説明

レーダ装置

【課題】方位測定精度が向上されたレーダ装置の実現。
【解決手段】レーダ装置は、送信アンテナ10−1〜10−5と、デジタル符号発生器11と、受信アンテナ12−1、12−2と、デジタル復調器13を有している。デジタル符号発生器11は、擬似雑音符号A〜Cで変調された信号をそれぞれ5つに分配し、5つの信号の位相差をそれぞれ移相器114A〜Cにおいて制御し、それぞれ送信方向が水平面内であって車両前方右側、車両前方中央、車両前方左側となるように制御する。それぞれの移相器114A〜Cから出力される信号は、擬似雑音符号A〜Cで変調された信号ごとに重畳されて送出される。デジタル復調器13は、擬似雑音符号A〜Cを用いてそれぞれ信号を復調する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似雑音符号で変調した信号を放射して対象物の検出を行うレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載レーダ装置では、送信アンテナを1つ、受信アンテナを複数用意して、モノパルス方式やデジタル・ビーム・フォーミング方式などによって対象物の方位推定を行っている。
【0003】
また、特許文献1には、搬送波を複数に分配し、それぞれ異なる擬似雑音符号で変調し、その変調された信号をそれぞれ放射方向の異なる複数の送信アンテナによって放射するレーダ装置が示されている。特許文献1では、障害物の存在方向は、強度が強い反射波を受信したアンテナにより、決定されている。また、車両の右、左の旋回方向に応じて、右、中央、左の各領域毎の擬似雑音符号の割り当て関係を反転することにより、旋回時に対向車からの電磁波と同一拡散符号による電波が重畳しないように工夫されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−146126
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、送信アンテナが1つである従来の車載レーダ装置では、対象物を検出したい範囲全体に電波を照射する必要があり、多くの対象物が様々な方向に存在する場合、受信方式に工夫をしても正しく対象物を区別してそれぞれの方位を検出することは困難である。特にモノパルス方式では、ほぼ同じ距離にある複数の対象物からの反射波は合成され、反射波の位相や強度だけでは対象物の方位を区別することができなくなってしまう。
【0006】
また、特許文献1のレーダ装置では、送信アンテナの放射方向が固定されており、放射方向が変更されるものではなく、対象物の方位測定精度を向上させることは難しい。
【0007】
そこで本発明の目的は、対象物の分離測定性能が向上されたレーダ装置を実現することである。
また、他の目的は、水平方向の領域と垂直方向の領域とを有した格子状の領域毎に、対象物の存在を検出することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、擬似雑音符号によって変調された信号を送信し、対象物による反射波を受信して対象物を検出するレーダ装置において、所定の方向に配列された複数の送信アンテナと、互いに直交する擬似雑音符号でそれぞれ変調され、擬似雑音符号毎にかつ複数の送信アンテナ毎に分配される信号であって、擬似雑音符号毎に異なる一定の位相差で隣接する送信アンテナ間の位相が変化する信号を生成し、擬似雑音符号毎でかつ送信アンテナ毎に分配された信号のうち、同一の送信アンテナで送信される信号同士を合成して、各送信アンテナに送出する変調部と、対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、各擬似雑音符号を用いてそれぞれ復調し、復調された各信号の強度から、対象物の方位が擬似雑音符号に対応した方向のいずれであるかを測定する復調部と、を有することを特徴とするレーダ装置である。
【0009】
送信アンテナおよび受信アンテナはアレイアンテナとするのが望ましい。放射方向の設計が容易となるためである。受信アンテナは、複数であってもよいし単数であってもよい。受信アンテナを複数として位相モノパルス方式を用いることにより、さらなる方位測定精度の向上を図ることが可能である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、変調部は、互いに直交する擬似雑音符号でそれぞれ変調され、その擬似雑音符号で変調された各信号が送信アンテナと同数に分配され、それらの分配された信号間に、擬似雑音符号に対応した所定の送信方向となるように位相差が設けられた信号を生成する、ことを有することを特徴とするレーダ装置である。
