説明

レーダ装置

送信部は、所定幅のトリガパルスによってパルス変調された所定の周波数を有するレーダ波を探査対象空間に発射する。受信部は、前記レーダ波の反射波を受信して受信信号を出力する。ローカルパルス発生部は、遅延部によって遅延された前記トリガパルスによってパルス変調された前記所定の周波数を有するローカルパルス信号を出力する。相関値検出部は、前記受信信号とローカルパルス信号との強度についての相関値を検出する。遅延時間可変部は、前記遅延時間を、前記トリガパルスの発生周期である前記所定周期の範囲内で順次変化させる。相関値記憶部は、可変される遅延時間毎に検出される前記相関値を記憶する。度数分布作成部は、記憶された相関値の前記遅延時間に対する度数分布を作成する。探査制御部は、作成された度数分布に基づいて、前記探査対象空間についての解析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーダ装置に係り、特に、車載用、盲人用、医療用の近距離のレーダ装置において、高い分解能で周囲の状況を探査可能とする技術を採用したレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用、盲人用、医療用の近距離のレーダ装置として、ユーザの周囲に存在する物体の位置(物体までの距離と方位)、大きさ、動き等を探査するために、従来からパルスレーダ装置が用いられている。
【0003】
図9は、従来のパルスレーダ装置10の要部構成を示すブロック図である。
【0004】
すなわち、このパルスレーダ装置10において、トリガパルス発生部11は所定幅のトリガパルスPtを一定周期で生成して送信部12に出力する。
【0005】
送信部12は、トリガパルスPtによってパルス変調されたレーダ波Pを、送信アンテナ12aを介して探査対象空間に発射する。
【0006】
受信部13はレーダ波Pを受けた物体1からの反射波Rを受信アンテナ13aを介して受信し、その受信信号Rrをダイオード検波回路からなる検波部14によって検波し、その検波信号Dを探査制御部15に出力する。
【0007】
探査制御部15は、レーダ波Pの発射タイミングから一定時間の間に検波部14から出力される検波信号Dに基づいて探査対象空間内の物体の有無、距離等を調べ、これを観測者が把握できるように表示や音等で出力する。
【0008】
この場合、図示を省略しているが、検波信号Dを受信部13にフィードバックすることにより、受信部13に対する利得制御が行われている。
【0009】
なお、上記のようにトリガパルスPtを一定周期Tで与えて探査を行なうレーダ装置は、例えば、次の非特許文献1に開示されている。
[特許文献1]Merrill I. Skolnik”RADAR HANDBOOK”2nd ed.1990,pp1.2−1.6また、医療用の近距離のレーダ装置に関しては、例えば、次の非特許文献2に開示されている。
[非特許文献2]http://www.hrvcongress.org/second/first/placed_3/Standerini_Art_Eng.pdf上記のようなパルスレーダ装置10としては、古くから飛行機や船舶等の大きな物体を遠くから探査できるように大型で大出力の遠距離用のレーダ装置が知られている。
【0010】
しかるに、近年では、例えば、自動車の安全走行や目に障害のある者の安全歩行あるいは入院患者の夜間監視等を支援するために、個人的に使用される近距離用のレーダ装置が提案されており、その専用の周波数帯についてもUWB(Ultra Wide Band)と呼ばれる23〜29GHzの広帯域(6〜7GHz)を割り当てることが検討されている。
【0011】
上記のような個人的に使用される近距離のレーダ装置の場合、他のレーダ装置との干渉は原理的に避けられないが、上記のように広帯域(6〜7GHz)を与えることで、周波数による分離と狭いパルス(例えば、1nsec以下)による送信タイミングの違いを利用することができ、干渉の影響を実用的に問題の無い程度まで低減することができる。
【0012】
ところが、前記した検波部14を構成するダイオード検波回路の応答速度は、せいぜい100nsec程度であって、上記のような1nsec以下の狭い幅の反射波Rの強度を正しく検出することができず、狭い幅のレーダ波による高分解能の探査が行えないという問題がある。
【0013】
また、レーダ装置が物体1から受ける反射波Rrの強度は、物体1までの距離の4乗に反比例するため、近距離のレーダ装置の場合、僅かな距離変化で反射波Rrの入力レベルが急激に且つ大きく変動し、従来のフィードバック型の利得制御ではその急激な変動に追従できず、反射波のレベルを正しく認識できない場合もある。
【発明の開示】
【0014】
そこで、本発明は、上記の問題を解決し、高分解能で周囲の状況を正しく探査できるレーダ装置を提供することを目的としている。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明の第1の態様によると、
所定幅のトリガパルスを所定周期で発生するトリガパルス発生部(21)と、
前記トリガパルス発生部(21)からの前記トリガパルスによってパルス変調された所定の周波数を有するレーダ波を探査対象空間に発射する送信部(22)と、
前記送信部(22)から出射された前記レーダ波の反射波を受信して受信信号を出力する受信部(23)と、
前記トリガパルス発生部(21)からの前記トリガパルスを所定の遅延時間で遅延させる遅延部(24)と、
前記遅延部(24)によって前記所定の遅延時間で遅延された前記トリガパルスによってパルス変調された前記所定の周波数を有するローカルパルス信号を出力するローカルパルス発生部(25)と、
前記受信部(23)から出力される前記受信信号と前記ローカルパルス発生部(25)から出力される前記ローカルパルス信号との強度についての相関値を求める相関値検出部(26)と、
前記遅延部(24)による前記所定の遅延時間を、前記トリガパルス発生部(21)による前記トリガパルスの発生周期である前記所定周期の範囲内で順次変化させる遅延時間可変部(30)と、
前記遅延時間可変部(30)によって可変される遅延時間毎に前記相関値検出部(26)によって検出される前記相関値を記憶する相関値記憶部(31)と、
前記相関値記憶部(31)に記憶された相関値の前記遅延時間に対する度数分布を作成する度数分布作成部(32)と、
前記度数分布作成部(32)によって作成された度数分布に基づいて、前記探査対象空間についての解析を行う探査制御部(35)と、
