説明

レーダ装置

【課題】クラッタ抑圧性能と目標信号保存性能を両立させる。
【解決手段】送受信アンテナを有する送受信回路1と、送受信回路1から入力される受信信号を入力して、その中のクラッタを抑圧する複数のFIRフィルタ2と、各FIRフィルタ2の出力信号をフーリエ変換する複数のFFT手段3と、FFT手段3の出力の中から、目標信号検出に使用するFFT出力結果を選択するFFT出力選択手段4と、FFT出力選択手段4の出力結果を用いて目標信号を検出する複数の目標検出手段5と、目標検出結果を表示する表示手段6と、FFT出力選択手段4でFFT出力結果を選択するために用いる切替周波数を記憶する切替周波数データベース7とを備え、FIRフィルタ2の振幅特性は全て互いに異なる。FFT出力選択手段4は、振幅利得の最も高いFIRフィルタ2の出力を用いるようにFFT手段3の出力を切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はレーダ装置に関し、特に、アンテナからパルス電波を目標物に照射して反射電波を受信し、受信信号に含まれる静止物体(目標物以外)からの不要反射エコーであるクラッタを抑圧して、目標物を検出するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダ装置においては、パルス状の電波を空間に放射し、目標物からのエコーを抽出して距離計測が行われるが、受信時には目標物からの反射エコー以外に、クラッタと呼ばれる、目標物以外の他の物体からの不要な反射エコーも同時に受信することが多い。
【0003】
このようなクラッタは、正確な目標検出処理を妨げるものであるから、従来から捜索系のレーダ装置にはクラッタを抑圧する方式の一例として、MTI(Moving Target Indicators)が備えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
MTIは、「移動する目標からのエコーにはドップラー周波数が発生するが、地面や建築物からのエコーであるグランドクラッタにはドップラー周波数が発生しないこと」を利用して、クラッタのみを抑圧する一種の高域通過フィルタである。
【0005】
つまり、MTIは各レンジビンの受信信号において、1パルス遅延させた受信信号を差し引くことにより、ドップラー周波数が0付近にその電力が集中するクラッタを抑圧する方式である。
【0006】
よく使用されるMTIとして、伝達関数が「1−z-1」で表されるMTIは、単一消去器と呼ばれ、また、(1−z-1)M(M>1)で表されるMTIは、多重消去器と呼ばれる。
【0007】
MTIにおいては、多重化する(フィルタ次数を増やす)ほど、阻止域幅が広くなり、かつ阻止域減衰量が大きくなってクラッタ抑圧性能が高くなる傾向がある。しかしながら、フィルタの零点を多重化させることでのみ、阻止域減衰量を調整していることになり、次数が高いMTIは、高いクラッタ抑圧性能を示すが、通過帯域幅が狭いという欠点がある。すなわち、MTIによってクラッタが抑圧される一方で、目標信号もMTI処理によって減衰する可能性が高いということになる。
【0008】
一方、MTIのようなクラッタ抑圧フィルタは、一般的なトランスバーサル型のFIRフィルタで実現することもできる。フィルタ次数を高くすれば抑圧性能を保ちつつ通過域幅を広くすることも可能である。しかしながら、設計方法によっては通過域に大きなリップルが発生して目標信号電力を低下させる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭58−55474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のレーダ装置は以上のように構成されているので、MTIによりクラッタを抑圧した場合、目標物の移動速度によっては、目標信号がMTIにより大きく減衰して目標検出が困難になるという問題点があった。また、通過域幅が広いFIRフィルタをクラッタ抑圧フィルタとして使用した場合においても、通過域のリップルの影響で目標信号が大きく減衰して目標検出が困難になるという問題点があった。
【0011】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、MTIフィルタよりも通過域幅が広い複数のFIRフィルタ等を組み合わせることにより、クラッタ抑圧性能と目標信号保存性能を両立させることができるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、パルス電波を送受信して受信信号を生成する送受信処理回路と、前記受信信号中のクラッタを抑圧する複数のクラッタ抑圧フィルタと、各前記クラッタ抑圧フィルタからの出力信号に対してコヒーレント積分を行う複数のFFT手段と、前記複数のFFT手段からの出力信号のうち、振幅利得が最も高いクラッタ抑圧フィルタからの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択するように切り替えを行うFFT出力選択手段と、前記FFT出力選択手段の切り替えを行うための周波数値を記憶する切替周波数データベースと、前記FFT出力選択手段からの出力結果を用いて目標検出処理を行う目標検出手段と、前記目標検出手段の出力結果を画面上に表示する表示手段とを備えたレーダ装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、パルス電波を送受信して受信信号を生成する送受信処理回路と、前記受信信号中のクラッタを抑圧する複数のクラッタ抑圧フィルタと、各前記クラッタ抑圧フィルタからの出力信号に対してコヒーレント積分を行う複数のFFT手段と、前記複数のFFT手段からの出力信号のうち、振幅利得が最も高いクラッタ抑圧フィルタからの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択するように切り替えを行うFFT出力選択手段と、前記FFT出力選択手段の切り替えを行うための周波数値を記憶する切替周波数データベースと、前記FFT出力選択手段からの出力結果を用いて目標検出処理を行う目標検出手段と、前記目標検出手段の出力結果を画面上に表示する表示手段とを備えたレーダ装置であるので、MTIフィルタよりも通過域幅が広い複数のFIRフィルタ等を組み合わせることにより、クラッタ抑圧性能と目標信号保存性能を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の構成を示したブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の変形例の構成を示したブロック図である。
【図3】図2に示すこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置の動作を図式的に示す説明図である。
【図4】図2に示すこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置において、FIRフィルタの処理結果とMTIフィルタの処理結果とを選択的に切り替える動作を示す説明図である。
【図5】図1,2に示すこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置に設けられたFIRフィルタの構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示したブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置における周波数補正量算出手段の必要性を示す説明図である。
【図8】フィルタ次数が共に2次のMTIフィルタとFIRフィルタの振幅特性の一例を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置の構成を示したブロック図である。
【図10】図9に示すこの発明の実施の形態3に係るレーダ装置において、FIRフィルタの処理結果とMTIフィルタの処理結果とを選択的に切り替える動作を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態4に係るレーダ装置の構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、送受信アンテナを有する送受信回路1と、送受信回路1から入力される受信信号を入力してクラッタを抑圧する複数のクラッタ抑圧フィルタ(FIRフィルタ2a〜2x)と、夫々のクラッタ抑圧フィルタの出力信号をフーリエ変換するFFT手段3a〜3xと、FFT手段3a〜3xの出力の中から、目標信号検出に使用するFFT出力結果を選択するFFT出力選択手段4と、FFT出力選択手段4の出力結果を用いて目標信号を自動検出する目標検出手段5a〜5xと、目標検出結果を表示する表示手段6と、FFT出力選択手段4で用いられる切替周波数を記憶している切替周波数データベース7とにより構成されている。
【0017】
なお、図1においては、クラッタ抑圧フィルタの個数は任意であり、また、複数のクラッタ抑圧フィルタは、すべて、FIRフィルタから構成されており、それらのFIRフィルタ2a〜2xは、振幅特性が全て異なるフィルタであり、通過域でのリップルの最小値と最大値とが現れる周波数が互いに異なるものである。
【0018】
図2は、図1に示すこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置の変形例を示すブロック図である。図2においては、クラッタ抑圧フィルタの個数は2個で、その一方がFIRフィルタで、他方はMTIフィルタから構成されている。他の構成については、図1と同一である。
【0019】
従って、図2に示すこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、送受信アンテナを有する送受信回路1と、送受信回路1から入力される受信信号を入力してクラッタを抑圧する第1のクラッタ抑圧フィルタとしてのFIRフィルタ10と、送受信回路1から入力される受信信号を入力してクラッタを抑圧する第2のクラッタ抑圧フィルタとしてのMTIフィルタ11と、FIRフィルタ10の出力信号をフーリエ変換するFFT手段3aと、MTIフィルタ11の出力信号をフーリエ変換するFFT手段3bと、FFT手段3aとFFT手段3bの出力結果を入力し、それらの中から、目標信号検出に使用するFFT出力結果を選択するFFT出力選択手段4と、FFT出力選択手段4の出力結果に基づいて目標信号を自動検出する目標検出手段5と、目標検出結果を表示する表示手段6と、FFT出力選択手段4で用いられる切替周波数を記憶している切替周波数データベース7により構成されている。
【0020】
図3は、図2に示す実施の形態1に係るレーダ装置の動作をグラフにより図式的に示す説明図である。横軸は説明を簡単にするため正規化した周波数範囲で0〜0.5までを示し、縦軸はフィルタの振幅値を示している。図3においては、FIRフィルタ10(FIR4次)とMTIフィルタ11(MTI4次)とで、通過域幅と通過域におけるフィルタ利得が異なることを示している。なお、図3については後述する。
【0021】
また、図4は、図2に示す実施の形態1に係るレーダ装置における、FIRフィルタ10(FIR4次)とMTIフィルタ11(MTI4次)の処理結果を切り替える動作を示す説明図である。破線で示した切り替え周波数より低い周波数領域ではFIRフィルタ10の出力結果を用いて、高い周波数領域ではMTIフィルタ11の出力結果を用いることを示している。
【0022】
図5は、図1及び図2に示すFIRフィルタ10の具体的構成を示すブロック図であり、クラッタ抑圧フィルタとしての抑圧処理を実行するための機能構成を示している。
【0023】
図5において、受信信号x(n)は、レンジビンkごとのフィルタ係数h(l)、(l=0、1、…、L)が乗算され、これらを総和することによりクラッタ抑圧処理された出力信号y(n)となる。
【0024】
次に、図1〜図5を参照しながら、この発明の実施の形態1によるレーダ装置の動作について説明する。図1と図2のレーダ装置は、基本的に、同じ動作を行う。
【0025】
図1,図2のレーダ装置においては、まず、送受信回路1の送信アンテナからパルス状の電波が放射される。続いて、当該電波が目標物で反射され、送受信回路1の受信アンテナで反射波が受信される。受信された反射波は、送受信回路1において、位相検波されてベースバンドの受信信号に変換された後、標本化および量子化が施されてディジタル信号に変換される。ディジタル変換された受信信号は、受信電波の位相を保持しており、I信号(In−phase signal)と、Q信号(Quadrature−phase signal)とを、それぞれ実部および虚部に持つ複素信号である。
【0026】
このとき、信号の標本化は、すべての受信信号に対して同じタイミングで行われ、送信信号を送信した時点から一定時間後に、一定周期で標本化が行われる。1つの受信信号からは、x(n)、x(n)、・・・、x(n)で示される総数k個のディジタル受信信号が生成される。
【0027】
ここでは、「n」をヒット番号と呼び、受信信号の時間因子を表すパラメータとして扱う。また、「k」はレンジビン番号と呼び、標本化の順番(レーダからの距離)を表すパラメータとして扱う。
【0028】
以上の処理で得られたディジタル受信信号x(n)は、図1及び図2に示すレーダ装置の入力信号となる。ここまでの処理は、図1,図2で全く同じである。
【0029】
図1に示したこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置では、受信信号x(n)が分岐されて複数のFIRフィルタ2a〜2xへ転送される。これらのFIRフィルタ2a〜2xはドップラー周波数0の利得が非常に小さいノッチフィルタであり、ドップラー周波数0に電力が集中する静止クラッタを抑圧することができる。上記でも述べたが、図1において、複数のFIRフィルタ2a〜2xは、全て異なる振幅特性を示すものである。具体的には、通過域における振幅の変動であるリップルの最大値と最小値が現われる周波数が互いに異なる。このような特性を有する複数のFIRフィルタ2a〜2xをクラッタ抑圧フィルタとして用意して、その中から、通過域におけるフィルタ利得が最も大きいフィルタを動的に選択して、切り替えていくことにより、常にクラッタ抑圧処理後の目標信号電力を最大に保つことができる。
【0030】
但し、FIRフィルタによるクラッタ抑圧処理は時間領域での処理になるため、この処理だけでは周波数軸上でのフィルタ切り替えを行うことはできない。そこで、これに対応するための本実施の形態1における構成を以下に述べる。
【0031】
レーダ信号処理では、積分処理を行ってS/N比(目標対雑音電力比)を改善して目標検出性能を向上させる処理がよく行われる。本発明の実施の形態1に係るレーダ装置では、この積分処理の一方法として、FFT手段3a〜3xで、FFTによるコヒーレント積分を実施する場合を想定する。このFFTによりクラッタ抑圧処理が施された受信信号は周波数成分に変換される。FFT点数をNとすると、FFT手段3a,3b,・・・,3xからの出力は、図1に示すように、それぞれ、N個のチャネルに分割されて(Ch1,Ch2,・・・,ChN)、FFT出力選択手段4に入力される。
【0032】
ここで、複数のFFT手段3a〜3xによる処理を、並列に実施するか、あるいは、時分割で実施する等して、処理結果を保存しておき、それらの出力結果から適切な出力信号を、FFT出力選択手段4によって選択するようにすれば、FIRフィルタ2a〜2xを周波数軸上で切り替えたことと等価な処理になる。ここで、FFT手段3a〜3xの処理結果の保存場所は、FFT手段3a〜3xのそれぞれでもよいし、FFT出力選択手段4でもよい。なお、FFT出力選択手段4での切り替えを行う周波数軸上の切替周波数値は、予め、切替周波数データベース7に保存されているので、その値をFFT出力選択手段4が読み出して、当該切替周波数値に基づいて切り替え処理を行う。
【0033】
なお、図1において使用する複数のFIRフィルタ2a〜2xは、通過域のリップルによる振幅利得の落ち込みを互いに補うことができれば、いくつ用意しても構わない(任意の個数が可)。
【0034】
図1の構成においては、このようにして、切替周波数データベース7に予め切替周波数値を保存しておき、それを基に、FFT出力選択手段4が、FFT手段3a〜3xの出力の中から、通過域におけるフィルタ利得が最も大きいFIRフィルタ2a〜2xに対応しているものを動的に選択することにより、常にクラッタ抑圧処理後の目標信号電力を最大に保つことができる。
【0035】
図2に示したこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、最も使用するフィルタ数が少ない場合の具体例である。図2では、FIRフィルタを1つ、従来のMTIフィルタを1つ使用し、都合2つのクラッタ抑圧フィルタを使用する構成になっている。しかしながら、これに限定されるものではなく、クラッタ抑圧フィルタおよびFFT手段は任意の個数設けるようにしてよい。
【0036】
以下、図2に示した本発明の実施の形態1に係るレーダ装置の機能構成ブロック図に従って、目標信号保存性能が改善されることを説明する。
【0037】
図2に示したこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置では、送受信回路1から出力された受信信号xk(n)は、まず、MTIフィルタ11で処理される。ここでは、一般的なMTIフィルタとして知られている多重消去器(例えば、4次)を考える。このMTIフィルタ11の伝達関数F(z)は、以下の式(1)のように表される。
【0038】
【数1】

【0039】
ここで、LはMTIフィルタ11の多重度を示す。これがフィルタ次数になる。
【0040】
同時に受信信号x(n)は、FIRフィルタ10で処理される。ここでは、通過域幅を広げるため、次式(2)に示す伝達関数G(z)を持つFIRフィルタを用いた。
【0041】
【数2】

【0042】
ここで、αはフィルタ係数正規化のための定数である。また、LはFIRフィルタ10全体の次数であり,MはFIRフィルタ10の零点多重度を示す。a(m)はフィルタの通過域幅を調整するための0でない定数である。なお、この形の伝達関数を持つフィルタを用いる理由は、以下の2点である。
【0043】
(A)z=1(f=0)に一重、又は多重の阻止零点を形成することで、クラッタスペクトルの中心周波数近傍のフィルタゲインを小さくしてクラッタ抑圧比を大きくすることができる。
【0044】
(B)多重消去器に比べるとクラッタ抑圧比は劣るが、式(2)の右辺Σの項を設けることで通過域幅を広くすることができて、移動目標(ドップラー周波数が0でない目標信号)がフィルタにより減衰する可能性が低くなる。
【0045】
また、f=0に阻止零点を設定しない設計法もある。例えば、f=0の両側、即ちf=±δに零点を設定する具合である(δはごく小さな実数)。この場合、式(2)よりも通過域幅が広いフィルタを設計することができるが、クラッタ抑圧比が小さくなる。
【0046】
式(2)の右辺第二項、即ちΣの項はフィルタ通過域の特性をどのようにするかによって決まる。本発明では、できるだけ低い次数で、且つ、できるだけ少ない設計パラメータでフィルタ通過域を広げる効果を得たいという点を重視することから、上記Σの項は、a(0)=1、a(1)=rとした。このとき、式(2)は、下記の式(3)になる。
【0047】
【数3】

【0048】
式(3)に新たに設けた変数rを調整することで、クラッタ抑圧フィルタの通過域幅を変化させることができる。式(3)の右辺第一項は、多次のMTIフィルタと同じ形になっており、ドップラー周波数0のフィルタ利得を著しく下げてグランドクラッタを抑圧する効果がある。式(3)の右辺第二項は、MTIフィルタでは通過域となる領域の利得を敢えて下げたような1次フィルタと同じ特性になる。この両者を掛け合わせることで、MTIフィルタの振幅特性でピークを示していた領域の通過域利得をやや犠牲にして、その分通過域幅を広げることが可能になる。rが大きい程通過域幅を広げる効果があるが、逆に阻止域幅が狭くなるのでクラッタ抑圧性能は劣化する。従って、設計したFIRフィルタが所要の静止クラッタ抑圧性能を保持していることを確認しておく必要がある。
【0049】
式(1)のMTIフィルタ11、式(3)のFIRフィルタ10の伝達関数は、トランスバーサル型フィルタの伝達関数に変形することができる。そのときのフィルタ係数h(l)とすると、L次のフィルタ処理後の出力信号y(n)は、次式のようになる。
【0050】
【数4】

【0051】
出力信号y(n)は、静止クラッタが抑圧された信号になる。
【0052】
次に、クラッタ抑圧処理が施された信号に対して、S/N改善のために、FFT手段3a,3bで(図1の構成ではFFT手段3a,3b,・・・,3xで)、コヒーレント積分処理を行う。次式(5)の離散フーリエ変換を行うが、ここでは高速に離散フーリエ変換を実施できるFFT(Fast Fourier Transform)を用いる。
【0053】
【数5】

【0054】
ここで、Nは受信信号のヒット数、Pはフーリエ変換点数である。
【0055】
なお、以下の説明においては、MTIフィルタ11の出力信号とFIRフィルタ10の出力信号を区別するため、MTIフィルタ11の出力信号をFFTした結果をMF(p)、FIRフィルタ10の出力信号をFFTした結果をFF(p)とする。
【0056】
図3に、図2の構成における、4次のMTIフィルタ11と4次のFIRフィルタ10の振幅特性の一例を示す。説明を容易にするため、周波数範囲は正規化した値で0〜0.5までを表示してある。2つのフィルタの振幅特性は、正規化周波数0.38で交差している。従って、図3より、0〜0.38までの周波数範囲では、FIRフィルタ10の方が振幅利得が高く、通過域幅がMTIフィルタ11より広いことがわかる。一方、0.38〜0.5までの周波数範囲では、MTIフィルタ11の方が振幅利得は高くなることがわかる。
【0057】
このような特徴から、FFT出力選択手段4では、図4に示すように、MTIフィルタ11とFIRフィルタ10の振幅特性が交差する周波数の値(正規化周波数0.38)を、切替周波数として、FFT手段3a,3bからの出力結果のうちのいずれか一方を選択する。このとき、切替周波数は、事前に計算されて切替周波数データベース7に記憶されているため、切替周波数データベース7から、該当するフィルタ次数やパラメータに対応する切替周波数の値を探索して、該当する値を読み込む。この切替周波数値をβ(>0)とすると、FFT出力選択手段4は、以下に示すように出力信号を選別して、目標検出手段5a〜5xに転送する。
【0058】
(A)周波数チャンネル(p/P)が0〜β、又は、1−β〜1.0の場合、FIRフィルタ10を選択して、FFk(p)を目標検出手段5a,5b,・・・,5xに転送する。
(B)周波数チャンネル(p/P)がβ〜1−βの場合、MTIフィルタ11を選択して、MFk(p)を目標検出手段5a,5b,・・・,5xに転送する。
【0059】
図4の例では、切替周波数βが0.38であったが、これは各フィルタの次数やFIRフィルタ設計時のパラメータで変化するため、事前に組み合わせるフィルタの振幅特性を計算して、パラメータ毎に切替周波数データベース7に記憶しておく必要がある。
【0060】
以上の処理を全てのレンジビンkに対して行うことにより、FFT出力選択手段4の出力は、距離と周波数の2次元データになる。目標検出手段5a〜5xでは、周波数チャンネル毎に距離方向にCFAR(Constant False Alarm Ratio)等の自動検出処理を行うことにより、受信機雑音レベルより大きな目標信号が検出される。その結果、目標までの距離と目標の移動速度がわかる。
【0061】
なお、図2に示した実施の形態1では、処理負荷を考えて一次元の目標検出処理を想定したが、目標検出手段を2次元処理にしても構わない。
【0062】
図1,図2に示す表示手段6では、目標検出手段5a〜5xで検出された目標信号の情報を表示器(ディスプレイ装置)に出力する。
【0063】
以上のように、本実施の形態1においては、図1,図2の構成のいずれにおいても、フィルタ通過域幅が広いFIRフィルタ10とフィルタ通過域利得が高いMTIフィルタ11とを組み合わせてクラッタ抑圧処理をすることと等価になるので、クラッタ抑圧性能と目標信号保存性能を両立させることが可能となり、MTIフィルタ11を単独で用いる場合に比べて、フィルタ振幅特性による目標信号電力の劣化が軽減され、目標検出性能を改善することができる。
【0064】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1、図2)では、受信機雑音に与える影響がMTIフィルタ11とFIRフィルタ10とで同じものと仮定したが、使用するフィルタによってFFT後の受信機雑音電力が異なる場合を考慮して、図6のように、周波数補正量算出手段21を新たに設けた構成としてもよい。
【0065】
図6は、そのような周波数補正量算出手段21を備えたこの発明の実施の形態2に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。図7は、図6の周波数補正量算出手段21の必要性を示すための説明図である。
【0066】
図6において、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置は、送受信アンテナを有する送受信回路1と、送受信回路1から入力される受信信号を入力してクラッタを抑圧するFIRフィルタ10と、送受信回路1から入力される受信信号を入力してクラッタを抑圧するMTIフィルタ11と、FIRフィルタ10の出力信号をフーリエ変換するFFT手段3aと、MTIフィルタ11の出力信号をフーリエ変換するFFT手段3bと、FFT手段3aとFFT手段3bの出力結果を入力し、目標信号検出に使用するFFT出力結果を選択するFFT出力選択手段4と、FFT出力選択手段4の出力結果から目標信号を自動検出する目標検出手段5と、目標検出結果を表示する表示手段6と、FFT出力選択手段4で用いられる切替周波数を記憶している切替周波数データベース20と、フィルタ次数や積分点数で変化する受信機雑音電力によるS/N損失を考慮するため、切替周波数データベース20がFFT出力選択手段4に転送するための切替周波数を補正する、周波数補正量算出手段21とにより構成されている。
【0067】
図6において、本実施の形態2に係るレーダ装置では、周波数補正量算出手段21が、FIRフィルタ10やMTIフィルタ11の次数やFFT手段3a,3bの個数(FFT点数)が入力されて、それらの値から周波数補正量を計算し、当該周波数補正量を用いて、切替周波数データベース20から抽出される値を補正して、FFT出力選択手段4に転送する。他の構成については、基本的に、図2に示した実施の形態1の構成と同じであるため、ここでは、その説明は省略する。
【0068】
次に、図6に示したこの発明の実施の形態2に係るレーダ装置の動作について、前述の実施の形態1(図2)を基にして説明する。なお、ここでは、前述の実施の形態1と異なる点のみについて説明する。
【0069】
上記の実施の形態1に係るレーダ装置で用いたFIRフィルタ10は、MTIフィルタ11と似た構成でありながら、通過域幅を広くできるという特長がある。この副作用として、位相特性が完全な線形にはならないという欠点がある。これにより、入力信号中の受信機雑音が影響を受けて、MTIフィルタ11を用いた場合よりも積分処理(FFT)後の受信機雑音電力が増加する可能性がある。
【0070】
受信機雑音電力が増加するということは、FFT後のS/Nが劣化することになる。ここでは、この劣化をフィルタの振幅利得の低下に置き換える。つまり、受信機雑音電力が増加した分だけ、フィルタ振幅損失により目標信号電力損失が発生すると考える。
【0071】
周波数補正量算出手段21では、受信機雑音電力の増加量を予め見積もっておき、図7に示す振幅特性を用いて新しい切替周波数を算出する。この新しい切替周波数値と実施の形態1で用いた切替周波数値の差を計算して、補正量として記憶しておく。図7の例では、受信機雑音増加を考慮した新しい切替周波数が0.366であり、雑音増加を考慮しない場合の切替周波数値が0.385であるから、この場合の補正量は−0.019になる。このようにして、周波数補正量算出手段21は、想定される全てのフィルタ次数、通過域調整のためのパラメータr、及びFFT点数について補正量を予め計算しておき、保持しておく。
【0072】
以上のように、本実施の形態2においては、上記の実施の形態1と同様に、フィルタ通過域幅が広いFIRフィルタとフィルタ通過域利得が高いMTIフィルタとを組み合わせてクラッタ抑圧処理をすることと等価になるので、クラッタ抑圧性能と目標信号保存性能を両立させることが可能となり、MTIフィルタを単独で用いる場合に比べてフィルタ振幅特性による目標信号電力の劣化が軽減され、目標検出性能を改善することができるという効果が得られるとともに、さらに、MTIフィルタ11とFIRフィルタ10とがFFT後の受信機雑音に与える影響が異なる場合を想定して、周波数補正量算出手段21を設けて、FIRフィルタ10やMTIフィルタ11の次数やFFT点数から周波数補正量を計算し、当該周波数補正量を用いて、切替周波数データベース20から抽出される切替周波数の値を補正して、FFT出力選択手段4に転送するようにしたので、フィルタ振幅特性による目標信号電力の劣化がより軽減され、目標検出性能をさらに改善することができる。
【0073】
なお、図6の構成は、図2の構成に対して、本実施の形態2の構成を適用(すなわち、切替周波数データベース7の代わりに切替周波数データベース20を設け、さらに、周波数補正量算出手段21を追加した構成に)した例を記載しているが、その場合に限らず、本実施の形態2の構成は図1の構成に対しても適用でき、その場合においても、同様の効果を奏することは言うまでもない。
【0074】
実施の形態3.
上記実施の形態1、2(図1、図2)におけるクラッタ抑圧性能は、クラッタ抑圧処理を行うFIRフィルタの阻止域における減衰量の影響を受ける。FIRフィルタの阻止域減衰量が大きいほど、クラッタ抑圧性能が高い。しかしながら、クラッタの受信電力がさほど大きくなくて、且つ、クラッタスペクトルの帯域幅がFIRフィルタの振幅特性の阻止域幅よりも大幅に狭い場合には、FIRフィルタの次数を下げることが可能である。
【0075】
しかしながら、式(3)のような伝達関数を持つL次のFIRフィルタでは、通過帯域幅を広げるために次数を(1+rz−1)の項に費やしているため、クラッタに対してフィルタのヌルを形成することに使用できる次数は(L−1=M)次である。そのため、FIRフィルタの次数Lが小さくなるとフィルタ次数に対して、ヌルを形成するために使える次数の割合が小さくなる。例えば、5次のFIRフィルタ(L=5)ではヌル形成のための次数割合は、(5−1)/5=0.8になるが、2次のFIRフィルタ(L=2)では、ヌル形成のための次数割合は、(2−1)/2=0.5に低下してしまう。このヌル形成のための次数割合の低下は、クラッタに対するFIRフィルタ振幅特性の阻止域幅が狭くなることを意味しており、クラッタ抑圧性能が劣化することになる。
【0076】
図8に、フィルタ次数が共に2次のMTIフィルタとFIRフィルタの振幅特性の一例を示す。2次のFIRフィルタでは、正規化周波数0付近の振幅値が、2次のMTIフィルタに比べてかなり高くなり、周波数0付近に電力が集中するグランドクラッタに対する抑圧性能が大きく劣化する可能性がある。上記実施の形態1,2で説明した方式では、図8の破線で示した切替周波数を基準にFIRフィルタのFFT出力とMTIフィルタのFFT出力を選択するため、MTIフィルタを単独で使用する従来のクラッタ抑圧方式よりも大幅にクラッタ抑圧性能が劣化する場合がある。
【0077】
そこで、本実施の形態3に係るレーダ装置では、図1、2、及び図6におけるFFT出力選択手段4において、切り替え周波数を追加してFFT出力を選択するようにしている。
【0078】
図9はこの発明の実施の形態3に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図9の構成については、基本的に図2に示した実施の形態1の構成と同じであるため、動作が異なる点についてのみ説明し、その他の説明については省略する。
【0079】
図9に示した本実施の形態3に係るレーダ装置では、第一の切替周波数データベース40と第二の切替周波数データベース41を設けたこと、及び、その複数の切り替え周波数に応じてFFT出力を切り替えるFFT出力選択手段30を設けたことが、実施の形態1に係るレーダ装置と異なる点である。
【0080】
本実施の形態3の動作を説明するため、図10に図9の構成における、2次のMTIフィルタ11と2次のFIRフィルタ10の振幅特性の一例を示す。説明を容易にするため、周波数範囲は正規化した値で0〜0.5までを表示してある。2つのフィルタの振幅特性は、破線で示した正規化周波数0.33で交差している。この周波数を第一の切替周波数として、異なる複数のフィルタの組み合わせ毎に予め計算しておき、第一の切替周波数データベース40に記憶しておく。
【0081】
これに加えて正規化周波数0〜0.1の間に破線で示した第二の切替周波数を設定する。第二の切替周波数は、クラッタが集中する周波数付近の領域の範囲を定める周波数値であり、検出したい目標のドップラー周波数や、許容できる目標減衰量等から予め計算しておき、第二の切替周波数データベース41に記憶しておく。
【0082】
0〜第二の切替周波数までの範囲の周波数領域にはグランドクラッタが存在することを想定しているので、振幅利得が小さいMTIフィルタ11のFFT出力を選択することにより、FIRフィルタ10を用いてクラッタ抑圧処理を行った場合よりもクラッタ抑圧性能が改善される。
【0083】
このような特徴から、FFT出力選択手段30では、MTIフィルタ11とFIRフィルタ10の振幅特性が交差する周波数である第一の切替周波数と、想定される目標のドップラー周波数やクラッタの帯域幅等から設定した第二の切替周波数を用いて、FFT手段3a,3bからの出力結果のうちのいずれか一方を選択する。このとき、第一、及び第二の切替周波数は、事前に計算されて切替周波数データベース40、及び41にそれぞれ記憶されているため、これらの切替周波数データベースから、該当するフィルタ次数やパラメータに対応する切替周波数の値を探索して、該当する値を読み込む。
【0084】
この第一の切替周波数値をβ1(>0)、第二の切替周波数値をβ2(>0)とすると、FFT出力選択手段30は、以下に示すように出力信号を選別して、目標検出手段5a〜5xに転送する。
【0085】
FFT手段3a,3bの点数をP、MTIフィルタ11の出力信号をFFTした結果をMF(p)、FIRフィルタ10の出力信号をFFTした結果をFF(p)とする。
(A)周波数チャンネル(p/P)が0〜β2、又は、1−β2〜1.0の場合、MTIフィルタ11を選択して、MF(p)を目標検出手段5a,5b,・・・,5xに転送する。
(B)周波数チャンネル(p/P)がβ2〜β1、又は、1−β1〜1−β2の場合、FIRフィルタ10を選択して、FF(p)を目標検出手段5a,5b,・・・,5xに転送する。
(C)周波数チャンネル(p/P)がβ1〜1−β1の場合、MTIフィルタ11を選択して、MF(p)を目標検出手段5a,5b,・・・,5xに転送する。
【0086】