【0011】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、複数の送信アンテナは水平方向に配列され、擬似雑音符号に対応した所定の送信方向とは、水平面内の方向である、ことを特徴とするレーダ装置である。
【0012】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、送信アンテナは、放射方向が斜め鉛直上方である第1送信アンテナと、放射方向が斜め鉛直下方である第2送信アンテナと、を有し、変調部は、第1送信アンテナにより送信する信号として、擬似雑音符号にそれぞれ直交する擬似雑音符号である第1符号によって変調した信号と、擬似雑音符号にそれぞれ直交し第1符号に直交する擬似雑音符号である第2符号によって変調した信号とを合わせた信号を生成し、第2送信アンテナにより送信する信号として、第1符号または第2符号によって変調した信号と、擬似雑音符号にそれぞれ直交し、第1符号および第2符号に直交する擬似雑音符号である第3符号によって変調した信号とを合わせた信号を生成して、第1送信アンテナおよび第2送信アンテナより送出し、復調部は、第1符号、第2符号、および第3符号を用いてそれぞれ復調し、復調された各信号の強度から、対象物の方位が斜め鉛直上方、斜め鉛直下方、または第1送信アンテナと第2送信アンテナとを合わせた全体での放射方向のいずれであるかを測定する、ことを特徴とするレーダ装置である。
【0013】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、送信アンテナは、アレイアンテナであることを特徴とするレーダ装置である。
【0014】
第6の発明は、第1の発明または第5の発明において、受信アンテナは複数であり、復調部は、各受信アンテナで受信した信号間の位相差を測定する、ことを特徴とするレーダ装置である。
【0015】
第7の発明は、第1の発明から第6の発明において、変調部および復調部は、デジタル処理であることを特徴とするレーダ装置である。
【0016】
第8の発明は、第1の発明から第7の発明において、車載用であることを特徴とするレーダ装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のレーダ装置によると、同程度の距離にある複数の対象物を、それぞれ分離して精度よく検出することができる。また、方位ごとに異なる擬似雑音符号を対応させているため、本発明のレーダ装置を車載用として用いると、トンネル内や壁面のある場所で発生する虚像の誤検出を抑制することができる。また、本発明のレーダ装置では、信号の送信方向が固定されていないため、環境等に応じて送信方向を可変とすることができ、対象物の測定精度の向上を図ることが可能である。また、第4の発明によると、対象物の水平方向の方位と、鉛直方向の方位とを測定することができるので、対象物の2次元的な方位の測定を簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のレーダ装置の構成を示した図。
【図2】送信アンテナ10−1〜10−5の構成を示した図。
【図3】デジタル符号発生器11の構成を示した図。
【図4】デジタル復調器13の構成を示した図。
【図5】デジタル符号発生器11の構成の変形例を示した図。
【図6】デジタル符号発生器11の構成の変形例を示した図。
【図7】実施例1のレーダ装置による測定方位について示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1のレーダ装置の構成を示した図である。レーダ装置は、送信アンテナ10−1〜10−5と、デジタル符号発生器11(本発明の変調部に相当)と、受信アンテナ12−1、12−2と、デジタル復調器13(本発明の復調部に相当)と、高周波発振器14と、混合器15−1〜15−5、16−1、16−2と、を有している。高周波発振器14の発振周波数は76GHzである。図1のように、デジタル符号発生器11から出力される5つの信号は、混合器15−1〜15−5において高周波発振器14からの信号と混合されてアップコンバートされ、送信アンテナ10−1〜10−5より目標物に照射される。また、受信アンテナ12−1、12−2により受信した信号は、混合器16−1、16−2において高周波発振器14からの信号と混合されてダウンコンバートされ、デジタル復調器13に入力される。このレーダ装置は車載用であり、車両のフロントグリル部に取り付けられ、車両の進行方向前方の対象物を検出するのに用いる。
【0021】