を具備するレーダ装置が提供される。
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の第2の態様によると、
前記受信部は前記反射波に対する受信利得を可変できるように構成され、
前記レーダ装置は、前記受信部の受信利得を前記遅延時間可変部によって可変される遅延時間に応じて可変制御し、遅延時間の違いによる受信信号の出力レベルの変化を抑制する利得可変部をさらに備える第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の第3の態様によると、
前記相関値検出部(26)は、
前記受信部から出力される受信信号と前記ローカルパルス発生部から出力される前記ローカルパルス信号とを乗算する乗算回路(27)と、
前記乗算回路(27)による乗算出力を積分する積分回路(28)と、
を備える第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0018】
前記目的を達成するために、本発明の第4の態様によると、
前記レーダ装置は、前記積分回路(28)による積分出力をアナログ/ディジタル(A/D)変換するA/D変換器(29)をさらに備え、
前記相関値記憶部(31)は、前記A/D変換器(29)によってディジタル信号に変換された前記相関値を記憶する第3の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0019】
前記目的を達成するために、本発明の第5の態様によると、
前記積分回路(28)は、ミラー型積分回路によって構成されている第3の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0020】
前記目的を達成するために、本発明の第6の態様によると、
前記相関値検出部(26)は、
前記ローカルパルス発生部(25)から出力される前記ローカルパルス信号を互いに90度位相差のある2信号に分ける90°移相器(41)と、
前記受信部(23)から出力される受信信号を互いに等位相の2信号に分ける0°分配器(42)と、
前記90°移相器(41)によって互いに90度位相差のある2信号に分けられた前記ローカルパルス信号と、前記0°分配器(42)によって互いに互いに等位相の2信号に分けられた前記受信信号とを各別に乗算する第1及び第2の乗算回路(27A,27B)と、
前記第1及び第2の乗算回路(27A,27B)による各乗算出力を各別に積分する第1及び第2の積分回路(28A,28B)と、
前記第1及び第2の積分回路(28A,28B)による各積分出力を各別にアナログ/ディジタル(A/D)変換する第1及び第2のA/D変換器(29A,29B)と、
前記第1及び第2のA/D変換器(29A,29B)によって変換された各ディジタル信号を各別に自乗する第1及び第2の自乗演算器(43A,43B)と、
前記第1及び第2の自乗演算器(43A,43B)による各自乗演算結果を加算することにより、該加算結果を前記相関値として出力する加算器(44)とを備え、
前記相関値記憶部(31)は、前記加算器(44)から前記相関値として出力される前記加算結果を記憶する第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0021】
前記目的を達成するために、本発明の第7の態様によると、
前記相関値検出部(26)は、
前記加算器(44)による加算結果の平方根を求めることにより、該平方根を前記相関値として出力する平方根演算器(45)とをさらに備え、
前記相関値記憶部(31)は、前記平方根演算器(45)から前記相関値として出力される前記平方根を記憶する第6の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0022】
前記目的を達成するために、本発明の第8の態様によると、
前記トリガパルス発生部(21)は、前記所定幅Wとして、約1nsecのトリガパルスPtを前記所定周期Tとして約100nsecで生成して、前記送信部(22)および遅延部(24)に出力する第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0023】
前記目的を達成するために、本発明の第9の態様によると、
前記送信部(22)は、前記トリガパルスによってパルス変調された前記所定の周波数を有するレーダ波としてUWB(Ultra Wide Band)による23〜29GHzの広帯域6〜7GHzのレーダ波を生成して前記探査対象空間に発射する第8の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0024】
前記目的を達成するために、本発明の第10の態様によると、
前記受信部(23)は、
前記送信部(22)から探査対象空間に発射されたレーダ波を受けた物体(1)からの反射波を受けて増幅する利得可変型の増幅器(23b)と、
前記利得可変型の増幅器(23b)からの増幅出力を帯域制限して前記受信信号として前記相関値検出部(26)に出力する帯域通過フィルタ(BPF)(23c)と、
を備える第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0025】
前記目的を達成するために、本発明の第11の態様によると、
前記遅延部(24)は、前記所定の遅延時間として、前記遅延時間可変部(30)による可変指令に基づいて大きなステップで変化させることができる粗調整用の遅延手段と、その大きなステップ内で遅延時間を細かく変化させることができる微調整用の遅延手段とを組合せて構成されている第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0026】
前記目的を達成するために、本発明の第12の態様によると、
前記粗調整用の遅延手段は前記所定の遅延時間を約10nsecのステップで変化させ、前記微調整用の遅延手段は前記所定の遅延時間を約0.1nsecのステップで変化させる第11の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0027】
前記目的を達成するために、本発明の第13の態様によると、
車載用の近距離のレーダ装置として適用される第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0028】
前記目的を達成するために、本発明の第14の態様によると、
盲人用の近距離のレーダ装置として適用される第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0029】
前記目的を達成するために、本発明の第15の態様によると、
医療用の近距離のレーダ装置として適用される第1の態様に従うレーダ装置が提供される。
【0030】
上記のような態様に係る本発明のレーダ装置では、受信信号を遅延されたトリガパルスによってパルス変調されたローカルパルス信号と乗算し、その乗算出力を積分して、両信号の相関値を検出するとともに、トリガパルスの遅延時間を順次変えて、遅延時間毎の相関値を求め、遅延時間に対する相関値の度数分布を作成し、その度数分布に基づいて探査空間の解析を行うようにしている。
【0031】
つまり、上記のような態様に係る本発明のレーダ装置では、従来のレーダ装置のように受信信号をダイオード検波していないので、近距離レーダのように狭い幅のレーダ波を用いた場合でも、遅延時間に対する相関値の度数分布から反射波の強度を正しく把握することができ、高分解能の探査が行える。
【0032】
また、上記のような態様に係る本発明のレーダ装置では、可変する遅延時間に応じて予め反射波に対する受信部の受信利得を可変制御し、遅延時間の違いによる受信信号のレベル変化を抑制するようにしている。
【0033】
そのため、上記のような態様に係る本発明のレーダ装置では、相関値検出手段に対する過大レベルの信号入力を防ぐことができ、適正動作範囲で正しく相関値を検出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
[図1]図1は、本発明に係るレーダ装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
[図2]図2は、図1の要部の構成例を示すブロック図である。
[図3A]図3Aは、図1のレーダ装置の動作を説明するためのトリガパルス発生部によるトリガパルスPtを示す信号波形図である。
[図3B]図3Bは、図1のレーダ装置の動作を説明するための送信部によるレーダ波Pを示す信号波形図である。
[図3C]図3Cは、図1のレーダ装置の動作を説明するための遅延部によって遅延されたトリガパルスPt′を示す信号波形図である。
[図3D]図3Dは、図1のレーダ装置の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるローカルパルス信号Lを示す波形図である。
[図3E]図3Eは、図1のレーダ装置の動作を説明するための物体からの反射波Rを示す波形図である。
[図3F]図3Fは、図1のレーダ装置の動作を説明するための受信部からの受信信号Rrを示す波形図である。
[図3G]図3Gは、図1のレーダ装置の動作を説明するための相関値検出部による相関値Hを示す図である。
[図4A]図4Aは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk回目のローカルパルス信号Lを示す波形図である。
[図4B]図4Bは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk回目のローカルパルス信号Lに対応する受信部からの受信信号Rrを示す波形図である。
[図4C]図4Cは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk回目のローカルパルス信号Lに対応する乗算回路による乗算信号Bを示す波形図である。
[図4D]図4Dは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk回目のローカルパルス信号Lに対応する積分回路による積分結果に基づく相関値Hを示す波形図である。
[図5A]図5Aは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+a回目のローカルパルス信号Lを示す波形図である。
[図5B]図5Bは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+a回目のローカルパルス信号Lに対応する受信部からの受信信号Rrを示す波形図である。
[図5C]図5Cは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+a回目のローカルパルス信号Lに対応する乗算回路による乗算信号Bを示す波形図である。
[図5D]図5Dは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+a回目のローカルパルス信号Lに対応する積分回路による積分結果に基づく相関値Hを示す波形図である。
[図6A]図6Aは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+b(但し、b>a)回目のローカルパルス信号Lを示す波形図である。
[図6B]図6Bは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+b回目のローカルパルス信号Lに対応する受信部からの受信信号Rrを示す波形図である。
[図6C]図6Cは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+b回目のローカルパルス信号Lに対応する乗算回路による乗算信号Bを示す波形図である。
[図6D]図6Dは、図1のレーダ装置における相関値検出部の動作を説明するためのローカルパルス発生部によるk+b回目のローカルパルス信号Lに対応する積分回路による積分結果に基づく相関値Hを示す波形図である。
[図7]図7は、図1のレーダ装置の動作を説明するための度数分布作成部によって作成された度数分布の例を示す図である。
[図8]図8は、本発明に係るレーダ装置の別の実施形態の要部の構成として相関値検出部を示すブロック図である。
[図9]図9は、従来のレータ装置の構成を示すブロック図である。
[図10]図10は、図1のレーダ装置における相関値記憶部および度数分布作成部の具体例を説明するために示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0036】
図1は、車載用、盲人用、医療用等の近距離のレーダ装置として適用される本発明の一実施形態によるレーダ装置20の構成を示すブロック図である。
【0037】
本発明に係るレーダ装置の基本的な構成は、図1に示されているように、所定幅のトリガパルスを所定周期で発生するトリガパルス発生部21と、前記トリガパルス発生部21からの前記トリガパルスによってパルス変調された所定の周波数を有するレーダ波を探査対象空間に発射する送信部22と、前記送信部22から出射された前記レーダ波の反射波を受信て受信信号を出力する受信部23と、前記トリガパルス発生部21からの前記トリガパルスを所定の遅延時間で遅延させる遅延部24と、前記遅延部24によって前記所定の遅延時間で遅延された前記トリガパルスによってパルス変調された前記所定の周波数を有するローカルパルス信号を出力するローカルパルス発生部25と、前記受信部23から出力される前記受信信号と前記ローカルパルス発生部25から出力される前記ローカルパルス信号との強度についての相関値を求める相関値検出部26と、前記遅延部24による前記所定の遅延時間を、前記トリガパルス発生部21による前記トリガパルスの発生周期である前記所定周期の範囲内で順次変化させる遅延時間可変部30と、前記遅延時間可変部30によって可変される遅延時間毎に前記相関値検出部26によって検出される前記相関値を記憶する相関値記憶部31と、前記相関値記憶部31に記憶された相関値の前記遅延時間に対する度数分布を作成する度数分布作成部32と、前記度数分布作成部32によって作成された度数分布に基づいて、前記探査対象空間についての解析を行う探査制御部35とを有している。
【0038】
具体的には、図1において、トリガパルス発生部21は、所定幅W(例えば、1nsec)のトリガパルスPtを所定周期T(例えば、100nsec)で生成して、送信部22および遅延部24に出力する。
【0039】
送信部22は、トリガパルス発生部21からのトリガパルスPtによってパルス変調された所定の周波数(キャリア周波数)として、例えば、UWB(Ultra Wide Band)による周波数23〜29GHzの広帯域6〜7GHzの探査用のレーダ波Pを生成し、送信アンテナ22aを介して探査対象空間に発射する。
【0040】
受信部23は、送信部22から探査対象空間に発射されたレーダ波Pを受けた物体1からの反射波Rを受信アンテナ23aを介して受信する。
【0041】
この場合、受信部23では、反射波Rを利得可変型の増幅器23bで増幅した後、その増幅出力をBPF(帯域通過フィルタ)23cによって帯域制限して他の通信システム等による妨害波を除去した受信信号Rrとして後述の相関値検出部26に出力する。
【0042】
なお、受信部23における利得の可変は、減衰量を可変できる減衰器によって行うようにしてもよい。
【0043】
また、送信アンテナ22aと受信アンテナ23aは共用することもできる。
【0044】
一方、遅延部24は、トリガパルス発生部21から出力されたトリガパルスPtを受け、これを後述する遅延時間可変部30から可変的に指定される所定の遅延時間τだけ遅延してローカルパルス発生部25に出力する。
【0045】
一方、遅延部24は、トリガパルス発生部21から出力されたトリガパルスPtを受け、これを後述する遅延時間可変部30から指定された遅延時間τだけ遅延してローカルパルス発生部25に出力する。
【0046】
この遅延部24は、遅延時間を大きなステップ(例えば、10nsec)で変化させることができる粗(コース)調整用の遅延手段24aと、その大きなステップ内で遅延時間を細かく(例えば、0.1nsec)変化させることができる微(ファイン)調整用の遅延手段24bとを組合せて構成することができる。
【0047】
ローカルパルス発生部25は、遅延部24によって遅延されたトリガパルスPt′によってパルス変調された所定の周波数を有するローカルパルス信号Lを生成して、相関値検出部26に出力する。
【0048】
ここで、ローカルパルス信号Lはその所定の周波数(キャリア周波数)として、送信部22が発射するレーダ波Pのキャリア周波数と等しいものとする。
【0049】
相関値検出部26は、受信部23から出力される受信信号Rrとローカルパルス発生部25から出力されるローカルパルス信号Lとの強度についての相関値Hを求めるためのものであり、図1では、乗算回路27と積分回路28によって構成されている。
【0050】
乗算回路27は、二重平衡型のミキサによって構成され、受信信号Rrとローカルパルス信号Lとを乗算し、その乗算結果の積信号Bを積分回路28に出力する。
【0051】
積分回路28は、入力される乗算回路27からの積信号Bに対する積分処理を、遅延部24からトリガパルスPt′が出力されている期間(例えば、1nsec)だけ行う。
【0052】
この積分回路28は、例えば、図2に示すように、ミラー型積分回路を構成する抵抗28a、コンデンサ28b、反転増幅器28c、充電用スイッチ28d、放電用スイッチ28e、および出力極性反転用の反転増幅器28fによって構成されている。
【0053】
この構成の積分回路28は、遅延部24からトリガパルスPt′が入力している間だけ充電用スイッチ28dを閉じて積信号Bを積分し、トリガパルスPt′の入力が終了すると充電用スイッチ28dを開いて、その積分結果を保持し、その保持値の極性を反転した値を相関値Hとして出力させる。
【0054】
そして、この積分回路28は、次のトリガパルスPt′が入力される前の任意のタイミングに、放電用スイッチ28eを一時的に閉じてコンデンサ28bを放電させ、次のトリガパルスPt′に対する積分に備える。
【0055】
なお、この積分回路28の構成は上記構成に限定されるものではなく、例えば、充電用スイッチ28dを省略して、トリガパルスPt′の入力期間の終了直前に、後述のアナログ/デジタル(A/D)変換器29によるサンプリングを行って積分結果を保持するように構成してもよい。
【0056】
その場合、この積分回路28では、トリガパルスPt′が入力していない間、放電用スイッチ28eを継続的に閉じていてもよい。
【0057】
相関値検出部26によって保持された相関値Hは、放電される前にA/D変換器29によってディジタル値に変換された後、後述する相関値記憶部31によって、遅延時間τに対応付けされて記憶される。
【0058】
一方、遅延時間可変部30は、遅延部24の所定の遅延時間τをトリガパルスPtの発生周期Tの間で、トリガパルス発生毎に順次変化させる。
【0059】
この遅延時間τの可変モードは後述する探査制御部35によって指定され、例えば、粗探査モードが指定された場合には、トリガパルスPrをその幅W分だけ遅らせたタイミング、すなわちτ=Wを初期値とし、以降、トリガパルスPtが出力される毎に遅延時間τをΔτずつ増加させ、遅延時間τをT−Δτまで変化させた後、再び初期値τ=Wに戻すという動作を繰り返す。
【0060】
ここで、変化幅Δτは、上記粗探査モードの場合、遅延部24の遅延時間の最小可変ステップ以上で、且つ探査対象空間内の物体の有無等が分かる程度(例えば0.4nsec)にする。
【0061】
また、探査制御部35によって所定遅延時間範囲における精密探査モードが指定された場合には、その範囲内でより小さな(例えば、0.1nsec)変化幅Δτで遅延時間を可変させる。
【0062】
相関値記憶部31は、A/D変換器29によってディジタル変換された相関値Hを、その相関値Hが得られたときの遅延時間τに対応付けて記憶する。
【0063】
より具体的に言えば、相関値記憶部31は、例えば、図10に示すようなメモリ(RAM)100に相関値Hを記憶する際に、該メモリ(RAM)100が遅延時間τの可変幅(例えば、8ビットで表される遅延量)およびディジタル変換された相関値H(例えば、8ビットで表される入力値)に対応したアドおよびレス空間を有するものとして、該メモリ(RAM)に対して、遅延時間τおよびディジタル変換された相関値Hに対応したアドレスを指定して、そのアドレスに相関値Hを記憶する。
【0064】
度数分布作成部32は、相関値記憶部31に記憶された相関値Hに基づいて、遅延時間τに対する相関値Hの度数分布を作成する。
【0065】
この場合、度数分布作成部32および相関値記憶部31は、後述する図10の具体例に示すように、互いに関連付けて構成され、例えば、特許文献1に開示されているような交差率分布測定技術、特許文献2に開示されているような振幅確率分布測定技術、特許文献2に開示されているような時間幅分布測定技術等を用いて相関値Hの度数分布を作成することができる。
[特許文献1]日本国特許第2899879号
[特許文献2]日本国特許第3156152号
[特許文献3]日本国特許第2920828号 これらの特許文献1乃至3に開示されている各分布測定技術は、本願発明者等によってなされているものである。
【0066】
より具体的に言えば、度数分布作成部32は、例えば、図10に示すような相関値記憶部31としてのメモリ(RAM)100に接続される+1加算部101によってメモリ(RAM)100に記憶されている相関値Hに1を加算し、この加算結果をメモリ(RAM)100に再度記憶させて、相関値Hを1だけ増加更新することにより、相関値記憶部31としてのメモリ(RAM)100に記憶された相関値Hに基づいて、遅延時間τに対する相関値Hの度数分布を作成することができる。
【0067】
なお、後述するように受信部23の利得を遅延時間τに応じて可変制御する場合、相関値検出部26が検出する相関値Hは受信部23の利得に依存して変化するので、その検出された相関値Hに対して受信部23の利得可変分の補正を行い、反射波Rの強度に対応した相関値を求めて度数分布を作成する。
【0068】
また、利得可変部33は、遅延時間可変部30によって可変される遅延時間τに応じて反射波Rrに対する受信部23の受信利得、すなわち、増幅器23bの利得を可変制御する。
【0069】
この利得の可変は、遅延時間τが小さい程、増幅器23bの利得を下げるようにして、受信部23から出力される受信信号Rrのレベルを安定化している。
【0070】
ここで、遅延時間τは距離に比例し、反射波Rrの入力強度は距離の4乗に反比例するので、例えば遅延時間τを1/2に減少変化させる場合に、前もって増幅器23bの利得を1/16に低下させておくことにより、受信信号Rrの急激且つ大きなレベル変動を確実に抑制することができ、相関値検出部26に対する過大レベルの信号入力を防止することができる。
【0071】
探査制御部35は、度数分布作成部32によって作成された度数分布に基づいて、探査対象空間についての解析処理、すなわち、探査対象空間内の物体1の有無の判定、その距離の検出、移動方向の検出、遅延時間可変部30に対する可変モードの指示等を行うとともに、その解析によって得られた情報を音声等による報知する。
【0072】
次に、上記構成のレーダ装置20の動作について説明する。
【0073】
トリガパルス発生部21から送信部22および遅延部24に対して、図3Aに示すように、幅WのトリガパルスPtが周期Tで出力されると、送信部22からは、図3Bに示すように、トリガパルスPtによってパルス変調されたレーダ波Pが探査対象空間に発射される。
【0074】
また、遅延部24からは、図3Cに示すように、τ=W、W+Δτ、W+2・Δτ、W+3・Δτ、…というように、所定ステップΔτずつ遅延されたトリガパルスPt′が出力される。
【0075】
そして、そのトリガパルスPt′を受けたローカルパルス発生部25からは、図3Dに示すように、トリガパルスPt′でパルス変調された前述したような所定の周波数を有するローカルパルス信号Lが出力される。
【0076】
一方、送信部22から発射されたレーダ波Pは探査対象空間内の物体1で反射され、その一部が、図3Eに示すような反射波Rとして受信部23に入射され、その反射波Rに対応する図3Fに示すような受信信号Rrが出力される。
【0077】
ここで、遅延時間τが小さい初期段階では、受信部23の利得が非常に低く設定されているため、受信部23から出力される受信信号Rrのレベルは小さい。
【0078】
この受信信号Rrとローカルパルス信号Lは相関値検出部26に入力され、その相関値Hの検出処理がなされるが、図3A−Gに示しているように、初期段階で且つ探査対象空間内の物体1が比較的離れた位置にある場合には、受信信号Rrの入力期間と局発パルス信号Lの入力期間とが合わず、その積がゼロとなるので、相関値H(i,j)は図3Gに示しているようにゼロとなる(この場合、雑音等の影響がないと仮定している)。
【0079】
なお、ここで相関値H(i,j)の添え字iは、遅延時間τを初期値Wから最終値(T−Δτ)まで順番に変化させることを1単位とする探査回数値を表し、添え字jは、1回の探査中におけるレーダ波Pの出力回数を表すものとする。
【0080】
そして、トリガパルスPtに対する遅延時間τが大きくなり、図4Aに示すk回目のローカルパルス信号Lの入力期間に対して、図4Bに示すように、受信信号Rrの入力期間の前部が重複し、且つ両信号が同相であれば、相関値検出部26の乗算回路27から出力される積信号Bは、図4Cに示すように正側の全波整流波形となる。
【0081】
そして、相関値検出部26の積分回路28による積分結果は、図4Dに示すように、その重複期間が終了するまで段階的に単調増加して、重複期間が終了した時点の積分結果が保持される。
【0082】
この保持値がA/D変換器29を介して相関値H(1,k)として、相関値記憶部31に遅延時間τ=W+(k−1)Δτに対応付けされて記憶される。
【0083】
この場合の相関値H(1,k)は、ローカルパルス信号Lと受信信号Rrの入力期間の重複割合に比例した値となる。
【0084】
また、トリガパルスPtに対する遅延時間τがさらに大きくなって、図5Aに示すk+a回目のローカルパルス信号Lの入力期間に対して、図5Bに示すように、受信信号Rrのの入力期間がほぼ完全に重複し且つ両信号が同相であれば、相関値検出部26の乗算回路27から出力される積信号Bは、図5Cに示すように正側の全波整流信号となる。
【0085】
そして、相関値検出部26の積分回路28による積分結果は、図5Dに示すようにその重複期間が終了するまで段階的に単調増加して、重複期間が終了した時点の積分結果が保持される。
【0086】
この保持値が遅延時間τ=W+(k+a−1)Δτに対応付けされて記憶される。
【0087】
この相関値H(1,k+a)は、上述の相関値H(1,k)と比べて2信号の重複期間が長いので、より大きな値(最大値)となる。
【0088】
そして、トリガパルスPtに対する遅延時間τがさらに大きくなり、図6Aに示すk+b(ここで、b>a)回目のローカルパルス信号Lの入力期間に対して、図6Bに示すように、受信信号Rrの入力期間の後部が重複し、且つ両信号が同相であれば、相関値検出部26の乗算回路27から出力される積信号Bは、図6Cに示すように正側の全波整流波形となる。
【0089】
そして、相関値検出部26の積分回路28による積分結果は、図6Dに示すようにその重複期間が終了するまで段階的に単調増加して、重複期間が終了した時点の積分結果が保持される。
【0090】
この保持値がA/D変換器29を介して相関値H(1,k+b)として、相関値記憶部31に遅延時間τ=W+(k+b−1)Δτに対応付けされて記憶される(b>a)。
【0091】
この相関値(1,k+b)は、上述した相関値H(1,k+a)と比べて2信号の重複期間が短いので、より小さな値となる。
【0092】
なお、図4B、図5Bおよび図6Bに破線で示すように、ローカルパルス信号Lに対して受信信号Rrの位相が反転している場合、相関値検出部26での乗算結果は、図4C、図5Cおよび図6Cに破線で示すように負側の全波整流波形となる。
【0093】
そして、相関値検出部26での積分結果は、図4D、図6Dおよび図6Dに破線で示すように重複期間が終了するまで単調減少することになるが、絶対値でみれば重複期間と相関値Hとの関係は同相の場合と変わらない。
【0094】
また、ローカルパルス信号Lに対して受信信号Rrの位相が例えば90度ずれている場合、その乗算結果はゼロを中心に正弦振動し、その積分値も増加と減少を繰り返すので、相関値H(i,j)は非常に小さい値となる。
【0095】
このようにして、遅延時間τが初期値Wから最終値(T−Δτ)まで順番に変化され、遅延時間毎の相関値H(1,1),H(1,2)…H(1,M)が得られ。
【0096】
そして、この後、遅延時間可変部30は、2回目の探査のために、再び、遅延時間τを初期値Wから最終値(T−Δτ)まで順番に変化させて、その結果得られた相関値H(2,1),H(2,2)…H(2,M)が、遅延時間τに対応付けされて記憶される(ここで、MはT−τをトリガパルスPtの幅Wで除して得られる商である)。
【0097】
ここで、レーダ装置20を携帯所持する者やレーダ装置20が搭載された自動車と、探査対象空間内の物体との距離の僅かな変化により、重複期間における2信号の位相状態が大きく変化するので、2回目の探査において得られる相関値H(2,1),H(2,2)…H(2,M)のうち、重複期間およびその近傍における相関値Hは、1回目のものに対して正負が逆転したり、絶対値が大きく変化する。
【0098】
以下、同様の探査動作が所定回数Q(例えば、100回)行われて、M・Q個の相関値H(1,M),H(2,M),…H(Q,M)が得られると、度数分布作成部32による度数分布の作成処理がなされる。
【0099】
この度数分布作成部32による度数分布作成処理では、各相関値H(i,j)を、例えば、正側5段階、負側5段階、および0の合計11段階に分類し、図7に示すように遅延時間τ毎の各段階の発生頻度を表す度数分布が作成される。
【0100】
この図7に示される度数分布では、遅延されたトリガパルスPt′に同期するローカルパルス信号Lの入力期間と受信信号Rrの入力期間とが重複する時間帯およびその近傍(j=k+3の近傍)で発生頻度が各段階にばらついており、そのばらつき幅が最も大きくなるのが、確率的にローカルパルス信号Lと受信信号Rrの入力期間がほぼ完全に重複したときと判定することができる。
【0101】
探査制御部35は、この度数分布に基づいて、探査対象空間内の物体の有無、距離等を調べ、その結果を報知するとともに、必要であれば検知した探査対象空間内の物体についてより詳細な探査をするために、遅延時間可変部30に対する遅延時間τの可変モードを精密探査モードに切替えさせ、その探査で得られた度数分布をさらに解析する等の処理を行う。
【0102】
例えば、探査制御部35は、度数分布の正側の段階値とその頻度との積和演算を遅延時間毎に行い、その演算結果が最大となるときの遅延時間τ′から、探査対象空間内の物体までの距離を求める。
【0103】
すなわち、電波の速度をvとすれば、探査対象空間内の物体までの距離Dは、
D=v・τ′/2
で求めることができる。
【0104】
また、上述したように、受信部22の利得を遅延時間τに応じて予め可変して、探査対象空間内の物体との距離の違いによる受信信号の大きなレベル変化を抑制しているので、受信信号Rrのレベルの違いは、主に探査対象空間内の物体1のレーダ波Pに対する反射率(材質、大きさ、形状)に依存することなる。
【0105】
この反射率の違いによる受信信号Rrのレベル変化は、相関値Hのばらつき幅の大小となって現れるので、探査制御部35は、そのばらつき幅の大小から、探査対象空間内の物体が、例えば、金属等のように反射率が高いもの(危険度が高いもの)、人や動物あるいは樹木等のように反射率が低いもの(危険度が低いもの)かを、大まかに判定することができ、その判定結果に応じて警報の種類を変えることができる。
【0106】
以上説明したように、本発明の実施形態のレーダ装置20は、遅延部24によって遅延されたトリガパルスPt′で変調されたローカルパルス信号Lと、反射波Rを受信して得られる受信信号Rrとを乗算し、その乗算結果を積分して2信号の相関値Hを求めるとともに、遅延部24の遅延時間を順次変えることで、遅延時間毎の相関値を求め、さらに遅延時間に対する相関値の度数分布を求め、その度数分布に基づいて探査対象空間についての解析処理を行っている。
【0107】
このため、本発明の実施形態のレーダ装置20は、従来のレーダ装置のようにダイオード検波回路では検出できない幅の狭いレーダ波についての反射波の強度検出が可能となり、近距離探査を高分解能で行うことができ、車載用あるいは盲人用の近距離レーダ装置の実現を可能にする。
【0108】
また、本発明の実施形態のレーダ装置20は、遅延時間に応じて受信部22の利得制御を前もって行うので、探査範囲が近距離の場合であっても、反射波の急激且つ大きな変化による受信信号のレベル変化を確実に抑制でき、相関値検出を適正な動作範囲で正確に行うことができる。
【0109】
なお、上記実施形態では、相関値検出部26で検出される正負両極性の相関値Hについて度数分布を作成していたが、積分結果に対する絶対値変換を行い、その絶対値変換された値を相関値として求め、度数分布を作成してもよい。
【0110】
ただし、乗算回路27を構成するミキサの直流オフセットがある場合に、上記のような単純な絶対値変換処理を行うと、直流オフセットの影響を直接受けて相関値を正確に検出できなくなる場合が考えられる。
【0111】
このような直流オフセットの影響が問題になる場合には、相関値検出部26を、図8に示すような直交検波方式にすればよい。
【0112】
すなわち、この直交検波方式による相関値検出部26は、ローカルパルス発生部25から出力される前記ローカルパルス信号を互いに90度位相差のある2信号に分ける90°移相器41と、受信部23から出力される受信信号を互いに等位相の2信号に分ける0°分配器42と、90°移相器41によって互いに90度位相差のある2信号に分けられた前記ローカルパルス信号と、0°分配器42によって互いに互いに等位相の2信号に分けられた前記受信信号とを各別に乗算する第1及び第2の乗算回路27A,27Bと、この第1及び第2の乗算回路27A,27Bによる各乗算出力を各別に積分する第1及び第2の積分回路28A,28Bと、この第1及び第2の積分回路28A,28Bによる各積分出力を各別にアナログ/ディジタル(A/D)変換する第1及び第2のA/D変換器29A,29Bと、この第1及び第2のA/D変換器29A,29Bによって変換された各ディジタル信号を各別に自乗する第1及び第2の自乗演算器43A,43Bと、この第1及び第2の自乗演算器43A,43Bによる各自乗演算結果を加算することにより、該加算結果を前記相関値として出力する加算器44とを備えている。
【0113】
そして、この場合、相関値記憶部31は、加算器44から相関値として出力される前記加算結果を記憶する。
【0114】
具体的には、図8の相関値検出部26では、ローカルパルス信号Lが90°移相器41によって互いに90度位相差のある2信号に分けられた後、図1の場合と同様に二重平衡型ミキサからなる2つの乗算回路27A、27Bにそれぞれ入力される。
【0115】
また、受信信号Rrが0°分配器42によって等位相の2信号に分けられた後、乗算回路27A、27Bにそれぞれ入力する。
【0116】
そして、図1の場合と同様に、乗算回路27Aの乗算出力B1が積分回路28Aで積分されるとともに、その積分出力が保持される。
【0117】
次に、その保持値IがA/D変換器29Aによってディジタル値に変換された後、自乗演算器43Aによって自乗される。
【0118】
また、乗算回路27Bの乗算出力B2が積分回路28Bで積分されるとともに、その積分出力が保持される。
【0119】
次に、その保持値QがA/D変換器29Bによってディジタル値に変換された後、自乗演算器43Bによって自乗される。
【0120】
そして、保持値I、Qの自乗演算結果同士が加算器44によって加算された後、その加算結果の平方根が平方根演算器45によって求められ、この平方根が相関値Hとして出力される。
【0121】
上記の直交検波方式の構成の相関値検出部26は、各保持値I、Qを直交成分とする信号の実効電力を相関値Hとして求めていることになり、詳しい演算は省略するが各乗算回路の直流オフセットがキャンセルされた正確な正極の相関値Hを得ることができる。
【0122】
なお、図8に示した相関値検出部26で平方根演算器45を省略して加算器44の出力を相関値Hとしてもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、トリガパルスPtの幅Wを一定にしていたが、遅延時間τが大きい程、トリガパルス発生部21から出力されるトリガパルスPtの幅Wが広くなるように構成することで、遠い端からの反射波に対して大きな相関値を得ることができ、S/Nの高い探査が可能となる。
【0124】
この場合、トリガパルス発生部21が遅延時間可変部30から指定される遅延時間τに応じて、連続的にあるいは段階的にトリガパルスPtの幅Wを変化させ、これによって得られた相関値に対して、度数分布作成部32では、パルス幅の変化分を見込んで相関値の補正を行い、同一幅のパルスを用いたと仮定したときの相関値を求めて、度数分布が作成される。
【0125】
したがって、本発明によれば、従来技術の問題を解決し、高分解能で周囲の状況を正しく探査できるレーダ装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明に係るレーダ装置は、高分解能で周囲の状況を正しく探査することが可能であるという技術的効果を有していることにより、車載用、盲人用、医療用等の各種用途に利用に供することができる。
【図1】

【図2】








【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定幅のトリガパルスを所定周期で発生するトリガパルス発生部と、
前記トリガパルス発生部からの前記トリガパルスによってパルス変調された所定の周波数を有するレーダ波を探査対象空間に発射する送信部と、
前記送信部から出射された前記レーダ波の反射波を受信して受信信号を出力する受信部と、
前記トリガパルス発生部からの前記トリガパルスを所定の遅延時間で遅延させる遅延部と、
前記遅延部によって前記所定の遅延時間で遅延された前記トリガパルスによってパルス変調された前記所定の周波数を有するローカルパルス信号を出力するローカルパルス発生部と、
前記受信部から出力される前記受信信号と前記ローカルパルス発生部から出力される前記ローカルパルス信号との強度についての相関値を求める相関値検出部と、
前記遅延部による前記所定の遅延時間を、前記トリガパルス発生部による前記トリガパルスの発生周期である前記所定周期の範囲内で順次変化させる遅延時間可変部と、
前記遅延時間可変部によって可変される遅延時間毎に前記相関値検出部によって検出される前記相関値を記憶する相関値記憶部と、
前記相関値記憶部に記憶された相関値の前記遅延時間に対する度数分布を作成する度数分布作成部と、
前記度数分布作成部によって作成された度数分布に基づいて、前記探査対象空間についての解析を行う探査制御部と、
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記受信部は前記反射波に対する受信利得を可変できるように構成され、
前記レーダ装置は、前記受信部の受信利得を前記遅延時間可変部によって可変される遅延時間に応じて可変制御し、遅延時間の違いによる受信信号の出力レベルの変化を抑制する利得可変部をさらに備える請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記相関値検出部は、
前記受信部から出力される受信信号と前記ローカルパルス発生部から出力される前記ローカルパルス信号とを乗算する乗算回路と、
前記乗算回路による乗算出力を積分する積分回路と、
を備える請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記レーダ装置は、前記積分回路による積分出力をアナログ/ディジタル(A/D)変換するA/D変換器をさらに備え、
前記相関値記憶部は、前記A/D変換器によってディジタル信号に変換された前記相関値を記憶する請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記積分回路は、ミラー型積分回路によって構成されている請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記相関値検出部は、
前記ローカルパルス発生部から出力される前記ローカルパルス信号を互いに90度位相差のある2信号に分ける90°移相器と、
前記受信部から出力される受信信号を互いに等位相の2信号に分ける0°分配器と、
前記90°移相器によって互いに90度位相差のある2信号に分けられた前記ローカルパルス信号と、前記0°分配器によって互いに互いに等位相の2信号に分けられた前記受信信号とを各別に乗算する第1及び第2の乗算回路と、
前記第1及び第2の乗算回路による各乗算出力を各別に積分する第1及び第2の積分回路と、
前記第1及び第2の積分回路による各積分出力を各別にアナログ/ディジタル(A/D)変換する第1及び第2のA/D変換器と、
前記第1及び第2のA/D変換器によって変換された各ディジタル信号を各別に自乗する第1及び第2の自乗演算器と、
前記第1及び第2の自乗演算器による各自乗演算結果を加算することにより、該加算結果を前記相関値として出力する加算器とを備え、
前記相関値記憶部は、前記加算器から前記相関値として出力される前記加算結果を記憶する請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記相関値検出部は、
前記加算器による加算結果の平方根を求めることにより、該平方根を前記相関値として出力する平方根演算器とをさらに備え、
前記相関値記憶部は、前記平方根演算器から前記相関値として出力される前記平方根を記憶する請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記トリガパルス発生部は、前記所定幅Wとして、約1nsecのトリガパルスPtを前記所定周期Tとして約100nsecで生成して、前記送信部および遅延部に出力する請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記送信部は、前記トリガパルスによってパルス変調された前記所定の周波数を有するレーダ波としてUWB(Ultra Wide Band)による23〜29GHzの広帯域6〜7GHzのレーダ波を生成して前記探査対象空間に発射する請求項8に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記受信部は、
前記送信部から探査対象空間に発射されたレーダ波を受けた物体からの反射波を受けて増幅する利得可変型の増幅器と、
前記利得可変型の増幅器からの増幅出力を帯域制限して前記受信信号として前記相関値検出部に出力する帯域通過フィルタ(BPF)と、
を備える請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記遅延部は、前記所定の遅延時間として、前記遅延時間可変部による可変指令に基づいて大きなステップで変化させることができる粗調整用の遅延手段と、その大きなステップ内で遅延時間を細かく変化させることができる微調整用の遅延手段とを組合せて構成されている請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記粗調整用の遅延手段は前記所定の遅延時間を約10nsecのステップで変化させ、前記微調整用の遅延手段は前記所定の遅延時間を約0.1nsecのステップで変化させる請求項11に記載のレーダ装置。
【請求項13】
車載用の近距離のレーダ装置として適用される請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項14】
盲人用の近距離のレーダ装置として適用される請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項15】
医療用の近距離のレーダ装置として適用される請求項1に記載のレーダ装置。

【国際公開番号】WO2005/076035
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517738(P2005−517738)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001657
【国際出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】