このように、本実施の形態においては、FFT出力選択手段30が、フィルタ通過域(β2〜1−β2)では、選択FFT手段3a,3bからの出力信号のうち、振幅利得が最も高いフィルタ(すなわち、FIRフィルタ10またはMTI11のいずれか一方の振幅利得が高い方)からの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択し、且つ、フィルタ通過域以外(0〜β2、および、1−β2〜1)(すなわち、クラッタが集中する周波数付近)では、選択FFT手段3a,3bからの出力信号のうち、振幅利得が最も低いフィルタ(MTIフィルタ11)からの出力信号により求められたFFT手段3bの出力信号を選択するように切り替えを行う。
【0087】
なお、図10の例では、第一の切替周波数β1が0.33、第二の切替周波数β2が0.05であったが、これは各フィルタの次数やFIRフィルタ設計時のパラメータで変化する。前述したように、事前に組み合わせるフィルタの振幅特性を計算して、パラメータ毎に第一の切替周波数データベース40、及び第二の切替周波数データベース41に記憶しておく必要がある。
【0088】
また、本実施の形態においては、クラッタ抑圧フィルタ及びFFT手段がそれぞれ2つずつ設けられている例を示したが、その場合に限らず、クラッタ抑圧フィルタ及びFFT手段は任意の個数設けるようにしてもよい。その場合も基本的に上記と同じ動作になり、FFT出力選択手段30は、フィルタ通過域では、複数のFFT手段からの出力信号のうち、振幅利得が最も高いフィルタからの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択し、且つ、フィルタ通過域以外(すなわち、クラッタが集中する周波数付近)では、複数のFFT手段からの出力信号のうち、振幅利得が最も低いフィルタからの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択するように切り替える。
【0089】
以上のように、本実施の形態3においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、FFT出力選択手段30における切り替え周波数を追加して複数個にすることで、フィルタ次数が低い場合においても、クラッタ抑圧性能と目標信号保存性能を両立させることが可能となり、MTIフィルタ11を単独で用いる場合に比べて、フィルタ振幅特性による目標信号電力の劣化が軽減され、目標検出性能を改善することができる。
【0090】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3(図1、図2、図9)では、FIRフィルタ10とMTIフィルタ11のFFT出力結果を選択する構成になっていた。本実施の形態4に係るレーダ装置は、上記実施の形態1〜3の構成から、FFT出力結果を選択する機構を省いたものである。
【0091】
図11はこの発明の実施の形態4に係るレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。図11の構成については、基本的に図2に示した実施の形態1の構成と同じであるため、動作が異なる点についてのみ説明し、その他の説明については省略する。
【0092】
図11に示した本実施の形態4に係るレーダ装置では、図1、図2、図9で示したFFT出力選択手段4,30が設けられておらず、FFT手段3a、3bの出力をそれぞれ目標検出手段5a〜5xへ直接入力していること、及び、目標検出手段5a〜5xの結果を新たに設けた検出結果結合手段50に入力していることが、実施の形態1〜3に係るレーダ装置と異なる点である。他の構成は、図1、図2、図9と同じである。なお、検出結果結合手段50は、目標検出手段5a〜5xから送信される複数種類の出力結果を結合して目標信号を抽出するものである。
【0093】
本実施の形態4の動作を図11に基づいて説明する。実施の形態1〜3では、FFT手段3a、3bから転送される合計2N個の出力からN個を選択して目標検出手段5a〜5xに転送しているため、目標検出手段5a〜5xの数もN個で済む構成である。一方、図11に示した本実施の形態4に係るレーダ装置では、FFT出力を選択するFFT出力選択手段4,30を省く代わりに、目標検出手段5a〜5xが、2倍の個数の2N個必要な構成である。すなわち、FFT手段3aにN個の目標検出手段5a〜5xがN個のチャネル(Ch1,Ch2,・・・,ChN)を介して接続され、同様に、FFT手段3bにもN個の目標検出手段5a〜5xがN個のチャネル(Ch1,Ch2,・・・,ChN)を介して接続されている。これらの2N個の目標検出手段5a〜5xの出力は、検出結果結合手段50に転送される。検出結果結合手段50では、2N個の検出結果からN種類の周波数成分毎にOR処理を行う。具体的には、FFT手段3a側の検出結果と、FFT手段3b側の検出結果を、同じ周波数チャンネル、同じ距離同士で比較し、どちらかに検出されているものがあれば、目標を検出した結果として抽出し、表示手段6へ転送する。
【0094】
検出結果結合手段50において、上記のように単純にOR処理を行うとクラッタの消え残りが目標検出手段で抽出されてしまう、いわゆる、誤警報が多発する場合がある。このようなときは、距離方向に連続して検出されたものは不要信号であるとして排除すればよい。
【0095】
なお、本実施の形態においては、クラッタ抑圧フィルタ及びFFT手段がそれぞれ2つずつ設けられている例を示したが、その場合に限らず、クラッタ抑圧フィルタ及びFFT手段は任意の個数設けるようにしてもよい。
【0096】