送信アンテナ10−1〜10−5は、図1、2に示すように、車両の幅方向である水平方向(図中x軸方向)に1列に配列されている。また、図2のように、送信アンテナ10−1〜10−5は、鉛直方向(図中y軸方向)にアンテナ素子100が配列されたアレイアンテナである。送信アンテナ10−1、10−3、10−5については、放射方向が車両前方の斜め鉛直上方となるように設計され、送信アンテナ10−2、10−4については、放射方向が車両前方の斜め鉛直下方となるように設計されている。このような放射方向の設計は、それぞれの送信アンテナ10−1〜10−5における各アンテナ素子100の間隔を調整して、各アンテナ素子100から放射される電磁波の位相差を、放射方向に応じて設定することにより容易に行うことができる。また、送信アンテナ10−1〜10−5全体で見た場合の放射方向は、車両の前方で水平方向となるように設計されている。送信アンテナ10−1、10−3、10−5は本発明の第1送信アンテナに相当し、送信アンテナ10−2、10−4は本発明の第2送信アンテナに相当する。
【0022】
デジタル符号発生器11は、図3に示す構成であり、すべてがデジタルで処理される。図3のように、デジタル符号発生器11は、符号発生器110A〜F、混合器112A〜F、分配器113A〜C、移相器114A〜Cと、加算器115A〜Eとを有している。符号発生器110A〜Fは、擬似雑音符号A〜Fをそれぞれ発生させて出力する。これらの擬似雑音符号A〜Fは互いに直交している。擬似雑音符号Dは本発明の第1符号、擬似雑音符号Eは本発明の第2符号、擬似雑音符号Fは本発明の第3符号に相当する。符号発生器110A〜Fからの擬似雑音符号A〜Fは、それぞれ混合器112A〜Fにおいて、発振周波数10MHzの発振器111からの信号と混合され、中間周波数にアップコンバートされる。混合器112A〜Cからの信号は分配器113A〜Cによってそれぞれが5つの信号に分配され、その5つの信号は、移相器114A〜Cにおいて位相差が制御される。
【0023】
移相器114Aから出力される5つの信号は、送信アンテナ10−1〜10−5からそれぞれ送出される際に、送信方向が水平面内であって車両前方右側となるように、移相器114Aにおいて位相差が制御される。また、移相器114Bから出力される5つの信号は、送信アンテナ10−1〜10−5からそれぞれ送出される際に、送信方向が水平面内であって車両前方中央となるように、移相器114Bにおいて位相差が制御される。また、移相器114Cから出力される5つの信号は、送信アンテナ10−1〜10−5からそれぞれ送出される際に、送信方向が水平面内であって車両前方左側となるように、移相器114Cにおいて位相差が制御される。
【0024】
なお、各移相器114A〜Cにおける5つの信号の移相量は固定である必要はなく、環境等に応じて移相量を変化させて、送信アンテナ10−1〜10−5から送出される際の送信方向を変化させる用にしてもよい。これにより、さらなる対象物の検出精度向上を図ることも可能である。
【0025】
移相器114Aから出力される5つの信号のうち、送信アンテナ10−1へ送出される信号と、移相器114Bから出力される5つの信号のうち、送信アンテナ10−1へ送出される信号と、移相器114Cから出力される5つの信号のうち、送信アンテナ10−1へ送出される信号の3つの信号は、加算器115Aにおいて加算されて出力される。同様に、送信アンテナ10−2へ送出される3つの信号は、加算器115Bにおいて加算され、送信アンテナ10−3へ送出される3つの信号は、加算器115Cにおいて加算され、送信アンテナ10−4へ送出される3つの信号は、加算器115Dにおいて加算され、送信アンテナ10−5へ送出される3つの信号は、加算器115Eにおいて加算されて出力される。
【0026】
なお、このように加算器115A〜Cにおいて3つの信号を重畳したとしても、擬似雑音符号A〜Cが直交しているため、移相器114A〜Cで制御した位相情報は保持される。
【0027】
また、実施例1のレーダ装置では、図3のようにデジタル符号発生器11を構成しているが、互いに直交する擬似雑音符号A〜Cでそれぞれ変調され、擬似雑音符号A〜C毎にかつ送信アンテナ10−1〜10−5毎に分配される信号であって、擬似雑音符号A〜C毎に異なる一定の位相差で隣接する送信アンテナ間の位相が変化する信号を生成するのであれば、他の構成であってもよい。たとえば、図5のように、各符号発生器210から擬似雑音符号を5分配して出力し、この5つの出力された信号間に移相器214によって位相差を設け、その後、混合器212A〜Eにおいて発振器211からの信号と混合する構成としてもよい。また、図6のように、各符号発生器310から擬似雑音符号を5分配して出力し、発振器311からの信号を移相器314によって位相差を設けて5分配し、混合器312A〜Eにおいて、符号発生器310からの信号と移相器314からの信号を混合する構成としてもよい。
【0028】
また、デジタル符号発生器11は、加算器116A、B、118A〜E、分配器117A、Bをさらに有している。加算器116Aでは、混合器112Dからの出力と混合器112Eからの出力が加算されて出力され、加算器116Bでは、混合器112Eからの出力と混合器112Fからの出力が加算されて出力される。加算器116Aからの出力は分配器117Aによって3つに分配され、それぞれ加算器118A、C、Eにおいて加算器115A、C、Eからの出力に加算されて送信アンテナ10−1、10−3、10−5へと出力される。また、加算器116Bからの出力は、分配器117Bによって2つに分配され、それぞれ加算器118B、Dにおいて加算器115B、Dからの出力に加算されてて送信アンテナ10−2、10−4へと出力される。
【0029】
なお、上記のデジタル符号発生器11では、混合器112A〜Fを用いて中間周波数にアップコンバートしているが、これは必ずしも必要ではない。上記のデジタル符号発生器11では、図3に示された構成のすべてをデジタル処理としているが、一部ないし全部をアナログとしてもよい。
【0030】
受信アンテナ12−1、12−2は、いずれも送信アンテナ10−1〜10−5と同様の構造である。すなわち、一方向にアンテナ素子100が配列されたアレイアンテナである。
【0031】
デジタル復調器13は、図4に示す構成であり、すべてがデジタルで処理される。図4のように、デジタル復調器13は、信号処理部130と、混合器131A−1〜131F−1、131A−2〜131F−2とを有している。受信アンテナ12−1、12−2により受信した信号は、それぞれ6つに分配され、その1つは混合器131A−1、131A−2において擬似雑音符号Aと混合されて復調され、他の1つは混合器131B−1、131B−2において擬似雑音符号Bと混合されて復調され、他の1つは混合器131C−1、131C−2において擬似雑音符号Cと混合されて復調され、他の1つは混合器131D−1、131D−2において擬似雑音符号Dと混合されて復調され、他の1つは混合器131E−1、131E−2において擬似雑音符号Eと混合されて復調され、他の1つは混合器131F−1、131F−2において擬似雑音符号Fと混合されて復調される。復調された信号は信号処理部130に入力される。
【0032】
なお、デジタル復調器13は、図4に示された構成のすべてをデジタル処理としているが、一部ないし全部をアナログ処理としてもよい。
【0033】
次に、実施例1のレーダ装置の動作について説明する。
【0034】
送信アンテナ10−1〜10−5全体としての送信方向が、水平面内の車両前方右側、車両前方中央、車両前方左側の3つの方向である信号が重畳されて同時に送信される。車両前方右側に送信されるのは擬似雑音符号Aで変調された信号であり、車両前方中央に送信されるのは擬似雑音符号Bで変調された信号であり、車両前方左側に送信されるのは擬似雑音符号Cで変調された信号である。これら3つの信号は、それぞれ擬似雑音符号A〜Cで変調されており、それぞれの擬似雑音符号A〜Cが直交しているため、重畳されて同時に送信されたとしても干渉レベルを極めて低く抑えることができる。
【0035】
なお、これら3つの送信方向については、移相器114A〜Cによって5つの信号の位相差を制御することによって変更することが可能である。
【0036】
また、送信アンテナ10−1、10−3、10−5からは、斜め鉛直上方に信号が放射され、送信アンテナ10−2、10−4からは、斜め鉛直下方に信号が放射される。また、送信アンテナ10−1〜10−5全体としては、水平方向に信号が放射される。ここで、送信アンテナ10−1、10−3、10−5から放射される信号は、擬似雑音符号Dで変調された信号と擬似雑音符号Eで変調された信号とを含む信号であり、送信アンテナ10−2、10−4から放射される信号は、擬似雑音符号Eで変調された信号と擬似雑音符号Fで変調された信号とを含む信号である。つまり、斜め鉛直上方に擬似雑音符号D、斜め鉛直下方に擬似雑音符号F、水平方向に擬似雑音符号Eを用いて信号を送信することとなる。擬似雑音符号D〜Fは互いに直交しているため、同時に送信したとしても干渉レベルを極めて低く抑えることができる。
【0037】
送信アンテナ10−1〜10−5から放射された信号は、対象物によって反射され、受信アンテナ12−1、12−2により受信される。信号処理部130には、受信アンテナ12−1で受信して擬似雑音符号A〜Fを用いてそれぞれ復調された信号と、受信アンテナ12−2で受信して擬似雑音符号A〜Fを用いてそれぞれ復調された信号とが入力される。擬似雑音符号A〜Fは互いに直交しているため、それぞれの信号を区別して受信することができる。
【0038】
信号処理部130では、擬似雑音符号A〜Cと水平方向の方位との対応と、信号処理部130に入力された信号の強度から、対象物の水平方向の方位が測定される。つまり、対象物が車両前方の右側に存在する場合、その対象物によって反射された信号は擬似雑音符号Aを用いて復調された信号の強度が最も強くなるため、対象物が車両前方右側に存在するものと推定することができる。また、対象物が車両前方の中央に存在する場合、その対象物によって反射された信号は擬似雑音符号Bを用いて復調された信号の強度が最も強くなるため、対象物が車両前方中央に存在するものと推定することができる。また、対象物が車両前方の左側に存在する場合、その対象物によって反射された信号は擬似雑音符号Cを用いて復調された信号の強度が最も強くなるため、対象物が車両前方左側に存在するものと推定することができる。このようにして、対象物が車両前方の右側、中央、左側のいずれの方向に存在するのかを推定することができる。
【0039】
また、擬似雑音符号D〜Fと鉛直方向の方位との対応と、信号処理部130に入力された信号の強度から、対象物の鉛直方向の方位が測定される。たとえば、対象物が車両の前方の斜め鉛直上方に存在する看板などである場合、その看板によって反射された信号は擬似雑音符号Dを用いて復調された信号の強度が最も強くなるため、対象物が斜め鉛直上方に存在するものと推定することができる。また、対象物が車両の前方の斜め鉛直下方に存在する路上の工事用鉄板などである場合、その工事用鉄板によって反射された信号は擬似雑音符号Fを用いて復調された信号の強度が最も強くなるため、対象物が斜め鉛直下方で路上に近いものと推定することができる。また、対象物が車両前方の水平方向に存在する歩行者などである場合、その歩行者によって反射された信号は擬似雑音符号Eを用いて復調された信号の強度が最も強くなるため、対象物が水平方向に存在するものと推定することができる。このようにして、対象物が車両前方の斜め鉛直上方、水平方向、斜め鉛直下方のいずれの方向に存在するのかを推定することができる。
【0040】
また、受信アンテナ12−1で受信した信号と、受信アンテナ12−2で受信した信号の位相差から、対象物のより詳細な方位を推定することができる。
【0041】
以上のように、実施例1のレーダ装置によると、水平方向(x軸方向)の方位と鉛直方向(y軸方向)の方位、すなわち2次元的な方位の測定を行うことができる。
【0042】
実施例1のレーダ装置では、擬似雑音符号A、B、Cと、水平面内の車両前方右側、車両前方中央、車両前方左側の3つの方向とを対応させ、擬似雑音符号A、B、Cを用いて復調された信号の強度から対象物の水平方向(x軸方向)の方位を測定している(図7(a)参照)。そのため、水平面内でほぼ同じ距離に対象物が位置していたとしても、対象物に照射される電磁波の擬似雑音符号が方向によって異なるため、容易に方位を分離検出することができる。また、方位ごとに符号が異なっているため、壁面ある所やトンネル内で発生する虚像の誤検出を抑制することができる。
【0043】
また、実施例1のレーダ装置では、擬似雑音符号D、E、Fと車両前方の斜め鉛直上方、水平方向、斜め鉛直下方のとを対応させ、擬似雑音符号D、E、Fを用いて復調された信号の強度から対象物の鉛直方向(y軸方向)の方位を測定している(図7(b)参照)。そのため、路面からの反射波が存在している場合であっても精度よく測定することができる。また、擬似雑音符号D、E、Fで変調された信号を同時に送信しており、送信アンテナの指向性を機械的もしくは電子的に走査することを要しないため、短時間で対象物の鉛直方向の方位が測定できる。また、擬似雑音符号Eに対応させる水平方向については、送信アンテナ10−1〜10−5全体の放射方向としており、水平方向に指向性を有した送信アンテナを別途設ける必要がない。そのため、レーダ装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0044】
対象物の方位について、図7(a)のように擬似雑音符号A〜Cに対応して水平面内の車両前方右側、車両前方中央、車両前方左側の3つの方向を測定でき、図7(b)のように、擬似雑音符号D〜Fに対応して斜め鉛直上方、水平方向、斜め鉛直下方の3つの方向を測定できる結果、図7(c)のように、マトリクス状に2次元的に対象物の方位を測定することができる。たとえば、擬似雑音符号Cと擬似雑音符号Fを用いて復調された信号の強度が最も強かった場合、対象物が車両前方右側であって斜め鉛直下方に存在しているものと推定することができる。
【0045】
なお、実施例1のレーダ装置では、受信アンテナを複数として位相モノパルス方式を用い、方位測定の分解能の向上を図っているが、必ずしもその必要はなく、受信アンテナを単数としてもよい。
【0046】
