説明

レーダ装置

【課題】クラッタの比較的強い環境下で観測信号を取得した場合でも、高精度に目標信号を抽出することのできるレーダ装置を得る。
【解決手段】電波を送受信して観測信号を取得するレーダ信号取得部10と、観測信号に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部40と、移動平均処理部40で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部50と、目標信号切出し処理部50からの出力結果を格納する出力格納部60とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地上または海上の静止目標を検出および抽出する機能を備えたレーダ装置に関し、特に、航空機などのプラットフォームに搭載されて、上空から電波を送受信することにより地表面や海面の付近を観測し、地表面や海面の付近に存在する目標を検出および抽出するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダ装置において、上空から電波を送受信して地表面や海上面を観測する際には、目標信号(目標からの反射波)の他に、地表面や海面上のグランドクラッタまたはシークラッタ(以下、単に「クラッタ」という)からの不要な反射波が観測される場合がある。
【0003】
特に、図15に示すように、航空機に搭載されたレーダ装置100から地上の目標Tを観測する際には、目標Tからの反射信号Wtのみならず、クラッタ(地面)Cからの強い反射信号Wcが観測されるので、レンジ(距離)方向の受信信号強度を示す観測信号(レンジプロフィール、または、パワーレンジプロフィールと称される)から目標Tを検出する際の抽出精度が低下する問題がある。
【0004】
なお、図15の環境下であっても、仮に目標Tが移動している場合には、クラッタCからの反射信号Wcと目標Tからの反射信号Wtとの各ドップラー周波数が互いに異なることに注目して、クラッタCと目標Tとを分別することができる。
しかし、目標Tが静止している場合には、目標TとクラッタCとの各ドップラー周波数が相違しなくなるので、目標Tの検出および抽出が困難になる。
【0005】
そこで、クラッタCからの反射信号Wcが高い電力値を示した際の目標Tの誤検出を防止するために、従来から、ウィンドウおよび閾値を用いて目標信号を抽出する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
図16は特許文献1に記載された従来のレーダ装置による目標信号抽出手順を示す機能ブロック図である。図16において、従来のレーダ装置100は、レーダ信号取得部1と、ウィンドウ処理部2と、目標信号判定処理部3と、出力格納部4とを備えている。
【0007】
図15、図16において、まず、レーダ信号取得部1は、航空機に搭載されたレーダ装置100を用いて観測を行い、観測信号(レンジプロフィール)を取得する。
続いて、ウィンドウ処理部2は、所定のウィンドウ内に含まれるレンジプロフィールに対して、あらかじめ設定された閾値との比較に基づく信号処理を行う。具体的には、ウィンドウ処理部2は、閾値よりも高い電力(振幅)を示す信号を、目標Tからの信号と判定する。
【0008】
次に、目標信号判定処理部3は、ウィンドウ処理部2からの閾値処理結果を用いて、ウィンドウ内の観測信号が目標Tからの信号であるか否かを判定する。
ここでは、ウィンドウ内に含まれるレンジプロフィール(観測信号)が、すべてのレンジビンで目標信号として検出された場合に、「ウィンドウ内に含まれる観測信号は、目標Tからの信号である」と判定し、ウィンドウ内の一部のレンジビンで目標信号として検出されない場合には、クラッタCからの信号であると判定する。
最後に、出力格納部4は、目標信号判定処理部3からの出力結果を格納する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−280586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載の従来のレーダ装置は、観測信号から目標信号を抽出する際に、観測信号の最大値から所定電力(または、所定振幅)だけ低下した閾値に基づく信号処理により目標信号を抽出しているので、クラッタからの反射信号レベルが比較的高い環境下で観測信号を取得した場合には、クラッタを目標として誤抽出してしまい、目標の抽出精度が低下するという課題があった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、異なる角度で観測したパワーレンジプロフィール(または、偏波情報)と、抽出対象となる目標情報とを利用することにより、クラッタの比較的強い環境下で観測信号を取得した場合でも、高精度に目標信号を抽出することのできるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るレーダ装置は、電波を送受信して観測信号を取得するレーダ信号取得部と、観測信号に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部と、移動平均処理部で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部と、目標信号切出し処理部からの出力結果を格納する出力格納部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、クラッタからの反射信号レベルが比較的高い環境下で観測信号を取得した場合でも、高精度に目標信号を抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図1内のレーダ信号取得部の具体的構成を示すブロック図である。
【図3】図1内の目標検出処理部によるパワーレンジプロフィールを示す説明図である。
【図4】図1内の目標検出処理部の動作を概念的に示す説明図である。
【図5】図1内の探索範囲設定処理部による探索範囲を示す説明図である。
【図6】図1内の移動平均処理部による探索範囲内のウィンドウを示す説明図である。
【図7】この発明における実施の形態2に係るレーダ装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図8】図7内の多偏波観測信号取得部の具体的構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態2による目標信号切出範囲の決定処理を示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態2による目標信号切出範囲の決定処理を示す説明図である。
【図11】この発明における実施の形態3に係るレーダ装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図12】図11内の複数レーダ信号取得部の具体的構成を示すブロック図である。
【図13】この発明の実施の形態3におけるレーダ装置と目標との関係を図式的に示す説明図である。
【図14】この発明の実施の形態3における反射信号のビームパターンを示す説明図である。
【図15】従来のレーダ装置と目標との関係を図式的に示す説明図である。
【図16】従来のレーダ装置による目標信号抽出手順を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1の概略構成を示す機能ブロック図である。なお、この発明の実施の形態1においても、レーダ装置100と目標Tとの関係は、図15に示した通りである。
【0016】
図1において、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、レーダ信号取得部10と、目標検出処理部20と、探索範囲設定処理部30と、移動平均処理部40と、目標信号切出し処理部50と、出力格納部60とを備えている。
【0017】
レーダ信号取得部10は、航空機に搭載したレーダによる観測を行い、レンジプロフィール(観測信号)を取得する。
目標検出処理部20は、レーダ信号取得部10内の受信信号記憶部15(図2とともに後述する)に格納されているレンジプロフィールにおいて目標Tを検出する。
【0018】
探索範囲設定処理部30は、目標検出処理部20の検出結果を用いて、レンジプロフィールにおける目標抽出の探索範囲(図5とともに後述する)を設定する。
移動平均処理部40は、ウィンドウ決定処理部を含み、抽出対象となる目標サイズなどの情報をもとに、目標信号の抽出のためのウィンドウサイズを決定する。
【0019】
移動平均処理部40は、探索範囲設定処理部30で設定した探索範囲において、ウィンドウ決定処理部で設定したウィンドウによる移動平均処理を行う。
【0020】
目標信号切出し処理部50は、移動平均処理部40で算出した各位置における観測信号の平均値を指標として、観測信号(パワーレンジプロフィール)において目標が含まれる領域を抽出する。
出力格納部60は、目標信号切出し処理部50の出力結果を格納する。
【0021】
図2は図1内のレーダ信号取得部10の構成を示すブロック図である。
図2において、レーダ信号取得部10は、パルス信号を生成する送信機11と、送信機11からのパルス信号の送受方向を切換える送受切換器12と、送受信アンテナ13と、受信機14と、受信機14からのデジタル受信信号(観測信号)を記憶する受信信号記憶部15を有する。
【0022】
送受信アンテナ13は、送信機11から送受切換器12を介して入力されるパルス信号を、空間に放射するとともに、観測対象によって散乱された反射信号を受信する。
【0023】
受信機14は、送受信アンテナ13から送受切換器12を介して受信された散乱波(反射信号)を、デジタル受信信号として受信信号記憶部15に格納する。
受信信号記憶部15は、受信機14で受信処理されたデジタル受信信号(観測信号)を一時的に保存する。
【0024】
次に、図2および図15とともに、図3〜図6を参照しながら、図1に示したこの発明の実施の形態1による処理動作について説明する。
まず、図2に示したレーダ信号取得部10の動作について説明する。
図2において、送信機11で生成されたパルス信号は、送受切換器12を介して、送受信アンテナ13に送出される。送受信アンテナ13は、送信機11で生成したパルス信号を空間に放射させる。
【0025】
空間に放射されたパルス信号は、観測対象(目標T、クラッタC)によって散乱され、観測対象で散乱された反射信号(Wt、Wc)は、送受信アンテナ13によって受信される。また、送受信アンテナ13で受信された観測対象からの散乱波(受信信号)は、送受切換器12を介して、受信機14に入力される。
【0026】
受信機14は、受信信号に対して、位相検波処理およびA/D変換処理を行い、各受信信号の振幅および位相を示すデジタル受信信号を生成し、観測信号として受信信号記憶部15に一時保存させる。
【0027】
受信信号記憶部15に記憶される受信信号(観測信号)は、レンジビンnに対応したS(n)で表すことができる。ここで、n(=1、2、・・・、N)は、レンジ方向の観測ビン番号であり、Nはレンジビン数である。
受信信号S(n)には、各レンジビンnにおける振幅および位相が格納されている。
【0028】
次に、図1に示すように、レーダ信号取得部10によって取得された観測信号(観測対象からの受信信号)は、目標検出処理部20に送出される。
目標検出処理部20は、受信信号S(n)(レンジプロフィール)を用いて、各レンジビンnにおける受信電力を計算し、受信電力のレンジ方向の分布(パワーレンジプロフィール)を求める。なお、ここでは、電力値を用いたが、振幅を用いてもよい。
【0029】
図3はパワーレンジプロフィールを示す説明図であり、図3において、横軸はレンジ、縦軸は電力(パワー)Pを示している。
各レンジビンnにおける電力P(n)は、以下の式(1)のように表される。
【0030】
【数1】

【0031】
次に、目標検出処理部20は、式(1)のように算出した電力P(n)から、電力最大値Pmaxを示すレンジビンntgtmaxを、以下の式(2)のように探索する。
【0032】
【数2】

【0033】
式(1)において、
【数3】

は、ある関数f(n)を最大にする「n」を求める演算子である。
図4は目標検出処理部20の動作を概念的に示す説明図であり、電力最大値Pmaxを示すレンジビンntgtmaxを示している。
【0034】
ここでは、レンジプロフィールで観測された目標は、単一の目標とし、「目標の受信信号の最大値は、観測されたレンジプロフィールにおいても最大である」という仮定に基づき、パワーレンジプロフィールにおける最大値を探索し、これを目標からの信号として説明する。
【0035】
なお、ここでの詳細説明は割愛するが、パワーレンジプロフィール内に複数の目標が存在するような場合には、想定される目標の個数の点を抽出したうえで、以下の目標信号の抽出手順を繰り返し実行すればよい。
【0036】
図1に戻り、続いて、探索範囲設定処理部30は、受信信号S(n)から目標信号の抽出するための概略的な探索範囲Zを、あらかじめ切出す。
図5は探索範囲Zを示す説明図であり、前述(図3、図4参照)と同様のものについては、前述と同一符号が付されている。
【0037】
図5において、探索範囲設定処理部30により切出される探索範囲Zは、検出した目標の最大輝点(レンジビンntgtmax)を中心とした領域である。
探索範囲Zは、観測対象となる目標の大きさRtgtに応じて、以下の式(3)のように抽出される。
【0038】
【数4】

【0039】
なお、レーダ装置がメモリや演算機能を十分に有している場合には、取得したパワーレンジプロフィールに対して、直ちに、以下の移動平均処理部40および目標信号切出し処理部50の目標信号抽出処理を適用することが可能なので、上記の目標検出処理部20および探索範囲設定処理部30の処理は、必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
しかし、航空機などに搭載されたレーダ装置100(図15)の環境下では、メモリや演算装置の容量に制約があることが予想されるので、上記処理を行うことにより、メモリや演算装置の容量を節減可能にしている。
【0040】
図1に戻り、次に、移動平均処理部40は、探索範囲設定処理部30で切出された探索範囲Z内のパワーレンジプロフィールに対して、あらかじめ設定した任意の大きさのウィンドウを用いて、各レンジビンnにおいてウィンドウに含まれるパワーレンジプロフィールの平均値を算出する。
【0041】
このとき設定されるウィンドウの大きさは、どのような大きさのものを用いても構わないが、ここでは、観測対象となる目標の大きさRtgtとする。
なお、観測対象となる目標が複数種類存在する場合には、各目標における最大の大きさのウィンドウや、各目標の大きさのウィンドウをそれぞれ用意し、移動平均処理を行うことなどが可能である。複数のウィンドウを用いた場合についても、各ウィンドウの大きさについて以下の処理を実行すればよく、拡張は容易である。
移動平均処理部40における平均化処理は、以下の式(4)のように表される。
【0042】
【数5】

【0043】
ここで、図6を参照しながら、移動平均処理部40で算出される平均値について説明する。
図6は探索範囲Z内のウィンドウを示す説明図であり、各ウィンドウに対応した第1平均算出位置Z1、第2平均算出位置Z2および第3平均算出位置Z3を示している。
図6において、第1〜第3平均算出位置Z1〜Z3は、互いに異なる位置におけるパワーレンジプロフィールの平均値を算出する領域である。
【0044】
また、目標信号Zoは、パワーレンジプロフィールにおいて観測対象となる目標信号が位置している領域である。
したがって、図6内の第2平均算出位置Z2における平均値は、目標信号Zoの平均値を算出した結果となる。
【0045】
各平均算出位置Z1〜Z3で算出された平均値のうち、第1平均算出位置Z1の信号がクラッタ信号であることから、第1平均算出位置Z1で算出される平均値は、クラッタの平均値であることが期待される。
同様に、第3平均算出位置Z3で算出される平均値も、クラッタの平均値であることが期待される。
【0046】
一方、第2平均算出位置Z2で算出される平均値は、目標信号の平均値であることが期待される。
つまり、「目標からの信号電力が、クラッタからの信号電力よりも、わずかでも高い値を示しているのであれば」、各位置Z1〜Z3における平均値を比較した場合に、第2平均算出位置Z2で算出される平均値が最も高い値を示すことになる。
【0047】
図1に戻り、次に、目標信号切出し処理部50は、移動平均処理部40で算出した各位置Z1〜Z3の平均値を指標として、観測対象となる目標の信号の位置する範囲を特定し、その領域に含まれる目標信号を抽出する。
各ウィンドウに対応した位置Z1〜Z3(たとえば、幅7m)は、レンジビン(たとえば、幅1m)よりも大きく、それぞれ複数のレンジビンを含む。また、ウィンドウ数は3個に限らず、任意数に設定され得る。
【0048】
このときの目標信号の抽出は、各ウィンドウ(各位置Z1〜Z3)で算出された平均値を比較して、平均値が最大となるウィンドウ位置に含まれる信号を抽出することにより行われる。
したがって、目標信号Stgt(n)は、以下の式(5)のように抽出される。
【0049】
【数6】

【0050】
式(5)内のntgtは、平均値が最大を示すレンジビンを表し、以下の式(6)で与えられる。
【0051】
【数7】

【0052】
最後に、出力格納部60は、目標信号切出し処理部50が抽出した目標信号Stgt(n)を格納する。
【0053】
以上の通り、この発明の実施の形態1(図1、図2)に係るレーダ装置は、電波を送受信して観測信号(レンジプロフィール)を取得するレーダ信号取得部10と、観測信号に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部40と、移動平均処理部40で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部50と、目標信号切出し処理部50からの出力結果を格納する出力格納部60とを備えている。
【0054】
また、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、レーダ信号取得部10からの観測信号に基づき目標信号を検出する目標検出処理部20と、目標検出処理部20により検出された目標信号から目標位置の周辺を切出し、目標信号の探索範囲Zを設定する探索範囲設定処理部30とを備えている。
移動平均処理部40は、探索範囲設定処理部30からの探索範囲Zに基づき、各レンジビンにおける平均値を算出する。
【0055】
これにより、観測信号(パワーレンジプロフィール)を用いて目標を検出した後に、観測対象となる目標の情報(大きさ)に基づき、あらかじめ設定したウィンドウを用いて、パワーレンジプロフィールを移動平均処理し、算出された各位置における平均値を比較して、最大となる平均値を示す位置におけるウィンドウに含まれる信号を目標信号として抽出することが可能となる。
したがって、目標信号の受信電力のすべてがクラッタよりも高い値を示していない場合でも、目標信号を高精度に抽出することが可能となる。
【0056】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図6)では、単一の送受信アンテナ13を用いて単偏波のパルス信号を送受信したが、図7、図8に示すように、第1および第2偏波送受信アンテナ13a、13bを用いて、複数の偏波チャネルごとにパルス信号を送受信してもよい。なお、この発明の実施の形態2においても、レーダ装置100と目標Tとの関係は、図15に示した通りである。
【0057】
図7はこの発明における実施の形態2の概略構成を示す機能ブロック図であり、前述(図1)と同様の部分については、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
また、図8は図7内の多偏波観測信号取得部10Aの具体的構成を示すブロック図であり、前述(図2)と同様の部分については、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0058】
図7において、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置は、前述(図1)の各処理部20〜50および出力格納部60に加えて、多偏波観測信号取得部10Aと、偏波信号処理部20Aと、パワーレンジプロフィール選択部50Aとを備えている。
【0059】
多偏波観測信号取得部10Aは、複数の偏波チャネルで送受信を行い、得られた偏波チャネルごとのレンジプロフィールを格納する。
また、偏波信号処理部20Aは、多偏波観測により得られた複数の偏波チャネルにおけるレンジプロフィールに対して偏波信号処理を適用する。
さらに、パワーレンジプロフィール選択部50Aは、複数のパワーレンジプロフィールの結果から、目標信号を抽出するために用いるパワーレンジプロフィールを選択する。
【0060】
図8において、多偏波観測信号取得部10Aは、前述(図2)の送信機11、送受切換器12および受信機14に加えて、第1偏波送受信アンテナ13aと、第2偏波送受信アンテナ13bと、受信偏波信号記憶部15Aと、偏波切換器16とを備えている。
【0061】
以下、図8とともに、図9および図10を参照しながら、図7に示したこの発明の実施の形態2による処理動作について説明する。
まず、図8に示した多偏波観測信号取得部10Aの動作について説明する。
【0062】
図8において、偏波切換器16は、送信機11から送受切換器12を介してパルス信号が入力された際に、第1偏波送受信アンテナ13aのみを駆動させて、第1偏波のパルス信号を第1偏波送受信アンテナ13aより空間に放射する。
また、偏波切換器16は、第1および第2偏波送受信アンテナ13a、13bの双方を駆動して、観測対象からの散乱波を、第1および第2偏波送受信アンテナ13a、13bでそれぞれ受信する。
【0063】
ここで、第1および第2偏波送受信アンテナ13a、13bの各偏波特性は、互いに直交する関係を有する。
なお、第1および第2偏波送受信アンテナ13a、13bにおける各偏波特性が互いに直交する組み合わせとしては、垂直偏波と水平偏波との組み合わせや、右旋円偏波と左旋円偏波との組み合わせなどが考えられる。
【0064】
続いて、偏波切換器16は、送信機11から送受切換器12を介して再び入力されたパルス信号を、第2偏波送受信アンテナ13bから観測対象に照射し、観測対象により散乱された散乱波を、第1および第2偏波送受信アンテナ13a、13bの双方で受信する。
【0065】
なお、第1偏波チャネルの受信信号は、第1偏波送受信アンテナ13aで送信して、第1偏波送受信アンテナ13aで受信した信号として定義する。
また、第2偏波チャネルの受信信号は、第1偏波送受信アンテナ13aで送信して、第2偏波送受信アンテナ13bで受信した信号とし、第3偏波チャネルの受信信号は、第2偏波送受信アンテナ13bで送信して、第2偏波送受信アンテナ13bで受信した信号として定義する。
さらに、第4偏波チャネルの受信信号は、第2偏波送受信アンテナ13bで送信して、第1偏波送受信アンテナ13aで受信した信号として定義する。
【0066】
ここで、レーダ装置がモノスタティック構成であって、各偏波送受信アンテナ13a、13bの位置が等しい場合には、第2偏波チャネルおよび第4偏波チャネルの各信号は等しい。
このことは、公知文献(たとえば、山口著「レーダポーラリメトリの基礎と応用−偏波を用いたリモートセンシング−」社団法人 電子情報通信学会、2007)に示されており、周知である。
【0067】
したがって、以下の説明では、第4偏波チャネルの信号は用いず、第1〜第3偏波チャネルの受信信号を用いることとする。なお、偏波チャネルの数が3つ以上の場合の拡張は容易である。
以上のように取得された3つの偏波チャネルの受信信号は、送受切換器12および受信機14を介して、受信偏波信号記憶部15Aに一時保存される。
【0068】
受信偏波信号記憶部15Aには、各レンジビンnにおける散乱ベクトルk(n)が記憶され、散乱ベクトルk(n)は、以下の式(7)により表される。
【0069】
【数8】