以上のように、本実施の形態4においては、FIRフィルタ10によるクラッタ抑圧処理とMTIフィルタ11によるクラッタ抑圧処理の結果を全て用いて検出処理を行うことで、クラッタ抑圧性能と目標信号保存性能を両立させることが可能となり、MTIフィルタ11を単独で用いる場合に比べて、フィルタ振幅特性による目標信号電力の劣化が軽減され、目標検出性能を改善することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 送受信回路、2a,2b,2x FIRフィルタ、3a,3b,3x FFT手段、4,30 FFT出力選択手段、5a,5b,5x 目標検出手段、6 表示手段、7 切替周波数データベース、10 FIRフィルタ、11 MTIフィルタ、20 切替周波数データベース、21 周波数補正量算出手段、40 第一の切替周波数データベース、41 第二の切替周波数データベース、50 検出結果結合手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス電波を送受信して受信信号を生成する送受信処理回路と、
前記受信信号中のクラッタを抑圧する複数のクラッタ抑圧フィルタと、
各前記クラッタ抑圧フィルタからの出力信号に対してコヒーレント積分を行う複数のFFT手段と、
前記複数のFFT手段からの出力信号のうち、振幅利得が最も高いクラッタ抑圧フィルタからの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択するように切り替えを行うFFT出力選択手段と、
前記FFT出力選択手段の切り替えを行うための周波数値を記憶する切替周波数データベースと、
前記FFT出力選択手段からの出力結果を用いて目標検出処理を行う目標検出手段と、
前記目標検出手段の出力結果を画面上に表示する表示手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記複数のクラッタ抑圧フィルタは、振幅特性が全て異なるトランスバーサルフィルタであり、通過域でのリップルの最小値と最大値が現われる周波数が互いに異なることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
パルス電波を送受信して受信信号を生成する送受信処理回路と、
前記受信信号中のクラッタを抑圧するFIRフィルタと、
前記受信信号中のクラッタを抑圧するMTIフィルタと、
前記FIRフィルタの出力信号に対してコヒーレント積分を行う第一のFFT手段と、
前記MTIフィルタの出力信号に対してコヒーレント積分を行う第二のFFT手段と、
前記FIRフィルタと前記MTIフィルタのうち、振幅利得が高い方のフィルタからの出力を用いるために、前記第一のFFT手段からの出力信号と前記第二のFFT手段からの出力信号とのいずれを選択するかの切り替えを行うための切替周波数値が記憶された切替周波数データベースと、
前記切替周波数データベースから転送される切替周波数値に基づいて、前記第一のFFT手段の出力信号と前記第二のFFT手段の出力信号とを切り替えて、いずれか一方を選択的に出力するFFT出力選択手段と、
前記FFT出力選択手段の出力結果を用いて目標検出処理を行う目標検出手段と、
前記目標検出手段の出力結果を画面上に表示する表示手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
前記切替周波数データベースに記憶されている切替周波数値を、フィルタ次数および積分点数に基づいて補正する周波数補正量算出手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
パルス電波を送受信して受信信号を生成する送受信処理回路と、
前記受信信号中のクラッタを抑圧する複数のクラッタ抑圧フィルタと、
各前記クラッタ抑圧フィルタからの出力信号に対してコヒーレント積分を行う複数のFFT手段と、
前記複数のFFT手段からの出力信号のうち、フィルタ通過域では振幅利得が最も高いクラッタ抑圧フィルタからの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択し、フィルタ通過域以外では振幅利得が最も低いクラッタ抑圧フィルタからの出力信号により求められたFFT手段の出力信号を選択するように切り替えを行うFFT出力選択手段と、
前記複数のクラッタ抑圧フィルタのうち、振幅利得が最も高いクラッタ抑圧フィルタからの出力を用いるために、いずれの前記FFT手段からの出力信号を選択するかの切り替えを行うための第一の切替周波数値が記憶された第一の切替周波数データベースと、
前記複数のクラッタ抑圧フィルタのうち、振幅利得が最も低いクラッタ抑圧フィルタからの出力を用いるために、いずれの前記FFT手段からの出力信号を選択するかの切り替えを行うための第二の切替周波数値が記憶された第二の切替周波数データベースと、
前記FFT出力選択手段からの出力結果を用いて目標検出処理を行う目標検出手段と、
前記目標検出手段の出力結果を画面上に表示する表示手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
パルス電波を送受信して受信信号を生成する送受信処理回路と、
前記受信信号中のクラッタを抑圧する複数のクラッタ抑圧フィルタと、
各前記クラッタ抑圧フィルタからの出力信号に対してコヒーレント積分を行う複数のFFT手段と、
前記FFT手段からの出力結果を用いて目標検出処理を行う目標検出手段と、
前記目標検出手段から転送される複数種類の出力結果を結合して目標信号を抽出する検出結果結合手段と
前記検出結果結合手段の出力結果を画面上に表示する表示手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−118040(P2012−118040A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83650(P2011−83650)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】