また、実施例1のレーダ装置では、送信アンテナ、受信アンテナをアレイアンテナとしたが、アレイアンテナ以外のアンテナを用いてもよい。ただし、送信アンテナとしてアレイアンテナを用いると、放射方向の設計が容易となるので望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は車載レーダ装置などに用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
10−1〜10−5:送信アンテナ
11:デジタル符号発生器
12−1、12−2:受信アンテナ
13:デジタル復調器
14:高周波発振器
15−1〜15−5、16−1、16−2:混合器
110A〜F:符号発生器
111:発振器
112A〜F:混合器
113A〜C、117A、B:分配器
114A〜C:移相器
115A〜E、116A、B、118A〜E:加算器
130:信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似雑音符号によって変調された信号を送信し、対象物による反射波を受信して対象物を検出するレーダ装置において、
所定の方向に配列された複数の送信アンテナと、
互いに直交する擬似雑音符号でそれぞれ変調され、前記擬似雑音符号毎にかつ前記複数の送信アンテナ毎に分配される信号であって、前記擬似雑音符号毎に異なる一定の位相差で隣接する送信アンテナ間の位相が変化する信号を生成し、
前記擬似雑音符号毎でかつ前記送信アンテナ毎に分配された信号のうち、同一の前記送信アンテナで送信される信号同士を合成して、各前記送信アンテナに送出する変調部と、
前記対象物からの反射波を受信する受信アンテナと、
各前記擬似雑音符号を用いてそれぞれ復調し、復調された各信号の強度から、前記対象物の方位が前記擬似雑音符号に対応した方向のいずれであるかを測定する復調部と、
を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記変調部は、互いに直交する擬似雑音符号でそれぞれ変調され、その擬似雑音符号で変調された各信号が前記送信アンテナと同数に分配され、それらの分配された前記信号間に、前記擬似雑音符号に対応した所定の送信方向となるように位相差が設けられた信号を生成する、
ことを有することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
複数の前記送信アンテナは水平方向に配列され、
前記擬似雑音符号に対応した所定の送信方向とは、水平面内の方向である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信アンテナは、放射方向が斜め鉛直上方である第1送信アンテナと、放射方向が斜め鉛直下方である第2送信アンテナと、を有し、
前記変調部は、第1送信アンテナにより送信する信号として、前記擬似雑音符号にそれぞれ直交する擬似雑音符号である第1符号によって変調した信号と、前記擬似雑音符号にそれぞれ直交し前記第1符号に直交する擬似雑音符号である第2符号によって変調した信号とを合わせた信号を生成し、第2送信アンテナにより送信する信号として、前記第1符号または前記第2符号によって変調した信号と、前記擬似雑音符号にそれぞれ直交し、前記第1符号および前記第2符号に直交する擬似雑音符号である第3符号によって変調した信号とを合わせた信号を生成して、前記第1送信アンテナおよび前記第2送信アンテナより送出し、
前記復調部は、前記第1符号、前記第2符号、および前記第3符号を用いてそれぞれ復調し、復調された各信号の強度から、前記対象物の方位が斜め鉛直上方、斜め鉛直下方、または前記第1送信アンテナと前記第2送信アンテナとを合わせた全体での放射方向のいずれであるかを測定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記送信アンテナは、アレイアンテナであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記受信アンテナは複数であり、
前記復調部は、各前記受信アンテナで受信した信号間の位相差を測定する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記変調部および前記復調部は、デジタル処理であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
車載用であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113645(P2013−113645A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258450(P2011−258450)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】