【0070】
式(7)において、S(p=1、2、3)は、第p偏波チャネルの信号を表す複素数である。
式(7)のように、各レンジビンnにおける信号は、3次元の複素ベクトル量で表現される。この複素ベクトルは、各レンジビンnにおける散乱の偏波特性を表現しており、その向きが偏波特性、長さが散乱強度を表す量である。
【0071】
次に、図7において、偏波信号処理部20Aは、多偏波観測信号取得部10Aによって取得された各偏波チャネルのレンジプロフィールに対して、偏波信号処理を適用する。
なお、偏波信号処理としては、全偏波の電力の総和である全電力の算出処理、または、クラッタ抑圧処理などが考えられる。
クラッタ抑圧処理については、公知文献(たとえば、諏訪、山本、野中、今村、桐本、他「ポラリメトリックノッチフィルタを用いた目標検出方式」信学(B)Vol.J87−B、no.1、pp60−69、Jan.2004)に記載されている。
【0072】
上記偏波信号処理技術は、いずれも周知であり、これらの処理のうち、どれか1つ以上の偏波信号処理技術を、偏波信号処理部20Aとして適用すればよく、その種類や適用数はここでは問わない。
たとえば、前者の全電力Pall(n)の算出処理は、以下の式(8)で表される。
【0073】
【数9】

【0074】
式(8)に示す通り、全電力Pall(n)は、散乱ベクトルk(n)の長さの2乗で定義される値であり、散乱強度を表す指標として利用される値である。
式(8)で得られたPall(n)は、レンジビンnごとに全電力の値をもつパワーレンジプロフィールである。
【0075】
以下、パワーレンジプロフィール選択部50Aは、多偏波観測信号取得部10Aで得られた各偏波チャネルにおけるパワーレンジプロフィールや、偏波信号処理部20Aで算出された偏波信号処理後のパワーレンジプロフィールなどの、複数個のパワーレンジプロフィールに基づき、目標信号切出し処理部50によって得られる各目標位置抽出結果から、最終的に出力するものを選択する。
【0076】
図9は目標信号切出範囲Zo1の最終的な決定方法を示す説明図であり、探索範囲Zの設定処理後における第1偏波チャネルのパワーレンジプロフィールを示している。
図10は目標信号切出範囲Zo2の最終的な決定方法を示す説明図であり、探索範囲Zの設定処理後における第2偏波チャネルのパワーレンジプロフィールを示している。
【0077】
ここでは、第1偏波チャネルの受信信号と第2偏波チャネルの受信信号との2種類のパワーレンジプロフィールの結果の比較から、最終的な結果を選択する方法について説明する。なお、2つ以上のパワーレンジプロフィールの結果が入力された場合でも、その拡張は容易である。
【0078】
図9において、目標信号切出範囲Zo1は、第1偏波チャネルで観測したパワーレンジプロフィールから推定した目標信号が位置する領域であり、背景信号範囲Zc1は、クラッタであると推定された領域である。
【0079】
図10において、目標信号切出範囲Zo2は、第2偏波チャネルで観測したパワーレンジプロフィールから推定した目標信号が位置する領域であり、背景信号範囲Zc2は、クラッタであると推定された領域である。
【0080】
この場合、図9に示すように、第1偏波チャネルで観測したパワーレンジプロフィールの信号クラッタ比SCR(Signal to Clutter Ratio)は高く、また、図10に示すように、第2偏波チャネルで観測したパワーレンジプロフィールの信号クラッタ比SCRは低いものとしている。
【0081】
目標信号の抽出精度は、信号クラッタ比SCRに依存するので、信号クラッタ比SCRが低いパワーレンジプロフィールから推定された結果は、その精度が低いことが予想される。
そこで、パワーレンジプロフィール選択部50Aは、信号クラッタ比SCRを指標として、図9、図10に示した2つのパワーレンジプロフィールの結果から、最終的に出力する結果を選択する。
【0082】
評価の指標として用いられる各パワーレンジプロフィールの信号クラッタ比SCRは、各パワーレンジプロフィールにおいて、目標信号が位置すると判定された領域(目標信号切出範囲Zo1、Zo2)と、クラッタを判定された領域(背景信号範囲Zc1、Zc2)との平均値の比から算出される。
【0083】
したがって、パワーレンジプロフィールの信号クラッタ比SCRpは、以下の式(9)のように表される。
【0084】
【数10】

