構成を示すブロック図である。本実施形態のレーダ装置400は、第3の実施形態の雑音信号処理部340と同様の構成の雑音信号処理部440が、信号処理部404に設けられている。このように、雑音信号処理部440を信号処理部404に設けることも可能であり、第3実施形態のレーダ装置300と同様に、簡単な構成でデジタル変換前に雑音信号を除去して対象物を高精度に検出することが可能となる。
【0054】
本実施形態では、図10に示す構成の本実施形態のレーダ装置400を1枚の基板上に搭載することができ、あるいはRF部303を高周波用基板上に配置し、雑音信号処理部440を有する信号処理部404を低周波用基板に配置するように構成してもよい。
【0055】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るレーダ装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるレーダ装置の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0056】
100 レーダ装置
101 送信アンテナ
102 受信アンテナ
103、303 高周波部(RF部)
104、204 信号処理部
110、310 送信RF部
111、311 第1スイッチ
112、312 第2スイッチ
113、121、122 増幅器
120,320 受信RF部
123 ミキサ
130 局部発振器
140、240、340、440 雑音信号処理部
141 信号切替スイッチ
142、143、144、342、343 信号遅延器
145、344 信号合成器
151 制御部
152 対象物情報演算部
341 信号分配器
345 高域通過フィルタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の発信信号を生成する発振器と、
前記発信信号をパルス状に切り出す第1スイッチと、
前記第1スイッチで切り出された信号をさらに切り出して高周波(RF)パルス信号を生成する第2スイッチと、
前記第2スイッチから前記RFパルス信号を入力して電波として空間に放射するとともに前記電波が対象物で反射された反射波を受信するアンテナと、
前記アンテナから受信信号を入力してベースバンド信号にダウンコンバートするダウンコンバート部と、
前記ダウンコンバート部から前記ベースバンド信号を入力して雑音信号を低減した低雑音ベースバンド信号を出力する雑音信号処理部と、
前記雑音信号処理部から前記低雑音ベースバンド信号を入力して前記対象物までの距離及び/または前記対象物の相対速度及び/または前記対象物の方位角を演算する対象物情報演算部と、を備え、
前記第1スイッチと前記第2スイッチは、略同時にオン状態となって前記RFパルス信号を生成し、
前記雑音信号処理部は、
前記第1スイッチと前記第2スイッチの少なくともいずれか一方が単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記ベースバンド信号とを、それぞれ異なる遅延時間で遅延させて前記ベースバンド受信信号から前記雑音信号を除去して前記低雑音ベースバンド信号を出力する
ことを特徴するレーダ装置。
【請求項2】
前記雑音信号処理部は、
通過する信号にそれぞれ異なる所定の遅延時間だけ遅延させる3つの信号遅延器と、前記ダウンコンバート部から入力した前記ベースバンド信号を前記3つの信号遅延器のいずれかを選択して通過させる信号切替スイッチと、前記3つの信号遅延器を通過した信号を合成する信号合成器と、を有し、
前記信号切替スイッチは、前記第1スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記第2スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記ベースバンド信号とを、前記3つの信号遅延器のそれぞれを選択して通過させ、
前記3つの信号遅延器のそれぞれの遅延時間は、前記第1スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記第2スイッチが単独でオン状態となったときの雑音信号と、前記ベースバンド受信信号とが所定のタイミングで前記信号合成器に入力されるように調整されており、
前記信号合成器は、前記ベースバンド受信信号から前記2つの雑音信号を減算する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記信号遅延器を通過させる前記雑音信号は、前記第1スイッチと前記第2スイッチが略同時にオン状態になった時点の直前に前記第1スイッチ及び前記第2スイッチがそれぞれ単独でオン状態になったときの雑音信号である
ことを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記雑音信号処理部は、
前記ダウンコンバート部から入力した前記ベースバンド信号を2つの信号に分配する信号分配器と、前記信号分配器から出力される前記2つの信号のそれぞれを通過させて異なる所定の遅延時間だけ遅延させる2つの信号遅延器と、前記2つの信号遅延器を通過した信号を合成する信号合成器と、前記信号合成器からの信号を入力して前記低雑音ベースバンドパルス信号の帯域を通過させる高域通過フィルタと、を有し、
前記第1、第2スイッチの一方は、前記RFパルス信号の繰返し周期の1/2周期だけオン状態となり続く1/2周期だけオフ状態となる周期を繰り返す一方、前記第1、第2スイッチの他方は、前記繰返し周期の1/2の周期で前記RFパルス信号と略等しい時間幅だけオン状態となり、
前記2つの信号遅延器は、前記信号分配器で分配された2つの信号のそれぞれを通過させてそれぞれの遅延時間の差が前記繰返し周期の1/2に等しくなるように調整されており、
前記信号合成器は、前記2つの信号遅延器の一方を通過した信号から他方を通過した信号を減算させる
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記発振器と、前記第1スイッチと、前記第2スイッチと、前記アンテナと、前記ダウンコンバート部と、前記雑音信号処理部と、が高周波用基板上に配置され、前記対象物情報演算部が低周波用基板に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記発振器と、前記第1スイッチと、前記第2スイッチと、前記アンテナと、前記ダウンコンバート部と、が高周波用基板上に配置され、前記対象物情報演算部と、前記雑音信号処理部と、が低周波用基板に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記発振器と、前記第1スイッチと、前記第2スイッチと、前記アンテナと、前記ダウンコンバート部と、が高周波用基板上に配置され、前記対象物情報演算部と、前記雑音信号処理部と、前記信号切替スイッチを制御する制御部と、が低周波用基板に配置されている
ことを特徴とする請求項2または3に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記RFパルス信号のパルス幅が0.1乃至10ナノ秒であり、前記RFパルス信号のオン・オフ比時間率が1パーセント以下である
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate