説明

レーダ装置

【課題】ホログラフィック合成法によりターゲット検出を行うレーダ装置において、受信信号の強度低下による影響を可及的に回避し、より正確なターゲット検出を行う。
【解決手段】複数の送信波のそれぞれに対応した、ホログラフィック合成される複数の対応受信波のうち少なくとも第一対応受信波と第二対応受信波について、該第一対応受信波の受信を行った前記複数の受信アンテナのうち少なくとも二つ以上の所定数の受信アンテナと該第二対応受信波の受信を行った前記複数の受信アンテナのうち前記所定数と同数の受信アンテナを、合成のための合成基準アンテナと定める。そして、該第一対応受信波の該所定数の合成基準アンテナと該第二対応受信波の該所定数の合成基準アンテナとの間に形成される、対応受信波の位相合成が可能な合成基準アンテナ同士の該所定数の合成基準アンテナ対のうち少なくとも一つの合成基準アンテナ対を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナが等間隔に配置されたアレーアンテナを備えたレーダ装置において、送信アンテナとして用いるアンテナを切り替えながら送受信した結果をホログラフィック合成することにより、実際のアンテナの数を超える数の仮想アンテナによる受信結果を得る技術がある(例えば、特許文献1から4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−198312号公報
【特許文献2】特開2005−195491号公報
【特許文献3】特開2006−91028号公報
【特許文献4】特開2006−98181号公報
【特許文献5】特開2006−308608号公報
【特許文献6】特開2007−199085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、複数のアンテナを等間隔に一列に並べたアレーアンテナを構成し、複数のアンテナによる受信信号を演算することで複数の受信ビームを形成し、スキャンを行う電子スキャン方式のレーダ装置がある。このようなレーダ装置では、ホログラフィック合成法により、実際には少数のアンテナ数で、仮想的に比較的多数のアンテナを利用したスキャンと等価のスキャンを実現することが可能となる。
【0005】
一方で、レーダ装置がスキャン可能な範囲である角度範囲(FOV:Field of
View)内にターゲットが複数存在する場合、ターゲットにより反射された反射波同士が干渉し、場合によっては打ち消し合うことで、ターゲット検出のために必要な位相情報に多くの誤差が含まれる結果となり得る。このような場合に、ホログラフィック合成法に基づくターゲットの検出を行おうとすると、上記位相誤差の影響を受け正確なターゲットの検出が困難となる。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑み、ホログラフィック合成法によりターゲット検出を行うレーダ装置において、受信信号の強度低下による影響を可及的に回避し、より正確なターゲット検出を可能とするレーダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべく、ホログラフィック合成を行うアンテナ同士の組み合わせ(本発明における合成基準アンテナ対に相当)を複数箇所定め、少なくとも何れか一方の組み合わせを介してホログラフィック合成を行う構成とした。この構成により、受信波の信号強度が低下してもホログラフィック合成を可能とする好適なアンテナ組み合わせを適宜選択することが可能となるため、より正確なターゲットの検出が可能となる。
【0008】
詳細には、本発明は、送信波の送信を行う少なくとも二つの送信アンテナを順次切り換え、送信波がターゲットで反射された反射波を複数の受信アンテナで受信して得られた受信信号に基づいてターゲットを検出するレーダ装置であって、前記少なくとも二つの送信
アンテナのそれぞれから送信された送信波が前記ターゲットで反射された反射波を前記複数の受信アンテナを介して、それぞれの送信波に対応した対応受信波として受信する受信手段と、前記受信手段によって受信された複数の前記対応受信波を合成することで、前記複数の受信アンテナより多数の仮想的な受信アンテナによる受信結果を得る合成手段と、前記合成手段によって得られた受信結果に基づいて、前記ターゲットの検出を行う検出手段と、を備える。そして、前記合成手段は、合成される複数の前記対応受信波のうち少なくとも第一対応受信波と第二対応受信波について、該第一対応受信波の受信を行った前記複数の受信アンテナのうち少なくとも二つ以上の所定数の受信アンテナと該第二対応受信波の受信を行った前記複数の受信アンテナのうち前記所定数と同数の受信アンテナを、合成のための合成基準アンテナと定め、該第一対応受信波の該所定数の合成基準アンテナと該第二対応受信波の該所定数の合成基準アンテナとの間に形成される、対応受信波の位相合成が可能な合成基準アンテナ同士の該所定数の合成基準アンテナ対のうち少なくとも一つの合成基準アンテナ対を介して、受信波位相に基づいた該第一対応受信波と該第二対応受信波の合成を行う。
【0009】
上記レーダ装置においては、受信手段によって、少なくとも二つの送信アンテナから順次送信される送信波に対応して、ターゲットからの反射波の受信が行われる。この場合、各送信波に対応した受信波を対応受信波と称し、少なくとも二つの送信アンテナから送信波が出されることから、対応受信波として第一対応受信波と第二対応受信波が存在する。なお、本発明に係るレーダ装置における送信波の送信および受信波の受信については、送信用および受信用のアンテナを有していてもよく、また一つのアンテナがその機能を切り替えることで、受信アンテナ又は送信アンテナとして機能する構成を採用してもよい。したがって、上記レーダ装置における送信アンテナと受信アンテナは、物理的に同一のアンテナである場合、および物理的に異なるアンテナである場合も含む概念である。
【0010】
上述のように、受信手段が少なくとも第一対応受信波および第二対応受信波を受信すると、合成手段により両対応受信波のホログラフィック合成が行われ、更に検出手段によりその合成された受信波に基づいてターゲットの検出が行われる。ここで、合成手段による対応受信波の合成においては、第一対応受信波と第二対応受信波とのそれぞれに、二つ以上の所定数の合成基準アンテナが定められ、その結果、同数のホログラフィック合成のための合成基準アンテナ同士の組み合わせである合成基準アンテナ対が形成される。この合成基準アンテナ対に含まれる合成基準アンテナは、そこで受信されたそれぞれの対応受信波の位相が理論上所定の相関を有していることが明確であることにより(たとえば、同位相である等)、両対応受信波の位相合成を可能とするものである。
【0011】
このように、上記レーダ装置では、第一対応受信波と第二対応受信波の合成において、その合成を可能とする合成基準アンテナ対が必ず二つ以上の所定数設定異されることになる。そのため、仮にターゲットからの反射波の干渉等に起因して信号強度の低下による位相誤差の影響が無視できない状況が発生したとしても、所定数の合成基準アンテナ対のうち合成に適切な合成基準アンテナ対を使用することで、上記位相誤差の影響を極力回避することが可能となり、より正確なターゲット検出が実現される。なお、対応受信波の合成において、実用的には一つの合成基準アンテナ対を介することでホログラフィック合成は可能であるが、二つ以上の合成基準アンテナ対を介しても合成は実現可能である。
【0012】
ここで、上記レーダ装置において、前記合成手段は、前記所定数の合成基準アンテナ対において各合成基準アンテナ対に含まれるそれぞれの合成基準アンテナの受信波強度が基準信号強度を超えるとき、該合成基準アンテナ対を前記一つの合成基準アンテナ対として、前記第一対応受信波と前記第二対応受信波の合成を行うようにしてもよい。すなわち、適切なホログラフィック合成を行うために十分な信号強度を有する合成基準アンテナ対を利用することで、より正確なターゲット検出を可能とする。
【0013】
また、上記レーダ装置において、前記合成手段は、前記所定数の合成基準アンテナ対のうち、そこに含まれるそれぞれの合成基準アンテナの受信波強度が最も強い合成基準アンテナ対を介して、受信波位相に基づいた該第一対応受信波と該第二対応受信波の合成を行うようにしてもよい。すなわち、第一対応受信波と第二対応受信波の合成を行うにあたり、最高の信号強度を有する合成基準アンテナ対を介して合成することで、可及的に位相誤差の影響の少ない合成が実現される。なお、合成基準アンテナ対の信号強度は、そこに含まれる合成基準アンテナの信号強度に基づいて決定される所定の信号強度、例えばそこに含まれる合成基準アンテナの信号強度の平均値等として定義される。
【0014】
また、上記レーダ装置において、前記合成手段は、前記第一対応受信波の前記所定数の合成基準アンテナのそれぞれの受信信号の強度と、前記第二対応受信波の前記所定数の合成基準アンテナのそれぞれの受信信号の強度に基づいて、該第一対応受信波と該第二対応受信波との合成のための補正位相を算出する補正位相算出手段を有してもよく、その場合、前記合成手段は、前記少なくとも一つの合成基準アンテナ対を介して、前記補正位相算出手段によって算出された補正位相に基づいた前記第一対応受信波と前記第二対応受信波の合成を行ってもよい。すなわち、第一対応受信波と第二対応受信波の信号強度に基づいた、合成のための補正位相を算出し、それを利用して両対応受信波の合成を行うことで、より正確のターゲットの検出が実現される。
【0015】
また、上記レーダ装置において、前記合成手段は、前記少なくとも一つの合成基準アンテナ対に含まれる合成基準アンテナの信号強度が、基準信号強度より小さいか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により前記合成基準アンテナの信号強度が前記基準信号強度より小さいと判定されたとき、前記合成基準アンテナ対のうち前記第一対応受信波に対応する一方の合成基準アンテナを前記複数の受信アンテナから除いて形成される、残りの受信アンテナの受信波位相に基づいて、該一方の合成基準アンテナの受信波位相を推定する第一推定手段と、同様に前記合成基準アンテナの信号強度が前記基準信号強度より小さいと判定されたとき、前記合成基準アンテナ対のうち前記第二対応受信波に対応する他方の合成基準アンテナを前記複数の受信アンテナから除いて形成される、残りの受信アンテナの受信波位相に基づいて、該他方の合成基準アンテナの受信波位相を推定する第二推定手段と、を有してもよく、その場合、前記合成手段は、前記第一推定手段によって推定された受信波位相と前記第二推定手段によって推定された受信波位相との位相差を算出し、前記一つの合成基準アンテナ対を介して前記受信波位相および前記位相差に基づいた前記第一対応受信波と前記第二対応受信波の合成を行ってもよい。
【0016】
すなわち、両対応受信波の合成を行う合成基準アンテナ対において合成のために十分な信号強度の受信波を受信できていない場合には、第一推定手段と第二推定手段によって、当該合成基準アンテナ対に含まれる受信アンテナを除いた受信アンテナによる対応受信波の位相を利用することで、当該合成基準アンテナ対に含まれる受信アンテナによる第一対応受信波と第二対応受信波の位相が推定される。そして、この推定された二つの位相の位相差を利用することで、両対応受信波の合成が実現される。このような構成により、仮に合成基準アンテナ対において信号強度が弱い場合であっても、可及的に正確なホログラフィック合成を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
ホログラフィック合成法によりターゲット検出を行うレーダ装置において、受信信号の強度低下による影響を可及的に回避し、より正確なターゲット検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係るレーダ装置の構成の概略を示す図である。
【図2】実施形態に係るアンテナの配置の概略を示す図である。
【図3】実施形態に係るアンテナによってターゲットからの反射電波が受信される様子を示した第一の図である。
【図4】実施形態において、図3に示すようなレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch5を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1から送信されてアンテナch1で受信された電波の位相を基準とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。
【図5】図3に示すアンテナ配置のレーダ装置において、アンテナch1、ch5を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【図6】実施形態に係るレーダ装置におけるターゲット検出処理の流れを示す第一のフローチャートである。
【図7】実施形態に係るレーダ装置におけるターゲット検出処理の流れを示す第二のフローチャートである。
【図8】実施形態に係るレーダ装置におけるターゲット検出処理の流れを示す第三のフローチャートである。
【図9】実施形態に係るレーダ装置におけるターゲット検出処理の流れを示す第四のフローチャートである。
【図10】実施形態に係るアンテナによってターゲットからの反射電波が受信される様子を示した第二の図である。
【図11】実施形態において、図10に示すようなレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch2、ch5を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1から送信されてアンテナch1で受信された電波の位相を基準とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。
【図12】図10に示すアンテナ配置のレーダ装置において、アンテナch1、ch2、ch5を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。
【図13】実施形態に係る広FOV用仮想アンテナおよび狭FOV用仮想アンテナによる角度検出可能な範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るレーダ装置の実施の形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態に係るレーダ装置は、車載されて、他の車両等、車両周囲のターゲットを検知することに用いることが可能である。ターゲットの検知結果は車載の記憶装置やECU(Electrical Control Unit)等に対して出力され、車両制御等に用いることが出来る。但し、本実施形態に係るレーダ装置は、車載レーダ装置以外の用途に用いられてよい。
【実施例1】
【0020】
図1は、本実施例に係るレーダ装置1の構成の概略を示す図である。本実施例に係るレーダ装置1は、アンテナch1−ch6、分配器19、送信部11、受信部12、合成部14、検出部15および出力部16を備える。但し、他の実施例において本発明に係るレーダ装置を実施する場合、レーダ装置は、合成部14、検出部15および出力部16等の構成が省略されていてもよい。これらの構成は、レーダ装置の外部に接続されたコンピュータによって実現することが出来る。また、合成部14、検出部15および出力部16等の各構成には、汎用または専用のプロセッサを用いることが出来る。また、複数のプロセッサの組み合わせが一の構成に含まれてもよいし、複数の構成において複合的な機能を有する一のプロセッサが用いられてもよい。
【0021】
送信部11は、アンテナch1−ch6のうちの何れか一のアンテナを送信アンテナと
して用いてレーダ送信波を送信する。本実施例に係るレーダ装置1では、アンテナch1−ch6の何れであっても送信に用いることが可能であるが、本発明に係るレーダ装置1の実施にあたっては、アレーアンテナ中の複数のアンテナのうち少なくとも2以上のアンテナが送信アンテナとして利用可能であればよい。本実施例では、送信部11は、アンテナch1、ch5の2つのアンテナを順に切り替えて送信アンテナとして用いて、レーダ送信波を送信する。また、本実施例では、レーダ装置1によって送受信される電波に、FM‐CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式のレーダ送信波を用いる。FM‐CW方式によれば、反射電波から、ターゲットの角度による相対位相、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトを得ることが出来るため、ターゲットの角度、距離、相対速度を測定することが出来る。
【0022】
受信部12は、アンテナch1−ch6のうちレーダ送信波を送信中でないアンテナを受信アンテナとして用いて、ターゲットからの反射電波を受信する。本実施例に係るレーダ装置1では、送信アンテナからレーダ送信波を送信した直後に、送信アンテナを時分割で受信アンテナに切り替えて、自アンテナが送信したレーダ送信波の反射電波を受信させることが可能である。例えば、アンテナch1が送信アンテナとして用いられる場合にも、アンテナch1からのレーダ送信波の送信直後に、アンテナch1を受信モードに切り替えることで、アンテナch1から送信されたレーダ送信波の反射電波を、アンテナch1にも受信させる。即ち、本実施例では、2つのアンテナch1、ch5の何れが送信アンテナとして用いられる場合にも、6つのアンテナch1−ch6が全て受信アンテナとして用いられる。
【0023】
本実施例において、合成部14、検出部15および出力部16は、制御部13としてのコンピュータが、制御プログラムを実行することによって実現される。ここで用いられる制御部13は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、RAM等に展開された命令及びデータを処理することでシステム全体を制御するCPU(Central Processing Unit)、RAMにロードされる各種プログラムや、ターゲット検知処理で得られた算出結果等、システムによって使用される様々なデータが記憶されるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等を有するコンピュータである。
【0024】
制御部13は、レーダ装置1に備えられた各構成を制御する。具体的には、制御部13は、レーダ送信波の送信タイミングおよびターゲットからの反射電波の受信タイミングに合わせて分配器19を制御することで、アンテナch1、ch5における送受信モードを切り替える。本実施例では、送信アンテナは時分割で高速に送信モードと受信モードとを切り替えることで、自アンテナで送信したレーダ送信波の反射電波を受信する。
【0025】
合成部14は、異なる送信アンテナから異なるタイミングで送信されたレーダ送信波に基づく反射電波の受信結果をホログラフィック合成する。このようなホログラフィック合成により、レーダ装置1が物理的に備えるアンテナ数(6つ)よりも多い仮想アンテナによる受信結果を得ることが出来る。なお、本実施例では、異なる送信アンテナから異なるタイミングで送信されたレーダ送信波に対応した、アンテナch1−ch6によるそれぞれの受信波を対応受信波と称する。したがって、本実施例では、後述する第一対応受信波と第二対応受信波が存在することになる。
【0026】
検出部15は、上記仮想アンテナによる受信結果(2つの対応受信波から合成された合成受信波)に基づいて、ターゲットの角度、距離および速度を算出する。また、出力部16は、検出部15によるターゲットの検出結果(ターゲットの角度、距離および速度を含
む情報)を確定し、確定された検出結果を、レーダ装置1に接続されたECU等に対して出力する。本実施例では、出力部16によって精度の高いターゲット検出結果が出力されるため、車載ECUは、精度の高いターゲット検知結果に基づいて、エンジンや車載ナビゲーション装置等の制御を行うことが可能となる。制御部13に含まれる各構成の詳細な作用、特に合成部14の詳細な作用については後述する。
【0027】
図2は、本実施例に係るアンテナch1−ch6の配置の概略を示す図である。本実施例では、アンテナ素子が2列に並べられたトリプレート型アンテナch1−ch6が用いられている。そして、アンテナch1−ch6は、隣接するアンテナに対して所定の間隔をおいて一列に並べられることで、アレーアンテナを構成している。ここで、アンテナch1−ch6について、各アンテナ間隔として、従来の車載用に開発されたレーダ装置において採用されていた標準的な間隔d(本実施例では、1.8λ(λ:送信波波長))が採用されている。このアンテナ間隔は、アンテナのサイズ、出力、干渉等を考慮して決定された間隔である。アンテナ間隔が1.8λである場合、FOV(Field of View)はArcsin(λ/(2*1.8λ))≒16.12度である。
【0028】
図3は、本実施例に係るアンテナch1−ch6によってターゲットからの反射電波が受信される様子を示した図である。本実施例に係るレーダ装置1は、送信アンテナから送信され、一列に並べられた受信アンテナにおいて受信された反射電波の相対位相(遅延)(図3のαによって示される)によってターゲットが位置する角度を算出するものである。図3によれば、アンテナch1−ch6において受信される反射電波の相対位相が、隣接するアンテナ間でαとなる。
【0029】
ここで、レーダ装置1によるターゲットの検出に際して、複数のターゲットからの反射波が干渉し合いその強度が小さくなってしまうと、各受信用のアンテナch1−ch6による受信波の位相を正確に検出することが困難となり、それが受信波のホログラフィック合成に好ましくない影響を与える場合がある。すなわち、ホログラフィック合成により二つの受信波を合成する場合、合成の基準となるそれぞれのアンテナにおける対応受信波の位相は同じであることを前提とするが、上記理由により受信波の位相が正確に検出できない場合には、結果としてホログラフィック合成された受信波は、対応受信波の位相誤差の分だけずれ、正確なターゲット検出が困難となる。
【0030】
そこで、本実施例に係るレーダ装置1では、対応受信波同士をホログラフィック合成するためのアンテナ(以下、「合成基準アンテナ」という)の組み合わせ(以下、「合成基準アンテナ対」という)を複数(本実施例では2つ)設定することとする。そして、上記合成部14によるホログラフィック合成においては、この2つの合成基準アンテナ対を介して、アンテナch1からの送信波に対応する、各アンテナch1−ch6による受信波である第一対応受信波と、アンテナch5からの送信波に対応する、各アンテナch1−ch6による受信波である第二対応受信波との合成が行われる。以下にその詳細を説明する。
【0031】
図4は、本実施例において、図3に示すようなレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch5を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1から送信されてアンテナch1で受信された第一対応受信波の位相を基準(すなわち遅延0)とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。アンテナch1から送信されてアンテナch2で受信された第一対応受信波の相対位相はαであり、以降、アンテナch3、ch4、ch5、ch6で受信された第一対応受信波の相対位相はそれぞれ2α、3α、4α、5αである。また、アンテナch5から送信されてアンテナch1で受信された第二対応受信波の相対位相は4αであり、以降、アンテナch2、ch3、ch4、ch5、ch6で受信された第二対応受信波の相対位相はそれぞれ5α、6α、7α
、8α、9αである。このように、レーダ装置1では、アンテナch1送信、アンテナch5受信の場合の相対位相と、アンテナch5送信、アンテナch1受信の場合の相対位相とは、同じく4αであり、アンテナch1送信、アンテナch6受信の場合の相対位相と、アンテナch5送信、アンテナch2受信の場合の相対位相とは、同じく5αである。そこで、このように各対応受信波において相対位相が同じとなるアンテナ同士を、合成基準アンテナ対と定めることで、合成部14によるホログラフィック合成が行われる。
【0032】
図4に示す各アンテナの送受信の形態と、受信アンテナでの相対位相との関係を図5にイメージとして示す。図5は、本実施例において、アンテナch1、ch5を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、各受信アンテナにおける相対位相を示す図である。なお、図5においては、送受信を行ったアンテナを黒丸で示し、受信のみを行ったアンテナを白丸で示している。また、各アンテナを示す丸印の右上に、図4に示したアンテナch1送信、アンテナch1受信の際の位相を基準とした相対位相を示している。図5に示すように、アンテナch1からの送信波に対応する第一対応受信波においては、ホログラフィック合成のために、アンテナch5とch6の2つのアンテナが合成基準アンテナとして定められており、さらにアンテナch5からの送信波に対応する第二対応受信波においては、ホログラフィック合成のために、アンテナch1とch2の2つのアンテナが合成基準アンテナとして定められている。そして、ホログラフィック合成を可能とする合成基準アンテナ同士の対、すなわちアンテナch1送信時のアンテナch5と、アンテナch5送信時のアンテナch1の対、およびアンテナch1送信時のアンテナch6と、アンテナch5送信時のアンテナch2の対が、それぞれ第一合成基準アンテナ対、第二合成基準アンテナ対とされる。
【0033】
このようにレーダ装置1においては、ホログラフィック合成のための合成基準アンテナ対が2つ定められることで、複数のターゲットの存在等に起因する第一対応受信波と第二対応受信波の信号強度の低下にかかわらず、両受信波の合成をより正確に行うことができる。従来技術では合成基準アンテナ対の数は1つであったため、該合成基準アンテナ対に含まれるアンテナでの受信波の強度は弱くなってしまうと、生じてしまった位相誤差の影響を強く受け、ホログラフィック合成された受信波にその位相誤差が加算されてしまい、正確なターゲットの検出を困難としていた。しかし、本発明に係るレーダ装置1では、上述のように合成基準アンテナ対を複数(本実施例では2つ)設けるため、一方の合成基準アンテナ対に含まれるアンテナの受信波強度が弱くても、他方の合成基準アンテナ対等を利用してそれを補うことができ、以て正確なターゲットの検出を実現できる。
【0034】
そこで、以下に図5に示すように合成基準アンテナ対を複数定めた場合の、第一対応受信波と第二対応受信波のホログラフィック合成、およびターゲットの検出の具体的な制御について、図6〜図9に基づいて説明する。図6〜図9は、本実施例に係るレーダ装置1におけるターゲット検出制御の流れを示すフローチャートである。本フローチャートに示した処理は、レーダ装置1の起動後、制御プログラムを実行する制御部13、特にホログラフィック合成処理については合成部14によって実行される。なお、処理の開始タイミングは、レーダ装置1の外部に接続されたコンピュータやECUによるターゲット検知要求に従ってもよい。また、各図に示した処理順序は一例であり、処理の順序は実施の形態に応じて適宜並び替えられてもよい。
【0035】
<ターゲット検出制御(1)>
S101では、受信部12によって、アンテナch1−ch6を介して、送信部11によってアンテナch1から送信された送信波に対応する第一対応受信波と、アンテナch5から送信された送信波に対応する第二対応受信波の受信が行われ、その受信結果を制御部13が取得する。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0036】
S102では、図5に示した、合成基準アンテナとしてのアンテナch5とch1で形成される合成基準アンテナ対(以下、「第一合成基準アンテナ対」という)と、合成基準アンテナとしてのアンテナch6とch2で形成される合成基準アンテナ対(以下、「第二合成基準アンテナ対」という)のそれぞれにおいて受信された第一対応受信波と第二対応受信波の信号強度の検出が行われる。
【0037】
その後S103で、検出された各対応受信波の信号強度が、基準となる基準信号強度以上の強度を有しているか判断され、該基準信号強度を有する合成基準アンテナを含む合成基準アンテナ対が、ホログラフィック合成を行うための合成基準アンテナ対として抽出される。この基準信号強度は、対応受信波の信号強度が比較的弱いために、そこに含まれる位相情報に比較的大きな位相誤差が生じてしまうことを回避することが可能な程度の信号強度である。すなわち、当該基準信号強度を設定するのは、対応受信波の信号強度が基準信号強度以上であれば、その対応受信波に付帯されている位相情報を比較的正確に読み取ることができると考えられることによる。具体的には、仮に第二対応受信波において合成基準アンテナであるアンテナch2によって受信された際の信号強度が基準信号強度より弱い場合には、S103では、当該アンテナch2を含まない第一合成基準アンテナ対が、ホログラフィック合成を行うための合成基準アンテナ対として抽出される。
【0038】
S104では、S103で抽出された合成基準アンテナ対を介して、第一対応受信波と第二対応受信波のホログラフィック合成が行われる。本実施例にいては、第一対応受信波要の合成基準アンテナと第二対応受信波要の合成基準アンテナをそれぞれ2つずつ定めているため、図5に示すようにホログラフィック合成後の受信波は、仮想的な10個のアンテナによる受信波として形成される。例えば、上述したようにS103において第一合成基準アンテナ対のみが抽出された場合には、第一対応受信波におけるアンテナch5の位相と、第二対応受信波におけるアンテナch1の位相とを重ねることで、両対応受信波のホログラフィック合成を行う。このとき、ホログラフィック合成後の6番目の仮想アンテナの位相情報としては、信号強度が弱いと判断された第二対応受信波におけるアンテナch2の位相情報は使用せず、第一対応受信波におけるアンテナch6の位相情報を使用する。これは、上述したように第二対応受信波におけるアンテナch2の位相情報には、位相誤差が多く含まれている可能性が高いからである。
【0039】
別のホログラフィック合成の形態として、S103の処理で第一合成基準アンテナ対と第二合成基準アンテナ対の2つが抽出された場合を考える。この場合には、各合成基準アンテナ対に含まれるアンテナでの位相情報は、ホログラフィック合成を行うにあたり支障はないと判断される誤差レベルである。そこで、第一対応受信波と第二対応受信波の合成に際しては、第一合成基準アンテナ対と第二合成基準アンテナ対の何れか一方を適宜、ホログラフィック合成のために使用してもよい。また、第一合成基準アンテナ対におけるアンテナch5とアンテナch1による受信波位相の位相差と、第二合成基準アンテナ対におけるアンテナch6とアンテナch2による受信波位相の位相差とのうち位相差が小さくなる方の合成基準アンテナ対を使用するようにしてもよい。
【0040】
S104の処理が終了すると、S105へ進む。S105では、S104でのホログラフィック合成の結果に基づくターゲット角度が、検出部15によって算出される。なお、アレーアンテナにおいて受信された反射電波の相対位相に基づいてターゲット角度を算出する技術は従来技術であるため、詳細な説明は省略する。また、本実施例に係るレーダ装置1では、FM‐CW方式でレーダ送信波を送信しているため、受信電波の、ターゲットの距離による時間遅れ、およびターゲットの速度によるドップラシフトから、ターゲットの距離および速度についても算出することが可能である。S105で得られたターゲット検出結果は、出力部16によってレーダ装置1に接続されたECU等に対して出力される。その後、S101からS105までの処理が繰り返されることで、本実施例に係るレー
ダ装置1は、定期的にターゲットの検知を行い、検知結果をECU等に対して出力する。
【0041】
上記ターゲット検出制御によれば、レーダ装置1は、ホログラフィック合成を行うための複数の合成基準アンテナ対を有しており、そのうち受信波の信号強度が所定の基準信号強度以上である合成基準アンテナ対を介して当該ホログラフィック合成を行うため、位相誤差の影響を可及的に排除することができる。その結果、ターゲットのより正確な検出を実現可能とする。
【0042】
<ターゲット検出制御(2)>
次に、レーダ装置1によるターゲット検出のための第二のターゲット検出制御について図7に基づいて説明する。なお、当該制御において、上記第一のターゲット検出制御と同一の処理が行われる点については、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。本制御においてはS102の処理が終了すると、S201へ進む。S201では、2つの合成基準アンテナ対のうち、信号強度が最高の合成基準アンテナ対が抽出される。ここで、合成基準アンテナ対の信号強度とは、そこに含まれる合成基準アンテナによる受信波の信号強度に基づいて決定され、例えば、合成基準アンテナ対に含まれる2つの合成基準アンテナによる受信波の信号強度の平均値と定義できる。なお、これ以外の定義も採用可能である。S201の処理が終了すると、S202へ進む。
【0043】
S202では、S201で抽出された最高信号強度の合成基準アンテナ対を介して、第一対応受信波と第二対応受信波のホログラフィック合成が行われる。すなわち、本制御においては、常に受信波の信号強度が最強の合成基準アンテナ対が、複数ある合成基準アンテナ対から選択されるため、ホログラフィック合成における信号誤差の影響を可及的に回避することが可能となり、以てターゲットのより正確な検出を実現可能とする。
【0044】
<ターゲット検出制御(3)>
次に、レーダ装置1によるターゲット検出のための第三のターゲット検出制御について図8に基づいて説明する。なお、当該制御において、上記第一のターゲット検出制御と同一の処理が行われる点については、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。本制御においてはS102の処理が終了すると、S301へ進む。
【0045】
S301では、第一合成基準アンテナ対と第二合成基準アンテナ対に含まれる合成基準アンテナ(本制御の場合は4つの合成基準アンテナ)による受信波の信号強度に基づいて、ホログラフィック合成のための補正位相の算出が行われる。具体的には、2つの合成基準アンテナ対のうち、そこに含まれる2つの合成基準アンテナによる受信波の信号強度の平均値が高い合成基準アンテナ対において、そこに含まれる2つの合成基準アンテナによる受信波強度に応じて、それぞれの合成基準アンテナでの位相が加重平均され、補正位相が算出される。例えば、第一合成基準アンテナ対において合成基準アンテナであるアンテナch5の信号強度と、合成基準アンテナであるアンテナch1の信号強度との比が4:1である場合に、それぞれの受信波位相(α5、α1)を4:1で加重平均して得られる位相α’(=(4・α5+α1)/5)を補正位相として算出する。S301の処理が終了すると、S302へ進む。
【0046】
S302では、S301で算出された補正位相に基づいて、該補正位相の算出が行われた合成基準アンテナ対を介して第一対応受信波と第二対応受信波のホログラフィック合成が行われる。上記例に従って説明すると、合成基準アンテナであるアンテナch5に対応する第一対応受信波において、アンテナch5の位相が補正位相α’になるように、それ以外のアンテナch1−ch4およびch6における位相をシフトさせる。一方で、合成基準アンテナであるアンテナch1に対応する第二対応受信波において、アンテナch1の位相が補正位相α’になるように、それ以外のアンテナch2−ch6における位相を
シフトさせる。その結果、第一対応受信波と第二対応受信波のホログラフィック合成が行われる。S302の処理が終了すると、S105へ進み、ターゲットの検出が行われる。
【0047】
本制御によれば、複数ある合成基準アンテナ対の中から平均信号強度の高い合成基準アンテナ対を介して、受信波の信号強度に応じた補正位相を利用したホログラフィック合成が行われる。その結果、信号誤差の影響を可及的に回避することが可能となり、以てターゲットのより正確な検出を実現可能とする。なお、上記補正位相の算出は、2つの合成基準アンテナ対のそれぞれで行ってもよい。この場合、各合成基準アンテナ対に含まれる2つの合成基準アンテナによる受信波の信号強度の平均値が高い合成基準アンテナ対においては、残りの合成基準アンテナ対に対応する部分を除いて、上述した補正位相に基づいた各対応受信波の合成を行うが、該残りの合成基準アンテナ対に対応する部分については、その合成基準アンテナ対に対して算出された補正位相を、ホログラフィック合成された受信波位相の一部として取り込んでもよい。また、上記加重平均による補正位相の算出は、信号強度に比例的である必要はない。信号強度が強くなるに従い、その重みを指数関数的にもしくは二次、三次関数的に増加させた加重平均を行ってもよい。
【0048】
<ターゲット検出制御(4)>
次に、レーダ装置1によるターゲット検出のための第四のターゲット検出制御について図9に基づいて説明する。なお、当該制御は、上記第一のターゲット検出制御の発展的な制御であり、それと同一の処理が行われる点については、同一の参照番号を付すことでその詳細な説明を省略する。本制御においてはS103の処理が終了すると、S401での判定が行われる。
【0049】
S401では、S103での抽出結果に基づいて、抽出された合成基準アンテナ対が存在しないか否かが判定される。すなわち、ホログラフィック合成に好適な基準信号強度を有する合成基準アンテナ対が抽出されなかったか否かが、S401で判定されることになる。ここで否定判定されると、上記第一のターゲット検出制御と同じく、S104およびS105の処理が順次行われる。一方で肯定判定されると、S402の処理が行われる。
【0050】
S402では、第一合成基準アンテナ対もしくは第二合成基準アンテナ対の何れか一方の合成基準アンテナ対に含まれる合成基準アンテナによる第一対応受信波と第二対応受信波のそれぞれの位相の推定が行われる。ここで、一方の合成基準アンテナ対に対してのみ上記位相推定が行われるのは、ホログラフィック合成が行われる合成基準アンテナ対は一つで十分であることに依る。本実施例では、第一合成基準アンテナ対に含まれるアンテナch5とアンテナch1のそれぞれに受信された第一対応受信波と第二対応受信波の各位相が推定されることとする。
【0051】
ここで、具体的な位相推定について説明する。アンテナch5による第一対応受信波の位相推定は、信号強度が弱いと判定された合成基準アンテナ群に含まれないアンテナch1−ch4のうち信号強度が基準信号強度以上のアンテナによって受信された第一対応受信波の位相に基づいて行われ、推定位相θ1が算出される。推定の一例を挙げると、アンテナch1−ch4のうち信号強度が基準信号強度以上のアンテナによって受信された第一対応受信波の位相と、各アンテナ間の距離に基づいて最小二乗法によりアンテナch5での第一対応受信波の位相が推定される。同様に、アンテナch1による第二対応受信波の位相推定についても、信号強度が弱いと判定された合成基準アンテナ群に含まれないアンテナch3−ch6のうち信号強度が基準信号強度以上のアンテナによって受信された第二対応受信波の位相に基づいて行われ、推定位相θ2が算出される。S402の処理が終了すると、S403へ進む。
【0052】
S403では、S402で推定された第一合成基準アンテナ対における、第一対応受信
波の位相θ1と第二対応受信波の位相θ2の位相差Δθが算出される。その後、S404で、上記位相差Δθに基づいた第一対応受信波と第二対応受信波のホログラフィック合成が行われる。具体的には、第一対応受信波に対して第一合成基準アンテナ対を介して第二対応受信波を合成するにあたり、上記位相差Δθ分、第二対応受信波全体をシフトさせる。S404の処理が終了するとS105へ進み、ターゲットの検出が実行される。
【0053】
本制御によれば、第一合成基準アンテナ対と第二合成基準アンテナ対による対応受信波の信号強度がホログラフィック合成のために十分でなくても、上記位相推定を行うことで比較的正確なホログラフィック合成を実現することができる。その結果、ターゲットのより正確な検出が実現可能となる。
【実施例2】
【0054】
本発明に係るレーダ装置1の第二の実施例を以下に示す。図10に示すように、本実施例に係るレーダ装置1のアンテナ間隔については、アンテナch1とアンテナch2の間隔は、アンテナch2−ch6のアンテナ間隔dの1.5倍のアンテナ間隔である3/2d(本実施例では、2.7λ)が採用される。この構成により、レーダ装置1の検出部15によって、後述する狭FOV用仮想アンテナによる受信結果に基づくターゲット角度の算出と、広FOV用仮想アンテナによる受信結果に基づくターゲット角度の算出と、が行われ、以て従来と同等のFOVにおけるターゲット検知結果と、従来よりも広いFOVにおけるターゲット検知結果と、を得ることが出来る。
【0055】
また、本実施例において採用されるアンテナは2列アンテナであり(図2を参照。ただしアンテナ間隔は本実施例の間隔と相違する。)水平面指向性を有するものの、間隔1.8λの場合±30度まで−10dB以上のアンテナ特性を有しているため、FOV内に、FOVの外に位置しているターゲットからの反射電波によるゴーストが検知されてしまう。そこで、検出部15によって、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を、広FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果を用いて補正することで、狭FOV用仮想アンテナに基づくターゲット角度算出結果に含まれるゴーストを除去することも可能とされる。なお、ゴースト判定処理の詳細については、後述する。
【0056】
ここで、図11は、本実施例において、図10に示すレーダ波の送受信が、アンテナch1、ch2、ch5を送信アンテナとして順次切り替えて行われた場合の、アンテナch1から送信されてアンテナch1で受信された電波の位相を基準とした、各受信アンテナにおける受信電波の相対位相を示す図である。アンテナch1から送信されてアンテナch2で受信された電波の相対位相は3/2αであり、同様に、アンテナch2から送信されてアンテナch1で受信された電波の相対位相は3/2αである。また、アンテナch2送信、アンテナch5受信の場合の相対位相と、アンテナch5送信、アンテナch2受信の場合の相対位相とは、12/2αであり、アンテナch2送信、アンテナch6受信の場合の相対位相と、アンテナch5送信、アンテナch3受信の場合の相対位相とは、14/2αである。
【0057】
ここで、アンテナch1を送信アンテナとした時のアンテナch1−ch6による受信波を第一対応受信波とし、アンテナch2を送信アンテナとした時のアンテナch1−ch6による受信波を第二対応受信波とし、アンテナch5を送信アンテナとした時のアンテナch1−ch6による受信波を第三対応受信波とする。このとき、図12に、各対応受信波における相対位相を示す。図12によれば、アンテナch1送信の際にアンテナch3−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、アンテナch2送信の際にアンテナch2−ch5によって受信された受信電波の相対位相とを、第一合成基準アンテナ対(第一対応受信波におけるアンテナch2と第二対応受信波におけるアンテナch1)を介してホログラフィック合成すると、各受信電波の相対位相は1/2α間隔となり、1
/2d(0.9λ)間隔で並べられた8つの仮想アンテナによる受信結果が得られることが分かる。即ち、本実施例では、物理的に間隔dをもって設けられたアレーアンテナ中に、更に広い間隔3/2dをもって設けるアンテナを配し、送信アンテナを切り替えて送受信された結果をホログラフィック合成することで、実際にはアンテナ間干渉等の問題から設置することの困難な間隔1/2dのアンテナによる受信結果と同等の受信結果を得ることが出来る。そして、間隔1/2dの8つの仮想アンテナは、間隔dのアンテナに比べて広いFOV(Arcsin(λ/(2*0.9λ))≒33.7度)を有するため、広FOV用仮想アンテナとして用いることが可能である。
【0058】
また、本実施例では、アンテナch2送信の際にアンテナch2−ch6によって受信された受信電波の相対位相と、アンテナch5送信の際にアンテナch2−ch6によって受信された受信電波の相対位相とを、第二合成基準アンテナ対(第二対応受信波におけるアンテナch5と第三対応受信波におけるアンテナch2)および第三合成基準アンテナ対(第二対応受信波におけるアンテナch6と第三対応受信波におけるアンテナch3)を介してホログラフィック合成すると、間隔dで並べられた8つの仮想アンテナによる受信結果を得ることが出来るという、実際のアンテナ数よりも多い仮想アンテナによる受信結果を得るという目的も果たすことが出来る。また、間隔dの8つの仮想アンテナは、上記した間隔1/2dの8つの仮想アンテナに対して狭いFOV(約16.12度)を有するため、狭FOV用仮想アンテナとして用いることが出来る。
【0059】
そして、第二対応受信波と第三対応受信波のホログラフィック合成において、上述した第一の実施例の場合と同様に、複数(本実施例の場合は2つ)の合成基準アンテナ対が定められるため、上述した第一から第四のターゲット検出制御が適用され、以てより正確なターゲット検出が可能となる。
【0060】
ここで、上述したゴースト判定処理の詳細について、以下に説明する。図13は、本実施例に係る広FOV用仮想アンテナおよび狭FOV用仮想アンテナによる角度検出可能な範囲を示すグラフである。グラフの横軸には実際のターゲットの角度を示し、グラフの縦軸にはレーダ装置1によってターゲットが検出される角度を示す。また、太線は狭FOV用仮想アンテナを用いた場合の角度検出、細線は広FOV用仮想アンテナを用いた場合の角度検出を示す。
【0061】
例えば、図13のグラフ中の横軸に×で示した角度にターゲットが配置されていた場合、狭FOV用仮想アンテナ、即ち、実際のアンテナ間隔dと同等のFOVを有するアンテナでは、縦軸の破線×で示した角度にターゲットが検出され、ゴーストが発生してしまう。そこで、本実施例では、狭FOV用仮想アンテナによる検出結果と広FOV用仮想アンテナによる検出結果とを比較することで、ゴーストの発生を判定する。即ち、上記に示した例では、横軸に×で示した角度にターゲットが配置されていた場合、広FOV用仮想アンテナでは、縦軸の実線×で示した正しい角度にターゲットが検出され、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットは検出されない。このため、狭FOV用仮想アンテナで検出された破線×のターゲットがゴーストであると判断出来る。
【符号の説明】
【0062】
1・・・・レーダ装置
11・・・・送信部
12・・・・受信部
13・・・・制御部
14・・・・合成部
15・・・・検出部
16・・・・出力部
19・・・・分配器
ch1−ch6・・・・アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波の送信を行う少なくとも二つの送信アンテナを順次切り換え、送信波がターゲットで反射された反射波を複数の受信アンテナで受信して得られた受信信号に基づいてターゲットを検出するレーダ装置であって、
前記少なくとも二つの送信アンテナのそれぞれから送信された送信波が前記ターゲットで反射された反射波を前記複数の受信アンテナを介して、それぞれの送信波に対応した対応受信波として受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信された複数の前記対応受信波を合成することで、前記複数の受信アンテナより多数の仮想的な受信アンテナによる受信結果を得る合成手段と、
前記合成手段によって得られた受信結果に基づいて、前記ターゲットの検出を行う検出手段と、を備え、
前記合成手段は、合成される複数の前記対応受信波のうち少なくとも第一対応受信波と第二対応受信波について、該第一対応受信波の受信を行った前記複数の受信アンテナのうち少なくとも二つ以上の所定数の受信アンテナと該第二対応受信波の受信を行った前記複数の受信アンテナのうち前記所定数と同数の受信アンテナを、合成のための合成基準アンテナと定め、該第一対応受信波の該所定数の合成基準アンテナと該第二対応受信波の該所定数の合成基準アンテナとの間に形成される、対応受信波の位相合成が可能な合成基準アンテナ同士の該所定数の合成基準アンテナ対のうち少なくとも一つの合成基準アンテナ対を介して、受信波位相に基づいた該第一対応受信波と該第二対応受信波の合成を行う、
レーダ装置。
【請求項2】
前記合成手段は、前記所定数の合成基準アンテナ対において各合成基準アンテナ対に含まれるそれぞれの合成基準アンテナの受信波強度が基準信号強度を超えるとき、該合成基準アンテナ対を前記一つの合成基準アンテナ対として、前記第一対応受信波と前記第二対応受信波の合成を行う、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記合成手段は、前記所定数の合成基準アンテナ対のうち、そこに含まれるそれぞれの合成基準アンテナの受信波強度が最も強い合成基準アンテナ対を介して、受信波位相に基づいた該第一対応受信波と該第二対応受信波の合成を行う、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記合成手段は、
前記第一対応受信波の前記所定数の合成基準アンテナのそれぞれの受信信号の強度と、前記第二対応受信波の前記所定数の合成基準アンテナのそれぞれの受信信号の強度に基づいて、該第一対応受信波と該第二対応受信波との合成のための補正位相を算出する補正位相算出手段を有し、
前記合成手段は、前記少なくとも一つの合成基準アンテナ対を介して、前記補正位相算出手段によって算出された補正位相に基づいた前記第一対応受信波と前記第二対応受信波の合成を行う、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記合成手段は、
前記少なくとも一つの合成基準アンテナ対に含まれる合成基準アンテナの信号強度が、基準信号強度より小さいか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記合成基準アンテナの信号強度が前記基準信号強度より小さいと判定されたとき、前記合成基準アンテナ対のうち前記第一対応受信波に対応する一方の合成基準アンテナを前記複数の受信アンテナから除いて形成される、残りの受信アンテナの受信波位相に基づいて、該一方の合成基準アンテナの受信波位相を推定する第一推定手段
と、
同様に前記合成基準アンテナの信号強度が前記基準信号強度より小さいと判定されたとき、前記合成基準アンテナ対のうち前記第二対応受信波に対応する他方の合成基準アンテナを前記複数の受信アンテナから除いて形成される、残りの受信アンテナの受信波位相に基づいて、該他方の合成基準アンテナの受信波位相を推定する第二推定手段と、を有し、
前記合成手段は、前記第一推定手段によって推定された受信波位相と前記第二推定手段によって推定された受信波位相との位相差を算出し、前記一つの合成基準アンテナ対を介して前記受信波位相および前記位相差に基づいた前記第一対応受信波と前記第二対応受信波の合成を行う、
請求項1に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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