【0085】
式(9)において、
【数11】

は、各パワーレンジプロフィールにおける目標領域の平均値である。
また、式(9)の分母
【数12】

は、クラッタと判定された領域の平均値を表す。
【0086】
パワーレンジプロフィール選択部50Aは、式(9)で算出された各パワーレンジプロフィールの信号クラッタ比SCRpを比較し、最大となるパワーレンジプロフィールの結果を出力格納部60に格納させる。
【0087】
以上のように、この発明の実施の形態2(図7、図8)に係るレーダ装置は、複数の偏波チャネルごとに送受信を行い、多偏波レンジプロフィールを生成する多偏波観測信号取得部10Aと、多偏波観測信号取得部10Aで観測した多偏波レンジプロフィールを偏波信号処理する偏波信号処理部20Aと、偏波信号処理部20Aからの処理結果に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部40と、移動平均処理部40で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部50と、目標信号切出し処理部50からの複数のパワーレンジプロフィールの出力結果から最終的な出力結果を選択するパワーレンジプロフィール選択部50Aとを備えている。
【0088】
また、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置は、偏波信号処理部20Aからの処理結果に基づき目標信号を検出する目標検出処理部20と、目標検出処理部20により検出された目標信号から目標位置の周辺を切出し、目標信号の探索範囲を設定する探索範囲設定処理部30とを備えている。
移動平均処理部40は、探索範囲設定処理部30からの探索範囲に基づき、各レンジビンにおける平均値を算出する
【0089】
このように、多偏波方式のレーダ装置によって観測した散乱ベクトルk(n)を用いることにより、前述の単偏波による散乱強度のみの比較と比べて、目標とクラッタとの偏波特性の相違などを用いることが可能となり、前述の実施の形態1(単偏波)による目標検出では抽出できない環境においても、目標信号を高精度に抽出することが可能となる。
【0090】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1(図1〜図6)では、レーダ信号取得部10内の受信信号記憶部15において、1回の送受信で得られた受信信号を記憶したが、図11、図12に示すように、複数レーダ信号取得部10B内の複数受信信号記憶部15Bにおいて、複数回の送受信で得られた受信信号を記憶してもよい。
【0091】
図11はこの発明における実施の形態3の概略構成を示す機能ブロック図であり、前述(図1)と同様の部分については、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
また、図12は図11内の複数レーダ信号取得部10Bの具体的構成を示すブロック図であり、前述(図2)と同様の部分については、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0092】
図11において、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置は、前述(図1)の各処理部20〜50および出力格納部60に加えて、複数レーダ信号取得部10Bと、複数データ処理部20Bと、パワーレンジプロフィール選択部50Bとを備えている。
複数レーダ信号取得部10Bは、複数回の送受信信号を観測し、複数データ処理部20Bは、複数の観測により得られた観測信号を処理する。
【0093】
図12において、複数レーダ信号取得部10Bは、前述(図2)の送信機11、送受切換器12、送受信アンテナ13および受信機14に加えて、複数受信信号記憶部15Bを備えている。
複数受信信号記憶部15Bは、受信機14から入力される複数回の送受信信号を一時的に記憶する。
【0094】
ここでは、前述の実施の形態1(図1、図2)の構成に適用して、単偏波のレーダ装置により観測した複数個の信号を用いた場合について説明するが、前述の実施の形態2(図7、図8)の構成に適用して、多偏波観測により得られる散乱行列をさらに複数回観測した結果を用いてもよい。この場合、前述(図8)の多偏波観測信号取得部10A内の受信偏波信号記憶部15Aを、複数受信偏波信号記憶部(図示せず)に変更すればよい。
【0095】
以下、図12とともに、図13および図14を参照しながら、図11に示したこの発明の実施の形態3による処理動作について説明する。
まず、図12に示した複数レーダ信号取得部10Bの動作について説明する。
図12において、複数レーダ信号取得部10Bは、複数回のパルス信号の送受信による観測を行い、各観測により得られた受信信号を、複数受信信号記憶部15Bに一時的に記憶させる。
【0096】
図11において、複数データ処理部20Bは、複数レーダ信号取得部10Bにおいて得られた複数個の受信信号を処理し、処理結果を目標検出処理部20に入力する。
ここで、目標信号抽出の具体例として、移動するプラットフォームに搭載したレーダ装置100Bによる地上静止目標を観測した場合を用いて説明する。
【0097】
図13はこの発明の実施の形態3におけるレーダ装置100Bと目標Tとの関係を図式的に示す説明図であり、前述(図15参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図13において、分解能セル100aは、レーダ装置100Bのアジマス分解能に関連する。
【0098】
図13に示すように、レーダ装置100Bにより遠方の目標Tを観測する際には、送受信アンテナ13のサイズ制限などの影響によって、地表面上での分解能セル100aの幅が実質的に広がり、アジマス分解能が小さくなる。
【0099】
また、クラッタC(地面など)の分布ターゲットからの反射信号の強度は、ビームの照射面積によって決定するので、たとえパルス圧縮処理などを適用してレンジ方向の分解能を向上させたとしても、アジマス方向の分解能が十分でない場合には、クラッタCからの反射強度は大きい値を示すことになる。
【0100】
一方、図13のような分布ターゲットからの反射信号は、分解能セル100a内に含まれる散乱点からの各散乱波の重ね合わせとして観測されるので、観測位置が変化した場合には、これらの重ね合わせの様子(スペックルパターン:Speckle Pattern)が変化する。
【0101】
異なる観測位置で分布ターゲットを観測した場合の各観測位置間の信号の相関ρsp、ρrotは、以下の式(10)、式(11)で表されることが知られている。
【0102】
【数13】

【0103】
上記式は、公知文献(たとえば、Howard A.Zebker,and John Villasenor,「Decorrelation in Interferometric Radar Echos」IEEE TRANSACTION ON GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING,Vol.30,No.5,SEP.1992)に記載されており、周知である。
【0104】
式(10)および式(11)において、θはレーダの入射角、Rはレンジビン分解能、Rはアジマス分解能、λは観測波長である。また、|dθ|は、2回の観測における入射角の変化量であり、|dφ|はアジマス角の変化量である。
【0105】
式(10)は、2回の観測位置における入射角が異なる場合の相関ρspを表しており、式(11)は、アジマス角が異なる場合の相関ρrotを表している。
式(10)によれば、入射角が異なることによる相関ρspの低下は、レンジビン分解能Rに依存する。
一方、式(11)によれば、アジマス角が異なることによる相関ρrotの低下は、アジマス分解能Rに依存する。
【0106】
図13において、移動するプラットフォームに搭載されたレーダ装置100Bは、十分なレンジビン分解能Rを有するものの、アジマス分解能Rが低いものとし、アジマス方向(分解能セル100aの幅方向)に移動しながら複数回の観測を行い、受信信号を得るものとする。
【0107】
地表面などの分布ターゲットは、レーダ装置100Bのアジマス分解能Rが低い場合に、観測するアジマス角がわずかに変化することにより、大きく観測信号間の相関ρrotが低下することが予想される。
【0108】
一方、目標Tに関しては、クラッタCと比較して、異なるアジマス角で観測した場合の相関ρspの低下量が小さいことが予想される。
このことは、図14に示した反射信号Wt、Wcのように、目標TとクラッタCとについて、レーダ装置100Bから放射された電波が、目標TおよびクラッタCで再放射される場合のビームパターンとして考えれば分かりやすい。
【0109】
図14において、反射信号Wcは、クラッタCから再放射される際の仮想的なビームパターンを示し、反射信号Wtは、目標Tから再放射される際の仮想的なビームパターンを示している。
【0110】
レーダ装置100Bにおけるビームパターンは、電波が放射される開口面が大きいほど先鋭化することが知られている。
クラッタCには、アジマス方向に広がった電波がそのまま照射されるので、クラッタCから再放射される電波(反射信号Wc)の仮想的な開口面は、アジマス分解能と等価である。
【0111】
一方、目標Tの照射面は、目標Tの大きさによって決定する。一般的に、目標サイズは、アジマス分解能(分解能セル100aの幅方向)に比べて十分小さいので、目標Tの仮想的な開口面は、クラッタCの開口面に比べて小さくなる。
したがって、図14に示すように、クラッタCで再放射される電波(反射信号Wc)と目標Tで再照射される電波(反射信号Wt)との各ビームパターンを比べれば、目標Tの反射信号WtよりもクラッタCの反射信号Wcの方が先鋭化されている。
【0112】
反射信号Wcのように先鋭化されたビームパターンは、アジマス角が変化すると、観測される信号が大きく変化する。
一方、反射信号Wtのようにビームパターンが先鋭化されていない場合には、わずかなアジマス角の変化による信号の変化は小さい。
【0113】
このように、異なるアジマス角で観測した信号間では、目標Tの反射信号Wtに比べてクラッタCの反射信号Wcの相関が低い性質を利用し、異なるアジマス角で観測した複数の観測信号を処理することにより、クラッタCの反射信号Wcを抑圧することが可能である。
【0114】
クラッタCの抑圧処理は、たとえば、異なる角度で観測した信号をインコヒーレントに平均化する処理や、各レンジビンnについて相関演算を行い、相関のプロフィールを算出する方式などが考えられる。
たとえば、インコヒーレントに平均化する処理は、以下の式(12)で表される。
【0115】
【数14】

【0116】
式(12)において、S(n)は、各アジマス角で観測したレンジプロフィールであり、kは観測番号、Kは観測回数である。
上記処理を行うことにより、クラッタCの受信強度を低下させることが期待でき、クラッタCを抑圧することが可能である。
【0117】
また、レーダ装置100Bのメモリ容量や演算性能が高い場合や、さらに、GPSなどにより各観測における観測位置を高精度に取得することが可能であるならば、異なるアジマス角での観測を十分に行うことができる。
【0118】
たとえば、合成開口処理やDBS(Doppler Beam Sharpening)の適用により、レーダ移動によるドプラ周波数をフィルタで細分化して、実ビームよりも狭いビームに分割して高分解能を得ることができ、アジマス方向にも高い分解能を有するデータ生成が可能となる。
なお、合成開口処理については、公知文献(たとえば、大内和夫著「リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎」など)に記載されており、周知である。
【0119】
以上のように、この発明の実施の形態3(図11、図12)に係るレーダ装置は、複数回の電波の送受信を行い、複数個の観測信号を受信する複数レーダ信号取得部10Bと、複数の観測信号を組み合わせる複数データ処理部20Bと、複数データ処理部20Bからの処理結果に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部40と、移動平均処理部40で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部50と、目標信号切出し処理部50からの複数のパワーレンジプロフィールの出力結果から最終的な出力結果を選択するパワーレンジプロフィール選択部50Bとを備えている。
【0120】
複数レーダ信号取得部10Bは、異なる角度で行う複数回の観測における各観測位置を高精度に計測する観測位置取得部を有し、複数データ処理部20Bは、複数回の観測信号と観測位置取得部の計測結果とから複数個の観測信号の分解能を向上させる高分解能処理部を有する。
【0121】
さらに、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置は、複数データ処理部20Bからの処理結果に基づき目標信号を検出する目標検出処理部20と、目標検出処理部20により検出された目標信号から目標位置の周辺を切出し、目標信号の探索範囲を設定する探索範囲設定処理部30とを備えており、移動平均処理部40は、探索範囲設定処理部30からの探索範囲に基づき、各レンジビンにおける平均値を算出する。
【0122】
このように、複数の観測信号を用いた目標信号の抽出を行うことにより、特に、分解能が低いような場合においては、観測位置の違いによる目標TとクラッタCとの相関の低下量の違いを利用したクラッタの抑圧が可能となるので、前述の実施の形態1と比べて、目標信号の抽出精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0123】
10 レーダ信号取得部、10A 多偏波観測信号取得部、10B 複数レーダ信号取得部、11 送信機、12 送受切換器、13 送受信アンテナ、13a 第1偏波送受信アンテナ、13b 第2偏波送受信アンテナ、14 受信機、15 受信信号記憶部、15A 受信偏波信号記憶部、15B 複数受信信号記憶部、16 偏波切換器、20 目標検出処理部、20A 偏波信号処理部、20B 複数データ処理部、30 探索範囲設定処理部、40 移動平均処理部、50 目標信号切出し処理部、50A、50B パワーレンジプロフィール選択部、60 出力格納部、100、100B レーダ装置、100a 分解能セル、C クラッタ、T 目標、Wc クラッタからの反射信号、Wt 目標からの反射信号、Z 探索範囲、Z1 第1平均算出位置、Z2 第2平均算出位置、Z3 第3平均算出位置、Zc1、Zc2 背景信号範囲、Zo 目標信号、Zo1、Zo2 目標信号切出範囲。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送受信して観測信号を取得するレーダ信号取得部と、
前記観測信号に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部と、
前記移動平均処理部で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部と、
前記目標信号切出し処理部からの出力結果を格納する出力格納部と
を備えたレーダ装置。
【請求項2】
前記レーダ信号取得部からの観測信号に基づき目標信号を検出する目標検出処理部と、
前記目標検出処理部により検出された目標信号から目標位置の周辺を切出し、前記目標信号の探索範囲を設定する探索範囲設定処理部とを備え、
前記移動平均処理部は、前記探索範囲設定処理部からの探索範囲に基づき、前記各レンジビンにおける平均値を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
複数の偏波チャネルごとに送受信を行い、多偏波レンジプロフィールを生成する多偏波観測信号取得部と、
前記多偏波観測信号取得部において観測した多偏波レンジプロフィールを偏波信号処理する偏波信号処理部と、
前記偏波信号処理部からの処理結果に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部と、
前記移動平均処理部で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部と、
前記目標信号切出し処理部からの複数のパワーレンジプロフィールの出力結果から最終的な出力結果を選択するパワーレンジプロフィール選択部と
を備えたレーダ装置。
【請求項4】
前記偏波信号処理部からの処理結果に基づき目標信号を検出する目標検出処理部と、
前記目標検出処理部により検出された目標信号から目標位置の周辺を切出し、前記目標信号の探索範囲を設定する探索範囲設定処理部とを備え、
前記移動平均処理部は、前記探索範囲設定処理部からの探索範囲に基づき、前記各レンジビンにおける平均値を算出することを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
複数回の電波の送受信を行い、複数個の観測信号を受信する複数レーダ信号取得部と、
前記複数の観測信号を組み合わせる複数データ処理部と、
前記複数データ処理部からの処理結果に基づき、抽出対象となる目標の大きさのウィンドウを用いた移動平均処理により各レンジビンにおける平均値を算出する移動平均処理部と、
前記移動平均処理部で算出した各レンジビンの平均値を比較し、目標信号が位置する領域を抽出する目標信号切出し処理部と、
前記目標信号切出し処理部からの複数のパワーレンジプロフィールの出力結果から最終的な出力結果を選択するパワーレンジプロフィール選択部と
を備えたレーダ装置。
【請求項6】
前記複数レーダ信号取得部は、異なる角度で行う複数回の観測における各観測位置を高精度に計測する観測位置取得部を含み、
前記複数データ処理部は、複数回の観測信号と前記観測位置取得部の計測結果とから前記複数個の観測信号の分解能を向上させる高分解能処理部を含むことを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記複数データ処理部からの処理結果に基づき目標信号を検出する目標検出処理部と、
前記目標検出処理部により検出された目標信号から目標位置の周辺を切出し、前記目標信号の探索範囲を設定する探索範囲設定処理部とを備え、
前記移動平均処理部は、前記探索範囲設定処理部からの探索範囲に基づき、前記各レンジビンにおける平均値を算出することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−220824(P2011−220824A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90190(P2010−90190)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】